SF連載コメディ/さいえなじっく☆ガールACT:15
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「そやったそやった!このひと、ウチの学校のメディア部の部長さんなんや。たまたま、変なオッサンらがあたしを尾行してきてるのを───」と言いかけて、夕美は亜郎を指さし目を見開いた。

 一瞬の凝固のあと、「ごめん!!」と頭を下げる夕美。

「え?」突然のことに面を喰らう亜郎の眼には、彼女がいつもヘアバンド代わりにしている幅の広いリボンの白さが焼き付いた。「な、なにを」

 おもむろに上げた夕美の顔は、さっきまでの冷たい表情とは打って変わって、彼女がいつも友人たちに向ける質のものだった。

「ほんま、ごめんなあ。よお考えたら、あんたこれで今日2ヘンもあたしを助けてくれてんやんなあ?。」

 

 

「ゑ…夕美さん、もしかしてホントに僕のこと今の今まで誰か判ってなかったの」

「はは、せやねん、なんかピンと来ぇへんかってん。」

「嘘でしょ?自分で言うのもナンだけど、僕ってかなり印象的な男のはずだよ」

「そおお?そらちょっと自意識過剰とちゃうか。イマドキ茶髪金髪なんて流行らへんもん。」

「いや、これは地毛で」

「じげ…って、あれ?あんた外人さんやったんか」

「クォーターですが、日本人ですから。」

「ほえ?。(そーゆーたら、どことなくエキゾチックっちゅーの?麻樹がヤァヤァ言うわけやなあ)…それはともかく、あたし、あんたにスンゴイ失礼な態度とってしもてんやんなあ…?ほんま悪いことしたわ????。かんにんやで」

 それまでの頑なな態度とは別人のようにスに戻って焦りながら拝み手で謝る夕美を見て、亜郎は(可愛い)と思わずにいられなかった。

「い、いや、いや、その。ぼ、僕は、あ、あた、アタリマエのことをしただけで」

 こ、これっていわゆる“ツンデレ”そのまんま!? しかもこれは、関東人の野郎共がよくひかっかる、『関西弁マジック』とやらの効果もあるのかもしれないぞ…と、もうひとりの亜郎は冷静に分析してはいたが、表面に出ている亜郎の方はすっかり純情少年に戻ってすっかり舞い上がってしまった。

 

「そうかあ、それは夕美ちゃんがお世話になったなあ。ありがとう部長さん」

 

 ほづみがサラリと言ったこのひとことに、ヒートアップしていた亜郎の脳はジュウと音が鳴った気がした。

(こ、こ、コイツぅ………な、なんかムカツク……!! 夕美さんのアニキ気取りってか!? いったい、何者なんだよ!?)

 

 そんな亜郎の気持ちを知ってか知らずか、ほづみは店に入ることなく夕美に言った。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

「えっ。だ、ダメですよ、まださっきの連中が近くにいるかも」

 この提案には賛同できない。

「大丈夫だよ」

 そういうとほづみは夕美をうながしてさっさと外へ出てしまった。一人だけ店に残ったところで仕方ないので、亜郎も夕美に続いてドアをくぐる。反射的に尾行者たちが姿を消した方向へ目をやった。

(しまった!!)亜郎はほぞをかんで凍りついた。夕美も一歩前で凝固している。

 案の定、まだいたのである。しかもこれから自分たちが行こうとする方角で予想していたよりもずっと近いところからこちらの様子をうかがっていた。これで、喫茶店に入ったのも、尾行に気づいての行動だとバレたに違いない。夕美が本人だと認めたのと同じだ。

「夕美さんっっっ、早く!店の中へ戻って!!」

 そうは言っても、もう手遅れだろう。なにか別の手を講じてこの場を逃れるしかない。

「いや、大丈夫だって。」

 このほづみという青年はとてつもなくキモッタマがでかいのか、あるいは馬鹿でまったく現状を理解していないのか、彼らに向かってありえないくらいに堂々と歩き出した。

 さらにあろうことか、わざわざ彼らの目の前で立ち止まって、こちらをふりむいて夕美と亜郎にオイデオイデしているではないか。

 あまりのことに夕美も呆然とし、亜郎に至ってはぽっかりと開いた口が塞がらなかったが、やがて引き寄せられるように二人ともほづみについて歩き出した。

 そして、尾行者二人の前を悠々と立ち去ったのだが、亜郎は終始彼らから目を離すことができなかった。なぜなら、尾行者たちは目の前を通り過ぎてゆく自分たちには目もくれず、あいかわらず喫茶店のドアを飽きることなく見つめていたからだ。

 

(どうなってるんだ!? 夕美さんの尾行は僕の勘違いだったというのか!?)

 ふと喫茶店の方に視線を移した亜郎はふたたび唖然となった。

 どんなに眼を凝らしても、外から店の中など何も見えないのだ。ドア脇に置いてあったデカい観葉植物のシルエットさえもうかがうことができないのである。

 

 ほづみは夕美の姿を見つけて店に来た、と言った。

 

 連絡さえ受けていないほづみは、夕美の姿さえ見えない喫茶店へ迷うことなく一直線にやってきたということになる。

「どういうことだ…?」

 遠ざかってもう視界の端でしか捉えることができないが、ふたりの尾行者はあいかわらず喫茶店をにらんだまま、何事かを相談している。

 これも、いったいどうなっているのか。彼らにはまるで自分たち三人がまったく見えていなかったように思える。

 

『大丈夫だ』ほづみは自信満々に…というより、こうなる結果を当然のこととして知っていたかのような口ぶりだった。

 このまま家に帰るふたりについて行きたかったが、今自分が思っているよりも格段にスケールのデカい謎がある、とジャーナリストとしての勘が亜郎に現段階でこれ以上の勇み足をたしなめた。

 

 もちろん、そちらの“本能”とは別に、夕美ともっと親しくなりたい、というもうひとつの“本能”も押さえがたかったのだが。

 

  

説明
毎週日曜深夜更新!フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ?つ!!”なヒロインになる…お話、連載その15。
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