少女の航跡 短編集09「神々の詩 Part2」-1 |
ゼウスが目を覚ました時、彼はどこか見知らぬ場所にいた。そこはどこかの洋館の中だった。
アンジェロの伝統が生みだした、高度な建築様式を持つ屋敷の中のような場所だ。重厚な装飾が施された柱や壁、そして絨毯が敷かれた部屋だった。
自分が何故こんな場所にいるのか、ゼウスには分からなかった。最後に自分が目撃したものと言えば、病室の中だった。
そして、自分はヘラが暗黒の球体の中に消え去っていく瞬間を見ていた。
それが意味するもの。ゼウスはすべて理解していた。ヘラは死んだのだ。自分の妻が、こともあろうか、最高評議院であるはずのタルタロスの手によって、この世から消し去られたのだ。
あれは、現実に起きた事だ。ゼウスはそれを認めざるを得なかったが、信じる事ができない気持ちだった。
自分の最愛の妻が、目の前で消し去られる瞬間を目の当たりにしてしまったのだ。
ゼウスは自分も見知らぬ空間にただ一人佇み、茫然とした姿をしていた。タルタロスに向けて突発的に向けた怒りさえも今では抜け切っている。
この気持ちを、一体、誰にぶつけたらよいと言うのか。もはやこの怒りをぶつける事ができるような相手もいない。そうした事から放心状態に彼は襲われていた。
その時、茫然とたたずむゼウスに向かって、話しかけてくる声があった。
「お父様…」
その声にゼウスははっと顔を上げた。知らない声だったが、どこかで知っているような気がする声。その声の主は、澄んだ少女の声をしている。
ゼウスは少女の声など聞いたのは、一体いつぶりくらいなのか、知ることさえもできない。何しろアンジェロは永遠の生を生きる事ができる種族なのだ。全てのアンジェロが成熟した大人の姿をしている。
子供のアンジェロなどこの世には一人としていない。立った一人を除いての話ではあったが。
「お父様、わたしも悲しいですわ。この悲しさを一体どのようにして表現したら良いのか。それさえもわたしには分かりません」
その少女は、うっすらと白い光を放ちながら、ゼウスとは離れた場所にいた。最初はまるで柱の陰に隠れるようにしていたのだが、まるでゼウスの姿を確認するかのように見た後に、ゆっくりと彼の方へと近づいてきた。
ゼウスは、この少女が何者であるかは、すぐに理解する事ができた。
真っ白な肌、そして、足下にまで伸びている純白の髪は、とても赤子の様なものとは思えない。だが、彼女は紛れも無い。自分の娘なのだ。ゼウスはそれを感覚として理解する事が出来た。
「ガイア。お前はガイアなのか?」
彼は自らが名付けた彼女の名を呼んだ。最愛の妻が目の前で消滅した事よりも、今では目の前にいる少女の姿が信じられない。
「お母様は、行ってしまわれました。いえ、正しく言うならば、行ってしまったのではなく、消え去ってしまったという方が正しいのでしょう。お母様の心は、この世のどこにもおりません。お母様の心の中に広げられていた世界も何もかも、あの忌まわしき暗黒が全てを消し去ってしまいました」
少女は語るように言いながらゼウスへと迫ってきた。少女の顔はとても無機質なものを持っており、表情がうかがえない。彼女が悲しんでいるのか、怒りを感じているのかという事さえも分からない。
「それは、一体、どういう事だ」
滅多なことではゼウスは恐れを感じない。だがこの少女を相手にしては違っていた。思わずゼウスは少女から後ずさりをした。
すると、古めかしいテーブルの上に置かれていた燭台の一つが倒れて音を立てる。館の様な空間は無音に満ちており、その音が異様なまでに響き渡った。
「お母様は、消えてしまいました。だからわたしは、お母様の心の中ではなく、お父様の心の中に現れなければならなかったのです。お母様には全てを話し、理解をしてもらう事ができました。アンジェロの子供達が抱いていた、悲しい運命。そして悲しい選択を、本当ならお母様に伝えたかったのです。
ですが、お母様は消えてしまわれたのです」
そう言いながら、ゼウスがガイアだとはっきりと認識している少女は、金色の瞳を見開いた。
その瞳は揺らいでいる。今にも涙が流れてきそうだったが、彼女が涙を流すような事は無かった。
「お前は、何故私の前に現れている?そして、ここは一体どこなのだ?」
信じられないという様子でゼウスはガイアに向かって言った。するとガイアは、きょとんとしたような顔をゼウスへと向けて言ってくる。
「ここは、お父様の心の中ですの。お父様には危険が迫ってきています。タルタロス議員をお父様はお母様と同じように消してしまわれた。最高評議会の者を消してしまえば、アンジェロとしてどれほどの罪になるか、お父様はよくご存知かと思います」
ゼウスは驚かされていた。ガイアは知っている。まだ幼い赤子でしかないはずなのに、アンジェロの世界の事をすでに知っているのだ。
ゼウスは考えを巡らせた。もしこの世界が夢か、幻でしかない。ガイアの言うように、自分の心の仲だったとしても、この世界はあまりにも現実味があり過ぎる。
手で触れるテーブルや、何もかもがはっきりとした存在感を持っている。流れる空気も、この屋敷のような場所に満ちている空気の匂いもしっかりと感じられる。
しかも、この世界をゼウスはどこかで知っているような気がした。どこか昔懐かしい。
「お前の言う事を信用して良いのかどうか、私には分からない。だが、ヘラにも似たような力が使えた。彼女はそれを魔の力と言って、自分の中に封じ込めていたのだ。
彼女は他人の意識の中に入り込む力を持っていて、お前もそうだと言うのか。だからこそ、タルタロスに狙われる事になった。恐ろしい力だと言ってな」
ゼウスはそのようにガイアに向かって言った。自分の子供をあたかも忌子であるかのように言い放つ、それは、とても残酷な言葉であるかのような気がした。
だがゼウスは、今自分が置かされている状況を素早く判断していた。
ここは自分の意識の中。自分の意識を、はっきりとした形で見せられている。それは幻覚でも何でも無くはっきりとしたものである。それは自然なものではない。自分は意識を拘束されている。
そして意識を拘束しているのは紛れも無いガイアなのであり、ゼウスは生まれたばかりの我が子に、自分の意識を束縛された状態に陥っているのだ。
一体、何の為にこのような事をするのか。
「わたしは、お父様を安全な所へとお連れしました。外の世界はとても危険です。お父様を救うために、わたしは、お父様をこの世界へとお連れしたのです」
ガイアはそう語りながら、ゼウスへと近づいてきた。
何故かゼウスは、自分の娘であるはずのこのガイアが、とても恐ろしい存在に見えて仕方なかった。何故、彼女がここまで恐ろしいのか。彼女に意識を掴まれているからなのか。
成長した姿と見える彼女が、あまりにも恐ろしい姿に見えるのか。
ゼウスが目を覚ました時、彼はどこか見知らぬ場所にいた。そこはどこかの洋館の中だった。
アンジェロの伝統が生みだした、高度な建築様式を持つ屋敷の中のような場所だ。重厚な装飾が施された柱や壁、そして絨毯が敷かれた部屋だった。
自分が何故こんな場所にいるのか、ゼウスには分からなかった。最後に自分が目撃したものと言えば、病室の中だった。
そして、自分はヘラが暗黒の球体の中に消え去っていく瞬間を見ていた。
それが意味するもの。ゼウスはすべて理解していた。ヘラは死んだのだ。自分の妻が、こともあろうか、最高評議院であるはずのタルタロスの手によって、この世から消し去られたのだ。
あれは、現実に起きた事だ。ゼウスはそれを認めざるを得なかったが、信じる事ができない気持ちだった。
自分の最愛の妻が、目の前で消し去られる瞬間を目の当たりにしてしまったのだ。
ゼウスは自分も見知らぬ空間にただ一人佇み、茫然とした姿をしていた。タルタロスに向けて突発的に向けた怒りさえも今では抜け切っている。
この気持ちを、一体、誰にぶつけたらよいと言うのか。もはやこの怒りをぶつける事ができるような相手もいない。そうした事から放心状態に彼は襲われていた。
その時、茫然とたたずむゼウスに向かって、話しかけてくる声があった。
「お父様…」
その声にゼウスははっと顔を上げた。知らない声だったが、どこかで知っているような気がする声。その声の主は、澄んだ少女の声をしている。
ゼウスは少女の声など聞いたのは、一体いつぶりくらいなのか、知ることさえもできない。何しろアンジェロは永遠の生を生きる事ができる種族なのだ。全てのアンジェロが成熟した大人の姿をしている。
子供のアンジェロなどこの世には一人としていない。立った一人を除いての話ではあったが。
「お父様、わたしも悲しいですわ。この悲しさを一体どのようにして表現したら良いのか。それさえもわたしには分かりません」
その少女は、うっすらと白い光を放ちながら、ゼウスとは離れた場所にいた。最初はまるで柱の陰に隠れるようにしていたのだが、まるでゼウスの姿を確認するかのように見た後に、ゆっくりと彼の方へと近づいてきた。
ゼウスは、この少女が何者であるかは、すぐに理解する事ができた。
真っ白な肌、そして、足下にまで伸びている純白の髪は、とても赤子の様なものとは思えない。だが、彼女は紛れも無い。自分の娘なのだ。ゼウスはそれを感覚として理解する事が出来た。
「ガイア。お前はガイアなのか?」
彼は自らが名付けた彼女の名を呼んだ。最愛の妻が目の前で消滅した事よりも、今では目の前にいる少女の姿が信じられない。
「お母様は、行ってしまわれました。いえ、正しく言うならば、行ってしまったのではなく、消え去ってしまったという方が正しいのでしょう。お母様の心は、この世のどこにもおりません。お母様の心の中に広げられていた世界も何もかも、あの忌まわしき暗黒が全てを消し去ってしまいました」
少女は語るように言いながらゼウスへと迫ってきた。少女の顔はとても無機質なものを持っており、表情がうかがえない。彼女が悲しんでいるのか、怒りを感じているのかという事さえも分からない。
「それは、一体、どういう事だ」
滅多なことではゼウスは恐れを感じない。だがこの少女を相手にしては違っていた。思わずゼウスは少女から後ずさりをした。
すると、古めかしいテーブルの上に置かれていた燭台の一つが倒れて音を立てる。館の様な空間は無音に満ちており、その音が異様なまでに響き渡った。
「お母様は、消えてしまいました。だからわたしは、お母様の心の中ではなく、お父様の心の中に現れなければならなかったのです。お母様には全てを話し、理解をしてもらう事ができました。アンジェロの子供達が抱いていた、悲しい運命。そして悲しい選択を、本当ならお母様に伝えたかったのです。
ですが、お母様は消えてしまわれたのです」
そう言いながら、ゼウスがガイアだとはっきりと認識している少女は、金色の瞳を見開いた。
その瞳は揺らいでいる。今にも涙が流れてきそうだったが、彼女が涙を流すような事は無かった。
「お前は、何故私の前に現れている?そして、ここは一体どこなのだ?」
信じられないという様子でゼウスはガイアに向かって言った。するとガイアは、きょとんとしたような顔をゼウスへと向けて言ってくる。
「ここは、お父様の心の中ですの。お父様には危険が迫ってきています。タルタロス議員をお父様はお母様と同じように消してしまわれた。最高評議会の者を消してしまえば、アンジェロとしてどれほどの罪になるか、お父様はよくご存知かと思います」
ゼウスは驚かされていた。ガイアは知っている。まだ幼い赤子でしかないはずなのに、アンジェロの世界の事をすでに知っているのだ。
ゼウスは考えを巡らせた。もしこの世界が夢か、幻でしかない。ガイアの言うように、自分の心の仲だったとしても、この世界はあまりにも現実味があり過ぎる。
手で触れるテーブルや、何もかもがはっきりとした存在感を持っている。流れる空気も、この屋敷のような場所に満ちている空気の匂いもしっかりと感じられる。
しかも、この世界をゼウスはどこかで知っているような気がした。どこか昔懐かしい。
「お前の言う事を信用して良いのかどうか、私には分からない。だが、ヘラにも似たような力が使えた。彼女はそれを魔の力と言って、自分の中に封じ込めていたのだ。
彼女は他人の意識の中に入り込む力を持っていて、お前もそうだと言うのか。だからこそ、タルタロスに狙われる事になった。恐ろしい力だと言ってな」
ゼウスはそのようにガイアに向かって言った。自分の子供をあたかも忌子であるかのように言い放つ、それは、とても残酷な言葉であるかのような気がした。
だがゼウスは、今自分が置かされている状況を素早く判断していた。
ここは自分の意識の中。自分の意識を、はっきりとした形で見せられている。それは幻覚でも何でも無くはっきりとしたものである。それは自然なものではない。自分は意識を拘束されている。
そして意識を拘束しているのは紛れも無いガイアなのであり、ゼウスは生まれたばかりの我が子に、自分の意識を束縛された状態に陥っているのだ。
一体、何の為にこのような事をするのか。
「わたしは、お父様を安全な所へとお連れしました。外の世界はとても危険です。お父様を救うために、わたしは、お父様をこの世界へとお連れしたのです」
ガイアはそう語りながら、ゼウスへと近づいてきた。
何故かゼウスは、自分の娘であるはずのこのガイアが、とても恐ろしい存在に見えて仕方なかった。何故、彼女がここまで恐ろしいのか。彼女に意識を掴まれているからなのか。
成長した姿と見える彼女が、あまりにも恐ろしい姿に見えるのか。
時は少し前に遡る。
ゼウスの妻、そしてガイアの母が、黒い球体の中に呑み込まれ、更にはその球体を生みだしたタルタロスさえも呑み込まれた直後。
ガイアはこの世のものとは思えぬほどの奇声を上げていた。
その奇声と共に、彼女の体は白い光に包まれていた。彼女の体を抱えるようにして庇っていたサトゥルヌスもその光には目をくらまされた。
この光は一体何なのか。あのタルタロスが生み出した黒い球体をも包み込み、更に大きな規模で広がっていく光は部屋を多い隠し、全てを包みこんでいってしまう。
眩しい。あまりに眩しいその白い光は、赤子の奇声と共に広がり続けた。
「ああ、どうして?最愛なるわたしのお母様。どうして、どうして消えてしまったの?」
まるですすり泣くかのような少女の声が、サトゥルヌスには聞こえてきていた。知っている声だ。
ついさっきも聴いたばかりではないか。もし、彼女の言う事が真実であったならば、この声を発しているのは、ガイアと言う名の、アンジェロの子だ。
サトゥルヌスは、だんだんと白い光が晴れていこうとしているのを知った。眩しさに目がくらまされてはいたものの、何とか彼の眼は慣れてくる。
気が付いた時、彼がいたのは、最高評議院の議事堂の中だった。円卓の椅子が置かれた議事堂の室内の中。だが何かが違っている。
部屋の扉は開け放たれており、その先は続き部屋になっていた。更に、続き部屋には、全く同じ円卓が置かれた部屋がある。
見慣れている議事堂の中の風景であると言うのに、それは非常に異質だった。その異質さにサトゥルヌスは若干の恐れさえ抱いた。
少女の声は続いている。
「こちらにいらして、あなたなら、あなたなら、わたし達、親子を救ってくださるはずですわ」
そのように聞こえてくる声。サトゥルヌスはこの不気味な空間と少女の正体に戸惑ったが、彼女の声がする方へと足を向けた。
同じような円卓が並べられた、議事堂とそっくりな部屋は幾つも続いているらしい。サトゥルヌスが目覚めた場所から、2つほど先の部屋で少女の姿を見つける事ができた。
さっき、別の真っ白な宮殿の中で出会った時と同じ、真っ白な髪を長々と垂らし、純白の肌と、金色の瞳を持つ少女だった。
だとしたら、この少女は自分が、タルタロスが生み出した全てを呑み込む球体から庇った、赤子であるガイア。そしてその精神だけの姿だ。
「君は、本当にあのガイアなのか?そして、ここはどこだ?」
サトゥルヌスは戸惑いながらもその少女に近づいた。白い装束を纏ったその少女は、最高評議院の円卓の上に座っている。膝と手を突き、彼女の金色の瞳からは涙が溢れていた。
「お母様が死んでしまったのですわ!」
少女はそのように叫んだ。実際に彼女が発した声量はそれほどのものではなかったかもしれないが、サトゥルヌスは思わず自分の耳を塞いでしまった。だが、彼女の声は自分の心に突き刺さるかのような衝撃を持ち、あたかも襲いかかってくるかのようだった。
「それは気の毒に思う。しかし、わたしにはどうする事も出来なかった。タルタロス議員の命令にわたしは従わなければならない」
サトゥルヌスはそのように言い、ガイアの元へと手を伸ばした。
彼女はその純白の髪を垂らしながら、サトゥルヌスに訴えかけるかのように言ってくる。
「でも、あなたはわたしを助けて下さいました。あの全てを消し去る恐ろしくも忌まわしい黒き球体から、この私を救って下さいました。あなたなら、わたし達を、アンジェロ達の悲劇から救って下さるはず」
ガイアは、サトゥルヌスに手を伸ばしてそのように言ってくる。だが、彼にとってはどうしたら良いか分からなかった。
彼女が伸ばしてくるガラスのように繊細そうな手も、素直に受け取る事ができない。
「わたしには、何もできまい。そもそもここはどこなのだ?わたし達は病室にいて、君は、まだ生まれたばかりの子供だった。確かに君が消滅するのをわたしは止めたが、それは見ていられなかっただけの突発的な」
そのようにサトゥルヌスは言うのだが、
「いいえ、違いますわ。あなた様は、わたし達を救ってくださるおつもりでいる。あなたの心には、タルタロス議員の強硬な行いに反発するだけの意志がおありですわ。それが、この世界にも反映されている。
何を隠す事がありましょうか。この世界はあなた様の生みだしている心の世界なのです。わたしはあなたの心の中に入る事が出来、あなたとお話をする事ができるのです」
ガイアはそのように言い、自分の方からサトゥルヌスの方へと近づいてきた。
「君が、わたしの心の中に入って来ている?君の持つ魔法の力で?それはすでに理解しているが、何故わたしなのだ?わたしは、タルタロス議員側の人間なのだぞ」
そのようにサトゥルヌスは言うのだが、
「ですが、わたしのお父様に対して同情の感情も抱いて下さっている。わたし達、アンジェロの子らが望んでいるのは永遠の安息の場、真の安らぎの場です。
しかしながら、わたしのお母様をこの世から消し去ってしまうような同族がいる世界の、どこが安らぎの場と言えるのでしょうか?アンジェロは永遠の命、永久の安定を得る代わりに、多くのものを捨て去りました。
それがわたし達、アンジェロの子らなのです」
ガイアは身を大きく広げ、サトゥルヌスに向かって言葉を投げかけた。その姿はあたかも演説をする議員であるかのような存在だった。
「具体的に君は何をしたいのだ?何の為に、アンジェロの世界に自分から生まれてきたのだ?さっきも話を聞かせてもらったが、無数の子供たちが、生まれてくる事に対して拒否をし、自ら死を選んでいる中で、君だけがこうして生まれてきている。だからこそタルタロスは動いたようなものなんだぞ」
サトゥルヌスは一歩踏み込んだ。すると、ガイアはその泣きじゃくっていた表情を一変させ、その金色の目を見開いてくる。
「それは、わたしが、お母様から受け継いだ、この恐ろしき魔法の力を使う事ができるからなのです」
その事は知っている。だからこそ、タルタロスは彼女をこの世から消し去ろうとした。そして今では、サトゥルヌスの中に彼女が入り込んできているのだ。
「わたしのような人間を、こうやって、意識の中に縛っていく事をするのか?」
まるで恐ろしいものを前にしたかのように、サトゥルヌスは言うのだった。
「あなた様はすぐに解放させて差し上げます。新しきアンジェロの世界には必要不可欠な存在ですもの。わたしが意識を拘束し、永遠の安らぎを与えるのは、あなた様やお父様ではない。
その他の全てのアンジェロなんですの。だってそれこそが、全てのアンジェロが望む、等しい平穏ではありませんか?」
そのガイアの顔からは真意は読みとれなかった。この娘は一体何を言っていると言うのだ?生まれたばかりの幼子が一体、何をしようとしているのだ。
「お父様も、もうすぐお目覚めになります。わたしが意識を解きはなってあげますから。ですが、全てのアンジェロは眠りにつきます。
等しく与えられる永遠の平穏。わたしはそれを全てのアンジェロに与えるために生まれてきたのです」
ガイアはそのように言って、サトゥルヌスの視界から消えていった。薄もやが霞むかのような消え方で、触れる事が出来ていた少女の体が、サトゥルヌスの目の前から消え去っていく。
「待て。一体何を」
だが彼がそのように言っても遅かった。ガイアはサトゥルヌスの視界から消え去ってしまった。
今、目の前にいた少女が実在していたのかどうか、サトゥルヌスは改めて思い起こそうとする。確かに幻影の様なものではなく、しっかりとした実体を持つ存在であった事は明らかだった。
では、全てのアンジェロが眠りにつくとは一体どんな意味だと言うのか。
サトゥルヌスがその答えにたどりつくよりも前に、彼の意識は目覚めていた。
「ゼウス様。起きてください。今ならあなたも目覚められるはず」
その声と共にゼウスは意識を取り戻した。古めかしい姿をした屋敷の姿はどこへと行ってしまったのか、ゼウスが目を開けた時に視界に入ってきたのは殺風景な病室の姿。そして、サトゥルヌスの顔だった。
「タルタロス議員の秘書のサトゥルヌスか? 一体何が起きたのだ? 私は?」
ゼウスはその巨体を起こしながら彼にそう言った。病室は荒れ果てており、壁には亀裂が走り、寝台はひっくり返り、器具は床に散乱している。
まるで何かの爆発が起きたかのような有様だった。
「あなたは、眠っておられました。私も同様です」
サトゥルヌスは体を起こそうとするゼウスの体を支えた。すると、はっとしたかのように、彼は辺りを見回した。
「そうだ。ガイアは? ガイアはどうしたのだ?」
ゼウスは自分の娘の姿を探す。先程、意識の中で現れていた彼女の姿が真っ先に思い浮かんだが、サトゥルヌスがとても脆いものを抱えるかのように、大事にゼウスへと引き渡してきたのは、生まれたばかりの幼い娘でしかなかった。
「おお。ガイアは無事か。眠っているだけなのだな?」
と、ゼウスは言った。しかしサトゥルヌスから渡された時、彼はガイアの体がほのかな光を放っており、しかも暖かいのを感じた。
「これは、熱を出しているわけではないな。だが、不思議と暖かい」
ガイア自体が何かの暖かい光を放っている。そう表現するしかなかった。
「その影響かは分かりませんが、ごらんください」
サトゥルヌスはそう言い、周囲の様子をゼウスへと見せた。
タルタロスが従えて来た者達が、床に倒れている。何かによって倒されたものとは違う。皆、眠るようにしてその場に倒れているのだ。
数人ばかりの者達がその場にいたが、彼らは皆、眠るかのように床に倒れ、意識を失っているようだった。
「何が起こったと言うのだ?」
ゼウスは思わずそのように言っていた。目の前に広がっている光景はあまりにも異質なものだった。
物音が聞こえない。静まり返っている。ただ空気が流れているという音しか聞こえて来ないのだ。
「ゼウス様。あなたは夢を見ていましたか?」
唐突にサトゥルヌスが尋ねてきた。彼が何を言いたいのか、ゼウスはすぐに分かった。
「ああ、見ていた。そこには、この娘、ガイアの成長した姿が出てきて私に語りかけて来ていた」
「そして、何とおっしゃいました?」
更に尋ねてくるサトゥルヌス。ゼウスはガイアの眠りについている顔を見つめて答えた。
「彼女は、全てのアンジェロに永遠の安息を与えると言っていた。それが自分の使命なのだとも」
その言葉の意味が、ゼウスにも理解する事ができ始めていた。
「何故、彼女が私の夢の中に現れた事を君は知っているのだ?サトゥルヌス?」
「それは、私の夢、と言えるのでしょうか?その中にも、あなたの娘さんが現れてきたからです。そして、わたしにも同じ事を言っていました。全てのアンジェロに永遠の安息を与えると」
すると、ゼウスはガイアの体を抱えたまま、ゆっくりとその場から立ち上がった。
「外へと出てみよう。あまりに静かすぎる」
「ええ」
ゼウスはそのように言い、眠っている者達へと目を移しながら、病室の外へと出た。
「一体、何が起こったというのだ?」
病室の外に広がっていた有様に、思わずゼウスは口に出していた。
建物の中にいる者達が皆倒れ、そして眠っている。彼らは死んでいるかのように思えたが、死んでいるのではない。近づいて見ていれば何とも安らかな表情をして眠っているではないか。
眠っているその姿は、あまりにも無防備だったが、とても安らかな姿ではあった。
「確かに、皆が死んだように眠っている。息はあるから、確かに彼らは生きてはいます。しかし、揺さぶっても起きるような気配は無い」
サトゥルヌスは倒れている者の一人を調べ、そのように言った。
「外はどうなっている?この病院だけではないようだ。外でも同じ事が起こっているのか?」
まるで恐ろしいものを言うかのように、ゼウスは声に出していた。
「ええ、外も見てみましょう」
アンジェロが築き上げてきた都市というものは、もはや芸術作品と呼ばれるものに等しい。ガラスを幾重にも積み重ねるかのようにして作り上げられた建物は、天を射ぬくほどに高々と聳え立つ。
そしてそれらは、彼らの力で常に清潔に保たれていた。一点の汚れも無く、常にその芸術的な姿を保ち続けている。
しかしそこでは、常にアンジェロ達が息づいていた。アンジェロ達はこの都市で暮らし、永遠とも言える繁栄を目指していた。
ゼウス達は病院から出て、そこに広がる有様を目の当たりにした。
道には何人ものアンジェロ達が倒れており、彼らが用いる乗り物もそのまま停止している。全てが停止して、街は眠っていた。
そして、病院の中では気付かなかったが、都市全体に、白い靄のようなものがかかっていた。霧のように見えるがそれはまた違うものだった。
「これは、全てが眠っているのか?」
都市は静寂に包まれていた。都市そのものが眠りについていると言っても良いほどの有様だ。
ゼウスの声は異様に響き、都市に流れている空気の音が不気味に流れている。
「やはり、眠っている。全てが眠りに包まれている。一体、何が起こったのか?」
サトゥルヌスは再び外で倒れている者達を調べ、そのように言っていた。全てが静寂に包まれている世界では、彼らの足音さえも、大きな音として響き渡って聞こえる。
(これこそが、真の安らぎの世界)
突如、聞こえてきたその声に、ゼウス達は顔を上げた。
「君にも聞こえたのか?」
「ええ」
ゼウスはその声に聞き覚えがあった。彼はすぐに自分が抱えているガイアの姿を見た。すると、ガイアはその瞼をゆっくりと開き、今、正に目覚めようとするところだった。
(アンジェロ達は、己の安らぎを手に入れるために、皆が心を病んでいました。しかしながら、彼らは今では真の安息を手に入れています。わたしは、アンジェロ達を安息へと導くために生まれてきました)
それは、ガイアの声だった。彼女は赤子ゆえに言葉を話せないためか、ゼウス達には意識に直接話しかけて来ている。
「アンジェロ達、全てがこうなっていると?」
そう尋ねたのはサトゥルヌスだった。
(ごく一部。わたし達子供たちが選んだ者達を除いて、ほぼ全てのアンジェロの意識は、わたしが預かりました。ですが彼らを傷つけるような事はありません。アンジェロ達は、赤子が安らぐようなゆりかごの中で眠り続けるだけです。
もちろんそれは永遠に続きます。永遠に彼らは眠りにつき、わたし達は、彼らが永遠に安らぐように、これから務めるだけです)
「本当にお前は、全てのアンジェロを眠らせるために生まれてきたのか?」
今度はゼウスが言った。すると彼らの意識の中に再び声が語りかけてくる。
(それが、数千年に渡るアンジェロの望みでした。アンジェロの望みは大きな意識の集合体の様なものとなり、わたし達、生まれてくる事ができない赤子達にも選択を与えてきました。
そしてわたしが、その役目を選びとったのです。わたしの巨大な魔法の力を使い、全てのアンジェロを、ゆりかごの中で安らがせると)
ガイアの言葉は、巨大な警鐘であるかのように、ゼウスとサトゥルヌスの上からふり注いでいた。赤子であるはずの彼女の声は、圧倒的な迫力を持って、二人に向かって振り下ろされている。
ゼウスとサトゥルヌスは、都市の中にまだ目を覚ましている者達がいないかを探していた。
だが、都市は不気味なまでの静寂に包まれており、そこにアンジェロ達の気配は無い。
どこを見回しても彼らは眠りについている。
全てが静寂に包まれている世界だった。ガイアの言う通りに、ここには何の争いも無く、平穏な静寂だけが流れている。
しかしそれは不気味すぎるほどだった。
ガイアは、これが当たり前であるかのような目でゼウス達を見つめて来ていた。彼女は何も恐れている様子は無い。むしろ、ゼウス達の方が、この場で起こっている出来事に対して恐怖を抱いているほどだった。
「何故だ?ヘラを。彼女があんな目に遭うよりも前に、こうする事もできただろう?そうすれば、タルタロスなど!」
思わず感情的になってゼウスは言っていた。
それが、自分のためだけの身勝手な言葉であるという事は分かっていたが、思わずそのように口走らざるを得なかったのだ。
(わたしは、時期を見計らっていました。アンジェロにも救いはあると。子供達を受け入れる事が出来、再び生の営みをする事ができるであろうと言う、わずかな可能性にも期待していたのです。
しかしあの無慈悲なる者は、お母様の命を奪い取り、わたし達の命をも同様に、この世の塵へと化そうとしたのです。そして私は悟りました。これ以上、アンジェロ達には救いは無いと。救いがあるとするならばそれは、永遠の安息を手に入れることでしか無いと、そう判断したのです)
ガイアの声は声高らかに響く。この静寂が全てを支配している世界では、ガイアの声だけが異様なまでに響き渡っていた。
「その結果がこれか」
サトゥルヌスはそのように答えるしかなかった。
「そして、私達にこの世界を一体、どのようにすれば良いと言うのだ?永遠の安息をアンジェロに与えたからと言って、この世界を私達にどうともできまい。お前は12人を選びとれと言ったが、それを一体」
ゼウスはそのように言いかけていた。すると、サトゥルヌスは。
「議員。まさか本気でお思いですか?アンジェロ達をこのまま眠らせてしまっていて、良いと言うのですか?確かに彼らは、永遠の眠りにつく事によって安らぎを得られたかもしれませんが、それはあくまで、眠りにつき、活動をしないという事。それが本来あるべきアンジェロの姿とは、私には到底…」
しかしそのサトゥルヌスの反論は、ゼウスによって遮られた。
「私は目の前で妻を消された。そしてこの子さえも消し去られかけた。アンジェロの下した判断でだ。正直言おう!わたしはアンジェロ達に対して絶望をしている。サトゥルヌス。お前には子供もいないだろう。だから理解できないだろうが、これは耐えがたいほどの苦痛であり絶望なのだ。
この世から、アンジェロなど一人残らずいなければ良いとさえ私は思っている。そう。ガイアと私達だけで、新しいアンジェロの世界を作ると言うのならば、それを私も望みたい」
ゼウスはガイアに負けないというほどの、大きな声、そして威厳を篭めた声でそのように言い放つ。彼らはアンジェロの都の高台にいた。ゼウスは両手を広げ、あたかも自分がこの世界の支配者であると言わんばかりの姿をして見せる。
「正気ですか?あなたがこの世界を支配すると?」
「ガイアがそう言うのならば、私はそのようにしよう」
ゼウスは当然の事を言い放つがごとく言うのだった。サトゥルヌスはそれ以上何も言う事はできなかった。このゼウスを止める事ができるなど、とてもできないであろう。それが彼には分かっていた。
「ガイア。お前はさっき選んだ者達と言った。我々以外にも目を覚ましているアンジェロはいるのか?この世界全てのアンジェロを安息にしておくためには、我々の人数ではあまりにも少なすぎる」
ゼウスはすでにこの世界を統治するつもりでいた。野心的であり、過去に起きた出来事に怯えているような議員達とは違う。彼には確固たる意志があった。
ゼウスはこの世界全てを自分のものにするだけの意志がある。
(それはお父様が選びとるのです。12人の使者はお父様が選びとるために用意されているのです)
「12人の使者だと?」
ゼウスはそのように聞き返した。
(選びとって下さい。12人の使者です。アンジェロはこれから12人の使者によって管理される事になる。お父様達を含めて、全てのアンジェロが眠りについてしまっては、あまりにも無防備であり、それは安息とは言えません)
確かにそれはガイアの言う通りだと、ゼウスは思った。
アンジェロの人口は数百万にも及んでいるが、12人もいれば十分だろう。眠りにつき、何もしないアンジェロ達を管理するには十分な人数だ。
そして、そのアンジェロ達は自分達が支配する。ゼウスはすでにその意志を固めていた。
もはや誰にも邪魔されない。自分達を管理しようとしていたアンジェロを、今度は自分とガイアで管理するのだ。
それでアンジェロ達が永遠の安息を手に入れられるというのならば、幾らでもくれてやるとしよう。
ガイアの邪魔を絶対にさせないのだ。
それは今、目の前にいるサトゥルヌスとて同じ事だ。どうやら彼は、ガイアがアンジェロ達に施した事に対して不満を抱いているようだったが、彼がしようとも、この状況を変えさせるつもりはない。
ガイアがアンジェロ達にした事は、ゼウスにとっても望んでいた事だったのだ。
「目覚めさせるべき12人の者達ですか。できるだけ、アンジェロの中でも、有力であり、物ごとの分別がつく者達が良いでしょう。自然に考えるならば、ここは、最高評議会の議員達を目覚めさせるべきでは?」
サトゥルヌスの声が、ゼウスの執務室に響いていた。ゼウスは議員時代から使っているこの執務室に戻り、ガイアの起こした状況を改めて確認していた。
このアンジェロの世界に目覚めている者達は、自分達以外にいない。ありとあらゆる手段を用いて、ゼウスは全ての状況を確認したが、全てが眠りについている。この状況下で活動する事ができているのは、自分達だけだ。
「どうなさいますか。ゼウス様?」
サトゥルヌスはそう尋ねてきた。アンジェロの社会が一変する出来事が起きたと言うのに、彼は今までと同じような態度を崩さない。
彼はゼウスの秘書だったわけではない。今となっては憎きタルタロスの部下だった男だが、自分の娘を救ってくれた存在でもある。
「最高評議会の者達は駄目だ。分別がつくだと?彼らは長年、アンジェロの支配者として君臨してきた様な人間だ。それに私が、彼らの前でどのように扱われてきたのか、君も知っているはずだ。彼らを目覚めさせれば、同じ事が再び繰り返されるに違いない。
最高評議会の者達を目覚めさせる事はならん」
ゼウスははっきりとした口調で言っていた。それはすでに決めていた事だ。しかし、ガイアの言うように、目覚めさせる12人の者達を選びだすのは、困難であるかのように思えた。
「ガイアよ。一体、どうすれば良いと思う?お前には案はあるのか?」
しかしこの場にいるのは、ゼウス達だけでは無かった。ゼウスは自分の執務室に保育用の寝台を置き、その上にガイアを乗せていた。
ガイアはまだ首も据わっていないような生まれたばかりの子であったが、父親たちの言葉を聞き、意見を聞き、そして何より特殊な方法を使って、話す事ができるのだった。
(それはお父様がお決めになって下さい。地位や立場によって惑わされない、お父様が直に話し、接してきた人々の中から、適切と思える人達12人を選びとってくれればそれでよいのです。
こればかりは私にはできない事です。だからお父様達に任せる事にします)
「そうか」
ガイアの言葉は最もだった。彼女はまだ生まれたばかりの子供でしかない。もしヘラがこの場にいたならば、迷わずゼウスは彼女を12人の中の一人に含めただろう。
「12人とは、あなたのお嬢様、あなた、そして私を含めた12人ですから、残りは9人になります。私が今までに秘書を務めてきた議員達から、選ばれるべき存在を選ぶ事もできますが、私も彼女によって選ばれた存在。ですから、ゼウス様、あなたに決めてもらいたい」
ゼウスは執務室に設けられた、大きなガラス張りの窓から、アンジェロの街を見下ろしていた。そして考えを巡らせる。
自分はこの世界の支配者もなったも同然だった。支配する事ができる民は眠りについているが、その中から選ばれる者達を、自分の手で選ぶ事ができる。
この世界は、自分とガイアのために作られたものなのだ。
「9人の内、何人かは私にも当てがある。ただ、彼らが聡明かどうかは分からないが、同じような人材を集めるよりは、いくつもの思想があった方いい。社会とはそういうものだ」
ゼウスはそう言った。すでに考えは決めてある。
「まずはこの人物達を目覚めさせるとしよう」
そう言って、ゼウスは自分の前に展開させていた、水流の様に流れている映像を、ガイアの方へと持っていった。
(承知いたしました、お父様)
目覚めというものは、あたかも快眠から目覚めるかのように、ゆっくりと安らいだものであった。目覚めたアンジェロ達はまるで不快な様子を見せず、今まで起きていた事さえ知らないようだった。
アンジェロ族の議員の一人であり、ゼウスの同志であるハデスもそんな一人だった。彼はゼウスによって真っ先に選ばれた、新時代の同志だった。
「目覚めたか、ハデスよ」
ハデスは自分の執務室の中で倒れていたが、目を覚ましたようだった。彼の居所をゼウスは良く知っており、ガイアから解放された第一のアンジェロとして、真っ先に彼を迎えに行ったのだ。
「ここは。一体何が?」
ハデスは何が起こったのか気が付いていない。まるで眠りから目を覚ましたかのようだった。
「お前は、眠っていたのだ。他のアンジェロ達も同じ。永遠の安らぎを手に入れたのだ」
ゼウスはそのように言い、彼の身を起こした。ハデスはまるで、生まれたばかりの子供が自分で歩けないかのように、立ち上がる事ができないかのようだった。
彼はまず椅子に座り、自分の頭を起こそうとしているかのようだった。
「永遠の安らぎ?そう言えば、何だか、とても長い間、わたしは眠っていたように思えますが」
ハデスは一杯の水を飲み、自分の心を落ち着かせているようだった。
永遠の安らぎを手に入れるとはどういう事なのか、ゼウスも知りたい気持ちはあった。ガイアに心を支配され、そのまま、現実の世界に戻ってくる事ができない状態。先程、ゼウスが味わったものと同じなのだろうか。
だが、ハデスの目覚め方を見る限り、それとはまた異なる印象を感じさせるかのようだった。
「説明しよう、ハデス。何がアンジェロ達の間に起こったのかと言う事を」
ゼウスはハデスの頭がはっきりとして来たところでそのように言い、ことのいきさつを説明した。
ハデスは聡明な議員だったが、ゼウスの説明を理解するまでは大分時間がかかってしまった。彼でさえとても理解しがたい出来事が起こったのだ。無理も無いだろう。
「それが本当の事だとしたら、この世界で目を覚ましているのは、私達だけと言う事に?」
ハデスは戸惑っている。
「そういう事だ。ハデスよ。新世界の幕開けだ。私が娘を授かった理由はこれだったのだ。私の娘は新世界を生みだす力を持っていたのだ」
ゼウスは何かを悟ったかのようにそう言うのだった。ハデスもこの世界で起こっている事が実感として感じられてくると、だんだんと落ち着かない様子となって来た。
「しかし一体、全てのアンジェロに安息を与えて、何をしようと?ただ、こうしてあなたに目覚めさせられた者達だけで、世界を担っていくというのですか?それとも何か目的が?」
「ガイアは、全てのアンジェロが求めていた、永遠の楽園を与えたのだ。そして目覚めたお前を見る限り、どうやら、アンジェロ達は自分達が眠りについたという事すら認識できていない。
これはまさに天国とも言えるものだろう。アンジェロ達はゆりかごの中で、もはや苦しむことなく、悩み、悲しむような事も無い。これぞ、永遠の安息なのだ」
しかしサトゥルヌスよりもはっきりとした態度で、ハデスは異を唱えてくる。
「良いのですかゼウス。本当にあなたは、12人の者達だけで、あなたの言う新しい世界を担っていく事ができるとお思いなのですか?」
「ガイアが12人と言った。私は可能であると思う。むしろ、アンジェロは今までその人数が多すぎたのだ。わずか12人に人数を絞る事によって、より安定した平穏を抱けるように思う」
「もう、その12人は目覚めさせたのでしょうか?」
ようやくはっきりとしてきたような口調で、ハデスは尋ねた。
「いや、私にガイア、サトゥルヌス、そしてお前の4人までしか目覚めてはいない。残りの者達は、順次決めていくつもりだ」
そのゼウスの言葉を聞いて、ハデスは少し考えたようだった。少し考えた上で、彼は答えを出した。
「では、私の願いを聞き入れてもらえるでしょうか?その残りの8つの椅子の一つに、我が妻である、アフロディーテを招き入れて欲しい。私の妻であると言う以前に、彼女も立派な下院議員です。聡明なものである事に違いは無い」
ハデスは慎重に言葉を選んで話しているようだった。彼の眼は、畏怖するような存在を見るかのような目でゼウスを見ており、ほんの一言間違えるだけで、取り返しがつかないと思っているのか。そんな言葉づかいをしている。
だが、ゼウスの答えは、ハデスにとって叶えられるべきものだった。
「よかろう。お前からはきっとその言葉が出るだろうと思っていた所だ。お前の妻も共に目覚めさせるとしよう。12人の使者の内の一人として、彼女も目覚めさせるとしよう」
この状況下でハデスが望むものは、その事だけだろう。そうであるならば扱いやすい。
自分達の新たな世界に、無駄な欲望など必要ないものなのだ。
目覚めさせられた12人の者達は、数カ月の時を経て、ようやく全員が集結する事ができた。12人の者達の選定には時間がかかった。ゼウスはその全てを自らの思い通りに仕切りたかったが、そうはいかなかった。
元議員の者達を目覚めさせてしまえば、アンジェロを永遠に眠らせておくという事に対し、大きな反対が出る事は承知の上だった。議員達はアンジェロを支配したがる。支配する対象が眠っているような世界を議員は決して望まないだろう。
しかしながら、眠りについているアンジェロと、それを統率する者達の間でも、どうしても政治というものが新たに必要となる。
新世界の秩序を保つためには、ゼウスと、ハデスと言う元議員だけでは足りないものがあった。
ハデスの元妻であり、下院議員でもあった、アフロディーテ。それだけではなくゼウスは上院議員でもあり、社会的な力を持っていた二人の議員を目覚めさせた。
だが彼らの社会的地位など、新しい世界ではもはや存在しないもの。あくまで新世界の意思決定をするために、彼らを呼び起こしたに過ぎない。
眠りについたアンジェロをそのまま放置しておくわけにはいかない。彼らは路上に横たわり、無防備なままの姿をそのままさらしている。
彼らを永遠に横たわらせる、安息の寝台も必要だった。アンジェロ達をそのまま放置する事なく、永遠の器を作りだしてやる慈悲くらいは、目覚めた者達にもあった。ゼウス達はその安息の寝台を生みだし、更にその機能を永遠に保持する事ができるほどの、優秀な技師を三人目覚めさせる事にした。
信頼があり、以前のアンジェロの社会にも大きく貢献し、また実力もある三人を目覚めさせた。
そして彼らの生、そして、ゼウス達自身の生をも保つ事ができる為の生体の知識を持ち、医学の知識がある三人をも目覚めさせる事にした。
これで12人だ。12人の者達は、新たなアンジェロの世界に戸惑った。わずか12人のみが目覚めており、他の者達は全て眠りについている。
眠りについている者達にとって、それは永遠の安息かもしれない。
だが目覚めている者達にとって、それは新しい社会であった。新しい社会とは新しい旅でもあり、永遠の生命を有しているアンジェロにとっては、それは永遠とも言えるほどの旅路でもあったのだ。
ゼウスはその長たる存在となった。彼の娘がこの新しい社会を生みだすきっかけとなり、結果としてアンジェロ達は永遠の安息につく事ができた。
それは安定と安息、秩序を求めていたアンジェロ達にとっては、無くてはならないものであったはずだ。
最初は戸惑いを見せていた12人の使者達も、その状況を受け入れる事ができてきた。
自分達は管理者なのだと。アンジェロが追い求めていた、安息を保つためにいなければならない管理者なのだと言う自覚を持つようになった。
ガイアも生まれて間もない頃は確かに小さな幼子でしかなかったが、アンジェロも子供のころは成長する。
ゼウス達が新たなアンジェロの社会に慣れ始めた頃は、すでに少女の姿となっていた。その姿と言うのも、ゼウス達の中に必要な時に入り込んできていた、あの時のガイアにそっくりなものであった。
ゼウスはガイアが成長していくにつれ、確かな自覚を持った。やはり自分の中に入り込んできていた意識ある存在は、ガイアそのものの意識であったのだと言う事を。
ガイアは一人で立ち上がり、歩きだすようになっていた。そして自らの思考を持ち、時には父の言葉に意見する事もするようになっていた。
アンジェロの子供とて、10歳ほどの年ではろくに世の中の物事も知らないはずだった。アンジェロも長年の時を経て、崇高な知性を持つようになるのだ。だが、この新世界においても、ガイアは全ての物事を見通しているかのようだった。
ガイアは恐ろしいほどの知恵と知性を身につけており、アンジェロの意識を支配し続けた。
ガイアがその力を緩める時は無かった。自らが眠りについている時でさえ、彼女の持つ意識支配の力は完璧なものであって、それは長きに渡って続いていった。
目覚めさせられた12人の者達は、数カ月の時を経て、ようやく全員が集結する事ができた。12人の者達の選定には時間がかかった。ゼウスはその全てを自らの思い通りに仕切りたかったが、そうはいかなかった。
元議員の者達を目覚めさせてしまえば、アンジェロを永遠に眠らせておくという事に対し、大きな反対が出る事は承知の上だった。議員達はアンジェロを支配したがる。支配する対象が眠っているような世界を議員は決して望まないだろう。
しかしながら、眠りについているアンジェロと、それを統率する者達の間でも、どうしても政治というものが新たに必要となる。
新世界の秩序を保つためには、ゼウスと、ハデスと言う元議員だけでは足りないものがあった。
ハデスの元妻であり、下院議員でもあった、アフロディーテ。それだけではなくゼウスは上院議員でもあり、社会的な力を持っていた二人の議員を目覚めさせた。
だが彼らの社会的地位など、新しい世界ではもはや存在しないもの。あくまで新世界の意思決定をするために、彼らを呼び起こしたに過ぎない。
眠りについたアンジェロをそのまま放置しておくわけにはいかない。彼らは路上に横たわり、無防備なままの姿をそのままさらしている。
彼らを永遠に横たわらせる、安息の寝台も必要だった。アンジェロ達をそのまま放置する事なく、永遠の器を作りだしてやる慈悲くらいは、目覚めた者達にもあった。ゼウス達はその安息の寝台を生みだし、更にその機能を永遠に保持する事ができるほどの、優秀な技師を三人目覚めさせる事にした。
信頼があり、以前のアンジェロの社会にも大きく貢献し、また実力もある三人を目覚めさせた。
そして彼らの生、そして、ゼウス達自身の生をも保つ事ができる為の生体の知識を持ち、医学の知識がある三人をも目覚めさせる事にした。
これで12人だ。12人の者達は、新たなアンジェロの世界に戸惑った。わずか12人のみが目覚めており、他の者達は全て眠りについている。
眠りについている者達にとって、それは永遠の安息かもしれない。
だが目覚めている者達にとって、それは新しい社会であった。新しい社会とは新しい旅でもあり、永遠の生命を有しているアンジェロにとっては、それは永遠とも言えるほどの旅路でもあったのだ。
ゼウスはその長たる存在となった。彼の娘がこの新しい社会を生みだすきっかけとなり、結果としてアンジェロ達は永遠の安息につく事ができた。
それは安定と安息、秩序を求めていたアンジェロ達にとっては、無くてはならないものであったはずだ。
最初は戸惑いを見せていた12人の使者達も、その状況を受け入れる事ができてきた。
自分達は管理者なのだと。アンジェロが追い求めていた、安息を保つためにいなければならない管理者なのだと言う自覚を持つようになった。
ガイアも生まれて間もない頃は確かに小さな幼子でしかなかったが、アンジェロも子供のころは成長する。
ゼウス達が新たなアンジェロの社会に慣れ始めた頃は、すでに少女の姿となっていた。その姿と言うのも、ゼウス達の中に必要な時に入り込んできていた、あの時のガイアにそっくりなものであった。
ゼウスはガイアが成長していくにつれ、確かな自覚を持った。やはり自分の中に入り込んできていた意識ある存在は、ガイアそのものの意識であったのだと言う事を。
ガイアは一人で立ち上がり、歩きだすようになっていた。そして自らの思考を持ち、時には父の言葉に意見する事もするようになっていた。
アンジェロの子供とて、10歳ほどの年ではろくに世の中の物事も知らないはずだった。アンジェロも長年の時を経て、崇高な知性を持つようになるのだ。だが、この新世界においても、ガイアは全ての物事を見通しているかのようだった。
ガイアは恐ろしいほどの知恵と知性を身につけており、アンジェロの意識を支配し続けた。
ガイアがその力を緩める時は無かった。自らが眠りについている時でさえ、彼女の持つ意識支配の力は完璧なものであって、それは長きに渡って続いていった。
やがて、アンジェロ達が永遠とも言える眠りを続けている時も、振り返れば永遠とも言えるほどに続いているのではないかと言う、数百年と言う時間が経過した。
その長き時の間に、全てのアンジェロのために、安息の場所が設けられていた。目覚めさせられたアンジェロの技師達によって作られた、数百万という、アンジェロの為の寝台が、幾つかの施設に設けられた。
あたかも昆虫の繭であるかのような寝台の中に、アンジェロ達は横たわっている。彼らは数百年もの間を、自分達が眠りについているという事さえ、認識せずに過ごしているのだ。
ガイアの意識支配は完璧だった。ほぼ全てのアンジェロが数百年もの間、一度も、一瞬たりとも目を覚ます事は無かった。そしてガイアはそれを苦痛に感じていない。彼女自身はいともたやすく意識支配をやりのけていた。
しかしながら、数百年も経ってしまえば、目を覚ましている残りのアンジェロ12人の間にも、そろそろ変化というものが訪れようとしていた。
それはゼウスの考えの中から生まれた。
アンジェロの都は、中心部、12人のアンジェロの管理者だけが住んでいる建物周辺を除いて、全て廃墟と化していた。しかしゼウス達が数百年もの間、住んでいる建物の周辺だけは常に清潔に保たれていた。
その巨大な建物の一つの最上階に、ゼウスとハデスはいた。
ゼウスはすでにこのアンジェロ達を統率する者として、貫禄ある姿をしていた。顔には深い皺が寄せられていたが、それは老いているのではなく、貫禄としての皺だった。彼は大柄な体格を保ち続けている。
「サトゥルヌスによれば、今年におけるアンジェロの民達の間には何事も変化は無いと。今においても、全てのアンジェロが安息に包まれたままでいます」
ハデスもそうだった。彼の場合、その紳士的態度がより洗練されたものとなっており、顔にも長年の時の経過を感じる事ができる。
「そうか」
ゼウスはそのように答える。もう同じ答えを何百回と繰り返している。アンジェロ達は永遠の安息につき、自分達はそれを管理している。これが自分達に与えられた定めともいえるものなのだろうか。
ハデスは去っていこうとした。彼には彼の仕事がある。アンジェロの管理者としての仕事だ。
だが、ゼウスは彼を呼びとめた。
「ハデスよ」
そのようにゼウスは言い、ハデスが行こうとするのを止める。
「はい、いかがしましたか?」
ハデスは足を止め、ゼウスの方を振り向いてくる。
そこでゼウスはアンジェロの街を見下ろす、大展望の窓に背を向け、彼の方に尋ねてきた。
「ハデスよ、果たして神とは何だと思う?」
そのゼウスの言葉に、ハデスは戸惑ったようだった。
「と、申しますと、一体?」
「言葉通りだ。神とは果たしてどのようなものだと思う?」
ゼウスは戸惑っているハデスに改めて問いを投げかけた。それは、ゼウスがたった今持っている疑問の一つだったのだ。
「それは、絶対的な存在であり、万物の全てを支配している者であると、私は思われますが」
ハデスはそのように答えてきた。なるほど、確かにその通りだ。彼の言葉通りにゼウスも思っていた。
だが、何かが足りない。その言葉は正しいようにも思える。しかしゼウスが求めている答えとは違うような気がした。
「ハデスよ。我らは、アンジェロの全てを管理している。彼らが永遠の安息の眠りにつく事を、我々は管理し、そしてある意味では支配している。ガイアは意識を支配し、アンジェロ達に全ての安息を与えている。こうした行為を行っている我々が、まさに神の偉業をそのまま体現していると言えるのではないのかね?」
ゼウスはその言葉を本気で言っていた。誇張などでは無い。彼自身、自分のなしている事が、神の偉業の一つだと思っているのだ。
しかしハデスは、
「私は、あくまですべき事をしているまでの事。言わば、今我々が行っているのは、支配ではなく、義務であり、仕事のようなものであると考えております。だから、神の偉業などとは」
ハデスはゼウスの言葉に戸惑いを感じているようだった。突然、投げかけられた言葉、それはあまりにも唐突であった。
「なるほど、お前がそう思うのも無理は無い。だが、今、我々がしている事は、アンジェロ達が想像していた、神と呼べる存在そのものだ。
我々はすでに死を超越している。死を恐れる事は無い。そして、すでに何百年もの間、アンジェロ達を管理している。彼らの意識を支配し、安息を与えている。その対象は数百万にも及んでいる。
つまり、アンジェロ達は我々の手中にあるというわけだ。これを、神の偉業と言わずして何という?」
ゼウスはそのように言い、ハデスに迫る。彼はゼウスの発した言葉に戸惑っているようだった。やがて彼は言葉を見つけるかのように話しだした。
「我々アンジェロは、完全に安定した社会を目指そうとしました。恐れを知らず、永遠の生を手に入れると言う事。そして今は、あなたと、あなたのお嬢様の力によって、全てのアンジェロに永遠の安息が与えられている。
それは全て、安定を目指したものであって、神になろうとしたわけではありません。我々12人の使者はあくまで管理者であり、彼らを支配しているのではなく、彼らの安息のための手助けをしている」
そのようにハデスは言ってくる。なるほど、彼の言う言葉は確かにその通りだ。だが、ゼウスは思う。ハデスはこの状況をただ受け止めているにすぎない。すでに何百年も続いているこの安息の世界を、受け止めているのみに過ぎないのだ。
「だがガイアは、いつでもこの状況を解放する事も出来れば、永遠にアンジェロ達を眠りに繋ぎとめておく事もできる。それは自由自在な行為だ。彼女は意識の支配者であり、それはもはや神とも言える」
「私には何とも申し上げられません。自分が神のような存在とも思えませぬ」
ハデスはまだ甘い。ゼウスはそう思った。彼はすでに数百年の安定の世界を続け、新たな段階にくるべき時だと思い始めていた。
アンジェロはこのまま、安定をしていて良い存在ではない。すでに次の段階の構想がゼウスの中で練り上がって来ていた。
その次なる段階は、正に今、目覚めているアンジェロ達が、自らを神と自覚しなければできない事だったのだ。
ゼウスはその自覚をあたかも心の中に刻み込むかのように、幾度も認識させ、それをついに打ち明ける時がやってきていた。
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少女の航跡の秘められたストーリー。ガイアの覚醒、アンジェロ族の眠り、そしてそこから始まる物語など、壮大なスケールとなりました。 | ||
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