仮面ライダーEINS 第二十五話 虚空
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EPISODE25 虚空

 

 * OP:仮面ライダークウガ! *

 

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――2011年12月13日 14:11

――学園都市、中央区 事務科

――中央ビル 一階

 

――変身

 

 一騎はそうつぶやいて覚悟を決めた。その言霊は数々の英雄と同じもの。

静かに右手を右天へと左手を左腰へと動かし、右手を左の腰に向かって空に裂いた。中央に黒い霊石を封じた鈍い銀のベルトから白い霧が発生し、彼の体を隠していく。身体に赤い血管組織が浮き上がり、黒い装甲が形を成す。そして浮き出た金色の角。

「なんだと……」

 異様なプレッシャーに恐れを成したタイプブラッド・コーカサスから繰り出された拳は、壁と言えない謎の感触に阻まれていた。

霧が晴れたとき、そこにいたのは一騎でもアインツでもなかった。

黒赤い血が走り、それよりもさらに黒い深淵とも言える甲冑に身を包み、英雄と同じ金色の角に唯一明色と言っても良い赤い瞳の仮面ライダーがそこにいた。

漆黒のライダーに拳を受け止められたタイプブラッド・コーカサスは大きく後ろに跳躍し、彼の全身を視界に納めた。

「ゼロライダー……だと」

「如何にも。始まりにして終わりなる者。仮面ライダーヌル」

 ゼロとは暗黒なのだろうか、暗黒とは恐怖なのか、恐怖とは……ゼロ(根源)の感情なのか?

一歩歩み寄れば、ツヴァイ達は一歩下がる。また一歩進めばまた一歩下がる。漆黒の仮面ライダーがはき出す威圧感はもはや物理的に感じるものであった。

その姿は、かつて"新世紀の悲劇"と呼ばれた事件で、災害クラスの殺害数を人間を殺戮した未確認生命体第0号に酷似していた。ただその瞳のみ、優しい暖かさを持ちつつも鋭さを兼ね備えた深紅の瞳……この瞳は英雄のものであった。

「さあ、派手に行こう」

 そう呟いた瞬間、周囲が凍り付いた。

かつて氷の属性を持った仮面ライダーは数えるほどもいない。しかしヌルの属性は氷ではない。

「これは……大気中のエネルギーを吸っているのか!?」

 ヌルが持つ特殊能力の中でも筆頭と言えるものだ。

エネルギーを0とすることができる。それはつまり、力を行使すれば分子の運動が停止し大気中の熱エネルギーが0K(ケルビン)となりあたりが凍結し始める。その凍結のスピードたるや、瞬時にツヴァイとタイプブラッド・コーカサスの動きを封じ込める。

「出力がおちるだと?」

 それと同時にツヴァイのエネルギーも減衰が始まった。変身が解けないものの確実に出力はさがりつつあった。

氷結した地面に繋がれた二体に、恐怖の権化が静かに歩み寄る。

「こいつは危険すぎるんだよ。この能力を使うだけで、ありとあらゆるものが零に帰してしまう」

 そう言うとツヴァイには目もくれずタイプブラッド・コーカサスに近づいた。

「あんたらの的が外れたな。ここで俺があんたらに負けてそのまま学園都市を崩壊させるつもりだった様だが……」

「まだ負けてはおらんよ!」

 明らかに不用意に近づきすぎたヌルに対して、タイプブラッド・コーカサスが拳を突き立てようとする。体勢は圧倒的に悪いものの、先に見せた雷を纏った一撃だ。

しかしヌルは、この渾身の攻撃を胸板でたやすく受け止めた。

「仮面ライダーを舐めるな!!」

 そして逆に吹き飛ばした。氷が割れ、タイプブラッド・コーカサスが氷上を転げ回る。

「さて、学園都市に喧嘩売ったんだ。高く付くぞ」

「クソが!」

 ツヴァイがなんとか氷の拘束を破りヌルに吶喊するが、何かの障壁にぶつかったかのようにその動きが止められる。

「引っ込んでろ」

 そのままヌルがツヴァイのほうに手をかざすと、ツヴァイが吹き飛ばされる。

その隙を突いてタイプブラッド・コーカサスがヌルに拳を突き立てるが、これも見えない障壁にぶつかる。そもそもぶつかっている感触すら無いので壁という表現が正しいのかも分からないが。

そしてヌルの蹴りがタイプブラッド・コーカサスの腹に直撃し大きく吹き飛ばされる。

まさに圧倒的であった。相対している二体にとって殴れない壁を殴っている感触なのだ。

再び氷結が始まり、タイプブラッド・コーカサスの動きが封じられる。これに向かってヌルが走り出す。両足に電撃が走り今から放たれる必殺技の威力を高める。そのまま空中に跳び上がり回転を加えた飛び蹴りが放たれた。

「おりゃぁぁぁ!」

 防御もままならない状態で直撃を受けたタイプブラッド・コーカサスはビルの壁を突き抜け屋外に投げ出された。

一応死なない程度に手加減したが、確実に戦闘不能だろう。

「ハルの支援がないと確認作業がめんどくさいな」

 そうぼやきながら弾き飛ばしたツヴァイのほうを振り返るが、ツヴァイの姿は既に無かった。

「……逃げられたか」

 

 * *

 

――2011年12月13日 14:17

――学園都市、中央区

――路地裏

「くそっ!何だって言うんだ!!」

 学園都市の路地裏では尾木が悪態をついていた。

確実に勝てると思っていた。1対2の状況を作り出した時点でこちらのほうが有利。アインツコマンダーを破壊した時勝利を確信したはずだ。

それが、"都市伝説"と思われていた化け物に全てをひっくり返されたのだ。

「学園都市はあんな化け物を飼っていたのか!」

 攻撃力に突出したものは無かったものの、圧倒的なまでの防御力と放っていたプレッシャーは恐怖そのものだった。未だに身体が震え、ただ歩くだけでも支障があるくらいだ。

遠巻きで自分を探す警備部の声が聞こえ、その場所は既に彼の居場所ではなくなっていた。

「俺はこんなところで負ける奴じゃない!」

 

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――2011年12月13日 21:03

――都市立大学病院

――隔離病棟

「やれやれ、一回切り札に変身しただけでこの扱いとは」

『仕方ないよ。ヌルは分からない事が多すぎる』

「せめて出土品がもう少し出てくれればいいんだが……」

 真っ白で壁を見つめているだけでめまいがするその部屋。備え付けられたスピーカーから聞こえる晴彦に向かってぼやく一騎は、現在特別に凄い隔離施設にぶち込まれていた。ヌルに変身するたびにこの扱いだ。

『ぼやくな、一騎』

「お、椿さん。居たんですか」

『俺はお前の主治医なんだぞ』

『私もいるよ』

 スピーカーから聞き慣れた主治医の声と亜真菜の声が聞こえた。

「和泉も居るんですか?」

『彼女はお前がアインツってことを知っているんだろ。俺もさすがに助手がいないときついしな』

『それに私口堅いし!』

「自分で言うか、それ」

 まあ患者に対する秘匿義務もある。プロ意識の強い彼女なら問題ないだろう。

『そんなことよりもだな。その主治医から何度も忠告したよな。ヌルには変身するなって』

「はいはい、分かってますよ」

『ったく五代や一条から頼まれている身にもなってくれ』

「ソレ言われると従わざるを得ないですね」

 そう言って一騎は肩をすくめた。

『じゃあベットに横になっててくれ。勝手にこっちがMRIを取るから』

「分かりました。ハル、暇だから世間話を頼む」

『残念ながら子守歌になる内容じゃないよ』

「OK、リズムを付けて話してくれ」

『音楽流す?』

『和泉さん、ロックかけて』

「馬鹿言うな」

 そう言って備え付けられていたベットに横になった。学園都市のMRIはわざわざバームクーヘンの芯にならなくてもCT画像を得る事が出来る優れものだ。

それに、需要なのは身体……特に脳幹部のため、別に口元が動いても特に問題はない。

『各地で財団Xが暗躍を始めた……と言ったらいつも通りのことなんだけどね。今回は違う。やたらと僕たちのアンテナに引っかかるのさ』

「随分と大きな動きだな。隠し切れていないのか、それとも隠す気がないのか……」

『そう言えば一条も言ってたな。2007年の対未確認用の武器が漏出した問題。あれが関与しているらしい。それで学園都市に来るとか言ってたな』

「一条さんが学園都市に来るんですか?」

『おい一騎!身体持ち上げるな!』

 うれしさのあまり思わず身体を持ち上げた。

尊敬する警察官なのだ。一騎にとっては無理はない。はやる気持ちを抑えてベットに身体を預ける。

「それで、学園都市はどう動くんだ?」

『それが学園長自ら動いているんだ』

「……ということは十人委員会もか?」

『七人は財団の動きを、残りは本土で情報収集。門外顧問と海外顧問はそのまま情報収集だって』

「随分大事になっているな。現在の状況は?」

『学園都市は現在非常警戒中。事実上の第一種戦闘配備だね。ツヴァイを取り逃がしたのが痛かったね。学園長の命令でかなり厳しい情報統制が引かれているよ。ま、君がヌルに変身したのは都合が悪かった』

「ハルまでそれを言うか……」

 一騎は聞こえてくる声に思わず脱力した。

『僕個人としては仕方なかったと思うよ。けど世間がヌルを許さない』

「全く日本って国は……正義の味方が住みにくいのはどうにかならないのか?」

『仕方ないよ。仮面ライダーはあまり表沙汰にならないし、政治家のお偉いさんは私刑を執行するテロリストなんていう人もいる』

「言葉の意味間違っているな。いや利権抱えている政治屋にはあながち外れていない表現か」

『まったく。で、グローバルでは世界各国で謎の隕石が落下。財団Xがそれらからいくつかのデータを採取したみたい』

「続けてくれ」

『財団全体の動きとしては大幹部の下に一個やばい計画があるらしいよ。詳細は不明だけど。とりあえず、Wの3人、そして鴻上ファウンデーションにいくつかの情報を提供したってところかな?』

「その計画と学園都市の計画は一緒なのか?」

『推測に過ぎないけどおそらく別。何より動いている幹部が違う』

「おいおい、じゃあ便乗して動いてるってことか」

『いや、むしろ暴走と言ってもいい。各仮面ライダーにも情報を伝達させたところだよ』

「そうか。折角尻尾を掴んだんだ、そのまま引きずり出そう」

『OK。じゃあ君はそこでおねんねの時間だよ』

「マジかよ、これ子守歌だったのかよ」

 

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――??

――??

「何だと?」

 白衣を纏った男が、報告された内容に愕然としていた。彼こそ財団Xの対学園都市方面を司る大幹部だった。

報告の内容は、ツヴァイとタイプブラッド・コーカサスがアインツに敗北したという事。

グロンギと呼ばれた種族から採取された遺伝子。それを活性化させる最後の鍵を手に入れ完成したタイプブラッド。そして自身が作り上げたツヴァイシステム。この二つを持ってアインツを撃破できるはずだった。

「馬鹿な!この私が!あの雨無に負けるだと!?」

 荒々しく机に置いてあった全てのものをなぎ払い、自分の身体が傷つくのも忘れて激怒する。

「何故だ!何故だ何故何故だ何故だ何故何故だ何故だ何故何故だ……!!」

 狂っていた。そうでなければこの研究は行えない。精神を押さえるために白衣のポケットから向精神剤を取り出し、口に含む。

「この私が!仮面ライダーに……仮面ライダーごときに!!」

 彼も尾木と同じく一騎に負けた人間であった。学園都市に採用される強化外骨格プロジェクトの入札で一騎と晴彦のアインツに敗北したのだ。

そもそも人道的に劣っていた彼の強化外骨格が、アインツチームに勝てるわけでもなく。凶暴的な性能が正当に評価されるわけもなく。

「ツヴァイに伝えろ!次の作戦がうまくいかなかったときは!学園都市を貴様ごと沈める!!」

 もはや彼を動かしているのは私怨を越えた怨恨のみであった。

「まだだ!私にはこいつがある!世界の破壊者から得た技術も使えば!」

 そう言って科学者は一枚のカードを机に叩きつけた。そのカードにはMASKEDRIDER VIERとKAMENRIDEの文字が書かれていた。

「あと少しだ!あと少しで!私が世界の王になる!!」

 そういって彼は人がすっぽり入れる巨大な試験管を光悦の表情で見つめていた。

 

――決戦の時は近い。

 

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次回予告:

 

EPISODE26 巨剣

 

 * *

 

おまけ:仮面ライダー設定

仮面ライダーヌル

アインツの切り札にして、史上最硬のライダー。

長編に登場した、学園都市産ではない仮面ライダー。便宜上ヌル(ゼロ)のナンバリングを与えられているが、正式名称は不明。共に発掘された物も一切無く、ベルトにも古代文字が一文しか書かれていない。この古代文字はリント文明のものもあることからその時代のものと推察されている。

アインツは、ヌルのベルトであるゲブロンから発生するモーフィングパワーのエネルギーのみをガイアメモリの技術によって抽出している。

容姿は仮面ライダークウガ・アルティメットフォームに酷似しているが、これは同時に未確認生命体第0号ン・ダグバ・ゼバとも共通点があるということになる。

様々な能力を有しているが、筆頭の能力はエネルギーを0にすること。これは任意の範囲座標のエネルギーだけではなく異能能力でさえ0にして打ち消してしまう。またベルト自身が判断して異能の力に対してカウンターを行う事がある。この能力の減衰率は凄まじい物であり、防御に関してはライダードレインよりもこの能力のほうが優れている。ただし強力な一撃を防御し続けるには燃費が悪い。アインツが有するライダードレインはエネルギーを0にする過程を通り越させエネルギーを保存する容量を与えた物である。

五代雄介と雨無一騎がこのベルトを発見した際に異常気象が発生していたのは、この能力が漏れ出していたというのが装着者の指摘がある。またベルトが適応者を感知し導いたという説もある。

外見や類似している点から考慮しても、ン・ダグバ・ゼバや仮面ライダークウガ・アルティメットフォームに匹敵する戦闘能力を有していてもおかしくないはずだが、攻撃面ではアインツ・リミットカットシリーズに毛が生えた程度で、防御に特化されている。装着者が無意識に力を過剰に制御しているか、はたまたベルトが不完全か、理由は不明である。

必殺技は周囲を凍結させ動きをとめ、飛び蹴りを放つアイン・ソフ・アウル。

 

 

説明
この作品について
・この作品は仮面ライダーシリーズの二次創作です。
執筆について
・隔週スペースになると思います。
・日曜日朝八時半より連載。
・最終決戦は近い
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