真・恋姫†無双 〜天ハ誰ト在ルベキ〜 第玖話 |
袁紹さんからの書状を読んで、これからのことを相談する為にみんなに集まってもらった。
「それでその檄文にはなんて書いてあったん?」
みんな気になっているようで、体を乗り出し気味で聞いてくる。
「うん、それなんだけど」
「董卓さんを討つための同盟に参加するかどうかじゃないんですか」
話そうとすると、風に取られてしまった。
「えっ、うん。そうだけど、どうしてわかったの?」
俺風に相談した記憶ないんだけどな。
「この前お兄さんがあんなことを言うからですねぇ、わたしも調べてみたのですよ〜」
腑に落ちない俺の表情を見たからか、少し自慢げに話す、風。
「この前? か・・・くが来た時のことか」
焔耶が相槌を打つ。
前に会ったばっかりなんだから、名前くらいしっかり覚えとけよ。
「はい〜。そしたらですねぇ、少し前からお兄さんの言った嘘が巷で噂になっているみたいです」
「どういうことなの?」
要領を得ない物言いに、沙和が不思議そうに尋ねる。
「つまり、お兄さんが董卓さんをはめたということなのですよ〜」
「なっ」
うぇ、そっちになっちゃう?
「うわ〜、隊長最低なの」
ちょっと待て。風の意見みんな丸呑みにしちゃうのかよ。
「お館、見損なったぞ」
「いや、その理屈はおかしい」
とりあえず、俺を貶めておけば良い様な風潮はどうにかしてほしいもんだ。
「いたいけな少女をハメるとは、お兄さんもなかなか鬼畜ですねぇ」
「ちょっと待て、風。多分だけど字がおかしい」
「さて、冗談はさておき」
十分遊んだ、とでも言いたげな満足そうな笑顔を浮かべている。
くそう。俺だっていつか有利に会話を進めてやるんだっ。
「その冗談で俺は信頼を失いそうになってるけどね」
「器の小さい男はモテませんよ?」
これには黙るしかない。
この先、何を言ってもモテなくなりそうで怖いし。モテないの、怖いし。
大事なことなので二回言いました。
「簡単に言うと、あのときお兄さんが危惧していた事態が起こってしまったということでしょうか」
何だろう? 風はあんまり直接的な表現好きじゃないんだろうか?
「どういうことですか?」
凪が聞き返すのも当然な気がする。
「そもそもお兄さんが賈駆さんになぜあんなことを言ったと思いますか?」
「ウチらの軍はまだ戦力少ないし、朝廷とつながりが欲しかったとか」
なるほど。そういう考えもあるのね。ってか、結構良い案じゃね?
「多分、そこまで考えてはいないと思いますねぇ。第一そういう面で小賢しいことは出来ないでしょうし」
ぐぬぬ。
まぁそれもあるかな、くらい言ってやろうかと思ってたのに。
「なら、隊長は既にこうなることを予期していた、ということですか?」
「どうですか、お兄さん?」
お前、分かってんだろ、風。そんな顔でこっち見るなよ。
「あぁ、予期とは違うけど、もしかしたらこうなるのかもしれないと思ってはいたよ」
秋蘭が苦笑してるけど、俺、したり顔になって無いよね?
「正解なのですよ、凪ちゃん。ご褒美にペロキャンあげるのです」
何処から出したのか、自分の分とは別に出して渡している。
宝ャ、お前ってすげぇな。四次元何とかを持ってたりするのかもしれん。
「あ、ありがとうございます」
照れながら飴を舐める。凪は可愛いなぁ。
「んじゃ、これから俺たちはどうすればいいと思う、風?」
そろそろ本題に入るとしよう。場合によっては迅速な行動が求められるかもしれないし。
「わたしたちがとることの出来る道は3つあると思うのですよ」
「はーいはーい。一つ目はこの同盟に参加することなの〜」
元気よく手を上げながら、沙和が言う。
「そうですね。こうして檄文も来ていますし」
まぁ、妥当だよな。
檄文の要請に応じる。うん、どう考えても矛盾は無い。
「じゃあ、二つ目は董卓側につくことか?」
「確かに賈駆はんの感じを見る限りでは、全然悪いことしている感じせぇへんかったしなぁ」
焔耶と真桜の意見も一理ある。
何もしてない人を寄ってたかって攻撃するのは、確かにおかしいことだと思う。
「んじゃ、三つ目は何なんだ?」
自分の中ではこのどちらかだと思っていたんだが、どうやら他にもあるらしい。
「一つ目とそんなに違う訳ではないのですけれど〜」
「風。三つ目は参加を遅らせることではないか?」
風の言葉を遮り、秋蘭が口を開いた。
「正解です。秋蘭さんよくわかりましたね〜」
「お館、これ何が違うんだ?」
「そ〜なの、参加するなら早い方がいいと思うの」
俺に聞かれてもなぁ・・・・・・。
遅く参加する利点ねぇ。ちょっと考えてみようか。
「どんな人がいるかもわからないから、すぐ行くことが必ずしもいいことじゃないと思う。噂を流しているのは多分袁紹さんだし、早く行き過ぎて身動きとれなくなるのも辛い、ってところかな」
思いつままに、喋ってみる。
「お兄さん、良い線いってますよ〜。軍師になってみます?」
風の反応からして、的外れな意見では無かったみたいだ。
「それに軍を動かすのですから、兵糧もかさみますし。勿論、早い参陣にも利点はありますよ? 信用を勝ち取りやすいので、多少の無理を聞かせられるかもしれません」
なるほど。軍も動かすんだから、そっちも考えなきゃいけないのか。
後か先か、どっちの方が良いのかねぇ。
「待て待て、何故参加の方向で話が進んでいるんだ!? 董卓は何もしていないのだろう?」
焔耶が語気を荒げる。真桜も同調するように頷いている。
そうだった。流れから二択だと勘違いしちゃってたな。
「まぁ、諸侯も董卓を悪人とは思っていないだろう」
ぽつりと呟く。
「ん?」
焔耶は眉をひそめながら、耳を傾けている。
「つまり、これは好機なのだよ。天下に自らの名を轟かせる、な」
「そうですねぇ。暴政に苦しむ民を解放したとなれば、徳は集まってきますし」
「董卓の存在はどうでもよいのだよ。暴政を行っている者を討ち果たしたという事実をみな欲しているのだろう」
有名無実だとしても世間に広まっている、その名が欲しいってことか。
「ということは、多くの諸侯は参加をしてくると?」
「だろうよ。ただ、北郷の嘘が事実になっている可能性もある。私たちの中で誰も最近の長安・洛陽には行った者はいない。本当のところは闇の中だ」
賈駆さんとは数回書状で連絡を取り合っただけだし、酷い政治を私はやってますよ、なんて自分から言う馬鹿はいないだろう。
難しい、難しいな。
「どっちの味方にもならないことは出来ないの?」
「難しいでしょうねぇ。向こうの人たちは参加しないと敵対は同義に捉えそうですし、董卓さんのいる洛陽・長安はわたしたちのいる襄陽と距離が近いので、傍観しててもいらぬ誤解を与えそうですねぇ」
「ならば、やはり三択か」
選択肢は出尽くしたって感じか。
「みんなの意見を聞かせてくれないか?」
最終決定の前に、皆の意向を確認しておきたい。
不満の残る決定方法じゃ、この先支障が出るだろうし。
「隊長の選択が私たちの選択です」
「せやな、結局ウチらは隊長に委ねるだけや」
「そ〜なの。隊長に任せれば大丈夫なの」
「では、私もお前の決断に従わせてもらう」
「お館、ワタシを納得させてくれる答えを頼む」
・・・・・・、お前らずるいよ。
ってそういえば、風だけまだ聞いてないな。
「風?」
目線を降ろすと
「くぅ」
「寝るなっ!」
この土壇場でこれをぶっ込んでくるなんて。
「おぉ、いっぱい喋ったので疲れてしまったのです。軍師は決断する人ではないのですよ。お兄さんにおまかせです」
まったく、こいつらは。
「そうか、分かった。もう少し情報を集めてから参加することにしよう」
「やっと着いたな」
参加が決定してからというもの、かなり忙しかった。
参戦の支度や細かい情報収集、留守のための準備などやることは尽きない。
いつもの政務も大変だと思ってたけど、これはこれで大変だよなぁ。
ばたばたしながらも、ようやく同反董卓連合の拠点に辿りつけた。
「待てっ、ここは袁紹様の本陣である。何用だ?」
到着して早速この同盟の盟主である、袁紹さんに挨拶に行くことにした。
遅めの参陣ということもあり、極力悪印象を与えたくは無いし。
「襄陽太守の北郷です。袁紹殿の参陣要請に応じ、参った次第です」
練習の成果もあり、堅い言葉もすらすらと出る様になった。
なんとなく、高校受験の面接を思い出すあたり、俺もまだ向こうの生活が残っているのかもしれない。
「むっ。・・・・・・、これは失礼しました。本来なら、このまま袁紹様にお会いになられるべきであると思いますが、現在この後に行われる軍議の準備で忙しい様子でございます。私の方から袁紹様に伝えておきますので、参陣の挨拶は軍議の時でよろしいでしょうか?」
おっと、取込み中ね。ま、挨拶に来た事実が残ってれば問題ないか。
「えぇ、構いません。うちの軍の駐屯場所を教えてもらいたいのですが」
「分かりました。おいっ、北郷様をお連れしろ」
近くの兵を呼んでいる。
「はいっ」
どうやら案内してくれるようだ。
「すみません。よろしくお願いします」
そして歩き出した矢先、
「おや。北郷殿ではありませぬか」
呼び止められた。
なんかどっかで聞いたことある声だと思って振り向くと、星がいた。
「お? おおっ、星じゃないか!?」
「お久しぶりです。ここにいるということは、これに参加されるので?」
「そうそう。今着いたばかりだけどね」
そう言うと、星は案内役の兵士の人と何か話し始めた。
「そうですか? なればお願いいたします」
話が終わったらしい。
「何を話してたの?」
「いやなに、大した話ではありませんよ。折角久々に会って積もる話もあるので、案内役を変わってもらったまでのこと」
確かに、俺も星にいろいろ聞きたいことあるし丁度良かったかな。
「ありがとうございました」
去ろうとする兵士に一礼して、星の隣を歩く。
「そういえば、星は今も華琳の軍にいるの?」
確か、風たちと別れた時は華琳について行ったっけ。
結局誰に仕えることにしたんだろうか。
「今は伯珪ど、いえ公孫賛殿の客将をやっております」
ふむ。華琳のところにはいかなかったらしい。
「華琳の配下にならなかったんだ」
「ええ。曹操殿は器も大きく退屈もしませんし、良いかと思いましたが・・・・・・」
「が?」
「どうもあそこは百合百合しくてですな。それはそれで楽しいのですが、流石にあそこの濃度には耐えられませんでして」
「そ、そうなんだ」
俺の知ってるのは稟と夏侯惇さん。
・・・・・・、確かにあの二人は華琳大好きっ娘だったな。
鼻血だすし、華琳に盲目だし。同じぐらい好きじゃないと付き合いきれないかもしれない。
「おっ、丁度いいところに。伯珪殿ー!」
星が呼びかけると、普通に綺麗な?(可愛い? どっちだろう。どっちとも言えるしどっちとも言えない感じな)人が近寄って来た。
「ん、どうしたー。 っと、こちらは? 見ない顔だけど」
「どうも、襄陽太守の北郷一刀です。よろしく」
促されたので自己紹介。
「おおっ、貴方が北郷殿か。星から話は聞いています。私は公孫賛、字は伯珪だ。并州辺りを治めている。」
人に自分のことを話されていると聞くと、ちょっと恥ずかしい。
しかし、公孫賛あたりまでしっかり女の人にしてくるとはこの世界すごいな。
せっかくなら、兵士まで女の人で良かったのに。
「まだまだ君主として未熟者ですので、いろいろ教えてもらいたいです。それと、北郷で構いませんよ」
下らない思考を横に追いやる。
顔に出てないよね。凪に指摘されてから結構気を使ってるんだけど、正直出来てる自信はない。
「おぉ、今までのこの同盟にはいなかった常識人らしさを感じる」
なんか感動された、普通の自己紹介で。
普通の人間には興味ありませ(ry、とかの方が受けが良いかなと思ったのに。この世界の人って無駄に個性強いからね。
「ですな、実際伯珪殿以外の君主はくせがありすぎる。逆に伯珪殿は無個性とも言えますが」
「うるさい。私だって分かってるさ。でもあいつらみたいに振る舞うのは私の常識が邪魔をしてな」
「それが普通の人ではありますけれど」
「普通って言うなぁ!」
良い関係だな、この二人。
うちの三羽鴉に近しいものを感じる。
「まぁ、公孫賛さんの様な人がいるので、この同盟が保たれているんじゃないんですか?」
忘れ去られそうなので、適当なところで相槌を打って会話に入る。
「おおっ、北郷。私の苦労分かってくれるか! お前は良い奴だなぁ」
またも、会心の当たりのようだ。全然分からん。
「そうですか?」
「もう敬語なんて使わないでくれ。ここでやっと私の理解者が出来た」
目を輝かせながら頷いている。
「やれやれ」
対称的に星は深いため息をついていた。
「そ、そうか。とにかくよろしく頼むね、公孫賛さん」
「うん、うん」
まぁ、何も分からないところで知り合いが出来たから良いとしようか。
向こうの中で俺の株が急騰してるのが、逆に怖いけど。
「もう少し北郷殿と話したいのですが、よろしいでしょうか?」
「あぁ、私もまだやることがあるしな。北郷、軍議には出るのだろう?」
「そうなんだけど、そういや時間を聞いてなかったな」
やっちまったなぁ。また戻るのはめんどくさい。
「なら、私が迎えに来てやるから一緒に行くか。配下の同行も出来るから、連れていくなら選抜しておけよ」
そして公孫賛さんは陣の中に戻って行った。
「ありがとな、了解した」
公孫賛さんって面倒見いいんだなぁ。
ほんと、右も左も分からんにやつにとって助かります。
星と二人になったところで、さっきから疑問に思っていたことを問いかける。
「なぁ、星。なんで星は真名で呼ばれてるのに、公孫賛さんは字なんだ? もしかしてあれが君主と臣下の間では普通なのか? 俺、あんまりそういうの分からなくてさ」
そう。これだけ良い人なのに、そこだけ引っ掛かっていた。
華琳のとこも、厳顔さんと焔耶もそんな感じだったのに、ここの関係だけ違うって変だよなぁ。
「いえ、基本的には双方同じにすべきですよ」
「やっぱりそうなんだ」
となると、理由は?
俺が不思議そうな顔をしていたのか、星がこっちを見ると口を開いた。
「伯珪殿は良い人ですからな。私が真名で呼ぼうとしたら「客将でいる間は呼ばなくても構わないぞ。星が出ていきたくなった時に変に踏ん切りがつきにくくなるかもしれ無いしな。私のところに正式に仕えることになったら、真名で呼んでくれ」だそうです」
「・・・・・・、すごく良い人だな」
圧倒的な善人さに立ちくらみがしそうになった。
「えぇ、そのせいで損をすることが多いですが」
頑張れ公孫賛さん。いいことあるよ。正直者は馬鹿を見ないよ、きっと。
「おーっほっほっほ! では軍議を始めますわよ!」
晴天の下、響き渡る高笑い。
開始から人の頭痛を引き出してくれそうな、清々しいまでに五月蝿い高笑い。
これだから軍議は嫌なのよ。
「えっと、今日は新しく連合に参加してくれた人がいるそうなので、挨拶からお願いします」
進行役の顔良が苦笑いしている。
あの娘くらいしか麗羽のところは空気読めないのよね。
「襄陽太守の北郷です。参加が遅れてしまって申し訳ありません。皆さんと比べたら若輩者ではありますがよろしくお願いします」
一刀じゃない。
へぇ、参加するんだ。印象的には突っぱねて静観するものだと思っていたのだけれど。
「ふ〜ん」
「七乃、蜂蜜が舐めたいのじゃ〜」
「はいはい、美羽様。蜂蜜水ですよ〜」
袁術の陣営は相変わらずね。孫策のあの笑い方が引っ掛かるけど。
まぁ、実害ある物でもないでしょう。
「もう一人いましたよね?」
「あぁ、私から紹介しよう。私の同門の劉備だ」
公孫賛の同門か。はてさて、どの程度のものか。
「は、はい。劉備玄徳です。皆さんよろしくお願いします」
ほぅ。
「劉備の軍はそう規模も大きくないから、私の軍に編入することになった」
ま、それが妥当でしょうね。
「桂花。あの二人どう見る?」
横に控える猫耳を付けた娘に問いかける。
「劉備は能力的には高いとは思えません。しかし、あの配下。あれらが配下になっていることを考慮すると、人を惹きつける力はあるのかと。とは言え、華琳様には足元にも及びませんが」
大体私の見立てと同じか。
あの黒髪の武将はあの子のところに置いておくには惜しい。
「で、一刀は?」
「あの男ですか? 華琳様からお話は聞いておりましたが、感覚的には劉備に近いものがありますね。・・・・・・、華琳様に親しげに名前を呼ばれるなんて、男のくせに生意気な。汚らわしい」
「やれやれね」
ま、男に対する正確な評価なんて元々桂花に期待していないから良しとするか。
この娘が素直に高評価する男なんているのかしら。
「それじゃ、詳しいことは公孫賛さんに聞いてくださいね。北郷さんは誰にお願いしましょうかね?」
「かり、いや曹操とは知り合いだから曹操にお願いしようかと」
ま、妥当ね。ここで一刀に恩を売っとくのも悪くはないかしら。
何だかんだで付き合いも長いものね。
横で、一刀を睨む桂花に苦笑していると、
「はーい、私がやるわ」
と、孫策が高々と手を上げていた。
「なっ」
はぁ? 貴女は何を言ってるのよ?
「雪蓮、お前何を言っている」
周瑜が私の気持ちを代弁してくれた。
やはり、こういう理知的な人がいると助かる。
「まぁまぁ冥琳。私の勘がいけっていったのよ」
「やれやれ。最後まで面倒を見てやれよ?」
え、引き下がるの?
「冥琳もつき合ってくれるんでしょ。頼りにしてるんだから」
「孫策、何を面倒なことを引き受けておるのじゃ!」
袁術がまともなことを言う日が来るなんて、奇跡ね。
「ここで引き受ければ、私を客将でいさせてくれてる袁術ちゃんの評価も上がるでしょ? 悪い話じゃないと思うんだけど?」
「なるほど、流石は孫策じゃ」
まぁ、最も孫策を説得出来るとは元々思っていなかったのだけれど。
場の空気も孫策に決まった感じになってきた。
「北郷さんもよろしいですか? では、孫策さんお願いしますね」
何一刀は頷いちゃってるのよ!?
「はーい。よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
鼻の下伸ばしちゃって、まったく。
後であいつの陣に行って、悪戯してこようかしらね。
「なんだか、今日の軍議では私が目立っていない様な気がしますわ」
麗羽がバカみたいなことを言うのはいつものこと。
「まーまー、麗羽様。新顔がいるからしょうがないんじゃないですか?」
「一応、みなさん自己紹介しておきましょうか」
この娘がいなかったら袁紹軍はどうなったいるのかしら。
「そうね、その方が円滑に話し合いも進みそうだし」
「私は曹操。劉備ははじめましてね」
「はい、よろしくお願いします、曹操さん」
うーん、可愛いし、こっちの世界に引き込んでみたら面白そうなのだけれど、あの肉の主張が腹立たしいわね。
「―刀は久しぶりかしら? ちょっとは君主らしくなったみたいね」
「そうか? ありがとう」
あら、ほんとに成長したじゃない。
「曹操とも面識あるんだ。けっこうやり手じゃない」
孫策がちらりとこちらを見た。
先ほどよりも笑みが深くなったいる。
あの女、単に私へのあてつけで立候補したのかもしれない。
「どうなんだろな?」
一刀が女に弱いのは相変わらずか。
やっぱり、あとで行くしかないわね。
「それじゃ次はあたしたちだな。私は馬孟起。んで、こっちが馬岱。母の馬騰の調子悪いから、その名代として私が来てる。よろしくなっ」
「ちょっ、お姉さま。とらないでよ〜」
「わらわは袁術じゃ。お前たちもわらわに蜂蜜を貢ぐがよい」
「きゃー、美羽様。何の脈絡もなく蜂蜜をねだるなんて、馬鹿か空気読めない人しか出来ないのにすごーい」
「そうであろ、そうであ、七乃もしかしてわらわを馬鹿にしておったか?」
「そんなわけないですよぅ」
「私は二人ともう面識あるから、流して良いぞ」
「分かりました」
「じゃあ、私ね。私は孫策。こっちは周瑜。まぁちょっと頭が固いけど良い娘だから仲良くしてねー」
「最後は私たちですね。顔良です。よろしくお願いします」
「あたしは文醜だ。んで、こっちが私たちの君主の袁紹様。ま、一回見たら忘れないと思うけど」
「猪々子さん! 私の紹介を取らないで頂けます!?」
「いっけね。すいません、麗羽様」
と、どんどん紹介は済んでいった。
「本格的に私が目立っていませんわね。これはあの北郷とかいう男のせいですわ・・・・・・」
麗羽の思考回路は一体どうなっているのかしらね。
「では、軍議に入りますね。私たちの軍も形が整ってきたのでそろそろ水関を攻めようかと思うんですが」
「どなたに攻めていただきましょうか?」
「「「・・・・・・」」」
誰が好き好んであんな堅い関を攻めると言うのか。
立候補する者がでる程度のものであったら、既にその先の虎牢関も攻めとっているわよ。
「おーっほっほっほ! 斗詩さん?」
「何ですか、麗羽様?」
「私が決めて差し上げますわ」
「えっ、流石にそれは不味いんじゃないですか?」
「まぁ、別に構わないわ。どうせこのままじゃ今まで一緒で決まらないでしょうし」
本音半分と言ったところね。
いつまでもここにいても、何の進展も無いし、丁度いいわ。
「曹操さんは分かっていらっしゃいますわね」
「で、誰にするつもりなの?」
戦力からして、私か袁術が妥当なところか。
言いだしたからには、任せられたら行くしかないわね。
「北郷さんにお任せしようと思いますわ」
「俺ぇ!!」
一刀か。戦力的には厳しいか。
まぁ、何処までやれるか見てみたいけれど。
「流石にちょっと戦力が足りないんじゃないか?」
馬超が非難の色を上げる。
単に戦力の損失になる上に、相手の士気が上がるのも考えもの、といったところね。
「なら、孫策さんもいって差し上げなさい。先程も志願なされたのだし」
「くっ、この」
「冥琳。袁術ちゃん、私たちも行っても良いかしら?」
「うむ、わらわのために戦果をあげてくるのじゃ」
孫策の部隊をつけて、良いところかしら?
袁術がついてこない分、逆に生きそうね。
「それじゃあ、お願いしますね。ではこれで軍議終わりにしましょうか」
「あぁ、もう話すことも無いだろ」
ようやく動きがでたわね。
とりあえず、戻って桂花と稟あたりでこの先の戦略を練りましょうか。
「ちょっと、良いですか」
一刀が口を開いた。
意外ね。あんまりこういうところでは何も言わない人だと思っていたし。
「あら、何です、北郷さん。まさかここにきて怖気ついたのかしら?」
嬉しそうね、貴女は。もうにやつきを抑えられてないじゃない。
「いや、むしろ先陣に選んでもらって光栄ですよ」
「良い心がけですわね」
ますます広がる笑み。やれやれ。
「それで心の広い袁紹様にお願いがあるのですが」
一刀の皮肉すらもはや、彼女にとっては褒め言葉にしかならない。
「何でしょう?」
「先陣を切る私たちに物資の支援をしていただけませんか」
ま、それくらい言ってもばちは当たらないかしらね。
むしろ、こっちが提供しても良いくらいね。
「どうしましょうか、斗詩さん、猪々子さん」
「私は構わないと思いますけど。被害も多くなりますしね」
「別に良いっちゃいいけど、ちょい虫が良い話かもしれないとは思うなー」
遠征かつ本拠地から遠い袁紹軍にとっては無償提供は流石に厳しいか。
さて、ではどう交渉するのか。見せてもらうわよ、一刀。
「では、北郷軍がこの戦いであげた手柄は全て袁紹軍の物と捉えて構いません」
「なっ!? 正気なの、一刀?」
戦功を全て袁紹軍のものとする?
破格どころの騒ぎじゃないわ。無償で傭兵として雇われてるのと一緒じゃない。
交渉どころか、隷従契約と言った方がふさわしい。
「本当に良いんですの?」
「えぇ、では交渉成立ということで。では」
一刀は話がまとまると、さっさと陣の外に出ていった。
平和呆け気味な一刀とはいえ、流石にこれはおかしい。
裏がある。董卓討伐、同盟での人脈形成以外の何かを腹に抱えているのでしょうね。
・・・・・・、まさか!?
やっぱりこうでなくてはつまらない。私はどう動いてあげましょう。
「すみません、わざわざ時間をとってもらってしまって」
あの衝撃的な発言の後、北郷が近づいてきた。
どうも、あたしに話があるみたいだ。
あまり人に聞かれたくない話の様でとりあえず近くの蒲公英の陣で話を聞くことになった。
「いや、構わない。私も聞きたいことがあったし。言葉も崩してくれていいよ。私は堅っ苦しいのが好きじゃないからさ」
同年代のやつに敬語を使われると、首筋がむず痒い。
人払いをしてする話となると、変な緊張するし、これくらいがちょうどいいんじゃないだろうか。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
「まぁ、それで母様に怒られたりするんだけど。それで、私に聞きたいことって何なんだ?」
実際、この同盟の中で自分だけが答えられることなんてそうそう無い。
大抵のことは、曹操か孫策あたりに聞けば解決するだろうし。
馬の扱い位しかない、かな?
「馬超さんって西涼の出だって聞いたけど、本当?」
「ん? そうだけど。母様は今涼州を治めてるし、従姉妹の馬岱を含めて馬一門はみんな涼州出身だよ、ってこんなこと聞きにきたのか?」
肩すかしを喰らったような気分。
出身なんてあえて聞くようなことじゃなくないか?
って言うか、まず隠してないし。
「いや、ほんとに聞きたいのはこれじゃないよ。董卓さんも涼州の人らしいからどんな人か知ってるかと思って」
「董卓の人となり、ねぇ・・・・・・。」
なるほど、董卓についてか。
打倒する相手についてふらふらと聞いて回るのは、要らない誤解を生むかもしれない。
「俺ははっきり言ってあんまり世の中のことに詳しくなくて。うちの文官とかに聞くのもありかと思うんだけど、折角その土地の人がいるんだから、詳しそうな人に聞く方が良いと思ってね。完全に独断で聞きに来ちゃったってわけさ」
つまり、董卓が良く分かんないから、とりあえず知ってそうな人のところに来ちゃったってことか、独断で。
でも、なんか引っ掛かるんだよなー。
あえて独断とか言うか、普通?
これはもしかして、袁紹あたりに頼まれて反乱分子のあぶり出しをしてるんじゃないか?
多分そうだ。そうでもなきゃ、こんなこと聞きに来ないだろうし。
母様に頭を使えって常々言われてきたけど、この判断はかなり正解なんじゃないだろうか。
「ふーん。まぁ、知ってるといえば知ってるけど、多分世間とそんなに違わないんじゃないか?」
迂闊に変なことは言えない。とりあえずは様子見だ。
「ってことは、暴政をして私腹を肥やしてるってことか」
「うん・・・・・・。まぁ、そうなんじゃないか・・・・・・」
ごめん、月。そんな娘じゃないって言いたいんだけど。・・・・・・、そんなに怒らないでくれよ、詠。
「そっか。ありがとう。参考にさせてもらうよ。そういえば俺に聞きたいことがあったんだっけ」
「あっ、そうそう。なんで軍議のときあんなこと言ったんだ?」
「あんなこと?」
「あの手柄はいらない、ってやつ」
果たして、あそこにいたやつらでこれを聞きたくないやつなんているのか? 駄名族の馬鹿二人は無しで。
「それか。そんなに不思議なことかな?」
いやいや、逆になんでそっちがそんな不思議そうな顔してるか分かんないよ。
「そりゃそうだろ。戦に来て兵も自分も死ぬかもしれないのに、無償で戦いますなんて。ただの戦狂いにしかみえないよ」
「心外だなぁ。だって俺たちは民を苦しめてる董卓を倒すために集まったんだろ? それなら最終目標は董卓を倒すことで、民のみんなが幸せになるならそれで十分だと思うんだけどな」
「!?」
こ、これは。
「それに、董卓どんな人か分からなかったけど、馬超さんのおかげで倒した方が良いってことが確認できたしね。巷で流れてる噂が嘘だったら、どうしようか思ったけどもう吹っ切れたよ」
やっばい!! やらかしたー!!
完全に私の読み違いかもしれない。
どうしようどうしよう。今になって訂正する? いやいやいや、そりゃどうっからどうみても不自然でしょ。だからって、このまま嘘つきっぱなしなのは後になって、尾を引いたりするんじゃないだろうか。うーん、どうしようどうしょう。
「いや、あの、うーん」
上手く言葉が紡げない。言葉どころが頭が絶賛混乱中だ。
「どうしたの?」
「な、なんでもない」
落ち着け、落ち着くんだ、私。
「? そっか。じゃあそろそろ陣に戻るよ。先陣任されちゃったし、賈駆って軍師も董卓配下にいるんでしょ。董卓の下にいるんだからどんな卑劣な策を使ってくるからからないからしっかり対策を練らなきゃいけないからね」
えっ、いやちょっと待って。訂正させてー!!
と、こんなことをしているうちに、北郷は既に陣の外に出ていた。
「はぁ、どうしよう」
溜息と一緒に吐き出す。
陣の裏に隠れていた蒲公英が顔を出してきた。
「お姉様、どうしてあんなこと言っちゃっの? 折角助け出す協力者が出来たかもしれないのに」
そう。そうなのだ。
同盟に参加するとき、母様から言われたこと。
(恐らく董卓軍に勝ち目はない。涼州を治める者として、同郷出身の董卓と内通の疑いを避けるために参加しなくてらない。しかし、董卓を見殺しにしていますのはあまりに不憫だ。よって、董卓を可能であるならば涼州に救出してくること。)
「そりゃお前、いきなりそんな話したら私が内通してるかと思われるだろ!」
自分でも、失敗したと思っている。
あの、良い判断をしたと思った自分を突き殺してやりたい。
「でも、北郷さん完全に信じちゃったね、お姉様の嘘。むしろ焚きつけた様な気が」
「言わないでくれ、蒲公英。私も反省してるんだ」
改めて他人に言われると、相当きつい。どんな判断が正解だったんだろうか。
「早く訂正してきた方が良いんじゃない?」
「それが簡単に出来たら苦労しないよ」
下手に訂正しても、逆に信用してもらい無いだろうし。まぁ、弁明が受け入れられたとしてもその時点でもう信用はがた落ちだろうし。
「でも、こういう時って先延ばしが一番の下策だったりするよねぇ・・・・・・」
蒲公英の呟きが、今日一番私の胸に刺さった。
「雪蓮、先程の北郷の話どう思う?」
北郷との先陣の打ち合わせが終わり、陣に戻る途中、冥琳が話しかけてくる。
「あの手柄のいらない理由のやつ? うーん、どうなのかしらね」
「? 珍しく歯切れの悪い物言いだな」
確かに自分でもそう思う。らしくない。
「なんて言ったらいいのかしらね。一刀の言ってることは多分嘘じゃないのよ。他にも意図があるかもしれないけど、民を救いたいっていうのは本当だと思う」
曹操と繋がりがあったからとりあえず接触してみたけど、案外骨のある子だった。
平凡な子に曹操が目をつけるはずもないのだけれど。
「まぁ、その辺りはそうだろうな。あれしか考えていないのなら、下手に力を持ったただの莫迦だ」
相変わらず冥琳は辛辣ねぇ。
「でもねぇ、周りがおかしいのよ」
「周り? 北郷の配下たちか?」
「あの人形?を頭に乗っけてる程cだっけ? あの娘と固まっていた三人はあの話のとき驚いていなかったのよ」
「では、あれは驚いたふりだと」
「えぇ。勘がそういってるもの」
「でも頭が白黒の娘と夏侯淵は驚いてたのよね」
「ふむ、なるほどな。武官全員聞かされていないのなら理解できるが、そうではない。また、あの面子では頭の切れる方である夏侯淵もあの話を知らなかった。だから北郷の話が本当かどうか判断ししれないと。まぁ、お前の勘が正しいとは限らんのだがな」
やっぱり冥琳がいると楽だ。自分の考えていることを上手く言語化してくれる。
「何よー。私の勘が外れたことなんて無いじゃない」
最後の一言は毎度のことながら余計だけど。
「だからこそ、一笑に付さずに検討しているではないか」
何だかんだ言って付き合ってくれるのも良いところよね。
「よく分からないときは、よく分かる様にすればいいわよね。明命!」
陣について早々、軍の隠密を呼ぶ。
「ここに」
呼び終わるか否か、目の前に綺麗な長い黒髪の娘が現れていた。
「これから北郷の陣へ諜報の任を命ずる。でも、少し緩くやりなさい」
「はっ、は?」
命令の意図が掴めなかったのか、混乱しているようだ。
「そうね、猫がいたらちょっとの間一緒に遊んでもいいわよ」
「ほんとですか!? で、でも良いんですか。そんなことしたら普通に見つかってしまいますよ」
花が咲いたように笑顔が弾けるが、すぐに怪訝な顔に戻ってしまった。
まぁ、どう考えてももはや諜報になってないものねぇ。
「大丈夫よ。見つかったら、猫と遊んでましたと正直に言えばいいわ。あと、隠密の程度は蓮華に仕掛けた時にギリギリ気付かれる程度にしなさい」
更に訳の分からない命令を出す。
「それじゃ、見つかっちゃうかもしれないですが」
「いーのいーの、それで。本気でやることないわ」
北郷軍にはこの程度で丁度いいはず。
この先のことを考えて、北郷に明命の顔を覚えさせておくことは重要だしね。
「了解しました」
「それなら、思春に行かせても良いのではないか? 明命には曹操のところに行かせるつもりだったのだが」
「だめよ、あの娘は真面目すぎるもの。あの緩さにはそぐわないわ」
思春と一刀だったら水と油みたいな状態になりそうかしら。
それに、曹操ならどうせ諜報が来ても、見逃すでしょうね。覇道っ娘だから。
「やれやれ。むこうに思春を行かせるとしよう」
「お願いねー」
その頃にはすでに明命は消えていた。
やれやれ、若いんだからそんなにせかせか動かなくてもいいのに。
ってこの発言がもしかして年寄りの思考なのかしら。
「ま、明命と北郷は相性は良さそうか。それであっちの方はどうなると思う?」
「そうね。もしかしたら力になってくれそう、って感じかしら」
どうしてもこの先、誰かの協力が必要なのだ。
そして、この協力者の目星を自由に動ける今のうちに見つけておかなくてはならない。
「私の見立てと同じだな」
「付き合ってはくれそうだけど、付き合わせるのが可哀想ね。流れ的にしぶしぶってところが正しいんじゃない?」
一刀優しそうだから、難しいわよねぇ。それでも今のところは筆頭候補だけれど。
「なかなか上手くいきそうにないな」
やれやれ。相変わらず暗礁に乗り上げたままか。
「でも」
「あぁ、そうだな。そう言ってられるほど、時間はない」
「ぶーぶー。私の台詞とらないでよ」
悩んでいても仕方ない。
いつものようになるようにさせるしかない、かな。
「おや、お膳立てしてくれたものだと思ったが」
「もうっ、冥琳なんて知らないんだから」
とりあえず今日は冥琳を可愛がって遊ぼうかしら。
夜が明け、出陣直前の軍議を始める。
「水関は張遼と華雄が守っているとのことです」
「やっぱりどっちも強いのかな?」
三国志をちょっとかじれば聞く名前だ。
今までの経験からして、相当な手練なんだろう。
「そりゃ、強いんと違う? うちですら聞いたことあるんやし」
「そうなの、この前の阿蘇阿蘇に強くてきれいな武将特集で張遼さんのこと書いてあったの〜」
「そ、そうか」
阿蘇阿蘇、恐るべしっ!
「かーずとっ、ちょっといい?」
後ろから声をかけられた。
昨日自己紹介をして、最初から一刀と呼ばれている。
綺麗な人に名前で呼ばれるって、やっぱり嬉しいよね。
ただ、その後、真桜達が「あんなにあっさり・・・・・・」とか言いながら沈んでたけど、今日はみんな持ち直しているみたいで良かった良かった。
「孫策さん? どしたの?」
「今日の戦い、董卓軍は守りじゃない? だから当然華雄か張遼のどっちかが城に籠るでしょ?」
「まぁ、そうだろね。流石に二人で打って出るのはないと思う」
そんなの筋金入りの馬鹿しかやらないよね。
「それで、華雄が出てきたら一刀たちが攻城、張遼が出てきたら私達が攻城で良いかしら?」
「えっーと、うちの軍は張遼と戦えばいいんだね」
どうせどっちと当たっても変わらないだろう。
それなら標的が変わらない方が戦いやすい。特にうちの軍は戦闘経験が多くないし。
「そそ。そういうこと。ちょっと因縁があって、あいつとは自分で戦いたくて」
「わかった。その方がお互いに混乱しなくて済むし、それでいこうか。問題ないか、風」
一応、風に確認をとっておく。
もし華雄用の作戦があるなら、作戦を組み直させることになるかもしれないし。
「その方が良いと思いますねー。主に焔耶ちゃんですけど」
焔耶。頑張れよ。頭脳的な意味で。
「まぁ、兄さんは綺麗な女からの頼みは基本的に断らねぇからな」
「これこれ宝ャ。戦いの前に凪ちゃんの氣を使わせてはいけませんよー」
違うって。そのやり取りが氣を無駄使いさせる要因になるんだって。
「隊長・・・・・・」
ってか、もう溜めてるし。食い気味で溜め始めてるし。
「待て待て。落ち着け、凪。俺凪の頼みだって断ったことないだろ? そんなに怒るなって」
修練とか非番の時も警邏付き合ったりしてるじゃん?
思い出して下さい、凪さん。
「」
おおっ、俺の願いが届いたっぽい。
でもなんかぽーっとしてるけど、大丈夫かな。
「やるわね、一刀。女の扱いに慣れてるのかしら」
にやにやしながら、孫策さんが肩をつついてくる。
なんでこの人にやついてるんだろ。
「何言ってるの、孫策さん。今のは孫策さんの頼みばっか聞いてると思われてるから、俺はいつもみんなの頼みも聞いてるよ、って言っただけなんだけど」
「「「・・・・・・・」」」
あ、あれ? 自分の世界に入ってる凪以外の人全員冷めた視線をぶつけられた。
「北郷」
その空気を打開するように肩を叩かれる。
「何、周瑜さん」
すごい神妙な面持ちだけど、俺はこれから何言われるのだろうか。
「お前、夜道には気をつけるのだぞ。後ろから刺されるかもしれんからな」
夜道? 刺される?
「夜襲ってこと?」
それくらい俺でも分かってるさ。
これでも毎日風に兵法とか習ってるんだから。
「やれやれ、何も分かってない」
「?」
夜襲じゃないなら何なんだろうか?
「ま、まぁ、そういうことで一つよろしくね」
変な空気のまま、戦闘になだれ込むこととなった。
「行けぇ!! お前たちの力を見せてやれ!」
戦場に響き渡る声で敵将が突っ込んでくる。
灰色の様な髪だから、あれは華雄なのかな?
「俺たちは迂回して城に向かう。孫策さん、ここはお願いね」
張遼の方が頭良さそうだから、俺ら方が大変なのかもしれない。
「えぇ、さっさと落としちゃいなさいよ」
「そっちこそ、さっさと倒さないと落城は袁紹さんの手柄になっちゃうよ?」
軽口を交わして、別れを済ます。
変に話しこむと、あれだ。旗が立つ。
「言うじゃない」
「それじゃ。みんな行くぞ! 進軍開始!!」
「そろそろ水関だけど、相手の様子が静かすぎないか?」
戦国時代の城攻めを想像してたんだけど、それとは違うのだろうか。
「やはりそう思うか。それに張の旗が立っていないことがまず変だ」
でも、旗が立ってないってのは降伏の印だっけ?
「お館、あれを見ろ!!」
「城門が・・・・・・、開いた?」
本当に降伏?
それなら、あの門から溢れ出る闘気は何だって言うんだよっ!?
「全軍突撃ぃ!」
その一声と共に、津波の様な速さで騎兵が動き出した。
その姿は正に人馬一体。槍で迎撃もとれないんじゃないだろうか。
「嘘だろ、水関を捨てて突貫!?」
「それどころじゃないのー。どうするの」
この会話中もどんどんと近づいてきている。
「うーん、左右に散開しましょう。適当にいなして本当に誰もいないなら、水関を取っちゃいましょう。そうすれば孫策軍と挟み撃ちも出来ますし」
もうどうこう言ってる場合じゃない。
「だな。各軍散開!! 極力戦闘を回避して、張遼軍を受け流せっ!」
指示を飛ばし、軍を左右に展開させる。
どうやら、最小限の被害で済ますことが出来たようだ。
「ほー、なかなか早い対応やな。せやけど、うちらも城を空っぽにするほど莫迦やない。取れるもんなら、とってみぃや。全軍、このまま孫策軍に突撃! 神速の名、轟かせるでぇ!!」
「俺たちを相手にしなかった?」
どういうことだよ。だってこれで水関は完全に空っぽなんだろ?
そんなに馬鹿集団だっていうのか?
「よし、城に向けて進軍再開。水関を奪取したら、直ちに孫策軍の救援にむかぇ」
・・・・・・。
嘘だ嘘だ嘘だ。なんであんなものがこんなところにあるんだ。
言葉が上手く紡げない。
「どうしたお館。ここにきて戦いが怖くなったとか言うんじゃないだろうな!?」
焔耶が俺を呼ぶ。
「」
返答を返すことが出来ない。
喉が異様に乾いて声が擦れてしまう。
「おいっ」
「し・・・・・・・りょ・・・・・・て?」
「何言ってるか分からん! はっきり言ってくれ」
「し、深紅のり、りょ、りょきだって?」
「深紅のりょき? ・・・・・・、呂旗? まさかっ!?」
焔耶が水関を見やると、城壁には一面に深紅の旗が掲げられていた。
その中心にいるのは、その旗と同じ色をした髪の一人の女と少女。
「やあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! ここにおわすは天下の飛将軍、呂奉先! 我はと思う者は見事この首とって手柄にしてみるのです!!」
これ以上はない、名乗りと共に一斉に臨戦態勢を取る。
「・・・・・・、いく」
その女は小さくつぶやいた。
「りりり、りょ、呂布だああぁああああぁぁああ!!!」
「黄巾賊三万を一人で追い返した、あの呂布がいるってのか!?」
「し、死にたくない死にたくない」
動揺が広がる。
俺だって、まだ動悸が収まらない。
さっきまでもしかしたら不戦勝で取れるかもしれない、などと甘い考えをなまじ持ってしまったせいだ。
「どうしましょう。このままでは軍が恐慌状態に陥ってしまいます。迅速なご判断を!」
覚悟を、決めろ。
「攻めよう」
厳とした態度でそう言った。
今更引くなんて選択肢は持ってない。
そんな生半可な気持ちは初めてのあの戦いで置いてきたつもりだったのに。
「正気なの隊長? あの呂布と戦うの?」、
「今退いたら、呂布も打って出てくるさ。そしたら、張遼軍と挟撃される。それに呂布が最大限に存在を発揮するのは乱戦だと思う。だから、俺たちは呂布をここで足止めしつつ、この水関を攻め取るしかない」
恐らく、この判断は間違っていないと思う。
「だな。神弓と方天画戟とどちらがましか考えれば、まだこちらの方が良い」
秋蘭の賛成を得て、周囲も気持ちを切り替えていく。
「覚悟決めぇや、沙和。退いたら終わりなんやから、行くしかあらへんよ」
沙和が不安に思うのも当然だけど、やるしかない。
「幸い、将の数はこちらが勝っていますので、細かい指示で被害を減らしていけばなんとかなるとおもうのですよ〜」
「よし、では行きましょう」
凪の一声で、みな持ち場へと動き出す。
「おっと、嬢ちゃんと姉さんには残ってもらうぜー?」
「私と秋蘭殿ですか?」
「お二人がいないとこの作戦が完遂しないのですよ〜」
「右翼展開、一か所に固まらずに散開して攻めるの!!」
「第一軍と第二軍は戦線を入れ替えろ! 波状攻撃で敵に隙を与えるなっ!」
「お館。本当に大丈夫なのか?」
焔耶の疑問も無理はない。あとで風から作戦を聞いた時は俺もそう思った。
「そうは言ってもな。他に方法は思いつかないし。焔耶だって分かってるだろ?」
実際こうは言っているが自分自身あんまり納得できていなかったりもする。
「まぁ、ワタシがいても邪魔になるだけなのは理解はしてるが・・・・・・」
「信じるしかない。俺らは一刻も早く城門突破するしかないさ」
そうそう。その分早く攻略してやるしかないってこと。
「むぅ」
軍に指示を出しながら、呂布を見やる。
流星のように降り注ぐ矢。その風邪を切る音たるや、聞いているこちらが恐ろしくなる。
呂布奉先。黄巾三万騎を一人で追い返す最高の武。
彼女はどうやってあれ程の武を手に入れたのだろうか? 何を思って戦っているのだろうか? 自分も同じものが見えれば同じ頂きに辿りつけるのだろうか?
「あれが戦場に解き放たれたとしたら、考えただけでもぞっとするな」
一騎打ちなら何合持つだろうか? 50?30?10? では、総力戦なら?
「全滅。運良く生き残れて、ワタシと秋蘭位か」
・・・・・・、強くなろう。
「凪。秋蘭。死ぬなよ?」
呂布の攻勢が止む。
どうやら矢を切らしたようだ。
戦場で弓兵が矢を切らすなど、と考えたが、向こうは本職ではない(それでも技量は最高級だが)し、守勢ならば大勢に影響はないなと思い直す。
「凪、すまんな」
これに付き合わせてしまったのは私の力量不足故か。しかし、姉者の様に武一辺倒になる訳にもいかなかったが。
「どうしたんですか、いきなり」
きょとん、といった風情で凪が振り向く。
「私がもう少し強ければ付き合うことなかったのに、な」
それは少し前に遡る。
「凪ちゃんと秋蘭さんには呂布さんと戦ってもらいます」
「ほう?」
まぁ、ある程度覚悟はしていたことではあるが、実際に言われると存外重圧がかかる。
「簡単に言えば、秋蘭さんと呂布さんとの弓術での一対一となるわけですね〜」
まったく、うちの軍師は可愛い顔して酷なことを言う。
「腕が鳴るな。しかし、はっきり言って私では勝てんぞ? 互いに弓、かつ地形も同じ条件で7:3で不利がせいぜいだな。今回は向こうは城壁上、こちらは平地、しかも戦場だ。10回やって、1回勝てるかどうか」
正直に、自分の所見を述べておく。こんなところで手の内を隠す意味も無い。
「そんなに相性つきますか。とは言え、他に策も無いのでやっていただく他無いのですけれど」
おや、珍しく過大評価されていた様だ。これはこれで嬉しくはある。
「あの、私は何をすれば?」
おずおずと凪が手を上げる。
「凪ちゃんには壁になってもらいます」
「壁?」
「秋蘭さんの前に立って、呂布さんの矢を防いでください」
「っ!」
まさかとは思ったが、本当にさせるつもりなのか?
「呂布さんは城壁という障害物があり、高低差も有利です。一方、秋蘭さんは何もない。逆に他の戦闘に巻き込まれるかもしれない。まぁ、巻き込まれないように軍を動かすようにはしますけれど〜」
「風っ!!」
思わず、声を荒げてしまった。
肉壁にしろだと? 流石にこれは受け入れられない。
「この役目に私たちの軍で一番適しているのは凪ちゃんです。焔耶ちゃんの方が強いとしても鈍砕骨では小回りが利きませんし」
確かにそれは認めざるを得ない。残りの面子では力不足が否めないしな。
「しかし、それでも、この作戦は承服出来な「行きましょう、秋蘭殿」
「凪っ!?」
正気か? お前が一番危険な役回りだというのに。
「時間が惜しい。私たちが行かなくては他の兵たちが犠牲になってしまいます」
「お願いします」
「・・・・・・、分かった。行こう」
「何言ってるんですか。秋蘭殿がいなければこの拮抗すら作れませんでしたよ」
本当に良い人間に囲まれているな、私は。
「そう言われると救われる。もっと言葉を崩してくれて構わんぞ。年は私の方が上だが、この軍では若輩者だしな」
「砕けた言葉ですか? あんまり得意ではないのですが、帰ったら、挑戦してみます」
そんなに生真面目に返してくれなくても良いんだが、これが凪らしさなのかもしれん。
「むっ」
どうやら、向こうの準備も完了したようだ。
久々にこんな満ち足りた気持ちで戦場に出ている気がする。
「では今一度、私の命お前に預ける。お前を信じているぞ、凪。不肖、夏侯妙才。戦場を翔ける一本の矢とならん!!」
私は全てを凪に委ねた。
一矢。二矢。三矢。
文字通り、矢継ぎ早に撃ち込まれる矢。
その全てを徒手空拳で、己の体で撃ち落とす。
手刀で叩き折る度、脚で刈り取る度、重い衝撃に襲われる。
果たして本当に矢なのだろうか? 槍が混じっているのではないだろうか? 思わずそんなことを考えてしまう。
既に、身体中に氣を纏うことは諦めた。
そんなことをしていては、ものの5分で体力が尽きてしまう。
凝縮した氣は両の掌と脚のみ。それ以外は何もない、本当の意味での生身。
もし、撃ち落とし損ねたら?
頭なら一撃。腹なら保って3本まで。
では逸らしたら? 躱したら?
秋蘭殿が死ぬ。恐らく何処に当たっても。
弓という武器の性格上、下から上に向かって射ることは非常に難しい。
更に呂布には生半可な攻撃など通用するはずもない。防御すらしないことは想像に難くない。
では、悪条件で弓を当代最強の武将に対して必殺の威力を持たせて射るとなったら?
回避・防御など考えてはいられない。もはや移動すら論外である。
一撃のみならまだ可能であるかもしれない。
だが、今回は攻城戦。しかも呂布に活躍させるわけにはいかない。
戦闘の前から兵士の中には呂布対する恐怖心が芽生えているのに、それが芽吹いたら軍が瓦解するだろう。その先にあるのは全滅。
よって、呂布の注意はこちらに向けさせ続けなくてはならないのは自明。
となれば、その集中力を最大限まで高めた状態で矢を射続ける他はない、が?
(回転が上がった?)
どうやら、呂布も本気を出して来たようだ。
だからと言って、私だってこの程度で倒れる気は毛頭ない。
今まで私はずっと燻っていた。
世の中の人を救いたいと考えていたが、何も出来なかった。周りには沙和と真桜しかいなかった。
でも、隊長と出会ってからは全てが変わった気がする。
黄巾党から人々を守れた。焔耶や風、そして秋蘭殿の様な仲間にも巡りあえた。
隊長が、この仲間が、私を照らす光にだった。
その光を消し去ろうとするのならば、例え呂布が相手でも、私は秋蘭ど・・・・・・、秋蘭を、北郷軍を護ってみせるっ!
「凪っ!!」
後ろから秋蘭の声が聞こえる。
「大丈夫です。この程度ならまだ耐えられますから。貴女は射る方に集中してください」
言って、より気合を入れ迎撃態勢に入る。
「違う! 影矢だ!!」
矢を払いのけたはずなのに、まだ矢がある。
影、矢?
それは一本目の矢とほぼ同時に放たれる、同じ軌道の二本目の矢。
彼女がもし弓術の心得があったのならば、反応することが出来たのだろうか。
「えっ?」
私の顔を貫き、秋蘭の胸へと至る必殺の矢。
私は・・・・・・、躱せない・・・・・・。
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今回は登場キャラが多すぎて、自分でもどうして良いのかわからなくなってます。 楽しいことは楽しいんですが、結構明確に書きやすい子とそうじゃない子がいたので、頑張って克服していきたいと思ってます。 アドバイスや感想など今回もよろしくお願いします |
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つ、続きがほしい!(ZERO&ファルサ) このままだと凪死んじゃう!? 誰か、あの矢をなんとかしろ!!(量産型第一次強化式骸骨) |
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