皆城兄妹
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「総士――!」

 

シュン とロックしたはずの扉が開き、総士は溜息をつく。

こんな扉一枚、彼女の前では何の意味も持たないのだ。

「せめてノックくらいしろと言っただろう」

「そんなことしなくたって総士が何してるかわかるもの」

「…何か用か、乙姫」

総士は椅子から立ち上がって乙姫にソファに座るよう促した。

ふと、乙姫が抱えている紙袋に気付く。

「何だ?それは」

「えへへ、千鶴が持ってきてくれたの」

そう言いながら乙姫はベッドの上にばさばさと袋の中身を広げだした。

白いシーツを小さめの洋服が埋めていく。

「弓子と真矢が昔使ってた服だって。

 あたしが着れそうな大きさのを選んで持ってきてくれたんだよ」

乙姫はリボンのついた白いブラウスを前に当て総士の方を向き、嬉しそうに笑った。

「明日からはあたしも総士たちと一緒に学校に通うんだもんね。

 ずっとここの制服じゃ息が詰まっちゃう」

この島で乙姫と同じ年齢の子供達は皆、中学校に通っている。

一人の人間として生きることを選んだ乙姫は皆と同じように学校へ行くことを望んだのだ。

「でね、明日着ていく服を総士と選びたいの。どれがいいかなぁ」

かわるがわる服を広げる乙姫を見守っていた総士はベッドの上に並ぶ洋服に目を移した。

どれもひらひらとした可愛らしいデザインで、今の弓子や真矢にはとても着れそうにないサイズのものばかりである。

「総士、どれがいいと思う?」

「そうだな」

 

総士は空色のワンピースを手に取り乙姫の体に重ねてみると、乙姫はにっこりと笑って言った。

 

「今、あたしたち普通の兄妹みたいだよね」

その言葉に総士は一瞬躊躇ったが気取られないように微笑み頷く。

「ああ、そうだな…」

今、この時は紛れもなく『普通』の時間なのだ。

 

「ねぇ、総士」

「何だ?」

「お揃いの服とかどうかな、あたしと総士で」

「……」

真面目な顔で黙り込む総士に乙姫は思わず吹き出した。

 

「ふふっ、冗談だよ。明日は総士が選んでくれたこの服にするね」

そう言って乙姫は総士の手からワンピースを受け取り、くるりと一回転した。

 

乙姫の黒く艶やかな髪と、柔らかな空色の生地が舞う。

 

 

――――太陽の光の下ではさぞ綺麗だろう、と思った。

 

 

説明
ファフナー文サルベージ
365 Themes(http://www3.to/365arts/ )のお題「302.ファッション」として書いたものです
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コメント
絵が倍率少し下げると綺麗だな〜(匿名希望)
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