ハルナレンジャー 第二話「研究者誘拐」 B-4
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Scene7:ダルク=マグナ極東支部榛奈出張所入口 AM07:00

 

 早朝という程でもないが、雑居ビルや個人商店が雑然と並ぶ裏道は、まだ喧噪とはほど遠い。

 その静かさを破らないようにゆっくりと、少々さび付いたシャッターが押し上げられ、戦闘員達が数名顔を出した。

 手には箒とちり取り。

 そのままビルの前の道路を掃き始める。

 まばらに道行く人もその光景に別段驚いた様子もなく、ジョギングするお年寄りなどは軽く手を挙げて挨拶したり。戦闘員も会釈を返している。

 なんとも心温まる、のどかな朝の風景であった。

 ……戦闘員の真っ黒な全身タイツにさえ目をやらなければ。

 そんなシェリーが見たら確実に頭を抱えるだろう日常風景の中、表の商店街の方からほてほて歩いてくるジャージの女が一人。

 まだ眠いのか、ゆらゆら揺れる体に合わせて、締まりきらずに上着からこぼれ出た大きな胸もゆさゆさ揺れている。

 レミィだ。

 ふわああああっと口をばかでかく開けてあくびを一つすると、戦闘員に向かってけだるげに右手を挙げる。

「おはよーさんでやんす」

「イーッ!」

 戦闘員の方は元気よく答えて敬礼。

「元気でやんすねえ」

 ふにゅふにゅとあくびをかみ殺して、新聞受けの中をチェック。

 慣れた手際の良さで素早く朝刊数紙と封筒幾つかをピックアップすると、残ったダイレクトメールは入り口のくずかごに投げ入れる。

 捨てられたくずかごの中身を戦闘員がすかさず回収。流れるようなコンビネーションには一瞬の遅滞もない。

 曇り一つ無い窓ガラスに目を細め、レミィがそのままドアをくぐろうとしたとき。

 

 ぎゃきききっ!

 

 例によってばかでかいブレーキ音を立てながら市庁のバンが裏道に飛び込んでくる。

 驚いて固まるレミィ。

 掴む力が抜けたのか落っこちそうになった新聞と封筒を、戦闘員が慌てて受け止める。

「ななななな!」

 目を白黒させつつも、反射的に素早く展開、身構えるレミィと戦闘員。

 対峙するようにバンから飛び出す派手な色の五人組。ハルナレンジャーである。

「なにしにきたでやんすかっ!」

 食ってかかるレミィに、

「天宮博士を返して貰いに来たに決まってるだろう!」

 叫ぶブルー。

「……へ?」

「『へ?』じゃねえよ!お前らだろ!天宮博士さらったの!」

「いやまあそうでやんすけども」

 ぽりぽりと。

 頭を掻くレミィ。

「だから!返せと言ってるんだ!」

「……何を言ってるでやんすか?」

「っだー!話が通じねー!いいからお前らが拉致してる天宮博士を出せっつーんだよ!」

「だーれじゃ朝っぱらからぅやかましいっ!」

 レミィの胸ぐらを掴もうとしたブルーの顔に、ビルの中から飛んできたサンダルがぶち当たって小気味よい音を響かせた。

「まったく。ちったぁ常識という物をわきまえんかい!」

「連中もあんたに言われたくないと思うでやんすよ……」

「おー、レミィの嬢ちゃん。おはようさん」

 ぶつぶつ言いながら出てきたのは、話題の主、天宮博士その人である。

 スーツも白衣も汚れくたびれ、髪の毛もどこかつやとハリが無くなっている。

「くっ、こんなやつれ果てた姿に……っ!」

 起きあがりながら呻くブルー。

「ああん?」

 ぎろっとブルーをねめつける。眼光に一点の曇り無し。疲れた様子はない。

 思わずたじろぐブルー。

「誰じゃ、こいつらは」

「一応正義の味方らしいでやんすよ?」

「一応じゃねえ!」

 もっともな抗議の声を上げるブルーを、心底めんどくさそうに一瞥し、

「毎日こんな連中が来るのも近所迷惑でやんすし。博士も一旦帰った方がいいでやんすよ?いい加減、臭いがここまで漂ってきてるでやんす」

 近寄って来た博士から逃げるように一歩引き、鼻をつまむレミィ。相当臭うらしい。

「ん?そう言えばここに来てから風呂に入ってなかったのう」

 袖をつまんでくんくんと匂いを嗅ぐ博士。レミィがうえっと顔をしかめる。

「……一応寝室にはシャワーあったはずでやんすが」

「研究室に籠もりきりで、寝室など入ってもおらんわ」

 かっかっか、と大笑いする博士に、レミィはげんなりした様子で

「そんなわけで。将軍にはあっしからお伝えしておくでやんすから、ここはこの連中と一旦帰ってやってほしいでやんす」

 邪魔邪魔、と言うように手で払う。

「仕方ない。また後ほど寄らせて貰おう」

 むっとするブルーとは対照的に、特に気にした風もなくそう言ってサンダルを履き直し、ブルーの首根っこをひっつかんでずかずかとバンへと向かう。

「あー……ま、お手柔らかにー」

 博士に押し込まれるようにバンに乗り込んだ一行を、レミィが疲れた様子で送り出す。

 

「……」

 バンが消えた後も、しばらく立ちつくすレミィを心配して、その表情を覗き込もうとする戦闘員達。

 どはああああああっと特大のため息をつくと、

「よっし! とっとと掃除を終わらせるでやんすよー!」

 やけみたいに拳を突き上げ、ことさらに大きな声で気勢を上げる。

「イー!」

 戦闘員達は戸惑いながらも唱和すると、ばたばたと掃除を再開しだした。

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