放課後の雨を見ながら。 (前編)
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1「にわか雨の日」

 

 

 

「雨だなー」

思わず明里はそうつぶやいた。

 

2階の教室の窓から校庭を見ると、白っぽかった校庭がみるみる黒くなっていく。

 

「しかも強い…」

同じように外を見ていた平沢君が言った。窓にはもう雨粒がたくさんついていて校庭の端にある大きな樹の姿も霞み始めた。

 

「どうしようかな…傘持ってきてないよ」明里は苦い顔で窓から顔を背けた。

 

授業が終わった教室には、まだ人が多くいて、なんだかガサガサしている。運動部の子は、今日は体育館だってとかいいながらロッカーから体育館履きをゴソゴソ出していた。文化部らしき子は雨にちょっと困った顔を見せながらも、普通に廊下に出て行った。

 

一部の男の子は、教室の端で丸く座り込み、PSPを取り出している。

 

「雨待かな」

「いや、いつものことだろ…」平沢君は窓を開けて外を見ている。

「雨が入るよ」

「うん」

 

そういいながら彼は窓を閉めない。明里は少し眉をしかめたが、開いた窓を避け体を回転させると窓ガラスに背をつけて腕組みをした。背中が少し冷たい。

 

「モンハンかな…」

「たぶん…」

「おもしろいの?」

「うーん。おもしろいよ…たぶん」

「もってる?」

「もってない。ハード自体持ってないから」

「ハードって?」明里は変な顔をした。

「PSPの事…」平沢君は窓を閉めて制服の袖を払っている。

「だからぬれるって…」明里はあきれ顔で言った。

 

それには答えず平沢君は、いやそうに雨を払いバッグを手に取り立ち上がったが、また座り込んでしまった。

 

「帰んないの?」

タオルを取り出し自分の机を拭きながら、平沢君は明里を見た。

「だから、傘が無いんだって…」明里も座り込んだ。

 

「すげーな…なんかゴロゴロ言ってない?」バッグを抱え込むようにして顎をのせると平沢君はだるそうに言った。髪に水滴がついている。

「いってるかも…季節外れだね」

明里は体をねじり、丸くなってゲームをしている男の子たちを見ると小声で「ちょとうるせー」と言った。

平沢君は口だけで笑うと「だね」とだけ言った。

 

雨は激しくなってきて窓ガラスを強く叩いている。湿気った匂いが窓をこえて漂ってきた。平沢君は同じ形で外を見ている。

 

薄黒くうねる雲が、パッと大きく光った。

 

明里は雷鳴に備え、ちょっと身構えた…。

 

平沢君は、目だけ動かして明里を見ると口の端を微笑むように上げた。

小さな稲光がいくつか続いた。平沢君の顔に光があたる。

 

雷鳴はまだ聞こえなかった。

 

 

 

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2「校庭にて」

 

 

昨日の雨のせいか、校庭は白黒で斑な感じだ。

そのかわり、校内の緑はつやつやしている。気のせいか空気も清浄に感じる。

 

放課後になって少し陽が出て来て、緑の葉がきらきらと光っている。

 

明里はバッグを手に提げて。ぶらぶらと廊下を抜け小さな段を2つほど下がる。

 

色白で小振りな顔に、ショートとセミロングの中間くらいの長さの髪が、自然に丸くさらっと内向きにカールしている。目は、見開くと大きめな方だが、中途半端に目が悪いせいで、絞り込むような癖がついてしまっている。いつも眠そうな目に見える。ジャケットタイプの制服に細めの体を包み、紺ハイソックス。紫のラインの入った上履きは、まだ新しい。軽く立ち止まると何気なく校庭を見た。

 

「明里ちゃんー」中庭の通路から、瑞希ちゃんが小さく手を振ってかけよって来た。ジャージの上に白っぽいウインドブレーカーをはおっている。かなり大きめだ。

 

「なに帰りー?」と言いながら渡り廊下にいた明里と並ぶ。

「うん。今日クラブないし。道具買いに画材屋さんに行かなくちゃ。瑞希ちゃんは?」

「バトミントン部、マネージャーだよ。ドラッカーでも読むかね」

「なにそれ?」

「知らない?…あっ平沢君だ」

「なにどこ?」

「柳と一緒にいる。ほら校庭の樹の所…柳、相変わらずへらへらしてんね」

 

瑞希ちゃんは、くすくすと笑った。かわいい笑い声だ。背が小さく手足が短いが、男の子にモテそうな女の子らしい動きをする。明里もカワイイなと思う。マネージャーもいいかもしれない。

 

「平沢君、あんなとこで何してんだろ」

「知らないの、平沢君陸上部だよ。明里ちゃん同じクラスでしょ」

「前の席だけど、聞いた事ないな。いつもすぐ帰っちゃうし…」

「あんまりでないみたいだけど、おしいなー早そうなのに。体育だとどお?」

「そう言えば早かった…平沢の新しい面を見たかな」

「ねえ、平沢君ちょっと良くない?」瑞希ちゃんはいたずらっぽくこっちを見た。

明里は少し顎を引いたが「人によってはそう思うかも」と言う微妙な答えをした。

 

「あっ田中さんだ。なんか平沢君達と楽しそうにしゃべってる」瑞希ちゃんは声のトーンを一つ上げた。

 

田中さんは、おとなしい女子が多いこの学校には珍しく、かなりギャルが入っていて、あちこちにピアスをしている。同学年だがその迫力のせいで、たいがいの人がさん付けで呼ぶ。ただ男の子とはふざけてるときが多く、男の子ウケはいい。

目が大きく化粧は濃いが素顔でもかわいいはずだ。

 

柳は大きなリアクションをしてはしゃいでいるが、平沢君は、笑顔ではあるものの、塀に寄りかかり軽く腕組みをして少し距離をとっている感じだ。

コーチらしき人が声をかけ、田中さんは何か文句を言ってようだ。平沢君は帰ろうとしたがコーチに呼び止められ、あきらめたように校庭を回って走って来た。

田中さんは、ふてくされたように塀脇にしゃがみ込んだが帰ろうとはしなかった。

 

「ああっ平沢君がこっちに来るよ。どうする明里ちゃん」瑞希ちゃんは明里の袖をつかんでちょっと興奮している。

「どうするったって…」明里は困る。

 

平沢君は普通に近づいて来て明里を見つけると「帰んの」と聞いた。

「うん。平沢君は?」

「だめだ、つかまった。校庭を走らされるな」

「陸上部だったんだ」明里が聞くと「一応ね」と答えた。

 

「平沢ー急げー」と言うコーチの声が響いた。平沢君は首を引っ込め「はいはい」と小さな声で言った。

瑞希ちゃんが急に「あの、田中さん何しゃべってたんですか?」と聞いた。

「えーと柳の腹がどーのこーのとか…」

「平沢ーー」コーチの声が大きくなった。

 

「急ぎなよ」明里が言った。

平沢君は困ったように笑顔を作ったが、すぐに走り出した。

 

明里は、ふうと言うとバッグを持ち直し昇降口に歩き始めた。

 

「ええー明里ちゃん帰っちゃうのー少し平沢君見ていこうよー田中さんも気になるしぃー」

「だってどこにいればいいの」

「柳んとこいっちゃえば…」

「瑞希ちゃん、バトミントン部いいの?」

「あっそうかー、でも気になるよー。バトミントン部裏庭だしぃ、あああ」

瑞希ちゃんは身悶えしている。

「じゃ、少し待とうか。とにかく靴はいてくる」

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自由人だなー瑞希ちゃんは、とか言いながら2人は柳の所に向かう。柳と言う男の子は屈伸をしながら、なんだかにへらにへらしている。

 

「柳ーぃ」

瑞希ちゃんが手を振る。

「おしゅっつ」柳が変な挨拶をする。いつもこの調子だ。

「見学さしちぃくれー」

「いいよー青山ーおおいに見てくれぃ。田中さーん、ギャラリー増えたよー」

 

田中さんはこっちを見た、瑞希ちゃんが「今日はー」というと口元だけで笑って鼻先をちょんと動かすような挨拶をしたが、だらりとしゃがんだままだった。

短いスカートの間に、投げ出した両腕を通しているがギリギリだ。動くと生パンがちらちらする。そんな所も男の子ウケするのかなって明里は思った。

 

柳がべらべらしゃべっているのでコーチにおこられた。なんだか校庭を5週しろとかいわれて走っていってしまった。入れ替わるように平沢君が姿を現した。

 

「わっわっ、明里ちゃん、短パンだよ短パン!」瑞希ちゃんは興奮している。

「ね、脚長くない?すね毛はどうかな…」

「なに見てんの、どうでもいいよ」

「でもさーこう、もしゃもしゃてしてたら…」

「もしゃもしゃは、ちょっとー」

「わたしはいけるよ。胸毛はどう?」

「パス!」

「柳には、あるんだよ。こうちょろちょろって…見せてもらった」

「げー。みたくねー」

「柳じゃねー。ふふふっ」

 

平沢君が近づいて来た。瑞希ちゃんは、すねを見ている。耳元で「なんかストレートな感じ」と言って、くすくす笑う。毛フェチっぽい。

 

「なに?帰んないの」平沢君が言った。

「うん。ちょっと見てく。平沢君走んの」

「迷惑だなー」

「いいじゃん」

 

そんな会話を、瑞希ちゃんは口元に手を当てながら見ている。

平沢君は、軽く走って距離をとると、柔軟を始めた。コーチが何かを話しかけている。

「明里ちゃん、仲いいね」

「そうでもないよ」

「だって、話し方が」

「前の席だし、あらたまってらんないよ」

「そうだけどー、なんかー」

「柳とおんなしようなもんだよ」

「柳と一緒にしないでー」瑞希ちゃんは泣き顔を作った。2人は笑う。

「オレが何ーー?」柳は遠くを走りながら大声を出す。

「わー地獄耳ー。…柳ーもうちょっと速く走るとかっこいいよー」

「そうかー」柳はダッシュを始めた。

「乗り軽いー。柳だねー」

「うん。柳だ」もう一度笑った。

 

平沢君は走り始めた。

長い手足を柔らかく振っている。まだアップ程度だがかなり早い。

 

何時の間にか田中さんは、立ち上がっていた。

 

明里は、田中さんを見て、そうかと思ったが…。

〈何がそうなんだよ〉と自分でツッコミを入れた。そして少し目を離した。

 

平沢君は走っている。田中さんは表情を変えずにそれを見ている。

また少し雲が出て来て、陽の光を筋のように落とした。校庭の端の大きな樹の葉がチラチラと輝いていた。

 

 

 

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3「中庭で」

 

 

明里は放課後のクラブ終わりに、年季の入った校舎の廊下をスクールバッグと少し大きめな布バッグをかかえて歩いていた。

 

天井と壁は塗り直されていたが、床は石のような質感で微妙にデコボコがあり、新しい上履きでもなんだかつるつる滑る。耐震工事はすんでいると聞いているが、薄くヒビのような筋のある床を見て、ちょっとどうなのかと…明里は思う。

 

「明里ちゃーん」

瑞希ちゃんが走って来た。良く走る子だなと明里は思った。

「廊下は滑るよ」

明里はそう言ったが、瑞希ちゃんはおかまいましだ。

 

窓から見える空は曇っていて、なんだかムシムシしている。クラブが終わった明里は、初めて使った油絵の具のテレピン油の匂いを漂わせていた。

 

「クラブ終わった?」

「うん。瑞希ちゃんも?」

「終わった終わった」

ふーと瑞希ちゃんは大きく息をした。

「ねえ、美術部ってどう?」

「さあ…静かだよ。先輩達はもうイーゼル立てて、こんな感じ…」

明里はちょっとジェスチャーをした。

「ふうん…」瑞希ちゃんにはわからないらしい。

「油の使い方やったけど当分はデッサンだって…」

「へえー、ヌード?」

「まさか。誰が脱ぐのよ?」

「男子」

「脱がせたいヤツなんかいないよ」明里はあきれた顔をした。

「3人くらい脱がせると面白いのにぃ…森下とかさ…」

「ガリガリだよ」

「だよねー」瑞希ちゃんは楽しそうだ。

「石膏デッサンだよ。木炭使ってシャカシャカやるんだ。美術研究所行ってる先輩は、ヌードやったって言ってたけど…」

「おおーーー」

「…でも女の人だよ」

「それでも、おおーーだよ」

2人は笑った。

「…そういえば、田中さんがね」

「え、」

 

何日か前、平沢くんを見ていた田中さんの姿を、明里は思い出した。

田中さんは明里たちより前に帰ってしまい。平沢くんも何にも言わず陸上部を続けていた。瑞希ちゃんは、なんだか腑に落ちない顔をしていたが、バトミントン部に遅れるからと言って、走っていってしまった。明里が帰る時、平沢くんはちょっとだけ片手をあげて挨拶した。

 

今日の授業が終わった時、道具箱を抱えクラブに行く仕度をしていると、平沢くんは前の席で、いつものようにバッグに顎をのせていた。

明里が席を立つと、「いくの?」とだけ聞いてきた。「うん」と答えると「オレはどうしようかなー」と言った。「いけばいいよ」と言うと、彼はほんのり微笑んでまたバッグに顎をのせた。

 

「明里ちゃん聞いてる?」

「あ、ごめん。なに?」

「あのね、田中さん、男の子とケンカしてたんだって」

「まじ」

「うん。やのっちが見たって、夜にねコンビニでヤバそうなのが5〜6人たむろってたの見て、こえーと思って目をそらしてたら、帰り、路地の公園でもめてて…マジゲンカだって。白いジャージ姿だったらしいけど…確かに田中さんだったて…殴ったり、髪の毛つかんだり…男の子相手だよ」

「こわー」といったがなんだか明里には想像がつかない。

「だれか、割って入ってたらしいけど…すごいねぇ」

「うーん」少し無言になる。

「ねえ、明里ちゃん。今日、平沢くんは?」

「さあ」

「さあって。クラブでてたのかな…あ、明里ちゃん!明里ちゃん!」

「なに?」

「…田中さんが歩いてる!しかも、後ろから平沢くんが走ってくるよ!」

 

窓越しに中庭を歩いてくる田中さんが見える、いつもの表情だが今日はあまり化粧がこくなく見える。スカートの丈はあい変わらずギリギリだ。平沢くんはクラブが終わったらしく、ウエア姿でタオルをかけ部室に帰るらしい。

〈行ってたんだ〉と明里は思う。

 

田中さんは振り返らず立ち止まると、花壇のベンチに腰掛けた。

平沢くんは走るのをゆるめ田中さんを見た。田中さんも顔をあげた。2人は何かしゃべっているが、会話は聞こえない。

 

柳も姿を現した。ほかの部員も来る。田中さんは立ち上がり、平沢くんとは反対の方に歩いていってしまった。柳が何か言ったが田中さんは手をシッシというように振っただけだった。

 

瑞希ちゃんは「ううーーん」と身をひねって。

「ねー何しゃべってたんだろ」と言った。平沢くんは部室の方に消えていた。

 

明里は窓ガラスにつけていた手をそっと離した。

指紋のような跡がうっすらと付いていた。

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「ね。田中さん平沢くんを待ってたんじゃないの?」

「どうかな…」明里はほんの少し苦い顔をした。

「平沢くんってそっち系なのかな…」

「何そっち系って」

「田中さんみたいなってこと」心配そうに瑞希ちゃんは言う。

 

「そんな感じはしないけど…。クラスでもあんましつるまないし…。まあ、真面目でおとなしいってタイプでもないけど。怖くはないよ」

「…それは明里ちゃんだからじゃなくて?」

 

瑞希ちゃんは何が言いたいんだろ。と明里は思った。

 

「なんかごめんね。あのね、あたし平沢くんいいなってちょっと思ったんだけど…明里ちゃん仲いいし…」

「でもないって。普通だよ」ちょっとよそを向く。

「そうなんだろうけど…。メアドとか知ってる?」

「知らない。必要ないし」

「わーなんか明里ちゃん冷たいー」

「なによ冷たいって、ほんとに必要ないじゃない。わたし男子のメアド聞いた事ないもん」明里は荷物を持ち直す。

「へー」瑞希ちゃんは驚いているようだ。

 

「もう…。聞いといてあげようか?」

「ほんと!…でもぉ」

「なあに?」

「明里ちゃん、平沢くんに興味ないの?」

「ないよ。そう言った意味では…。別に恋愛なんかどうでもいいし」

「明里ちゃん。言い切った」

「うーん。…とにかくちょっとめんどくさいことは今はいらないの」

「…そうかなぁ。めんどくさいかなー」

「めんどくさいよ」

明里はそう言いながら何か嫌な気分になった。

 

「めんどくさいは言い過ぎかもしれないけど…。別に瑞希ちゃんのこと否定してるわけじゃないよ。その、今の私の感じと言うか…瑞希ちゃんは思ったことすればいいよ」

説明すればするほど嫌な気分になる。

 

「明里ちゃん、人を好きになったことは?」

「ないよ」ウソだ。

 

「わたし、結構すぐいいなってなちゃう。でも結局うまく行ったことないし…告白されたこともあるけど…中学だったし、なんか楽しいなって一緒に居たけど…いつの間にか自然消滅って感じなっちゃったし…こっちが好きって訳じゃなかったせいかなー」

「いいじゃない。しょうがないよ。中学生だし。でも、好きだ好きだって浮かれててすぐ別れちゃうってのもあるじゃん」

「うん聞くねー。かわいそうだね」

「そんなの嫌だし。わざわざそんな目に遭うなんて、バカみたいだし…」

「そうなろうとしてなった訳じゃないんじゃない?」

「そうだろうけど。とにかくわたしそんなのメンドクサイんだよ」

「そうかなー。好きになるって拒めない感じない」

「どうかな。…瑞希ちゃん、平沢くん…その、好きなの?」

「うん。かっこいいと思うよ。超恋愛って感じじゃないけど…。でもね。田中さんの方があたしなんかより、きっと好きなんじゃないかなーって思うんだ」

「わかるの?」

「ウンなんとなく…だから気になるんだよね」

明里は無言になった。

 

田中さんはきっと平沢くんを好きだ。明里もそう感じる。でも、たぶん田中さんと平沢くんは遠い。田中さんは何かのジャンプをしなければならないだろう。それは危険で怖いものだ。でも田中さんはきっと飛ぶ。

 

「明里ちゃん、気にならない?」

「…瑞希ちゃん。それは田中さんが決めることだよ」

「え?何が?」

「あ、ごめん。変なこと言ったかな。そろそろ帰ろうよ」

「うん。そうだね」

 

中庭の樹は空気に溶けるようにガラス越しに見えていた。

ふと振り返ると、斜めの角度に変わったガラスの表面に、明里の手の指紋が白くちらりと見えた。

 

 

 

 

 

               「放課後の雨を見ながら。」前編 おわり

 

                       

説明
メガネでやせっぽちの高校生、明里の、ほんのりとした恋愛模様。
突然降って来た雨を眺めながら、明里は、前の席の平沢くんと話をします。雨に濡れるガラス窓のように、少しずつ気持ちがゆれていきます。

前編です。
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放課後 恋愛 高校生 

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