真・恋姫†無双 江東戦記 第9記・休息−3 |
本日は部隊訓練。
…と昨日の休日昼時に祭さんに言われ、朝早くに自分の部隊から数名を連れて他の仲間達と共に訓練場所へと向かっている。
俺の前を進んでいる祭さんに穏、そして亞莎の3人に俺だ。
昨日言われていたのは自分の部隊から精鋭10名までで訓練を行うから城門前集合との事だ。
訓練の内容に関してはいくら聞いても目的地に着いたら説明するの一点張りであった。
そのまま進んで森に入り、だいぶ奥まで行ったところで先頭を歩いていた祭さんと穏が足を止めた。
「たしかこのあたりですね」
「そうだな。 皆の者!
これより訓練を開始する! 心してかかれ!」
その言葉で黄蓋隊、陸遜隊の兵士達が恐ろしく真剣な顔になった。
「あの……、今日の訓練とはどんなものなのでしょうか?」
おそらく俺と同じく初めてこの訓練を行う亞莎が祭さんに質問した。
「うむ。 今日は対工作員の訓練だ」
「対、工作員?」
「そうです。 工作員は明命ちゃんに思春ちゃんで、すでにこの辺りに隠れているんですー」
「その2人を儂、穏、亞莎、北郷の小隊で見つけて捕縛する、という訓練だ」
「なるほど、それでこの森と後ろの兵士達なんだな。
でもあの2人を見つけるのにこの人数ならすぐに見つかるんじゃない?」
そんな俺の一言に甘いと言って返してきた祭さん。穏も珍しく真剣な顔で同意している。
曰く、敵陣に置いて1人で破壊、諜報活動を行う工作員は一騎当千の選ばれた精兵である。
中でも明命こそがこの国一番の工作員であり、だからこそ王から唯一天の役職である『忍者』の称号が与えられたそうだ。
もっとも俺は雪蓮が俺の国(天)の話を聞いて面白半分に就けただけだと思っている。
そして思春も同じく諜報にかけては明命と同じくらいの精兵らしく、今回から俺と亞莎が参加するため相手側に思春が居るらしい。
と説明が終わったところで何かが倒れる音がし、全員が一斉にそちらに目を向ける。
そこには気絶した兵士が1人倒れていた。
「始まったぞ……狩りが」
「か、狩り!?」
「よしっ! 全員密集陣形をとれ!!」
「皆さ〜ん、円陣を組んで離れないでくださいね〜」
珍しく真面目に指揮を取る2人を見て俺は思った。
これは訓練ではなく戦争だと。
こうして明命、思春の2人 対 俺、祭さん、穏、亞莎率いる小隊から先程狩られた1名を除くこの場に居る40名での戦いが始まった。
「さて〜、それじゃあ今回から初参加の一刀さんと亞莎ちゃんもがんばってくださいね〜。
なにしろ明命ちゃんに捕まれば恐ろしい事になっちゃうので」
「お、恐ろしい事ですか!?」
「あぁ、顔中のいたる所に墨で落書きをされてしまうのだ」
「……は? 落書き?」
「うむ、しかもその墨は特製のでしばらくは洗っても落ちないという代物だ。
その落書きされた顔で街を通って城に戻らねばならんのだぞ?
それも、仲間に負けてだ」
そう言いながら先程倒れた黄蓋隊兵士の顔を見せる。
そこには『最初の犠牲者です。 えへ』とあった。
その後、2人を捕らえるべく4人は各小隊を率いて行動を開始した。
しばらく索敵したら最初の地点に集合と決め、俺の隊は4人、4人で卍の陣になって動いていた。
そして30分後、合流地点に戻った時は俺1人になっていた。
あの後、茂みの音に気を取られた時に2人やられ、体勢を整えようとしたらまた1人やられた。
そのため一度合流地点に戻ろうと提案し、たどり着いた時には俺の隊の部下は全員居なかった。
先に居たのは穏だった、びくびくと周りを窺いながら1人の所を見るに彼女の隊も全滅したのだろう。
次に荒い息遣いで祭さんが草むらから飛び出してきた。そしてこちらも1人だった。
最後に亞莎が到着した、言わずもがな1人でだ。
この訓練に降参が無く会議の結果待ち伏せをするために見晴らしの良い所に移動する事になり。
祭さんの言葉に返事する中で穏の声が無い事に気付いた。
恐る恐る穏の立っていた所を見るとそこのは両手を後ろで縛られ気絶した穏の姿が。
そして顔にはこう書かれていた、
『何故頭に栄養が行っていて巨乳なのですか?』
さらに胸元には、
『朱里と雛里に謝ってください!!』
とあった……何故!!??
さらに歩いていると途中で草むらが揺れ、反射的に振り向くと祭さんが倒れていた。
抱き起こすとそこには、
『巨乳人に幸薄からん事を』
と書かれていた。
………明命は前から分かってはいたが巨乳に敵意を持っているようだ。
しかし普通の亞莎はと思って振り返るとあの一瞬でやられたのか物言わぬ人となり、
『貧乳血盟軍の仕事をもっと真剣に』
と顔に書かれていたんだが……何その血盟軍???
本気で訳の分からない明命の思考に恐怖を抱き、俺は1人先に進む。
そして開けた場所を求めつつ進む俺の耳に変わった声が聞こえてきた。
「にゃー」
木のふもとに猫の姿があり、何とも人懐っこそうな猫だ。
俺は猫を捕まえて明命への囮に使おうと近づいたのだが……。
シュルと俺の体に投げ縄が掛けられ、猫の目の前で倒れてしまった。
そしてその瞬間に明命が、シュタという音と共に現れた。
「猫を人質にしようとはするなどとは……卑怯ですよ、一刀様」
「ばれてたか……」
「ええ、この状況下ではいくら一刀様でも策を講じてくるだろうと思い。
お猫様にご協力して頂いたのです」
そう言って明命が懐から煮干を取り出し猫の目の前に置いた。
「相手の心理を読み、それを提示する事で相手の行動を誘導する。
工作員の基本です。……それでは私に捕まった以上は罰を受けていただきます」
どこからとも無く取り出した筆を手に俺にゆっくり近づく明命。
縛られた俺はズリズリと後ろずさるも先程猫の居た木にぶつかってしまう。
「見苦しいですよ一刀様」
その一言と共に明命が襲い掛かり、俺は思った。
掛かった、と。
「今だ! 落とせ!!」
バサバサ!!
「えっ!? えっ!?」
俺の寄りかかっている木の上から網が降ってきて明命にかぶさった。
と同時に木から人が降りてきて俺を縛っているロープを切ってくれた。
「あぅ、あぅ〜〜〜。
どういう事ですか〜〜〜?」
もがいている明命をササッと縛り上げて捕獲成功だ。
「ひ、卑怯です一刀様!!」
「卑怯? 特にルール…訓練の規定には背いてないけど……。
納得してないって顔しているね、それじゃあ少し教えてあげようか」
そう言うとさらに2人が木から下りてきた。
「まず、この訓練は将1人に兵10人で行う訓練だ」
「そうです!! だからすでに一刀様以外は全て捕まえました」
「そうだね……。皆と共にここに来た中での生き残りは俺1人だ……。
けどそこに俺の罠があったんだ」
「………」
「思い出してみなよ、あの時明命が最初の1人を倒した時に立っていたのは40人。
しかしあの時点での最大参加人数は44人から1人引いた数のはずだ」
「あ!!」
「さらに最初にやられたのは祭さんの部隊だ、だから4人で別れた時の俺の隊は11人。
けど実際一緒に行動していたのは4人、4人の計8人だ、つまり…」
「つまり北郷隊の3人は伏兵だった、という事ですか……」
「その通り!! ちなみに彼らには昨日の夜から潜んでいてもらった。
元は猟師だったから気配を消すのも巧かっただろう。
後、ここに明命の仕掛けた猫が居てくれる仕掛けもした」
そう言いながら先程猫の居た木の下からある物を取り出して明命に見せた。
「これは?」
「これは鰹節と言って魚を天日干しした天の猫の大好物だ。
これを仕掛けて猫がここに居てくれる様にしたんだよ。
つまりこの猫は『反間(二重スパイ)』だったて訳だ」
「はぅわ!?」
「ついでに言うと訓練の内容と場所は雪蓮に大徳利5本で教えてもらった。
その時に開始の合図なんて無いとも聞いてたから数日前に兵を潜ませるのもありだろ」
実際明命も最初の1人は不意討ちだったし。
「何も相手の心理に合わせたやり方で情報を手に入れたり行動を誘導するのは工作員の専売特許では無いって事。
学べよ明命、孫氏曰く『兵とは詭道なり』『戦いは正を以って合い、奇を以って勝つ』相手を欺き意表を付くのは軍師の基本だよ。
それじゃあ……罰ゲームだね」
「あぅ、あぅ〜〜〜……………」
……………。
………。
…。
明命を捕まえた俺は思春と相対するため開けた場所へと向かった。
俺の部隊の3人には他の参加者を集めてもらっている。
そして程よく開けた場所に立って声を出した。
「出て来いよ思春、そこに居るのは分かっているぞ」
そこらで拾ったドングリを指で弾いて1本の木に撃った。
その木から影が飛び出てきて素早く俺の前に現れた。
「……気付いていたか」
「馬鹿にしてんのか?
俺の部隊の人間を倒してから集合場所までずっと殺気出してた付いて来ていたくせに」
「………」
「まあ、蓮華の事で言いたい事がある。
そんなとこだろ」
「死ね」
ビュン!!
一言言っていきなり切りかかる思春の一撃を下がって避ける。
って言うかいきなり死ねかよ。
「答えろ! 何故蓮華様だけの物にならず、ましてや他国の者を愛す!」
「愛紗の事か」
話しながら剣を振るう思春。
「俺が言葉で言いたい事は一つだ……。
人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて地獄に墜ちろ!!」
その言葉と共に大刀・虎月を抜いて切りかかる。
さっき明命を捕らえた時は軍師として、そして今は武将として戦う。
それは思春も同じなのだろう、最早対工作員の訓練ではなく完全に武将同士の一騎討ちとなった。
所詮、武将同士言葉で語るなど無駄の一言。
こうして剣を交えると思春の深い悲しみが伝わる。
思春の剣が剣が泣いている。
だが何故だ!? とは思わない。
自分の主君が俺にとっての唯一一人の相手で無い事に心の奥底で悲しみを持っている。
しかし、その娘は決して自分から声に出さないからこそ代わりにその悲しみを俺にぶつけてくるんだろう。
だが、己の剣は己の魂を表現するものだと爺ちゃんは教えてくれた。
ならばやはりこれは思春の悲しみであって蓮華の悲しみではない。
「うおーーー!!」
「はあーーー!!」
亞「聞こえますか?」
穏「はい〜」
明「悲しくも美しい、魂の響き」
祭「儂はこの勝負、一生忘れん」
「「「「これぞ一騎討ち」」」」
「……と言うか何故あやつ達は一騎討ちなどしておるんじゃ?」
「ですよね〜〜〜、帰っちゃいましょうか?」
「そうじゃの、全員撤収準備にかかれ!」
「ええ!! お、御二人はどうするんですか?」
「構わん、腹が減ったら勝手に帰ってくるじゃろ。
それにしても明命が捕まるとは驚いたが……、その顔にある『貧乳血盟軍って何?』とはこちらが聞きたいんじゃが…」
「はぅわ!!!」
それから俺達の戦いに決着は着かず、空が暁の色に染まった頃に心配して迎えに来た蓮華がやって来て終幕となり。
俺と思春は完徹のままその日の仕事と相対する事となった。
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この頃出番が少なかった武将、軍師中心の拠点話です。 一部、反董卓連合-2を参照にしてください。 |
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