真・恋姫無双 魏end 凪の伝 53 |
音を立てて世界が軋む。
中心にいるのは、恋。
黒い神事服を纏い俯いた顔からは表情が見えないが、ただ、吊り上げられた口角が明らかな異状を示していた。
降り続いていた筈の雨が突然ふっと消え、その中心にいた恋が軽く、ただ軽く『方天画戟』の石突を地面に触れさせたそれだけで大地に亀裂が走る。
あっさりと、まるで薄氷を割るかのごとく容易く割れた大地は局地的な地震を起こし、岩盤が激しく隆起する事で周囲の状況は一変した。
「ぐっ!?」
「うわわわ!!」
立っているのもやっとの振動に、立ち上がりかけていた春蘭が体勢を崩して季衣が慌てて庇う。
隆起する岩盤が剣山のように姿を変える中、二人をチラリとも見る事無く佇んでいた一刀の姿が消えた。
<<顔良のデータをロード>>
「ガッ!!!アアアアアアアァァァァァ!!!!」
獣のような雄たけびを上げて空へと跳んだ一刀だが、跳んだその場所に恋の姿があった。
「たのしもう────ご主人様」
ポツリとした呟きとは正反対の空気が爆ぜる爆音は恋が一刀を打ち落とした音だったか、鳴り始めた雷の音だったか。
振り切った『方天画戟』に纏わり付いた強烈な気をまともに受けた一刀は地面に叩きつけられ、大きくバウンドした。
「一刀!!」
焦燥を含んだ春蘭が叫び声をあげるのと、地面に打ち付けられた筈の一刀が素早く立ち上がったのは同時だった。
ツウッ、と恋の頬を一筋の傷跡が走る。
完全にかわした筈の攻撃が自分の頬を掠めていた事に、ゾクゾクと体が震える程の快感が恋を支配する。
急いで立ち上がり、構えなおしながら殺意の篭った眼を向ける一刀の姿に恋は恍惚の表情を浮かべて見下ろす。
その姿の全てが愛しい。
一刀の頬を伝う汗を舐めたい。
震える両足を折りたい。
剣を持つ両手を握りつぶしたい。
噛み付いてその首筋から溢れる血を啜りたい。
自分の命よりも大切なものを、自らのその手で『壊す』快感。
腹の底・・・女として大事な部分が縮み上がるような感覚。
『失う』という恐怖と、『壊す』という快感が同時に全身を襲う猛烈な矛盾を含む感覚に体が火照る。
永遠のようにも一瞬のようにも感じられる快感に、脳がツンとした。
イキそうになる程の快感は、恋の体を震わせる。
掻き消えた雨が再び降り出して二人の体を濡らすが、二人に触れた雨はたちどころに蒸発して闘気となった。
「だいじょうぶ・・・桃香なら"治せる"から・・・ご主人様・・・」
凄惨な笑みを浮かべる恋からゾッとする気配が漏れた。
『方天画戟』が振られるたび、岩盤が次々とめくれ上がって一刀に襲い掛かる。
まるで地面そのものが噴火しているかのような異常な光景の中、それらをすべてかわしながら一刀がとても目で追えるような速度では無く、黒い影となって滑るように恋に迫った。
『方天画戟』と『靖王伝家』が激しく衝突して冗談のような破裂音がいくつも響く。
体の芯まで震えるような激しい音がいくつもいくつも二人の間に重なる。
軽く頬を切った一刀の傷口から溢れた血が、汗で濡れた髪と混ざってへばりつくがそれに構っている余裕は無い。
ふいに、一刀の背後に気配が現れて札が舞う。
それを瞬時に屈む事でかわしてそちらに蹴りを見舞うが、気配はさっと翻すように消えた。
ギリギリでかわした札が一刀の頭上を通り過ぎて目の前の恋に向かうが、打ち下ろした恋の一撃が舞う札ごと地面をえぐる。
「────、さすがご主人様ね・・・」
一刀の背後に現れた貂蝉だったが、縛の札は容易くかわされてしまった。
「フン。貴様ごときでご主人様を止められると思ったか」
鼻で笑う愛紗だが、愛紗も二人の戦いには割り込めない。
本来であれば自分も混ざってやり合いたいが、本気の恋の間に入るのは今の貂蝉のように寧ろ邪魔になりかねなかった。
自分が一刀の相手を出来ない事に苛立ちを覚える。
「恋ちゃーん。ご主人様をすこーし、動けなくしてねー」
のんびりとした口調とは裏腹に、真剣な表情でいくつもの札を組み合わせる桃香。
「────わかった」
快感を伴う一刀との語らいを邪魔をされた事で、ほんの少し拗ねた様に口をとがらせる。
一瞬気を逸らした恋の左の腕が僅かに削られ、血が吹き出た。
しかし、それすらも楽しいように激闘を繰り返す。
一刀にとっては絶対的に不利な状況にありながら、恋の手加減を忘れたような一撃をかわす一刀の両腕が揺らぐ。
<<陸遜のデータをロード>>
突然、動きが変わった。
ただまっすぐに直線を描く一刀の軌道が、ぬるりとしたものに変わる。
ザワリと警告を放つ本能が左の拳を裏拳のように放たせると、そこに一刀の足があった。まるで鞭のようにしなる攻撃が恋を襲う。
バチィッ!!という音が一刀の足を弾いて体勢を崩されたが、『靖王伝家』を杖のように地面に刺して体を捻り、体勢を立て直した右足が再度恋の頭を狙った。
だが僅かな隙をついてそれらを掻い潜り、恋が一刀を掴もうと迫る。
────捕らえた。
伸ばされた左手が一刀の胸倉を掴もうとした瞬間、
<<于吉のデータをロード>>
恋が伸ばした手の先にあったのは一刀ではなく、札。
『爆炎』
その文字が見えた瞬間、札が光に変わる。
爆炎が死神の抱擁となって恋を包み込み、『方天画戟』が地面に転がった。
爆音と劫火に包まれた恋から素早く離れ、体勢を崩しながらも放った札の効果を確認する事も無く、もう一枚の札を手元に作り出す。
大ダメージを与えられはしないだろうが、左腕自体にはある程度はダメージを与えられた筈。
トドメを刺すか。次の相手を誰にするか。瞬時に考えた一刀の視界に、相変わらずな表情を浮かべる愛紗が映った。
猛烈な違和感が、作られた憎悪に囚われながらも一刀の冷えた思考が警告を放つ。
もう一度横目で盗み見た愛紗の顔に、苛立ちはあっても焦りは無い。
まさか、という思考は一刀自身のものだったか、一刀にインストールされた于吉のものだったか。
爆煙の中から恋の僅かに焦げた程度の"無傷"の左手が伸びる。
その先にあった、恋のじゃれつこうとする犬のような嬉しそうな顔が見えた。
捕らえられたと頭が理解する前に、ぐるんと世界が回転する。
背中から叩き付けられて地面に減り込む衝撃で息が止まった。
「ガ・・・、ハッ!!!」
息を吐き出した瞬間に、瞬時に引き戻されてその口が塞がれる。
塞いだのは、恋の唇。
振り払おうとした左腕が猛烈な力で?まれ、尚も抵抗しようとした一刀に向けて恋の頭突きが一刀の意識を一瞬奪う。
「・・・ぐ・・・・う・・・」
「捕まえたよ・・・ご主人様・・・」
胸倉を掴まれたまま持ち上げられ意識の朦朧とした一刀の前には、この状況にそぐわない優しく微笑む恋の笑顔があった。
前回の更新から4ヶ月とは・・・申し訳ない気持ちでいっぱいです。
それにしても今年はホントに色々ありましてねー・・・。
・・・はぁ〜あ・・・。とため息しかでません。
来年1月は検査、検査と病院代が・・・(;;)
・・・うおおおおおおおおおお!!!!
負けない!負けないぞぉーーー!!!!
なんとか完結を目指します!!!
では。また。
説明 | ||
ををを・・・前回から4ヶ月とは・・・。 もうホントに申し訳ありません。 |
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コメント | ||
続きは無いのか…。(sinryu) ・・・続き、頼みます!!!!(心は永遠の中学二年生) 安斎先生・・・続きが読みたいです。(レヴィアタン) は、早く次の話が・・・読みたい(アン) 昨日、日記書いていたからそろそろ更新か♪(ミクボン) 凪ちゃんハァハァ(朱然) 体を大切にしてください。(カバ) おもしろかったのでまた読めればいいなと思います。 無理はなされないようにお願いします。(矢車) 無理は駄目だよー?(たこきむち@ちぇりおの伝道師) ああああああ、一刀さんが(たこきむち@ちぇりおの伝道師) さすがの一刀も恋の2乗には及ばずか・・・。無理しないで更新してください。(太公望) 無理せず、ぼちぼちと行って下さい。(きたさん) 楽しみにしていますが根をつめて体を壊しては元も子もないのでゆっくり更新していってください。(タケダム) 無理をして身体を壊さないように気をつけてください(よしお) 余り詰め過ぎずに、気楽にやって下さい(カイ) まってますんで!ご自分のペースで無理せずに。楽しみにしてます。(幼き天使の親衛隊joker) |
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