少女の航跡 短編集09「神々の詩 Part2」-2
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「お呼びですか、お父様?」

 また幾らかの時が経ち、ゼウスの執務室の中にはガイアが姿を見せて来ていた。ガイアも、もはや生まれたばかりの赤子の存在ではなく、ゼウス達と同じように数百年の時を経て来ている。

 しかしその姿は、あくまで子供の時のままだった。ガイアは10歳ほどの年齢の容姿から年を取る事を止めてしまった。それは彼女自身の意志でする事ができる、アンジェロの特性の一つだ。

「唐突だが、ガイア。お前は何故、年を取ろうとしない?」

 そのように尋ねたゼウスは、すでに成熟した大人を通り越し、巨大な大木であるかのように顔にも体にも幾つも皺が刻まれた姿をしていた。数百年前の彼とは明らかに違う、威圧感と存在感を彼は放っていた。

「それはいつまでも、お父様の娘として存在していたいからですわ」

 そのように答えてきたガイアの言葉も、やはり子供のような声と変わらない。

 しかしながらガイアは数百年の時を生きてきたゼウス達のように、全てを見通し、的確な判断をする事ができるような目、そして思考をも持っている。子供のように無垢な姿と合わせて、それは不気味にさえ映る。

 多くのアンジェロ達は大人の姿になる事を望む。子供の姿を望んだまま成長していくアンジェロは非常に珍しかった。それはガイアくらいのものでしかないだろう。

 12人の使者の中でも、最も若く、子供の姿をしているアンジェロと言えば、それはガイアしかいなかった。

 ゼウスはそんなガイアの姿を見つめつつ話し出す。

「そうか。随分以前からの事だが、ごく一部のアンジェロには隠して進めてきた事がある。調和と安定を求めるお前には反対されるかもしれないが」

 ゼウスはそのように言って話を切り出した。だが、ガイアは望めば相手の心を読みとる事が出来てしまう。それは隠し事はできないという事でもあった。

 しかしガイアは何も知らないと言った様子で言って来た。

「お父様は何も隠し事をしているようには思えませんでしたわ」

 ガイアはそのように言って来た。だが、その表情からは真意を読みとる事は難しい。ガイアの瞳は、ゼウスでさえ吸い込まれていきそうなものであり、彼女が嘘をつくならば、それに簡単に丸めこまれてしまうだろう。

「実はある計画を進めてきた。ヘスティアと共にだ。彼女達と私の間だけで進めてきた計画があるのだが、それはそろそろ皆に告げようと思う」

 ゼウスはそのように言って、ガイアを伴ってある場所へと向かおうとした。

 

 アンジェロ達は元々はアンジェロ達の政府が管理をしていた、都市の中心地だけではなく、都市から離れた郊外地域にも拠点を設けていた。

 眠りについている多くのアンジェロ達にとっては、建物が密集している都市の中心よりもむしろ、郊外の方が安らぎを得られるだろうと判断していたのだ。

 ゼウスとガイアは、変わらず使われている、アンジェロ達の高速で移動できる乗り物に乗り、その郊外地域の、広々とした建物へとやってきた。

 真っ白な建物群があり、その中には多くのアンジェロ達が眠りについている。それも数百年と言う年月を、彼らは時間の計画を感じることなく過ごしているのだ。

 その建物群を見るたびにゼウスは思う。数百万というアンジェロ達を安息につかせているという事は、果たして、自分達の行う慈悲なのか、それとも支配なのか。

 そしてそのアンジェロ達は、ガイアによって意識を拘束されている。ゼウスに比べれば半分の肉体にも満たない、ガイアの小さな体が、数百万の命を安らがせているのだ。

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 ヘスティアはアンジェロ達の命を預かる大切な役割を果たす、12人の使者達の中の技術者の一人だった。そしてアポロンは、アンジェロ達が安らぎを得るための施設を設計し、それを作りだした。

 彼らなくしては、アンジェロ達が安らぐ事ができる空間は作り出す事ができない。重要な人材だ。

 そしてゼウスは彼らと共に、すでにある計画を進めていた。

 今日、ゼウスはガイアを、アンジェロ達が眠りについている施設ではなく、更に奥の研究施設へと導いていった。

 ほぼ全てのアンジェロが眠りについている以上は、新たな技術開発など必要ないかもしれない。だがゼウスは満足しなかった。自分達、12人の使者が与えられているこの環境は、利用されるべきものであり、選ばれし者達なのだという自覚があった。

 だからこそヘスティア達と共に、この計画を進めてきたのだ。

 温室のようになっている施設が新たに建造されていた。そこには土があり、植物が飼育されている。

 植物などの飼育は積極的に行われていた。そこから作物を育てる事は、変わらず行われていたし、より栄養を良く摂取する事ができる作物の研究も行われている。アンジェロ達は眠りについているが、その進歩については、積極的に行われる必要があった。

 アンジェロ達は安らぎについたが、それは決して歩みを止めたわけではないのだ。ゼウスはそう考えていた。アンジェロ達はより高い次元へと自分達を持っていくために、安らぎについたのであり、進歩を止めて良いわけではない。

 そして、ゼウスはその考えを、ある段階にまで昇華させていたのだ。

「ガイアよ、こっちに来なさい」

 まるで子供のように、飼育されている植物たちに目配せしているガイアを、ゼウスは呼んだ。その施設の更に奥の方に、厳重に管理されている施設がある。

 真っ白な殺風景さに覆われた部屋だったが、多くの研究機材や機械類などが設置されており、物々しささえ見せている。

 植物ばかりだった通路は、だんだんと昆虫などの生物、魚などの生物が現れるようになった。やがて、このアンジェロの世界にはいなかったような、奇妙な生物さえも、透明な水槽に入れられている。

 どれも手の上に乗るくらいの大きさの小さな生物でしかない。

 全てのアンジェロは眠りについた。しかしながら、この生き物達は起きて、目を覚ましている。

 やがて、ゼウスは通路の突き当りにいる、技術者の姿をした女の名を呼んだ。

「ヘスティアよ。ガイアを連れてきた」

 ヘスティアも、ゼウス達に選ばれた12人の一人であり、若いアンジェロの女の姿のままをして数百年を過ごしている。彼女は政治などよりも、研究に没頭していた。元々が著名なアンジェロの技術者だった。助手と言えば技術者のアポロンしかいない環境ながら、次々と根気よく研究成果を上げていた。

「これはこれはゼウス様」

 恭しくヘスティアはゼウスにそう言った。彼女はゼウスに何万といるアンジェロの技術者の中から、目覚めさせられたことで、彼に感謝をし続けている。

「ガイアお嬢様も、お久しぶりです」

 ヘスティアは、そうガイアに対しても笑顔で言った。アンジェロ同士が何年も会わないというのは珍しくない。彼らは永遠の時を生きるために、会う機会が無ければ、実に何百年と顔を合わせない事さえある。

「こちらこそ、お久しぶりですわ」

 ガイアはそう言いつつも、周囲の水槽に入れられている生物たちの方に興味があるようだった。

「今日は、ガイアにある事を伝えるために連れてきた。我々が行っている計画を、そろそろ皆にも伝える必要があると思ってね」

 そう言いつつ、ゼウスはこの広大な施設を指し示した。

 ガイアは目を光らせ、父親に向かって答える。

「命を造り出しているという研究について、ですか?」

 ガイアはすぐさま答えてきた。その答えはまさしく正しいものだ。ゼウスはヘスティアに命令し、ここにいる生物達を飼育しているだけではない。一から造り出させたのだ。

 植物も、種を生み増やしている種もあるが、一から生みだした植物も多く飼育してきている。

 アンジェロ達はすでに、無機物から、生命を誕生させる技術を確立していたが、それは長き時の間、誰かが管理していなければ失われてしまう技術だった。しかしながら、ヘスティアはその研究をたった一人になっても続けていき、更に技術を高め続けている。

「命を生みだす研究は続けております。しかし、それだけではないのですよ」

 そう言いつつ、ヘスティアはガイアに向けてあるものを見せた。

 それは、人が入れるほどの大きさに入れられた、豆粒のような何かだった。卵であるかのようにも見える。しかしながら、良く目を凝らして見てみると、それは、人が膝を抱えてうずくまっているような姿にも見える。

 その小さな何かには、管が一本伸びており、機械と直結していた。

 ガイアはその姿を見て、それが何であるかをすぐに理解したようだった。

「これは、アンジェロですか?」

 ガイアはその大きな瓶に入れられている、アンジェロ達の姿とは似ても似つかないようなものを、優しく触れるかのようにして尋ねた。

「いいえ、“ホムルンクス”ですよ、ガイアお嬢様。アンジェロとは似ていますが、永遠の生命は有していない。過去の我々に似た存在です。数十年かかって、この私が造り出しました」

 数十年がかりの成果なのかと思えば、根気のあった事だろう。ゼウスはガイア達、他のアンジェロには隠して、この生命の制作にいそしんでいた。

 そしてゼウスにとっては、ただ生命を生みださせるだけでは事足りなかった。これはきっかけの一つであり、ここから新しいアンジェロの世界を生みだしていく。それこそが、ゼウスの目的だった。

「この生命はやがて、我々アンジェロにとってかわる存在になろう」

 そう言いつつ、ゼウスは大きな瓶の前で、“ホムルンクス”に見とれているガイアに話しかけた。

 ガイアは何に対しても大きな興味を示すのだが、どうやらホムルンクスとヘスティアが呼んでいる生命に対しては特別な何かを持ったようだった。

「お父様は、これから作る生命に、新たなアンジェロの世界を担わせていこうとお考えなのですか?」

 瓶の中にいる生物は、あまりにも無防備で、触れれば壊れてしまいそうなほどだった。

 ヘスティアはガイアの側に立ち、その生命についての注釈を入れた。

「まだまだ、この生命は成長していきます。やがては、わたし達アンジェロと同じくらいの大きさの身体にまで成長していくでしょう。

 そして思考も、我々アンジェロに比べればずっと原始的な生物かもしれませんが、やがては我々アンジェロと同じように、崇高な知性を持った生命へとなり変わっていきます。もっとも、それに至るまでは万年の時がかかるでしょうけれども」

 ヘスティアは、ガイアへと笑みを見せながらそのように言った。

 ガイアはただじっと、目の前のホムルンクスを見つめている。一点の汚れもない瓶の中で生み出され、成長していくその生命は、ガイアとどこか似ている面があった。

 ゼウスはしばらく見とれているガイアを、ただそのままにしてやった。

「生命を生みだし、その者達に新しい世界を担わせる。ですと。それが一体どのような事を意味しているか、分かっておいででしょうな?」

 久しぶりに招集された、目覚めているアンジェロ族の面々。12人いる彼らはそれぞれの仕事に従事していたが、実に数十年ぶりに全員が、議事堂であった建物へと招集されていたのだ。

 

 だが、ゼウスがこっそりと進めていた計画は物議を持たせてしまっていた。

 これまでゼウスに同調してきたハデスも、アンジェロの永遠の安定の世界に投じられた一石には戸惑う。

「我々アンジェロは、そのほぼ全員が眠りについているからこそ、この800年の間、何も起こらず、平和で安定した社会を築き上げてきました。しかしここで、新たな生命を生みだし、その者達に文明を担わせるとは」

 アンジェロ族の一人が言う。だがゼウスにとっては予期していた事だ。今まで何事も起こさず、ただ安定を求めていたアンジェロの世界。そこに変化が現れるのならば、皆が動揺して当然のことだろう。

 もちろんそのような議論が交わされるという事などは、ゼウスも予期していた事だ。ゼウスはただ壇上に上がり、自分の他、11人のアンジェロの姿を見下ろす。

「もちろん、私は何の考えも無しに、ただ生命を生みだし、それを世に放つと言っているのではない。私にも考えのあっての事だ。

 あくまで生みだした生命達は、一種のゆりかごの中で育てていくつもりだ。それは我々の社会からは切り離された存在であり、このアンジェロの聖域に入ってくる事はできないようになっている。

 我々はあくまで生みだした生命を監視し、今後のアンジェロの平和と安定のために役立てていくのだ。おおよそ800年もの間、何も無かった我々にとっては、これは大きな変革となるだろう。

 そしてこれは我々にとっての新たな使命ともなりうる。我々アンジェロによって生み出された、新たな生命達の監視役、そして、その文明を見守り、育てると言う新たな使命ができるではないか」

 ゼウスは力説した。自分の話している言葉に一点の迷いも間違いも無いと思っている。もちろん、反対意見がでるという事も見とおしている。

「ゼウス。あなたは以前に、我々アンジェロが、神にも似た存在ではないかとおっしゃっていました。確かに我々は、今までの生命が抱えていた、死という最大の壁をも乗り越えてここにいます。

 新たな生命を生みだすと言う事は確かに、神の行いにも似たものと言えるでしょう。我々をより神という存在たらしめるために、そのような行いをされるおつもりですか?」

 ハデスはそのように言ってくる。だがゼウスは、

「我々はこの計画を通じて、アンジェロ達を更なる段階へと押し上げる必要があると言っている。この我々は今の段階では、“ホムルンクス”と呼んでいるが、この生命が与えられた環境に解き放たれたとしても、我々に及ぼす害は無い。彼らは我々を認識する事はできないし、自分達が何者に創造されたという事さえも知らない」

「しかし、わざわざそのような事をする事に、一体何の価値が?」

 そのように尋ねてきたのは、ハデスの妻であるアフロディーテだった。

「価値はある。私が行おうとしている計画は、まさに文明の創造だ。生命を誕生させ、その者達に新世界を委ねようと言うのだ」

「ですが、思いもよらぬ事態に陥る可能性もある」

 そう言ったのは、サトゥルヌスだった。800年前は最高評議院の秘書だった彼が、今ではアンジェロ達の円卓の中で意見をする力を有している。

「その場合は、我々が介入する事ができる準備ができている。ホムルンクス達が生みだしていく文明が滅びそうになった時、我々が力を貸す事によって、その文明を支える事もできる」

「なるほど、確かに神の仕業と言わせるために、ですな」

 ハデスは、あたかも納得したかのようにそう言った。

 その通りだ。ハデスの言う通り、自分達は神になるべく、この計画を進めるのだ。生命を生みだし、それを管理するという行為は、まさに神だからこそなせるべきものだ。そして、自分達にはその資格がある。

 自分を除く11人のアンジェロ達はまだそれを理解していないようだった。だが、彼ら、彼女らもいずれ気が付く時がやってくる。

 自分達は、まさに神たる存在なのだと言う事を。

 それぞれが、まだ不審げにゼウスの方へと顔を向けている中、ゼウスはガイアだけが、不思議な眼をしている事に気がついた。彼女は、賛成とも反対とも取れぬような表情をしてゼウスの方をしかと見つめて来ている。

 そしてそんな彼女に、ゼウスはあたかも全てを見透かされているかのような気がした。

 あたかも、ゼウスがこのような行動を取る事を、ガイアはずっと以前から予期していたかのように。

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 アンジェロ達の新議会で出される決定は、全員が一致した意見を出さなければ、それは施行されない事になっている。

 ゼウスの推し進めている計画も、それを実行させるためには、他の11人の同意が得られなければ実行できないものだった。しかしながら、ゼウスに命令され、ホムルンクスの創造に成功したヘスティアはすでに、ゼウスの考えに同調している。ハデスらはまだ不服が残っているようだった。

 だが時間はじっくりとある。むしろ、反対派が反対の意見を出しているうちに、より洗練された文明を創造する事ができるように、より計画を完全なものにしておく必要があるだろう。

 全員の意見の同意を得られるまでは数年の時を有した。ゼウスはヘスティアと共同で、新たな生命達を生みだす環境をより整える事を約束し、そのための広大な土地も用意した。

 そこにアンジェロの痕跡は一切なく、全くの未開の地に、新たな文明を創造させる計画は進められる。

 

 ある時、ゼウスはガイアを伴って、再びヘスティアの研究所にやってきていた。二人は殺風景な正方形で出来た部屋で彼女を待つ。

 ガイアはまだ幼い娘のような容姿をしているが、彼女にも幾つもの仕事が与えられており、ガイアはそれを立派にこなしていた。お互いの仕事が忙しいせいもあって、ゼウスとガイアは、最近、二人きりで過ごす事が少なくなってしまっていた。

「お父様は、やはり自分達アンジェロを神としたいのですか?」

 実に久しぶりに聞いたような気がする。ガイアの言葉がそれだった。突然に放たれたその言葉は、あまりにも直接的な意味を持っていた。

 どのように答えようか。ゼウスは迷った。ガイアにはどんな者であっても心を見透かされてしまう。正直に答えなければ簡単に嘘は見抜かれる。

 だからゼウスは隠す必要は無かった。

「もうお前も知っているだろうガイア。確かにそれも理由の一つだが、それだけではないという事を」

 ガイアはそこで言葉に一呼吸を置いた。

「それが、我々の使命であると、そう思っていらっしゃるのですか?」

 そのようにゼウスがガイアに言われると、彼は狭い部屋の中で立ち上がった。そして、真っ白な天井を間近に見上げる。

「私はな、ガイアよ。天命などというものは信じない。しかしながら、私は全てのアンジェロ達が眠りについた時に感じたのだ。我々は何かをしなければならない。それは革命的であり、後の世に、アンジェロ達のみならず、他の存在をも押し上げるようなものでなければならないと」

 そのように声高らかにゼウスは言った。

「その一つが、文明と生命の創造であると?」

「その通り、正に神の行いとも言えるほど、革命的なものだとは思わないかね?」

 ゼウスがそう言った時、丁度、部屋の扉が開けられ、その向こう側から台に乗せられた大きな瓶を持ってくるヘスティアの姿があった。

「できました、ゼウス様。これが最終的に洗練された存在になります」

 そのようにヘスティアは言い、瓶の中にある存在を指し示した。その存在はアンジェロの赤子と似た姿をしていた。全く同じと言っても良いだろう。瓶の外へと繋がっている管と繋がっている。

「ガイアよ。これが作られた生命だ。まだこの瓶の外に出ない内は誕生してはいないが、瓶から出せば、すぐに自らの活動を始める。アンジェロほど聡明な存在ではないが、文明を作り出していくには十分だ」

 ガイアはその瓶に触れ、中にいるホムルンクスの赤子の姿を覗きこんだ。

「この存在一つだけで、文明を担っていきますの?」

 金色の目を見開き、ガイアはそのように尋ねる。

「いいえ、お嬢様。すでに12人。私達と同数のホムルンクス達を活動させる準備ができていますの。ご覧になられますか?」

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 小さな部屋を出たゼウスとガイアは、ヘスティアに伴われて、ある大部屋へと案内された。その部屋も大きな殺風景な白さに包まれた部屋となっていた。

 低い音が聞こえ、水が流れている音が聞こえる。その部屋には、ヘスティアが持ってきたような瓶が、他にも11設置されていた。一つだけ空いている位置があり、その場所にヘスティアが持っていった瓶があったという事が伺える。

 11の瓶にはそれぞれ、ホムルンクスの赤子達がいた。

「男女同数。そうそう、ホムルンクスにもきちんと我々のような性別を持たせるようにと、ゼウス様のご命令です。雌雄同体も可能だったのですが、ゼウス様がやめるようにおっしゃったので」

 ヘスティアは言葉をまくし立てる。だが、ホムルンクス達を前にして、ゼウスは堂々たる声で言い放った。

「男女の営みが、文明の発展の為に、大きな役割を果たす。それは我々も知っている通りだ。さて、ヘスティアよ、肝心な事だが、このホムルンクス達の生殖能力は最終的にどのくらいのものとなっている?」

 一つの瓶の中の赤子を覗きながらゼウスは尋ねた。

「問題ありませんわ。その昔のアンジェロ達が持っていた生殖能力に匹敵どころか、それを凌駕するほどの能力を持っています。この者達を、整えられた環境へと投じれば、あっという間に産み増えていく事になりますわよ」

 ヘスティアは何かを秘めているかのような、不敵な笑みを見せながらそのように答えた。

「ヘスティアよ。計画はいつごろ始動できそうだ?」

 ゼウスはそのように尋ねた。

「議会の承認が得られれば、いつでも始動できます」

 その答えにゼウスは満足した。

「そうか、ならばそれほど遠い未来ではないな」

 

 アンジェロ達が、まだ永遠の生命という概念を持つ前までは、数年という時はかけがえのないものであり、数年を無駄に過ごしてしまえば、それは人生にとって大きな損失になると考えられていた。

 しかしアンジェロ達が永遠の命を手に入れてからと言うもの、彼らは数年程度の時間の損失を気にしなくなった。残された時間と言うものは永遠にあり、その数年程度がかけた所で問題は無かった。

 ほとんどのアンジェロ達が眠りについた後のアンジェロ達も同じだった。彼らは悠久の時を安息のままに生きていく事ができる。

 ゼウスもその一人ではあった。だが、彼は別の理由で数年という時を過ごしていった。

 彼は新生アンジェロの12人の議会の承認が降りる、つまりは彼ら全員が、新たな文明をホムルンクス達に創造させるという事に同意するまで、独自の計画を進めていた。

 確かにゼウスはホムルンクス達に新たな文明を創造させる。しかしながらそれは、やはり自己の利益のためでもある。

 ゼウスは、ホムルンクス達の活動を全て記録しておくことに決めていた。彼らがどのように活動し、どのような意志を持ち、文明を営んでいくのか。ゼウスは長期に渡ってそれを記録し続けるための設備を整えた。

 そして、ほぼ全てのアンジェロ達が眠りについてから、2千年以上もの時が経とうとしていた時、ゼウス達はついに計画を実行に移す時がやってきた。

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 ホムルンクス達は、解き放たれてから1万年程度の時間で、自らの言語というものを持つようになった。それはアンジェロ達も知らぬ、未知の言語であったが、ホムルンクス達はその言葉で会話を行い、アンジェロ達も彼らに合わせ、その言語を解読した。

 ホムルンクス達は、言わば箱庭とも言えるほどの環境で、他にもヘスティアが制作した生命、それらは言語も持たない知的な生命体でしかなかったが、それらと共に生活を営んでいた。

 最初はその小さな箱庭だけでホムルンクス達は暮らしていたが、やがて彼らが産み増え、活動も活発になると、その箱庭の規模を広げてやらなければならなくなった。

 元はアンジェロが住んでいた土地さえも明け渡し、しかしアンジェロ達はホムルンクス達にその存在を知られないままに、彼らを見守り続けた。

 ゼウスの監視のための設備は万全だった。ホムルンクス達はアンジェロという存在を知らないままに、ただ、自分達の生命の営みを続けていくだけだった。それが、どのような目的で作りだされたかと言う事も知らず、彼らも知らされないままだった。

 ホムルンクス達の生命はアンジェロとは違って有限であり、その長さも長くて100年程度のものしかない。しかしながら彼らにとってはその有限の生命こそがすべてであり、その命の炎が燃え盛っている間に、可能な限りの活動をした。

 それこそ時には、過剰なまでの活動をする時さえあった。

 ゼウス達が見込んでいたように、ホムルンクス同士でもその人口が増えてくると、争いが起こるようになった。ホムルンクス達も産み増えていき、その人数が多くなっていくにつれ、種族間に大きな相違というものが生まれるようになってきた。

 そして、彼らはやはり争いというものを続けるようになった。

 彼らは自らの土地を守るため、また、他者の土地を奪うためにも争いを続けた。それは生命と言うものがある限り、必ず起こるものとしてゼウス達の許容範囲の中にあったが、その争いが戦争というものになると、ゼウスもその行動を取らなければならない事を悟った。

 

 流れている川のようなものがある。水面のように揺らぎ、透明度をもったものが空間に現れているが、それは水ではなく、また水の流れでもない。

 ゼウス達はそこに流れてくる像を見つめていた。像はホムルンクス達の活動を示しているものであり、彼らの有りのままの姿をそこに映し出していた。

 今では数百万以上にまで増えたホムルンクス達の数は、眠りについているアンジェロの数を凌ごうかというほどの多さだった。

 彼らはアンジェロが与えた土地を我がもののように支配し、その勢力を広げていた。彼らは自らが与えられた存在であるという事さえも知らずに、更に、自らの神をも打ちたてた。

 その神とは、ゼウス達とはまた似ても似つかないような姿をした存在だった。

「これが、神とは、ホムルンクス共の傲慢ぶりもなかなかのもののようだ」

 皮肉めいた声でそう言ったのはハデスだった。最高評議会の席につき、自分の目の前に流れてくる画面を憮然とした態度で見つめていた。

 ホムルンクス達は神という存在を絶対化していた。それに逆らう者は、同族であろうと容赦なく処刑をし、神の存在は彼らの間では絶対的なものであった。ホムルンクス達の神とは、まさに彼ら自身を生みだした存在、そして支配している存在なのだという。

「ホムルンクス達のいう神が、自分達を創造した存在であると言うのならば、それはわたし達アンジェロそのもの。それを自分達のものとしてしまうという事は、何とも傲慢な態度と言えますわ」

 そう言ったのは、ハデスの妻であるアフロディーテだった。

 アンジェロ達が見ている目の前で、ホムルンクス達は自らの神を崇め、その神のために殺戮を繰り広げていた。

 その勢いは留まる事を知らず、次々とアンジェロ達が与えた箱庭の各地へと広がっていってしまう。それはあたかも病気であるかのように深刻化し、彼らの世界に根強く浸透していた。

 流れていくアンジェロの見るホムルンクス達の映像。ゼウスはそれを尻目に、集った12人の使者達に向かって言い放った。

「今日、皆に集まってもらったのは他でもない。その理由は分かっていると思う」

すでに1万年以上、この大業を続けているゼウスは、圧倒的な貫禄を持ち、アンジェロ達の実質的な長として君臨している。

 それはもはや、アンジェロの他の者達が、ゼウスに対して意見をする事ができないほどだった。

「この傲慢たるホムルンクス達をいかに処遇するか、ですか?」

 尋ねたのはガイアだった。彼女も誕生してから1万年というもの、その子供の様な外見を保ち続けている。圧倒的なまでの貫禄を持つゼウスとは違い、ガイアには一点の汚れも無い、不可侵領域を作り出しているだけの、また違った不気味さがあった。

「その通り。私はこの、道を誤り始めているホムルンクス達を粛清しなければならないと思っている」

 そのゼウスの声は、やはり1万年以上も使われている、アンジェロの最高評議会の円卓に響き渡る。

「粛清?そのような事をせずとも、このままでは彼らは自滅するだけだ」

 ハデスがそのように言うが、

「ホムルンクス達の生命力は侮ってはならない。ヘスティアによれば、彼らはその種の大半が失われたとしても、再び産み増え、先人の知恵を使い、より高度な文明を発達させると」

 サトゥルヌスがそう言った。タルタロスに仕えていた時は、一秘書でしかなかった彼だったが、今では議員達と対等に議論をする事ができる立場にあった。

「それではならんのだ」

 ゼウスの声が轟いだ。いつしか彼の放つ言葉は大きなものとなり、誰にでも通じるかのような説得力さえ持っている。

「ホムルンクス達が、これから生み出そうとしているより高度な文明は、我々が望んでいるものではない。彼らは我々の手を離れ、より危険な道へと足を踏み入れていく事になるだろう。それではならんのだ」

 ゼウスはそのように言い、拳を円卓の上へと振り下ろす。その円卓の前に展開している像には、ゼウス達自身が与えた大地を、我が物顔で踏みしめているホムルンクス達の姿がある。

 彼らはアンジェロによって作られた存在でしかない。それだというのに、彼ら同士での横暴や争いは続いていた。

「この日のために、我々は最初から準備をしてあった」

 ゼウスの放ったその言葉。それが何を意味しているかは、円卓を取り囲んでいる者達ならば理解できた。

「まさか、ゼウス。幾ら何でも時期尚早ではありませんか?」

 ハデスはそのように言ってくる。しかし、

「我々は十分に待った。ホムルンクス達に改心の機会を与え続けてきた。だがそれも、もはや彼らには通じない。彼らは神を真に敬う事をとうに止めている。そして、すでに彼ら自身も道を見失っている。

 これは、我々が望んだ世界ではない。我々が望んだ世界は更に崇高なものであり、このホムルンクス達には任せる事ができない」

 ゼウスは声高らかにそのように言うのだった。

「しかしゼウス。そこまでしなくても、ホムルンクス達を改心させる事はできるはず。例えば、我々が出ていけば」

 そのように言いかけるアンジェロの姿があったが、

「ならん!彼らは我々を神とは思っていない。自分達が作り上げた、虚像をただ神と言っているだけに過ぎんのだ」

 もはや自分自身の事さえも神と呼んでいる自分に、ゼウスはすでに気が付いていた。だからどうだというのだ。

 ホムルンクス達は自分達、アンジェロが創造した生命で、自分達が与えた環境で暮らしている。箱庭に収まっているだけの家畜に過ぎない。

 その家畜が、まやかしの主人を崇め、横暴なほどに与えた環境を踏みにじりだしている。ゼウスはホムルンクス達に怒りさえ感じていた。

 流れる像には、横暴なホムルンクスが、あたかも自分自身がその世界の神と言わんばかりの堂々たる姿を見せていた。彼らは堕落し、アンジェロ達に尊敬の念を抱いていない事も明らかだった。

「しかしゼウス。我々アンジェロにも似たような時期がありました。その時、我々は自分達の創造主を崇めたでしょうか?自分達の暮らす世界において、自粛する事ができたでしょうか?」

 サトゥルヌスが言った。彼の意見は事実に基づいたものだ。だが、ゼウスは彼に向かって言い放った。

「我々アンジェロは、何者にも求められていない。しかしこのホムルンクス達を創造した事には、確かな目的があった。

 そして今、ホムルンクス達の行動は我らの目的から大きく外れるものとなっている。となっては、創造主である我々は決断を下さなければならない。より高度な生命を作るため、ここでホムルンクス達を滅びさせるか否かという事を」

 ゼウスはそのように言い放つ。しかしそこへ、

「我々の、ですと?それはあなただけのホムルンクスなのでは?」

 彼の言葉にゼウスは反応した。

「何だと、ハデスよ。お前も、ホムルンクス計画については賛同したはずだ。だからこそ、彼らの計画は動き出した」

「もう1万年近くも前になりますよ」

 1万年。その時の流れは非常に重きものであるかのように思える。しかしながら、ゼウスはすでに決意を決めてあった。

 もし、これだけの時を経ても、ホムルンクス達が自分達の思いの通りに動かなかった場合、どのようにすべきか。

 その制裁の方法についても、計画の中にはしっかりと潜ませてある。アンジェロ達はそれを踏まえた上で、計画に賛同したのだ。

 すでにホムルンクス達の行動は計画より大きくそれている。ならばしなければならない制裁は決まっていた。

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 ホムルンクス達の終決のきっかけを引いたのもやはりゼウスだった。

 彼らは我が物顔でアンジェロ達が与えた土地を暮らし、開拓を続けていたが、やはり箱庭で暮らしているだけのものでしかない。その繁栄は1万年よりも短い時間で閉じてしまった。

 ヘスティアが生みだした命達は、ゼウスの決断によって全てが滅んだ。彼らは絶滅し、アンジェロの作った揺り籠とも言うべき箱庭から姿を消した。

 後には何も残らなかった。ホムルンクス達が作った栄華の象徴は残されたが、彼らという存在がいないだけで、急激に色褪せてしまったかのように思える。

 ホムルンクス達も、まるでアンジェロ達を真似るかのように、建物を建て、開拓を続けていたのだ。

 ゼウスは彼らを滅ぼした後でホムルンクス達の街を訪れ、それを感じていた。

 しかし、絶滅した彼らの事を思っても、ゼウスは間違ったとは思っていない。彼らは滅べるべくして滅んだのだと、彼は自分に言い聞かせていた。

 ホムルンクス達の街を見て回る行動には、ガイアも共についてきた。この計画には彼女も長きに渡って付き合って来たのだ。

 ゼウスとガイアは、ホムルンクス達の街の中の一つの広場にきていた。ここにはつい先ほどまで、彼らの存在が息づいていた。その気配さえもまだ残っているほどだった。だが、今ではそれらは全て消え去ってしまった。

 まだ漂っている、そして匂っている彼らの気配もいずれは消え去っていく事だろう。

 これらの匂いは消し去らなければならない。それも跡かたも無いほどまでに完璧に、消え去らなければならない。

 ゼウスはそれを分かっていた。

 誰もいなくなってしまった広場で、ゼウスとガイアは向き合っていた。

「この町のこの広場には子供たちがいました」

 ガイアが突然に言って来た。その大きな金色の瞳からは真意を伺う事ができない。

「ああ、いた」

 ゼウスも何の感情も篭めないような声でそのように言った。

「私も、見ている事が大好きな子供たちでした」

 ガイアは多分それを本心で言ったのだろう。それが父親のした行いに対しての敵意なのか、皮肉なのかは分からなかった。

「だが、ホムルンクス達が他にもしていた事を知っているだろう?彼らは我々という存在を、自らの命を愚弄した。だからこそ、全てを抹消した」

 ゼウスは静かにそのように言った。

「お父様が全てを消去するとなると、それは痛みを伴うものですか?ホムルンクス達は苦しんでこの世界から消えてしまった?」

 ガイアは子供のように無垢な瞳でゼウスに言って来た。それに対しての説明はすでにアンジェロ達全員にしたはずだ。

「いいや、彼らはまるで眠るようにして意識を失い、無の彼方に消えていった。子供も大人も、苦しむことなく等しく平等に消え去っていったよ。一人残らずだ」

 そうだ。その最後の決断は自分がした。彼ら全てを抹消したのだ。

 ふと、ゼウスはある事を思い出していた。それは時の彼方にすでに忘れ去ってしまった事だったはずだ。

 だが、ゼウスの記憶は覚えていた。それは確かに、はっきりと彼の中に記憶として残っていた。

 彼女が唯一愛していた女性、ヘラが消え去ってしまった時の事だ。彼女が消え去ってしまった時も、跡かたも無くなるかのように、黒い空間へと呑み込まれた。彼女をこの世から消去した憎き男の名も覚えている。彼もゼウスが同じようにして、跡かたも無く消し去ってしまった。

 ヘラがこの世から消えてしまったかのように、ゼウスはホムルンクス達をこの世から消した。

 ゼウスはそれを自分が必要だからそうしたものだと言い聞かせる。ヘラの時は悲劇が起こったものであって、ホムルンクス達はそうではない。そう言い聞かせなければ、ヘラが消えた時の感情が、自分の奥底から負の力として溢れてきてしまうかのようだった。

「お父様?どうかされましたか?」

 まるで胸を締め付けられているような思いをゼウスがしていると、ガイアは心配し、顔を覗きこんでくる。

 自分が何を感じているのか、それはガイアも自分の力を使えば心を読む事ができるはずだ。

 彼女は何かを理解したように、父親の大きな手のひらに自分のガラスの様な繊細な手のひらが重なる。それはほのかに暖かい熱を持っているようだった。

「お父様、心配はありません。お母様の事で自分を責められる事はありません」

ガイアは自分の心の中を読んだのか、優しい声で言って来た。ゼウスは今まで自分の娘がこんなに優しい声をしているとは思った事が無かった。

 その声は誰かに似ているような気がした。そうだ。もう遠い過去にその声と安らぎを忘れてしまった相手、ヘラに声が似ている様な気がした。だが今までゼウスはヘラにガイアの声が似ていると気付いた事は無かった。

 ふと、ゼウスは奇妙な陶酔感を感じている事に気がついた。これが何者であるか気が付くと、ゼウスはその場から立ち上がった。

「ガイア。余計な事はせんでいい。私にはそのようなものは不要だ」

 とゼウスが言うと、きょとんとした表情でガイアは向いてきていた。

 これはガイアの力だ。相手の思考の中に干渉することによって、幾らでも幻覚を見せる事ができる。自分の声を母親のものにするなど造作も無い事だ。ガイアは自分を気遣ってそうしてくれたのだろう。

「申し訳ございませんでした」

 少しあっけにとられたかのような顔でガイアは言った。だがゼウスは、

「いや良いのだ。だが、そのような幻覚に騙されるとは、私もまだまだ甘いという事かもしれんな」

 そしてゼウスは歩きだした。いつまでもこの場所にいるわけにはいかない。自分達には確かな使命がある。その使命の為にはまだ動き、決断を下していかなければならない。

「私もまだまだ甘い。このホムルンクス達の計画が失敗したのは、その甘さのせいだ」

 はっきりとした口調でゼウスは言った。自分自身でも確固たる自信と共にそのように思っている。過去の過ちをゼウスははっきりと認めていた。

「では、計画は続けられるのですね?」

 ガイアの問い。その問いに対しては答えるまでもない。

「もちろんだ。計画は続行する。今度はもっと、ホムルンクスよりも洗練された存在を作り出す必要があり、さらに高度な文明を生みだす必要がある。

 ゼウスは確固たる自信と共にそのように言っていた。

 そうだ。この1万年以上もの時は、まだ計画の序章でしか無いのだ。これらの出来事が活かされ、さらに高度なものになってこそ、自分達の計画はより洗練されたものとなっていく。

 しかし気の長い話だ。もはやゼウス達にとっては、数万年と言う時が、ひと時でしかないように思えてきている。

 一つの計画が動き出し、そしてそれが終決するまでの時間。それだけの時間としか思っていない。

 だが、だからこそ、この与えられてきた永遠とも言える時を活かし、より崇高な目的の為に動いていく。

 ゼウスはそのように決意していた。

-7ページ-

 神々の永遠とも言える行いは、その後、正確に3回行われてきた。ホムルンクス達の計画も合わせると、4回目の行いが行われようとしていた。

 より洗練され、高度に発達した言葉を持つ生命達が作られ、そして、その文明は営まれていった。

 しかしながら、その文明が神々を満足させる事は無かった。だからこそ、神々は常に制裁を加えてきた。

 この4回目の文明であっても、神々を満足させる事はない。

 神々を満足させるような文明は永遠に現れない。彼らがどんなに洗練された生命を生みだしてこようとしても、満足させる様な文明など生まれるはずもないのだ。

 それを神々もすでに気づいてきていた。しかしながら、彼らは一つの行い、文明を創造し、それを意図的に操るという事に、すでに新たな価値を見いだしていた。

 そして満足がいかなければ、いつでもそれを滅びさせる事ができる準備もできていた。

 強大な力を持つ神々に対抗する事ができる手段は、ほぼ無いと言われていた。

 そして文明に神々が介入し始めた時、その破滅は始まりを告げるのである。

 

説明
少女の航跡の秘められたストーリー。ガイアの覚醒、アンジェロ族の眠り、そしてそこから始まる物語など、壮大なスケールとなりました。
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