真・恋姫無双 黒天編 第10章 「黒天」中編1 |
真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第10章「黒天」 中編1 相対する英傑
先陣 中央戦線
中央は愛紗を筆頭に、蜀軍を中心に構成された軍隊が戦闘を行っている。
状況はと言うと、三国側が敵軍の勢いを殺し、徐々に戦線を押し上げることに成功していた。
赤、青、緑、黒の4色の兜や鎧、武器などが地面に無造作に転がり落ちており、兵士たちはそれらを蹴飛ばしながら進軍する。
視線を下に向ける余裕などは無く、常に前にいる敵を撃退することだけを考えているのだろう。
三国の兵士たちは数年前の三国大戦の頃の雰囲気を体で思い出しながら、一歩一歩確実に前進していく。
愛紗「我が名は関羽!!三国が一の矛!!」
愛紗は自ら戦闘の最前線に立ち、偃月刀を振るっている。
自らの勇姿を敵に見せ付けることで敵の戦意を削ぎ、味方に見せ付けることである意味の安心感と士気の向上に影響を与えていた。
蜀軍兵士「敵軍隊、徐々に後退しています!!」
愛紗「よし!他の部隊はどうだ?」
愛紗は敵陣に青龍偃月刀を構えながら、兵士の話に耳を傾ける。
蜀軍兵士「右翼、左翼共に戦線変わらず、苦戦している模様!我らが少々突出しています」
愛紗「そうか。ならば、我らは目の前にいる敵軍を押し返し、この場を完全に掌握する。攻め込むのは右翼、左翼が追いついてからだ。皆に伝えろ」
蜀軍「はっ!」
蜀兵士は愛紗に対して敬礼をすると、東の方向へと走っていった。
愛紗「さてと・・・、まずは、目の前の敵だな」
愛紗は走っていく兵士の姿を一瞥した後、正面に向き直ると黒兜、鎧に身を包んだ兵士数十人が立ちはだかっていた。
しかし、それらの兵士の腰は引けており、剣や槍も両手で持っているにもかかわらず、剣先がフルフルと震えている。
先ほどまでの愛紗の戦振りを見て、明らかに戦意を喪失していた。
愛紗「怖いという気持ちは分からんでもない。だが、私に刃を向けた時点でお前達が逃げ切れるという可能性はなくなった。諦めろ」
愛紗はそう言って偃月刀を構えると、一瞬のうちで敵の懐に入り込み、3人の体を一気に貫いてみせる。
そしてそれを持ち上げて勢い良く偃月刀を振るうと、偃月刀に突き刺さった兵士たちが飛んでいき、近くにいた兵士にぶつける。
敵兵士「う・・・うわああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その一瞬の光景を見て、一番後方に居た敵兵士が愛紗に背を向けて悲鳴を上げながら逃げていく。
逃げていく兵士がちょうど愛紗に背を向けたから2、3歩踏み出した時
???「男なら逃げんなよ。屑が・・・」
今までいなかったはずなのに、長身の白髪の男がその兵士の目の前に現れていた。
???「ヘボ野郎が・・・死ね」
男は一言そういうと腰から刀を抜き放ち、その兵士の体を一刀両断する。
逃げた兵士の上半身が徐々に下半身からずれていき、ドサッと血を噴出しながら地面へと落ちる。
残った敵兵士と愛紗はその様子をジッと見ていることしかできなかった。
???「だが、お前らごときが関羽に勝てるかって言うとそんなわけねぇよな」
白髪の男はゆっくりと愛紗と漆黒の兵士達のもとへと近づいていく。
そして、一人の漆黒の兵士に近づくとその兵士の肩にポンッと手をのせる。
???「逃げなかったこと、ほめてやる。ここはオレに任せてお前らは下がれ」
自分達も殺されると思っていた兵士達は間の抜けた顔を白髪の男へ向けていた。
しかし、状況が飲み込めると一礼したあと、すぐさま後方へと下がっていった。
他の兵士も先に行った兵士を見習って一礼したあと、その後をついていくのだった。
???「逃げた奴はクズ野郎だ。男としての価値は何もねぇ。だが、逃げなかった奴らは少し見込みがある。それでも三流・・・いや四流ってところだがな。なぁ?関羽?」
白髪の男は右手に持っている刀を肩に担ぎながら、“お前もそう思うだろ?”と言わんばかりに愛紗に問いかける。
愛紗「ツルギ・・・だったか?」
ツルギ「覚えていてくれたのか?うれしいねぇ。この日を待ってたぜぇ・・・」
愛紗「当然だ。私に傷をつけた数少ない男だからな」
ツルギ「小せぇ傷だったろうが・・・、あんなの傷に入らねぇよ」
愛紗は偃月刀の石突を地面に打ち付けると、ガキィンという甲高い音がこだまする。
ツルギ「漢中のときは邪魔が入っちまったからな・・・。だが、今回は思う存分戦える。お前もうれしいだろ?強い奴と戦えるのはよぉ?」
愛紗「私はそこまで戦狂いではない。だが・・・」
愛紗は偃月刀をグルンと一回まわして見せると、そのまま刃をツルギに向ける。
そして、静かにフッとほくそ笑む。
愛紗「楽しみにしていなかった・・・といえば、ウソになる」
ツルギ「それでこそ特級の武人(もののふ)よ・・・行くぞ!!」
愛紗「参る!!!!!!!!!」
お互いの間合いが一気に狭まり、刃が瞬時に交差する・・・
先陣 左翼
その場はまさに小覇王の独壇場となっていた。
雪蓮は襲い掛かってくる敵兵を切り伏せては踏み越え、切り伏せては踏み越えるといったまさに鬼か修羅の化身と化していた。
雪蓮「はぁ・・・はぁ・・・」
明命「大丈夫ですか?雪蓮様?辛いのなら一度後方で休んだ方が・・・」
息の切れた様子を見て、明命は心配そうに声をかける
雪蓮の褐色の美しい肌は敵の返り血で汚れてしまっており、服ももともとの赤色の他に血が乾いてどす黒くなってしまっている部分が目立っていた。
雪蓮「大丈夫よ・・・久々に孫呉の血が疼いてるだけだから・・・。逆に清清しい気分よ」
明命「血・・・、ですか?」
明命は戦になると孫呉の血が騒ぐということは聞かされていない。
雪蓮の言葉の意味はいまいち分からなかったが、とりあえずその場は雪蓮の言うことを信じることにした。
雪蓮「それより・・・他の状況は?」
明命「はい!愛紗さん達の部隊が少し突出しています。右翼は私達と同様、戦線維持というところでしょうか」
雪蓮「そう・・・なら早く追いつかないとね・・・。っと、その前に・・・」
雪蓮はあえて切り殺さなかった漆黒の兵士の方へと近づいていく。
その兵士は雪蓮のあまりの気迫に萎縮してしまい、動くことが出来なくなっていた。
雪蓮は目の前まで移動すると、その兵士の胸倉を掴む。
そして、グググッと兵士の体を持ち上げる。
雪蓮「ねぇ・・・。あなた達の仲間の黒い布を身に纏った女はどこにいるの?変な術使う女の方でも、弓を使う女でもどちらでもいいわ・・・。教えなさい!!」
敵兵士「し・・・知らないで・・・ぎゃああああああ!!」
雪蓮は敵兵の言葉を最後まで聞かずに南海覇王を敵兵の首へと突き刺した。
雪蓮「ちっ・・・」
そして息絶えたその兵士を無造作に投げ捨てる。
雪蓮「行くわよ・・・明命」
明命「あっ・・・はい」
明命は今の雪蓮の姿を見て、少し恐怖を感じてしまった。
明命は雪蓮の近くで戦うことということは今まで数が少なかった。
いつもの雪蓮の印象が強い分、戦闘とのギャップに少し驚いてしまう。
雪蓮はそんな明命には目もくれず、すたすたと前へ向かって歩いていく。
明命「雪蓮様・・・・・・ッ!?雪蓮様!!しゃがんで下さい!!!」
ヒューーーーーーーーン
雪蓮「ッ!?」
雪蓮は明命の言葉に即座に反応してしゃがみ込むと、明命は雪蓮を庇うように前に立つ。
そして、右の方向から勢い良く飛んでくる矢を打ち払った。
雪蓮「この矢の軌道は・・・」
雪蓮はすぐさま矢の飛んできた方向を見やる。
すると、そこには一人の黒布に覆われた人物が立っていた。
雪蓮「見つけた・・・フフフッ・・・」
雪蓮はユラリと立ち上がると、南海覇王を片手にその人物に近づいていく。
明命「雪蓮様!!お下がりください!!ここは私が!!」
明命は背中に背負っている魂切の柄に手をかける。
雪蓮「ダメ・・・アイツは・・・私が殺る。あなたはこのまま隊の指揮をお願い・・・」
明命「ですが・・・」
雪蓮「幼平!!!!!!!!」
明命「ひっ!」
雪蓮の突然の声と気迫に、明命は肩をビクつかせて驚いてしまう。
その様子を見て、雪蓮も少し冷静になったのか額に手を当て“しまった・・・”と言うような顔をする。
雪蓮「・・・ごめんなさい・・・。でも、アイツだけは・・・お願い」
明命「・・・何かあるのですね・・・分かりました。御武運を・・・」
明命はそのあと、顔を左右に振って気持ちを入れ替えると、シュバッとその姿を消した。
雪蓮は明命を見送ったあと、黒布の女と一定の距離を保ちながら対峙する。
雪蓮「会いたかったわ・・・ずっと、捜していたの・・・」
雪蓮はやっと会えたと言う喜びで顔からは笑みが見てとれる。
そこからはどこか妖艶な、そして狂喜と呼べるような感情が読み取れる。
黒布の女「私にそんな趣味はないわ・・・。気持ちが悪い」
黒布の女はそんな雪蓮に冷たい言葉を返すと、顔に捲きつけられている黒い布を取り払った。
それと同時に風が吹き、黒い布は草原の彼方へと飛んでいった。
黒い布からは栗色のセミロングの髪がたなびいている。
目はキリッとしており、美しい顔立ちだが、その目の奥からは雪蓮に対する憎しみがみて取れる。
雪蓮「取っちゃっていいの?それ?」
少女「別に・・・もう顔隠しても仕方ないし・・・」
少女は乱れた髪を手ぐしで整えながら、やる気がなさそうに返答する。
少女「それに・・・黒い布がないとあの時の奴だって分かんなかったでしょ?」
雪蓮「分かるわよ。矢の軌道を見ればね・・・」
少女「ふ〜〜ん」
少女は髪を整え終わると、体を覆っている黒布の中から手鏡を取り出し、ちゃんと整っているかどうかを確かめる。
雪蓮「あんた・・・私を前にして余裕なんて・・・完璧に舐めてるわね・・・」
少女「私、“あんた”なんて名前じゃない」
雪蓮「なら・・・名前を聞こうかしら?これで会うのも最後だろうけど・・・」
少女「そう簡単に教えると思ってんの?でも・・・まぁ・・・いいか。止められてないし」
少女は少し考えるそぶりを見せると、背中に背負っている弓を取り出した。
少女「咲蘭(サラ)よ。冥土の土産として取っとくといいわ」
そして、矢筒から矢を一本取り出して弓へ番える。
雪蓮「サラ・・・その自信・・・叩き潰してから殺してあげる・・・」
サラ「孫策・・・アンタもあの外史と同じように殺してあげるわ。毒なんて卑怯なことはしないけどね。心臓を打ち抜いてあげる」
雪蓮「毒?外史?」
サラ「とっととあんたを殺して、こんな外史潰す!!!」
サラの叫びと共に二人の戦いが始まった。
先陣 右翼
春蘭は今、猛烈に怒っていた。
激昂という言葉でも生ぬるい。
“怒髪、天を衝く”という表現をそのまま表したように、春蘭の黒髪は自らの闘気の影響かゆらゆらと揺れている。
春蘭は隊のことなど構わないで、ひたすら目の前の敵を殺戮していく。
その理由はほんの少し前、ボロボロになってやってきた兵士の報告が原因だった。
魏兵士「許緒将軍が敵兵により・・・敗走しました!!」
一瞬、訳が分からなかった。
それと同時にいろいろな光景が頭の中を駆け巡る。
そして、頭の中でいろいろな憶測、推測が飛び交った。
この報告をしてきた兵士は敵の策略で送り込まれた細作で私を混乱させようとしているとか
自分はきっと聴き間違いをしたのだとか
本当に自分の脳が遂に本格的に“脳筋”になってしまったのかとか
とにかく訳が分からなくなった。
自分ではとても処理できなくなってしまっていた。
春蘭「季衣が・・・・・・本当なのか?」
春蘭が聞き返すと同時に兵士の顔を見下げる。
その顔は見覚えがあり、とても優秀な兵士であったことを同時に思い出す。
こいつはウソなどつかない。信用している。
頭がごちゃごちゃになりながらも敵の策略と言う線は頭から消える。
魏兵士「はい・・・、今は救護班の下へ運ばれています」
兵士は季衣を守ることができなかった不甲斐無さと自分自身も信じられないという驚きなど、様々な感情が入り交ざったような表情をしている。
春蘭「誰だ・・・季衣を・・・そんな目にあわせたのは・・・」
春蘭は右手に握られている七星餓狼をフルフルと震わせながら、詳細を聞き出す。
魏兵士「仮面をつけた・・・二本の剣を使う者です・・・」
春蘭「ドッチに行った?・・・ソイツは?」
魏兵士「敵陣の方へと戻っていきました・・・」
春蘭「そうか・・・。ココを・・・任せてもいいか?」
魏兵士「私ごときでよければ・・・」
兵士はチラッと春蘭の右手に目を向ける。
右手は先ほどからフルフルと震えていたが、なにやらぼんやりと赤みを帯びているような気がした。
力を入れすぎてとかそんな赤みではなく、深紅と言うのが相応しい赤が右腕、さらに七星餓狼に纏わりついていた。
そしてその色が徐々に色濃くなっていく。
そして、春蘭が一歩踏み出すと同時に春蘭を中心に強い突風がビュンと吹き荒ぶ。
春蘭「貴様ら・・・覚悟しろ!!!!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
春蘭は七星餓狼を両手に持ち直すと敵陣目掛けて、一気に横一文字に振りぬいた。
すると、七星餓狼から深紅の衝撃波が放たれる。
美しい深紅の残影を残しながら、駿馬の速さを超える速度で敵陣に襲い掛かる。
そして、無慈悲に敵兵士の命を散らしていく。
敵陣に衝突したからといって、その衝撃波の勢いは弱まることを知らず、一気に敵陣後方にまで到達し、最後の敵線を両断すると徐々に名残惜しそうに薄っすらと衝撃波は姿を消していく。
そして、春蘭はそれを見つめ終わるとそのまま敵陣の方へと突撃していった。
衝撃波が放たれた一隊はすでに壊滅状態で、辺りには敵兵の死体があちこちに転がっていた。
そのほとんどの死体の上半身と下半身が別れており、もはやどれとどれがつながっていたかも分からないほど散乱していた。
だが、ところどころに辛うじて避けることができた者達が居たようだ。
しかし、その者達ももはや虫の息といった感じだった。
春蘭はそのような敵兵を見つけると何も語らず、敵兵に七星餓狼を突き刺し、絶命させていく。
春蘭「仮面の・・・、どこにいる!!!でてこんかぁぁぁぁ!!!!!」
春蘭はめいいっぱいの怒声を戦場一帯に響き渡るように咆哮する。
しかし、それに応えられるものは辺りには誰もいない。
叫び終わったあと、春蘭はまたゆっくりと敵陣の奥深くへと突撃していくのだった。
春蘭がある程度敵陣奥深くへと入っていくと、一人の男が立っていた。
黒布の男「うわぁ・・・、ひどっ!!引くわぁ・・・」
黒布の男は立ち止まりながら、辺りを忙しなくキョロキョロと見渡している。
黒布の男「これ・・・おたくがやったんですか?」
男は血で赤に染められた地面を指差しながら、春蘭に問いかける。
しかし、春蘭からの返事は無くゆっくりと男の方へと近づいてくる。
その目は明らかにすわっており、明らかな殺意を全面に押し出している。
黒布の男「えっと・・・、話・・・聞いてはります?」
春蘭「お前が・・・季衣を・・・」
黒布の男「はい?」
春蘭「お前が季衣を殺ったのか?」
黒布の男「季衣・・・さん?誰です?それ?」
そう訊ねた瞬間、春蘭は一気に黒布の男との間合いを詰め、胴を切りつけてきた。
その攻撃を黒布の男は慌てながらも、辛うじてしゃがんでよける。
黒布の男「ちょ!!いきなりとか反則やで!!いやっ!!なっ!!」
春蘭は黒布の男へ対する攻撃を止めず、そのまま連続攻撃を浴びせかける。
春蘭「お前!!季衣に真名を許されていないだろ!!!でえぃぃ!!!」
黒布の男「ええっ!!季衣って真名やったん!!!そんなん知らんがな!!!」
黒布の男は春蘭の攻撃を全てギリギリのタイミングで絶妙にかわしていく。
黒布の男「す・・・すいません!!訂正します!!ごめんって!!うおぁ!!!つーか、話だけでも聞いてや!!!」
春蘭「聞く耳持たん!!!!」
春蘭は少し大振りに七星餓狼を振るうと、黒布の男はどこからか槍を取り出し、金属音を立てながらその攻撃を防ぐ。
そして、春蘭の攻撃の勢いそのまま後方へ宙返りをしながら飛び退いた。
黒布の男「待てや!!!アンタのいうその人とはオレ戦ってないって!!ホンマやって!!!」
春蘭「仮面をつけておるではないか!!」
黒布の男「仮面?ああ・・・この布のことか・・・。って!!これのどこが仮面やねん!!どんな目ぇしとんねん!!!」
春蘭「そんなこと知るか!!!」
黒布の男(仮面の奴ってアイツのことか・・・。うわぁ・・・、メッチャとばっちりやん・・・。やっぱりハズレクジやんかぁ・・・)
黒布の男は槍を春蘭の方へと向け、戦闘態勢に入る。
黒布の男「アカン・・・戦わんとこっちが死んでまうわ。いややなぁ・・・」
いままで防戦一方だった男は槍を短く持ち直したあと、突撃してくる春蘭に対して応戦していくのであった。
三国側 本陣
会議机には詠と月、冥琳が逐一報告される各隊の連絡に目を通している。
先ほどまでは地和が居たのだが、妖力の使いすぎと言って今は自分の天幕で休んでいるところだ。
その机には稟も座っており、同じように報告に目を通しているのだが、どこか集中力にかけている様子が伺える。
ある一枚の報告書を手に取ったまま、ボーッと何かを考えているようだった。
月「大丈夫ですか?稟さん?」
稟「え・・・?なぜです?」
月「先ほどからずっとうわの空と言う感じですよ?お疲れなら少し休んだ方が・・・」
稟「ありがとうございます。ですが・・・心配には及びません」
稟は手に取っていた資料を右側に置くと、左側にある次の資料を手に取った。
詠「休みたいのなら、休みなさいよ?中途半端な集中力で仕事やられるほうが、今は迷惑なんだから」
月「ちょっと・・・詠ちゃん・・・」
詠は頬杖をつき、資料に目を通しながら稟に話しかける。
冥琳「詠の言うとおりだ。稟よ、少し休め。今のお前は役に立つようには思えない」
稟は二人の言葉を聞いて、手に取った資料に目をやるのを止める。
詠や冥琳の言葉はきつい言葉ばかりだったが、その裏側には仲間を思いやる優しさを感じることができた。
稟「・・・そうですね。すみません。では、お言葉に甘えて、一刻ほど休ませてもらいます」
月「でしたら、私もお供します」
稟は手元の資料を机に置きなおし、椅子から立ち上がって、天幕の出口へと向かっていく。
月も稟が立ち上がった後、すぐに立ち上がって稟の後ろをついていく。
稟が入り口に手をかけたとき、外の様子がなにやら騒がしいことに気付いた。
稟はゆっくりと外の様子を伺うように覗き込むと、救護隊員達5人がかなりあせった様子で天幕の前を通り過ぎていった。
5人のうちの2人はタンカ(一刀発案)を持っており、乗せられている人に気を配りながら誰かを運んでいた。
そのタンカには体の小さなピンク色の髪をした少女が乗せられていた。
稟「季衣!?」
稟はその様子を見るや否や、すぐさま救護隊員を追って駆け出していった。
月「えっ?稟さん!ちょっと待ってください」
稟の後方に居た月は外の様子を見ることができなかったため、突然走り出した稟に少し戸惑ってしまう。
しかし、外に出て状況が分かると、月も稟の後を追って救護班のもとへ駆けていく。
稟が救護班の天幕に勢い良く入ると、横たわっている季衣を取り囲むように救護隊員たちが立っていた。
しかし、その場にいる救護隊員の全員が季衣に対して何らかの処置をしようともしない。
季衣の纏め上げられた髪は解かれており、ベットいっぱいに髪が広がっていた。
稟「季衣!!」
稟はその様子に不安を感じると、救護隊員をかき分けて、季衣の傍まで行くとすぐさま季衣の胸に自分の耳を当てる。
季衣の体からは確かにトクントクンと弱弱しいながらも脈を打っていた。
稟「どこをやられたのですか!?」
救護隊員「近くにいた者に聞いたところによると、腹を刺されたようなのですが・・・しかし・・・」
稟は救護隊員の話をろくに聞かず、指されたと言う季衣のお腹へと目をやった。
しかし、腹のどの部分を見ても剣で刺されたような傷跡はどこにもなかった。
救護隊員「しかし・・・傷がどこにもないんです。何度確認しても、絶対に刺されたと兵士は言いますし、その兵士だけでなく、他の兵士も同じことを言っているのですが・・・」
稟は季衣のお腹に手を当てて、隅々をさすっていく。
しかし、どこにも異常な傷跡は見受けられない。
稟「それでは・・・容体はどうなのですか?」
救護隊員「今のところ命に別状は無いと思います。ですが、意識不明の原因が全く分からないのです。どのように対処するべきか、判断しかねている状況です。とりあえず、様子見としか言いようがありません・・・。申し訳ありません」
救護隊員は不甲斐無さそうに俯いてしまう。
救護隊員「華佗先生ならなんとかしてくださるのでしょうが・・・」
稟「今は魏にいますからね・・・」
華佗は今、妊娠している桂花の傍に居るため白帝城にはいない。
稟「・・・、わかりました。何か分かり次第、私に連絡をください。それと、できればで結構ですので、華佗に帰ってきてもらえるよう連絡をしておいてくださいますか?」
救護隊員「はい」
稟と救護隊員の話が終えたちょうどその時、稟の後を追っていた月が救護班の天幕へと入ってきたところだった。
月「季衣さんの様子は大丈夫ですか!?」
月も急いで稟の横まで歩みを進めて、季衣の姿を見下ろした。
稟「今のところは大丈夫のようです。月・・・すみませんが、あなたはこのまま季衣の傍に居てあげてくれませんか?」
月「えっ?それは構いませんが・・・稟さんは?」
稟「私は半刻ほど休んだ後、再び天幕へ戻ります」
月「・・・分かりました。絶対に休んでくださいよ?」
稟「ええ、ありがとうございます。それでは、後は頼みますよ」
稟は救護隊員にそう言い残し、最後に季衣の様子をチラッと確認した後、救護班の天幕からゆっくりと出て行った。
稟は休息用の天幕で半刻だけ休み、冥琳たちの天幕へと戻っていた。
詠「あら、早いんじゃないの?もうちょっと休んできてもいいのに・・・」
稟「いえ、充分です。ありがとうございました」
詠「あれ?月は?一緒じゃないの?」
稟「月は季衣の傍についてもらっています」
冥琳「そうか・・・、容体は?」
稟「命に別状は無いそうなんですが、意識が戻らないそうです。原因も分からないみたいで・・・」
稟は少し俯きながらも、救護隊員が言っていた言葉を二人にも伝える。
冥琳「刺されたのに、傷が無い・・・か」
詠「意味分かんないじゃない。見間違いじゃないの?」
稟「いや、それはさすがに・・・」
冥琳「まぁ、とりあえず命の別条がないというのは幸いだったな」
稟「そうですね。ところで、状況に何か変化がありましたか?」
稟は話しながら、自分がもと居た場所へと座る。
詠「地和が帰ってこないことには詳しい状況はわかんない。だけど、あんまり戦況はよくないみたいね」
稟「と、言いますと?」
冥琳「我が戦力と敵戦力がほぼ拮抗している状態だということだ。先ほどから随時、連絡は来るのだが、あまり進歩していない。それどころか、右翼は季衣の敗走で士気ががた落ち状態だ。今は亞莎の隊で何とかもってはいるが・・・」
稟「そうですか・・・、何かいい案は・・・」
机を囲みながら、三人が考えていると
華琳「なら、私が出ましょう」
天幕の外から華琳が姿を現した。
稟「華琳様!?」
さらに蓮華も剣を携えて天幕へと入ってきた。
蓮華「私も華琳と一緒に出るわ。いいかしら?冥琳?」
冥琳「蓮華様まで・・・、ダメです。なぜ、王二人が自ら先陣を切らねばならないのですか!」
華琳「私達が出れば、兵士たちの士気は確実に回復すると思うんだけど?」
稟「ですが、それだけのために出陣を許可できません!!」
華琳「流琉もいるんだし問題ないじゃない」
稟「なら、先に流琉を出撃させます!!」
蓮華「ダメかしら?冥琳・・・」
冥琳「いくら蓮華様の頼みでもこれだけはダメです」
華琳「城の中でただ守られてるだけなんてガラじゃないわ・・・覇王の名が廃る!!」
蓮華「お願いよ、冥琳。私も姉様が心配で・・・・・・城で待ってるだけなんてできないわ」
華琳と蓮華の言葉に、少し考えるそぶりを見せる3人だが
冥琳「・・・はぁ〜〜〜、分かりました。但し、第2陣の後方で待機するだけにしてください。もしもの時は、すぐに後退できるように・・・いいですね?」
蓮華「!!ありがとう。冥琳!!」
蓮華はその言葉を聞いて、満面の笑みを浮かべる。
冥琳「出陣までまだ時間があります。それまでにご準備を」
蓮華「分かったわ。すぐにしてくる!!」
蓮華はすぐに踵を返して、天幕から出て行った。
地和「ふわぁ〜〜〜ぁぁ、よく寝た・・・」
すると、蓮華とは入れ替わるように入り口から大きなあくびを漏らしながら地和が入ってきた。
詠「やっと帰ってきた。早速、見せてもらえない?」
地和「えっ!?戻ってきて早々なの!!・・・・・・はぁ〜、分かったわよ」
地和はがっくりと肩を落としながら、トボトボと鏡の前を位置取り、ドスッと胡坐をかいた。
華琳「今から何が始まるのかしら?」
稟「見ていただければ分かると思います」
そうして、地和はブツブツと呪文を唱えると、鏡は再び戦場の風景を映し出すのだった。
END
あとがき
いかがだったでしょうか
今年もあと少しですね
今年中に中編3までは投降したいところなのですが、できるかどうか・・・
気長に待って頂ければなと思っています。
あと、19日から恋姫同人のお祭りがTINAMIであるそうですね。
私は読者として楽しませていただこうかと思っています。
皆さんの作品を拝見させていただくと、自分の文章力のなさに愕然としてしまいますからね・・・
皆さんの作品を見て、自分なりに勉強しながら、がんばっていこうと思います
では、次回予告を
次回 真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第10章「黒天」 中編2 雪蓮vsサラ
これにて失礼させて頂きます。
説明 | ||
どうもです。中編1になります。 | ||
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コメント | ||
皆さんの温かいお言葉に感謝ですッ!!自分のペースを守りながらできるだけ早い更新を目指します!!(salfa) 気長に更新まっています^^続き楽しみにまたせていただきます。(gyao) 更新ゆっくりでもいいと思いますよ?続き楽しみですね\(^o^)/(スーシャン) sulfaさんのペースでいいと思いますよ。続きも楽しみにしてます。(ツクモ) |
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