聖六重奏 5話 Part1
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5話「再会、そして」

 

 

 

来る夜

 

 

 

 頭が真っ白になる。そんなことが本当にあるのだと、僕は初めて理解した。

 いつか、ちゃんと話さないといけないことだとは思っていた。でも、その「いつか」はまだ来ないと思っていた。

 けど、「いつか」はいつか来る訳で、それは明日とも、十年後とも知れない。

 この出会いは偶然であり、必然。きっとそうなのだろう。

 退魔士の見る夢に何かしらの意味がある様に、退魔士同士の出会いにもきっと意味はある。

 僕は、来夜さんに何かを言わないといけない。

「……ひさし、ぶり」

 はっきりとは言えなかった。

 まだ頭がぼんやりとしていたから。そして、はっきりと言うと……過去と完全に決別したみたいで、なんだか嫌だったから。

「うん……彼女は、友達?」

「そう。今僕、生徒会に入ってて。そこで知り合ったんだ」

 何故だか、妙に言い訳がましく些希さんを紹介することになってしまった。

 きっと来夜さんなら、嫉妬みたいなことはしない。それはわかってるけど、「偶然に出会っただけなんだよ」と言い訳しないといけない気がしていた。

「そうなんだ。なんか、すごくぽいね。わたしは相変わらず、自由にやってるよ」

「“ぼく”はもうやめたんだ?」

「流石にもう、高校生だからね。ほら、無事に胸も大きくなったし、いつまでも男の子みたいにしていられないでしょ?」

 前から服装の趣味は女の子らしかったけど。

 でも確かに、活動的なポニーテールにワンピース姿というアンバランスさも、前より女の子っぽい口調も、すごく彼女らしくて、魅力的に感じた。

 今はもう、幼馴染の「しばらく疎遠だった友達」だけど、この成長がなんだか嬉しい。

「聡志君は、あんまり変わってないね。流石に身長は伸びたみたいだけど」

「男の子って、そんなもんじゃない?それとも、髪染めてるとか、想像してた?」

「ううん。でも、もしかしたらロン毛ぐらいにはしてるかも、とか思ってた」

 ロン毛……今の髪を肩まで伸ばした姿を想像して、なんだかショックを受けた。

 似合わない……というか、何か勘違いしたバンドマンみたいですごく痛い……僕、ビジュアル系でやれる顔立ちじゃないし。

 ――けど、意外と普通に話せている自分達に気付いて、安心した。

 もっと気不味い感じになりやしないかと思っていたけど、杞憂だった。来夜さんはこういう子だ。

 見た目が変わって、性格も落ち着いた感じになっても、心根は変わって居ない。

「来夜さんもこの辺りの学校だったんだっけ」

「うん。女子校。実は、最初の頃はまだ“ぼく”を貫いてたんだけどね。一週間ぐらい経ったら、すごく女子力上がっちゃってた」

 退魔士学校というのは、実は女子校も多い。

 平安には「陰陽師」が活躍していて、その多くは男性だったけど、それはいわば、女性に対抗して作られた職業だからだ。

 古代から女性の退魔士は「巫女」という名前で呼ばれ、頼りにされて来た。

 その巫女の学校は今にも多く残っていて、来夜さんはその一つに入ったのだという。

 身近の巫女というと、杪さんが由緒正しい巫女さんだけど、来夜さんや僕は、突然変異的に霊感を持ったに過ぎない。

 そんな来夜さんが巫女の学校に入れるのか?というのは当然の疑問だけど、実際のところやっていることは普通の高校とそう変わらないので大丈夫だ。

 そして、僕達の学校と同じ様に、退魔士として必要なカリキュラムと、祝詞の勉強が入って来る。

 まあ、この祝詞の勉強というのは、キリスト教系の学校でいう、「聖書」の勉強だと思えば良い。

 けど、やっぱり本物の巫女さんが多いのも事実だから、お淑やかな大和撫子タイプの人が多いんだろう。来夜さんもそれに影響を受けた様だ。

「そっか……」

「うん……」

 一通りの身の上話が終わって、沈黙がやって来る。けど、それは重苦しいものではなくて、むしろその反対。

 ただ、同じ場所に居て、同じ空気を吸っている。それだけですごく安心出来る、心地良い無音。

 街中だから、喧騒はあったに違いないのに、何故だか静かに感じられた。

「来夜さん。これからも会って、良いかな?」

 携帯の番号はお互いにアドレス帳に登録してある。もう長らく開いていなくて、すっかり埃を被っていたけど。

「勿論。今度、そっちの学校も紹介してね。わたしの方は男子禁制な訳だけど」

 軽く笑って見せる来夜さんは、やっぱり相変わらずだった。

 小さな笑顔も、満面の笑顔も、僕は大好きだったし、今もそれは変わらない。

 だけど……それを言葉にしてはいけない、そんな気がしていた。

「じゃ、あんまり遅くなっちゃうと大変だし、もう行くね。ばいばい。聡志君。それから、えっと」

「筒ヶ内些希です」

「些希さん。またね」

「うん、ばいばい」

 日が落ちて、西の空のオレンジ色の光の煌めきも、消えて行く……昼が過ぎ、夜が来る頃に、来夜さんの姿は僕の目の前から消えて行った。

 なんでもない、本当になんでもないことなのに、「夜が来る」のと同時に去った「来夜」さんに、何か切ないものを感じてしまう。

 もう二度と会えないんじゃないだろうか……!そんな暗い予感もあった。

 でも、僕は彼女が消えた方をしばらく見てから、学校へ。寮へと歩き出した。

 それに、パールピンクの髪を揺らしながら些希さんも続く。

 その目はどこか憂いを帯びていて、けど、同時に嬉しそうでもあった。

「些希さん……?」

「頑張らないと、いけないわね」

 何を、とは訊かなかった。

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禁書目録聖省

 

 

 

 ゴールデンウィーク明け、最初の登校。

 授業はいつも通り、つつがなく終わって、些希さんと一緒に塔へ急いだ。

 特別仕事がある訳ではないけども、カラオケの日以降、生徒会の皆とは会えていないので、元気な姿を早く見たかった。

 ……まあ、実は今朝、風紀委員として熱心に指導をされている冰さんの姿は見たんだけど、相変わらず口うるさ……厳しく、風紀を守っておられた。

 すっかり慣れた螺旋階段を上って、扉を開けると、珍しく会長の姿だけがあった。

「こんにちはー。今日は杪さん、まだですか?」

「こんにちは。ええ、他クラスの生徒に呼ばれていたみたいです。足も治ったことですし、大方運動部の助っ人の要請でしょう。今日は来れないかもしれませんね。わたしにメールを入れるぐらいはすると思いますが……」

「杪さんって、そんなすごいんですか……?」

 運動神経が凄まじいというのは、入学初日の「アレ」でわかっていたけど、まさかその筋のプロからも頼られるほどだとは……。

「野球をやらせれば、ほぼ確実にホームラン。バスケをやらせれば、自軍のゴールから敵方のゴールに余裕でシュートを決め、サッカーをやらせれば一人で相手チーム全員を相手します。テニスではサービスエースとリターンエースでしか点を取らず、バレーも一人で大方の仕事をこなし、ゴルフに至ってはイーグルで悔しがります」

「……凄過ぎて、逆になんだかわかりませんね」

 感服を通り越して、半ば呆れる些希さんだけど、それにしても杪さん、あなたは神か何かですか……。

 最後のゴルフとか、スポーツであっても、他の競技とは明らかに一線を隔しているジャンルだろうに。

 本当、ここまで来るとギャグというか、退魔士で燻っていて良い人材とは思えないというか……その筋の人達は、喉から手どころか、体全部を突き出して求めているんだろうなぁ。

「うぃーっす」

「こんにちは」

 そうして、また一緒に現れる二年生の二人。

 どう考えても付き合ってるよね。この人等。

「あれ、今日は比良栄さんは……」

「副会長、その流れはもう終わりました。なんか他のクラスの人に引っ張られて行ったみたいですよ」

「そ、そうか」

 五人全員が席に着くと、会長がお茶の用意をしてくれた。

 ……そういえば、極自然に受け入れてるけど、この場の最上級生、しかも生徒会長兼風紀委員長に、お茶淹れなんて雑用をさせちゃってるんだよなぁ。

 会長はむしろ、楽しんでやってくれているみたいだけど、改めて意識してみると中々に申し訳ない。

 でも、ここで「あの、僕がやりましょうか?」なんて言おうものなら、会長はきっと遠慮してしまうだろうし、今度は先手を打ってみようかな。

「さて、少し気の早い話になってしまいますが、二年生は来月の中旬に修学旅行がありますね」

 着席した会長が、予定表を見ながら呟く様に言う。

「行き先は……イタリアですか。ローマ、フィレンツェ、ヴェネツィアの三班に別れて散策、と。二人はどちらに?」

 流石に、国内最大の私立の退魔士学校ともなると、海外だ。

 しかも、イタリアというのは実は意味がある。イタリア、ローマの中にはヴァチカン市国がある。言うまでもなく教皇庁がある場所であり、西洋の退魔士……エクソシストの総本山となる。

 イタリアの各地にはエクソシストの見習いが沢山居るので、彼等との交流を通じ、更に退魔の技を磨く、というのが目的だそうで、例年行き先はイタリアで固定だ。

 かつては、「法師」との交流ということで中国や、インディアンの呪術師との交流にアメリカに行くこともあったみたいだけど、最近は退魔士協会と教皇庁の関係が良好なこともあり、十数年変わっていない。

「俺も冰も、ローマです。やっぱり、本場の奴等とやり合いたいですから」

「やり合いたい♂……」

「よし、河原。お前を的にして予行練習と洒落込もうか」

「ははは、冗談ですよー。もう、副会長は冗談がわからないなー」

「うぜぇ……」

 そりゃ、確信犯ですから。

「二人共、熱心ですね。修学旅行ぐらい、好きな所を選べば良いのに」

「そういう萌さんも、ローマでしたよね。杪さんはフィレンツェだった記憶がありますが……」

「一応、入学当初から学校一の生徒、なんて持ち上げられてましたからね。どうしても向こうの学校に挨拶をする必要がありましたから。杪がローマを避けたのは……個人的であり、公的な理由がありましたから、仕方のないことでしょう」

「へぇ……」

 杪さんのことを姉妹の様によく知っている会長が、わざわざ理由をぼかすということは、あまり触れるタイプの話ではないんだろう。誰もそれ以上のことは詮索しない。

 そうこうしている内に、生徒会室の扉が開いた。かれこれ、僕が来てから二十分ほど経っている。

「……誰でしたでしょうか」

「誰、とは御挨拶ですね。やはり貴女も彼女を味方しますか」

 いきなり、険悪なムードだ。

 会長は立ち上がると、部屋に入って来た女生徒を低い目線から、かっ、と睨んだ。

 あの会長がするとは思えない、完璧なガンの付け方だ。目つきは鋭く、憎悪と怨嗟……明確な悪意が現れている。

 前に風月さん相手に喧嘩腰だったのとは違う、もっと明確で、純粋な敵意を持って、会長は相手を睨み付けていた。

「倉塚願衣(ねがい)さん。ここの制服を着て、何の冗談ですか。潜入調査の真似事でしたら、協会規約に触れますね。ここで粛清をしても、よろしいのですか?」

「相変わらずの猪っぷり。下級生の目の前で、無抵抗の相手を斬るつもりですか」

「無抵抗、ですか。既にあなたの退魔器は顕現しているでしょう?わたしの応対如何では、一人ぐらいは貫くつもりだったのかもしれないですが、杪は周到でしたね。動けば被害をこうむるのはあなたの方です」

「……!馬鹿な。倉塚の名において汝の言の葉を紡ぐ。炎の獅子は地を駆け、森を焼いた。ヘルメスの書第一七二頁。炎嵐(フレイム・トルネード)!」

 全く状況を理解出来ないけど、会長の予言めいた言葉に色を失くした相手……倉塚さんは凄まじい早口で詠唱を始めた。

 しかし、何も起きない。

「あーあー。いけないんだ。願衣たん。こんなとこでそんな術ぶっ放したら、折角の伝統ある塔が壊れるだろー?あんたのは精神ダメージだけじゃなくて、物理ダメージも伴うんだから」

「比良栄杪!貴女、私のヘルメスの書に何を……」

「霊力を封じる山葡萄。それで書を覆わせてもらったんだよ。で、後ろをご覧くださーい」

 慌てて倉塚さんが振り返ると、天上に「肩」が付くかと思うほどの巨人が、その身長と同じぐらい大きな斧を持って佇んでいた。

 その姿が現れたのは、杪さんの声が聞こえて来たのとほぼ同時で、今までに見たことがないほどの高速召喚が行われたということになる。

「首を落とされ、体に人面を浮かばせることで生き永らえた巨人、刑天。まともな思考を持たない妖怪だから召喚は簡単だけど、制御が大変だから普段は出さないんだけどね。ただ、面倒な子を強く嗜めるのには使える、と」

「くっ……わかりました。今日のところは引いておきましょう。次こそは、必ず貴女の退魔器を禁書目録に載せてみせますから!精々その時までその不届きな書で遊ぶことですね!」

 実に小物臭い台詞を残すと、倉塚さんの姿は光に包まれて消えた。

 いわゆるゼロ時間移動。テレポートとかワープっていうやつだ。

「空間を歪める『天文対話』か……毒を持って毒を制す、ってのはよく言ったもんだねぇ」

 皮肉っぽい呟きと共に、さっきまで倉塚さんが居た場所の向こうから、杪さんが現れた。

「呼び出された先で、いきなりボコられるんだからなぁ……全く、良い女は辛いもんですよ。ま、全員返り討ちにして、今に至るんだけど」

「しかし、遂に学校でまで手を出して来ましたか……和解を急ぐ必要がありますね」

「いやいや、和解は無理っしょ。先方の態度的に考えて。千曳岩を持っちゃった運命と受け入れて、適当に遊びながら生きて行きますよ」

 杪さんはすたすたと、ベッドまで歩いて行くと、顕現させていた退魔器を戻すのも忘れて、倒れ込んでしまった。

 直ぐに規則的な寝息が聞こえて来て、小さく寝返りも打ち始める。

「かなり弱っていますね……平静を装っていましたが、かなりの激戦を潜り抜けて来たのでしょう。禁書使いが四、五人といったところでしょうか。まだ退魔器を消していないので、気配がわかりますね……前鬼、後鬼、馬頭鬼、牛頭鬼、黄泉醜女……後はもう皆力尽きていますか」

「……杪さんは、誰に襲われたんですか?それに、さっきの人は…………」

 退魔士だった。それは確かだけど、明らかにこの学校の生徒や、日本でよく見る退魔士とは違った。

 制服を着ていたけど、会長で口ぶりでは部外者みたいだし、退魔器が「見えなかった」のにも関わらず、平気で術を行使しようとしていた。

 これを怪しまずにはいられない。

「すごくタイムリーな話です。杪がローマを避けた理由、そして、教皇庁に関係します。……言葉を飾るのは、煩わしいですね。率直に言いましょう。杪の退魔器、『千曳岩』は教皇庁禁書目録聖省によって、禁書目録に加えられようとしている『禁書候補』です。彼女を襲ったのは、教皇庁の使徒の候補生達ですね。皆、過去に禁書目録に加えられた書物の名を冠した退魔器を持ったエクソシストです」

「だから、ヘルメス・トリスメギストスの『ヘルメスの書』とガリレオ・ガリレイの『天文対話』ですか……ガリレオは有名として、錬金術も教会からすれば十分異端ですからね」

 些希さんがうんうん頷く。僕には「ヘルメスの書」がわからなかったけど、そういえば錬金術師の名前だったっけ。

「でも、退魔器が禁書なんて、変な話じゃねーですか?禁書って普通、出版物が指定されるもんでしょう」

「ええ、通常はそうですね。ですが、禁書目録聖省は現在では、全世界の能力者のパワーバランスを調整する役目も兼ねています。杪の退魔器が本の形ですから、滅茶苦茶な注文に見えるかもしれませんが、かつての退魔士は剣や杖を禁書目録に載せられることもありました」

「……けど、なんで杪さんの退魔器が?まだ正式に退魔士としてデビューしている訳でもないですし、そもそも性能では会長の方が上では」

 杪さんは、高校卒業後は退魔士になることを決めているけど、まだ一年もそれには時間がある。

 そんな相手の退魔器を禁止にするなんて、早過ぎる判断に思える。大体、杪さんがそうなら、会長はもっと危険視されてもおかしくはない。

 それが杪さんばっかり攻撃されるとは、変な作為を感じてもおかしくはないと思う。

「杪の千曳岩は、その成長性が問題視されているんです。いわば、わたしの退魔器は今現在で既に完成体。これ以上の成長は期待出来ませんし、効果範囲の狭さによって、危険視されることは少ないのでしょう。ですが、杪の場合は、今は日本、中国の妖怪を召喚することに限られていますが、将来的には全世界の妖怪を召喚出来る様になると思われています。一度でも死後の世界へと逝ったもの全てを召喚することが可能な退魔器、ということになっていますから」

「そう考えると恐ろしいですけど……それはそんなに教皇庁が怖がる様なことですか?」

 まだ、納得がいかない。

 どんな妖怪も呼び出せる、確かにそれは恐ろしい力かもしれないけど、僕にはまだ、会長の「全てを断ち切る」力の方が凶悪に思える。

「呼び出せるものは、妖怪から更に発展して行く可能性が認められています。現時点でも、かなりの妖刀を召喚出来ているのですから、将来的にはあらゆる魔剣、神器を呼び出すことが可能になるのでしょう。ストームブリンガー、モーンブレイド、村正に、安綱……再びこの世に出ることが恐れられるものは無限にあります。それに……突き詰めれば、死者の蘇生も可能と考えられています。これを禁書と呼ばず、何を禁書と呼ぶか……という話ですね」

「……こじ付けなんじゃないんですか?可能性の話なら、いくらでも出来るじゃないですか。それなのに決め付けて……」

「おい、河原。会長に噛み付くんじゃねぇ」

「あっ……ごめんなさい」

 思わず多弁になり過ぎていたことに気付く。こんなことを言いたかった筈じゃなかったのに……。

「いいえ。その怒りも尤もです。わたし自身、教皇庁の判断には納得が行っていません。ですが、可能性だけで禁書目録を作成する。それが教皇庁禁書目録聖省というもの、というのも事実です」

 髪をかき上げ、会長も深い溜め息を吐いた。

 さらさらの金糸ごと頭を抱えて、碧眼を切なげに細める……思わずそんな小説みたいな文章が浮かぶほど、アンニュイで魅惑的な仕草だった。

「杪が起きたら、二人で話してみるとします。皆さんはもう、帰った方が良いでしょう。まさか今日の内に二度目があるとは思えませんが、用心はしておくべきです。……残るなんて言わないで下さいね。確実に戦闘になれば、足手まといになりますので」

 有無を言わさない口調の会長に、皆素直に頷くしかない。

 不本意ながら、僕達はさっさと寮に帰ることになった。

 

「……あなたの苦悩を、わたしも少しでも共有することが出来れば良いのに。何が最強の吸血鬼殺しと、晴明の再来のサラブレッドでしょう……そんな混血児より、着実に退魔士の血を強めて行ったあなたの方が余程優秀で、その分重いものを背負っている……」

 

 泣きそうな会長の声が、背中越しに聞こえた気がした。

説明
結構間が空いてしまいました!次は早めに上げたいと思います!
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長編 ファンタジー 学校 聖六重奏 

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