平穏への道
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一人の少年が冬の渇いた風を切りながら足早に家に向かっている。

 

星の輝きもない、今にも吸い込まれそうな暗黒の空。少年は何の気なしに不気味だなと呟いた。

 

少年は未だかつて霊やあやかしの類を直接的に見たことも感じた事もない。ただ、全国不変的な親の子に対する脅し文句として、また下賎なテレビ番組や本などによる悪意無き洗脳の下少年は他の人間と等しくそういった人外の存在に根拠の無い恐怖心を抱いていた。

 

内外から押し寄せる寒さに耐えかね少年は自動販売機で缶コーヒーを買う。本当にコーヒーなのかと疑ってしまうような、泥のように甘い液体が喉を通り胃を暖めほんのわずかな安堵を感じる。些細ではあるが、こういった日常生活での気の抜ける一瞬こそ、人が生きる上での至上の喜びに直結するのではないか。何不自由なく生活しありきたりな将来への不安を抱える少年はそのような思いにふけるのであった。

 

空になった缶コーヒーを備え付けのゴミ箱に捨て、さぁ帰ろうと身を翻した瞬間、少年の身体は瞬間的に硬直し、まるでメデューサの目を見てしまったかのようにピシリと身動きが取れなくなってしまった。

 

自動販売機のチープな光に照らされて、マスクをつけた女性がそこに立っていたのだ。

 

長いコートを羽織り、手には血に染まった鎌を持っていた。長い髪が夜の闇と同化し、無限に続くの影を背負っているように思えた。

 

動けぬ少年をよそに女は語りかける。私は綺麗ですか?と。

 

少年は思った。あぁこれこそ噂に名高い口裂け女だ。100mを5秒で走り鎌で首を切断するあの口裂け女だ。と。

 

彼は絶望した。何の変哲も無い我が人生にどうしてこのような異変が起きてしまったのであろうかと。悩みを抱えながらも幸せな毎日を送るはずだったというのに。学校を卒業し地元の工場に就職することが最良の道と信じて疑わなかった少年の苦悩は計り知れない。彼は規定から除外される事を何より恐怖した。

 

私は綺麗?と目の前の不気味な女が再度問いかける。今度は手に持った禍々しい鎌を顔の辺りまで持ち上げやや語尾を上げて少年の恐怖心を煽った。

 

やるなら今しかねぇ

 

長渕の曲のワンフレーズが頭をよぎった。

 

失われた平穏を取り戻すには戦うしかない。例え勝ち目が無くとも、男にはやらねばならぬ時があるのだ。

 

あぁ西郷よ。明智よ。負け戦に挑んだ武士よ。天下を掌握せんとした野心家よ。今こそ我が魂に千の勇気と万の闘争心を与えたまえ!!

 

少年は目閉じ祈った。

 

私綺麗?叫びにも似た怒号を放ち女は手にした鎌を少年に振りかざした

 

やるなら今しかねぇ

 

少年は鎌がその身に到達する前に女にタックルをした。ドミノのように二人は倒れ少年はマウントを取る。女にまったく反応が無い。どうやら頭を強打し脳震盪を起こしているようだ。

 

少年は打撃ではなく関節をキメに掛かった。100mを5秒で走るような化物に打撃では無効化できないと本能で悟ったようである。馬乗りの状態から膝十時をかけ足関節を破壊。痛みで口裂け女が目覚め凄まじい勢いで暴れ始め少年は引き剥がされてしまった。しかし女は動けない。打撃を捨てたことがここで生きたのだ。

 

狂気の眼を向け今にも飛び掛かりそうであるが、足関節を破壊され身動きが取れないでいる。膝は人体における急所の一部であると同時に攻守の要でもある。足を封じられた野生動物はもがきながら捕食されるか、あるいは動けぬまま土に還るしか道はないのだ。さすがの口裂け女も片足ではその機動性を発揮する事はできない。このまま逃げてしまってもいいのだが、いつ復讐にくるかわかったものではない。恐怖のリベンジャーに抵抗できる手段を持ち合わせていない少年は、ここで仕留める覚悟を決めた。幸いにして昏睡中に鎌を奪っておいたので彼女は今丸腰である。いかに化物とはいえ、牙を抜かれ動きを封じられてはどうしようもない。しかし少年は勝利を確信できなかった。手負いの獣は手強いということを彼は知っている。

 

そこで少年は対口裂け女に対する最大にして最高の攻撃を放つことにした。

 

その攻撃方法とはポマードと叫ぶことである。

 

詳しい説明は省くが、口裂け女はポマードという言葉に弱く、聞いた瞬間に自慢の俊足で逃げ去ってしまうのだという。最初から使えばよかったのではないかという疑問もあるのだが、目の前に現れた突然の脅威は完全に排除しなければいけないというのが少年の考えである。逃げられて耳栓などの対策をされまた現れた場合、少年に打つ手はなくなってしまうからだ。

 

少年は大きく息を吸い込み声高らかに叫んだ

 

ポマード。ポマード。ポマード。

 

口裂け女は必死にとずりずりはいつくばりながら逃げようとするも、次第に力尽きガクガクと痙攣しながら血の泡をふいて動きを停止させた。近づいて心臓の音を聞く少年に安殿笑みが浮かぶ。生命活動が停止している。死んだのだ。脅威は去った!彼が退けたのだ!

 

少年は晴れやかに帰路に着き程よい安心感を胸に就寝した。

 

だが、今回の事件は彼の身に降りかかる不幸のほんの序章にしかすぎなかったのである。

 

 

 

続かない。

 

誤字脱字。文法的間違いやおかしな表現直す気なし。

 

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タグ
妖怪 口裂け女 

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