蛍火 〜寂しがり屋の少女のクリスマス〜 |
灰色に染まった空模様。風は冷たく、人々の心を曇らせるには十分だと思うほどだった。
しかしそんな天気な中で、魏の街は活気にあふれていた。街を歩く人々の顔を見れば誰もが笑顔で楽しくて仕方がないと物語っていた。
何故なら今日はクリスマス。天の御遣いがもたらした行事の一つだった。
家の中を見てみれば家族が一緒に楽しく、夕飯を食べていたり、若い男女が一緒に過ごしたり。天の国と同じようにクリスマスを過ごしていた。
ただ、違う物があるとすればその意味合いだった。このクリスマスはあの戦乱を終え、皆が生きているということを祝い、死んでいった者達を思い出す。それがこの祭りだった。
人々が笑顔で歩いている中、城は慌ただしく動き回る人達がいた。
「朱里さん、でざーとの方はどうでしょうか?」
「はわわ。ゆ、月さん。大変です! 美羽達による強襲を受けました」
「あわわ。大変です」
「え〜と、詠ちゃん。頼んでいい?」
「あの〜ちびっこどもが! 分かったわ。任せて!」
「お願いね。これで、蜀の方は大丈夫……。亞莎さん。呉の方はどうでしょうか?」
「は、はい。ゴマ団子もたくさんあります。他のお菓子も含めて、でざーとは全部揃いました」
「分かりました。流琉さん、料理の方はどうですか?」
「はい。おーどぶるの方はほとんど出来あがっています。皆さんに手伝ってもらったので簡単でした」
「良かった。これで三国合同クリスマスが出来そうですね」
そう、本日は三国合同のクリスマス。あの戦いの後、魏の提案によって出来た行事であった。
今回で三回目を数えるクリスマスでは将達が自ら料理をし、皆で楽しく騒ぐことをしていた。
そして、料理をするのは勿論、出来る者達。決して春蘭、愛紗達は立たなかった。流琉を含む料理自慢達が作っていた。
「ったたたたたた大変です!」
そんな厨房に走り込んで来たのは呉の周泰、明命だった。
「ど、どうしたんです?」
「桃香様が酔っちゃいました!」
「え、えええええ!」
厨房が固まった。
「へへへへへ、華琳さーん」
「ちょ、桃香。飲み過ぎよ」
「いいじゃないですかー。こんなに楽しいんですから!」
「そうよー華琳。こんな楽しい日は飲まなきゃ損よ」
「雪蓮、あなたにとってはそうでしょうけどね。絡まれる方としてはたまったもんじゃないわよ」
三国の王達はもとより、将達もいたるところで楽しんでいた。
「ええやーん。愛紗、一緒に遠乗りしようやー」
「いや、だからな。しないと」
「へー、このからくりこんな風になってるんだ」
「シャオはん、からくりに興味あるん?」
「うん、ちょっとねー」
「なら、このからくりなんやけどな……」
「ねぇ、翠ちゃんって可愛いのに何でおしゃれしないの?」
「そうだよー。お姉さまももっとおしゃれすればいいのに」
「な、私が可愛い筈ないって」
「僕の方が背が高い!」
「鈴々のほうなのだ! 春巻きなんかよりも高いのだ!」
「何だとー!」
皆が楽しそうに笑っていました。
その時、桃香がある一つを指さしました。
「ねぇ、華琳さん?」
「何よ?」
「あの席、誰のなんです?」
指した先にあるのは皆が座る席の端っこにある一つの席。そこには皿も箸もあるが、手を付けた様子はない。周りの活気とは違い、そこだけひんやりと静かで、卓を用意した筈の魏の将達は一度たりとそちらに視線を向けない。それどころか近付こうともしていなかった。まるでそこには何もないように振る舞っていた。
そんなものがあれば気にするのは当然だろう。桃香の質問は間違っていない。しかし、
「……」
シン、と先ほどまでのざわめきは消えた。祭りの雰囲気は一変した。魏の将達の沈鬱な表情は呉、蜀の人々を戸惑わせた。先ほどまで笑い合っていた筈の魏の武将達が笑みを消したのだから。何かをこらえるように。ただ、下を見つめて。
「か、華琳さん?」
「華琳?」
桃香と雪蓮はあまりの雰囲気の差に驚いた。今までの覇王としての雰囲気は消え去り、そこにあるのはどこにでもいそうな女の子のようだった。
「「華琳様……」」
それを心配するように、そして悲しみの瞳を秋蘭と春蘭。
「ええ。ちょっと遅れている者がいてね。その者の分よ。多分、そろそろ帰ってくるんじゃないかしら……」
しかし、そう答えた時、華琳の雰囲気はいつものそれになっていました。
「そうなんですか。あれ? ですけど。それ去年も一昨年も言ってま――」
「まぁまぁ。そんな事よりも飲みましょう! その子も後で来るわよ! ねっ! せっかくのくりすますなんだから!」
まだ何かを言いかけようとする桃香を遮って雪蓮はお酒を華琳と桃香に注ぎながら笑った。その笑みに誘われるように魏の将達も笑みを浮かべて笑い始めました。
「そうね。クリスマスだものね」
華琳は笑みを浮かべながらそう言い、杯にある酒を飲みほした。
「どれくらいたったのかしら?」
寒空の下、小川の側で華琳は立っていた。周りには誰もいない。
他の将達は今頃、クリスマスを堪能しているのだろう。
ふと、華琳の視線の先には一軒の小屋があった。
『ちょっとした休憩所を作ろう』
華琳は一刀の言葉を思い出していた。
たしかにあると便利だと、それに加え思った華琳は作ることを許可した。作業員の都合上、夜行われることになった。
『あれ、華琳』
『どうしてあなたがここに?』
工事着工の日。華琳が視察目的で行ってみると先に来ていた。
『いや、何となく気になってさ』
『そう……』
『そうなんだよ……』
次の日。何となく、華琳はまた小屋の建設の所に行った。そしたらやっぱり一刀も居た。
『あなた、暇なの?』
『いや、何て言うか。気になってさ。華琳は』
『私はなんとなくよ』
『そうか』
『そうよ……』
次も、又その次も。一刀と華琳はそこにいた。工事が始まる音が聞こえればいつの間にか華琳の足はそこに向かっていて。まるで工事の音が合図のようで、華琳も一刀もその場に向かって走っていた。
だがそれも工事が終わるまでだった。工事が終わる日。いつものように華琳と一刀は一緒にいた。
『これで終わりね』
作業が終わり、苦労の言葉を投げかけた後、作業員が一人も居なくなった小屋の前で小さく華琳が呟いた。
その時、華琳の頬に冷たい感触。
『冷たっ! ……雪?』
『ほんとだ……』
すぐにでも溶けてしまいそうな雪の結晶。現に華琳の掌に乗った雪は一瞬で水へと溶けていった。
『淡雪みたいだな』
『淡雪?』
『春先に降る雪のこと。すごく儚くて、すぐに溶けてしまう雪なんだよ』
『へぇ、でも今は冬よ』
『だから、行ってるだろみたいだ、って』
『ええ、知ってるわよ。でも雪が降るなんて。道理で寒いわけね……』
ハァ、とかじかんで冷たくなった手に息を吹きかけた。
『寒い?』
『ええ』
そっと、一刀は華琳の手を握りしめ、そのまま抱きしめた。ふわりと華琳の鼻に一刀の匂いが漂った。
『か、一刀!?』
『まだ、寒い?』
『……いいえ。暖かいわ』
二人は動きを止めたまま。
『華琳、来年も一緒に過ごそうな……』
『当り前よ。今更私の側を離れさせるわけないでしょ?』
『そうだな』
一刀は華琳のらしい言葉を聞いて小さく笑った。
『そうだ、華琳。来年になったらクリスマスをしないか?』
『くりすます?』
『ああ、お祭りなんだ』
そう言ってクリスマスを語った一刀の瞳は楽しそうにして、子どもがおもちゃを見つけたようにはしゃいでいた。それが可愛くて、華琳は笑みを浮かべて頷いた。
『いいわね。やりましょう』
「楽しみにしてた本人がいなくちゃ意味がないじゃない」
寒さに震えて、手に息を吐きかけた。一刀ならやっぱり聞くのだろうか。
『寒い?』と。彼の心配そうな、だけど少し笑みを浮かべて安心させるような。独特の笑みを。
じんわりと華琳の視界が滲んだ。
「寒いに決まってるでしょ。さっさと温めなさいよ……」
一刀過ごした期間は決して長いものではなかった。けれどそれは人生の中で輝いてた。決して今に疲れたわけではない。ただ、一刀の優しい笑みが欲しいだけ。一刀との思い出はまるで蛍火のようだった。綺麗で淡い光を放ってくれた思い出。
ふわり、と雪が舞い折り始めた。
「淡雪……」
降っては消え、降っては消えを繰り返す。その光景を見つめながら華琳は小さく呟いた。
「一刀、早く帰って来て」
ふわりと舞い降りた雪が華琳の頬を濡らした。
現在の時間。25日の38時。よし、恋姫祭りに間に合った。……間に合わず涙を流すくらのです。
皆さんすいません。まさか、こんなに遅れるとは。しかも後半じゃないという結末。花嫁の方は絶賛書いてる最中です。いましばらくお待ちください。今年中にはなんとか、何とか……書き上げれたら嬉しいな。
さて、今回はいかがでしたでしょうか。華琳の寂しいクリスマスです。ちなみに気が付いた方がいたか分かりませんが、これはとある歌をモチーフです。さて、分かったでしょうか。分かった方とは仲良くなれそうです。
それでは次回。今度こそ『花嫁』を。きっと今年中に。そう信じています。それでは次回! 『璃々ちゃんVS魏による花嫁大会事件 後編 〜ついに璃々ちゃんと魏の将達の戦い決着! ラストバトル〜』あげます!
それではさようなら。 See you next again!
説明 | ||
皆さんお久しぶりです。メリークリスマス! いえ、今日はクリスマスです。だれが何と言おうと。……くそー。間に合わなかったなんて。で、でも。これも祭りだと思ってください。そう! 後夜祭です! お楽しみください。 | ||
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コメント | ||
知ってますか?世の中には後夜祭というものがあってですね…………(悠なるかな) 大丈夫です!! 宴には二次会、三次会は、付き物ですよ!!(紗詞) |
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