星降る夜に願う事 2
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此処に来てから、もう何日経ったのか・・・?

 

土壁で出来た暗い地下壕。

アイツ(大蛇丸)の隠れアジトの一つである此処は、地上の光が差し込むことの無い地底の迷宮だ。

 

・・・まるで土竜(モグラ)だな。

 

思わず自分の居るこの状況を、そんな風に例えてみる。

まぁ、土竜の棲み処にしちゃ、酷く血に塗れた穴倉か・・・。

 

そうしてふと、ここ二・三日姿を見かけない穴倉の主の事を意識に浮かべてみた。

あの蛇男は、どうにも凄惨な事に興味が強い。

人の体を玩具のように扱う性癖があるから・・・。

また何処かで大量に実験体を手にしようとしているのかもしれないな。

とはいえ・・・そんな事はどうでも良い。

 

誰かが泣き叫び断末魔の声を挙げようが、俺には関係無い。

弱い者はその力が無い為に虐げられる。

そしてどれだけ望もうが逃げようが、強い者の思惑一つでその人生は大きく変えられてしまう!

そう・・・『力』が無ければ、だ。

 

・・・無力ナ奴ハ、何モ守レヤシナイノダ・・・!!

 

俺は、アジトの中から外の世界へと一瞬で移動した。

岩ばかりがゴツゴツとした、やや高台になっている場所へ。

途端に強い風が髪を舞い上げ、吹き抜けていく。

そうして久方ぶりに見上げた空。

それは何処までも青くそして透明であった。

 

 

 

 

  

 

 

星降る夜に願う事  2

 

 

  

 

 

 

 

 

 

再び吹き抜けていく風の中、何処からか木の葉が一枚舞っていくのが見えた。

それが澄んだ青空の下、妙に俺の目につく。

 

 

『・・・どう・・・して?』

 

その途端に現れた、それはまるで自分の良心とでもいうべき幻影。

桜色にたなびくシルエット。

 

『いつも黙って・・・私に何も話そうとしてくれないの!?』

 

どうしてお前に言わなくちゃならない?

余計なお世話だ・・・!

あの時の俺はそう言った。

己を貫く為に・・・。

背を向けていた俺には、アイツがどんな顔をしていたのかは分からない。

だが、酷く傷つけた事だけは確かだった。

 

『あたしって・・・サスケ君に嫌われてばかりだね。』

 

どんだけ冷たくあしらおうが、へこたれず、常に俺の事を追っかけていた。

里を抜けようとしたあの夜も、引きとめようと必死で俺を説得しようとしていた、諦めの悪い奴。

 

『サスケ君は・・・自ら孤独になるの?孤独は辛いって、教えてくれたのはサスケ君じゃないッ!?』

 

確かに、孤独は辛いモノだ。

己の言葉に返ってくる声も無い、静寂に満ちた家。

あの無口で威厳のある父も、時に厳しくて口煩いけれど笑った顔が素敵だった母も!

もう今は・・・居ない。

独りきり、残された俺。

だが、いつまでもそんな悲しみに浸っていたところでどうしようもないのだ。

 

・・・この命はあの男を倒す為にある!

 

そう、孤独に勝るモノがあるからだ。

強い強い憎しみの念がな・・・!!

だから、もう俺に構うな!

ハッキリとそう告げてやったのに・・・。

 

『4人で色んな任務をやって、苦しかったし大変だったけれど・・・でも!やっぱり、何より・・・楽しかった!』

 

あぁ・・・確かに、しつこくて強情で、そしてお節介なヤツばかりだったな。

どいつもこいつも、本当に馬鹿ばっかりで・・・。

だけど、皆、暖かくこの身を包んでくれる、そんな居心地の良い場所だった。

その中でも、特にサクラ・・・お前は、俺にとって・・・!

 

・・・一体、俺の何だと言うのか・・・!?

 

自分は、何を考えている?

何を今更・・・!?

浮かび上がってきた妙な感情、それを彼女の幻影と共に俺は断ち切ろうとした。

消えろ、消えてくれ、いや・・・もう、俺に付きまとうなと!

お前と俺は、住む世界が違うのだ。

血に塗れた道を行く自分とは、相容れぬ存在。

俺は、闇に墜ちた人間。

いや、もう・・・人間とも言えやしない、半獣だ!

だから・・・!!

 

『行かないでッ・・・!!』

 

胸の奥にゴオォ・・・と風が吹く。

そうしてグルグルととぐろを巻きはびこる赤黒い霧を、一瞬だけ感じなくさせる。

自分を求めてくれた声。

胸に込み上げる、懐かしく切ない想い!

 

『サスケ君が居なくなったら、私は・・・私にとっては・・・孤独と同じッ!だからッ・・・!!』

 

サクラ。

俺・・・は。

 

『サスケ君が・・・好きなのッ!好きで好きで・・・仕方が無い!!』

 

俺は・・・もう!

 

 

・・・後戻りは、出来ないのだ・・・!!

 

 

 

 

気絶したアイツを抱きしめて、その温もりに別れを告げたあの日から、もう2年が経った。

今もまだ・・・あの時の切ない香りが、この胸にこの身体に残っているのだろうか?

 

・・・いや、残っていたとしても・・・だ!

 

自分には背負わされた宿命がある。

地の果てだろうが追いかけていって、そして討たねばならない!

 

・・・あの・・・うちはイタチをな!!

 

 

 

気がつけば、空は黄昏、世界は色を変えていく。

吹き抜けていく風もその温度を低め、闇の到来を待ち望む。

 

「・・・ナルト・・・カカシ・・・そして、サクラ。」

 

思わず名を呼び、グッと目を閉じた。

胸の奥、感じた温もり。

もしも、俺がこんな血塗れた運命を背負う事なく生きていたならば?

俺は・・・お前の傍を離れる事など無かったのかもしれないな・・・。

 

 

 

ややあって開いた瞼の先、見えたのは薄闇色の空と遠くに見える丸い月。

 

『愚かなる・・・弟よ。』

 

ギリ・・・と奥歯を噛み締める。

強く強く強く・・・!

擦り切れてしまうぐらい、この『傷み』を身体に胸に刻み込むように!!

 

『お前が望む様な兄を演じ続けてきたのは・・・お前の"器"を量る為だ・・・。』

 

――どうして・・・兄さんが!?

 

今もこの胸に染み残る、答えの戻らない疑問。

そしてソレは同時に愚かな問いだ・・・。

 

『お前は俺を疎ましく思い憎んでいた。この俺を超えることを望み続けていた。だからこそ生かしておいてやる・・・俺の為に!』

 

理由など関係は無い。

アイツは、一族を皆殺しにした!

 

『この俺を殺したくば恨め!憎め!そして醜く生き延びるがいい・・・。逃げて、逃げて・・・そして生にしがみつくがいい!』

 

それが、変えようの無い事実なのだろうから・・・!!

 

だから・・・サクラ?

 

 

 

・・・アリガトウ、そして・・・サヨウナラだ・・・。

 

 

 

 

 

一瞬後、其処にあった姿は消え去っていた。

土竜は、穴に帰る。

華に惹かれながらも、光を嫌い・・・。

 

 

説明
NARUTO疾風伝が始まって直ぐの頃。
ナルトとサクラとサスケが大蛇丸のアジトにて再会する以前のお話です。
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