ルパン三世〜RED FAKER〜 第三話
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 時は一ヶ月前に遡る。

 ルパン三世は、ノートパソコンを睨んだまま頬杖をついていた。

 日本にあるアジトの一つ。1LDKの安アパート。情報を収集する拠点として一時的に借りているだけで、仕事が終わればおさらばできるインスタント・アジトだ。

 ルパンの背後には、座イスの上で胡坐を掻きながら、次元が銃のメンテナンスをしていた。

「で? いい加減、話を聞かせてくれねえか、ルパン」

「おー。こっちも解析終了よ」

「あ? 何やってたんだ?」

「最近、俺のそっくりさんがお仕事がんばちゃってるらしくてねー」

「そっくりさん?」

「そう、そっくりさん」

 これ見てちょうだい。軽薄な調子で言うと、ルパンはエンターキーを勢いよく押した。

 ピッという電子音の後に表示された画像に、次元は目を丸くする。

「お前……双子の兄弟いたか?」

「さ〜て、どうでしょう?」

「お前じゃないんだな」

「じゃなかったら、こうして調べないし、次元ちゃんをお呼びしません」

「誰なんだ?」

「それが、お手上げ状態」

 くるっと半回転して、ルパンは次元と向き合うと両手をあげた。

「お手上げ?」

「そうそう。このそっくりさんのことを知ったのが、半年前。予告状は出さずに、単身で行動。下見はしてねえようだから、監視カメラにデータはなし。まあ、改竄されている可能性もある」

「とっつぁんとは鉢合わせてないのか、こいつ」

「良い質問だぜ、次元。それがどうもとっつぁんのところに、このそっくりさんの情報が入ってきてないみたい」

「ICPOの刑事なのにか?」

「そう、ICPOの刑事なのに情報が来ないのさ。おかしいだろう? そこで、こいつのお仕事が何なのかっていう疑問が生まれる」

「お前のそっくりさんなんだから、盗むんだろ」

「そう、盗むのよ。俺のそっくりさんだから。でな、こいつが盗むものっていうのが、情報なわけ」

「情報?」

「そう。主に、国家機密とされている情報。他国にデータが渡ったら、や〜ばいのを選りすぐって盗んでいる。そして、情報を盗む時は、必ず美術品を盗むルパン三世が現れる」

「つまり、情報を盗む目くらましがルパンのそっくりさんのお仕事ってことか」

「その通り! しかも、つっつけば〜つっつくほど〜、このそっくりさんの正体がわからないんだなあ、これが」

「背後にいる奴らの見当は?」

「国家機密レベルの情報を盗む奴らなんていうのは、裏じゃあごまんといるぜ」

「ついてねえのか」

「ついてるよ」

「もったいぶらねえで、話せ」

「もう、せっかちだね〜」

 ルパンは唇を尖らせつつも、キーボードを操作する。

「こいつは」

「軍事企業の代表格と言えば、ヴィッラーニ財閥。ここの財閥が所有する商品は必ず、ヴィッラーニ家の紋章がロゴにされている」

「それで、そっくりさんと死の商人が、どう繋がるっていうんだ」

「言ったろ? 半年前にそっくりさんを知ったって。……半年前に、俺はこの目でそっくりさんがヴィッラーニ財閥の所有する軍用ヘリに乗り込むのを見たんだよ」

「どこで?」

 次元は顔を近づけ、声を低くして問いかけた。ルパンも同じように声を小さくした。

「半年前に俺が盗みに入ったのは、ヴィッラーニ財閥と提携しているある政治家の屋敷だ。お宝をゲットしたんだけども、屋敷が爆発してな、着地失敗して足ひねっちゃって、中庭の物陰に隠れてたら、血だらけの俺のそっくりさんが現れたのよ」

「なるほど。そりゃあ決定的だ」

「思わず写真撮っちゃった」

「それが、これか」

 顎で、ノートパソコンに表示されている画像を示すと、ルパンはうんうんと頷いた。

「そー。ジャケット、ネクタイ、スラックス、シャツ、靴の色まで、ぜーんぶ俺様と一緒。髪も、顔もな」

「ドッペルゲンガーか?」

 もう一人の自分に出会うと死んでしまうという迷信。

 ルパンは唇の端を吊りあげ、不敵に笑った。

「それはそれで面白いんじゃねえの。何より、どうして俺のそっくりさんを作ったのかっていうのが、気になるわけよ」

「強大なライバル現るってやつか」

 ルパンは、もう一人のルパンを見据える。

「なーに、ルパンは二人もいらないさ。俺が残るか、こいつが残るか。勝負してみたくなっちまってな」

「お前ぇが残るさ。天下のルパン三世は、お前ぇだけだからな」

「あらやだ、次元ちゃん、嬉しいこと言ってくれちゃってー」

 ニシシシシと笑い声をあげたルパンは、ひとつくしゃみをした。

「誰か噂してやがんな?」

「おおかた、とっつぁんだろ」

「むしろ不二子ちゃんがいいな〜」

「はいはい」

 呆れた息をついて、次元は銃のメンテナンスに戻った。

 ルパンは、再び画像に視線を戻す。鮮明に、半年前のことが脳裏に蘇る。

返り血を浴びたもう一人のルパン。

 拳銃を向け合う偽ルパンと、もう一人の男。引き金を引くことはなかった。

 ヴィッラーニの人間に囲まれた偽ルパンは、薬をかがされ意識を失った。そして、猿轡を噛まされ、目隠しをされ、体が動かないように拘束着を着せられてから、ヘリに運ばれていった。その物々しさにも疑問を覚えたが、何より引っ掛かっているのは、偽ルパンが持っていた拳銃だ。

 あれはワルサーP38ではなかった。靴の色までこだわるのならば、銃だって本物とい同じものを揃えるはず。だというのに、なぜ、あの銃だったのか。

 ヴィッラーニに使われているから、ヴィッラーニの商品を使う。そう考えれば筋が通っている。だが、ヴィッラーニの商品である銃だとしても、あれは……。

「どうした、ルパン?」

「いや〜なんでもねえよ。とりあえず、ヴィッラーニんとこに遊びに行きましょうかねえ」

 上機嫌な様子で、ルパンは準備に取り掛かった。

 

 

 そして、ルパンは次元に変装し、偽ルパンと接触することに成功した。

 しかし、ヴィッラーニの追っ手による銃撃で、フェイクが負傷。

 間一髪のところで、次元が運転する車に飛び乗ることが出来て、難を逃れた。

「こいつが、偽物か」

「フェイクだってよ」

 後部座席に横たわらせたフェイクをミラー越しに観察する次元に、ルパンは答えた。

「ああ?」

「俺の偽物。だからフェイク。驚いたぜ、こいつは俺になり変わろうなんざ思っちゃいねえんだってよ」

「なんだそりゃ」

「なんだろうねえ」

 最初から、もう、この男は敗北を選んでいた。

 勝負する気はなかった。あまつ、殺してくれと頼んできた。

 真意はなんだ。目的はなんだ。

 薬を嗅がされる前に浮かべた、何もかも諦めた笑みは、何だ。

 謎だらけだ。

「全く。面白くなりそうだって思ったのによー」

「ああ、面白いことと言えば。茜が連絡つけたがってるって聞いたぜ」

「茜が?」

 ルパンの声の調子があがった。やれやれと次元は肩をすくめつつ、口を開いた。

「久しぶりに茜の作るつまみが食いたくなったし、いっちょ行ってみねえか」

「いいねえ、いいねえ。茜にちょーっと聞きたいことあるし」

「聞きたいこと?」

「野暮だね、次元ちゃんったら」

「……凝りないね、お前も……」

 

 

 次元たちの車を追う不穏なヘリが一機。

「確認できました」

『よし。発信機は生きてるな?』

「はい」

『ならば、一時帰還しろ』

「了解」

 方向を転換し、ヘリは飛び去っていった。

 

 

 

 

説明
ルパン三世と偽ルパンの接触から一ヶ月前。
ルパンは、偽ルパンと半年前に目撃していた。
偽ルパンの背後にいる死の商人。そして、偽ルパンが持っていた銃について。
引っ掛かりを覚えたルパンは、偽ルパンについて調査を始めるのだった。
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