鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第五十七話
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〜医務室〜

 

瀕死と意識不明の状態となったジーニアスを、アドリビドムの全員は慌てて医務室へと連れて行った。

 

誰一人、余裕の無い表情だった。その現状で、恐ろしい程難関な状態になっている事を悟った。

 

クエストから帰って来たパーティは、久しぶりに帰って来たプレセアも、陽気だったゼロスも何ひとつ語っていなかった。

 

特に、いつも遺跡以外では冷静だったリフィルも、この時は青ざめた表情をしていた。

 

『リフィルさん!ジーニアスの心拍が……死に限りなく近い状態です!』

 

『分かっている!』

 

アニーが、リフィルに慌てた表情で伝える。

 

隣でただ、見ていることしか出来ないロイドは、拳が震えていた。

 

自分の無力が、今この状況でひしひしと伝わっているからだろう。

 

親友が一人、死にそうな目になっている時、自分は何も出来ないのだ。

 

『……………』

 

コレットは、ただ泣いていた。

 

子供が大切な物を失ったかのように、涙を隠すように顔を隠すように手で隠すように、泣いていた。

 

『………』

 

しいなは、仲間が死にそうになっているのを見て、切なくなり、大人しくなっていた。

 

ジーニアスと錬金術の比べをしていたエステルは、居なくなろうとしている今、猛烈な寂しさがあった。

 

自分にも出来る事があるだろうか。私も錬金術が使えるのだ。

 

『それじゃぁ、私の手伝いをして』

 

リフィルが、真剣な目でエステルにそう言った。

 

中身が、身体が働いていない今のジーニアスの身体を眺めながら、リフィルは魔術を唱えた。

 

手から発せられる光を、ジーニアスに当てても、一発だけでは効果が無かった。

 

その様子を見ているそこに居るアドリビドムは、ただ心配そうな目で見ているだけだった。

 

その場にプレセアは居ない。

 

『先生!』

 

ロイドが、何か我慢が出来ないように立ち上がった。

 

自分も何か出来ますか!と言い掛けた瞬間

 

『座ってなさい!!』

 

と、リフィルに一喝された。

 

何を言おうとしたか、理解したのだろう。

 

ロイドは、成すすべも無く、言われた通りに座り込んだ。

 

その間にも、リフィルは手を動かし、必死にジーニアスに残っている生命力を回復させていた。

 

どこに生命力が残っているのか、逆にどこが足りないのか、頭の中で回転させ、リフィルは光を手から発していた。

 

その形相から、また現状が危機的だという事を実感させた。

 

『……………』

 

不安だ

 

全員の表情には、そんな思いがにじみ出ていた。

 

『………先生』

 

ロイドが、座り俯きながら声を出した。

 

『……ジーニアスは…。………ジーニアスは、助かるか?』

 

『助かるに決まってるじゃない。』

 

間髪を入れずに、リフィルは答えた。

 

『死なせるわけが…ないじゃない…!!助ける……絶対に助けるから……!!』

 

今のリフィルには、弟を助ける為なら命だって差し出すつもりだろう。

 

一度は死んでいると思われているほどの重傷だったのだ。当然だろう。

 

外傷が無いが故に、治療は困難だったが、

 

それでもリフィルは、全力を挙げ、諦めるという二文字は存在していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜バンエルティア号〜

 

『…………』

 

パーティは全員、広場に集められていた。

 

エド、パスカ、ゼロス、プレセアの四人は、この場に集められていたことを理解していた。

 

『依頼の事は……ご苦労様でした。それじゃぁ今、この現状と依頼先で何があったか、伝えてもらおうかしら。』

 

また、前に見たときよりも少し痩せたアンジュは、迫力のある声でそう言った。

 

精神的にも、肉体的にも恐ろしく瀕死に近い状況だろう。

 

更に、問題ごとが増えた為、またストレスや悲しみが押し寄せて来たに違いない。

 

イアハートの精神的な性的虐待を受けたままの帰還、そして妊娠

 

更に今、ジーニアスが瀕死の状態でここまで担ぎ込まれたのだ。

 

『…………』

 

プレセアは、何も言わずにただ、俯いているだけだった。

 

久しぶりに仲間達の船に帰って来たにも関わらず、喜べるわけが無かった。

 

ゼロスも、この時だけは真面目に話を聞いていた

 

『……この依頼の目的は、拉致された仲間の奪還、そしてもう一つありました。』

 

エドが口を開いた。

 

ここから、苦しみの時間が流れるのだろうと三人は思った。

 

言いたくも無い、あの出来事は…出来れば封印しておきたい物なのだ。

 

『それは…何かしら?』

 

『暁の従者の…崩壊です』

 

その話を聞いて、アンジュはふぅんと小さく頷いた。

 

『……私も、クレスも聞いてない依頼だけれど?』

 

『これは、極秘で向こうで合流した奴らの依頼です。』

 

エドの返事で、なる程ねとアンジュは目を瞑り頷いた。

 

『……それで、その崩壊は成功したのかしら?』

 

『成功しました。』

 

『……そう。それじゃぁ次の話題ね』

 

アンジュは、再び体制を整え、エドに目を向けた

 

『……どうしてジーニアス君は、あのような事になったの?』

 

その答えには、プレセアが答えた。

 

『……私が、自分の意思で行動できない状態で、ゼロスくんとジーニアスを攻撃しました。』

 

『プレセアちゃんが攻撃して、ジーニアスは瀕死になったの?』

 

『それは違うぜ?』

 

ゼロスがそう言うと、アンジュはゼロスに目を向けた。

 

『それじゃぁ、一体どうしてジーニアス君はあのような状態になったの?』

 

『…………』

 

ゼロスは、ここで頭を傾けて考えていた。

 

嘘でなく、事実を使って言い訳が出来ないかと考えているのだろう。

 

エドにも、アンジュにもその事は理解できた。

 

しばらく時間を置き、ゼロスは頭を元の位置に戻した。

 

『……星晶を壊す為に、自分の命を犠牲にしたんでさぁ』

 

『星晶を…壊す?そんな事が可能なの……?』

 

ゼロスの言葉に、反応をしたのはエドだった

 

『やっぱり……ジーニアスの野郎は、自分の魂を使ったんだな。』

 

『ま、そんな所ね』

 

自分の魂

 

『……錬金術は、自分の魂を利用する事だって可能なの?』

 

アンジュがエドに問いかけると、エドはしばらく時間を置き、頷いた

 

『可能だ。賢者の石がそうであるように……おそらくジーニアスは、自身の魂を賢者の石にして、根から違う星晶と組み合わせ、拒絶反応を無理矢理起こしたんだろう…。』

 

エドがそう言うと、アンジュは『そう』と小さく呟いた。

 

『………錬金術は、本当に恐ろしい科学ね。人間の命を使うんですもの。』

 

アンジュの言葉に、エドの心に刺さる物があった。

 

自分も一度、人間を作り出そうとした事がある。

 

それは、生き返らせようとしたと言った方が正しいだろうけども。

 

恐ろしい事をした事には、変わりない

 

『………それで、失脚した暁の従者……』

 

アンジュは、再びエドの方へと目を向けた。

 

『……バベル教祖は、一体どこに居るか知ってるかしら?』

 

その言葉を発した瞬間、パスカの表情が変わった。

 

そのパスカの表情を見て、アンジュは疑問の表情をした。

 

その表情を察したパスカは、すぐにアンジュから目を逸らすように、俯いた

 

『……エドワード君。依頼は、成功したのでしょう。なら、一体どうなったのか…説明してもらえるかしら。』

 

アンジュの声は、優しい声だった。

 

ただ、何も裏も無い。期待しているような声だった。

 

この依頼の事、良い情報を望んでいるような声だった。

 

だが、エドはその声に期待を応えることが出来ないだろう。

 

何故なら、結果はもう出ているのだから。完全に善の方向で無い、結果が…。

 

『死んだよ』

 

『……え?』

 

『死んだ。俺が殺したんだ。』

 

エドがそう呟いた瞬間、パスカは驚きの表情でエドを見つめた。

 

『エド!?』

 

『これは…俺の独断だ。ジーニアスとゼロスも、別行動していたし、プレセアも別の所に居た。合流した奴も別行動だ。だからと言って、パスカは殺すなんて反対していた。』

 

次々に、エドは淡々と言葉を口から出した。

 

『俺は、皆と相談もせずに、人間の命を奪ったんだ』

 

『違うよ!!』

 

パスカは、必死にエドは庇うように声を出した。だが

 

『パスカ。貴方には関係の無い事よ。黙っていなさい。』

 

アンジュは、エドの真実に従うように、パスカを睨み、伝えた。

 

『でもアンジュ…エドワードさんは!』

 

『黙りなさい。私はそう言ったの』

 

そう言われ、パスカはそこで黙り込んだ。

 

そして再び、アンジュはエドの方に目を向けた。

 

『…………』

 

パスカは、その言葉に押され、何も言えなかった。

 

『……つまり、エドワード君は、人を殺した……そう言いたいのね?』

 

『さっきも言っただろうが』

 

『良い?これは重要な事なのよ?人を殺すという事が…どれ程重い罪なのか。貴方には分かる?』

 

アンジュの言っている事には、大体分かっていた。

 

人を殺すこと。そんな事、エドにだって分かっていた。

 

だけど、理由があったら、殺す理由があったら殺したいに決まっている。

 

『………はい』

 

エドは、渋々しくそう応えた。

 

『良い返事ね』

 

アンジュは、目を瞑ってそう応えた。

 

そして、笑顔になって答えた。

 

『…大丈夫よ。私達は、貴方を政府に売り出したりしない。告訴したりしない。今、この忙しいときに罪を償わせたりしない。でも……けじめは大事よね』

 

言葉の後半になってから、アンジュの表情は、重く沈んでいた。

 

どこか、寂しい、そして辛い物があったのだろう。

 

だが、それと同時に精神を痛めつけられる理不尽と

 

罪を犯した者への怒りがあった。

 

アンジュは、エドを睨みつけるように、目と目を合った時、机を大きく叩いた。

 

『おおぅ!』

 

大きな音が鳴り、パスカとゼロスが驚きのあまり反応した。

 

そしてアンジュは、堂々と答えた。

 

『私は……。いえ私達アドリビドムは、エドワード・エルリック……貴方を、アドリビドムから正式に解雇します。』

 

解雇

 

最初、パスカはその言葉の意味が分からなかった。

 

どういう事?アンジュ?

 

パスカの中に、そんな思いがぐるぐると回った。

 

『二度と、このバンエルティア号に足を踏み入れる事を禁止いたします。……永遠に』

 

アンジュの、その言葉を聴いて、ようやくパスカは理解した。

 

エドワード・エルリックが、アドリビドムから去る

 

『アンジュ…!!嘘でしょ……!?そんな……そんな事って……』

 

このような事には、プレセアも抗議した

 

『アンジュさん…それは……妥当な判断ではありません。もっと話し合う事を望みます』

 

ゼロスも、パスカとプレセアの味方につくように抗議した。

 

『そうですよ、アンジュちゃん。それはさすがに厳しすぎんじゃねえの?皆、納得がいかないと思うぜ?』

 

『いいえ。もう正式に決定したのです。変えられません。』

 

動こうとしないアンジュの意思に、パスカは焦り始めた

 

『で……で…でも、まだ解決していない事はいっぱいあるんだよ…!?ゲーデの賢者の石や、ラザリスの世界侵食、そして、”どのような問題も掻き消される日”は……。それは、どう解決するの!?』

 

『錬金術師なら、ロイ・マスタングさんもアームストロングさんも居るわ』

 

『……だとしても!エドワードさんが居ないと……イアハートの事はどうなるんですか!?』

 

『彼女の支えは、エドワード君だけじゃないわ。皆の心よ。』

 

『でも……エドワードさんが居なくなったら……』

 

まだ、パスカは語ろうとしたが、エドが右腕でアンジュとの間を遮断するように、会話を中断させた。

 

『……もう良い。もう十分だ』

 

エドがそう言うと、パスカはそこで膝から崩れた。

 

膝から崩れて、呆然としている間に、エドはアンジュを見つめた。

 

そして、エドは不愉快と嫌らしい皮肉の混じった表情をして、アンジュを睨みつけた

 

『…ったく。散々俺を利用しておいて、契約をぶち破ってまで俺をここに留まらせて、無理矢理メンバーを押し付けてまで、ボロ雑巾にされた俺を、最後はポイだってか。酷いギルドだな』

 

エドがそう言うと、大きく溜息を吐いた。

 

『……ま、でも…どっちみち、もう最初の契約は切れてたんだ。しかもようやく許可が下りた。契約延期は破棄だな。これでやっと面倒臭えギルド生活から脱出ってわけだ。』

 

エドは、そのまま大きく背伸びして、欠伸をした。

 

しばらく腕を伸ばして、そして楽になった瞬間、再び深呼吸した。

 

『……エドワード…さん?……本気…なんですか?』

 

プレセアがエドを呼んでも、エドは決して振り向かなかった。

 

『ん?本気に決まってんじゃねえか。解雇されたんだから』

 

そう言って、エドは自分の部屋へと戻る為に、その場に居た者全員を無視するように部屋に戻って行った。

 

『エドワードさん!』

 

パスカが、再びエドに声をかけた。

 

だが、エドは振り向いて、笑顔を見せるだけだった。

 

『じゃぁな。元気でやれよ。』

 

そう言って、エドは広場から居なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜エドとカノンノの部屋〜

 

自分の荷物をまとめ、カバンは店から買った。

 

荷物はそもそも、そこまで多くなかった為、手軽に済んだ。

 

無表情で、カバンに荷物を押し込んでいるエドを見て、アルは複雑な気持ちになっていた。

 

『よし!これで忘れものは無いな。』

 

そう言った後、次にアルに声をかけた。

 

『アル!自分も荷物は完全にまとめとけ!もう二度とここには戻れないんだからよ!!』

 

エドがそう言っても、返事は返ってこなかった。

 

ただ、俯いて床を見ているだけだった。

 

『アル!!』

 

もう一度叫ぶと、ようやくアルは動き出した。

 

『………ねぇ、兄さん』

 

アルは、顔を上げ、エドの方へと目を向けた

 

『本当に、本当にここから出て行くの?』

 

『は?』

 

エドは、何かおかしな事を言っているかのような態度で、アルに言った。

 

『……本当も何も、最初からそう言ってるだろ。』

 

エドがそう言うと、アルは再び俯いた。

 

『…でも、本当にこれで良かったの?』

 

アルは、エドに問いかけていた。

 

『だって……兄さんは本当は、殺していないんでしょ?』

 

『…見てないお前が、何故分かるんだよ』

 

『分かるよ。だって…兄さんはそんな人じゃない。人を傷つけるとしても、情けをかけて、ずっと生き長らえさせるような…そんな兄さんだから。』

 

アルの言葉に、エドは何も言わなかった。

 

しばらく、沈黙の時間が、この部屋に流れた。

 

そして、エドが声を発した瞬間、扉の方へと目を向けた

 

『……さぁな。実のところ……俺にも分かんねぇ』

 

そして、扉の方へと向かって歩き、扉を開けた

 

『だけどな、俺はお前が思うほど、お人好しじゃない』

 

扉を開けた先には、イアハートが立っていた。

 

エドの存在に気付いたイアハートは、エドの顔を向いた。

 

イアハートの顔は、暗く沈んでいる表情だった。

 

『……エド』

 

声は、今にも消えて無くなりそうで、少しかすれていた

 

『…………』

 

そのイアハートの様子に、エドはただ眺める事しか出来なかった。

 

『本当に……このギルドから出て行くの?』

 

それは、今にも無くなりそうな声にも関わらず、深く、重く突き刺さるようだった。

 

イアハートの、今の膨大な悲しみがひしひしとエドとアルに伝わったのだ。

 

だが、エドはそんな物が伝わっても、しょうがない物はしょうがない。

 

『………ああ。』

 

そう言って、エドはイアハートの頭を撫でた。

 

『今まで世話になったな。……頑張れよ。』

 

そう言って、エドはイアハートを横切って前に進もうとした。

 

しかし、何かに掴まれ、エドは一瞬動きが止まった。

 

『…………』

 

イアハートが、エドの袖を掴んでいる。

 

逃がすまいと、強く、必死な思いの力でエドの袖を掴んでいた。

 

『エド………』

 

イアハートが、さっきよりも少しだけ強い口調で、言葉を連ねた

 

『……私…今…苦しいよ…辛いよ……。……助けてよ……。』

 

エドの背中に、イアハートの頭がこすられた。いや、接触した。

 

一滴一滴の雫が落ちる音がした。泣いている…という事が分かった。

 

『だから…そばに…居てよ……。まだ……言いたい我がままなんて、いっぱいあるんだよ……?』

 

『……………』

 

『また一緒に……お話をしようよ…。一緒に……私の…そばに居てよ…。助けてくれるって…言ったじゃない……。』

 

『ごめんな』

 

エドは、一言謝罪を言った後、掴まれていた手を握り、そして開かせた。

 

そしてまた、再び歩き出そうとした時、また再び袖を掴まれた。

 

『ごめん』

 

今度は、優しく手に自分の手を置いた。

 

掴まれていない方の、肉のついた腕の方だった。

 

しばらく、その時間が流れていくと、自然に手はエドの袖から離れた。

 

それを確認したエドは、再び謝罪の挨拶をしてからその場から離れた。

 

『……嘘つき』

 

後ろから、小さな呟きが響いた。

 

その声は、エドにもアルにも聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜廊下〜

 

『師匠!』

 

後ろから、エステルが慌てた表情で走りよってきた。

 

そして、エドとアルの持つ荷物の量を見て、エステルの表情は更に青ざめた。

 

『………師匠と言うな。そう言ったはずだ』

 

エドが冷たく言い放つと、エステルは首を激しく振った。

 

『こんなの間違ってます!だって…師匠はパスカさんの為に…』

 

『人を殺したんだ。当然の報いを受けたってだけだ。』

 

『でも……』

 

エステルは、大きく俯いた。

 

更に、隣のユーリも真面目な表情でエド達を睨みつけていた。

 

『…おい。自分の世界に帰る手がかりを見つけるまで、ここに留まる契約してたんじゃねーのか』

 

エドは、少しだけ表情が重くなっていた。

 

だが、すぐに軽調で返事をした。

 

『破棄されたよ。クビっつうから、当然だろうな。』

 

クビ

 

その言葉を聴いて、ユーリは黙り込んだ。

 

そして、再びエドの方を睨みつけた。

 

しばらく睨みあっていると、時間が経ち、最後にユーリが溜息を吐いた。

 

『………そうか。後悔はしてねえんだな』

 

『してねえ』

 

『アルは』

 

『……………』

 

アルの返事は、返ってこない。

 

だが、ユーリは『そうか』とただ言葉を漏らすだけだった。

 

『……お前ら二人のやる事が、事情がよーく分かった。』

 

そう言うと、ユーリはエドとアルに大きく手の平を見せた。

 

『んじゃ、これでおさらばだな』

 

『!?……ユーリ…?』

 

エステルのその言動に、全く理解していない表情をしていた。

 

『……ああ。二度とこの船に、足を踏み入れる事は無えだろう』

 

『……!…待ってください!』

 

エステルが、去ろうとしているエドとアルを呼び止める。

 

『……なんだ』

 

再び、エドの表情が不機嫌な顔になる。

 

『………フレンは』

 

『は?』

 

エドが疑問の声を上げると、エステルは、はっきりと質問をした。

 

『フレンは!フレンは…どうするのです?……約束したじゃないですか…。』

 

エステルが震えながらそう言うと、エドはふんと鼻を鳴らした。

 

『…………』

 

そのまま、エドは再びエステルに背を向け、歩き出した。

 

歩きながら、その質問に返事をした。

 

『お前、人に頼らないと生きていけないのか』

 

『…………!!!』

 

エドの返事に、エステルは爆発したようにまた、言葉を発した

 

『そうじゃなくて!!……そうじゃなくて……。』

 

『何が違う?』

 

『…………』

 

エドは、再び振り向いて、エステルの目を見た。

 

『良いか、元師匠として一言言っておくけどな。人にずっと教えられねぇと全てが出来ないようじゃ、一生大人はおろか、人間になれもしねえ。』

 

そしてまた、エドは前を向き、歩き出した。

 

『一人で歩け、前へ進め。目の前が挫ける様なら、下を向いて歩け。自分の足で前へ歩いた道は、歩いてきた道よりも良い景色になっているはずだ。』

 

最後に、本当の一言を発して、エドは出て行った。

 

『それでも、本当に前に進めなくなったとき、その時は人に頼れ。その時の為に、仲間が居るんだろうが』

 

その一言を言い捨てた後、もうエステルとユーリの居る廊下には、姿が消えてしまった。

 

エステルは、最後に言われた言葉を身にしめて感じた。

 

『……………』

 

その言葉から、今行うべきの事の意味がきっと生まれるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

『エド!』

 

『アル!』

 

エミルとマルタが、エドを追って走ってきた。

 

『よぉ。どうした?』

 

『どうしたって……。エドワードさん…。何を言ってるんですか…』

 

『出て行くって…本当なの?どうして!?そんな突拍子も無く……!!』

 

そう言われる事には、もう先ほどで慣れていた。

 

『クビだよクビ。お前らも聞いてたんだろ』

 

『エドが人殺しするなんて…僕は到底思えませんよ……。』

 

エミルがそう言うと、エドは表情を真顔に戻し、言葉を発した。

 

『…今までの錬金術を見てきて、本当にそう思うのか?』

 

錬金術

 

前に見てきた錬金術は、人間の命を使って石を作り、人を生き返らせようとすれば、身体の一部を持っていかれる。

 

その上、人間でない物が産まれる。

 

『………』

 

エミルとマルタは、そこで何も言えなくなっていた。

 

『エドワードくん!』

 

後ろから、クレスが飛び出してくるように出てきた。

 

『エドワードくん……アンジュに解雇されたというのは、本当かい!?』

 

その慌てた様子から、ただならない様子である事が理解できた。

 

『あ……ああ。確かに言われた。』

 

エドがそう言うと、クレスは頭を抱えて考えた。

 

『…今からアンジュと話をして、この事態をもっと軽減させて貰えるよう、交渉してくるよ』

 

『!クレス…そんな事が出来るの!?』

 

マルタ、それに乗っかるようにクレスに言った。

 

『ああ。僕も一時期リーダーになっていた。僕が交渉すれば、なんとかここに留まる事が出来るかもしれない。だからエドワードくん!僕を信じて……』

 

『いんや、遠慮しとく』

 

クレスの言葉を、息を吹きかけるように簡単に飛ばしたエドの言葉に、クレスは固まった。

 

『………え?』

 

『良いか?もう一度だけお前らに言っておくが、俺は”人殺し”をしたんだ。どう言っても重罪は免れないし、暁の従者の残党だって居る。そうなると、このギルドも面倒な事になるだろ。だから、それはあり得ない。』

 

エドの言い草に、アーチェは気に入らない様子だった。

 

『何よそれ…。私達の事を馬鹿にしてる言葉よ!』

 

『そう受け取っても良いさ。だが、この結果は恐らくは変わらない。それに。俺達自身が、もう納得しちまってるしな』

 

エドのその言葉に、辺りから沈黙が流れた。

 

終わり

 

これで、エドとお別れするという事が、したくなくてもするしか無いのだ。

 

『…んじゃな。元気でやれよ』

 

そう言って、エドはその場から去って行った。

 

アルは、何も言わずに頷いて、さようならの挨拶をした。

 

そして、その場からエドは居なくなった。

 

『………何よ。あの言い草!折角心配してくれてんのに!』

 

『そうよ!全く。今まで出会ってきて、私の中で自分勝手な奴はあいつ以外存在しないわ!』

 

アーチェとマルタが、怒りを露にして愚痴り始めた。

 

だが、それと同時に少しだけ寂しそうな様子になっていた。

 

『………』

 

エミルが、エドが居なくなってから黙り込んでいた。

 

『…本当に、これでサヨナラ…なのかな。』

 

そう呟くと、再び沈黙が流れた。

 

そして、エドの歩いた方向に目を移し、エミルは遠い所を見ている目をしていた。

 

『寂しく…なるね。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ちょっとエドちゃん。本当にこっから出て行くの?』

 

ハロルドが、不服そうにエドを見つめながらそう言っていた。

 

一応、挨拶をしなければならないなとエドはその返事をした。

 

すると、ハロルドは大きく溜息を吐いた。

 

『あーあ…本当に寂しくなっちゃうわねぇ。私、アンタの事結構気に入ってたのよ?』

 

『知ってる。俺を実験台にしたり、いきなり抱きついたり、死ぬかと思った』

 

エドが愚痴るようにそう言うと、ハロルドは『そう言えばそう言う事もあったわね』と呟いた。

 

何一つ、自覚してないようだ。エドは少し殺意が湧いた。

 

『……で?どこか行く宛てはあるの?』

 

『ああ。一応はな……。お前には絶対に言わねぇけどな』

 

エドは、睨みつけるようにハロルドに目を向けた。

 

ハロルドはつまんなそうに別方向へとそっぽを向いた。

 

『あー……。このギルドもつまんなくなるわねぇ。私が暇で死にそうになった時は、帰ってきて良いのよ?』

 

『帰って来ねぇ。絶対にな』

 

エドが皮肉にそう言うと、ハロルドは小さく笑った。

 

『ふっ。やっぱりエドちゃんは面白いわねぇ。』

 

その微笑が、エドは結構トラウマになっている。

 

こいつから離れられるというのは、一つの利点かもな。とエドは考えた。

 

『まぁ、私の都合でなくても、どこか必要になったりとか、力を貸して欲しい時は、いつでも帰ってきなさい。』

 

『だから!!!帰って来ねぇって!!!言ってるだろ!!!!』

 

エドは、立腹してアルの腕を掴み、ヅカヅカと歩き出した。

 

『行くぞ!!アル!!』

 

『あっ…!』

 

無理矢理連れて行かれるアルと、怒りながら去っていくエドを見て、ハロルドは微笑みながら手を振った。

 

そして、最後まで見えなくなると、少しだけ寂しそうな表情になって

 

見えなくなったエドとアルが最後に出て行った扉を、いつまでも見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうか…それは少し寂しくなるな。』

 

『ふん。元々小さい奴が居なくなっても、気付きもしないだろう。』

 

ウィルは、少し寂しそうにエドとアルを見つめていたが、リオンは特に気にも留めていない様子だった。

 

『なっ……誰が小さいだコラァアアア!!!』

 

その様子のリオンに、エドは露骨に怒り、暴れるように地団駄を踏んだ。

 

『に……兄さん。』

 

ウィルは、エドとアルの方に、真面目に目を向けた。

 

『……だが、君たちはこれで終わりでは無い…のだろう?』

 

ウィルの言葉に、エドは真面目な表情をし、小さく頷いた。

 

『当たり前だろ。まず、この世界を仕置きしてから、俺達の世界を帰る旅を続けてやる』

 

エドの言う事に、ウィルは安心したような笑顔で、『そうか』と呟いた。

 

『…小さい割には、随分と大きな台詞を捨て台詞するもんだ』

 

『てめっ……やっぱ一度、ぶん殴る!!!』

 

『兄さん!』

 

エドの行動に、必死にアルは止めに入った。

 

その様子を見て、ウィルは笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『……そうか。』

 

『…………』

 

『えぇええ!?おいちょっと待てよ!!聞いてねえよ〜!』

 

ヴェイグは冷静に返事をして、

 

ソフィはノーリアクション。

 

そして、ティトレイは心底から驚いていた。

 

『エド〜…アル〜…。本当に、アドリビドム、出て行くか?』

 

メルディが、哀しそうな顔で兄弟を見つめていた。

 

『そうだぜエド!アル!そこはもうちょっと粘って、ここに居るべきだろう!な?』

 

ティトレイの言葉に、エドは一度考えるフリをしたが、首を横に振った。

 

『……いいや、もう決まった事だ。それに、今それを実行している。もう変える事は出来ない』

 

エドがはっきりとそう言うと、ティトレイは黙り込み、そのまま大きく溜息を吐いた。

 

『……アンジュもアンジュだぜ。エドが本当に人なんて殺すはず無えってのに、プレセアだって連れて帰って来たってのに……。見損なったぞ!』

 

『それは俺じゃなくて。アンジュに言うべきだな。』

 

ヴェイグは、ティトレイにそう言い返した。ティトレイは余計沈んでいた。

 

『エド、アル、二人が出てったら、アドリビドム、哀しいな。だから、もう少し一緒に居る事、できないか?』

 

『………悪いな』

 

エドがそう言うと、メルディは下を向いて、更に寂しそうな表情になった。

 

次に、ソフィがエドとアルの方へと歩み寄った。

 

『………エドワード、アルフォンス』

 

そう、名前を読んだ後、しばらく黙り込んだ。

 

そしてソフィは、無表情のまま兄弟の元で一礼をした。

 

『?』

 

その行動が、最初は意味が分からなかった。

 

そして、顔を上げると、ソフィは再び語りだした。

 

『…今まで、共に依頼を手助けしてくれた事に、大変感謝致します。私はこれからも、アスベルを助け出すことを諦めません。』

 

ソフィのその言葉に、しばらく沈黙が流れた。

 

そして最後には、エドが動き、拳をソフィに見せて、笑顔を見せた。

 

『……ああ。頑張れよ!』

 

そう、言葉を贈った後、今度は手の平を見せて、別れの挨拶をした。

 

そしてそのまま、エドとアルはその場から消えて行った。

 

『……本当に、行っちまうのか…。』

 

ティトレイは、しゃれにならないと普通の真顔になった。

 

ヴェイグは、ただエドとアルの出て言った方向に目を向けているだけだった。

 

メルディは、寂しそうに、ただうな垂れていた。

 

ソフィは

 

『これで……終わりじゃないです。』

 

そう言うと、ちょっとだけ笑顔になって、言葉を発した。

 

『また…出会えます。今は、ちょっとサヨナラをするだけです…。だから、…悲しい顔は止めて下さい。』

 

ソフィの口から、そのような言葉が出るとは思いもしなかったのだろう。

 

全員が、呆然としていた。

 

だが、次に次第に笑顔になっていき、そして笑った。

 

『……そうだな!』

 

また、きっと出会える。

 

そう思うと、全員の表情に明るみが表れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……つーわけで大佐、さようなら』

 

エドが、マスタングとセルシウスに手の平みせて、そのまま出て行こうとした。

 

『待て』

 

セルシウスから、止めの言葉が出た。

 

『……貴様、これで勝ち逃げするつもりか?言っておくが、私はまだ負けを認めたわけでは無いぞ』

 

『だったら大佐に勝てば良いだろ。大佐に勝てれば、後は自然に俺よりも強いって事になるんだからよ』

 

それは、苦し紛れも、認めたくなくても、マスタングの力を認めている証拠だった。

 

その言葉を聴いて、マスタングはクスリと笑った。

 

『……なぁにが楽しい。大佐ぁあああ』

 

エドが、怒りの表情で大佐を睨みつけると、マスタングは

 

『……いや、鋼のの言葉からそのような言葉が聴けるとはな。これは元の世界でも通用させておこう。』

 

『てめぇえ!!何、流用させようとしてやがんだぁああ!!!』

 

エドが怒ると、マスタングは再び微笑した。

 

『何を怒っているのだ?当然だろう。ギルドをクビにされた男なら、潔く腹をくくりたまえ』

 

『貴様っ……絶対に許さん……。負かす。絶対に殴り合いで負かしてやらぁ……』

 

エドがマスタングに殺意の混じった目で睨みつけると、アルはエドを宥めながら抑えた。

 

エドが暴れているのをマスタングとセルシウスが眺めていると、エドは再び怒りだした。

 

『ふんがぁああああ!!!』

 

その時だった。

 

大きな音を立てて、巨大な身体が甲板にやってきたのだ。

 

瞬間、その場は時が止まったように沈黙した空気が流れた。

 

セルシウスは、外にも関わらず、膨大な温度が増したのを感じた

 

『少佐……』

 

アルがそう呟くと、反応したかのように、少佐の目には涙が流れていた。

 

『おお!エドワード・エルリック!アルフォンス・エルリック!哀しき兄弟よ、この憩いの場から強制的に離れられるとは!!なんたる哀愁!』

 

すると、急に巨大な筋肉がエドをめがけて追いかけてきた。

 

『我が輩がきっと、その傷を癒してやろう!さぁ!この身体に飛びこんで来なさい!』

 

『ぎゃぁあああああああああああああああああ!!!』

 

『ぎゃぁああああああああああああああああああああ!!!!』

 

更に、エドが逃げる方向にセルシウスが居た。

 

『ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!』

 

猛烈な熱気が恐ろしく、セルシウスはエルリック兄弟と共に筋肉の巨体から逃げ出していた。

 

巨体は、甲板の上で猛烈なスピードで追いかけてくる。

 

三人は、更に速く逃げていた。

 

『ちょっと!なんとかしなさいよアンタ達!!あの巨体を止めて!!』

 

『んな事が出来るなら、とっくにやってんだよぉお!!つうかお前精霊だろ!!てめぇがやれよ!!』

 

『ふざけんじゃ無いわよ!!あんな熱気に包まれたら……溶けるわ!?溶けるに決まってるじゃない!!!』

 

『じゃぁアル!!お前行け!お前は温度感じないだろ!』

 

『そうよ!アンタ鎧の身体なんだから行きなさいよ!!』

 

『えええ!?嫌だよ!!鎧が壊れちゃうよぉお!!!』

 

三人は、まるでこれから別れるような会話をしていなかった。

 

それらを見て、マスタングは微笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……本当に、エド、出て行くの?』

 

ファラが、これから正に出て行こうとしているエドを呼び止めた。

 

『………ああ』

 

『錬金術の本、あの事でまだ理解していないこと、それを君と解いて、学会で発表したかったのだが』

 

キールが、未練そうにエドにそう問いかけると、エドは首を縦に振った。

 

『…お前なら、一人で十分だろ』

 

エドがそう言い捨てると、キールはそれ以上反論をしなかった。

 

『……つーか、これで終わり……じゃ無えんだろ?』

 

リッドが、エドにそう問いかける。

 

エドは、そのまま立ち止まり、そのままその質問の答えを問いた。

 

『……さぁな』

 

『ま、……さすがに錬金術師でも、未来の事は分かんねぇか。』

 

そう言って、リッドは笑顔をエドとアルに見せた。

 

『お前らが当番の時の飯、結構美味かったぜ。また、あれ食べさせてくれよ。』

 

『……あれ、ほとんど錬金術で作った料理なんだけどな。』

 

エドがそう言うと、リッドは再び言葉を送った。

 

『錬金術であれ程の料理を、しかも短時間で出来上がるってんだから、俺達、飯の時間が好きな野郎は、格好だったんだぜ。』

 

リッドの言葉に、エドはそのまま聞き流していた。

 

『そうか。サンキュ』

 

ただ、そう言葉だけ残して。

 

 

 

 

 

『つれないわねぇ。ほとんど声かけられるまで、返事してないじゃない』

 

レイヴンが、外で待機しているかのように、切り株に座っていた。

 

『………なんでそこに居る。』

 

『なんでもないわよぉ。ただ、クエストでこの辺の魔物、ぶった切ってるだけ。ま、他にも居るから、探してみたら?』

 

レイヴンの、そのひょうきんに、エドは溜息を吐いた。

 

『……オッサンは変わらずだな。』

 

『オッサンが変わってどうすんのよ。今のままの俺を愛してるレディ達が悲しむわよ?』

 

『…勝手に言ってろ』

 

そう言って、再び前に歩き出した。

 

『本っ当、つれねぇ野郎じゃねえか』

 

『……さっきまで依頼終えた奴が、なんで居る』

 

ゼロスは、レイヴンの後ろの木で、腕を組みながらエドに声をかけていた。

 

『ん?いや、俺様モテるからさぁ。女の子の依頼ってのも、ご指名で俺様が入る事もあるのよぉ。んで、偶然レイヴンと同じ場所の依頼になったってわけ。』

 

『………』

 

エドは、呆れて何も言えなかった。

 

アルは、苦笑いのような声で

 

『あっ……ああ。そうですか…』と答えた。

 

『おチビちゃん、本当にそんなで良いのかよ?こんな良いギルド、女の子もいっぱい居る所を文句言わず離れるなんて、どうかしてるぜ』

 

『ああ、そうだよ。俺はどうかしてる奴なんだ』

 

エドの言葉にレイヴンは、わざと慌てた様子を見せた。

 

『ちょちょちょっとエドちゃん。そんな簡単に認めないでよ。別れがすぐ終わっちゃうじゃない。』

 

『正直、お前らとはあまり話したくない。』

 

嫌悪感丸出しの顔で、エドは二人を睨みつけた。

 

アルは、呆れた顔で顔に手を置いた。

 

レイヴンとゼロスは、その言葉を聴いて、一斉に笑い出した。

 

『んなもん、俺様だって同じよぉ。何が嬉しくておチビちゃんに涙の別れの挨拶なんてしなくちゃなんねんだよ。』

 

ゼロスの言葉に、エドは怒りの言葉をぶつけた

 

『二回目!!俺の事をチビって言うな!!!!!』

 

『はっはっは!やっぱりエドちゃんは面白いわねぇ。』

 

『でひゃひゃ!やっぱお前は、からかい概があるぜ!』

 

その二人を見て、更にエドは不機嫌になった。

 

『行くぞアル!!こんな野郎共に言う事なんぞ一っつもない!!』

 

『ああっ、兄さん!』

 

歩きのスペースを早め、すごいスピードで遠くへと行ってしまった。

 

それを見て、ゼロスとレイヴンは笑いっぱなしだったが、

 

エドとアルが、見えなくなってからは、笑うのを次第に緩め、そして止めた。

 

『……それで良いのよ。』

 

レイヴンが、渋々しくそう言った。

 

『別れの挨拶なんて、俺様達には似合わねぇんだからよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『中尉!』

 

『イリア…』

 

そこには、森の中で射的の練習をしている二人の姿があった。

 

『ああ、エドワード君。アルフォンス君。』

 

それは、何事も無かったかのような、涼しい顔をリザはしていた。

 

『聞いたわよ。あんた解雇されたんですってね。』

 

イリアから言われて、エドは何も考えていないかのように、『ああ』と答えた。

 

『ああ?……よくそれで通ると思ってるわね。』

 

『エドワード君は、これからどうするつもりなの?』

 

リザの言葉に、エドは間髪も無く答えた。

 

『宛てはある。だから心配はしなくても良い』

 

『……そう』

 

リザの会話は、それで終了した。

 

続いて、イリアが言葉を発する。

 

『………錬金術ってさ、私だけかもしんないけど、とんでもない技術だよね』

 

イリアは、弾の詰め替えを行いながら、答えた

 

『人を生き返らせようとすれば、身体の一部取られるか、死ぬ。また、人の命を玩具のように使ったり出来る。…そして、そんな物の為に、ルカは死んで、スパーダはこっから出て行った。』

 

最後に、少しだけ寂しそうな表情だった。

 

そして、エドとアルの方を見つめた。

 

『ま、だからさ……とっととこっから出てっちまえ』

 

その言葉を発したイリアは、笑顔だった。

 

『そんな恐ろしい技使う奴が、このギルドには増えすぎてるのよ。そりゃぁ一人や二人、解雇されたって当然よ。だからとっとと去るが良いわ。バイバイ』

 

笑顔で発せられたその言葉には、エドとアルは救われる物があった。

 

普段なら、怒りそうなその台詞を、エドは笑って受け止めた。

 

『……ああ。出てってやるよ。元気でな』

 

そう言って、エドは再び歩き出した。

 

『さようなら。またいつか……』

 

アルがそう、言葉を付け加えて。

 

その言葉を受け取ったイリアとリザは、そのままエルリック兄弟の別れを受け取った。

 

そして、兄弟の姿が見えなくなると、イリアの笑顔は消えた。

 

そして再び、銃を的に向け、口を動かした。

 

『………本当にどうして、』

 

カチリと、銃の安全ピンが外れる音がする。

 

『私の友達は……皆私から去って行くのよ』

 

パン!と乾いた音が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ちょっと待ちなさいよ』

 

後ろから、エドの嫌いな声が耳に届いた。

 

振り向けば、奴が機嫌の悪そうな顔で睨みつけていた。

 

『……なんだ。一番会いたくねぇ奴が出てきたな。』

 

その嫌味言葉に、リタは再び不機嫌が増した。

 

『……本当に、これで去っていくつもり?』

 

『そうだ』

 

『エステル……泣いてたわよ』

 

『知ってる』

 

『本当に、暁の従者の教祖を殺したの?』

 

最後の質問に、エドは黙り込んだ。

 

そして、沈黙を破るように、エドは言葉を発した。

 

『………そうだ』

 

エドがそう言うと、リタは怒った声で頭を掻いた。

 

『……アンタと言う奴は、本当に呆れれば切りが無いわね。』

 

『……だったらなんだ、お前は嫌味を言いにここまで来たのか?』

 

エドも不機嫌な表情になると、そんな言葉を発した。

 

リタは、当然のようにその質問の答えを返した。

 

『そうよ。当たり前じゃない。』

 

『…………お前、本っ当に最低な奴だな』

 

『何も言わずに出て行こうとする、アンタ程じゃないわよ』

 

エドとリタが、喧嘩をし始めそうな目で睨み合う。

 

『にっ兄さん……リタさん……』

 

アルが、その様子をただ、宥めるようにするしか無かった。

 

『……ふん。小さいから脳みそも小さくて、そこまで頭が回らなかったんでしょうけど』

 

『おいっ!!!!……さすがにチビって言葉にも限度ってのがあるぞ!!!!!』

 

そう言って、エドは本気の怒りでリタを睨みつけた。

 

だが、リタは怒るどころか、まだ冷静の表情だった。

 

『………ふん、でもこれも今日で最後だ。もうお前と二度と顔を合わすことも無いだろうからな。』

 

エドが強気でそう言うと、リタは表情を変えずにエドを睨みつけていた。

 

『………それで?』

 

『……んあ?』

 

『それで終わり……って事じゃないでしょう?……嫌な奴と別れるって言うなら、何かする事があるんじゃない?』

 

リタがそう言うと、腕を組んでそのまま直立していた。

 

何をしても、怒らない、かかってこいという意味だろう。

 

『………』

 

それを見たエドは、ただそれを眺めているだけだった。

 

『…………ふん』

 

エドは、リタに背中を向け、そのまま歩き出した。

 

『俺はお前が嫌いだ。だけど仲間だ。だから殴らねえ。とっとと失せろ』

 

『…………』

 

エドはそう言うと、リタは腕を組んだまま、そのまま直立していた。

 

『……さようなら』

 

アルがそう言って、アルも歩いていくと、エルリック兄弟は小さくなった。

 

そして、この場から消えて行った。

 

『………………』

 

リタの表情は、無表情から少しずつ変わって、寂しそうな表情になった。

 

『……仲間の別れを、悲しまない奴なんて居るわけ無いじゃない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エドワードさん』

 

ロックスが、後ろから声をかけてきた。

 

『お嬢様が……悲しみますよ?』

 

『…今、そんな心配している暇じゃない。』

 

そう言って、再び歩き出す。

 

『本当にこれで良いのですか?』

 

『良い』

 

『…ならば、私からは、何も言いません。』

 

そう言って、ロックスはそのままエドに背を向けた。

 

去るものを追わない。出来るだけ。

 

それが、彼のモットーなのだろうか。

 

『ああそうだ、ロックス』

 

エドは、ロックスを呼び止めた。

 

『お前の飯は、結構美味かったぜ。ほぼ毎日、美味い飯作ってくれて、ありがとな』

 

エドがそういい捨てると、再び歩きだした。

 

『……今は、そんな事を言っている暇では無いでしょう。』

 

ロックスがそう言うと、二人と一人とも、離れるように歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エルリック兄弟が歩いていくと、船からかなり遠くなった。

 

全員とは、もうこれで出会うことも無い。

 

そのまま、向かう所まで歩こう。エドはそう思い、ずっと歩き続けた。

 

『エド』

 

後ろから、声が聞こえた。

 

振り向くと、前までは同じ部屋で寝ていた奴だった。

 

『………カノンノ』

 

カノンノの表情は、誰よりも寂しそうで、哀しそうだった。

 

表情は、そこまで出ていなくても、奥から悲哀な心が滲み出ているようだった。

 

『……悪かったな。礼も言わずにギルドから出て行こうとして…。』

 

エドが、そう侘びを入れると、カノンノは首を横に振った。

 

『何も言わないで』

 

そう言って、走ってエドの前に立ちふさがった。

 

『………』

 

エドは、ただカノンノの行動を、じっと見つめているだけだった。

 

『エド……ギルドを解雇…されたんだよね……。』

 

『ああ。』

 

エドがそう、間髪入れずに返事をすると、カノンノは剣を引き抜いた。

 

『カノンノ……』

 

アルが、切なそうに呟くと、カノンノはエドを睨みつけた。

 

そして、剣をエドに向けた。

 

『ここを通りたかったら……。アドリビドムを、本当に脱退したかったら……。私を……倒してからにして……!!』

 

その目は、本気だった。

 

本気で、ここから先は通させないように、立ちふさがっていたのだ。

 

『エド…!!』

 

カノンノがそう言うと、完全に戦闘体制に入った。

 

そのカノンノを見たエドは、何も言わずに腕を錬金術で刃に練成させた。

 

『そうか……じゃぁ、掛かって来い。』

 

エドはそう言うと、カノンノに向けて戦闘体制に入った。

 

『手加減は…しねえぞ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜医務室 廊下〜

 

大きな音と共に、アニーは外で待機していたロイドに通告をした。

 

その慌てた様子から、ロイド達は不安を隠しきれて居なかった。

 

『アニー……。ジーニアスは……?』

 

ロイドがそう言うとアニーはしばらく深呼吸を繰り返し、次第に息を正常に取り戻していった。

 

そして、しばらくして、アニーはロイドの目を見て、答えた。

 

『ジーニアス……さんが……』

 

アニーは、拳を強く握り締めて、答えた。

 

『目を……覚ましました……!!』

 

アニーがそう答えると、しばらくそこに沈黙が流れ込む。

 

そして、沈黙を破るように、コレットがアニーに問いた。

 

『え……?そ……それじゃぁ……』

 

『ええ……。』

 

アニーは、小さく微笑むと、ロイドは次第にテンションが上がり、ガッツポーズをした。

 

『ぃぃよっしゃぁああああ!!!』

 

ロイドと共に、しいなも喜んで抱き合っていた。

 

『よぉおっしぃ!!やっぱリフィルは有能だねぇ!そこらへんの医者よりもすごい!!』

 

しいながそう喜んでいると、次にコレットが全員に問いかけた。

 

『それじゃぁ、今すぐジーニアスくんを祝おうよ!きっと、喜んでくれるよ!』

 

『ああ!そうだ!プレセアも呼んで来たらどうだい!?きっと良い目覚めになると思うよ!』

 

そこに居る全員、歓喜の声が上がっていた。

 

『よぉし!全員に報告だ!祝おうぜ!』

 

三人は、いやここに居る4人は、エルリック兄弟がギルドを去った事を知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜医務室〜

 

ジーニアスが目覚め、リフィルは喜びの余り、脱力するのを忘れていた疲れているのを忘れていた。

 

まだ、弱弱しい目覚めだったが、生きている事には変わりない。

 

『……ジーニアス…!!良かった……』

 

リフィルが、ジーニアスの手を握ると、ジーニアスは少しだけ微笑んだ。

 

ジーニアスが上半身を上げると、リフィルは少しだけ慌てた。

 

手でジーニアスを支えていたが、その必要はなさそうだ。

 

いつも通り、元気に辺りを見渡し、窓を見つめた。

 

外の世界の美しさに魅入られるように、ずっと外ばかり見ている。

 

『ジーニアス…』

 

リフィルが、もう一度弟の名前を呼ぶと、弟はリフィルの顔を見た。

 

すると、ジーニアスは微笑み、リフィルの顔を見た。

 

リフィルも、ジーニアスの笑顔を見て、次第に微笑んだ。

 

そして、ジーニアスは目覚めて最初の一言を発した。

 

『貴方は誰ですか?』

 

その言葉を聴いた瞬間、リフィルの表情は一気に無くなった。

 

青ざめ、更なる悪夢が襲来したかのようだった。

 

リフィルはよろけ、膝から崩れ、その場で座り込むようになった。

 

手が棚に辺り、棚に入っていた物やビンが、大きな音を立てて地面に落ちた。

 

何か、間違った物を見るかのように、見開いた目でジーニアスを見つめる。

 

そこには、知識の詰まったジーニアスは居ない。

 

何も無い、空っぽのジーニアスが、居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜バンエルティア号 外れ〜

 

『……アル』

 

エドは、アルを呼んで前へと歩き出した。

 

『………うん。』

 

エドの通った道には、倒れているカノンノが居た。

 

戦いに負けた、敗者の証のように、その場で仰向けで倒れていた。

 

カノンノの負け

 

それで、エドの脱退は確立した。

 

エドは、前へと歩き、船からだんだんと離れていく。

 

そして、カノンノからもだんだんと離れて行った。

 

カノンノは、エドとアルが離れていく足音を、ただ聞くしかなかった。

 

そして、ついに足音が聞こえなくなると、

 

居なくなった

 

そんな気持ちが、カノンノの中で溢れ出した。

 

涙が流れた。

 

エドが、ギルドから脱退する。それは悲しい事だった。

 

『エド………』

 

カノンノが涙を流すと、風が吹いた。

 

森の匂いがする、花の臭いがする。そんな臭いだった。

 

同時に、カノンノの涙も、流れ出てきた。

 

『ぅぅ……ぁ……ぅ……ぁぁ…』

 

涙の声、悲しみの声が、心の奥から口へ現れた。

 

辛い。

 

カノンノの心の中から、そんな声が奥から叫んでいた。

 

辛いよ 助けてよ

 

エド

 

カノンノは泣き叫んだ。

 

きっと、その泣き叫ぶ声は、エルリック兄弟の耳にも届いているはずだ。

 

だけど、無理矢理無視して、ただ前に歩くだけなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

カノンノが泣くのを止めたのは、辺りが暗くなり始めた頃だった。

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ここから、大きな転機の後の話が続きます。
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