真・恋姫†無双〜恋と共に〜 外伝:こんな年越し その2
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こんな年越し その2

 

 

本日は昼から大忙しだった。

会場を引き受けてくれた『祭り』にて、準備を始める。雪蓮や愛紗たちは掃除をしたりテーブルを並べたりし、冥琳は几帳面な事に、本日分の費用計算なんぞをしている。紫苑さんが子供たちを連れて買ってきた食材は、所狭しと冷蔵庫へと納まっていき、その都度俺と祭さんの手によって下拵えを進められ、仕上げ直前となっていった。

 

「これってこうでいいんだっけ?」

「応、合っておるぞ。そろそろ厨房を任せてもいいかもしれんのぅ」

「冗談。祭さんには敵わないよ。このレベルで客に出したらクレームものだって」

「お前こそ冗談を言うな」

 

学年が変わり、授業が減ってからは、俺は祭さんの店でもアルバイトを始めていた。いまは接客や注文された料理を運ぶくらいしかしていないが、客が少ない時や早閉まりの―――ただし雪蓮や霞たちは残っている―――時は、こうして料理を教わっていた。

 

「遅くなりましたぁ!」

「あわわっ、本!本が飛び出してるよ!」

「はわわっ!?」

 

ガラリと音を立てて開いた引き戸から、可愛らしい2つの声。もうひとつのバイト先である塾の生徒、朱里と雛里のコンビだった。その両手には少女たちの身体の半分もあろうかというほどの、大きな紙袋が抱えられている。

 

「ようやく来たか………って、恋は?」

 

だが、2人を連れている筈の保護者役でもある恋がいない。

 

「………ただいま」

 

かと思えば、すぐに開きっ放しの入口から聞き慣れた声。朱里たち同様、両手にアニメのイラストがデカデカとプリントされた紙袋を幾つか抱え、さらにはバカデカいキャリーケースを引いた恋の姿。

 

「またそんなに買ったのか……璃々ちゃんのベビーシッター代も飛んだんじゃないのか?」

「大丈夫……資料だから、経費で落ちる。それと――――――」

「?」

 

ホクホク顔で、恋は言葉を続ける。

 

「――――――『真・恋戦士†無双』の同人誌が完売したから、収入たっぷし」

 

そう言えば、そんなもんも作っていたな。

 

 

 

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鞄から小型の簡易金庫を取り出して、冥琳や月たちと売上を分配する恋の横では、朱里たちが今日の戦利品に、さっそく目を通している。

 

「うわっ、なんでこいつら裸なんだ?」

「はわわっ!しゅ、春蘭ちゃんは見ちゃダメですっ!?」

 

朱里の肩越しに本を覗き込んだ春蘭は首を傾げ、

 

「………………」

「あわわわわ…秋蘭ちゃんがぁ……」

 

その隣では顔を真っ赤にした秋蘭が、鼻から赤い筋を垂らしながら俺をチラチラと盗み見する。なんだ、その物欲しげな眼は。

 

「お姉ちゃんたち、何読んでるの?」

「り、璃々にはまだ早いっ!」

「なんで?ねぇ、なんで、愛紗お姉ちゃん?」

 

突然の無垢な質問にしどろもどろになる愛紗を抑えて、

 

「璃々は一刀くんのお手伝いしましょうね」

「はーい!」

 

紫苑さんが上手く璃々ちゃんを誘導していた。

 

「ねぇ、お酒ちょっと少なくない?」

「そうか?……あー、でも店の酒を飲むと別途かかっちゃうからな」

 

雪蓮は酒の量に不平を洩らし、

 

「ほなら買いに行こか。冥琳、こっちの封筒貰ってくでー」

「待て!もう計算してしまったんだぞ!?」

「いいじゃない。じゃ、いってきまーす」

 

冥琳の席に置いてあった予算の封筒のうちの一つを持って、雪蓮と霞は酒を買いに出かけるのだった。

 

 

 

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「帰ったでー」

 

30分後、目的のブツを大量に手に入れた雪蓮と霞が戻ってきた。両手には酒の缶や瓶がいっぱいに詰め込まれたビニール袋。

 

「また大量に買ったのぅ」

「これでも足りないわよ。途中で追加の買い出しに行くから!一刀がね」

「寒いからやだ」

「なによー、ケチ」

 

数十本の酒では足りないらしい。だが、子どもたちは呑まないからいいとして、確かに大人だけでも7人いる。

 

「あ、それとお土産もあるわよ」

 

厨房の中で首を傾げる俺と祭さんに向けてニヤリと笑いながら、雪蓮は外に出て、すぐにお土産を『連れて』戻ってきた。

 

「あの、お邪魔します…」

「あけましておめでとうございますです!」

「まだ早いわ!」

「はぅっ!?」

 

入って来たのは、相変わらず袖の大きな服を着たお団子頭の少女と、太陽のような笑顔を振りまく少女。少し早い新年の挨拶に、霞が間髪いれずにつっこむ。

 

「ねぇ、一刀。飼ってもいい?」

「捨ててきなさい。うちには大飯ぐらいがすでに2匹(恋・春蘭)いるんだ。そんな余裕はありません」

「ちゃんと世話するからー」

「仕方がないな…」

 

コントまがいの遣り取りを終え、

 

「という訳で、亞莎と明命も参加ね」

「あの…突然ですみません……」

「気にするな。それよりも家にはちゃんと連絡しておけよ」

「お猫様です!もふもふしてもよろしいですか!?」

「うん、いいよ」

 

顔を袖で隠しながら口を開く亞莎をよそに、明命は秋蘭が連れてきた猫(春秋#1参照)にまっしぐらだった。

 

 

 

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陽もとうに暮れ、今年も残すところ四半日となった頃、ようやく年越しのパーティーが開催された。

 

「みんなグラスは持った?」

 

雪蓮が周りを見渡せば、各々その手に飲み物の容器が抱えられている。もっとも祭さんや紫苑さんは熱燗のお猪口で、子どもたちと愛紗に関してはジュースだが。

 

「じゃ、一刀。挨拶よろしく」

「へ、俺!?」

 

乾杯も待たずに食べ物に飛びつこうとする春蘭を片手で抑えていると、思わぬ方向からのふりが来た。

 

「そりゃそうよ。だって一刀だし」

「いや、理由になってねーよ。こういう時は主催者か年長者だろ?祭さんやってよ」

「いやいや、儂よりも紫苑の方が年上じゃぞ」

「あら、そんな事ありませんわ」

 

実年齢なんてしらないから、指名など出来ようもない。というか、あそこの熟女オーラが怖い。

 

「えっとねー、お母さんはいまむぐっ!?」

「はーい、璃々は少し静かにしてましょうねー」

「むぅぅぅっ」

 

どうやら触れてはいけないようだ。雪蓮もそう思ったのか、再び俺に向き直る。

 

「いいじゃない。一刀がなにか言ってよ」

「そうだな。この面子は一刀を中心に知り合ったようなものだからな」

「冥琳までそう言うのか……」

 

だが、確かにそうかもしれない。祭さんや紫苑さんは違うが、それ以外のメンバーは俺との出会いから派生したようなものだ。

 

「わかったよ、ったく」

 

仕方がないなと呟きながらも、俺はいまだ暴れる春蘭を左腕にヘッドロックで抱え、ビールの入ったグラスを掲げた。

 

 

 

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「えー、本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」

「なんだ、その口調?」

「全然似合わないね、一刀さん」

 

春秋姉妹が茶化し、

 

「うるせぇよ。………周りを見れば分かると思いますが、何の縁か、年齢も性別も違う人たちが、こうして集うのは、なかなかない事だと思います」

「性別って、男はアンタだけじゃない。とんだハーレムね」

「そんな事言ったら駄目だよ、詠ちゃん」

 

詠がジト目で睨み、月がそれを諌め、

 

「んな事言うならお前らも彼氏の1人くらい見つけやがれ」

「あたしは一刀の愛人でいいわよ?」

「雪蓮、子ども達もいるんだぞ」

 

相変わらず雪蓮は冥琳に叱られ、

 

「若いツバメもいいわねぇ」

「そうじゃな」

「ツバメさん?」

 

祭さんと紫苑さんは恐ろしい会話を交わし、璃々ちゃんの無邪気さが涙腺を震わせ、

 

「俺には恋がいるから勘弁な」

「はぅっ!」

「おぉ、言い切りましたね!」

 

何故か亞莎は顔を隠し、明命は眼を丸くして、

 

「なんや、愛紗。そないな寂しそうな顔して」

「そ、そんな事はないですっ!」

 

霞は愛紗に絡みついて、

 

「『先生×紫苑さん』……」

「うぅん、『紫苑さん×先生』だと思う………」

 

朱里と雛里はまた腐った発言を呟き、

 

「『及川×一刀』…」

「マジでやめろ。次言ったら今日買った同人誌を燃やし尽くすぞ」

「(ぶるぶるぶる)……」

 

恋も便乗する。

 

「めんどくせぇ!いいからグラス上げろ!」

 

挨拶をしろと言いながら、好き勝手に話す奴らにいい加減面倒くさくなってきた俺は、自棄になり、声を張り上げる。

 

「今年も1年お疲れ様でした!来年もよろしくお願いします!という事で、乾杯っ!!」

 

次いで、グラスのぶつかり合う音が、店内に響いた。

 

 

 

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乾杯が終わってからは、それぞれ好きな場所で好きなものを食べていた。子ども達はパスタや揚げ物などのテーブルでがやがやと話しながら食べ、冥琳に愛紗、それに熟女…お姉様たちは座敷で鍋を囲んでいる。俺の家から持ってきたコタツと祭さん家にあったものをくっつけたそれは、コタツと呼ぶには大きすぎる気がするが。雪蓮と霞は食事そっちのけで酒をザルのように空にしていき、恋と春蘭は大食い競争などを始めている。

 

「よっ」

「あ、一刀さん。今日は突然お邪魔してすみません」

「気にするな。多い方が楽しいからな。というか冥琳から誘われてなかったのか?」

 

俺はといえば、秋蘭の愛猫にエサをやる明命を眺めている亞莎に話しかけていた。

 

「さっき先生に聞いたんですが、大人たちだけでやると思っていたらしくて、謝られました」

「あー…そういえば、最初はそうだったな」

 

そうだった。いつだか遊んだ時に連絡先を交換していたらしく、春秋姉妹や朱里に雛里は雪蓮が呼んだんだった。紫苑さんと璃々ちゃんは恋が伝えていたし。

 

「ま、折角のパーティーだ。楽しんでいってくれ。俺が作った料理もあるから、よかったら食べてくれな」

「はいっ」

 

元気よく笑顔で返事をする亞莎の頭をひとつ撫で、俺は別の席へと移動した。

 

 

 

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「邪魔するぞ」

「先生!?あの、ここどうじょ!はわわわ……」

 

子ども達の席へと向かえば、朱里がひとつずれて席を空けてくれた。礼を言って、朱里と雛里の間に座る。

 

「塾では言えなかったけど、冬期講習お疲れ様」

「はい。先生もお疲れさまでした」

「えへへ、年明けもまだ講習はありますけどね」

 

ちびちびとジュースを飲む朱里と雛里が照れたように笑う。相変わらず、彼女たちはあの塾だけでなく、共通模試でもトップをひた走っている。

 

「アンタは来なくていいのに」

「ダメだよ、詠ちゃん」

 

そして相変わらずのツン子ちゃん。

 

「ツン子って言うな!」

「痛い痛い。蹴るなよ」

 

テーブルの下で脚を蹴ってくる詠を宥めながら、その隣に座る月にも話をふる。

 

「今年は恋と共同で出したんだってな」

「はい、恋さんや冥琳さんと新しいサークルを立ち上げたんです」

「そっか。売り上げは………って、さっき恋に聞いたな」

 

先程売上金の分配をしてたからな。中学生のくせにがっつり稼ぎやがって。

 

「なによ、もう酔ったの?」

「そんな訳ないだろう?俺が酔ったら、それはもう恐ろしい事になるぞ」

「ふん、どうせ潰れるのがオチのくせに、何言ってるんだか」

 

そんな事はないんだがな。

 

「ふふっ、詠ちゃんこそ雰囲気に酔っちゃったんじゃないの?いつもよりたくさん、一刀さんと話してるよ」

「そっ、そんな事ないわよ!………って、そこ!ネタ帳に書き込んでんじゃないっ!!」

「あわわっ!?」

 

隣でノートに何やら書き込んでいた雛里の肩が、ビクリと跳ねる。覗き見れば………見なかった事にしよう。

 

 

 

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腐った子ども達に辟易しながら、俺は唯一のまともな少女に声を掛ける。

 

「どうだ、美味いか?」

「うん、すっごく。これ、一刀さんが作ったの?」

 

秋蘭が指差すのは、煮物の入った小皿。この店のメニューで、最初に教わったひと品だ。

 

「そうだよ。祭さんに教えてもらったんだ。この店のメニューにもあるぞ」

「そうなんだ。今度教えてね」

「一応この店のメニューだからな………って、祭さんなら別に気にしないか。秋蘭だし。そういえば和食はあまり教えてなかったな。今度うちに来た時に教えてやるよ」

「うん。楽しみにしてる」

 

そんな穏やかな会話。そしてそれをぶち壊す、双子の姉。

 

「一刀、私もご飯が欲しい!」

「あれ?渡してなかったか?」

 

見れば、大食い競争参加者の片割れである恋の左手には白米の丼が抱えられているが、春蘭は何も持っていなかった。

 

「そうだ。恋ばっかずるいぞ」

「いやいや、流石の春蘭でも恋には負けるだろう。ご飯で腹一杯になるぞ?」

「大丈夫だ!いくらでも食える!」

「そーかい」

 

どこまで本当なのだろうかね。恋なら心配ないが、春蘭は……いや、恋もその細身で際限なく食べられるんだから、春蘭にも可能なのか?まぁいい。

俺は立ち上がると厨房の中に入り、これまた業務用の巨大な炊飯器から米を器に盛る。

 

「丼だ!」

「一刀…おかわり……」

「わかったよ!」

 

追加注文を受け、俺は一度注いだ白米を炊飯器に戻し、再度丼に移し替えるのだった。

 

 

 

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春蘭に丼を渡し、恋にもお代わりを渡すと、俺は座敷の席へと移動する。

 

「一刀お兄ちゃん、おそーい!」

「ごめんな、璃々ちゃん」

 

温もりを求めてコタツへと足を突っ込めば、間髪入れずに璃々ちゃんが俺の膝の上に移動する。

 

「あらあら、璃々ったら。甘えん坊ねぇ」

「子どもだからいーんだもーん」

「あぁ…」

 

紫苑さんが上品に笑いながら璃々ちゃんの頭を撫で、隣のコタツでは、愛紗が何か呻いている。どうした?

 

「ほら、一刀。日本酒も呑むだろう?」

「ありがと、冥琳」

 

隣に座る冥琳が酌をしてくれる。お猪口から漂う芳香に、俺は思わず生唾を飲み込んだ。

 

「それにしても、今年は一気に増えたな」

「あら、一刀くんや冥琳ちゃんは去年も年越しに何かやったのかしら?」

 

冥琳の言葉に、紫苑さんが反応した。

 

「えぇ。去年はここまで交友関係が広くなってはいませんでしたので、私と雪蓮、一刀と恋に、祭さんで鍋を囲んだくらいですが」

「そうじゃったな。冥琳の部屋じゃったか」

 

1年前の光景を思い出す。冥琳の言葉通り、あの頃は5人しかいなかった。今では軽く3倍超えだ。

 

「あら、祭も呼んでくれたらよかったのに」

「何を言うか。儂とて、紫苑と一刀たちが知り合いなどとは知らなかったぞ」

 

前述していないが、祭さんと紫苑さんは元々知り合いだったらしい。それが璃々ちゃんのベビーシッターを通じて、こうしてひとつにまとまっているというのも、なんだか奇妙な話だ。

 

「まぁ、そうよね。恋ちゃんに璃々の世話を頼んだのも今年の春先からだし」

「ほんと、世間は狭いのぅ」

「そうね。……そうそう、一刀君が最初に来たときなんて面白かったのよ?私が忘れ物を取りに帰ったら――――――」

「うわぁぁああっ!?やめてください!あの時はむぐっ!?」

 

あの時の事は思い出したくもない。そんな俺の気持ちを無視するかのように、背後から伸びた手に口を塞がれた。

 

「なんや、一刀のおもろい話か?」

「いいわね。一刀ったらなかなか弱みを見せないんだから、今を逃す手はないわ。続き続きっ」

 

酒ばかり飲んでいたザル共だった。

 

「むぅぅぅぅぅっ!?」

「璃々も覚えてるわよね?」

「うん!最初はびっくりしたんだよ。一刀お兄ちゃんが――――――」

 

璃々ちゃんにまで俺の恥ずかしい過去をバラされ、俺は酔いとは別の意味で潰れるのだった。

 

こら、愛紗まで身を乗り出すんじゃありません。

 

 

 

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時計の短針は、11を指している。子どもたち(プラス恋)はコタツで寝息を立て、入れ替わりに大人たちはテーブルやカウンターの席へと移動していた。

 

「悪いのぅ、愛紗よ」

「いえ。今日は美味しいものを頂けましたので、このくらいは」

 

厨房で空いた食器を洗う愛紗に、テーブルの祭さんがグラスを傾けながら声をかける。

 

「俺にはないの?」

「何を言うか。片づけるまでが料理じゃ。見習いの分際で偉そうな事を言うな」

「へーい」

 

愛紗の隣で、俺も手を動かす。お湯が出るだけ、まだマシか。

 

「一刀、何か摘まむものちょーだい」

「まだ食べるのか?」

 

カウンターで霞と酒を飲んでいた雪蓮が手を挙げた。

 

「だってお腹空いたんだもん」

「だもん、って……はぁ、お酒ばっか飲んでるからだよ。待ってろ。粗方恋と春蘭が食べつくしたから、何か新しく作るよ」

「大急ぎでね」

「へーい」

 

相変わらずの気ままな注文に、洗い物を愛紗に任せて、俺は冷蔵庫を開ける。

 

「好きに使っていいぞ、一刀」

「いいの?」

「あぁ。三が日はどうせ店も開かんからの。むしろ生ものは空にして構わん」

「りょーかい」

 

店主の許可を得て、俺は創作料理に走る。

 

「そんなに作るの?食べきれないわよ?」

「俺の分も入ってるの。全部自分たちだけで食おうとするな」

「一刀だってお腹空いてるんじゃない」

「子どもたちの相手や、お前らの酒の相手でそれほど食べてないからな。チビたちが寝て俺も食事にありつこうとすれば、ほとんど空になっていたわけだ」

「あー…恋だしね」

「そういう事」

 

納得といった顔で、雪蓮が頷く。そんな、宴も終わった時間、俺達はゆったりと過ごしていく。

 

 

 

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「結局、こやつらも眠ってしまったか」

「雪蓮と霞はずっと飲んでたからね」

 

日付と年が変わった頃、カウンターに突っ伏す4つの影。雪蓮に冥琳、霞に愛紗だ。

 

「愛紗はいつも早起きだから仕方がないし、冥琳も3日間恋の手伝いで大変だったみたいだ」

「あぁ、あのイベントか。よぅ分からんがな」

「まったく同意するよ」

 

そして残っているのは、いつものように俺と祭さん。紫苑さんは先ほど璃々ちゃんを布団に連れていってから戻っていない。おそらく一緒に眠ってしまったのだろう。

 

「祭さん、布団借りるよ。ここだと風邪をひくかもしれないからな」

「おぅ、任せた」

 

宿を世話になるのも慣れたもので、俺はそれぞれの腕を枕にして寝息を立てる4人を、『祭り』の居住スペースへと背負っていった。

 

 

雪蓮たちを運んだついでに、子ども達も運ぶ。数が足りないのでチビ共は3人で1枚の布団だが、暖房も利いているから大丈夫だろう。紫苑さんは予想通り、璃々ちゃんと一緒の布団に横になっていた。

 

「あれ、祭さん?」

 

店へ戻ろうと扉を開けば、祭さんがちょうどドアノブに手を掛けようとしていたところだった。

 

「お疲れじゃったな。儂ももう寝させてもらうぞ」

「分かった。じゃぁ、店の方も片づけて俺も寝ようかな」

「くくっ、それが出来ればじゃがな」

「?」

 

意味深に微笑む祭さんはひとつ欠伸をすると、おやすみとひと声かけて消えていった。

 

「………どういう意味だ?」

 

疑問の答えは、すぐに判明した。

 

 

 

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「一刀…」

 

店へ戻れば、恋がコタツに入ったまま上体を起こしていた。

 

「あぁ、起きたのか」

「ん…」

 

コタツで寝ていた為、少しぼうっとするのだろう。恋はぼんやりとした顔で、俺を見つめている。

 

「今年も…寝ちゃった……」

「ははっ、そうだな」

 

恋の隣に足を入れると、残念そうな顔でそう呟く。その表情がなんとも可愛らしくて、思わず笑みが零れた。

 

「みんな…寝た……?」

「あぁ。あとは俺と恋だけだ」

「ん……」

 

俺の言葉に頷き、恋はそっと身体を寄せてくる。

 

「楽しかったか?」

「ん…おいしかった……」

「そか。喜んでもらえて何よりだ」

「おつかれさま……」

 

頭に柔らかく暖かい感触。恋の右手が、ゆっくりと撫でる。

 

「………」

 

無言の時間。だが、心地よい。

 

「あ……」

 

どれだけそうしていたろうか。ふと、恋が口を開く。

 

「言うの、忘れてた……」

「ん?」

「あけまして…おめでと………」

 

「………俺も忘れてたな。あけましておめでとう、恋」

 

ようやく口にした、新年の挨拶。

 

「今年もよろしく」

「ん……」

 

恋は頷き、俺の肩に紅い頭を乗せ――――――

 

 

 

 

 

「……ずっと……………ずっとずっと、よろしく」

 

 

 

 

 

――――――呟いた。

 

 

 

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あとがき

 

恋たんとの会話に細かい描写なんて必要ないんだぜ!(←怠慢)

 

という訳で、久しぶりに恋ちゃん外伝を書いた気がします。

折角なので恋共外伝に出てくれたキャラを全員出そうとしたら、こんな事になった。

やっぱり多すぎると書くのが大変ですね。

 

そんな訳で、脈絡今年1年の反省点。

 

・恋共が半年近く更新されてない。      → 年明けから再開致します。

・下半期は下ネタ多すぎ。          → 年明けから改善します。

・後書きの料理ネタなんて最初だけだったな。 → あんなん思いつきの企画だぜ。

・元旦に新幹線で寝過ごしたね。       → 帰省は夜行バスでします。

 

こんな感じかな。

 

そんなこんなで、今年はたくさん投稿できました。

来年はどれだけ時間がとれるか分からないですが、面白そうなネタを思いついたら、頑張って投稿したいと思います。

もちろん恋共はちゃんと完結させます。

 

まぁ、長々と書いてもあれなので、この辺りで。

 

タグにも書きましたが、2011年は大変お世話になりました。

来年も、どうぞお読みください。

 

みなみなさま、よいお年を。

 

では。

 

 

 

説明
コミケ組の方々、お疲れ様です。
1日早いですが、年越しネタ。
今年最後の投稿です。
どぞ。
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コメント
ハーレム物で語られることが多い一刀君ですが、一途な一刀君もいいですねぇ。恋ちゃんも幸せそうです♪(海平?)
。(ともりゅう)
>>あるるかん様 細けぇこたぁいいんだよ!w(一郎太)
>>TK様 あけおめです。ニヤニヤしていってね”(一郎太)
こんな年越しできたら楽しいでしょうなぁ〜。 ・・・・・「紫苑さん×先生」って腐った発言なのか?www(あるるかん)
あけおめです!今年も恋でニヤニヤさせて・・・・・間違えたw楽しくさせてくださいね><!w(TK)
>>ZERO&ファルサ様 あけおめです。本年もどうぞよろしくお願い致します。(一郎太)
あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします。  作品を楽しみにしていますね。(ZERO&ファルサ)
>>水無月 澪様 あけましておめでとうございます。いま書いてるのを投稿したら、恋ちゃん再開しますw しばしお待ちをー(一郎太)
遅くなりましたが明けましておめでとうございます。恋ちゃん復活でしね^^楽しみにしています〜(水無月 零)
>>shukan様 こちらこそ、ありがとうございます。来年もどうぞよろしくです。(一郎太)
あけおめです!!昨年はたくさんのおもしろい作品ありがとうございました。今年もがんばってください。(shukan)
>>summon様 一郎太もだぜ!来年もどうぞよろしくです(一郎太)
>>琥珀様 しばらく控えるよ!(一郎太)
>>氷屋様 そこはほら、妄想にお任せいたしますw(一郎太)
>>NSZ THR様 そういう発想をする事自体がだぜ!(一郎太)
>>コルド猫様 ドヤ顔が全然ドヤ顔じゃない件について(一郎太)
>>quarter様 (`・ω・´)最近筋肉痛なので(一郎太)
こんな感じの年越しを迎えてみたいですなぁ。今年一年お疲れ様でした。来年も楽しみにしています。(summon)
下ネタが多すぎ?構いません、むしろもっとたくさん!www(琥珀)
4人が作ったサークルの名前ってなんだろう・・つか朱里・雛里・・・親は知ってんのか!www下ネタ改善?無理だと思う(ぉぃwww 来年もまた面白い作品よろしくです。良いお年を(^^(氷屋)
先生(一刀)×紫苑で何故に腐ってるのだろう? 年齢的な意味でということでしょか それはともかくよいお年を(NSZ THR)
『○川×一○』を二回ほど想像した事のある俺は勝ち組(・´ー・`)(運営の犬)
(`・ω・´)一郎太さんお疲れ様です!来年も読者の腹筋を崩壊させるような面白い作品を(ry 良いお年を!(quarter)
>>IFZ様 あかんわ!www(一郎太)
>>cuphole様 その豊作の一部に入れているのか不安です。来年もどうぞご贔屓に。(一郎太)
>>カリ濡らしのヒトヤッティ様 そろそろ下ネタな名前は変えた方がいいと思うんだ。俺にもお年玉ください(一郎太)
>>コウビコウ様 どうぞご期待ください(一郎太)
>>ロッカー様 仕事納めなので、真面目にwww(一郎太)
>>gesuto様 頑張れ!www(一郎太)
>>骸骨様 つカルシウム(一郎太)
>>eitogu様 ( ^ω^) 待ってろぉ(一郎太)
>>アロンアルファ様 そちらこそ、お疲れ様でした。ではでは(一郎太)
>>アルヤ様 いつもコメント感謝です(一郎太)
>>叡渡様 下ネタは控えようと思います(一郎太)
>>yosi様 ありがとうございます。そちらこそ(一郎太)
>>まーくん様 よいお年を!ゆっくり待っていってね!(一郎太)
下ネタ多い? 結構な事じゃないか!!(IFZ)
今年もあと一日ですな。TINAMIの恋姫は豊作の年でした。良いお年を。(cuphole)
また来年か、嗚呼、従弟にお年玉を搾り取られるのか・・・(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
よいお年を、来年も期待しています。(コウビコウ)
さっそく書いてもらえて嬉しかったですっ!! よいお年を〜(ロッカー)
来年も素晴らしき作品期待して待ってます。今年一年お疲れさまでした。来年は脱ボッチ目指します(笑)(gesuto)
よいお年を、来年も楽しみにしています。(量産型第一次強化式骸骨)
( ^ω^) よいお年を、来年も楽しみにしておきます。(eitogu)
今年一年お疲れ様でした。良いお年を。(アロンアルファ)
良い笑いをありがとうございました。また来年、お待ちしております。(アルヤ)
よいお年を、来年も期待してます。(yosi)
今年もたくさん面白い作品有難うございますm(__)m来年も楽しみにしています!よいお年を(まーくん)
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