生きる全ては変わりゆく
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「ノワールの11!」

ディーラーがそう宣言すると、夥しいコインがとある男の前に移された。それを見て絶望する周りの人間達。悲しいかな、賭けに出たからには仕方が無い事だ。

一人勝ち、と言ってもいい勝利を手にした男は……。

「超直感でルーレット当てるのも飽きたな……スロットでもしようかなあ……。」

あげるよ、と目の前のコインの山から数枚取ると、男はルーレットから離れた。コインに群がり混乱する他の客やディーラーを無視して、どこかに歩いて行ってしまう。

……だが数分後には、一台のスロットの前で再び人だかりが出来ていた。ルーレットの時と同じく、コインを水のようにスロットから溢れ出させて。

「さーわーだーどーのー。」

たかる客を押し退け、小柄な青年が男の肩を叩く。

男は一瞬だけ肩を震わせたたが、スロットから目を離さない。スロットのガラス越しに、彼が見えている───バジルが。

「どーしたの、何か問題あった?」

「いいえ、ありません。」

「ならどうしたの?あ!バジル君も遊びに?」

「拙者、賭け事は苦手で……。というか沢田殿、何もボンゴレが経営しているカジノで遊ばなくても。」

バジルのその言葉に、周りの人間がひゅ、と息を飲んだ。それもその筈。

ガタッ、とスロットからコインが出なくなった。どうやら出し尽くしたようである。それを確認し、観念したかやっと男はバジルの方へ振り向く。

「いやさ、急にやりたくなっちゃって。」

「ボンゴレのボスが、仕事を放ってカジノで遊んでたなんて知れたら、どうするおつもりですか……。」

「平気平気。」

バジルにそう笑うと、ボスと呼ばれた男はまたコインを数枚だけ手に取ると、その場から離れた。山のようなコインなどには興味がないらしく、代わりに人だかりを作っていた客達がそれを強奪してゆく。

「バジル君はスロットは好きかい?ルーレットは?ブラックジャックとか、ペレストロイカは?」

「まだ遊ぶ気ですか、沢田殿。皆さん心配してらっしゃるんです。……その……。」

バジルはその先の言葉を飲み込んだ。こんな所で、口にしていいものかと、彼の中の自制心が働いたのだ。それを見てか、代わりに男が言葉を紡ぐ。

「心配しないでよ。亡くなってから、もう一ヶ月も経つんだ。流石にもう喪に服してはいないよ。」

「沢田殿……。」

バジルは、ボスのその割り切っているようで、まだ引きずっているような姿に何とも言えない気持ちになった。本当にもう引きずっていないのなら、"いつも通り"仕事をしている筈だ。こんな所……カジノなんかで暇潰しなどするわけがない。

「……俺は依存しすぎてたんだと思う。」

「沢田殿……。」

「自分でも、無意識のうちに。だからこうやって、振り切ろうとしてる。でもさあー、なかなか出来ないもんだよ、実際。」

「はい、それは……。」

「考えないように、考えないように、って思うんだけど、逆にさ、本当にさ、全部忘れて新しい事をけろっと始めちゃったらそれはそれで嫌だし。なんていうの?板挟み?ジレンマ?そういう難しいこと俺出来ないんだよね。」

ボスが、どれだけあの人を信頼していたか、愛していたかなんて誰でも知っている。だから今ボスがこうやって遊び呆けている事に誰も何も言えなかった。

……葬儀の際、ボスは泣きもせず、威厳あるその姿で棺に別れを告げた。労いの言葉を掛けただけで、泣き喚くなど部下の前でするわけがない。

だけども、その夜ボスが一人執務室で泣いていた事は、部下は知っている。慈愛に満ちている、我らがボス。部下の前では、絶対に自分を乱さない、誇り高きドン・ボンゴレだ。

ボスはとある一つのテーブルの前に座る。ドン・ボンゴレと知られたか、ボスの周りには見えぬ壁が作られ、一線置かれてしまう。ディーラーも手が震え始め、汗を流していた。

「……バジル君。勝負しよう。君が勝ったら、すぐ屋敷に戻るよ。」

「拙者は……。」

「頼むから、勝ってよ。」

"元の自分"に戻りたいのに、戻れない。悲しみが深すぎてどうにもならない。深い沼の中でもがいているようなボスに、バジルは黙り、そして椅子に座った。

動く全ては変わりゆく。その度に喜んだり、怒ったりする事当たり前なのに、悲しい時だけ立ち止まってしまうのは人間の性だ。ボスは一番人間らしいのに、表には出せない。

……可哀想な人間。

「始めようか。」

「はい。」

 

 

 

 

 

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バジルとツナ。
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