博麗の終 その11 |
【レミリア・スカーレット】
レミリアはあたりを見回して、つまらなそうに頭をかいた。
「霊夢が掃除をしてない境内が、こんなにも寂しいものだとはねえ……」
霊夢の愛する賽銭箱へと続く石畳は、土や落ち葉で薄汚れていた。
山にある神社というものは、掃除をしなければすぐに寂れてしまう。
風が吹けば土や埃が散らばるし、雨が降れば地面に凹凸が出来てしまう。
見栄えよく保つためには、地道な作業を毎日のように繰り返すことが必要なのだ。
ましてや数多の人妖が入り乱れているような今、いつも掃き清められていた在りし日の博麗神社とは似ても似つかぬ代物に成り下がっていた。
「霊夢がいたら、こんな奴らすぐに追い出しちゃうのに……」
ただただ、霊夢がいないことを示す一つ一つがレミリアを傷つけていく。
いつものように訪れたら、いつものようにそこに居てくれるんじゃないか。そんな儚い願いを押し潰すかのように、霊夢のいない証拠ばかりが目に入る。
「駄目、だったんだなあ。あいつらは」
紅魔館へ協力の依頼が来訪した際に受け取った書状には、八雲・西行寺・八意・四季の名前があった。
レミリアは、彼女達なら何とかできるのではないかと期待していた。
最先端の先を行く医学と、霊の専門家と、地獄の専門家と、そして万物をひっくり返すような能力者。
この陣営でどうにもならないのなら、それはもう回復は無理だと言っているようなものだ。
そして、回復の見通しが立ったのなら、間違いなくこの吸血鬼のところへ知らせが来るはずなのだ。
人として、博麗として、霊夢を蘇らせる必要があるのだから。
恐らくは、駄目だったのだろう。
この状況が、何よりもその考えを肯定しているではないか。
博麗霊夢は蘇らない。
博麗霊夢は回復しない。
レミリア・スカーレットの、あの万物を圧倒せんばかりの禍々しい気配が消えていった。
レミリアは、ため息を一つ吐いて。
少し考えた後に、博麗神社の屋根の上を見ながら言った。
「そこにいるのは、八意永琳か?霊夢を見舞いに来た。通して欲しい」
まず一つ、八意永琳は屋根に伏せて見えない位置に居るにもかかわらず、そこに居ることを知っている。
そして二つ、この場の指揮官が誰なのかは公にしていないにもかかわらず、八意永琳を名指ししている。
最後に三つ、激情に駆られているはずのレミリアが、交渉をしようとしている。
この三点の疑問が、八意永琳の頭に浮かんできた。
しかし天才の頭脳をもってしても仮定しか導けないことは明らかなので、まずは交渉を開始することにした。
「あなたの思惑がはっきりしない限り、無理ね」
交渉の余地もなく断わることで、絶対に譲れない話であることを示す。
他の部分では譲れるところも多々あるだろうが、
霊夢を大事に思う吸血鬼を今の霊夢に会わせるわけにはいかない。
「思惑も何も……会わなきゃわかんないじゃない…………」
レミリアは、とても残念そうに呟いた。
「じゃあ……そんな気分じゃないんだけど、通らせてもらうわね。あと、こいつらは危ないから気をつけて」
『こいつらって?』と思う間もなく、レミリアは、己の左指を一つづつちぎっていった。
人差し指、中指、薬指、小指、そして親指。五つの指を右手に包んで、さらには手のひらも引きちぎる。
血は文字通りに噴き出して、薄紅色の服を赤く染めていく。足元には、赤い水溜りが広がっていく。
「頑張ってね」
と事も無げに言うと、その血にまみれた一本一本を軽く投げていった。
陣取る隊へ向けて、一本づつ。丁寧に投げていった。
そして、手のひらを足元の水溜りに落とした瞬間、
――――投げた指が全て、化物へと変化した。
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レミリア・スカーレットと八意永琳 | ||
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