鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第五十六話
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〜バンエルティア号〜

 

依頼書が、速達でアドリビドムへと届けられた。

 

先ほど、エド達が出会っていたあの盗賊団からだ

 

『本当に……行くんだな?エドワード君』

 

クレスが、心配そうにエドの表情を窺っている。

 

だが、エドの目は真っ直ぐ前を向き、焔の点いた目となっていた。

 

『ああ。当たり前だろ』

 

『同行者は、どうする?』

 

クレスがそう言うと、エドはしばし考えた。

 

『前のパーティの…カノンノは、イアハートに付いて看病しているし、アーチェは君とは行きたがらないし。』

 

子供だ。とエドは思った。

 

カノンノはともかく、アーチェのこの意地は、かなり幼稚な物がある。

 

エドは、大きく溜息を吐いた。

 

『良いよ、どうせ向こうに着いたら仲間が居るんだ。それまで一人で行動する』

 

『でも…』

 

『うるさい』

 

言いとめるクレスに、エドは機嫌の悪い返事をした

 

だが、それをクレスは易々と認めるわけには行かなかった。

 

『その言い方はいけない。親しき仲間にも礼儀ありだ。』

 

そう指摘された時、エドはピタリと足を止めた。

 

どうやら自分は……熱くなっているようだ。

 

プレセアを取り戻せなかったのも大きいが、

 

何よりも、イアハートをあんな目に会わせたあいつらをぶん殴らなければ済まないようになっていたのだ。

 

だが、その気持ちを変えるわけには行かない。

 

『……だからどうした。』

 

エドは、無理矢理押し通すように、出口に向かおうとした。

 

だが、次の瞬間、

 

『痛って!!』

 

大きな音と共に、エドの後頭部に衝撃が走った。

 

物が落ちる物音と共に、後ろに振り向くと、そこにはけん玉があった。

 

さらに上を見上げると、不機嫌な表情のジーニアスが立っていた。

 

『親しき仲間にも礼儀あり!!』

 

どうやら、少し怒っているようだった。

 

更に隣には、エドに苦手とするあの男が居た。

 

『連れないじゃないの?お豆ちゃん。女の子取り戻すってんなら、俺様も連れて行きなさいよ。』

 

『だぁれが豆だ!!』

 

赤毛の、チャラチャラしてエドの見た目の気にしている所を構わず言葉で無意識に攻撃する。

 

エドの最も苦手とする相手だ。

 

ゼロスはともかく、隣のジーニアスには、今はどうにも頭が上がりそうに無い。

 

『エド!どうして僕も一緒に連れて行かないのさ!!』

 

『まず、一言俺に言う事があるんじゃねーの?』

 

エドがそう話すと、ジーニアスは一度深呼吸をしてから、再び声を発した。

 

『僕も、プレセア救出に同行させろ!!!』

 

『けん玉ぶつけた事、謝れこの野郎!!!!!』

 

エドの望む言葉を言わなかったジーニアスに対し、エドは更に怒りの表情を露にした。

 

だが、次にジーニアスの目は真っ直ぐエドの方へと向いた。

 

鋭い目つきは、エドも圧倒するような力があり、一気に怒る気が失せた。

 

怖気付いた、というのでは格好悪い為、エドは頭を掻いて強く溜息を吐いた。

 

『あ〜〜〜っ!ったく!!』

 

そう言って、ジーニアスからそっぽを向いた。

 

エドの後姿を見て、エドがまともに返事をしないのを見て、ジーニアスは溜息を吐いた。

 

『……本当に子供だなぁ。も〜…。』

 

その声は、呆れに近かった。

 

更に後ろから、もう一人の声が響いた

 

『エド……ワードさん!』

 

その聞き覚えのある声を聞き、エドは立ち止まった。

 

『パスカ……?駄目だよ!まだ寝てないと…。』

 

クレスが心配を起こし、パスカの元へと近づいたが、パスカは止まらなかった。

 

そして、ジーニアスと似た、真っ直ぐした目でエドに訴えた。

 

『私も…連れてってください。』

 

一度死んだ世界のディセンダーを連れて行くという事は、どのような事かとエドは考えていた。

 

見つけたときは、ほとんど衰弱していた様子で

 

死んだ世界に対し、パスカは死にそうになっていたのだ。

 

そして今も、恐らくパスカの世界は衰弱している。

 

その時に、パーティに加わったら……

 

『私も……イアハートをあんな目に合わせた……合わせたあの人たちが、許せないの!』

 

強い口調で、握りこぶしを強く握り、パスカは訴えた。

 

そして必死に、必死にエドに願いを言っている。

 

『だから……お願い……します』

 

まだ、やや弱っている声は、ほとんどの者を心配させた。

 

連れて行ったらどうなるか

 

確実に、死んでしまうのではないのだろうか。

 

そんな心配があった。

 

エドは、振り向かずにそのまま歩き出した。

 

その様子を見て、パスカは落胆をしたが、

 

ジーニアスが、パスカの手を握り、歩き出した

 

『行こう』

 

その答えが、パスカは一瞬理解できなかった。

 

エドは、そのまま振り向かずに進んだ。

 

これは、このエドの行動を示す答えは……

 

『”勝手にしろ”……だってさ。だから、僕達の望む答えのまま、僕達は行動しようよ。ね?』

 

ジーニアスにそう言われて、パスカは少しだけ目を覚ました。

 

エドは、答えをすぐに出してくれるような優しい人じゃない。

 

答えを、私達に選ばせてくれる、優しい人なのだ。

 

『………うん。』

 

その優しいエドの背中を見て、パスカは微笑んだ。

 

そして、エドの後ろへと付いていっても、エドは振り向かなかった。

 

これで、パーティは揃った。

 

これから、暁の従者との最後のクエストが始まることだろう。

 

パスカがエドのそばまで行った瞬間、ゼロスがジーニアスを肘でちょっかいを出した

 

『ちょっと……止めて』

 

『意外と言う男じゃねえかよ。この、この。』

 

ゼロスは、割りと楽しそうに笑っていたが、

 

ジーニアスは、本気で不愉快そうな嫌な顔になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜コンフェイト大森林〜

 

六層目に入り、東側

 

そこに、縄でくくられた一本道があった

 

『ここだ。』

 

エドが、目印を見つけると、それを辿って前へと進んだ。

 

『本当に……ここで合ってるの?』

 

『目印に木に縄を結びつけた一本道を作ったって言ってたろ。』

 

エド一行は、そのままエドの後ろを歩いて行動していた。

 

ここまで来るのに、結構な魔物に出会い、

 

その間にも、見張りの暁の従者がうろついている事で、ここに施設がある事を確信はしていた。

 

なので、反抗する理由も無く。エドの言う事にも全員従っていた。

 

そして十分が経過した。

 

まだ、縄の結ばれた木が連なる道は続いていた

 

『……一体、どれ程の縄を使ったんだ。あいつら』

 

エドが、ついに愚痴り始めた。

 

この中で、今一番リーダーの品格を出していたエドがだ。

 

しばらく歩いていると、森の奥に光が見えた。

 

『もうすぐじゃない?』

 

パスカが、宥めるようにエドにそう言った。

 

その言葉で顔を上げ、その光の方へと向かった。

 

『本当だ。やぁーっと着いたか。おぉーい!!盗賊団のやつ……』

 

ゼロスが大声を上げて呼ぼうとした瞬間、エドは急いでゼロスの元へと駆け寄り、

 

ジーニアスは必死にゼロスの口を手で塞ぎ、エドは思い切りゼロスの腹を殴った。

 

(馬鹿!!あいつらに聞かれたらどうすんだ糞野郎!!)

 

エドが小声で、ゼロスを叱咤すると、ゼロスは何も言わずにただ静かに頷いた。

 

その様子を見て、エドは溜息を吐いてそのまま正面を向きなおした。

 

目の前に、セネルが居た

 

『うぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!』

 

驚きの余り、大声を上げようとした瞬間、ジーニアスにまた口を手で塞がれ、

 

背中からゼロスが拳で殴り、前からセネルが拳で殴った

 

『おチビちゃん…?大声を上げるなっつったのは、どこのどいつかしら?』

 

ゼロスが、怒りと楽そうな口調でそう告げた。エドは何も言えなかった。

 

そのまま、セネルはやや小声で全員に言葉が行き渡るように語った。

 

『待っていたよ。後は、全員でこの施設の中に入るんだ。』

 

そう言って、セネルは何のそぶりも見せず、そのまま全員に背中を見せて歩き出した。

 

『あ……ちょっと』

 

パスカが言葉を上げようとしたが、セネルの強い足取りが、それを掻き消した。

 

余計なお喋りは危険なのだろう。そう告げているようだ。

 

それを察したエドは、痛めた腹を右手で押さえ、痛めた背中を左手で押さえた。

 

そのまま、前へ進んで光の中へと入っていくと、そこには大きな施設があった。

 

『暁の……館』

 

だが、以前崖の下で見た館よりは小さい物だった。

 

『以前の館より小さいのは明らかだが、あいつらはここを”台所”と呼ぶほど重要な館らしい。』

 

『台…所?』

 

ジーニアスが、疑問の声を上げた

 

『暁の従者が集めた星晶が、ここにほとんど集まっているんだ』

 

『!!』

 

星晶

 

その言葉を聴いて、全員が反応をした。

 

『人間の……命……』

 

パスカがそう呟くと、セネルは疑問の声を出した

 

『?何か言ったのか?』

 

セネルがそう言うと、パスカは慌てて首を横に振った。

 

その様子を見て、セネルは首を再び施設の方へと向けた。

 

施設の横には、バルド教祖が乗っていた機械がある。

 

ここに居るのは、間違い無いはずだ。

 

『ところで、その星晶はどのくらい多くあるんだ?』

 

エドがそう質問をすると、セネルは少し形相を変えて質問を返した。

 

『……おそらく、ウリズン帝国までは行かないものの、帝国の3分の2程度はあると見られる』

 

『三分の……二!?』

 

ジーニアスが、驚いた表情でそう言った。

 

『え?そんくらいの量があると……どうなるの?』

 

ゼロスが疑問の声を上げたので、ジーニアスが自然の流れのように答える。

 

『………2,3個の国が滅茶苦茶になる程のエネルギーを得るだろうね。』

 

その言葉を聴いて、エドは拳を強く握った。

 

人間の命を使われている星晶、すなわち賢者の石と同じような物体

 

賢者の石よりも力は劣るものの、その力は本物、効力もほぼ同じだ

 

『そりゃすげえや。ま、賢者の石よりも劣るかもな』

 

ゼロスが、皮肉るようにそう言った。

 

『先生の言ってた通り、賢者の石のが強いっつってたんだから、いざとなればそれ使えば良いだろうし。』

 

『先生?』

 

ゼロスが言った先生という言葉に、エドは疑問を持った。

 

『んあ?ああ。おチビちゃんの世界で言う、大佐の奴ね。』

 

ゼロスがそう言うと、エドは露骨に軽蔑する顔でゼロスを見た。

 

『……お前、あの野郎の事を大佐って呼んでんのか』

 

『そうよー?だって、先生大総統になったら女の子ミニスカートにしてくれんでしょー?応援するしかないっしょー!』

 

こいつは、大佐よりも性質が悪い

 

そう改めて、エドは実感した。

 

ジーニアスも、実感した。

 

パスカは、ゼロスに距離を持つことにした。

 

セネルは、話を全く聞いていなかった。

 

『……とにかく、賢者の石のが力が上だとしてもだ、そのエネルギー体が崩れる事は無い。』

 

そう言って、エドは再び施設の方へと前を向いた。

 

『力が強かろうが、あいつらがそれ程の力を持っていることには変わり無えんだ。』

 

そう言って、エドは立ち上がって前へと進んだ

 

『で、どっから入るんだ?まさか堂々とこの勝手口から入るとかそんな馬鹿な事考えて無えよな』

 

エドは、鍵が閉まっている勝手口の方に親指を差して言うと、セネルは歩きだし、場所を案内した

 

『ああ、それならダオスが考えている』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『良く来たね。エドワード君』

 

ダオスが、微笑んでエドに歓迎をした。

 

『どうも。』

 

『それじゃぁ、早速壁に穴を開けてもらおうか。』

 

ダオスがそう言うと、エドはやっぱりなという表情になった。

 

そして頭を掻くと、ダオスは再び語りだした。

 

『すまないな。また君に力を借りるようで。だが、君の能力を使う事で、恐らくはこのクエストは本当に終了するだろう。だから』

 

『何もそこまで言わなくても、言われなくてもやってやるよ』

 

エドはそう言って、両手を叩き、音を出来るだけ立てないように錬金術を発動させた。

 

光と共に、壁の一部は消え去り、目の前には多くの道具が散乱していた

 

『……倉庫か。』

 

『もう何年も使われて無いみたいだね。』

 

ジーニアスがそう言うと、向こう側の扉を見つけた。

 

『これも鍵が掛かってるよ。』

 

『おチビちゃん、出番だ』

 

『チビチビチビチビ言うんじゃねぇ!!』

 

エドが怒鳴ると、再び口元を手で塞がれた。

 

『今は、声を出せば危ない』

 

ダオスがそう言うと、エドは渋々と了承した。

 

そして、扉の前に立ち、再び練成をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の台所 地下一階〜

 

石畳の床と壁、そして天井。

 

すぐ隣には、暁の従者が居た。

 

『侵入……!!』

 

全ての言葉を言い終える前に、ゼロスに殴られ、気を失った。

 

派手な音を立てずに、鈍い音と共にその場で倒れこんだ。

 

『残念、お前の勇士は、ここで消える』

 

ゼロスが格好つけてそう言うと、エド達は聞かなかったかのようにそのまま前へ進んだ。

 

『ちょっ…置いてかないでよ〜』

 

ゼロスが、甘えるようにエドの方へと近づいた。

 

エドは、それが不愉快でしょうがなかった。

 

 

 

 

 

 

〜暁の台所〜

 

『教祖様がここに来られたとは誠か?』

 

『ああ。なんでも本拠地が破壊されたのが理由で、こちらに滞在されておられるのだ。』

 

『そんな……。どのような奴がそんな事を!!』

 

『政府の回し者か……!許せない!』

 

教徒達の目は、素直な目だった。

 

純粋に、間違った正義にしがみ付いていた。

 

その者達は、弱い故にこの虚無しか残らぬ結果が待つ暁の理論にしがみ付くのだ。

 

だが、そんな事は今のエド達にはどうでも良かった。

 

『……それで、これからどうするの?』

 

ジーニアスがエドに質問をすると、エドは人差し指を口に押さえ、言葉を出すなと伝えた。

 

『……あいつらが去ったら、作戦決行だ』

 

作戦

 

エドが言う作戦には、ほぼ頭が使われていないような作戦だ。

 

強行突破をし、プレセアを連れ戻す。ただそれだけだ。

 

ジーニアスは、その作戦に賛成しようにも、出来なかった。

 

『その前にまず、誰も逃げられないようにする必要がある』

 

『でも、そんな事どうすんのよ。んな事が出来たら、苦労しないっつーの。』

 

『いや、………エドワード君なら可能だろうね。』

 

ダオスがそう言うと、エドと目を合わせ、頷いた。

 

ジーニアス以外、パスカとゼロスは意味が良く分からなかった。

 

『行ったぞ。』

 

『よし!!』

 

この場に誰も居ないのを見謀り、エドは壁まで走った。

 

そして、その場で錬金術を発動し、壁を練成した。

 

『!?』

 

その壁は、あたり一面を覆い、窓も壁と一体化されていく。

 

そして、段々と侵食されていった。

 

『何事だ!?』

 

『どぅりゃぁああああああああ!!!』

 

教徒達の目に映る前に、錬金術で一気にぶっ飛ばす。

 

成すすべも無く、教徒達は呆気なく錬金術で作られた突起物にぶっ飛ばされた。

 

『ぐはぁ!!』

 

すぐに教徒達は気絶し、だらりと体をだらしなく脱力させた。

 

『……相変わらず無茶するねぇ…』

 

ジーニアスが、呆れ顔でエドを見た。

 

『おらぁ!行くぞ!!早くしねえと逃げられちまう!』

 

『え?だって今さっき窓を壁と一体化に……』

 

『この部屋だけだ!俺も踏み入れて視界に入れていない場所を錬金術で変形する事は出来ん!』

 

そう言って、急いでエドは走り向かった。

 

『あいつをぶん殴ぅぅううる!!!!』

 

ここから、スピーディにクエストが開始される。

 

作戦、開始

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜教祖の部屋〜

 

あの本拠地から離れ、この台所へと逃げ込んだ教祖は、

 

側近に、実力が上と思われる、

 

プレセアとチェルシーを側近にしていた。

 

『……ディセンダーを取り戻したい。』

 

教祖は、そう呟いた後、鋭い目で二人を見た。

 

二人の表情は、ほぼ無表情に近かった。

 

感情の無い、人形のようにも見えた。

 

『ディセンダーを取り戻したい。取り戻したいのだよ!!!』

 

教祖は、笑顔と苦痛に歪む顔になり、二人を見つめた。

 

『私は、彼女と愛の約束を交わした!!彼女の大切な物を、私が譲り受けた!だから!私とディセンダーが結ばれるのが必然のはずなのに!!どうして……』

 

教祖は、次にプレセアの方に表情を映した。

 

それは、とても強張った表情だった。

 

『プレセェェァアアアアアア!!!!!』

 

叫ぶように、怒りと恨みをぶつけるような声だった。

 

だが、プレセアには何の反応も無い。

 

『お前は!一時期あいつと共に居たのだろう!?ならば殺せ!!あいつの事はこの中ではお前が一番知っているのだろう!?殺せ!殺せ!!』

 

『………承知しました。』

 

プレセアは、何の躊躇いも無しに答えた

 

『そう……それで良いのだ。プレセア……』

 

教祖は、プレセアの頬をベタベタ触った。

 

やはり、プレセアは無反応だった。

 

教祖の顔は、不気味に笑っている。

 

『ディセンダーを……私達と共に世界を救うべき者を、暁の従者の女神を…奴らは、奪ったのだからな。』

 

そして、次に豹変したかのように大声で叫んだ。

 

『悪魔!!悪魔!!悪魔!!悪魔ぁああああああ!!いや、死神ィィ良い良い良いいいいいあああああああああああああ!!!!』

 

怒り狂っていた。

 

ディセンダーがエドの元へと駆け込んでいった、エドに向けた嫉妬と、

 

自分の思い通りにならないこの流れに、かなりイラついていたのだ。

 

怒り狂い、叫んでいる最中、ドアが大きな音を立てて開いた。

 

『教祖様!!』

 

一人の教徒が、慌てた様子でまた教祖の前へと現れる。

 

『大変です!この……この暁の館の……教徒が!!』

 

『………まさか』

 

教祖は、苦い顔をしていた。

 

『ほぼ大半が、5人の手によってほぼ壊滅状態となっております!』

 

『……特徴は』

 

『金髪と金色の目をした小さい子供と、白い髪をした小さい子供、赤毛の男、金髪と長髪の青年。そして…』

 

次の言葉を教徒が発した瞬間、教祖は大きく微笑んだ。

 

『……ピンクの髪の、少女』

 

『………そうか。』

 

教祖がそう言うと、落ち着いた笑顔で、少女二人の方へと振り向いた。

 

『聞いただろう?ピンクの髪の少女以外、殺せ。容赦はするな。良いな』

 

『承知しました。』

 

『承知しました。』

 

二人が同時にそう言うと、散るように駆けて部屋から出て行った。

 

『今度は逃がさんぞ……。取り戻し、再び世界を正義が成り立つ世界へと変えるのだ!!そう……絶対に……!!!』

 

教祖の目は、爛々としていた。

 

もうすぐで、もうすぐでまた出会えるのだ。

 

私と共に、世界を変えてくれるディセンダー様が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の台所 二階廊下〜

 

エドが錬金術で部屋を片っ端から塞いでいる。

 

少しでも、脱出確率を少なくする為だ。

 

『何をしている!!こいつ!!』

 

『教祖様の命令だ!!命を奪っても構わない!!』

 

教徒達の会話の後、教徒達は当たり前のように銃を取り出した。

 

『!!神様が……命を奪うことを許すのですか!』

 

パスカが、怒りの形相で教徒達を睨みつけた。

 

『黙れ!!神は正義に反する物は鉄槌を下す!!それは、生命何だろうと同等だ!!!』

 

『酷い神様も居たもんだ』

 

エドがそう言うと、錬金術で刃に変えた腕で教徒の銃を斬りおとした

 

『………!!』

 

『しばらく、眠ってもらうぜぇ?』

 

エドが楽しそうな笑顔になると、後ろで呪文が説き終わったジーニアスが叫んだ。

 

『サンダーブレード!!!!』

 

雷の剣が振り下ろされた先で、強大な魔力が教徒達を襲う

 

『ぎゃぁああああ!!!!』

 

瞬時に教徒達は気絶し、その場には教徒は一人も居なくなった。

 

『……にしても、ここも結構教徒が多いねえ』

 

ゼロスが呆れるようにそう言うと、ダオスも同意するように答えた。

 

『ああ。ここも奴らの重要拠点だ。人が少ない方がおかしいだろう。』

 

ダオスがそう言うと、振り返り一つの提案を出した。

 

『ここは、別行動するというのはどうだろうか』

 

『何?』

 

『三つのグループに分かれるんだ。』

 

ダオスの言い方に、エドは疑問を感じた

 

『三つって……、ここは五人だぞ?一つ一人のグループが出来ちまうじゃねえか』

 

『そうだ』

 

『そうだって……。』

 

呆れながらも、エドは溜息をついた。

 

そして、面倒臭くなり、ほとんどダオスに委ねるような答えを出した

 

『あー!!分かった分かった!どうせ、何か考えてんだろ?だったら仕切れよ!!ったく!』

 

『ああ。そうさせて貰うよ。まず、二人のチームはゼロス君とジーニアス君だ』

 

『『おい!!!!』』

 

二人同時に、納得のいかない返事をした

 

『冗談じゃねえぜ!なんで俺達が二人なんだよ!しかもこのちっこいガキんちょと!!』

 

『僕だってゼロスと二人きりになるのは嫌だよ!!このセクハラ独特の臭いを発する野郎を僕は認めない!!』

 

どうやら二人は仲が悪いようだった。

 

だが、ダオスは転々と話を進めた。

 

『次に、エドワード君とパスカ君。』

 

そういい終えた後、エドはしばし黙っていた。

 

ダオスがどこか去ろうとした時、エドは呟いた

 

『………てめぇは一人かよ』

 

『ああ。この後、待ち合わせしている人が居るのでね。』

 

ダオスの言葉に、ゼロスは反応する

 

『おい!俺達がクエスト中にお前はデートかよ!!』

 

『まぁ、そんなものと考えてくれれば良い。』

 

『この野郎!!』

 

ダオスの返事に、ゼロスは全く納得が行っていなかったようだが、

 

エド、また他全員は大体思い当たっていた。

 

『……やっぱり、他の仲間も居るんだな。』

 

エドがそう言うと、ダオスは少し微笑み、完全に背を向けた

 

『…仲間の友達が一人、捕まっていてね……。仲間の手助けがしたいんだ。』

 

ダオスは、ゆっくりと歩き出す

 

『僕達は、教祖を倒すのも一つの目的。だが、今は君たちはそれも同じだろう?』

 

確かにその通りだ。

 

エドは、イアハートがあのような悲劇になってから、心の中で決めていた

 

『次に、大切な仲間を助ける。それも、君たちも行うことだろう?僕達も行うからだ。』

 

『じゃぁ……尚更』

 

『一つに固まるにしては、やる事が多すぎる。』

 

そう言って、ダオスは姿を消した。

 

『!!』

 

『それでは、また後で合流しよう。』

 

そう言って、ダオスは消えた。

 

『……………』

 

エドは、しばし黙り込んでいた。

 

自分たちのするべき事は何か、それを考えていた。

 

『………行くぞ!パスカ!!!』

 

エドがそう言うと、パスカの手を引っ張って走り出した。

 

『あぅ!』

 

そのいきなりに、パスカは一度足を踏み外したが、

 

なんとかペースを持ちこたえ、走り出すことが出来た。

 

『あっ!おいおチビちゃん!お前だけずりーぞ!!コラ!!!』

 

ゼロスが叫んだ瞬間、エドの方向から物凄い勢いで石が飛んできた。

 

『ぐふぅんっ!』

 

その石は、見事ゼロスの顔に激突し、そして地面に落ちた。

 

”チビ”という言葉に反応し、心の中で溜まっていたのだろう。

 

石が、半分に砕けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の台所 大空の間(屋上)〜

 

エドワード君の作戦通りに、まず屋上を封鎖させる。

 

屋上を塞いでしまえば、完全に教祖は檻の中に入ったようなものだ。

 

屋上に近づく者近づく者、攻撃を与えれば良いのだ。

 

ダオスは、屋上にたどり着いた後、その場で立ち止まった。

 

『…………』

 

周りには、教徒達が綺麗に並んでいたのだ。

 

それは、今からマスゲームでも始めるかのように、何列にも並んでいた。

 

『……そう簡単には、行ってくれないみたいだね。』

 

そう言い終えた瞬間、まるでそれが合図だったかのように教徒達はダオスに襲い掛かった。

 

『首を取れぇええ!!!』

 

『相手は一人だ!!やってしまえ!!!』

 

『覚悟しろ!!悪の使者めぇがぁああああ!!!』

 

一斉に、教徒達はダオスに襲うかかる。

 

だが、ダオスはほとんど表情一つ動かしていなかった。

 

『………やはり』

 

腕を一つ動かした瞬間、闇の波動のような物が発せられ、襲い掛かってきた教徒全員が吹き飛ばされた。

 

『!!?』

 

その圧倒的な強さを見て、教徒達は怯んだ。

 

『………醜い人間は、とことん醜い存在だな』

 

その言葉で、一人の教徒が怒りを表し、大きく叫んだ。

 

『怯むなぁああああああ!!!行けぇえええええ!!!』

 

一人の教徒がそう叫び、動き出した。

 

だが、出てきたのは一人だけだった

 

『え?え?』

 

誰も出てこない教徒達を見て、動き出した教徒は慌てる表情をした。

 

『君が相手だね?』

 

『あれ?いや!!あの……!!!』

 

言い訳を言う前に、ダオスはその教徒の頭を掴み、

 

そして、大きく振り落とした。

 

振り落とされた頭は、大きく地面に刺さり、上半身が床に突き刺さっているような物になっていた。

 

そして、その後その教徒はピクリとも動かなかった。

 

その光景を見た教徒達は、再び動けなくなっていた。

 

『………さて』

 

ダオスが立ち上がると、再び教徒達は怯みだした。

 

『………全員………どいてくれるかな?』

 

『ひぃいいいい!!!』

 

情けない悲鳴を出して、教徒達は端へと逃げて行った。

 

圧倒的な力の差を見せ付けられ、勝ち目が全く感じられなかったのだろう。

 

一人を除いて、全員が戦闘不能となった。

 

『……………』

 

弓を持った、生気の無い目を持った少女が、ダオスを一転に見据えている。

 

その少女を見て、ダオスはただその少女を睨みつけることしか出来なかった。

 

『………私はどきません。命令ですから。』

 

そう言って、少女は弓を瞬時に取り出し、更に瞬時に弓を発射した。

 

その間、わずか0.6秒だった。

 

『!』

 

その攻撃を交わしたダオスは、別の方向から少女を見つめた

 

『貴方は、ピンクの髪でも、少女でもありませんね。殺しますね』

 

そう言って、少女は再びダオスに矢を向けた。

 

次に、ダオスはその矢を掴み、握りつぶした

 

『………なる程、想像以上に酷い事になっているな』

 

その間にも、ダオスには弓が飛んでくる。

 

やがて、避けきれなくなり、ついに一本の矢が肩に刺さった。

 

『!』

 

刺さった矢を見て、ダオスは見つめた

 

『うぉおおおおおお!!良いぞ!チェルシー様!』

 

『行け!やってしまえ!!うっひょぉおおう!!!』

 

暁の従者から、歓喜の声が上がっている。

 

当然だ。ダオスは暁の従者にとっては敵なのだから。

 

だが、ダオスが涼しい顔で矢を引き抜いた瞬間、再び沈黙が流れた。

 

『………簡単に人に矢を向けるようになったね。彼が悲しむよ』

 

『教祖様は、喜びますよ』

 

どうやら、確実に洗脳をされているようだ。

 

目が虚ろな上に、感情が全くない。

 

一度、彼女に出会った事があるが、こうなる前はかなり感情豊かで、一番少女らしい性格だった。

 

『………』

 

ダオスは、何も言えない心情でチェルシーを見つめていた。

 

だが、チェルシーは何も感情が無い。こうしている間にも矢は飛んでくるのだ。

 

それらを全て避けようにも、完全には避け切れない。

 

必ず、一本は体に突き刺さる

 

『反撃をしないの?死にますよ?』

 

『………衝撃で洗脳が解けると言うのなら、とっくにしているよ』

 

『ならば、私は攻撃を続けるのみです』

 

そう言って、再び矢がダオスに向けられる。

 

だが、ダオスの表情は余裕の表情だった。

 

『だが、君の洗脳が解ける可能性はある』

 

『?』

 

ダオスが俯きそう言うと、チェルシーは首を傾げた。

 

その瞬間、大きな風が真上から落ちてきた

 

『!?』

 

『なっ…なんだ!?』

 

その唐突な状況に、ほとんどの者は混乱した。

 

真上を見ると、空を飛ぶ乗り物がダオスとチェルシーの上を飛んでいた

 

『ダオス!!』

 

それは、バンエルティア号とは劣らない程の巨大な船だった。

 

『ルーティ。待ち合わせに遅れるとは、良い度胸をしているね。』

 

ダオスがそう皮肉そうに言った。

 

そして、次にルーティはチェルシーの方を見た。

 

目に生気が無いのを見て、少しだけ悲しそうな表情になった。

 

『……チェルシー……』

 

その表情を見たチェルシーは、その言葉に返事をするように言葉を送った

 

『………誰?』

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の台所 心臓の間(広場:重要倉庫)〜

 

巨大な扉の前、

 

多くの鍵が錠されている鉄の扉の前に、二人は立っていた。

 

『…………絶対ここに、星晶があるね……』

 

そのあからさまに大切な物を隠している扉を見て、逆にジーニアスは呆れの表情を表した。

 

『でも、こんな鍵かかっててどうすんのよ。開けようには開けられ無えだろ……』

 

『いや、簡単に開くよ』

 

ジーニアスがしれっと答えると、ゼロスが良く分からない、理解していない表情をしてジーニアスを睨んだ

 

『ああ?一から鍵を見つけていたのか?』

 

『いや、そんなのいらない』

 

その答えに、ゼロスは再び溜息を吐いた

 

『はぁぁ……ここまで来て、無駄骨かぁ……』

 

好い加減にしないと怒ろうかとジーニアスは考えたが、しない事にした

 

そして、扉の前に立ち、ジーニアスはブツブツ呟いた

 

『………何してんの?』

 

ゼロスは、それを見て魔術を唱えるのだろうと考えた。

 

『……あのねジーニアス君。どうせ奴らの事だから魔術にも耐性は絶対あるから、どうせ無駄……』

 

瞬間、ジーニアスは両手を叩き、扉に手をかざした。

 

また、その瞬間扉が発光した。

 

『!?』

 

発光した扉は、鍵が完全に破壊され、力さえあれば簡単に開く扉へと変形されていた。

 

その様子を見て、ゼロスのテンションは上がっていた。

 

『……これで、文句は無いんでしょう?』

 

心底面倒くさそうな表情をしたジーニアスと対照的に、ゼロスは満面の笑みだった。

 

『いやぁー!まさかジニちゃんも、あのおチビちゃんと同じ技が使えるなんて〜。そうなら初めから言えば良いのに〜?』

 

こんな事があるだろうから言いたくなかったんだよ。

 

とジーニアスは心の中で突っ込んだ。

 

まぁ、本を読んで理解さえすれば、難しいができない事は無い。

 

『……まぁ良いよ。とりあえず、この扉開けるよ?』

 

そう言って、ジーニアスは扉の手をかける。

 

力を入れる前に、二人は唾を飲んだ。

 

この先に、大量の星晶があるのだ。緊張しないほうがおかしいのかもしれない

 

『……さぁ、開けろよ。』

 

ゼロスが少しだけせかすように言うと、ジーニアスもいい加減にと力を込めた

 

『…よし、いち、にぃの……』

 

そして、一気に力を入れる

 

『さぁっ…!!』

 

3を言い終える前に、扉の後ろから何かが飛んできた。

 

『うぉお!』

 

大きな音と共に、大きな斧が扉に突き刺さった。

 

『こっこっこっ……この…!!?』

 

その斧には、見覚えがあった。そうだ。

 

見覚えがあった。

 

ジーニアスは、次第にまた緊張が増し、落ち着きの無い目となった。

 

『…………!!!』

 

後ろに、仲間が居るのだ。

 

助けるべき仲間が、

 

アドリビドムの一員で、一番大切な仲間

 

『ぷ…………』

 

ジーニアスが振り向いた瞬間、

 

名前の一文字以降、何一つ言葉が発せられなかった。

 

『………』

 

プレセアは、冷たい目で二人を見つめている。

 

『ちょ……ちょっとプレセアちゃぁん?久しぶりのご対面だって言うのに、……随分と恐ろしい事してない…?』

 

ゼロスがやや怯えている表情で、プレセアを見つめていた。

 

それもそうだ。プレセアの後ろには多くの暁の従者が居るからだ。

 

『………』

 

プレセアは、そのボスであるかのような位置に居る。

 

目は、以前見た目よりも冷たい目。

 

感情が、死んでいる目をしていた。

 

『プ……プレ…セア…?』

 

その状況をまだ飲み込めていない、飲み込みたくないジーニアスは、再び問いかけるようにプレセアを呼んだ。

 

だが、プレセアの返事は冷たいものだった。

 

『貴方たちはピンクの髪、ましては少女ではありません』

 

『プレセア!?』

 

更に冷たい口調で、ジーニアスは再び耳を疑った。

 

そして、目の前に居るのが本当に”彼女”なのか、心底から疑った。

 

次の言葉で、ジーニアスは凍りつくように固まることとなった。

 

『命令です。命を頂戴いたします。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の台所 神の間(教祖の部屋)〜

 

『おらおらおらおらぁあああ!!』

 

エドは、錬金術を発動し、逃げ場の無い壁を練成し続けていた。

 

『奴の動きを止めろ!!』

 

教徒がそう叫んでも、パスカの魔法と剣を合わせた攻撃により、無効とされる。

 

『エドワードさんの邪魔はさせません!』

 

二人は、教徒達を蹴散らし、ある部屋へと向かっていた。

 

恐らく、そこに目的があるだろうと考えていたからだ。

 

『邪魔だオラァ!!』

 

その為に目の前に居る障害物は、全て殴り飛ばしていった。

 

この先に、教祖の部屋があるかどうかは不明だが、

 

『この先には行かせるな!!教祖様を守るのだ!!』

 

『良かったぜ。お前らが馬鹿野郎で』

 

教徒達が部屋を守ろうと後ろへ下がっているところ、エドは錬金術を使おうと両手を叩いた。

 

『来るぞ!!』

 

教徒達は構え、下を、右を、左を、天井を見つめた。

 

そしてエドはそのまま突進し、教徒達を拳一発でぶっ飛ばした。

 

『ぁああああ!!』

 

誰も正面を見なかった為、突破は全く難しくは無かったという。

 

『ありがとよ。こっから先にあの馬鹿が居るんだな。』

 

気絶している教徒達に、見下すような目で悪い笑みを浮かべながら、エドは言葉を送った。

 

言葉を送られた彼らを見て、パスカは少し可愛そうな目で見ていた。

 

そして、エドがまた走り出した為、パスカもそのまま走り出すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の台所 大空の間(屋上)〜

 

『!!』

 

チェルシーは、標的を変えたようで、弓を構えて上空に飛ぶ乗り物に弓を向けた。

 

弓は、大きく船に突き刺さり、貫通した。

 

『なんっ…て馬鹿力だい!!』

 

ルーティが突き刺さった矢を見て、そう感想を述べた。

 

邪魔を判定したのか、何度も乗り物に弓を構えて攻撃している

 

『こん…の!止めろ!!チェルシー!!』

 

ルーティは、乗り物から飛び降りて、ナイフをチェルシーの弓にぶつけた。

 

『!』

 

真っ二つになった弓は、もう使えないだろう。

 

そう考えた矢先、教徒の群れの中から弓が飛んできた。

 

『これを使ってください!チェルシー様!!』

 

新しい武器を、教徒達が差し出したのだ。

 

これではキリが無い。

 

そう考えたルーティは、飛び降りた勢いに任せ、着地した瞬間、チェルシーに向かった。

 

『るぅあ!!』

 

刃をチェルシーの弓にぶつけようとした瞬間、チェルシーは弓を捨て、懐からナイフを取り出し、応戦した。

 

接近戦は苦手だと思われていたが、それは誤算だったようだ。

 

『……弓を捨てるような事するなんてね。本当に悲しむよ』

 

『何がですか?』

 

そう答えた瞬間、ルーティの目つきが変わった。

 

そして、ナイフを力で弾き飛ばし、自分はバック宙をしてルーティから一時離れた

 

『会えば分かるだろうね!』

 

その瞬間、今度はナイフを飛ばした。

 

チェルシーは、飛ばされたナイフを避け、右の方向へと飛んだ。

 

『捕まえた』

 

動いた瞬間、チェルシーは動けなくなっていた。

 

ダオスが、見えない波動の腕で掴んでいるのだろうか。

 

金縛りとも言える。魔術を使っているのだろう。

 

必死に振りほどこうとも、首しか動かせていなかった。

 

『………無駄だろうと思うよ。君の腕力では、私の魔術には勝てない』

 

だが、洗脳により力は増しているようだ。

 

ガタガタと、次第に解くように動くようになってきた。

 

『させないよ』

 

さらに魔力を出そうとするが、チェルシーはまた、動かそうと力を出している。

 

教徒達は、チェルシーに応援のコールを送った。

 

逆に、ダオス側にブーイングを送った。闘う気はゼロのようだ。

 

『……本当に忘れたのかい?』

 

ルーティが、少し悲しそうな表情で、チェルシーを見つめていた。

 

チェルシーが、ルーティを睨みつけている。

 

『……あんたと過ごした日、一緒に闘った日々、……私にとっては良い思い出だったんだよ。』

 

『記憶に……ございません』

 

そういわれた瞬間、ルーティの表情が険しくなった。

 

『……………』

 

何か、決心がついたのか

 

上の船に目を向け、声を出した。

 

『やっぱり、……アンタが一番必要みたいだよ』

 

そう言うと、しばらくして船の中から人の手が現れた。

 

『………そうか。すまない事をした。』

 

その声が、チェルシーの耳に入った瞬間、チェルシーの表情が少し変わった。

 

聞いた声、その声を聞いた瞬間、脳の中に閉じ込められていた”何か”が、

 

殻を破って現れ始めたのだ。

 

『このような事態にも気付かず、暁の従者の恐ろしさも知らず、のうのうと王族に就いていた私を許してくれ』

 

更に声を聞く、すると、また殻にヒビが入るようだった。

 

止めろ

 

チェルシーの脳裏に、その言葉が響いた。

 

『辛かっただろう。……チェルシー』

 

姿が現れ、乗り物から飛び降り、

 

ウッドロウはチェルシーと同じ屋上の地へと着地した。

 

『……………!!!』

 

姿を見た瞬間、チェルシーは発狂した表情になった。

 

表情がこわばり、だが一切声を発していない。

 

後悔と、恐怖が混ざった表情だった。

 

『――ッ!!』

 

必死に、何かを振りほどこうと、急激に暴れだす。

 

頭の中から、記憶を囲んでいた殻を突き破るのを防いでいるようだ。

 

『……………』

 

ウッドロウは、まだ悲しそうな表情だった。

 

その表情を見ると、チェルシーの胸の奥から、ナイフでえぐられていくように傷が広がる勢いだ。

 

痛みが、秒ごとに二乗し、増えていくようだった。

 

『おい、どうなってるんだ?』

 

『チェルシー様!そんな奴なんざ殺してやってください!!』

 

男女の、教徒の声が響く。

 

『うるっさい!!黙りな!!!!』

 

ルーティが、何もせず応援だけする教徒に喝を入れた。

 

『貴様に従う筋合いなど無い!!』

 

『そうだ!異端な正義を行う貴様らなど滅ぼされる運命なのだ!!!』

 

『チェルシー様!!惑わされるな!こいつらは、こいつらは悪の化身だ!!!』

 

教徒の言葉により、チェルシーの心情は再び、洗脳へと染まっていく。

 

それが、表情を見て分かった。

 

だが、ウッドロウがこちらに近づいてくる後とに、また別の洗脳の敵が攻め込んできた。

 

『……止めろ………』

 

チェルシーの声が、また響いた。

 

低い、恨みが混じっている声だった。

 

何の恨みだろうか、今のままで居られなくする恨みだろうか。

 

だが、それは私たちには望まないことだ。

 

彼が近づけば近づくほど、チェルシーは涙を流した。

 

胸の痛みに耐えられず、怪我をして無く子供のようだった。

 

『…………っ!!』

 

歯を食いしばり、チェルシーは俯いた。

 

最初、ウッドロウはチェルシーの行方不明には疑問を感じていたが、

 

どこか、妙な信頼を感じており、旅に出たか、修行に出たと考えていた。

 

だから、ルーティが報告にくるまでは、このような事は思いもしなかったのだ。

 

『すまない』

 

ウッドロウの体が、チェルシーの身体を包んだ。

 

『!!!!』

 

チェルシーが、暴れるように拒絶する。

 

心の中の傷が、膿んで激痛が走るように

 

チェルシーの表情には、苦痛に歪んでいた。

 

だが、ウッドロウは離さなかった。

 

『ウッドロウ!!これはアンタの責任だけじゃない!だけど、アンタの責任もあるんだ!』

 

ルーティは、叫ぶようにウッドロウに言葉を送った。

 

『チェルシー!!アンタにも責任がある!!だけど、ウッドロウはそれを包み込もうとしてるんだ!拒むな!受け止めろ!!大好きな人が、アンタにここまでの事をしてるんだぞ!!!!』

 

『…………!!!!!』

 

ルーティの言葉が、チェルシーの心の中に入った瞬間、チェルシーの心の中が変わった。

 

殻が破壊され、中の記憶が広がるように心を満たし。

 

その中に、最も多くの思い出が溢れた。

 

一番大好きな人の顔が、体が、思い出が

 

心の中で満たされ、そして、現実の目の前にも存在していた。

 

 

 

 

 

チェルシーの目は、正常となった。

 

そして、多くの涙を流し、手をウッドロウの背中に回した。

 

表情は、柔らかく、そして今までよりも嬉しそうな表情だった。

 

だけど、笑顔ではない。泣き顔だ。

 

だけど、今まで以上にとても、とても幸せそうな顔だった。

 

『…ウッド……ロウ……様』

 

しっかりしがみついて、離れない。

 

チェルシーの手は、身体は、完全に正常に戻っていた。

 

『チェルシー様!!!目を覚ましてください!!!』

 

教徒の一人が、チェルシーに向かって言葉を贈った瞬間

 

チェルシーの目は見開き、教徒の方へと向かった。

 

そして矢を取り出し、教徒達に向けた

 

『疾風!!!』

 

『ああああああああああああああああ!!?』

 

矢が放たれた瞬間、大きな風を起こし、教徒達を吹き飛ばした。

 

まるで、タンポポの胞子が空へと舞って行くようだ。

 

『チェルシー様!?』

 

教徒が疑問の声をぶつけると、チェルシーの口元は緩み、初めて笑顔になった。

 

『私は!チェルシー様じゃない!!ウッドロウ様に仕える、チェルシー・トーンだい!!!』

 

目は爛々としていて、真っ直ぐを見渡すように見ていた。

 

振り向いて、ウッドロウの顔を見ると、チェルシーは満面の笑みになった。

 

その笑みを見て、ウッドロウも少し笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の台所 心臓の間(広場:重要倉庫)〜

 

多くの部下を従えているプレセアを見て、ジーニアスは愕然とした。

 

目の前に居るプレセアには、もう僕の知っているプレセアが居ないと実感したからだ。

 

もう二度と、僕の前には僕の知っているプレセアは映らないだろう。そう感じた

 

『やりなさい』

 

プレセアがその一言を発した瞬間、プレセアの部下は全員、二人のアドリビドムに襲い掛かった。

 

『……!!!』

 

ジーニアスの表情は変わる。

 

『やってくれるじゃないの……子猫ちゃん』

 

ゼロスが剣を引き抜こうとすると、ジーニアスは怒鳴った。

 

『駄目だ!!こんなの……!!!』

 

だが、それを気にも留めずにゼロスは剣を振り回した。

 

なるべく、傷をつけないよう峯を狙って、気絶させるように

 

『俺様と殺しあうなんざぁ、百年早いぜぇ』

 

ゼロスが微笑して気絶した教徒達を見下ろすと、次に大きな斧が襲い掛かってくる

 

『おおっとぉ!』

 

だが、その斧を簡単に避け、ゼロスは更に後ろへと退がり、ジーニアスの元へと辿り着いた。

 

『ガキんちょ。お前は何もしないつもりかあ?』

 

『………』

 

何も、言えない状態だった。

 

それを見たゼロスは、しばし呆れの息を吐いた

 

『んじゃ、俺様一人で目立っちゃおうっかなー?』

 

そう言った矢先に、新しく教徒達にゼロスに襲い掛かる

 

だが、子供に相手するようにゼロスは、簡単に刀の峯で殴り飛ばした。

 

プレセアには、一切の傷を合わせないよう、簡単に身軽に避け続けた

 

『…………』

 

攻撃されない。そうプレセアはすぐに悟った。

 

そして、容赦なくゼロスに斧を振り下ろした

 

『おぉっとぉ』

 

だが、ゼロスはその攻撃すらすぐに簡単に避けた。

 

『っと』

 

さらに、追い討ちをかける攻撃さえも避け、また、

 

『しょっと』

 

もう一つ、三連続のコンボ攻撃の全てを避けた。

 

だが、

 

『!』

 

避けたその後に、教徒が後ろからゼロスの腕を掴んだ

 

『よくやりました』

 

プレセアがそう呟いた矢先、再び斧を振り上げた。

 

『おいおい……マジかよ』

 

ゼロスがそう呟いた。そして

 

その呟きをジーニアスが耳にした瞬間、顔を上げた。

 

 

プレセアが、敵に見えたのだ。

 

『うわぁああああああああ!!!』

 

ジーニアスは、ペンで円陣を描き、未完成の練成陣を描き、プレセアとゼロスの間に壁を練成した

 

『!?』

 

だが、それは未完成の上で、強度も脆く形もいびつだった。

 

しかし、それはゼロスがプレセアの攻撃を避けるのには十分だった。

 

一瞬の驚きと共に、動きを止めたプレセアを見て、ゼロスは微笑み、

 

肘うちで、腕を掴んでいた教徒を殴り飛ばし、プレセアから一定の距離まで移動することが出来た。

 

『…………』

 

プレセアは機嫌の悪い表情をして、ゼロスを睨みつけた。

 

微かな反応だったが、感情が現れていることを知った。

 

その感情が存在することを知ったジーニアスは、少しだけ安心した表情になった

 

『……………』

 

表情に柔らかみが現れたジーニアスは、後ろを振り向き、扉へと向かった。

 

『鉄、木、錆び……』

 

扉に手を触れて、ぶつぶつと呟いていた

 

『……何をしているのですか?ジーニアス』

 

プレセアがそうジーニアスに告げた瞬間、ジーニアスはペンで手に練成陣を描いた。

 

そして、手を合わせ、錬金術を発動した。

 

『!!!』

 

扉が、速い速度で分解され、だんだんと消えていく。

 

『止めさせてください』

 

プレセアがそう命令した瞬間、ゼロスが再び剣を構えた

 

『今度は……甘ちゃん攻撃は通用しないぜ?』

 

目は、真っ直ぐと前を見ている目で、

 

仲間を完全に信頼している目だった。

 

だが、ジーニアスの目は違った。

 

『………』

 

目の前の大量の星晶を見て、ジーニアスは思った。

 

これ……全部人間の命なんだ…。

 

主成分は、エドが言うには賢者の石と同じ

 

賢者の石は、人間の命のみのエネルギー体だ。

 

ならば………

 

『おぉっとぉ!!』

 

襲い掛かってきた教徒達を蹴散らし、ゼロスはジーニアスに言葉を送る

 

『ガキんちょ!終わらせるならとっとと終わらせてくれよ!俺様が格好悪くなる前によぉ!!』

 

『うん。すぐに終わらせる』

 

そう言って、身構えをして、星晶の前へと立った。

 

エドから一度だけ教わった錬金術

 

コツと基本さえ行えば、微力ならでも行うことは可能だ。

 

魔力を使わない便利な魔法だと思っていた。

 

そして。今もそう思っている

 

今、ジーニアスがやろうと思っていることは

 

『さよなら』

 

『え?』

 

その突然の一言が小さすぎて、ゼロスには聞こえなかった。

 

そして次に、ジーニアスは思いっきり振り向いて、そこに居る全員に笑顔を見せた。

 

『ありがとう』

 

唐突の感謝の言葉に、ゼロスは疑問を抱いた。

 

それ以上に、教徒とプレセアにも疑問を抱かせていた。

 

だが、ジーニアスは笑顔でまだ言葉を連ねていた。

 

『ゼロス!ありがとう!僕を守ってくれて!ありがとう!ここまで文句を言いながらもついてきてくれて!仲間で居てくれて!!』

 

大きな声で、明るい声のそれは、ゼロスに疑問を抱かせた。

 

何を言っているんだ?

 

何をしようとしているんだ?

 

その大量の星晶を、破壊する方法が分かると言ったから、ゼロスはそれは任せると言った。

 

ここに来るまで、そんな会話をしていた事を思い出した。

 

『プレセア!ありがとう!君のおかげで、僕の生き方はとても楽しかったよ!君と居ると、すごく楽しかったんだ!』

 

プレセアは、そんな言葉を聴いても、全く眉一つ動かさなかった。

 

ただ、その星晶に何をする気だ?としか疑問を抱いていない。

 

『でもね、そんなの全てこのちんけな石に支配されているんだね』

 

急に、表情のトーンが落ちた。

 

感情が、瞬時に変わった。異常とも取れるその行動に、プレセアと教徒達は下手に動けないで居た。

 

『……おい?』

 

ゼロスが、疑問の声でジーニアスに問いかける。

 

だが、ジーニアスは言葉を再び発し続ける。

 

石の方に、目を向けながら

 

『こんなもの無ければ良かったんだよ…。そうすれば、そうすれば戦争だって無かったし、貧困で苦しむ人も居なかったんだ。』

 

『……何を…する気ですか?』

 

最後に、ジーニアスは再び笑顔になった。

 

『そうすれば、きっと、君も笑ってくれるよね?』

 

言い終えた瞬間、瞬時に手を叩き、錬金術を発動した。

 

『!?』

 

石が、紫色に発光した後、黒色の光へと変わっていく

 

星晶の効力が、徐々に破壊されている証拠だった。

 

何をしたのか分からない。だが、これは一大事だという事をプレセアは悟った

 

『殺しても構いません!やってください!』

 

プレセアがそう叫んだ瞬間、ゼロスは睨みつけるように魔術を唱えた。

 

『スプレッド!!!!』

 

『!!』

 

大量の水が、教徒達に襲い掛かる

 

『来れるもんなら、来てみやがれっ!!!』

 

ゼロスの中には、焦りと熱血の感情があった。

 

ジーニアスが何をしているのか、どこか嫌な予感もあってか

 

剣を握る拳が、強い握力に徐々になっていく。

 

 

 

 

 

 

 

人間の命で構成されている物質を壊すには、こうするしかない。

 

分解するにも、人間の命を分解するには今のジーニアスの技術では不可能だ。

 

ならば、錬金術の別の方法を使うしかない。

 

―――自信の魂を代償に、星晶に送りつける

 

人間の命のみを材料にしているならば、エルフの血は受け継がれないはずだ。

 

ハーフエルフのジーニアスは、半分しかエルフの血は受け継がれていないが、それでも十分だった。

 

錬金術を行った瞬間、自身の身体に瞬時に違和感を感じた。

 

自分が、自分で無くなるような

 

自分の中身が、だんだんと空っぽになるような。

 

内臓や脳みそごと、あちらに持っていかれそうな。

 

そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

真っ白い空間の中に、大きな扉が一つ

 

その真ん中で、ジーニアスは立っていた

 

辺りを見渡しても、地平線ばかりが続く世界には、脱帽をした。

 

ここはどこだろうか。

 

死後の世界だろうか。なら自分は、あの錬金術に耐えられなかったのだろう。

 

笑える話だ。錬金術に破れた無知な小さい錬金術師が、錬金術に失敗し死亡

 

弱い者が良く死ぬ言い訳だ

 

≪お前には、錬金術を使う資格もない≫

 

扉から少し離れた場所に、透明人間とも言えるような存在が、そこに立っていた

 

『うん。だろうね』

 

≪ここで永遠に、彷徨い続けるが良い≫

 

そう、透明人間が呟いた瞬間、大きな扉が徐々に開かれていった。

 

これから先が、死後の世界だろうか。

 

不思議と、後悔は無かった。

 

この扉の向こうには、何があるのだろう。

 

きっと、人間が知らない事が沢山あるのかもしれない。

 

≪……ここまで驚かない子供だったか?≫

 

透明人間は、不思議そうな表情になっていた。

 

『僕も、内心自分に驚いているよ。』

 

そう笑顔で呟いた後、透明人間も笑った。

 

そして、僕の前から姿を消した

 

さようなら、ロイド

 

君と会えて楽しかった。

 

さようなら、プレセア

 

君と一緒に居て、楽しかった

 

さようなら、エドワード

 

僕達に、僕達の世界から生き残る力を与えてくれてありがとう

 

『ありがとう』

 

最後の言葉は、そんな呆気ない言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の台所 心臓の間(広場:重要倉庫)〜

 

全ての事が終わった時には、星晶は全て破壊されていた。

 

それと同時に、ジーニアスは動かなくなっていた。

 

ピクリとも動かない身体

 

それを見て、ゼロスは無表情で見下ろしていた

 

『…なんて事を…』

 

プレセアは、心底失望したような声で二人に向かって吐いた。

 

全てを破壊された暁の従者は、これから先はどうなるのだろうか。

 

こいつらが壊した

 

こいつらが私達の宗教の未来を壊したんだ

 

『あ……あああ…』

 

複数の教徒が、怒りと憎しみの念を出してゼロスを睨みつけていた

 

『お前ら……お前らぁあああああ!!!!』

 

その感情に任せて、教徒のほとんどがゼロスに向かって武器を持って襲い掛かった。

 

ほとんどの者が殺気を帯びており、簡単に人なんて殺せるのだろう。

 

一人がゼロスの目の前まで辿り着いた。その瞬間、

 

一瞬よりも短い時間の中で、その教徒の両腕が切り落とされた

 

『……!?』

 

更にその瞬間、両足も切り落とされ、だるま状態となった。

 

だるまとなった教徒は、そのまま地に這い蹲り、最後にゼロスに蹴られた。

 

その、猟奇的な行為に教徒全員は、その場から動けなくなっていた

 

『……あーあ。こんのガキんちょ。俺達の為に死んだんだなぁ。やってくれたな』

 

いつもと変わらぬ口調で、ゼロスは淡々と語り始めた。

 

『ったく。ガキのくせにいっちょ前に格好つけやがってよぉ』

 

ゼロスは、動かないジーニアスを優しい目で睨みつけて、剣を鞘に戻した。

 

そして、顔を上げ、教徒達とは別方向を見て、背中を見せていた。

 

『……さぁーて、お前ら。俺様のハニーをこんな目に合わせたんだ。』

 

ゼロスは振り向いた。

 

『覚悟は出来てんだろうなぁ?』

 

それは、今までとは見た事の無い顔だった。

 

目は見開き、恨みと怒りの向こう側まで辿り着いた猟奇的な表情を超えていた。

 

誰一人と叶わぬような圧倒的迫力に押されながらも、プレセアは前を向いていた。

 

『……多くの人に一度に攻め込まれたら、貴方もひとたまり無いのでは?』

 

『やってみろよ。ブス小娘』

 

怒りの篭った憎まれ口を叩きながら、ゼロスは答えた

 

その言葉を真に受け、プレセアは教徒に指で指示をした。

 

指示をされた教徒達は、指示通りにゼロスに特攻した。

 

信じる物に完全にしがみ付いた答えに従うような光景。それが一番当てはまる光景だった。

 

だが、それもすぐに地獄へと変わる。

 

ゼロスに襲いかかる一人一人が、腕を切り落とされ、足を切り落とされ、目を失ったりもした者も居た。

 

だが、誰一人死んで居る者は居なかった

 

『大丈夫。殺さねぇ、殺さねえよぉ。永遠に面白い姿で生きて苦しませるほうが面白えしよぉ』

 

今、ゼロスの脳には”正気”というものは無い。

 

あるのは、”猟奇”と”怒り”だった。

 

次々に、教徒達は腕や足や目や鼻を失っていく。

 

それをただ見ているだけでは出来ず、プレセアもゼロスに襲い掛かった。

 

『これ以上、好きにさせません』

 

『あっそ』

 

ゼロスは、プレセアの斧を避け、次の瞬間

 

『!』

 

プレセアの腹に一発、蹴りを喰らわせた

 

『プレセア様!!』

 

『プレセア様ぁ!?随分ご立派な名前を貰ったもんだなぁ!!』

 

ゼロスの表情には、プレセアに対しても怒りの表情を向けている。

 

更に襲い掛かってくるプレセアに、ゼロスは次につま先を思い切り揚げ、つま先でアッパーをした

 

『…っ!』

 

『良いか!?よく聞け人形!!!』

 

よろけたプレセアに向かい、ゼロスは次の攻撃に移った。

 

『てめぇは今、仲間を殺したんだ!!!ロイド君が一番憎んでいる、仲間殺しをお前はしたんだ!!いや、ロイド君だけじゃない、俺を含めたアドリビドム全員のだ!!お前が、ジーニアスを殺したんだよ!!!』

 

言い終える前に、ゼロスはプレセアの頬に拳を振り、思い切りぶん殴った。

 

その時、プレセアの脳の片隅で、ある光景が思い浮かんだ

 

 

 

 

 

≪良いか!!俺はなぁ、てめぇのような機械みてぇな無愛想なガキは嫌いだ!!!二度と俺に声をかけるな!!!!!≫

 

それは、エドに殴られたときに言われた言葉だった。

 

≪何が起こってもその無表情のまま、ただ済ますようなてめぇがムカツク!!≫

 

エドに言われた言葉

 

前に、村の人たちにも一人や二人に言われた事がある言葉だった。

 

だが、私は今まで言われた言葉よりも深く、大きく刺さった。

 

何故だろうか。答えは分かっているのではないか?

 

エドは、あの時弟を失いかけた。いや、失ったと思われていた。

 

だが、エドは何があっても前だけを見て、アルを助け出そうとしていた。

 

自分にも、あの勇気と神経が欲しかったんだ。

 

持っていない物を持っている者、その者に拒絶された苦しみが、大きくのしかかったのだろう。

 

だから、自分はもう少しだけ素直になろうか。

 

そう考えたのだ。そうすれば、アドリビドムにも、村の皆にも親しくなれるはずだろう

 

少しだけ、私も止まっている時間が動き出すのでは無いだろうか。そう考えたのだ。

 

≪大丈夫さ!何事もすぐには成長しない。ゆっくりと時間をかければ良いんだ。成長ってのは、そんなもんなんだ≫

 

ロイドが、私に言ってくれた言葉だ。

 

ここからだ、自分の感情に興味を持ち始めたのは。

 

≪プレ…プレセア……プ……プレセアも……その……一緒に………≫

 

ギルドに一番最初に誘ってくれたのは、ジーニアスだった

 

まず、コンフェイト大森林でリフィルと同行してから、どうするかは考えようという話になっていたが、

 

最終的には、アドリビドムのギルドへと入ったのだ。

 

仲間

 

アドリビドムになったからには、そう思うのも当たり前だろう。

 

ギルドに入ったから、沢山の友達が出来た

 

アドリビドムという、素晴らしいギルドに入ったのだ。

 

その一番最初の発端は、ジーニアスだった。

 

それが、目の前で動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

プレセアの目から、雫が流れ落ちた

 

一粒一粒が、大きな思いの篭った大きな思いだった。

 

表情は無表情だったが、涙はいくつも流れた。

 

『…………』

 

その一つ一つの涙を、プレセアは手の上に落として、地に落とさぬようにしていた。

 

落としてはならない物だと思い込み、心の中に、遅い時にようやく何か殻が破れたように。

 

『…………』

 

その様子を見たゼロスは、少し落ち着いた表情になっていた。

 

だが、決して剣は鞘に戻さず、そのまま戦闘体性に入っている。

 

『………私は……』

 

プレセアがそう呟いた瞬間、プレセアの足は動き出した。

 

ゼロスの方へと向かうかと思い込んだが、違う方向へと向かった

 

動かない、ジーニアスの遺体の方へとだ。

 

動かないジーニアスへとたどり着いたら、その場で屈み、髪の毛を掻き分け、顔を覗いた。

 

虚ろな目だった。眼球が乾かないように、瞼を下ろしてあげた。

 

そうしている間にも、涙は止め処もなく流れた。

 

『プレセア様…!!何をしているのですか!!』

 

教徒が、叫ぶように、プレセアをこちらに引き戻すように叫んだ。

 

『こいつらは敵でしょう!?ならば……ならば殺すべきです!先ほどまで、貴方はそうおっしゃっていたでは無いですか!!』

 

殺す

 

その言葉を聴いた瞬間、プレセアは俯きながら、焦り、ジーニアスを庇う格好をした。

 

それは、息子を強大な敵から庇う母親のようだった。

 

大きく手を広げ、ジーニアスに向かう攻撃を全て自分で受け止めようとしている体位で、ジーニアスを強く守っていた。

 

『………プレセア様?』

 

洗脳が、解けた

 

教徒達は、やばいと感じ、銃を取り出した。

 

『やれ!!』

 

一人の教徒がそう叫んだ瞬間、ゼロスは銃を持った男の手を切り落した。

 

『あぁああ!』

 

男の悲鳴が辺りに響く、だが、ゼロスは冷血な表情をしていた。

 

『来るなら来いよ。もうプレセアちゃんは、俺様達の仲間だぜ。掛かってくるなら、今度はこいつらみたいには済まねぇ。殺す気で行ってやんよ』

 

その言葉を吐いた瞬間、辺りは静まり返った。

 

すると、全員はほとんど悔しい表情をした。と同時に

 

全員、自分の身が可愛い者が為に武器を全て捨てた。

 

そして、その場から急いで逃げ出した。

 

『ああ…あああああああああああ!!!!』

 

逃げ出した教徒達を目で追って、ゼロスは剣を鞘に閉まった。

 

これで、もう俺達のする事は無いだろう。

 

もうすぐで、エドちゃん達も帰って来る。

 

『帰るぜ。プレセアちゃん。ジーニアス君』

 

ゼロスはそう言って、ジーニアスを担いだ。

 

ジーニアスの身体は、ものすごく軽かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜暁の台所 神の間〜

 

『追い詰めたぜ。変態牧師』

 

エドが、皮肉たっぷりの言葉を浴びせ、教祖に告げた。

 

『もう逃げられねぇぞ。この館の出口全て封鎖した。俺の術じゃねえと永遠にお前は館から出られない。』

 

教祖が振り返ると、満面の笑みとなり、エドではなくパスカの方へと向いた。

 

『ディセンダー様はどこだ?ディセンダーを出せ』

 

『違う』

 

パスカは、堂々と答えた。

 

すると、教祖の表情は変わった。

 

『……何が違うのだ?』

 

『違うよ。貴方たちが攫ったのは、本物のディセンダーじゃない。本物は……私よ。』

 

真っ直ぐと、教祖の方へと向いた。

 

教祖は、パスカの答えに目を見開かせた。

 

『な……な…ならば……本当に……我が宗教にも…』

 

教祖は、本物のディセンダーが来た事に歓喜した表情をしていた。

 

だが、パスカの表情は怒りに燃えていた

 

『貴方は間違っている!!!』

 

大声で教祖にそう発言した。

 

すると、教祖の表情は、疑問と恍惚の表情をしていた

 

『何がディセンダー様の教えの通り!?何が世界の秩序のままに!?世界なんて……ディセンダーなんて……何一つ正しい事をしていないよ!』

 

それは、ほとんど自虐に近かったが、本心の答えだった

 

『何を言っておられるのです……。ディセンダー様は、世界を正す為の存在なのでしょう?一体、それのどこが間違っているのですか?』

 

教祖は、一体何を言っているのか分からない。いや、自分の都合の良い答えしか望んでいないようだった。

 

『貴方は自分の都合の良い事しか見ようとしない。望もうとしない……。だけどそれは、世界も同じ。』

 

パスカがそう言うと、教祖は再び舞い上がったような表情になる

 

『そうでしょう!やっぱり私は間違っていなかった!間違っていたのは、世界の政府!国だぁ!!』

 

『政府も国も自分の都合の良い事しか見ようとしてねぇだろうがぁ!!!!』

 

エドがそう叫ぶと、怒りの表情で教祖は睨みつけた

 

『黙れぇ!!!貴様に発言する権利など、微塵も無いわぁ!!!!』

 

ディセンダーを攫った張本人として、エドは特に怒りの対象なのだろう。

 

剣を引き抜き、エドに突きつけた。

 

『違う。エドワードさんの言う通りなんだよ。』

 

パスカは、発言を続けた。

 

教祖は、その言葉でもっと驚きの表情をした。

 

『皆、自分の都合の良いものしか見ようとしてないの。それは世界だって世界樹だって同じ。ディセンダーだって……。だから、そもそもディセンダーに頼ること事態間違っているのよ』

 

自分の存在を全否定しているその言葉に、教祖は呆然としている

 

『神様なんて居ない。居たとしても、自分の事しか考えないはずだよ。だから人間は……神様の我がままに全力で抵抗しなくちゃいけないの』

 

『黙れ』

 

『人間に必要なのは、依存じゃなくて成長なんだよ。そして、共生。皆が都合よく行うには、人間自身が考えなくちゃいけないんだよ』

 

『黙れ』

 

『だからそもそも……偶像を立ててそれにばかり頼るなんて事は、絶対に間違って……』

 

『黙れ!!黙れ!!黙れぇええええ!!!!』

 

自分の思い通りでない世界には生きられない男。

 

その男は、ディセンダーの発した正論に耐え切れず、パスカの首を絞めた

 

『!?』

 

『せっせっ世界は!!私、私の為に動いて欲しい!!動いて欲しいのだ!!だから!!ディセンダーという強い存在が居なくては駄目だ!!駄目なんだ!!欲しい!!欲しいんだ!!皆、皆がすごく欲しいんだ!!』

 

『ふっ……ざけんなぁああああ!!!!』

 

その我がままな言い草に、エドはついに頭がはち切れんばかりに怒りが爆発し、機械鎧を刃に変えて突進した。

 

教祖は片手でその刃を受け止めた。

 

『!?』

 

腕を貫くはずが、硬い音を立てて受け止められた。どうやら鉄が入っているようだ。

 

『その為に……為に…お前は邪魔だぁああああ!!!!』

 

腕に仕組んだ鉄から刃が現れ、エドの機械鎧を弾き飛ばした。

 

飛ばされたエドは、その場で体性を整え、再び教祖に突進した

 

『てめぇの我がままの為に!!教徒達はラザリスに殺されたのか!てめぇの我がままの為に!イアハートは人生を滅茶苦茶にされたのか!てめぇの我がままの為に!俺達の仲間は脳みそをいじくられたのかぁああ!』

 

『当たり前じゃないか!!』

 

狂っている

 

悪魔とか、キチガイとか言う種類じゃない。

 

ずば抜けて、こいつの頭は終わっている

 

『その腐った頭……叩き潰してやるよぉおおおお!!!』

 

エドは、走りながら腕を振り上げ、そのまま突進の勢いを活かし、教祖の顔に拳を入れた。

 

手ごたえのあった殴りは、教祖を思い切りぶっ飛ばし、壁にぶつかった。

 

だが、壁にぶつかった瞬間、瞬時に体性を整え、教祖の目は別の方向を睨みつけた

 

『!?』

 

教祖は、パスカの方へと目を向けたのだ。

 

『キャッ!!』

 

凄い速さで教祖はパスカを押し倒し、顔を近づけ、怒涛の声を上げた

 

『言え!!暁の従者は正しい宗教だと言え!!言うのだ!!言え!!言え!!』

 

『言えません!』

 

『言え!!言え!!言えぇえええええええ!!!』

 

『言え……』

 

パスカは、一度息を飲み込んでから、大きく返事をした

 

『言えません!!』

 

『ぅあおおぁおおおお!!!』

 

教祖は、腕の刃をパスカに突きつけ、パスカの頭に突き刺そうとした

 

『……!!!』

 

パスカは、襲い掛かってきた凶器に怯え、目を大きく瞑った

 

 

 

 

瞼の向こうに見える世界は、真っ暗だった。

 

暗闇の世界で、パスカは一つ、疑問を感じた。

 

頭に、刺された感触が無いのだ。

 

今、私は死のうとしていたのでは無いか?

 

ゆっくりと目を開けると、そこに映っていたのは天井だった。

 

暁の従者のマークが描かれた。天井

 

少し、顔を横にずらしてみると

 

そこには、虚ろな目で教祖が居た。

 

その後ろには、エドが居た。

 

エドの機械鎧の刃が、教祖の背中から腹にかけて突き刺さっている。

 

『…………エド…ワード…さん?』

 

その光景に、パスカは愕然とした。

 

エドは、哀しい顔で教祖を刺していたのだ。

 

教祖は、動かない。死んだのだろうか。

 

いや、死んでいるのだろう。ピクリとも動かない。

 

エドが刃を教祖から引き抜くと、大きな音を立てて教祖は倒れた。

 

『大丈夫か。パスカ』

 

エドがパスカに言葉を送ると、パスカは大きく頷いた。

 

『そうか。そりゃ良かった。』

 

エドは、少しだけ笑顔になり、パスカに見せた。

 

次に、倒れている教祖を見下ろして、また哀しそうな表情になる。

 

その後、再びパスカの方に目を移して、再び微笑んだ。

 

『……任務は終わりだ。帰るぞ』

 

そう言って、エドはパスカに背を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜コンフェイト大森林〜

 

ダオス一行は、既にやる事は終了していた為、外で集合していた。

 

中に、見た事無い二人が居て、一人が気品のある男にベッタリなのだが、得にエドは気にも留めなかった。

 

ダオスは、微笑んでエドに向けて顔を向けた

 

『……君には、感謝しても仕切れない程の恩があるようだね。』

 

『…へー。そりゃぁそりゃぁ』

 

エドは、適当に流した

 

『これからも、エドワード君との連携は繋がったままだろう。今度は、君たちのギルド…アドリビドムにも同意の上で、同盟を組まないか?』

 

エドは、その話を聞いて、目を瞑って答えた

 

『……俺との連携は、続いても構わない。だが、アドリビドムには伝えない。』

 

『え?ちょっとそれどういう事よ』

 

ルーティが、気に食わない様子でそう質問をした。

 

『……多分、必要無えだろうからよ』

 

その時のエドの表情は、少しだけ寂しそうな表情だった。

 

だが、少しだけ笑顔になっていた。

 

自分の所属しているギルドに対しての、大きな信頼を持っている証拠だろう。

 

何の迷いも無く、エドはそう答えた。

 

『ま、これでお互いの目的は果たしたんだ。今はゆっくり休もうとしようぜ』

 

エドが、再び答えると、ダオスはエドの様子を見た。

 

そして、エドに言葉を送った。

 

『……エドワード君。君には感謝をしている。だから……無理をしないようにね』

 

『はいはい、しねーしねー』

 

そう言って、エドは自分たちの集合場所へと向かう。

 

自分たちから離れるエドを見て、ダオスは呟いた。

 

『……人間は、私の思っている以上に恐ろしく強いのかもな』

 

『ん?何か言った?ダオス』

 

ルーティがそう言うと、ダオスは首を横に振った。

 

『……いや、なんでもないよ。』

 

そして、次に笑顔で全員に報告をした。

 

『さて、先程も言ったとおり、これで私達の目的は終了した。』

 

これが、最後の報告だろう

 

『では、解散だ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼロスがジーニアスを担ぎ、

 

取り戻したプレセアと共に、エド達はバンエルティア号の集合場所まで歩いた。

 

ようやく取り戻した仲間だ。そのはずなのに。

 

エド達のパーティは、全く浮かれている様子ではなく、重い空気が流れていた。

 

『…………』

 

それは当然だろう。仲間が一人……動かなくなったのだ。

 

脈を見る限り、完全に死んではいない上に、死ぬ確率はそこまで高くない。

 

だが、下手をすれば死んでしまうのは確かだった。

 

その為に、ゼロスもいつも異常に神経を使っている。

 

一度アドリビドムに戻り、治療してもらう。

 

帰れば、どのような言葉が待っているのか、考えたくも無かった。

 

『…………』

 

大きな谷の向こうから、綺麗な夕日が映りこむ

 

その夕日が、一本の枯れ木の枝分かれに重なった風景を見たとき、プレセアは立ち止まった。

 

『? どうしたよ』

 

エドが問いかけると、プレセアは一時黙り込み、

 

そして、語りだした

 

『この世界は……なんなのでしょうか』

 

その言葉は、一つ一つに重みがあった。

 

『………世界が、人間を殺し、喜ぶ。最初から、信じていたはずの世界が、本当は敵で、ジーニアスをこの状態にしたのなら』

 

次に、エド達の方へと目を向けた。

 

その目は、瞳孔がほとんど開いており、白目が多い状態の目で、焦点が恐ろしい程定まっている。

 

かなり猟奇的な目で、恨みと憎しみと殺意が最悪に混ざり込んだ目となっていた。

 

『私は、この世界をぶっ壊します』

 

そして、真っ直ぐと素直な言葉を心の奥底から発した。

 

嘘、偽り無い。それ故にかなり恐ろしく感じる言葉だった。

 

だが、全員はその目を見ても何一つ表情は動かなかった。

 

『……勝手にしろ』

 

エドがその言葉を発したと同時に、全員は再び歩き出した。

 

『俺は、もう何も言わない。指示しないからよ』

 

更にエドは、そう言葉を付け加えた。

 

エドの目は、真っ直ぐ前だけを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

暁の従者が崩壊した。

 

そんな事を認めず、まだ解散を許していない団体も居る。

 

そして、コンフェイト大森林の中で、

 

血まみれのまま、這い蹲り、絶対に認めない者が居た

 

『はぁ……はぁ………認めない……認めないぃいい……』

 

自分の思い通りしか望まない、自分勝手な子供より子供な、宗教

 

その創設者は、まだ目を爛々とさせながら、憎しみと恨みを体の中に入れ、楽しんでいた。

 

『殺したい……あのクソガキを……殺したぁぁあい……』

 

エドワードに更なる恨みを込めて、不気味な程に笑い、異常者のような目をして

 

『ディセンダーは……私の物だ……。世界は……私の物だ……。そして秩序と、人脈と、権力と、……この現実全ては……私を回る……回らなければいけないんだぁ……』

 

傷口を押さえ、片手で移動している。

 

魔物を倒せる程の魔力は残っている。

 

ここで、魔物を倒し続け、自分を鍛えよう。

 

そして、更に強くなり、最後には………

 

『暁の従者は!!孤高で気高く!!正しい宗教だ!!だからあの間違った正義を問う者共を!!殺してやるぅ!!!』

 

教祖の目は、更に邪悪を増していた。

 

これから自分の気に入らない者を殺すのが待ち遠しくて、爛々と満面の笑顔になっていたのである。

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ここから転機です。重大点な話です。エドにとってのですが
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