うそつきはどろぼうのはじまり 14
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ル・ロンドは鉱山で栄えた街である。緩やかな坂の続く大通りの一画に、料理と看板娘がすこぶる評判の宿屋があった。造りこそ質素だが掃除の行き届いた客室と、宿の主自慢の手料理が格安の値段で堪能できるとあって、常連客も多い。今日も顔馴染みの客が逗留し、宿の空気はすこぶる明るかった。

外はぽかぽかと暖かな陽気に溢れている。落ち葉を掃く箒の先で雀が戯れる中、鼻歌が聞こえた。出所を探っていくと、表玄関を構える宿泊棟の裏、従業員用の建屋で、栗毛の少女が縫い針を丁度針山に戻したところに遭遇した。

「・・・できたー!」

レイアは叫ぶと同時に、端の始末を終えたばかりの布地を、ばさりと広げた。

それは随分と大きな布だった。幅は両手を広げたくらい、長さは彼女の背丈の数倍はある。

それはア・ジュールに伝わる伝統布だった。数年に一度の祭事に飾る、願い事を書いた織物である。建物の窓辺から降ろし、崖を抜ける風に流すよう掲げるため、このように細長いのである。

彼女が広げている落ち着いた紅の生地には、複雑な文様が縫い取られていた。金と緑、黄、青の刺繍糸が見事に調和した、四大を示す精霊紋を描いた大作である。

我ながら見事な出来栄え、とレイアは満足気に頷いた。

「初めてにしては上出来! ってゆーか闘技大会に間に合って良かった〜」

祭りの本命、シャン・ドゥ名物の闘技大会の開催が、目前に迫っている。ア・ジュールの歴史教師カーラの提案で、街を飾る祈り布を作ると決めた当初、闘技大会まで時間はたっぷりあるからと余裕であった。だが宿の手伝いは多忙である。レイアの予想に反して、制作は思うように進まなかった。それでも休憩をやりくりして少しずつ進めたり、少しでも時間を見つけて針を握った。最後の方など、寝る間を惜しんで仕上げをした。

レイアはひとしきり眺め終えた布を丁寧に畳み、荷物と一緒に仕舞った。旅の準備は既に終えている。後は両親に挨拶を済ませるだけだ。

「それじゃ、お父さん。お母さん。行ってきます!」

愛用の棍を片手に、レイアは坂を勢い良く下っていった。

港町から彼女が乗り込んだ船であるが、実はシャン・ドゥ行きではない。シャン・ドゥには、織布制作に賛同した仲間と共に向かう予定であった。事実上女二人旅となるわけだが、ことエリーゼとレイアの組み合わせに至っては危険など縁無いことだ。一見か弱そうに見える少女達であるが、その実力は途方もない。野に跋扈する魔物を一撃で葬れるだけの武力と、優れた治癒術がある。かつての旅と比べると幾分寂しい人数であるが、旅慣れた二人ならば何の問題もなかった。

「ドロッセルさん、こんにちは! ご無沙汰しています」

礼儀正しくも元気良く挨拶をしたレイアは、早速領主に土産を渡す。

「レイアも元気そうね。まあ、ご丁寧にありがとう。・・・『ハンマーズァーム焼き』?」

ドロッセルは微かに眉根を寄せた。有り難く受け取った件の土産品であるが、包装紙に何やら蛇のような生き物の絵が描かれている。それはそれは可愛らしく、今風に簡易化されているものの、元は明らかに魔物であった。

(土産品に魔物の名前って・・・一体、中に何が入っているのかしら?)

女領主の引き攣り笑いを余所に、レイアは気負いなく言う。

「これ、うちの宿で売ってる焼き菓子です。お客さんが買っていくお土産品の中で、一番人気なんですよ〜」

「え・・・ええと。中身は何かしら?」

「つぶあんです。あ、ドロッセルさん、もしかして餡子だめでした?」

「いいえいいえ違うわ大丈夫よ。本当にありがとう。屋敷の皆で頂くわね」

その領主の言葉通り、自称ル・ロンド名物ハンマーズァーム焼きは、可及的速やかに払い下げられた。蛇の焼印が押された人形焼は執事以下、侍女や馬屋番達の間で争奪戦となり、シャン・ドゥの闘技大会並みの熱い戦いが繰り広げられたのだった。

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【冬コミ情報】12/29(1日目)東3ホール ウ33a「海深度Lv.7」にて委託参加(アルエリ新刊)
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