恋姫†無双 外史『無銘伝』第8話
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 無銘伝6 乱世の治者

 

 翌日、孫策の下へ通された俺たちは、その異常な雰囲気に息を呑んだ。

「それで……何用かしら?」

 来客への対応ということで、一応体面はとりつくろっているが、周囲は出入りが激しく騒がしく、人の顔は険しく、なにより、主である孫策から、隠しきれない気のようなものが感じ取れて、俺は目を背けたくなった。

 それでも、ここは俺から話を始めなければならない。

 朱里はちょっと萎縮しているし、厳顔はあくまでも護衛だ。

 俺は震えそうになる声を抑え、兵を集めている件に対しての説明を求めた。

「劉表を討つため。それだけよ」

 短く、孫策は答えた。

 それが孫呉の揺るがぬ結論であることが、まざまざと感じ取れた。

 だが、だからといってそうですかというわけにはいかない。

「孫権のいる長沙と分断されそうだからか? でも、まだ劉表が好戦的態度にでたわけじゃないだろ? 兵は無理かもしれないけど、せめて孫権達だけでも領内を通過させてもらうよう交渉できれば――」

「無理ね」

 一言で、孫策は否定した。

「なんでだ?」

「それは――」

 ちら、と横目で陸遜を見る。

 孫策の脇で控えている軍師、陸遜は、彼女らしからぬ一片の笑みもない顔で、こくりと肯いた。

「あなたたちを信用して言うけど…………長沙が、劉表軍に包囲されているのよ」

「!?」

 驚いて俺たちは顔を見合わせた。

「甘寧が一人包囲から抜け出して伝えてくれたわ。私たちは一刻も早く南下して救い出さなきゃならない。それはわかるでしょう?」

「……ああ」

 ショックに言葉が出てこず、相づちしか打てない。

「けど、長沙の方に兵を分けたから、劉表の領土を攻撃するにしても突破するにしても兵が足りない。だから募兵しているというわけ。少なくとも2万……でなければ劉表への脅しにはならないわ」

「なるほど……それで、袁術さんに兵を借りるための交渉をしているのですか」

 孔明がようやく持ち直した。

「……さすが諸葛亮。そこまで掴んでいるのね。欲しい兵は八千から一万。さらに兵糧もとなると、さすがに新野だけでそれを捻出するのは不可能……」

「劉表軍は大体どの程度の兵力だと見積もっているんだ?」

「概数で四万……長沙包囲の兵と、劉表の本城である襄陽周辺の兵で二万ずつぐらいかしら。もちろん、兵の数だけで有利不利は測れない。この戦いの複雑なところは、互いに城を攻め、そして守る戦いであるところよ。私たちは劉表の襄陽を攻撃し、劉表を長沙包囲網から引きずり出す。そして劉表は長沙の城を攻めつつ、私たちの攻撃から襄陽を守る」

「2倍の敵か……」

「倍程度なら劉表相手に遅れは取らないわ。問題は、兵がまだ揃っていないこと。それだけよ」

「そうなのか? いや、俺は劉表軍の将兵ってよく知らないんだけど」

 俺の疑問に陸遜が、確かに、と肯定し、

「文人は粒ぞろいと言われていますが、武人はそこまで名高い人物はいません。諜報した限りでは、蔡瑁、カイ越、カイ良、劉磐、文聘、黄祖、黄忠らの参戦が考えられるとのことです」

「……!?」

 連ねられた名前に、二人が反応した。

 一人は俺、もう一人は厳顔だ。

「…………紫苑……」

 空耳と勘違いするぐらい小さなつぶやきが、後ろから聞こえた。

「誰か気になる人でもいた?」

 俺たちのわずかな反応に、孫策が気づいて問いを投げかける。

「…………いや」

 俺は、俺の方から黄忠について何か言うのは難しいと思った。何で俺が黄忠のことを知っているか、ここで説明ができないからだ。

 だが、言及を控えることはできなかった。

 黄忠のことではない。

 もう一人の人物のことだ。

 鼓動がうるさいぐらい激しくなっていて、口の中が乾きはじめていた。

 それは、ある人にとって、致命的な名前だった。

「あのさ…………黄祖、っていう人のこと、何か知らないかな?」

「黄祖?」

 孫策は首をかしげ、陸遜を見るが、陸遜も首を横に振った。

「知らないか……」

「何かあるの? その、黄祖とやらに」

「いや……知らないなら、いいんだ」

 劉表配下の武将、黄祖。

 それは三国志において孫策・孫権の父、孫堅を討ち取った武将の名前だ。

 董卓包囲網の後、孫堅と劉表は争いとなり、荊州で戦端を開いた。

 孫堅軍は劉表の居城襄陽に迫り、優勢に戦をすすめるが、劉表軍黄祖の兵によって、総大将孫堅が討ち取られてしまう。

 つまり……黄祖は、孫呉の仇となるわけだが……。

 先程の反応を見る限り、この世界においては、何の因縁もないようだ。

 だが。

 状況は今、元の三国志と同じだ。

 孫策は、劉表と戦おうとしている。

 そして戦いとなれば、孫策軍と劉表軍の黄祖は、激突する可能性がある。

 もし――もし、黄祖が史実通りに孫呉の総大将を戦死させるとすれば……。

 背筋が寒くなり、反対に頭に熱が上ってきた。

 マズい。

 このまま孫策を出陣させちゃ駄目だ。

「……それで、袁術から色よい返事はもらえたのか?」

 孫策は、ため息を吐いた。

「それがまったく……! 一万はおろか八千の半分の四千も出し渋っているわ。袁術も劉表が荊州牧になるなんて認めやしないでしょうに、自ら討伐軍を編成するどころか兵の貸与もケチって……いっそあっちから先にヤっちゃおうかしら」

「ちょっ……それはっ!」

「冗談よ」

 と、いいつつも口元すら笑っていなかった。

「仕方ないから、今は手元の財物をかき集めて、交換条件として出す予定よ。あの子、名族とやらの出だから、きっつい相場だろうけどね。五千が精々か……いや、兵糧のことを考えたらもっと……」

 孫策は珍しく声と顔に暗い影をにじませた。

「…………わかった」

 考える時間が足りないとは思ったが、時間を費やしていたら長沙にいる蓮華たちが危険だと俺は判断した。孫策も、孫権も、死なせるわけにはいかない。

「劉備軍から三千、兵を用意する」

「!!?」

 俺を除く全員が驚き、響めいた。

「ご主人さまっ!?」

 動揺しつつも、それを孫策達に伝えないレベルに抑え、声を低めて俺を咎める朱里。

「曹操軍や他の軍にも応援を頼もう。それは俺の名前でやるから、朱里、ただちに伝令を――」

「ま、待ちなさい――!」

 孫策も意想外だったのか、音を鳴らして椅子から立ち上がり、制止した。

「北郷、あなた、何を考えているの!? 兵を出してくれるのはありがたいけど、恩を着せるつもりなら――」

「拒否するって? 長沙には孫権をはじめ周瑜、呂蒙が残っているんだろ? それを見捨てるつもりか?」

「北郷っ、貴様!」

 甘寧が俺に対する怒りと共に武器を構える。

 ひるみそうになるが、そんな自分を強引にねじ伏せ、甘寧を凝視する。

「っ……見捨てる気がないなら、俺を頼れっていってるんだ! 恩を着せられるのが嫌なだけなら、こっちも条件を出す。それでいいだろ!」

「興覇! 退きなさいっ!」

 孫策の一喝に甘寧は武器を引いた。

 もしあのまま俺の方に近付いたら、後ろにいる厳顔の豪天砲が火を吹いたかもしれなかった。

「条件ね……穏、思春、人払いを。明命に外を見張らせなさい」

「はっ!」

 遠くではあるが見える位置にいる武官文官を退出させ、両軍の重要人物だけが残った。

「その条件を聞きましょう。穏、記録を」

「はい」

 態勢が整えられ、全員の視線が俺に集中する。

「一つは、俺を南征に連れて行くこと。二つは、敵軍への調略には俺たちに一枚噛ませること。この二つだ」

「あなたを連れて行くって……それは、いいの?」

 と、孫策は孔明に確認する。

「は、はわわ…………よ、良くは、ない、ですけど……」

 朱里は、俺に何度も何度も、何かを言おうとしているが、俺が何を考えているか理解できていないのか、話を切り出せずにいる。

「それと、敵軍への調略に参加……って、どういうことかしら? これが、あなたにとって得になることなの?」

「ああ」

 と深々と肯定する。

 が、そこまで確実に得すると考えている訳じゃない。あくまでも、孫策護衛、孫権救出が主目的だから。

「実は、荊州に俺の知り合いが何人かいるんだ。もしかしたら、劉表の配下になってしまってるかもしれない。嫌々ね。だから、その知人を釣り上げたい。劉表側について孫策達に殺されるなんて洒落にならないからな」

「ふうん……知り合いねぇ……まぁ、寝返らせるとか中立にさせるとかなら、私たちにとっても利があるけど……」

「………………」

 陸遜が、無言で、じぃっと俺の顔を眺めている。心底をはかろうとしているのだろう。

 だが、いかな軍師でも、俺の思惑は読み取れまい。

「劉備軍以外の軍には、孫権が危機にあることは話さず、状勢的に不利だから援軍を頼むということにしておこう。数としては少数になるだろうけど、重い貸しにはならないはずだ」

「……わかったわ」

 数秒、孫策は目を閉じて、答えた。

「あなたの条件をのみ、頼ることにする。誓約を」

 先程言った条件を書いた紙を、陸遜が持ってくる。

 そこに俺の名を書き、さらに孫策の名が連ねられる。

「これで二度目ね。誓いの下一緒に戦うのは」

「ああ。でもこれからだ。戦うために、動き出さないと」

「そうね。はじめましょう」

 一旦、俺たちは解散した。

 新野城の一角にある客室に、俺と朱里、桔梗は移った。

「…………ご主人様……っ」

 朱里は、泣きそうな顔をしていた。

「ご、ごめん、朱里、説明せずに話を進めちゃって」

 俺は朱里の肩を抱き寄せ、落ち着かせてから説明をはじめた。

「朱里には言ってあったけど、桔梗にはまだ言ってなかったかな? 俺が、未来の世界から来た人間だってこと」

「っ!? なんと……!?」

 桔梗は吃驚して、目を見張った。

「未来から来たといっても、普通の人間で、天の御遣いとかいうやつじゃないから、なにもかも知っているわけじゃない。でも、少しだけ、皆の知らない未来のことを知っているんだ。だから、今回、俺は孫策に援軍を送ることにした」

「どういうことなんです?」

「もしかしたら……劉表との戦いで、孫策は死ぬかもしれない」

「!?」

 今度は朱里も仰天した。

「俺の知っている歴史と今起こっていることは異なっているところが多いから、絶対に、とはいえないけど……。でも、俺は万が一の可能性でも、今孫策に死んで欲しいと思わない」

「それは……確かに。孫策さんが死ねば、その勢力はどこかに吸収されますが、その可能性が高いのは劉表さんに袁術さん……どちらも好ましくない勢力です」

「先に話しておければ良かったんだけど、気づいたのは陸遜から劉表軍の武将の名前を聞いた後でさ……。本当にごめんな」

 落ち着きはしたがまだちょっと涙目な朱里の手を取る

「はわわ…………いえ、大丈夫です。ただ、ご主人様がまた他軍のところへ行くのが心配なだけで」

「そうさな。それに、豫州の方もお館様なしでは身動き取りにくかろう」

「うん。だから2人にも協力して欲しい。荊州にいる2人の知り合いを紹介してほしいんだ」

「知り合い……あ、もしかして、孫策さんに言ったご主人様の知り合いって」

「そう。俺のじゃなくて、2人のね。ちょうど人手が足りないし、人材を荊州から吸収してやろうじゃないか」

「ふむ……劉備軍の増強にもなるというわけか。儂は良いが、軍師殿は?」

 厳顔に問われて、朱里はこくりと首を縦に振った。

「ただ孫策さんを助けるだけではないのならば、桃香さまたちにも申し訳がたつでしょう。すぐにその旨連絡を取り、兵三千と軍夫を送らせます」

「うん。それと、曹操達にも援軍の要請を」

「では儂は知己への手紙をしたためるとしよう」

 2人は筆を執り書簡の用意を始めた。

 俺は豫州関係のいろいろな指示を書き記し、愛紗へと送ることにした。

「屯田と……通信と……練兵と……ええと、あとなんだっけ。ああ、曹魏との連携についてと……」

 手紙を書き終えると、俺は伝令にそれを渡し、外に出た。

 朱里と桔梗はまだ書き仕事に没頭している。

 邪魔にならないように、外で一息つく。

(判断急ぎすぎてるか……? 桃香達に負担かけて、孫策達には押しつけるみたいに……)

 守りたいといって、素直に守られてくれる人はあまりいない。

「相手が英雄だからっていうのもあるし……俺が、頼りないって事もあるよな……」

 なんとなく城の中を歩き回って、中庭に出た。

「……よっ! と」

 周りを確認して、帯に差した刀を抜く。

「はっ!」

 中段に構え、振りかぶって真っ直ぐに振り下ろす。

「ふぅ……っ!」

 力を抜き、また振りかぶる。

 斬り下ろす。

 繰り返す。

 十、二十、三十と素振りをしているうちに、背後から首元に視線を感じて、振り返った。

「ん……?」

 だが、後ろには誰もいなかった。

 何かが動いた気がしたが、視界の端に黒い影が揺れたのが映っただけだった。

 風で揺らめいた木の枝の影か何かか……と、視線をぐるりとまわして、何気なくあたりを見渡す。

 新野の城の中庭は、客人の応接や公事をとりおこなう外向きの施設と、城主たちが生活する内向きの施設を接続する場所にある。

 そのため、城のほとんどの施設を窺うことができた。といっても、中が見えるのは、窓越しの狭い範囲だけだが。

「お?」

 その狭い窓枠にきりとられた場所に、孫策が立っていた。

 俺の方、すなわち中庭の側に背を向け、なにかを手に持って直立している。

「剣……?」

 遠目でもわかる、まっすぐ伸びた直刀。

 装飾の少ない細身の剣だが、俺の持っている無銘刀とはまた違う種類の美しい光をその刀身から放っている。

 宝刀――南海覇王。

 孫堅から受け継がれた、孫家の当主が持つ覇者の剣。

 それを手にして――孫策は、南海覇王を穴の空くほど見つめていた。

 何を考えているのか……あるいは、その考えの答えが、宝刀の刀身にうつっているのか……。

 俺は、孫策の背中が、少しだけ小さくなっているような気がして、思わず窓の方へと駆け寄った。

「孫策?」

 そして声を掛ける。

「……ああ、北郷か……っ!」

 と、孫策は顔と体をこちらにむけて、突然、南海覇王の切っ先をあげて、臨戦態勢にはいった。

「なに、やる気――!?」

「へ?」

 どうかしたのかと思ったら、刀を抜いて手にしたままだったことに気付いた。

「おおっと! 悪い。驚かせた。素振りしてて、鞘にいれるの忘れてた」

 慌てて納刀する。

「ないないっと、いやはは、ごめん」

 苦笑する俺に、孫策は、肩を落とした。

「いや……私の方こそ……、大げさだったわね」

「あー、まぁ、孫策なら笑って済ましそうなところだったかな?」

「そうね……ごめんなさい」

 謝られてしまい、余計気まずくなる。明らかに余裕がないのが感じ取れた。

「それで、剣をみつめて何を考えていたんだ? 劉表を倒す算段か?」

「………………ううん」

 力無く、彼女は首を横に振る。

 

「これを、袁術に売ろうと思って」

 

「え」

 風が地表を薙ぎ、不気味な音をたてた。

「えええええええええええええええ!!?」

 俺も、驚愕で声を張り上げ、その声に孫策も驚いて、びくっとのけぞり目を白黒させた。

「な、なに?」

「だ、だって、その剣、だいじな剣なんだろ!?」

 動転して言葉が選べない。

 とにかく、それを売るなんてとんでもない。

「う、うん、そうね……孫権からでも聞いたのかしら? 孫家代々伝わる宝剣で……王統の象徴とでも言うのか……」

「そうだよな、なのに、その剣を、売るって……それはやっぱり……」

 孫策は、肯定するように目線を下に向けた。

「私たちの手元の財宝じゃ袁術の興味をひけないわ。大抵の金銀財宝は飽き飽きしているでしょうし。となると……これぐらいしか、今の私には無い」

「そんな…………」

 孫策にとって、南海覇王はただの剣ではない。

 自身のアイデンティティを表す物であり、孫家の歴史を貫く物であり……何より、母、孫堅の形見である。

 それを手放すのは……尋常ではない決意が、そこにあるからだ。

「兵が、やっぱり足りないか?」

「いいえ……あなたたちのおかげで予定の八割は集められるわ。でもね、今回は、ただ勝てば良いわけじゃない、劉表の居城を陥せば良いわけじゃないの。蓮華達……孫権達のいる長沙包囲を解かせること。それが必要だから」

 ふぅ、と孫策は息を吐き、また吸う。悩ましげに。

「だから、劉表にこのまま孫呉を敵にまわしていたら致命的なことになる、と強く思わせなきゃいけない。それには、数の圧力も必要なのよ」

「…………他に方法がないのか……」

 戦うためじゃない。勝つためですらない。

 救うために、兵の数が必要で――孫策には、兵を得るための切り札が、南海覇王しか無いということか……。

 過程を間違えれば、蓮華を、冥琳を、亞莎を失うのだから、切り札を切らざるを得ない。

(…………そうか、俺が玉璽を拾っちゃったから……。本来なら、孫呉が玉璽を得て、ここで玉璽を袁術に渡すんだろうな……)

 俺がいたから。俺がいたから、孫策が窮地に立たされている。胸が締め付けられる。

(俺が持っている玉璽を、孫策に渡すか……? 事態がややこしくなるかもしれないけど……)

 俺の目の前に、選択肢が二つ浮かんだ。

 玉璽を袁術にわたして、孫策軍の兵力を増大させる道。かわりに、袁術が皇帝を名のり、突飛な行動に出るかも知れない。

 玉璽をわたさず、南海覇王を売って兵力を増大させる道。かわりに、孫策は後々の統治に苦労するかも知れない。

(…………どっちもギャンブルだ。玉璽を売るほうは、俺の知っている歴史通りだからまだ予想がつきそうだけど……)

 だが、ある記憶が蘇り、俺を躊躇させた。

(孫策がこの前言っていた噂、俺が玉璽を拾ったことを知っている奴がいる可能性…………駄目だ。この世界で玉璽を動かして、歴史通りに、俺の予想通りにいくとは思えない……!)

「……大丈夫よ」

 俺の心苦しい表情に気をつかったのか、孫策が虚勢を張る。

「この戦いを終えたら返してもらうわ。袁術が南海覇王を使いこなせるとは思えないし、あいつらには真の価値もわからないわ」

「…………」

 確かに、袁術1人なら宝剣なんて言いくるめればハチミツ一瓶と交換してしまいそうだが、あっちには張勳というお腹の黒い少女がいる。

 孫策が望んでいる物に対しては絶対に値段をつり上げてくるはずだ。今回の兵の貸し借りもそうだし、南海覇王についても、城一つどころか郡一つと交換と言い出してきてもおかしくない。

 つまり、張勳では無く、袁術を相手にできれば――

「…………なぁ」

 俺は、一つの案を試すことにした。

「袁術に南海覇王の価値がわからないなら、やっぱり足元を見られると思う」

 孫策は、ぎりっ、と歯噛みして、

「そうね。でも、これ以上の物は用意できないから――」

「わかっている。でも、それは最後にとって置こう。まずは、出せる財貨を提示してできる限り袁術から兵を引き出す。その後で、どうしても足りないと思うならその宝剣を出せばいい」

 俺は踵を返し、

「宝物じゃないけど、袁術に効果がありそうな物を俺も持ってくる。袁術の所へは一緒に行こう」

 そう言い残して、孫策の視線を背中に感じながら朱里と厳顔の所へ戻った。

「朱里……!」

 戻ってすぐ、俺は孔明の所に駆け寄った。

「ご主人様?」

 目を丸くする彼女に、

「曹操の所へはもう手紙送った?」

「いえ、今書き上げたところです。すいません、遅かったでしょうか」

「ああいや、そういうわけじゃないんだ。曹操のところの李典と典韋に頼み事があるから、その手紙も一緒に持って行かせたいんだ」

「そうでしたか。では、私は白蓮さんの所と馬超さんのところへも手紙を書きますので、ご主人様が書き終えたら、こちらにある手紙とあわせて曹操さんの所へ運ばせましょう」

「うん。あ、それから、盾を多めに集めておくようにしよう」

「盾ですか?」

「流矢で落命したらしいから」

「そうでしたか……。では、そちらの手配は桔梗さんにお任せして良いですか?」

「心得た。方々をまわってこよう」

 すでに一仕事やり終えたあとらしい桔梗が請け負って、部屋から出て行った。

 俺は再び筆を握って李典と典韋の2人への頼み事を書き記し、少し考えて、曹操にも一筆したためた。

「でも、李典さんは何となくわかりますが、典韋さんには何を頼むんです……?」

 孔明が手を動かしつつ尋ねる。

「んー……袁術に、甘い汁でも献上しようかなってね」

「?」

 朱里はわずかに首を傾げるが、俺はそれ以上付け加えなかった。

 

 

 

 エン州、曹操軍本拠地、陳留。

 

「劉備軍から手紙が来た?」

 執務室で曹操が聞き返した。

「はい」

 夏侯淵は手に持った4通の手紙を主の目の前に置いた。

「ふむ……私宛が2通、真桜と流琉に1通ずつね」

「え?」

 曹操の傍で護衛の任に着いていた流琉――典韋がきょとんとする。

「真桜はわからなくもないが、なぜ劉備軍から流琉に手紙が来るのだ?」

 夏侯惇もまた疑問符つきの表情を浮かべた。

「ん? 筆跡が違う……多分こっちが、諸葛亮の字で、こっちが……北郷の字ね」

「おそらくそうでしょう。相変わらずの汚い字ですし」

 荀ケがさも嫌そうに眉を逆八の字にして言う。

「とりあえず私宛のを見てみましょうか……こっちから」

 曹操は、一刀から来た手紙をまず手に取った。

 

『曹操へ。

 突然の手紙で驚いていると思う。忙しい中ごめん。

 うちの諸葛亮からの手紙で大体理解したと思うけど、荊州へ援軍を送って欲しいんだ。相手は荊州牧の劉表だ。

 大軍は送れないと思うし、将も割けないだろうけど、できる限りお願いしたい。2000いや、1000でもいい。

 その対価や、戦後の代償については孔明が詳しく書いていると思う。

 当然、俺も曹操が出す条件に最大限応ずるつもりだ。

 俺は少しの間荊州へいかなきゃならないから、直接会うことはできないけれど、それについては約束する。

 どうかよろしく。

 

 追伸。

 俺たちが劉表と戦っている間、袁術が動かないように、その兵力を削って吸収したいと思っている。

 そのために一番効果的なのは袁術が好きな物を渡し、袁術軍の兵を借り受けることだ。

 なので、李典と典韋の手を借りたい。

 理由については2人への手紙に書いたので、2人に聞いて欲しい。

 なんだか頼ってばかりだけど、重ね重ねお願いする。

 今度会えたときにでも、色々話そう。

 それじゃ、またその時が早めに来ることを願ってる。

 北郷一刀』

 

「……」

 ほぼ一瞬で読み終えながらも、数度心の中で反芻して、華琳は手紙を机の中にしまった。

「華琳様? 手紙にはなんと?」

 夏侯惇が尋ねるが、曹操は返事をせず、自身に宛てられたもう1通の手紙を開き、またも一瞬で読了し、今度はその手紙を広げて部下達へ示した。

「劉備軍から援軍の要請よ。場所は荊州」

「!?」

 全員、顔を強ばらせた。

「荊州……敵は、劉表か袁術ですか」

「今回は劉表のようね。孫策が不利な状況にあって、劉備軍に援軍要請が来たらしいわ」

「それに加えて私たちにも援軍要請……何かありそうですね」

 郭嘉が胸の前で指を組む。

「諸葛亮によると、数の上で劉表軍は孫策軍の倍以上だそうよ。孫策ならそんな兵力差ものともしないけれど、袁術が後ろにいると自由に戦えない。私たちの軍は孫策本陣の脇と後方を固め袁術への警戒を行う予備兵力となってくれ、と」

「なんだか……あやしい感じですねー。孔明ちゃんの説明は納得できるようで、少し違和感を覚えますしー……」

 風が感想を述べた。

「そうね。孫策の得意とする速攻は脇と後方が弱点、という意味では孔明の話に違和感はない。でも、風の言う通り……そもそもなんでこの手紙が劉備軍から出されたのかが奇妙だわ」

「劉便は曹操軍と反董卓連合軍が解散した後も協力していて友好的だから、孫策が仲介をお願いしたのでは?」

 と、荀攸。

「ふむ……。それでは、この要請に応えるか否か、諮りましょうか。何か意見は?」

 曹操が一同へぐるりと視線を巡らすと、まずは荀ケが一歩前へ出た。

「兵一千で孫策、劉備、袁術、劉表そして荊州の趨勢を掴むことができるなら安いものです。精々あのバカ男に恩を売ってやるべきかと」

 それを受けて郭嘉が口を開く。

「ただ、こちらもいま兵は貴重です。一線級の将兵ではなく、諜報向きの将と兵を厳選し、残りは護衛部隊と数あわせの兵でまとめるべきではないでしょうか」

「うむ。こちらも劉岱への牽制、袁紹への牽制で兵の数が必要だからな」

 夏侯惇がこくこくと肯く。

 そこに荀攸が付言する。

「加えて、エン州東方の泰山郡の賊。青州の黄巾党残党の動きも気にかかる」

「荊州の戦況がわからない状況ですしー……一千の兵が、まかりまちがえば全滅する確率も無視できません。中途半端な数を送るくらいなら、いっそ断った方が良いようなー……ぐぅ」

「寝るな!」

「…………他には?」

 発言の途中で寝た程cをよそに、軍議をすすめる。

「精強な兵一千ならば、私が率いても構いませんが」

 と、夏侯淵。

「そうね秋蘭なら……いや。兵は劉備軍と同じ三千用意しましょう。かわりとして、こっちは関羽に共闘してもらう。今の内にエン州泰山の賊を刈り取って軍を強大化させ、統治を安定させる。劉岱や袁紹が仕掛けてくる前にね」

「なるほど。関羽なら兵三千のかわりとして十分です」

 郭嘉は賛同するが、

「また関羽……!」

 春蘭は口を尖らせた。

「では兵は送るとして……指揮は誰にとらせましょう?」

「ん、その前に……真桜、流琉、この手紙を読みなさい」

 と、真桜と流琉の方へ手紙を滑らせた。

 2人は手紙の封を切り、読み始めた。

 少しの間、しんと静まりかえり、やがて2人が文面から顔を上げると、一斉に視線が2人へと集中した。

「え、ええと」

 流琉がちょっと緊張しながら手紙の内容を打ち明ける。

「袁術さんから兵員をお借りするために、孫策さんが財宝を袁術さんに贈るんだそうです。でも、財宝だけじゃ心許ないので、珍しい料理を作って持って行くから、私にちょっと協力して欲しい、と書いてあります」

「料理?」

「あ、私、料理が得意なんです」

「へー。そうなんか……んん? なんでたいちょ……じゃない、北郷は流琉が料理が得意って知っとったんや?」

 真桜のその疑問に、沙和が、ああ、と手を叩き、

「それは私が言ったかもしれないのー。流琉ちゃんの作った料理は美味しいって」

「ふうん……それで、真桜の方は何と書いてあったの?」

「ウチの方は、前に作って欲しいと頼んどったもんを持ってきてくれ、と書いてありました。この前の宴会で使う予定やったんやけど、間に合わんかったもんで……」

「宴会で使うということは武器じゃないのね?」

「はい。なんでも、祭りなんかに使う代物とかで……ウチの螺旋槍の原理を応用して開発したモノです」

「それはすでにできあがっているの?」

「いえ。完成してても用途がわからんので、北郷に見てもらわんと……正直ウチは何に使うのかさっぱり」

「……そう。となると、流琉と真桜を行かせることになるか……」

「さすがに2人も行かせると人手が足りなくなるのでは?」

「それに真桜も流琉も諜報には向いておりません」

「そうね。2人には用事を済ませたら帰ってきてもらうとしましょう。では改めて、誰に行かせるか……」

 曹操は居並ぶ部下たちを一瞥する。

(春蘭は軍の中心だから外せない。桂花も同様。秋蘭と風は調整役としてやることが多すぎる。季衣は私の護衛。凪や沙和は単独ではまだ不安。となると、軍師だけど稟か……荀攸?)

 配下に加わったばかりの少女を、横目で見る。

 先日倒れたときは心配したが、顔色も足取りもすっかり回復しているし、すぐに復帰して仕事をこなしている様子を見ると、問題はないように見える。

 では、能力に問題はあるか?

 新参で深い戦略にまで関わってはいないが、戦術の面ではすでに数々の功績をあげている。凪、沙和、真桜というまだ練度の低い部隊をうまく運用しているし、諜報の任務もまた、大過なくこなせるのではないか。

「荀攸。この仕事、あなたがやってみる?」

「……!」

 主からの指名に、末席の軍師は背筋を伸ばす。

「わたしで、良ろしいんですか?」

「ええ。そろそろ、単独で任務を果たせる段階でしょう。荊州勢の情報は後々の鍵になる。その頭脳に全てつみこんできなさい」

「はっ!」

 ガッと音をたてて拱手して、荀攸の任務は始まった。

 

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「…………それで、いつまでついてくるおつもりです?」

 三千の軍勢の中心を、四つの騎影が行く。

 先行するのは悪来典韋。小柄な体に溢れるパワー、巨大な円盤型の武器、伝磁葉々を背負い、後方3人を護衛する。

 最後方には知将(?)李典。武将には見えない縞柄ビキニに収まりきらないほどの巨乳が揺れ、短かすぎるホットパンツのまわりには、使用方法すら不明の種々様々な道具がしまわれ微かに音をたてている。

 そして中央にいる2人のうち1人。

 先程、困ったような辟易するような声を上げたのは、新進気鋭の軍師、荀攸だった。

 知性溢れる眼鏡の奥に、鋭い眼光、吊り上がり気味の眦。

 いまはちょっとへの字になってしまっている口は、閉じれば総身に知恵が回り、開けば大軍を動かすトリガーとなる。

 しかし。その荀攸でも、今隣にいる人物の行動には、知恵が通じないらしく戸惑っていた。

 その最後の1人。

 体格は典韋や荀攸と変わらない短躯の少女。

 しかし、見る人が見れば何十倍何百倍の大きさを感じるであろうその少女こそ、曹魏の主、曹孟徳その人だった。

 太陽の光を受けて益々輝く金色の髪を揺らし、曹操は荀攸に答える。

「袁術のいる南陽までよ。安心なさい、満足したら流琉達と帰るわ」

「…………なにか気になることでもあるのですか」

「そうね……ああ、そうだ、まずはその言葉遣い、いい加減止めなさい。なにか違和感があるのよ」

「…………しかし」

「命令」

「……はっ」

 荀攸は小さなため息をつき、しかし、肩から力を抜いた。

「やっぱり、ボクの正体、わかってるのね」

「さぁてね。かつての敵の情報を今更掴んでも、始末に困るのよね」

「……まいった。ボクが流布した欺瞞情報が含まれるなかで、ボクがどういう人間かまで特定されるなんて」

「あなたと出会った場所が決定的だったわ。もちろん、それだけであなたがどこの誰かまではわからなかったけれど」

「今は…………全部わかっている、か」

 ええ、と華琳は肯定した。

「とはいえ、わかっていて幕下に組み入れたのだから、遠慮する必要はない。今まで通り、荀攸として行動すればいい」

「……裏切ったり、不利益な献策をするとは思わないの?」

「その可能性を見越した上で言っているのよ」

「…………そこまでして飼うほど、ボクは優秀?」

 荀攸……賈駆は、曹操から視線を離し、独り言を言うように呟く。

「これまで見たところ感情が入らない時の戦術精度は、桂花や稟にも勝るかもしれないわね」

 曹操は冷たい目で賈駆を見下ろす。

「でも、反董卓連合の時の戦術、そして戦略はいただけないわ。模擬戦でも、董卓軍を想定したときは、ボロボロだった。あなたは味方なら頼もしいけど……敵になったら怖くはないのよ」

「………………言って、くれるわね」

 ぐっと、手綱を持つ手を強く握り、肩をふるわせる。

 それを見て、ふっ、と曹操は微笑した。

「私を震え上がらせるぐらい怖い子になってみせなさい」

 と、愛馬を前に出し、賈駆に背中を見せて告げる。

「その時までにあなたを私に心酔させれば、私の勝ちというわけよ」

 しばしうつむいていた賈駆は、無言で曹操に追いつき、馬首を並べる。

「そう簡単には……いかないんだから……!」

 それは小さな宣戦布告だった。

 しかし、2人はどこか、楽しそうでもあった。

 

 

 

 荊州、袁術軍本拠地、南陽郡

 

 荊州最大の人口を擁する郡にして、最小の君主が治める郡。

 南陽。その中枢である、宛城に、三つの勢力の主が集結していた。

「………………もしかして暇なの?」

 曹操の顔を見て、孫策は苦笑いを隠せなかった。

「そんなわけないでしょう」

 曹操もまた乾いた笑いを漏らした。

「あなたが恩を着せられたときどんな顔をするか見に来たのよ」

「趣味の悪い……ま、私があなたでもそうするだろうけど」

 宛城の門をくぐると、先に到着していた一人の男が、少し先の広場から駆け寄ってくるのが見えた。

 その男は、孫策の隣にいる曹操に気づくと、ぽかんと口を開け、驚いた顔になった。

 クス、っと愉快そうに笑う曹操を傍目にして、孫策は、

「…………なるほど。こっちか」

 と納得した。

 

「曹操っ! 来てくれたのか……!」

「ええ。三千の兵と一緒にね」

「三千!? 境を接している劉備軍はともかく、遠方から良く連れてきてくれたものね」

「そのかわり、将は一線級とはいえないわよ。軍師も新参。単独の任には堪えず、援護にまわせる程度と心得なさい」

「了解」

 孫策は神妙に承った。

「感謝するわ。曹操」

「ええ。貸しはしっかり返してもらうから……北郷に」

「何で俺!?」

 クスクス、と華琳は笑うだけで答えず、孫策まで笑いを堪えていて、俺はよくわからないまま、袁術が待つ宛城の宮殿の手前で止まった。

「さて…………交渉といきましょうか」

 孫策は顔つきを引き締める。

 彼女の後方には威儀を正す文官と、袁術へ渡す金銀財宝が控えている。

 そして曹操の後ろにも。

「で、これは何に使うの?」

 孫策と曹操が訝しげにそれを見る。

 それは、底が平らで深い大きな皿の真ん中に、円筒のカラクリがついた代物だった。まぁ、外見からでは何に使うのかさっぱりわからないだろう。

「これを使って袁術から兵を引き出せるかもってところ。李典と一緒にちょっと試してみるよ。それと、典韋とは料理だな」

「料理なら私も協力するわ」

「曹操も? ありがたいけど、いいのか?」

「別に袁術に会いにきたわけじゃないし。あなたが何をどうするつもりなのかという事の方が興味があるわ」

「……そっちは私も気になるわ。後で教えてね? 一刀」

 と、孫策は俺の耳元でささやく。

「ああ」

「じゃ、袁術の所へ行ってくる。といっても、待たされるだろうけどね。いつものことだから」

「俺たちが間に合うよう、一応交渉は長引かせてくれよ? 最小限の兵を借りるなんて考えないで、ふっかけてやってさ」

「ふふ、わかった。なるべく早く来てね。私の血管がぶち切れる前に」

 そう言い残し、孫策は手を振って宮殿の中へと入っていった。

 ほぼ同じタイミングで、城外で幕営をはっていた曹操軍の典韋、李典が俺たちと合流した。

「厨房の使用許可は先にとってある。行こう」

 俺たちも、小走りで役目を果たしに行く。

 宮殿の厨房は、さすが袁術の要求を叶えるためとあって、巨大で設備も整えられたものだった。

「こればかりは私の城よりすごいわね」

 と、曹操も呆れつつ褒め称える。

「食材さえあれば何でも作れそうです!」

 典韋が目を輝かせる。

「食材は一通り買ってきてあるけど、もしかしたら別に必要になるかもしれないから、その点については……」

「…………なぜ私がこんな事を」

 小麦色の肌に気鬱な色をにじませて、少女が愚痴る。

 朝からこっち市場をかけずり回り食材を買い集め、山野に分け入り珍味を求め続けた少女。

 その正体は、孫策軍切っての武人、甘寧その人である。

「ごめんね。足りなくなったらまたお願いするけど。ほんとにごめんね」

「孫策様の役に立たなかったらその首切り取るぞ……」

 舌打ちしそうなぐらい怒りに燃えている甘寧は、全ての食材を運び終わり、壁際のテーブルの端に腰を落ち着けた。

 椅子に座らないところを見ると、仕事を言いつけられればすぐに行くつもりのようだ。

 とっとと兵を率いて怒りを劉表軍にぶつけたいんだろうな、と俺は思った。

 間違ってもその怒りが俺に向かいませんように……。

「よし、はじめよう。今から作りたい料理がどんな感じのものか説明する。ただ、作り方とか材料とか細かいところで知らないところ、記憶違いとかがあると思うから、そこらへんを典韋に助けて欲しい」

「わかりましたっ!」

 流琉はエプロンをつけて準備万端という感じだ。裸エプロンならもっと良いが……それはまた別の話だ。

 ちなみに曹操もエプロンを着けている。普段の冷たく厳かな衣装とのギャップが萌える。

「俺が袁術に作ろうと思っているのは、これだ!」

 言葉で説明してもわかりにくいので絵図にしてあったのをテーブルに広げた。

「これは…………お子様らんち……?」

 流琉が目を瞬かせる。

「そう! お子様限定、小さな満漢全席だ!」

「ふぅん……なかなか面白いわね」

「でもだいぶ手がかかりそうですね……!」

 腕が鳴るのか、声から興奮が伝わってくる。頼もしい子だ。

「料理の作り方を一つずつ説明するから、時間のかかりそうなものから手をつけていこう!」

 一品一品レシピを確認し、材料を分けていく。

「はんばーぐ……海老ふらい……ちきんらいす……聞いたことのない料理ばかりです」

「材料が違うだけで、調理法は同じものもあるから、気負わずにね」

 チキンライスとかは炒飯のカテゴリーだしな。

 流琉と華琳は、相談しつつ調理にとりかかった。

「……たいちょー、ウチは何すりゃいいん?」

 手持ちぶさたらしい李典が俺の二の腕をつつく。

「ああ、李典は、っと……これだ」

 食材の山の中にある袋を取り出す。

「これを例のアレのあそこに入れてごにょごにょ……」

 と、耳打ちする。

「ん……ちょ……息くすぐったい……っ、んん? それでなにができるんや?」

「この棒で……んで、ごにょごにょ」

「く、クモ? なんやそれ、こわい……」

「怖いこと無いって。やってみればわかると思うから、一度試してみてくれるか?」

「わ、わかった……」

 李典は運び込まれていた先程のカラクリに近より、作業を始めた。

 話が終わったのを見て、流琉がとことこ俺の方にくる。

「北郷さん。この、けちゃっぷ、というのはなんでしょうか?」

「ああそれは、トマトを……あ」

 よく考えたら、トマトなんてあるわけが無い。

「ど、どうしよう……!」

 あたふたする俺に、

「お、落ち着いて下さい! とまと、っていうのはどういうものなんです?」

「ええと、赤くて、柿みたいな感じで……ああああでも、この国にあるわけが――」

 トマトの原産は南米である。この時代のこの地域には影も形も――

「これか?」

 甘寧が、すっ、と赤いかたまりを差し出す。

 あざやかな赤い実に緑のへた、それはまごう事なきトマトだった。

「え。ええええええ!!? ど、どこにあったのこれ!?」

「ん」

 思春は親指で斜め後方を指さす

 甘寧が持っている一個だけではなく、食材の山の一角に、それは数十個は鎮座していた。

「山をまわっている最中、隠遁していた仙人に遭遇してこの実を分けてもらった」

「仙人すげえええええええ!」

 ありがとう名も無き仙人。歴史が彼を忘れても、俺は忘れることはないだろう……。

「たいちょー、うまくいかへんよー……」

 また李典が寄ってくる。

「えー? なんでだろ……回転が足りないのかな?」

 試行錯誤。

 かつていた世界で、子供の頃に教えてもらった、とあるお祭りの思い出を記憶からほりだしてくる。

「北郷? はんばーぐとやらの焼く前はこんな感じで良い?」

「うん。あ、そうだ、空気は抜いた? こんな感じで……」

 と、料理の方も、なけなしの知識を総ざらいで実践していく。

 10分、20分……30分。

「たーいちょー、今度はなんか変なの出てきたー」

「んー? どれどれ……あ、穴が大きすぎかな。ちょっと穴ふさいで小さくして……」

「北郷さーん! ちきんらいすは、まだいいんですかー?」

「はいはーい。ケチャップができたら一気に作ろう。炒飯と作り方同じだからね」

「北郷。湯……スープ? の味をみてくれる?」

「うん。ずずっ…………んー、ちょっと繊細過ぎかな。袁術にあわせて、濃くしよう」

「そう。じゃ、匙返して。……ふぅん、これはこれで美味しい……覚えておきましょう」

 そして一時間が過ぎて、試作や下ごしらえが済んで、あとは火を通すだけとなった。

「やりましたね!」

 流琉が、花のように微笑み白い歯を見せる。

「細作の報告だと、孫策のほうも交渉が煮詰まってきているそうよ」

 華琳が会心のタイミングに満足して舌なめずりする。

「よおしっ! 仕上げにかかるぞ!!」

 俺が勢い込んで腕まくりした刹那、

「う、うわあああああああああああ!!?」

 真桜の叫びがこだました。

「なんだ!?」

「真桜!? どうしたの!」

 悲鳴混じりの奇声に、皆が真桜のいる厨房の片隅に移動する。

 真桜は、例のカラクリを前に、へたり込んでいた。カラクリは音をたてて回転し続けていた。

「李典! なにがあった!?」

 真桜を抱えおこす。

「く、蜘蛛の糸が出てきて、手に……!」

「へ?」

 その言葉通り、真桜の手に、白い糸状のものがまとわりついていた。

「隊長、なんやのこれぇ……!?」

 ぶんぶんと振り落とそうとする真桜の手を取って、指でつまみ、とってやる。

「そんな驚くこと無いじゃないか。雲ってさっき言って……? あ、ああ! そうか、虫の方と間違えてたのか!」

 指で挟んだ白糸を、李典の前でふわふわ動かしてみせる。

「空に浮いている方の雲、ね」

「…………な、なんやー……」

 真桜は大きく息をついて、よろよろ立ち上がった。

「一体何を作ってたのよ?」

 大事では無いと理解した曹操は、肩をすくめて訊ねる。

 俺は箸をとり、まだ回転しているカラクリの円筒部分の近くに箸をかざした。李典の指にくっついたものと同じ、絹糸みたいなものが箸にまきつき、あれよあれよというまに丸い糸玉となって箸の半分を覆った。

「よっと。うまくいったな」

 円筒部分の中心にある螺旋駆動装置を止め、皆にそれを示す。

 箸の先で雲のようにふわふわで、綿のようにぽわぽわなそれは――

 俺は綿をちぎって、ぱくりと口の中に放り込んだ。

「綿飴、っていうお菓子だよ」

 熱をもった綿飴は、舌の上で、すうっ、と溶け甘味を残して消えた。

 この世界でも変わらない食感と甘みの強さに、俺は、子供の頃に行った田舎の祭りをありありと思い出して、なつかしくなった……。

 ここにはいない家族と、小さな頃田舎に行った時だけ遊んだ、もう顔もほとんど覚えていない友人達と……。

「へぇ……雲の菓子か。珍しいし、袁術の気を引けそうな外見ね。材料は何を使っているのかしら? …………北郷?」

「え? あ、ああ。お菓子もうまくいったみたいだし、料理を完成させよう」

 追憶に浸っていた数秒を経て、俺は現実に戻ってきた。

「?」

 曹操がなにかあったのだろうかと小首をかしげている。

「あ、味見してみる? ほら」

 綿アメを差し出す。

「頂くわ」

 華琳は素直にひとつまみしてちぎり、感触をみたあと、口に滑り込ませた。

「あま……そうか、砂糖と同じなのねこれは……。うん、頻繁に食べるお菓子としては飽きが来そうだけど、祭りには確かにいいわね」

「私もいいですか!?」

 流琉が目をキラキラさせている。

「もちろん!」

「わーい!」

 子供のように綿飴を頬張る。

「甘ーい! あはは、すごいなぁ!」

「ウチも食べるー!」

 李典は返事を待つことなくぱっくり食いついた。

「うっひゃー! なんやこれ! 激甘や!」

「そんな一気に食べるもんじゃないって! ……まったく」

 微苦笑して、ふっと、少し離れた場所でこちらをみている少女に近付く。

「はい、甘寧。一口味見」

「…………私はいい」

 ぷいっと顔ごと視線を外す。さっきまで、じっと見ていたくせに。

「袁術が好きそうな味かどうか、意見が欲しいなっ」

「…………」

 ゆっくりと、顔を元へ戻し、綿飴をそっと取る。

「はむ……」

 口に運び、味わい、こく、と飲み込む。そして口外にちょっとはみ出ていた綿を舌でぺろっと舐めて、目を閉じた。

「……袁術なら好きなんじゃないか。よく知らないが」

「そっか、良かった!」

 素っ気ないようで、ちょっと険の取れた様子を見て、俺は満足した。

 踵を返し、曹操や典韋のいる方へ戻る。

「あと一息だ! 頑張ろう!」

「おー!」

 声を上げて、皆は最後の詰めにかかった。

「……」

 俺はちょっとだけ残った綿飴を、もう一口食べてみた。

 彼方の面影は、もう薄れていて、消えかけていた。

 ……今は思い出を懐かしんでいる暇はない。

 俺は過去の追想を振り払って、今やるべき事への注力に戻った。

 

 

「しつこいのう……兵四千までなら出してやろうと言うたであろう」

 謁見の間の上座、豪奢な椅子に小さな体をのっけて、袁術がため息をつく。

「それで武将は貸さないって、どうやって制御しろというのよ……私が要求しているのは母の配下だった将の返還と、兵の貸与。董卓との戦いの時の報酬もまだなんだからこれぐらい……」

「だーかーら、兵四千も貸してやるのだぞ? どうじゃ、妾の太っ腹っぷりは!」

「さすが美羽様! 大放出〜!」

 やんややんやと七乃がはやし立てる。

「………………」

 ぎりぎりぎりぎり。

 孫策の歯ぎしりは止まらない。

「……宝物については? 目録は渡してあるわよね」

 口を開けて、噛み付きたくなる衝動を抑え、なんとか言葉を発する。

「ああ。あれか。どうなんじゃ、七乃?」

 美羽には文字だけの目録ではよくわからなかったのか、腹心の張勳に尋ねる。

「ええ、なかなかの名品揃いでしたよ。実物を見ればお嬢様も気に入ると思います」

「なら、上乗せしてもらわないとね」

「そうですね〜……では、お嬢様、ごにょごにょ」

 と七乃が美羽へ小声で伝える。

「ふむ。わかった。兵四千人分の武器と兵糧も任せるがよい」

 と、体格と同じくちっちゃい胸を叩く。

「それだけ!? そもそも兵四千のなかにそれも含まれてるんじゃないの!?」

「ないない。じゃから、お宝の分はそれじゃ」

「っ……! じゃあ、実物を見てから値段を決めてもらいましょうか……!」

 眉間に寄った皺が元に戻る暇もなく、交渉が続く。

 30分、40分、50分……

「しょーが無いのぉ……七乃」

 孫策の粘りに閉口して、袁術が折れた。

「なら、兵士千人増員しましょー。兵站も追加でもってけドロボー!」

「…………」

(これで兵五千……最低基準は突破か……いや、違う。五千は、穏が算出した、戦術的勝利なら掴めるかもっていう最悪の基準だ……でも、もう、出せるものはない)

 黄巾の乱から対董卓戦までの戦功でためこんだ蓄財の半分は吐きだした。残りは、本拠地である呉への投資に回しており、手元にない。

(水軍の維持は金がかかるのよね……。そして、今回の戦いでは水軍を呼び寄せるのも難しいときた……)

 少なくとも襄陽を抜かなければ、呉が誇る大艦隊と合流することはできないだろう。

(本当に今、私が切り売りできるものは……あとは……これ、だけ……)

 どくん、と心臓がはねる。

 手に、南海覇王の柄が触れる。

(ああ、いっそ……)

 頼もしき愛刀を強く強く握りしめる。

(目の前のこいつらを……ここで――)

 頭が真っ白になって、視界が真っ赤に染まる、

 孫策はわき上がる衝動が抑えきれなくなったのを感じた。

 そしてその衝動が脚を突き動かし、爆発するように飛び出す寸前――

 

「お待たせ……! 孫策」

 彼が来た。

「一刀……っ!」

 息を切らせて、北郷一刀が登場した。

 

「おお? なんじゃ、ええと、なんというたか……へんたいぶた?」

 袁術が突然の来訪者に目を見開く。

「北郷一刀だ……てかなんでそっちだけ覚えてるんだよ」

 七乃がそんな呼び方をしていた。

「で? 何用じゃ?」

「お嬢様、北郷さんは美羽さまにお料理を献上したいと申し出てきたんですよっ」

「ほ〜」

 張勳にはあらかじめ話しを通してあったので、スムーズに事が進む。

「そうじゃのう。ちょうど小腹も空いてきたかもしれぬ……」

「ああ、それなら良かったよ」

 実は偵察部隊がタイミングを窺ってはいたのだが、それにしても良い時間帯にうまくあたったものだと思う。

「俺たちが用意したのは、かなり珍しい料理だから、袁術もきっと驚くよ」

「ふむ? それは中々楽しみじゃが……妾は三公を排出した名門の出、珍しいものは子供の頃より食べ慣れておるぞ?」

 まだ子供だろ? というツッコミを飲み込む。

「いや。たとえ名門出身の袁術でも、食べたことないものだと思うよ」

「む……」

 美羽はちょっと不機嫌になった。

「では、妾が既に知っていたものであったらどうするのじゃ?

「その時は――」

 俺はちょっとだけ逡巡したが、謁見の間の出口に待機している流琉や華琳、真桜の顔を見て、また、横にいる孫策の、耐えに耐えた怒りの熱を感じて、覚悟を決めた。

「俺自身を煮るなり焼くなり、好きにして良い」

 ざわっ、と、近くから遠くから、驚きの声が漏れた。

「北郷っ!? あなた――!」

「そのかわり、本当に一度も食べたことが無くて、美味しいと思ったら、素直に認めて、こっちの要求を叶えてもらえるか?」

「ふっ、ふふふっ、良かろう、良い、面白いぞ北郷! 天の御遣いとかいう噂の正体、ここでたしかめてみようではないか!」

「うふふ、お嬢様対北郷さんの美食対決ですか〜。では、食卓を用意しますね〜」

 張勳は止めるどころか、積極的に動き、ぱぱっと、食事の支度を調えた。

 俺は流琉達に合図を送る。

 給仕の人たちが音もなく、食事を運んでくる。

「ん〜? なんじゃ、これは?」

 並べられた皿にはドームカバーがつけられていて、中身が見えないようにしてある。

 これも演出の一つだ。

「開けるよ」

 覆いをとる。

 白い湯気とともに、良い匂いがたちこめた。

「どうぞ、召し上がれ」

 一歩下がり、美羽の様子を見る。

「ほぉおおお……? ……な、なんじゃ、これは」

 箸を取ることも忘れ、右に左に視線を動かす。

「これがハンバーグっていう料理で……」

 一つ一つ説明する。

「これは……? なんだか血に見えるのじゃが」

「ああ。血じゃないよ。ケチャップね。まぁ、まず食べてみてくれ」

「うむ!」

 見た目はよくわからないが、匂いは好みなのか、箸を取ると、ぱっと飛びついた。

「はふはふ、あつ、あちゅ……もぐもぐ……こくん」

 ハンバーグを咀嚼し、飲み込む。

「これは美味いのうっ。牛や豚の肉は食べたことがあるが、それとはまた違う……。うむ! 気に入ったぞ!」

 無邪気にはしゃぎ、次の料理次の料理へどんどん手を付ける。

「こっちは炒飯みたいじゃが、形が面白いのう」

「ああ、それは単純に型にはめて整えたんだ。星とか、ハートとか……あと欠かせないのが旗だね」

「もふもふ、美味い美味い」

 小動物のように夢中になってかき込む姿が可愛い。

「んふ〜、水、水」

 ちょっと苦しくなったのか、こくこく、とハチミツ入りの水を飲む。

「おっと……ほっぺについちゃってるよ」

「んん……?」

 と、くっついた御飯粒をちょいっとつまみ、自分の口に入れる。

「っ!?」

 その瞬間、いくつか気配が動いた。

 七乃と華琳? 他にも? よくわからないが、マズイ行動だっただろうか?

「ありがとうなのじゃ!」

 美羽は純真な笑顔で感謝を述べ、食事を再開した。

 ぱくぱくもぐもぐ、旺盛な食べっぷりで、あれよあれよというまに全て平らげていく。量を少なめにしたこともあるが、これはいける、と俺は思った。

(追い討ちだ……!)

「食後にはお菓子も用意してあるんだ」

 メインディッシュを終えると、俺は例のものを持ち出した。

 綿飴製造器。これは目の前で作った方が絶対インパクトがある。

「?」

 美羽はなにをしているのかと、好奇心込みの疑問の目を向ける。

 そして、綿飴ができると、

「わぁあああああ……!」

 手を合わせて椅子から立ち上がり、ぴょこぴょこ近付いてきた。

「これは、雲か?」

「雲というか綿かな。綿飴っていうお菓子。はい、どうぞ」

「ほおおおお」

 袁術は綿飴を受け取ると、ちょんちょんと綿をつつきながら、元の席にかえり、ちっちゃい口で啄むように、綿飴を食しはじめた。 

「…………!」

 表情がぱぁっと華やいだ。

「あまあま……ふわふわなのじゃ……もくもく……」

 一心不乱に綿飴を食い尽くす。

 口周りがベタベタになっているようなので、準備しておいたお絞りで拭ってやる。

 美羽は、綺麗な顔に戻ると、

「ふ〜、ごちそうさま、なのじゃ」

 行儀良く完食の挨拶をして、満面の笑みを見せてくれた。

「お粗末様っ」

 華やかな喜色に、兵の貸し借りを賭けた勝負など忘れて、俺も満足した。

「…………はぁあああ、食べ終ったら眠くなってきたのじゃ……」

 ずるずる〜っと椅子に深く沈んでいく。

「待った待った、結果だけは聞かせてくれよ」

「ん? ああ、そうじゃったな」

 あくびをしてとろんとした目をこすり、よいしょ、と姿勢を戻す。

「見た目も味も初めてのものだったのじゃ! うむ!」

「それじゃあ……!」

「二言はない、褒美を取らすぞ! 願いをいうのじゃ!」

「ありがとう袁術。なら……孫策が要求した数の将兵を、全てそろえて貸して欲しい。孫策」

 雪蓮を手招く。

 彼女は俺の隣に並び、片膝立ちで袁術に相対した。

「兵一万、それと母様の部下だった将……これらをお貸し願いたい」

 袁術はちょっとたじろいで、

「む、むぅ。兵一万か……」

「…………伏して、お願い申し上げる」

 そして、孫策は、頭を地につけた。

「!」

 その行動に、俺たちも、袁術たちも驚きを隠せなかった。

「………………」

 居心地の悪い沈黙が降りた。

「………………わ、わかったのじゃ」

 袁術がどこか苦しげに譲歩する。

「兵一万、と将、じゃな。その対価は先程の財物とする……それで良いな?」

「感謝します……」

「あーあー……頭をあげよ……調子が狂うのじゃー……」

 と、頭を掻く。

「七乃、兵一万をそろえよ。孫堅の旧臣にも伝えるのじゃ」

「……はい、お嬢様」

 張勳は返事に微妙な間を開けたがなにも文句は言わなかった。

「必ずや劉表を討伐し、兵を返還しに参ります」

 孫策は1回あげた頭を再度深々と下げた。

 

 こうして孫策は、兵一万を得た。

 劉備、曹操、馬超、公孫賛らの援軍もあり、総兵力は三万となった。

「感謝してもしたり無いわね」

 陣を敷いた一万六千の兵を前に、孫策は俺と肩を並べた。

 現状南陽にいる兵力は、劉備軍三千、曹操軍三千、そして袁術の加勢一万である。

 これに新野にいる孫策軍一万と、直接新野へと向かっている公孫賛、馬超軍が合流すれば三万に膨れあがる。

「ありがとう、一刀」

「あはは、今日は頭下げっぱなしだな、孫策。曹操や典韋、李典達の協力があったからね」

「そっちもだけど……」

 くいっ、と俺の手を取った。

「あなたが、あそこまで言ってくれて、嬉しかった」

「ん?」

 なんだろ、そんなに感謝されるほどのこと言ったかな?

「あ、そうだ。綿飴、だっけ。あれ、あとでもらえる?」

「ああ、いいよ。まだ進軍の準備してる途中だから、今持ってこようか?」

「ううん」

 孫策は、俺の手を少し強く握った。

「孫権達と帰ってきたら、ね」

「……うん」

 俺は彼女の手を握り返した。

 

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「それじゃ、私たちは帰るわ」

 曹操は、孫策軍の進軍を待たず、典韋、李典と、出立することになった。

「この軍の指揮は荀攸が執る。いざというときは離脱するよう指示してあるから、あまり頼らないように」

「了解。わざわざありがとうな、曹操」

「いえ……面白いものを見せてもらったわ。貸し借りはあまり考えなくて良いから」

 曹操は含みのない笑顔で応じた。

「…………そういえば、この前荀攸が倒れた後だけど」

「ん?」

 唐突な話題転換に、俺は不意を突かれる。

「あなた、あの娘をどこかに連れてったでしょ」

「うっ! 気づいてたのか」

「私の屋敷内のことで気づかないわけ無いでしょ」

「で、ですよねー……」

 俺は言葉に詰まった。

「戻ってきたときには、あの子が元気になってたから咎めなかったけど、なにかあったのかしら? もしかして、本気であの子に手をつけたのかしら?」

「い、いやいやいや、手なんてつけてない。つけたことない」

 この世界ではまだ。

「ふうん」

 疑わしげな瞳が俺を貫く。

「初対面の時から妙な感じだったけど……ま、いいでしょう」

 手綱を操り、馬首を反転させる。

「あなたも無理せず、孫策の激昂につきあわないことね。家族や部下のことになると、歯止めが利かなくなるんだから」

「ああ……そうだな」

「武運を。北郷」

 そう言い残して、華琳は去っていった。

 彼女は、彼女の戦場へ。

「今日は勉強になりました! また、面白そうな料理があったら教えて下さいね!」

 流琉とも挨拶を交わし、見送る。

「隊長〜」

 頃合いを見計らっていたのか、最後に李典が寄ってきた。

「頼まれていたもう一つのやつは、はわわ軍師ちゃんに預けときましたわ」

「おう、ありがとう」

「即席やから遠目にしか通じんと思うけど」

「ああ。弓兵が釣れればいいから、それで大丈夫だ」

 李典に礼を言って別れる。

 曹操軍の小隊が動き、華琳、流琉、真桜たちは宛城を離れた。

「また会ったわね、一刀」

 入れ替わりに、詠がやってきた。

「ああ。体調はどう?」

「万全よ。今なら千軍でも指揮してみせるわ!」

「頼もしいね。でも、こっちも将はそろってるぞ。孔明だろ、厳顔だろ、それから――」

 その時、俺を呼びに来た劉備軍の将が手を振ってこっちに来た。

「おーい、北郷! 孫策がそろそろ動くから、私たちも――」

「え――!?」

「あ……!?」」

 二人は、再会した。

「か、かゅ……あ、あわわ、ど、どちら様だったかしら!?」

 賈駆は雛里のごとく慌てふためいた。

「かっ、くっ……い、いや、そ、曹操軍の……だ、誰だったかな!?」

 華雄も彼女らしからぬ動揺を見せた。

「ぷっ」

 俺は思わず、

「あっはっはっは!!」

 爆笑した。

 それを見て二人はポカンとした。

「はは、そうかそうか、言い忘れてたよ」

 賈駆も華雄も、互いの正体を口外してはならないと思い込んでいるんだろう。

「皆は知らないけど、俺は知ってるから大丈夫だよ。賈駆、華雄」

 その言葉で二人は理解したのか、顔を真っ赤にした。

「なによ……意地の悪い」

「腹がたつ……」

 と、膨れっ面。

 しかし、すぐに二人は互いの顔を見合った。

「そうか……無事、曹操軍で地位を得たのだな」

「ええ。名前を隠して、荀攸っていう軍師としてだけどね」

「荀攸……か。私も今は葉雄という名前だ。もっとも、仲間内では華雄と知れているがな」

「そう……。ボクも、今日初めて知ったけど、ボクの正体、曹操にはばれちゃったみたい」

「本当に!?

 それには俺も驚いた。

「ま、大事にはなってないわ。それより……月が、無事に生きていたわ」

「…………そうか」

 華雄は、ふっ、と一瞬、優しい顔になった。

「色々変わったが、失わずにすんだのだな……」

 賈駆は、曹操軍のシンボルカラーともいえる青系の戦装束を身にまとっている。

 華雄は、少し髪を伸ばし、露出を控えめにした甲冑を身につけている。

 どちらも、董卓軍にいた頃とは全く違う出で立ちで、嫌でも立場の変化を感じさせた。

「敵ではないのが、幸いというところだな」

「ええ……精々、この戦でもよろしく頼むわ」

 二人は自然と距離を縮め、握手を交わした。

 これでようやく、董卓との戦いの始末は、終わったのかもしれない。

 握手を終えると華雄は俺の方を向いて、

「さて、北郷。そろそろ孫策軍が進軍を開始するようだから、我らは孫策本陣の横について移動すると朱里が言っていたぞ」

「ああ。わかった。曹操軍はその反対側かな?」

「ええ。孫策からそう聞いているわ」

「それじゃ、お互いに頑張ろう!」

 手をあげて、俺たちはそれぞれの陣に戻った。

 戻るとすぐに孫策軍が動き始めた。

「よし! 俺たちも行くぞ!」

 劉備軍三千も動き出した。

 一万六千が一丸となって新野へ。

「孫策軍本陣より伝令! 新野で公孫賛軍、馬超軍と合流! 劉備軍は公孫賛軍と共に本陣横を固めるべし! 以上です!」

「わかった! 朱里!」

「はっ! 鈎行の陣を敷きます! 葉雄さんの部隊は外に広がってください!」

 凹状に陣を広げ、動かしやすくする。

「新野が見えてきました! 桔梗さんの部隊と合流します!」

「桔梗から盾を受け取って、孫策の周りで備えよう。前方の部隊の指揮は桔梗に任せる。本陣は孫策の近くによるぞ!」

「御意です!」

 劉備軍は新野で戦支度をしていた厳顔を組み込む。

「すでに孫策軍先遣隊は新野の東西にある各城を制圧、全軍は襄陽の北、樊城を前に合流するとのこと!」

「了解だ! 今のうちに公孫賛軍と戦術をあわせておくぞ。あちら側の大将は誰だ?」

「白蓮さんの従妹の公孫越さんだそうです!」

 朱里が答える。

「ああ、あの子か……あれ? じゃあ、河内には誰が残っているんだ?」

「趙雲さんが留守番だそうですが」

「へぇ。ってことは、幽州には白蓮一人なのか……心配だな」

 白蓮は白蓮で、新しく幽州牧になった劉虞や、冀州の袁紹への対応で大変そうだ。

 しかし、今は目の前の事を考えなければ。

「公孫越なら、護衛の仕事したがってたし、ちょうどいいかも。朱里、孫策を守る形で布陣してもらえるよう伝えてくれる? なんなら、盾とか融通するから」

「御意です。伝令さん!」

 朱里は細目を伝令に伝え、公孫賛軍へと走らせた。

 ややあって、

「伝令! 公孫越殿は申し出を受諾! ただし盾は不要! すでに鉄壁とのこと!」

「そうか、わかった……すごいな、本人だけじゃなく部隊も重武装か」

「となると、私たちの逆側、曹操軍と馬超軍の方が気になりますね……」

「確かに……」

 方角でいうと、孫策本陣の西側を俺たちと公孫賛軍、東側を曹操軍と馬超軍が守っている。

 攻撃においてはおそらく東側の連合が強いが、守備においては少々心許ない。

「孫策が先走らないように注意しておかないとな……」

 そんなことを言っている間に、孫策軍先遣隊……元々孫策軍が従えていた一万の軍に追いついた。

「前方、樊城の北の平原に劉表軍が待ち構えているとのこと! 兵数約一万五千!」

「野戦を挑むのか……」

 今や兵の数ではこちらが優勢だ。

 それを知らないから野戦を挑もうとしているのか、それとも何か作戦があるのか。

「伝令! 軍議を行うので、諸将は孫策軍本陣に集合をとのことです!」

「わかった」

 孫策軍本陣に、劉、曹、公孫、馬、五軍の首脳が一堂に会した。

 孫策軍、総大将孫策、陸遜、黄蓋、甘寧、周泰。

 さらに袁術より返還された将として、程普、韓当など。

 劉備軍、北郷一刀、諸葛亮、厳顔、葉雄。

 曹操軍、荀攸。配下として徐晃、張繍ら。

 公孫賛軍は公孫越、馬超軍はホウ徳らが軍を統率している。

 顔の知らない人が多いが、三国志において名前を聞いたことがある将もいて、頼もしさを覚えた。

「敵は一万五千、我が方の半数です」

 陸遜が現状を説明する。

「また他の城の守備のためか名のある将が少なく、攻めも守りも薄い陣容です」

「勝てるな」

 馬超軍の大将、ホウ徳が笑む。

 即断に過ぎる気もするが、その場の全員が同意見だった。

「しかし、ただ勝つだけでは駄目。襄陽を攻略することを考えれば、ここは劉表軍全体を動かすぐらいの勝利をあげなくては」

「それなら」

 と荀攸が献策する。

「速攻主体の孫策軍としては不慣れかも知れないけれど、あえて鶴翼の陣を敷き、相手を包み込んで殲滅を狙う?」

「それも一案ね」

 と孫策が同意した。

「劉表軍の先鋒であるあの軍をまず血祭りに上げれば、劉表は動かざるを得ない」

 静かに怒りを燃やす甘寧が、瞳の奥に炎を灯した。

「こちらも守りは薄くなるが、結果として戦は早く決着がつく」

「うむ」

 反対意見はなく、そのまま荀攸の策が通りそうであったが――

「敵の将は誰なんだ?」

 俺は訊ねた。

 諜報を終えていたらしい周泰が、回答する。

「偵察の結果、黄の旗が中心にあるのを視認しました」

「!?」

 厳顔と俺がぴくりと反応した。

 黄。

 黄忠か、黄祖か。

「黄というと、劉表軍では黄忠か黄祖ですが……」

 俺と桔梗の反応を見て、陸遜が孫策を一瞥する。

「やっぱり何かあるの? この前も、黄祖とかいう武将に何かひっかかってたけど?」

「…………いや。黄祖については聞き覚えがあるだけだ。それと、黄忠についてだけど、厳顔」

「はっ」

 厳顔が一礼し、一歩前へ出る。

「劉表軍にいるという黄忠は儂の親友であり、ついこの間まで独立を保っていた将。ここ最近劉表に従った思われます。故に、今儂が声をかければ、離反するやも知れませぬ」

「ほう。黄忠ね。……あのあと精査してみたけど、弓の名手で、なかなかの明主だとか。それが兵と共に裏切れば……」

「状況はますます盤石です。では、軍がもう少し近付いたら、細作をまわし、将が誰であるか確認しましょう」

「よろしく頼み申す」

 頭を下げ、桔梗は下がった。

 仕切り直して、俺が口を開く。

「もう一ついうと、主目標は眼前の敵より、後ろ側にいる敵だから、鶴翼よりもっと速攻できる陣形の方が良いと思う」

「……というと?」

「襄陽から川を挟んだ目の前に樊城がある。敵はここをおさえられたくないから打って出てきたんだ。だからここは、一気に敵勢を抜いて、樊城を落とす! それが一番じゃないかな」

「なるほど……」

 孫策がふむふむと納得した。

(鶴翼で薄い部分を狙われて、孫策がそこにいたら怖いからな……)

 頑張って理屈付けをしたのだが、うまくいってくれたようだ。

「速攻は我が軍の得意とするところでもありますし……」

 陸遜も賛意を示した。

「どうかしら、諸将は」

 孫策は一同をゆっくりと見渡す。

 反対意見は出なかった。

 荀攸も特にこだわるところとは思っていなかったようだ。

「では錐行の陣で一気に敵を叩き、後方の樊城を落とす!」

 作戦が決まり、全軍が出陣した。

 陣立ては、前方に鋭い三角形の孫策軍二万。

 後方、西側から東側に横並び、劉備軍、公孫賛軍、馬超軍、曹操軍、計一万。

 合計三万が突撃するように進軍し、一気に敵へと接近した。

「敵軍、視認しました……!」

「そろそろ合図が来る頃か?」

 黄忠を確認したら本陣に劉備軍の旗を揚げ、周泰の部隊と一緒に厳顔が調略を開始するという段取りになっている。

「……! 来ました! 本陣に牙門旗! 孫呉のみです!」

「敵は黄祖かっ! 桔梗を呼び戻して! 臨戦態勢!!」

「御意っ!」

 全軍の緊張感が高まる。

「槍隊と弓隊は右側と後方からの敵軍の回り込みを気をつけろ! 盾隊は孫策本陣から離れるなよ!」

 馬上から指示を飛ばし、だんだん速くなってくる進軍に備える。

「朱里! 桔梗と一緒に槍と弓隊側の指揮を任せる! 俺と葉雄で盾隊の指揮を執る!」

「はいっ! お、お気をつけてっ!」

 孫策のスピードについて来れそうにない朱里を、一旦離脱させる。

「葉雄! 様子はどうだ!?」

 劉備軍の先頭で孫策軍本陣に一番近い位置にいる葉雄に追いつく。

「最前衛の黄蓋がそろそろ接敵するようだ!」

 その言葉通り、遙か前方で轟音が鳴り響いた。

 怒声と喚声と叫声の不協和音、敵味方が激突した音だった。

 

「弓隊二段! 撃ち続けぃ! 討ち漏らした敵は儂が狙撃してやる、ただただ放ち続けい!!」

 黄蓋が叫びながら弓部隊に乱射させ、自身は正確な射撃で前進してくる敵を撃ち殺していく。

 そして弓の届く距離から、槍が届く範囲に入った。

 血で血を洗う距離だ。

 黄蓋部隊によって数が減ってしまった劉表軍、さらに、

「敵陣を切り裂く……! 続けッ!」

「突撃隊準備! 弓隊が開けた穴に楔を打ち込みます!」

 甘寧、周泰が足の速い部隊を連れ、忍び入るように乱戦の死角から入り込み、敵を貫く。

 2本の牙が食い込み、がたがたに崩れた敵陣。

 そしてそこに襲いかかるのは――

「難しいことは言わないわ。仲間を家族を取り戻すため、ただただ前に進みなさい!! 一人として脱落はゆるさない! 遅れたものは後続が支えよ! 前を行くものは振り返るな! 全軍抜刀!!」

 孫策は南海覇王を抜いた。

 そして、一度、宝刀の刀身を感慨深げに眺め、天へ掲げ……

 

「突撃ッ!!!」

 

 振り下ろした。

 南海覇王の一振りと共に孫策率いる主力が、突貫を開始した。

「な、なんだっ!?」

 思わず俺は馬を止めた。

「爆発……? いや……」

「孫策が突撃をはじめたようだな! ははっ、あれは怖いぞ!」

 孫策と戦った経験がある華雄が笑う。

「って、まさか、孫策のやつ一番前にいるんじゃないだろうな?」

「ん? それはそうだろう?」

 お前は何を言ってるんだ? といいたげな顔つきの華雄。

「だー!! 総大将が前に出るんじゃねええええええ!!」

 俺は馬を飛ばした。

「……いや、お前もウチの大将なんだがな……おおーい! 私より前にでるなああああ!!」

 華雄が全力で馬を飛ばして追いついてくる。

 ほぼ同じぐらいの速度で前に出て、なんとか最前線近くまでたどり着く。

「おいおい……これは……」

 物見用のハシゴを借りて状況を確認した華雄が、目を見開いた。

「どうした!?」

「すでに勝敗がついたようだ」

「へ?」

 まだ戦いは始まったばかりなのに?

「敵陣が縦に切り裂かれて、すでに七割まで侵食されている」

「つまり、敵は2分されかけてるって事?」

「ああ。もはや、陣の修復は不可能だろう。外側の敵予備部隊は遊撃の甘寧隊、周泰隊が捉えているし、黄蓋隊が弓部隊をつぶしていて孫策隊には届かん」

「…………すごいな」

 速攻が得意と聞いたが、ここまで一気に勝勢をきめるとは。

「ま、数でも質でも上まっている軍が、鉤行の陣などという突破陣形をとっていればこんなもんだな」

 華雄は馬上に戻り、俺を見る。

「突破に成功したら、そのまま孫策は樊城へ向かうだろう。私たちはどうする? 本隊に戻るか?」

「んんー……いや、このまま孫策の本陣傍につこう。今戻ると動きが――」

 視界の隅で何かが動いた。

「ちぃっ!!」

 華雄が舌打ちと共に、それにむかって短剣を投擲した。

「ぐあっ!?」

「小技も役に立つな……下がれ北郷!」

 壊走中の敵兵が、闇雲に突撃してきたようだ。

 華雄が戦槌を横薙ぎにして一掃するが、後ろにいた兵数人がその隙に華雄の脇を抜けた。

 旗下の盾隊は縦に伸びてしまっていて、俺の守りにはまだつけていない。

 間に合わないと判断して、俺は刀を抜き、構える。

 敵兵の一人が俺に剣を向け迫ってくる。

「っ、はっ!!」

 剣の先端を打ち払い蹴り飛ばす。鈍い衝撃が走る。

「ぐっ、この野郎っ!!」

 敵兵は毒づくが、武器を失った上、俺がすでに二撃目のために構えているのを見て、尻込みした。

 そして、それを見ていた他の敵兵達は、仲間を助けようともせず

「あの剣……!? ま、まさか……! くっ、に、逃げろ!」

 敵兵は何故か戦意を喪失し、四方八方に逃げていった。

「ふぅ」

 一安心し、構えを解く。追撃はしなかった。

「何だったんだろ今の。変な事言ってたけど」

 短剣数本を抜いて投擲態勢に入っていた華雄が、武器を納めながら俺の元へ歩いてきた。俺が危険と判断したら投げるつもりだったんだろう。戦槌だと敵兵と一緒に俺まで吹っ飛びそうだしな。

「お前の武器がどうとかいっていたが」

 と、華雄が意味ありげに、ニヤリとピンク色の唇の片端をあげた。

「ふうん、お前も、武名が広がったようだな」

「へ? 武名?」

「お前の武器はなかなか特徴的だからな。細身で曲がっていて輝いている奇妙な剣。天の御遣いという異称と共に、その剣の噂も広まり、お前の武の象徴となったわけだ」

「ああ……関羽の青龍偃月刀みたいな?」

「そうだ。いままでは統治者としての評判しか伝わっていなかったが、ついに、お前も名のある武人の仲間入りか」

「最近豫州で賊の討伐とかしてたからかなぁ……」

「…………水関で私がやられたからだろう」

「え? なんだって?」

「忌々しいっ!」

 突然華雄が立腹して、俺に背を向けた。

「ええっと……?」

「とっとといくぞ! 孫策を見失う!」

 背中を向けたまま、華雄が駆け出す。

 俺はクエスチョンマークをくっつけたまま華雄の背中を追った。

 

 同じ時、孫策軍はついに黄祖軍を2分し、本隊は樊城へと駒を進めていた。

 数で劣る黄祖軍は分断されたまま戦いを挑む余裕はなく、それどころか樊城へ戻ることすらできず、漢水(長江支流)を渡り襄陽へと撤退した。

 結果、孫策軍三万に囲まれた樊城は即日開城。

 孫策軍対劉表軍の緒戦は、孫策軍の圧勝に終わったのだった。

 

「ここにいたのか」

 樊城の城壁の上、夜の闇の中篝火を照らす物見台に孫策はいた。

 俺はその隣に並び、漢水を隔てた向こうの火を一緒に眺めた。

 対岸の火は煌々として数え切れないほど並び、その光の周囲が単なる町や村ではなく城であることを、この闇の中でも、明確にしていた。

「あれが劉表軍の本城、襄陽か」

「ええ」

 孫策は頷くが、続く言葉はなく、黙っていた。

 なので、俺はつい口を滑らせてしまった。

「とりあえず、開戦初日としては順調かな」

「いいえ」

 すぐに、孫策は否定した。

「私たちの戦いは今日からだけど、孫権達は多分、数日前から戦いになっていると思うわ」

「そ……そうだったな。ごめん」

 しかも、俺たちは数で上回っているが、孫権達は倍かそれ以上の兵に囲まれているはずだ。それを考えると、心臓の鼓動が苦しいぐらい速くなる。

「……謝らなくても良いわ……。孫権達に預けた兵は約一万、将は周瑜と呂蒙。相手はおそらく二万程度の劉表軍。不確定要素が多いけれど、数日で負けるような条件じゃない。城にこもってさえいれば、十分守りきれるはずよ」

「そうだな。城攻めには三倍の兵が必要って言うもんな」

「そうね。それに、あっちには周瑜がいる。孫権や呂蒙はまだ頼りないけれど、周瑜なら、私より防衛戦に長けているから……」

「うん……」

 俺たちは、なんとかポジティブな要素を引き出して、不安な気持ちを慰め合った。

「襄陽を包囲すれば、敵は長沙から軍を引き揚げるかな?」

「十中八九そうなるでしょうね。すでに襄陽以南に細作を放っているから、敵が動いたらすぐにわかるわ。そうしたら私たちは逆に、工作部隊を長沙に送って孫権達を脱出させる予定よ」

「工作部隊か……。甘寧と周泰あたり?」

「よくわかったわね。まぁ……黄蓋や母様の旧臣達は良くも悪くも目立つから」

「孫策もな」

 そうからかうようにいうと、孫策は、ばつが悪そうに頬を掻いた。

「う…………もしかして、黄蓋から聞いた?」

「何を?」

「私が工作部隊を率いようとした話」

「…………」

 呆れた。

 いくら姉妹思いとはいえ、敵軍の領内に潜入する君主がいるだろうか。

 そして俺は、呆れたのと同時に、彼女の思いが深く伝わって、心を打たれた。

「ま、孫策が工作隊に入るとかいうトンデモ話は置いておいて……俺たちも調略を始める時機だな」

「ああ……知り合いがいるんだっけ。そうか……となると、あなたたちも工作隊に何人か編入しないとね。候補はいるの?」

「………………俺とか?」

「バカじゃないの」

 孫策が真顔で突っ込む。

「そのツッコミ絶対孫策も黄蓋にされただろ……まったく。そうだ、調略と言えば、襄陽を攻め立てつつ、劉表と交渉することはできないのか? 兵を引き揚げるかわりに、孫権を安全に脱出させるように――」

「それは……やっては見るけれど、難しいわ」

 孫策は、苦しげに唇を噛んだ。

「劉表との険悪な関係は今に始まった事じゃないの。黄巾の乱以前から、孫呉と劉表は微妙な関係だったのよ。荊州の、統治の方針が違ったっていう理由でね。あ、母様の頃は私たち、劉表とも袁術ともほぼ対等だったの。だから、いろいろ意見が言えたし、それでぶつかって……。母様が死んでからは、あの連中、あからさまに私たちを下に見て接し始めたわ」

 袁術も似たようなものだけどね、と彼女は付け加えた。

「それでもなんとか表面上対立はしなかったんだけど……」

 雪蓮は、城壁に背をもたれさせた。

「反董卓連合の時よ。致命的な亀裂が走ったのは。私や袁術は軍をまとめて出陣することを決めたんだけど、劉表が突然、連合への参加を見送るといいだしたの」

「……それは、なんでだ?」

「理由は、荊州内部の賊の鎮圧……でも私たちは、劉表が、留守を狙って荊州を占領しようとしているのではないか、と睨んだ」

 夜風が吹き、篝火の火を激しく揺らした。

「もちろん、劉表の真意なんて今でもわからない。けれど、看過できる可能性ではなかった。かといって私たちまで連合に参加しないというわけにはいかなかったわ。袁術の圧力もあったし。だから…………私は、荊州をちょっと荒らしたの」

「荒らした? えっと……どういう意味?」

「…………あなたの前であんまり言いたくないな……」

 小声で、何か呟いたが、風音でかき消された。

「荊州の……特に劉表領内の賊をちょっと刺激してまわってやったの」

「刺激って……つまり、攻撃したり挑発したりってこと?」

 こく、と孫策は首を縦に振る。

「軽蔑した?」

「いや、してないぞ」

 まぁそういうこともあるだろー、ぐらいにしか思わなかった。

 感心できる事じゃないが、そこまで非道とも言えないと感じた。

 孫策は、胸をなで下ろして話を続けた。

「荊州にいる賊の数は、一万や二万じゃきかないから、劉表は本当に賊の鎮圧に向かわなければならなくなった……というか、多分今でも賊と戦っていると思う。なにせ、私が荊州に帰ってきて、新野に落ち着いた後も賊が暴れていたし」

「ああ……なるほど」

 そういえば新野周辺の村にも賊が出現していたみたいだったな。

「だから、あっちは簡単に退きはしないでしょう。もしかしたら、私のことも賊の一頭目とみなしているかもね」

 と鼻で笑う。

「そっか…………でも、それならそれで、賊徒たちの征伐に兵が割かれる分、こっちが余計に有利ってことだな」

「ふふ、そうね。こればかりは賊に感謝しなくてはね」

 夜の闇より黒い笑みを互いに浮かべ、士気を鼓舞し、願う。

 明日は、今日よりも有利で、良い一日であるように。

 

 

 けれど。

 かつての孫策の所行が、予期しない方向へと転がっていたとは、俺たちはまだ知る由もなく。

 明日という日は、とてつもなく不利で、最悪な一日として待ち構えていたのだった。

 

 

 

 襄陽城の南に位置する山にて――

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!! くっそぉおおお!!」

 暗い山中で一人、やや小柄な体格の少女が暴れていた。

「ちょっとからかってやるつもりだったのにぃいい!! なんでマジになってんだあの女ぁっ!!」

 ガンガンガンと木の幹を靴底で蹴り飛ばす。

 そしてがりがりと頭を掻く。ボサボサの金色ショートカットの髪が、さらにボサボサになった。

「…………」

 一連の八つ当たりで気が落ち着いたのか、おとなしくなった少女は、どかっと地面に座り込んだ。小さめな体に似合わない大きな胸が弾む。

「……こわかったなぁ……孫策。ありゃヤバい」

 ぶつぶつ、とつぶやく。

「まともに相手なんてできるかよ……冗談じゃねぇ。ここはやっぱ……」

 と、肩にかけていた長細い袋から、弓を取り出す。

「紫苑直伝の、弓でやるとするしかねぇな……!」

 ぴん、と弦を軽く引っ張って鳴らし、少女は毒いりの片笑みをみせる。

 そして少女は山の奥へ入っていった。

 山の奥なら夜陰はさらに濃くなりそうなものだが、それを拒絶する光が、そこらじゅうに満ちていた。

 人だ。

 松明をもった人の群れだ。

「あ、お頭っ」

 少女を見つけて、群れの中から白髪混じりの女が寄ってきた。

 若白髪というやつで、顔は皺一つ無い妙齢の美女は、腰を曲げて、小柄な少女と目線をあわせる。

「水軍連れてきました。江夏に戻るなら船で――」

 ぽかっ、と少女は女の頭を小突いた。

「バカっ、負けっぱなしで帰れるかよ! 今度こそ私がお前のおばさんに殺されちまう」

「そこまでしないと思いますけどねぇ」

「アホっ、マジでやるときゃやるぞあの人! いいからもう一度軍をまとめるぞ! 今度はお前のとこの兵も一緒にな! 劉表さんから預かった官軍とのにわか連合に比べりゃ、お前のとこの連中の方がやりやすそうだぜ!」

「はい。ちゃんと数だけはそろえてますよ。兵といっても賊あがりなのは変わりませんがね」

「うるせーな……一応、弓は撃てるやつ多いだろ。集団戦法に慣れてねぇだけで……」

 またがりがり頭を掻き、少女は口を尖らせる。

「てか、お前は相変わらずここ所属でいいのか? いいとこの出だろ、劉磐」

 少女に劉磐(りゅうばん)と呼ばれた若白髪の女は、首を横に振った。

「いいんです。城詰は飽き飽きです。あそこ勉強ばかりさせられて窮屈なんです」

「はっ、まぁ、いいけどよ……そのかわり、喧嘩の相手は孫策だぜ」

 少女は劉磐を引き連れて、山につくられた砦の中に入った。

 砦の入り口には旗が掲げられ、松明に照らされるそれには、黄、の字が描かれていた。

 金髪の少女の名は黄祖。

 劉表軍の武将であった。

 

 

 

 長沙郡、孫権居城にて――

 

「蓮華さま――!」

 城内を黒髪の軍師が走る。

「冥琳! 戻ったか!」

「はっ! 呂蒙と共に強行偵察を行った結果を報告致します」

「うむ」

 肉体の疲労の色が濃くなっている二人だが、しかし、強靱な精神が体躯を支えていた。

「長沙の東西南北、全ての郡は劉表軍によって抑えられているようです。包囲網を突破したとして、新野にいる孫策のところへ辿り着くのは至難でしょう」

「ん……やはりそうか。思春は無事だろうか……」

「難しい道のりではありますが、甘寧であれば問題ありますまい」

「そうだといいが……」

 孫権は、地図を広げた机に手をつき半身を曲げて、うつむいた。

「蓮華さま、すこしお休みになられた方が良いのでは?」

「いや、今休むわけにはいかない……偵察の結果が、突破は不可能だという判断なら、冥琳の作戦は籠城ということでいいんだな?」

「はい。包囲される直前に近隣の城から武器糧食はかき集めておきました。1ヶ月はもつかと」

「……1ヶ月、か。その間に姉様が来てくれるだろうか」

「必ず」

 周瑜は断言した。

「……そうだな」

 孫権も、頷いた。

「幸い、敵の将である黄忠、文聘は包囲こそ完璧だが攻めは今のところ緩い。孫呉の兵であれば弾き返せる。さらに周瑜の知謀があれば、攻城兵器や奇策にも耐えられよう」

 ぐっ、と力を入れ孫権は体を起こした。

「唯一の問題は…………敵の、数だ」

 孫権は窓の外を見た。

 城壁に阻まれて敵軍の姿は見えないが、もし、城壁がなければ見えるはずだ。

 地平線を埋め尽くす、敵の大軍勢が。

「すでに四万を超える兵が城を囲っている……姉様……」

 蓮華は目をつぶって、姉の顔を思い浮かべた。

「姉様なら、この大軍を相手に、戦えますか……?」

 

 

 

 時間的には董卓軍と反董卓連合軍が戦っていた頃。

 場所は荊州。

 劉表は、襄陽城で困っていた。

 いつも目を閉じていて喜怒哀楽を表さないので外見上何も変わらないが、困っていた。

「困りましたね」

 本人がそう言っているんだから本当に困ってるのだ。

 劉表はゆっくりと部屋をうろつき、何事か思案する。

 長身痩躯の総白髪、杖をついて猫背を支えている姿は、完全に老人のようだが、色白の肌は若々しく、実は年齢も不惑(40才)にはまだまだ遠い女。

 とはいえ実際の年齢以上に経験豊富な才女であり、彼女を頼る人は多く、老若男女問わず才ある人間が劉表の保護を求めて集っていた。

 そんな劉表でも、困ることはあるのだった。

「孫策さんが強賊をつついてくれたおかげで、領内はバラバラ……ただでさえ、荊州はまとまりに欠けるというのに」

 劉表は小さく嘆息して頬に手を添え、少し目を開ける。

 そして、呼鈴を鳴らし、臣下を召集した。

「皆さま、例の件の策案はありますか?」

 劉表がそう訊ねるが、多くは似通った意見だった。

 兵を起し、賊を討つべし。そんなところだ。

「賊の討伐……言葉で言うほど簡単にいきますでしょうか……」

 劉表は臣下相手でも丁寧な口調を崩さない。が、柔弱な態度とは裏腹に、自身の信念は固守するタイプである。

『恐れながら、我らに二案あり』

 二つの声が、同時に響いた。

 一人はカイ良、もう一人はカイ越。二人は双子の姉妹みたいなものだ。

「どうぞ」

 劉表が手のひらをそちらに向け、促す。

『賊の頭領を全員、城に招きまする』

「全員? 襄陽城にですか?」

『ここでは賊も恐れましょう。少し離れた城がよろしい。賊党とつながっている人脈がありますので、我らが誠心誠意尽くし、招きまする』

「ふむ……それで、招いていかにするのです?」

 そう訊ねると、今度はカイ良とカイ越が全く別のことを言上した。

「服属させまする」

「ぶっ殺しまする」

 どっちがどっちの発言をしたのかな、と劉表は混乱した。

「…………では、2人の意見を採用し、城に頭領さんたちを招きましょう」

 おお、と、皆がざわめいた。

『それで、服属させまするか? 殺しまするか?』

「それは…………ひとりひとり、顔を見て決めましょう」

 と、劉表は目を開けて、にっこり微笑んだ。

 開いた目は笑っていなかった。

 それから交渉に何日か時を費やして、荊州の主要な賊の頭目達が、襄陽から南にある宜城に招かれた。

 劉表は荒くれ達を厚く遇し、三日三晩宴を開いて歓待した。

 百人を越える頭領達は、飲めや歌えやの乱痴気騒ぎの中で、1人また1人と数が減り、ついに半分にまで仲間の数が減ったことには気づかなかった。

 そして宴の最後の日――

「それでは兵士諸君、やっちゃってください」

 劉表の合図によって、宴の席に乱入した兵士達が、残っていた夢見心地の賊の首領55人全員を皆殺しにした。

 

 このように、劉表は有力な賊を懐柔し、残りを殺害し、荊州のほぼすべての賊を吸収した。

 兵数にして十万。

 一州の兵力としては破格の軍勢となった。

 そして、劉表は長安政府から荊州牧の位を賜わった。

 予定されていた重職に加えて、官軍もいくらか増員派遣してもらった。

 しかし、たとえそんなものが無くとも。

 劉表は、この時点で、荊州の本当の主となっていたのだ。

 力を持って一つの州を守護し、統治する……名ばかりではない実のある君主。

 誰もが理想とし、そして今だ曹操や孫策たちですら到達していない。

 本物の、乱世の統治者に、彼女は成っていたのだ。

 

「さて、それでは最後の賊を討伐するとしましょうか」

 

 彼女はついに剣をとった。

 さっきまで杖として使っていた棒は、偽装された剣だった。

 隠されていた武器は解き放たれた。

 その剣先は――孫呉へと、向けられていた。

 

 

 

-4ページ-

 

 後書き

 

 戦闘開始の第八話。

 どんな感じだったでしょうか。

 今回登場した主なオリキャラは、黄祖、劉磐、劉表の3人でした。

 

 黄祖

 史実では孫堅を討ち取った将。

 それ以後、孫呉に仇としてロックオンされ、執拗に攻撃を受ける可哀想な人。

 甘寧の元上司だったりしますが、この小説内では無関係です。

 なぜかやさぐれた娘になってしまいましたが、これはこれで面白そうかな、と思っています。

 黄忠の親戚という設定にしましたが、実際には、姓が同じで劉表の部下という事以外につながりは書かれていません。

 

 劉磐

 劉表の親戚。

 劉表軍としては珍しく、好戦的な武将。

 作者は劉表はわりと好きなんですが、その部下はあまり好きではありません。

 文官ばかりというイメージがあって、ちょっと退屈といいますか……。

 その中で、劉磐という将は武人として面白そうなので登場させてみました。

 黄祖と組んで、劉表軍不良娘部隊を率います。

 

 劉表

 荊州の主。

 生きている間孫呉や曹操に挟まれながら荊州を維持し続けた。

 劉焉といい劉表といい、劉氏は一州の統治に優れた人をこの時代排出してるなーと思います。

 小説上では、優しげで本当は恐ろしい女傑として書いてみました。

 天下統一とかやる気は無いけど、ちょっかい出されたら殺る気はある人です。

 年齢の設定についてですが、三十前後でいいですかね? 黄忠、厳顔、黄蓋と同じぐらいという事で想像していただければと思います。

 

 

 ということで、年内はこれで終了です。

 今年は、第三話〜第八話、+オマケ1話まで書けました。

 文字数にすると、150000文字ぐらいでしょうか。結構たくさん書けた気がします。

 ここまで付き合ってくださった方ありがとうございます。

 お気に入りに登録してくださった方、掲示板等にコメントしてくださった方、本当にうれしかったです。本当にありがとうございました。

 来年どれぐらい書けるかはわかりませんが、来年もよろしくお願いします。

 それでは。

 

 

説明
 第七話のつもりで書いたのが長くなりすぎて分裂した第八話です。
 ようやく戦闘がちょっとだけ始まります。ほんとうにちょっとだけ。
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コメント
コメントありがとうございます、頑張って続き更新します!(ate81)
ウォッチリストでタイトルを見て面白そうだったので1から通しで読ませていただきました。とても面白く続きが気になりますね。心待ちにしております。(アルヤ)
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