ハルナレンジャー 第二話「研究者誘拐」 A-3
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Scene3-A:ダルク=マグナ極東支部榛奈出張所 PM01:00

 

「やれやれ。表の会社のために、こそ泥の真似事とはな」

 かたかたとキーボードを叩きながらシェリーがぼやく。

「今や『ヘルメス製薬』は国際的な大企業。あちらにしてみれば裏の我々の方こそ厄介者と考えているのでしょう」

 背後に控えていたジルバの自嘲気味な正論に、苦り切った顔になる。

「どちらが本家だなどと言うつもりはないがな。我々は我々で計画を押し進めねばならんのだ。いらぬリスクを負うのは避けたいところだろう」

「こちらとしても目的の攪乱に都合が良いと判断しての協力でしたが……思わぬ余録もございました」

 ジルバがリモコンを操作すると、モニタに表示されていたデータが切り替わる。

 手を休め、頬杖をついてそのデータを眺めたシェリーは、呆れたように呟いた。

「天宮博士?界面物理学? ……今更ナノテクなぞ珍しくもなかろう」

 見つめるモニタの先に映ったのは――

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Scene3-B:某研究所天宮研究室 PM01:00

 

「ぶへっくしょい!」

 白衣を着た老人が盛大にくしゃみをする。

 細いと言うよりもがりがりの体にくたびれたスーツ。その上から白衣を羽織って、足は黒靴下にサンダル履き。白髪のすだれ頭で鷲鼻に鼈甲ぶちの眼鏡をかけている。

 なんというか、いかにも、なマッドサイエンティスト。

「天宮博士ー、くしゃみするなら手で蓋してくださいよー」

 なにやら顕微鏡を覗いていた助手らしき青年が、呆れたように抗議する。

「おお、すまんすまん。…なにやら誰かに噂されたような気がしたんじゃが…」

 ぶびーん、と片手鼻を噛むと、白衣のポケットに突っ込んでいた手ぬぐいを引っ張り出して拭う。

「うちみたいな弱小研究室の噂なんて、『いつつぶすか』ってくらいじゃないですか?」

「ええい、うるさいわい。儂だって予算があればなあ!」

 えらく手狭な室内には錆の浮いた書類棚が並び、これまたさび付いた実験机はどこからか拾った角材で曲がった脚の補強をしている。

 助手が覗いている顕微鏡も博士の目の前に置かれた怪しげな機械も、どれもこれも随分古ぼけていて、長らく資材購入の予算が回ってきてないらしいのが伝わってくる。

「大体、薬学研究所でなんで電磁気の研究なんですか。ナノテクやってるならともかく、クビにならないだけましじゃないですか」

「その界面じゃあないと何度も言っとろうが! 磁界曲面における断裂構造に対する非連続的接触が、その特異点との関係性について実は異性境界構造を……」

「トンデモじゃないですか」

 つばを飛ばしながら長々と意味不明な自説の講義を始めた博士をばっさり。

「ええい、だからこうしてきちんと論文も提示しておろうが!」

 ばっさばっさと、既に日に焼けて黄色くなってる書類の束を振り回す。

「学会でもスルーされてるクセに」

「だから連中は頭が固いというのだ!ちょっとわからぬからと無視しよって!追試も再検討もせんとは……」

「はいはい。……年寄りの愚痴は長くて困るぜ」

「…何か言ったか?」

「いえいえ!」

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Scene3-C:ダルク=マグナ極東支部榛奈出張所 PM01:05

 

「……なるほど。こちらの計画には有用そうだな」

 論文データと、なにやら幾何学的な図表を見比べながらシェリーが頷く。

「研究所では冷遇されているようですし、交渉次第では協力を仰げるのではないかと愚考いたします」

「よかろう、アレに命じて……そういえばアレの姿を見ないが」

「アレ……ですか?」

 首をかしげるジルバ。二人の間に沈黙が降りる。

「なるほど、静かなわけです」

 アレこと、レミィの脳天気な声が聞こえない。

「研究所から脱出はしていたのか?」

「ハルナレンジャーや研究所にも、レミィを捕捉した様子はございませんが」

 シェリーが深いため息をつく。

「仕方ない、捜索隊を組織して……」

 と、ジルバの懐からアラームが鳴り響く。

「失礼いたします……ジルバです」

 一礼すると懐から取り出した携帯電話に応答する。

「……はい。はい。わざわざありがとうございます。すぐに迎えを寄越しますので。それでは」

「どうした」

 電話をしまったジルバに問いかけるシェリー。

「レミィを発見いたしました」

「無事なのか?」

「帰路に迷って泣いているところを、三丁目の田中さんが保護して下さったようです」

 シェリーが深い深いため息をつく。

「何をしているのだあいつは……いや待て」

 そこではたと気付く。

「なんで『三丁目の田中さん』が貴様に電話をかけてくるのだ」

 睨み付けるシェリーに、ジルバは曖昧な笑みを返す。

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