真・恋姫無双 溺れる策士はメンマを掴む |
呂布 字を奉先
三国志において最強の武将と謳われ、演義では劉備、関羽、張飛の三兄弟を相手に一歩も譲らず、その武は正に天下無双であった。
であったはずなのだが、誰が目の前の少女を呂布だと言われ信じるだろうか。
もきゅもきゅ、とおよそ食事とは思えないような擬音をさせながら、両頬をリスのように膨らませたアホ毛がキュートな女の子。
そんな彼女が呂奉先だと言われ本当に誰が信じられるだろうか。
ついでに言えば、そんな小動物のような食事風景を幸せそうに、トロトロに蕩けて、蕩けて、蕩けきってもまだ蕩けて、
そのままスライムにでもなるんじゃないかと不安がよぎるほどの笑顔を浮かべた女性。
彼女が関羽、字を雲長だと言われても、もはや誰も信じないだろう。
とはいってもあの愛らしい食事の様子を見て頬を緩ませるな、というのは土台無理な話かもしれない。
華琳、かの曹孟徳にすら、このまま一日中眺めていたいわね、と言わしめたほどの愛らしさである。
あれ?むしろ華琳さんならそう言って然るべきじゃね?とゆりんゆりんな彼女が思い浮かぶが気にしないでおこう。
ともかく、説得力はなくなってしまったが、曹操ですら愛でるべきとした恋ちゃんのお食事。
その驚異の和み空間を俺は今から突破せねばならない。
外食とはお金がかかるものであり、いくら彼女の胃袋が無限とも言える許容量を誇っていても、お財布の中身は有限なのだ。
このまま恋に食べ続けられると、ただでさえ軽い俺のお財布が軽くなり過ぎて空高く舞ってしまう。
それ所か足りない分を労働で払うことになりかねない。主に皿洗いで。
初心に帰る、という意味では天の御遣いを名乗ることを決めた何時かの旅立ちの日のように、皿を洗いながら今日までの足跡を思い返す
というのも悪くはないが今や一国の主と将軍である。
さすがにそんな不名誉は御免被りたい。
事の発端は料理店の前で物欲しそうに、食い入るように店内をじっと見やる恋を見つけたことであった。
聞けば、ねねと昼食をとりに街へと出たはいいが逸れてしまい、お金を彼女に預けていた恋は食事をもお預けとなっていたそうだ。
ならばと、同じく久々の休暇を得た愛紗を誘い昼食をとろうしていた俺が恋を誘うのは必然であり、
あれもこれもと恋に餌付けして悦に入る愛紗というのもまた必定であったと言えよう。
さすがにここまで手をつけられなくなるとはこの時思いもしなかったけど。
彼女は恋と桃香には甘いのだ。特に恋には。それを改めて思い知ったのである。
ちなみにこの場にいない桃香さんはというと、俺が愛紗と街にでる旨を告げに行けば両の目に涙を湛えながら、とても恨めしそうにこちらを見つめてきた。
見つめてきたけど俺は気付かないふりをする。
だって桃香は昨日が休みだったじゃん。
閑話休題
そうして出来たのが幾重にも皿が積み重ねられた白い塔である。気がつけば対面に座る愛紗の鼻にも届こうかという高さだ。
恋との食事に一抹の不安、主にお財布の中身についてを抱くが、愛紗でもある程度の節度は保ってくれるだろうと思っていたのは今は昔。
いまだ建築が続くバベルの塔を崩すのは軍神、あるいは商売の神には無理だったようだ。
それどころか喜んで建造に携わっている。
そんな頼みの綱であった愛紗さんは最早頼みの藁というべきか。
掴んだ藁は千切れ、皿の波に呑まれて消えて。
いつのまにかその顔を見ることも叶わなくなっていた。
このままだと俺も溺れ死ぬぞ。
金に溺れるならまだしも、皿に溺れるとは中々斬新すぎる。
今なら皿を一枚井戸に沈めてお菊さんを助けてあげてもいい。いえ、一枚と言わずに好きなだけ持って行って下さい。
とにかくこの惨状をどうにかせねばならない。しかし、恋に食べるのを止めろ、というのは気が引ける。
何というか、子どもからおもちゃを取り上げるような心情に陥るのだ。
ならばいかにしてこの窮地を脱するか。
自分以外に払ってくれる財布をあてにするしかない。
都合の良い事に今日の午後の警邏は彼女であり、この店はその彼女のお気に入りときている。
ここまで条件が揃えば彼女の力を借りるのが一番だろう。
そうと決まれば行動は迅速に。
すぅと大きく息を吸い、恥も外聞もかなぐり捨てて投げ打って、天まで届けと叫ぶとしよう。
「店主、極上メンマの特盛りをここへ」
許せ、星。後で酒とメンマを奢るから今日は支払いを頼む。
シン、と静まりかえった、時の止まったような店内を眺める。
店が震えるほどの声量で叫んだ俺をお客様方が何事かと一様に呆けた顔で耳をふさぎながらこちらを見ていた。
同様に呆けた顔でこちらを眺める愛紗と恋の食事の手が止まったのは嬉しい誤算だ。
舞台上のスターさながらに視線を集める俺。この視線は中々に気持ちがいい。
嘘です。ゴメンナサイ。そんなに見つめないでください。
恥を捨てるって簡単なようで難しいのよね……
ふと、思い出したように、へい、と答える店の主人の声を合図に皆様方は食事を再開し始める。
所々から、また御遣い様か……、とか、今度は何をやらかしたんだ兄ちゃんは……、とか聞こえてくる。
この町の住人たちに、日頃から自分はどう見られているのだろうか……
愛紗の何とも言い得ぬ視線を感じること程なくして、どんぶり一杯のメンマが卓上に置かれた。
ヤサイマシマシならぬメンママシマシだ。というか、星は普段こんなの食ってんのかよ。
「流石は我が主。丁度この身がメンマを欲していることをお見通しとは。この趙子龍、改めて惚れ直しましたぞ。」
そんなことで惚れ直して欲しくない。
本来、いないはずのその人物の声に驚くことはなく、無事に彼女を呼び寄せられたことに安堵した。
後はどうにかこうにか彼女に支払いを負担して貰うだけだろう。
さて、どう話を切り出そうかと星に目を向けると、俺は驚かずにはいられなかった。
いや、驚かないと言っておきながら、まさかこんなにも早く前言を撤回しなければならないとは思わなかった。
痛むこめかみを押さえながら彼女に声をかける。
「星……いや、華蝶仮面。」
「な、何の事かな我が主よ。某は趙子龍であって、華蝶仮面などという正義の体現者ではござらまへんよ。」
面白いくらいに動揺しているこの星を肴に朱里と酒でも飲もうと決めながら、仮面を着けたままだと指摘してやることにした。
「こ、これは、たまたま町でよい意匠のものを見つけただけにすぎませぬ。断じて華蝶仮面になるためのものではありません。ええ、断じて。た、確かに似ているところはありますが、決して、素顔を隠して華蝶になるためのものではないのです。そのへんをしかとご理解いただきたい。それはもう、しかと。おお、そういえば、某は警邏の途中であった。名残惜しいですがこれにて御免。」
早口で捲し立てながらも、その内容に無理があると星自身も感じたのか脱兎の如く駆け出して行った。
仮面を外し忘れるほど此処のメンマが食べたかったのか、味を見ようにもそれは叶わない。
茶色の山はどこから出したのかも知れぬ正義の味方の壺の中へと消えてしまった。
まぁ、あの量を食べる気はしないので構わないのだが。
「星は一体何をしに来たのでしょうか。」
久しく声も聞けず顔もしっかりと見えなかった愛紗にわずかな懐かしさを覚えながらも、気になったことを尋ねる。
「あれが星だって分かったの?」
「何をおかしなことを仰っているのです。珍妙な仮面こそ着けていましたがあれは星でしょう。
全く、何を考えているのか。あれではまるで忌々しい華蝶仮面のようではないか。」
徐々に語気が荒くなっていく愛紗に俺は何も言えなかった。
星の言う通り、意匠が似ているだけの別物だったのか、それともうちの武官が相変わらずなのか。
どちらにせよ頭が痛くなりそうだった。
「……ご主人さま。」
控え目に呼びかけてくる呂布に目をやれば
「恋も」
恋華蝶が其処にいた。
俺は今度こそ痛む頭を抱えながら、星という財布を逃したことに気がついた。
結局、星と同じく俺の声を聞きつけたねねにこの場を任せ、城の文官達、主に朱里と詠、に拝み倒して小遣いの前借りを認められたのであった。
後々になって愛紗に借りれば良かったと思い至ったのはご愛嬌ということで。
〈あとがき〉
最後まで読んで頂きありがとうございます。
もし、楽しんで読んで頂ければ幸いです。
処女作となるので至らない所や誤字脱字等がありましたらご指摘をお願いします。
本文の通り、愛紗に支払いを頼むことを忘れていたのはご愛嬌ということでどうかひとつ。
取って付けた様になってしまいました。
次の作品が何時になるかはわかりませんが、見つけた時は目を通して頂けたら有り難いです。
では、長々と失礼致しました。
説明 | ||
処女作になります。 楽しんで頂ければ幸いです。 |
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コメント | ||
雷起様 仮面は忘れてもメンマは忘れない。それでこそ星でしょうw(y-sk) 今の時点での投稿分読み終わりました。次の投稿作品も期待しています。しっかりメンマを確保していく星がいいですねwww(雷起) flower様 そう言って頂けると有り難いです。誤字のご指摘ありがとうございました。桃華さんとは一体誰だったのでしょうね…(y-sk) |
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