Destiny/Domhan Eagsula(デスティニー/ドムハン エアグスラ)  第12話    真実と道
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「う……う〜ん」

「気が付きましたか」

 

恵生は気づくと既に森ではなく町にいて、恵生はセラフィムの肩に抱えられていた。

 

「セラ…フィム」

「なんでしょうか?」

「なんであなたが…」

「エミ、覚えてないの? セイバーが言ってたこと…」

「ゼロが……」

 

恵生は思いだす。セラフィムは賢蔵の死を機に自分達の所に向かっていると告げられたことを……。

 

「そう言えばそうだったわね…」

「あのクソ虫は好かなかったのであの気持ち悪い神父には感謝していますよ」

「それで裏影さんは…」

「分かりません。ただあの状態では長くないかもしれません」

「それって…どういう……」

「今は休んでいてください。このまま家へ運びますから……」

「そう……」

 

恵生は気を失う。

 

「それでアサシンはどうするの?」

「出来れば恵生と契約をしたいのですが、今の彼女の状態では難しいですね」

「それだったら僕としようか?」

「それは遠慮しておきます」

 

こうしてセラフィムとフィリーは恵生を連れて恵生の家へと戻っていった。

 

 

 

 

第12話    真実と道

 

 

 

 

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「う……う〜ん」

 

恵生がまた目を覚ます。

そこは自分の家の居間の天井が見えた。

 

「ここは……」

「お前の家だぞ」

 

彬渡の声が聞こえてきた。

 

「あ……」

 

恵生が横を見てみた。そこには彬渡にフィリー、セラフィムにジュディスもいた。

 

「どうやら大丈夫のようね」

「セラフィムにジュディス……フィリー…小坂!」

 

恵生は起き上がる。

 

「小坂、あんた体はもういいの?」

「ああ、終死郎にきっちり埋められたからな」

「埋められたとは?」

「言葉通りの意味だ。あの野郎、ご丁寧に頭だけを地上に出して後は地面に埋めたんだぞ。砂風呂状態…いやそれ以上にひどかったな」

「それは大変だったわね」

「さすがあの神父」

「しかし八子空、俺の復活を待ってても良かったんじゃないのか? いくら終死郎と一緒に行ったって……」

「そんなに待ってたら、右策の自我とかフィリーが殺されるとか……」

「それなら問題なかったかな。

ケンゾウはウサクの自我がなくなるまでは僕にも手を出す気はなかったみたいだよ」

「そうですね。賢蔵の話では右策の自我はまだ1日2日は持ってだろうと話していました」

「ほら」

「けど逆を言えばもう時間がないと言うことね」

「そう言うことになるかな…」

「……………」

 

恵生は少しふらつく。

 

「恵生、大丈夫ですか?」

「大丈夫、それよりセラフィム」

「何でしょう?」

「セラフィムはこのまま契約者がいないと……」

「消えます。私はアーチャーほどではないですが、単独行動のスキルを持っています。

ですが、今の私では一日が限界……」

「………それじゃあ契約する?」

「え?」

「エミ! それはダメ!」

「なんでだ? 別にアーチャーの腕になっただけなら問題ないだろ」

 

彬渡は恵生がイカロスの腕を使ったことを知らないのだ。

 

「う……」

「それにさ、アーチャーの魔力もアサシンに供給すれば少しは八子空の負担も軽くなるんじゃないのか?」

「その発想はなかった…」

「物は試しです。私と契約を……」

「でも契約ってどうすればいいの? 私、ゼロと契約した方法分からないんだけど……」

「それだったら俺が契約呪文を……いやダメだな。俺の契約呪文じゃ俺が契約者になっちまう」

「それはお断りです」

「断れちまった」

「う〜ん…」

 

恵生がそれとなくセラフィムの手を握る。

すると恵生がゼロを使役していた時の令呪が復活する。

 

「これは……」

「契約は成立したようです。あなたの魔力が私の中に入っていくのが確認できました」

「嘘!」

「アサシンの言っていることは本当みたいよ。さっきよりも力に満ち溢れているわ」

「あれだけで契約できるなんて」

「きっとエミは契約したいと思った時にマスターのいないサーヴァントに触れると契約できる体質なんだろうね。

セイバーの時は何かの拍子があったんだろうね」

「ありがとうございます、恵生」

 

セラフィムは恵生に感謝する。

 

「……恵生?」

「どうしたの?」

「ちょっと突然気になることがあったんだけど…」

 

恵生がフィリーの方を見る。

 

「裏影さんが言ってたんだけど、大聖杯って奴に何かがいるって言ってて、それを聞きたければフィリーに聞けって…」

「そうだね。いい加減教えておいた方がいいかもしれないね」

 

フィリーは間をもって話そうとするが……。

 

「その前に晩御飯にしない? お腹がすいてきた」

「そうだな。話は飯を食った後でもいいだろう」

 

そして五人で晩御飯を食べるのであった。

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五人は晩御飯を食べ終える。

 

「それじゃあ改めて話をするけど、話は二つある。

エミとリントに関係のない話と関係のある話。

まずは関係のない話をしてからじゃないと辻褄が合わないからそっちから説明するね」

 

フィリーは説明を始めた。

 

「始まりは二百年前。まあ聖杯を求める行動自体はずっと前からだけど、この鋼呂での儀式となると二百年前になる。

『聖杯』、あらゆる願いの願望機でその完成のために、アンベルツインとマウラー、小坂は協力して聖杯を召喚する儀式を行った。

それは聖杯戦争の始まり。七人の英霊を召喚して、聖杯の所有権を定める殺し合いを、聖杯によってマスターに選ばれた魔術師は英霊の依り代となって最後の一人になるまで殺しあう。

それがエミやリントが知ってる聖杯戦争の表向きの決まり事」

「表向き?」

 

恵生は驚きを見せるが彬渡は見せない。

 

「驚かないんだね、リント。薄々感付いていたの?」

「それなりにだけどな…。誰かに利用されてるののは気付いたけど、あんまり気にしなかった。こっちもなんやかんやで利用してるしな」

「ふぅ〜ん、じゃあ順序が逆って分かってたってことかな? エミは? サーヴァント同士の戦い自体が余分な過程だったってことに気付いていた?」

「なんとなく…、分かってるようで分かってないのが本音」

「つまり、聖杯戦争にとって必要なのは私達英霊だけで…」

「主…、マスターは英霊を呼び寄せるためだけの道具と言うことですね?」

 

恵生に代わってジュディスとセラフィムが答える。

 

「そう。聖杯戦争という儀式において、マスターはサーヴァントをこの世に呼び出す受容体(レセプター)にすぎない。

サーヴァントを召喚してくれれば、後はいつ死んでもらっても構わない存在。だって聖杯完成に必要なのは英霊だけなんだから……。

様々な作品のキャラクターでありながら、この世に干渉できる力を持つ存在、それが英霊の本質だとされている。

彼らはその力を欲し、必要とした。その力を以って、外界に出ようとした。それがこの土地に作られた聖杯の本当の目的。人の手では届かぬ奇跡、未だ人間のものではない現象を手に入れるため、この地における聖杯戦争は行われてきた。

それは僕達、アンベルツインから失われたとされる神秘であり、真の不老不死を実現させる大儀礼。

この世から失われようとする『魂』を物質化する神の業。その奇跡の名前は『天の杯(ヘブンズフィール)』。現存する五大魔法のうちの一つで、三番目に位置する黄金の杯のこと」

「ま、魔法!?」

 

このことには彬渡も驚きを隠せなかった。

 

「第三魔法って魂の物質化なのか!? だったらサーヴァントだって……」

「それは違う。確かに英霊召喚の基盤は第三魔法の一部だけど、英霊はあくまで降霊。

サーヴァントはこの世界の存在として生きてるわけじゃない。それは第三魔法からしたら不完全で、英霊は魔法力無しで依り代さえあれば実体化できる。

『天の杯』は魂を読み上げて複製体を作る業じゃない。それは精神体でありながら単体で物質界に干渉できる、高次元の存在を作る業。

魂そのものを生き物にして、生命体として次の段階に向かうものを言うんだ」

「…次の段階は確かにとんでもないが、それが聖杯とどう関係があるんだ?

と言うか、魔法の発動には土地にも条件が必要だろ。日本だと発動できるのは一つしかない。

けれどここは根源に繋がるほど歪んでないんじゃ…」

「うん、届くほど歪んでない。だから穴を開ける。壁が邪魔してるなら壁を壊すしかないでしょ?」

「その壁を壊す行為が聖杯戦争なのね」

「そう。その過程で『どんな願いでも叶えられるぐらいの魔力』が溜まるけど、アンベルツインにとってそれは二次的なもの、もしくはマスターを呼び寄せるための宣伝しかなかった。

アンベルツインが欲しかったのは、魔導協会の目につかず、大量の魔力を貯蔵できる巨大な魔法陣だけ。

時の小坂の当主は彼らに協力。アンベルツインにとっては、鋼呂の町は必要条件を満たした完璧に近い実験場だった。

後はもう判るでしょ。聖杯は二つあって、この土地に眠る聖杯と、アンベルツインが用意する聖杯。

前者が小坂の管理地を使った魔法陣。これを大聖杯と呼んで、アンベルツインが毎回鍵として用意するものを聖杯と呼ぶ」

「裏影さんが大聖杯と小聖杯と言ったのはそういうことだったんだ……」

 

恵生はそれでなんとなく理解し始めた。

 

「大聖杯は聖杯戦争のシステムを管理するもので、聖杯は破れていった英霊の魂を回収して大聖杯を動かすための炉心になる。

そうして、大聖杯起動に必要な分の魂が聖杯に溜まった時に、英霊の魂を利用して穴を開ける。

役目を終えた英霊が元の場所に戻ろうとする瞬間にわずかに開いた穴を大聖杯の力で固定して根源への道を開く。

とは言ってもこれは初めの一歩。穴を開けたところで望みのものは手に入らないし、根源への道は遠すぎる。

まあそれでも聖杯を手にしたものは無尽蔵の魔力を手に入れられる。外側にはまだ誰も使ってない、地上とは比べ物にならない大量の魔力が散布されてるからね。

普通の魔術師なら、それだけでも充分『奇跡』と呼べる成果だと思うんだけどね」

「聖杯戦争が五十年周期なのは、英霊を召喚するための魔力を溜めるためか」

「そういうこと。そして英霊を召喚してサーヴァントにする。

アンベルツインは元から英霊の魂だけが欲しくて、英霊の霊格とかはどうでもよくて、ただ強大な魂が欲しかっただけ」

「それを隠すために聖杯戦争を考え……」

「サーヴァントとマスターを騙して殺し合いをさせていたと言うことね」

「サーヴァントである我々にとってははた迷惑な話ですね」

「ま、そうなったのは二回目かららしいよ。

一回目は馬鹿正直に英霊を召喚して、小坂とマウラーとアンベルツインで独占権の取り合いになって失敗したんだと。

だから今のルールは二回目から出来た。外来の魔術師を呼び寄せて、聖杯を目的として殺し合わせる。

三家にとっては自分達以外のマスターなんて、サーヴァントさえ呼んでしまえば邪魔なだけだし、戦いの中で死んでもらった方が効率がいい。それで合法的に始末できるから都合がよかった」

 

そのことを聞いて彬渡はため息をつく。

 

「じゃあなにか、マスター同士殺しあうルールは、所有権が話し合いで決められなかったから力ずくで決めようとしたことの末路ってことか?」

「そうだね。でも、思いのほかその選定方法が合ってたんだ。

今のリントと同じだよ」

「俺と同じ?」

「騙されてると気づくサーヴァントやマスターもいたみたいだけど、そんなのどうでもよかったみたい。勝ち残れば結果として聖杯は手に入るからね」

 

恵生はその話を聞いてもやはり気になるのは右策のことであった。

 

「フィリー、確かにこれは私達にとっては関係のない話ね。

それより、早く関係のある話をして」

「そうだね」

「さっきも言ったけど、裏影さんはあの大聖杯の中に何かいるって言ってたけど…」

 

フィリーはそのことを聞いて一瞬驚いたがすぐに納得した顔を見せる。

 

「そっか、ウラカゲなら知っているな。

あいつもウサクと同じ、復讐者(アヴェンジャー)に汚染された魔術師。聖杯の中にいるものがなんなのか8年前から知ってたんだ」

「終死郎が右策と同じ?」

「うん、ここからが二人に関係のある話」

「それは少し違うわね」

「私達二人にも関係あると思いますが…」

 

ジュディスとセラフィムが話に入って来る。

 

「ここまで話を聞いた以上、確かにライダーもアサシンにも関係あるね。自分達のマスターに関係ある以上、そのサーヴァントも無関係じゃない。

それじゃ話すよ。ケンゾウが手に入れようとしたもの、ウサクを変貌させてるもの。聖杯の中に潜んで、無色の力の英霊達の魔力を汚染しているもの。

そいつのクラス名が復讐者(アヴェンジャー)。聖杯の力で『生命』として形を得ようとしている、第三魔法の成功例になりつつある英霊」

「復讐者(アヴェンジャー)?」

「聖杯戦争におけるサーヴァントのクラスにそんなのがいるなんて聞いたことないわね」

「ライダーの言う通りです。私もセイバー、アーチャー、ライダー、ランサー、アサシン、キャスター、バーサーカーの七人としか……」

「復讐者は完全なイレギュラー的存在だから無理ないか。

事の発端は三回目の聖杯戦争の時。

一度目は失敗、二度目は序盤で敗れ去ったアンベルツインは追い詰められて、ただ殺すだけに特化した英霊を召喚した。

アンベルツインは古い経典を手にして、異国の伝承を触媒として、手の内にある中で最悪の魔を呼び出した。

他のマスター達を皆殺しにして、問答無用で大聖杯を起動させて成果を独り占めするために呼んではならない存在を呼び寄せてしまった。

その英霊の名前がアンリマユ。世界最多とも言える、あらゆる呪いを体現した殺戮の反英雄」

「アンリマユ……って拝火教の悪魔の名前よね?

でもそれって……」

 

恵生がジュディスやセラフィムの方を見る。

聖杯戦争の英霊は何かの物語や作品に出てくるキャラクターを呼び出されたもの。

アンリマユとなるとそんなものはないはずだと思っているのだ。

 

「エミは違和感あるようだけど、アンリマユにも書かれた物語があるから問題ないよ」

 

そしてフィリーは語る。

遥か昔、ある村落の住人達は本気で世界中の人間の平和を望み、世界の悪性をすべてをある一人の青年にすべてを押し付けてその青年を『この世全ての悪(アンリマユ)』とした。

そしてその青年はアンリマユとして忌み嫌われる対象でありながら人々を救ったとして反英雄となった。

だがその青年は何の取り得もなかった。普通の人間なのだから…。

 

「復讐者(アヴェンジャー)…アンリマユの話は判ったが、どうしてそいつが聖杯の中にいるんだ?

そいつ、ただの人間なんだろ? いくら悪魔の名前になったからって能力は人間と変わらないんじゃ…」

「そうだね。アンリマユはただの人間を無理矢理英霊にした存在。だから本当は何の問題も起きなかったはずなんだけど……」

「問題が起きたのね」

「三度目の戦いでアンベルツインはほぼルール違反をする形でアンリマユを呼び出した。

けどその英霊はすごく弱くて、序盤で破れて、いち早く聖杯に取り込まれた。

その時のアンベルツインのマスター嘆いた。普通の人間と全く変わらない奴のどこが人の世を滅ぼす悪魔なのかとね。

事実、その英霊はただの人間だった。ただこの世を恨んでいただけの人間。ただこの世の悪であれと望まれた人間。

もとから何の力も無く、周りの人間の思いだけで構成された、在り得ない筈のもの。それが聖杯に取り込まれた時、全てが逆転してしまった。

聖杯は人の望みを叶える願望機。

サーヴァントは敗れた後、方向性のない魔力として聖杯に戻って、そのまま解放の時を待つ。英霊としての人格もなくなった彼らは、万能の力として聖杯に溜まるだけ。

けどアンリマユだけは違った。彼は自分ではなく周りが願って創り上げた英雄。人格がなくても、アンリマユである以上、悪であれと望まれた存在だった」

「人間の望みを叶える……もしや!?」

「そう。聖杯はあらゆる願いを叶える杯。

アンリマユが聖杯に取り込まれた瞬間、聖杯は一つの願いを受諾してしまった。

本来在り得ない存在。身勝手な願望だけで捏造された英霊は、人々の願いを叶える聖杯の中において、ようやく人々が望んだ姿で生まれることになった。

それがあの影の本体、英霊としてようやく形を得ようとするものの正体。

アンリマユはサーヴァント達の無色の魔力(たましい)を糧に、自分の霊殻である『この世全ての悪』を体現しまった。

ただ悪であれ、と。六十億の人間全てを呪う、六十億の人間全てを呪える宝具(のうりょく)を備えたサーヴァントして、少しずつ育っていった」

「随分ひどい話ね」

「はい、色んな意味で胸糞悪いです」

 

嫌悪感を抱くサーヴァント二人。

 

「つまり、聖杯の中身はそいつに占拠…いや、聖杯が叶える『望み』はもう決まってて、8年前にあった四回目の戦いはそいつのための魔力補充だったってことか?」

「うん。ダンは聖杯の外に出ようとした『黒い影』を危険視して、聖杯を破壊した」

「………」

「けどそれは正しかった。聖杯によって受肉するアンリマユは『この世全ての悪』として、命ある限り人間を殺しつくす魔王になる」

「今のキャスターなんか比じゃないわね」

「けど、そのアンリマユはダンの英断で出産には至らず、大聖杯の中に残った。

その一部を受けたものがウラカゲとウサク。

ウラカゲの場合は当時ウラカゲが使役していたサーヴァントがその大聖杯の黒い泥に飲まれたんだけど、完全汚染が出来ず、同じように飲まれてダンに心臓を破壊されたウラカゲと融合した。

そしてウラカゲはごく一部、そのサーヴァントの能力が使え、心臓が汚染された聖杯によって作られたものとして蘇生した」

「あの時…」

 

セラフィムは終死郎が自分に言ったことを思い出す。

 

「あの神父の言ってたことはそういうことだったのですね」

「アサシン、あなた知ってたの?」

「賢蔵を殺した後にあの神父は私にそれらしいことを言っていましたが、私としては確証はありませんでした……」

「ケンゾウは聖杯の中にいるのが受肉しかけたサーヴァントだって気付いたんだろうね。

だからその肉片をウサクに植え付けて、聖杯の中にいるサーヴァントとリンクさせた。

そのサーヴァントが外に出てきた時、それを従えられるようにするために……」

「でもその賢蔵はもう死んだのよね?」

「アサシンの話の通りだとね。でも僕はまだ死んでない気がするんだよね」

「あの虫がまだ死んでいない?」

「うん。まあこれは確証の話だけどね。アサシンの令呪の縛りがなくなったのを考えると普通は死んだと考えてもおかしくないからね」

「……そう言えばあの虫はキャスターに別の場所に向かえと言っていました」

「キャスターの行った場所って分かる?」

「私にもきちんと言っていませんが、どこに行ったかは予想できてます。

大聖杯のところに行ったのでしょう」

「大聖杯の?」

「となると、やっぱりケンゾウは自分が殺された時のことを考えてキャスターを向かわせたってことだね」

「それで大聖杯の場所って分かる? 裏影さんは小坂かフィリーに聞けって…」

「大聖杯は桐生神社の地下に広がる大空洞にあるよ。二百年前からずっとね……」

「桐生神社って、ベガが根城にしていた…」

「キャスターはもしかしたらあそこに大聖杯があることを始めから知っていた…」

「かもね。だからあそこから離れようとしなかったのかも……」

 

そんな時であった。突然電気が消えて辺りが暗くなる。

 

「! これは……」

「右策!」

 

皆が中庭の方に出ていく。

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皆が中庭の方を見る。

そこには右策の姿があったが、皆がそれを右策だと思っていなかった。

事実、それは右策が飛ばした右策の分身と呼べる影なのだから…。

 

「本人じゃなくて影をよこしてくるとは、ちょっと見ない間に随分偉くなったもんだな右策」

「……」

 

彬渡は挑発するが、右策の影は答えない。

 

「その様子だとルフィリーヤスから話を聞いたようだね、兄さん」

「ああ、聞いたよ。お前に取り憑いてるものの正体をな…。

右策、アンリマユって奴と縁を切るつもりはあるか?」

「ないよ。弱い俺はもう消えた。それにせっかく手に入れた力だし、俺はあれから離れる気はないし、離れることも出来ない。

真浦右策は、もうこうして生きるしかない」

 

それは嘘だと恵生は思った。

正確には嘘ではなく一つだけ右策とアンリマユを離す方法があると、イカロスの記憶を見た恵生は知っていた。

しかしそれをうまく実行に移せるかは別問題。それをするにはまずは右策の本体のところに行かねば話にならない。

 

「そうか…。それでその自慢のサーヴァントはどのくらいまで育ったんだ?

フィリーの話からしてもうすぐってところだけど、もう出てきたりしたか?」

「そんな訳ないだろ。あれが出てきたら、この街はすぐにでも飲み込まれるよ。

ここにはまだ恵生先輩がいるんだ。だからそんなこと、俺がさせない。俺の精神が残ってる限り、あいつは外に出さない」

「聞いたか八子空、この分だとまだ大丈夫そうだぞ」

「ふざけるな! 俺があとどのくらい持つか想像できてるんだろ?

だったらすぐに恵生先輩を連れて逃げてくれ。俺はそう長くないし、耐えられるのは今夜が限界だと感じてるんだから……。

だからその前に兄さん、恵生先輩を連れて逃げてくれ。そうすれば、俺もあいつと刺し違えれる…」

「おいおい、長くないのはいつ我慢できなくなるのかの間違いじゃないのか?」

「兄さん」

「右策、少しいいかしら?」

 

ジュディスが話に入る。

 

「仮に逃げたとしてもそのアンリマユが出たら世界そのものが終わるのかもしれないのよ。

だったらどこへ逃げても同じことよ。それが分かってるのかしら?」

「だから俺が刺し違えると……」

「でしたら…」

 

セラフィムも話に入って来る。

 

「その今の行動の説明をしてもらいたいですね」

 

セラフィムが右策に指摘したこと。それは右策の影が別の影を作り出して中庭を滅茶苦茶にしていたのだ。

 

「その行動の意味、分かってるのか? 右策。それは俺を殺したい。けど、八子空の前だからできないってことで憤って周りのものを壊している。完全に子供的な発想じゃないか」

「!」

「それに小坂の魔術師としてお前を放っておけないし、自滅発言も信用できないからな。お前の所に行って、お前を殺してやるよ」

「そうか……だったら待っててやるよ、兄さん達……」

 

右策の影は消える。

それと同時に屋敷の電気が再び点灯する。

 

「八子空、お前はどうするんだ?

ここから逃げるのなら止めないが、その時は宝石剣を作ってからにしてもらうぞ」

「そんなこと聞かなくてもいいわよ。

私は逃げないし、宝石剣も投影するわ」

「そうか…。だが判ってるのか八子空。

俺と行くと言うことは右策を殺すと言うこと。宝石剣もそうだ。お前は右策を殺す武器を、俺に提供するってことになるんだぞ」

「……そうね。でも宝石剣は右策の影に対抗するためには必要なものよ。じゃないといくらセラフィムにジュディスがいる私達でも今の右策には手に負えない。

ベガが残ってるとなると、なおさら……」

「………お前、やっぱり……」

「ええ、私は右策を殺す気はない。私は右策にとっての正義の味方であることを決めたのよ」

「右策を生かす事は、右策以外の人間をみんな殺すってことでもか?」

「傍から見たらそうかもしれないけど私はそう思ってない。右策を助けれれば、これ以上の犠牲は出ない」

「もう何人も殺してるのにか?」

「ええ。たとえ右策が人でなくなったとしても…、自分を殺したがってる右策からも、悪いことと思うことから右策を守る。

誰かの味方ってそういうことじゃない?」

「そうかもしれないな…」

 

彬渡は歩き出す。

 

「どこ行くの?」

「戦いの準備だ。右策が警告するほど余裕がないってことだ。だったらすぐに戦いの準備をしないとな」

 

彬渡は戦いの準備を始めるためひとまず自分の部屋へと戻った。

 

「……………」

 

その様子を黙ってみる恵生。

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数十分後、恵生は蔵の前で彬渡から宝石剣の設計図とその材料となるものをもらった。

 

「ねえ、これ余ったらもらっていい?」

「? 別にいいけど」

 

恵生は蔵に入ろうとし、彬渡も入ろうとする。

 

「あ、リントは入っちゃダメ」

「なんでだ?」

「恵生に集中させたい。アサシンはともかく、入るのは僕だけにしたい」

「そうね。ごめんだけど、小坂…」

「まあそれなら仕方ないな。俺は外でライダーと少し話しておくわ」

 

そして蔵には恵生とフィリーとセラフィムが入った。

 

「それでどうするの?」

「宝石剣を精製しなくちゃいけないからね」

「しかし宝石剣を作るとなると……」

「うん……」

 

恵生は左腕に巻かれている聖骸布を見る。

 

「エミ、それをまた使うんだね」

「うん」

「しかしそれを使うと恵生は死んでしまわれるのでは?」

「すぐには死なない。一度使ってるから…」

「一度とは……まさか!?」

 

セラフィムは恵生の言葉ですぐに察しがついた。

 

「右策が出した追跡者……ランサーを倒すために使った」

「そうですか…」

「また使って大丈夫と言う保証はないけどね…」

 

恵生が聖骸布に手をかけようとする。

 

「待って!」

 

フィリーが待ったをかける。

 

「どうしたの?」

「その聖骸布を解く前に僕がその宝石剣に関する記憶を見せないと…」

「そっか」

「言っておくけど、宝石剣に関わること以外の記憶は見ないこと。

じゃないと精神がどこかに彷徨っちゃうからね」

「分かった」

 

フィリーが恵生の頭に手を置く。

 

「それじゃあいくよ」

 

フィリーが恵生に自分の中にある記憶を恵生に見せる。

 

(…………)

 

恵生は昔の記憶を見る。

 

(これって……)

 

この鋼呂市で聖杯戦争を始めた時に大聖杯を造った当時の御三家の代表の三人がいた。

アンベルツインの方はフィリーが大人になったような見た目であり、とても貴族と言うか王族的な服装を着ていた。

小坂の方はごく普通と言うのか、着物を着飾った綺麗な女性であった。

そしてマウラーはなんと恵生もよく知っている賢蔵。その見た目も格好も恵生の知ってる賢蔵そのものであった。

 

『ケンゾール(賢蔵のこと)、令呪の方は?』

『あと少しで完璧じゃよ』

『サリナ(当時の小坂の当主)、この土地は本当にいい土地ですね』

『小坂の者としてそれは喜ばしいことです』

『そうですね……』

『後はこれも完璧にすればいいですね』

 

サリナと呼ばれた小坂の当主は宝石剣をどこからか取り出す。

 

(あれね)

 

恵生はその宝石剣が投影すべきものだとすぐに分かり、投影を開始した。

 

(………!!)

 

投影をし始めると左腕を中心に痛み出す。

その痛みのせいか、映像に乱れが出始める。

 

「エミ! もういいよ! 投影をやめて!」

 

フィリーの声が聞こえてくるが、恵生はやめようとしない。

 

(まだ完璧じゃない……あと少し……あと少し!!)

 

そんな中、恵生が見えている映像が完全に切り替わる。

その映像は恵生が見たアンベルツインの城とはまったく別の城が映し出されていた。

その城は白い雪に覆われて、きれいであり、城の周りも白い雪が積もっていた。

 

『あ、冬の芽、み〜つけた』

 

木の冬の芽を見つけて喜ぶ小さい時のフィリー。

 

『父さんも見つけたぞ』

『え?』

 

フィリーがその男の方を見る。

その男は恵生がよく知っている人間。

その男はなんと恵生の養父、八子空断であった。

 

(お義父さん!?)

『ダンばっかりずる〜い』

『仕方ないだろ、父さんの方が背が高いんだから…』

『だったら肩車してよ』

『はいはい』

 

断は幼いフィリーを肩車する。その様子は本当に親子であった。

 

(フィリーのお父さんが私のお義父さん……と言うことは)

 

恵生は気付いてしまった。

前の聖杯がフィリーの母なら、その聖杯を壊した断はフィリーの母であり自分の妻を殺したことになるのだ。

恵生の見ている映像が乱れ始め、意識が遠のいてゆく。

 

「エミ! エミ!」

「う、ううん…」

 

恵生は目を覚ます。

 

「エミ、これを…」

「え?」

 

恵生の目の前にはフィリーの記憶から見た宝石剣があった。

 

「これで大丈夫だね。リント、入っていいよ」

 

彬渡が蔵に入って来る。

 

「お、本当にできてる。もう少し粗悪なものが出来ると予想していたからこいつはとんでもない出来だな。

ありがとな。今日はゆっくり休んでくれ」

 

彬渡は部屋へと去っていく。

 

「大丈夫ですか? 恵生」

「大丈夫だよ」

「エミ」

 

フィリーが少し怒りそうな顔をして恵生に詰め寄る。

 

「見たでしょ」

「見たって?」

「宝石剣に関することしか見ちゃダメだって言ったでしょ!」

「恵生、あなた何を見たのです?」

「フィリーのお父さんがフィリーと仲良くしてたところ…」

「? それの何が問題なのですか?」

「フィリーのお父さんが私のお義父さんだったの」

「!」

「やっぱりそれを見たんだね」

「フィリーがお義父さんを恨んでもおかしくないわよね。

あんなに大好きだったお父さんが自分の大好きなお母さんを殺したんだから……。

それなのにお義父さんの下で楽しそうに暮らしてた私を見たら、私も恨みたくなるよね……」

「そうだったのですか」

「………僕ももう寝るね」

 

フィリーも蔵から出ていく。

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蔵には恵生とセラフィムだけになった。

 

「恵生も休みましょう」

「うん」

「ちょっといいかしら?」

 

そこにジュディスがやって来る。

 

「ライダー」

「決戦に行く前に一つ確認したいのだけどいいかしら?」

「何?」

「あなたは最後まで右策の味方でいてくれるかしら?

もしそうでないのなら……」

「それなら大丈夫よ、ジュディス。

確かにこの間は信念がゆらいだけど、もう大丈夫。

私は絶対右策の味方でいられる。もしそうでないと思ったら殺していい」

「恵生……」

「あなたの言葉……嘘じゃないようね。

分かったわ。私のマスターはああなってもまだ右策だけど、あなたも仮だけどマスターとして認めてあげるわ」

「ありがとうジュディス」

 

ジュディスは霊体化して消え去った。

 

「ふぅ…」

「恵生、部屋まで運びましょうか?」

「そうしてもらえると助かるわ」

 

恵生はセラフィムに運ばれて自分の部屋に戻る。

 

「恵生、こんな時に頼めることではないのですが、お願いがあるのです」

「何?」

「私は吸血忍者です。その吸血忍者の体質のために私は人の生き血を吸わないと死んでしまうのです。

その体質は宝具扱いになっていますが……」

「それで私の血を吸いたいって?」

「はい。ただ私の吸血は少し痛いので麻酔をかけることになりますが…」

「麻酔?」

「はい。キスすることで麻酔をかけることが出来ますが……。

ライダーなら許してくれるでしょうけど、あなたとなると…」

 

セラフィムは恵生と右策の関係のことを気にしているのだ。

 

「だったら……」

 

恵生は首元をさらけ出す。

 

「そのままでいいよ」

「ですが……」

「痛いのは…もう慣れてるから…」

「……分かりました」

 

セラフィムは恵生の首元から血を吸った。

 

「ありがとうございます」

「ううん、いいのよ。おやすみ、セラフィム」

「おやすみなさい」

 

恵生は眠りについた。

-7ページ-

 

 

 

今回明らかにされた情報。

 

 

サーヴァント名「アサシン」

マスター    真浦賢蔵→八子空恵生

真名      セラフィム(出典作『これはゾンビですか?』)

女性

 

クラス保有スキル

 

「気配遮断」A+        どんな結界内でも探知されずに侵入可能。気配遮断中は探知不可能だが大がかりな攻撃は出来ない。

 

個人スキル

 

「単独行動」B         魔力供給が無くても現界出来る。Bランクだと1週間は現界可能。

 

「戦闘続行」A         致命傷でもしばらくは動くことが可能。完全一撃の技でないとすぐには倒れない。

 

「千里眼」 B         遠くを見通せる力。ランクが高いと透視や未来予知が出来るがランクBでは無理。

 

所有宝具

 

「葉形変状(リーフ・ヘレクト)」 宝具ランクB

 

セラフィムが持っていたり、周りにある木の葉を武器にすることが出来、それを翼にして飛翔することが可能。

また宝具ランクはBだがセラフィムの必殺技によりランクが上がる。

 

「不死存現(アンデット・フロー)」宝具ランクA++

 

人間の生き血を吸うことによって、完全一撃必殺の攻撃を受けない限りは死ぬことはない。

ただしその反面、吸わないと死んでしまう。

 

 

必殺技

 

燕返し

 

ランクC〜A++  セラフィムが得意とする必殺技。

          主に剣から出す魔力の斬撃波であるが、セラフィムは適当な時(遊んでる時)でも必殺技の燕返しと言っている。

          最低ランクの時は戦闘時ではなく遊んでる時のもの。最高ランクの時はセラフィムが全力を出してる時である。

説明
この物語は作者が「Fate/Zero」を見た影響で「Fate/Stay night」の話を基に作った作品です。
基となった話はアニメ化されてないルートをメインとしているため、ネタバレが嫌な人はあまりお勧めできません。
また話によっては原作のシーンなどを見ながら作っている場面もあり、原作で出てきたセリフと全く同じやほとんど同じなところもあることをご了承ください。
なお、サーヴァントにつきましてはクロスオーバー的にまったく別の作品からの参加となっています。


今回は前回以上に原作まんまのセリフ(説明文など)が多くなってます。
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タグ
Destiny/DomhanEagsula Fate Fate/staynight Fate/zero 第12話 八子空恵美 クロスオーバー 

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