訳あり一般人が幻想入り 第9話 |
「さて、できましたね」
一刷の新聞を完成して、射命丸((文|あや))はその新聞を眺める。
「しかし、紫さんも随分な考えをするなぁ」
文はいろいろな自分の脳内補正で出来た嘘情報、デマ情報たくさんの一面の下にある広告欄サイズの表紙を見て呟く。
「まぁこれはこれで面白い事になりそうですし、これが実行されることになった時は、横谷さんには悪いですけど、新聞のネタにさせて頂きますよ♪」
文は明るい声でひとりごちた後、新聞配達のためとまた新たなネタ探しのための体力を回復させるために自分のベットに入る。
第9話 スポーツは種族も越える肉体言語だと思う。疲れるけど言葉を覚えるよりマシ って言ってる自分はなんもやってねぇ
「ふぁぁ〜〜、あぁ〜ふぁ……」
チチチチッ
鳥のさえずりと共に、誰にも起こされること無く横谷は((欠伸|あくび))をしながら起きた。障子から朝日が洩れていた。横谷は布団を上げて押し入れにしまい、縁側の方へ歩く。昨日から干しっぱなしの自分の洗濯物を取りにいくためだ。
「……? 見当たらねぇ……」
横谷は干してあった場所を見て、首をかしげる。干してあったシャツとパンツが見当たらない。八雲家の洗濯物もろとも無いのだ。
さすがに俺のも一緒に取ったわけがないと、横谷は風か何かで落ちたのかと干した場所の周辺を探すが全く見当たらない。
「なにをしているんだ? 横谷」
そこに縁側から((藍|らん))が現れる。
「ああ、いや別に……」
横谷は((曖昧|あいまい))な返事をした。ここは藍に洗濯物はどこいったと問いただすところだが、聞いても『そんなの知らないぞ。無くしたのなら自分の管理が悪かったせいだ』などと言われると思い、問いたださなかった。
「ああ、洗濯物なら一緒に取ったぞ」
藍は干した場所の周辺をうろつく横谷を見て察知し、一緒に取りこんだ事を伝える。
「え、ああ、そう……どうも」
横谷は自分の洗濯物も取り込んだことの予想外の行動と、親以外の女性に洗濯物を取り込まれる恥ずかしさで、言葉を詰まらせながら返事をして縁側に戻る。
「体調はもういいのか?」
「ああ、まぁな……」
「そうか……」
「あのさ……藍」
「な、なんだ?」
横谷は突然、藍に声をかける。藍は多少ぎこちない形で返事する。
「昨日の夜…俺の部屋の近くにいたか?」
「えっ!? あ、いや、い、ぃぃいるわけないだろう!」
藍は横谷の問いただしに動揺してしまう。否定はするもののひどくどもっていた。動揺しているのが確実にわかる反応であった。
「……そうか……」
しかし横谷はそんな藍の様子も気にも留めずスルーする。
「洗濯物はどこだ?」
「うぇ? あ、ああ、まだ居間ところに置いてあるはずだが……」
それを聞いた横谷は居間の方にスタスタと歩く。藍はほっと胸を撫でおろしたが、安心から疑問に変わっていく。
あれだけの動揺の色を隠れていない様子を気にも留めなかった。普通なら怪しんでどうしたんだ、と一言言うものが何も言わなかった。
様子を見て察知したのか、それとも何気ない質問だったのだろうか、もしかしたら知っていてあの質問をして反応を楽しんだのか――藍は横谷の行動の真意をつかみかねていた。
そんな藍を他所に、横谷は居間に置いてある自分のシャツとパンツを取る。
「あら、覗きの次は下着泥棒をするのかしら、スケベ野郎さん」
((襖|ふすま))が開いて現れたのは((紫|ゆかり))だった。紫は横谷が自分の下着を取る様子を見て明るく((罵|ののし))る。
「……おはようございます」
横谷は眉間にしわを寄せながら、顔を見ずに挨拶をする。朝の挨拶がこういう罵りなら誰でも仏頂面な顔になるだろう。
「昨日みたいに怒るかなと思って言ったのに……ざんねん♪」
「朝っぱらから怒鳴れるほどの瞬間湯沸かし器は持ち合わせていないですよ……」
ムスッとした顔で横谷は紫を((一瞥|いちべつ))し言葉を返してから、下着を持って客間に戻ろうとする。
「あぁそうだったわ、あなたは今日から働かなくてもいいわ」
紫は不意にそのような言葉を発する。
「……え?」
横谷は歩みを止めて信じられないといった顔で紫を疑念の目で見る。紫は笑みを浮かべながら再度言う。
「だから、もうここで働かなくてもいいわよって言ったの」
「本当か? 反応を見るための嘘じゃないだろうな?」
横谷は紫が発した言葉を未だに信じられないでいた。あまりのことに敬語もなくなってしまう。
昨日の件で、紫にはかなりの警戒をしている横谷にとってすべての言動が自分を誑かす言動にしか思えなくなってきていた。
「いやねぇ、私が嘘をつくと思っているの?」
「(三日間だけだが)日ごろの行いを思い返してから言ってくれよ」
「あらあら、あなたにまで言われるとは思わなかったわ」
紫はわざとらしく子供のように頬をぷくっと膨らまし、怒りの表情を見せるがすぐに顔を戻し話しを続ける。
「でもこれはほんとよ。もうここで働く用はなくなったし」
「本当にか? 信じていいのか?」
「じゃあ藍の仕事も全ておっ被せて、一生ここで暮らす方がいいかしら?」
「ごめんなさい、信じます」
横谷はすぐに訂正し謝る。嘘の言動だったとしても、更に悪条件の方に傾いた提案の前には仕方なく信じるしかなかった。
紫はその反応にしてやったりの顔で見遣ったあと、藍の方に振り向く。
「じゃあ朝ごはん食べ終わってから行きましょうか。藍、ご飯まだかしら?」
「ん? え? あ、すいません! 今作ります!」
考え耽っていた藍は慌てて台所へ走り、朝ごはんを作りに台所へいく。
「すまない横谷! お前も手伝ってくれ!」
台所から藍の手伝いを催促する声が響いてくる。
「お、おーう」
横谷は力のない返事を返し台所へ歩く。その間中、横谷の口角が引きつるように上がっていた。
(ようやく……帰れる!)
紫の話を――とりあえずだが――信じるや否や、ようやく出られる喜びの気持ちが湧きあがっていた。その喜びに満ちた顔を見られまいと紫を避ける様に顔を逸らしたり、無駄に口元を動かしてごまかしていた。
藍に呼ばれて逃れられると気が緩み、結果口元も緩んでしまった。幸い、紫の横を通り過ぎてからだったので見られることはなかったようだ。
(あれ……そういや、今日ずっと横谷って言われてるな……)
横谷はふと、藍が呼ぶ時の名前が「お前」から「横谷」に変わっていたことに気付いた。
(……やっぱり藍の奴あの時いたのか……尋ねた時の反応もおかしかったし、橙が出て行ったあとに足音がしたのは……まぁいいさ、今日でここからおさらばなんだからな)
横谷はそこから考えるのを止めた。単純にあの時のことを自らほじくり返し、まるで未練がましく考えこむのが馬鹿らしいと思ったからだ。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
朝飯が出来上がった頃から合流した((橙|ちぇん))を含めた四人は一斉に声を出した。橙が朝から来ていたのは、横谷の様子を見に行くついでに体調が良ければ遊んでもらおうと考えて来ていたためだ。
しかし今日で外の世界に帰ってしまうと聞かされ、耳を垂らすと同時にうなだれてとても悲しそうな顔をしていた。それを見た藍は紫に、少しでも横谷をここに居させてやってくださいと願い出た。紫はなぜか時間を気にしてすぐに行かせると頑なだったが、
「お願いします、少しでもお時間をください。お願いします!」
と藍が紫の目の前で土下座をして懇願した。その様子に紫は驚き、横谷は当惑していた。橙の遊びの相手するためだけに土下座してまでここまで懇願することに理解が出来なかった。
「はぁ……わかったわ。少しだけよ」
紫は折れて、朝食後から帰るまでの少しの間を猶予してもらう事が出来た。藍と橙は喜々とした顔で頭を下げる。横谷もそのあとから頭を下げた。
遊びは((蹴鞠|けまり))をやることになった、といっても鞠を落としたら負けというルール以外は特に制限も準備もないので多人数リフティングゲームのようなものである。
橙と藍と横谷と三人で行う事に、紫は縁側で、橙が連れてきた例の猫と一緒に見ていた。
時間はあっという間だった。最初は――大体横谷のせいで進まなかったが、回が進むにつれてうまく連携が出来るようになり、最大五十回連続で連携が出来る様になった。
その間、三人は笑顔だった(橙は楽しそうに、藍は微笑ましそうに、横谷は恥ずかし混じりの引きつったにやけ顔で)。
徐々に回数が重ねられるようになり、横谷が調子に乗って鞠をオーバーヘッドシュートしようとして頭が地面に叩きつけられ痛がっているときが一番の爆笑だった。
この蹴鞠をしている間に横谷は、人間と妖怪(と言うよりは式神)との見えない境界がなくなった気がしていた。
「さて、そろそろ行きましょうか」
紫の鶴の一声で楽しいひと時は終わった。その一声は、ここ最近味わうことなかった名残惜しさが胸いっぱいに感じ、胸が詰まる気分になった。
「おう」
横谷はその感慨を押し殺し、返事をして紫のもとへと普段通りの足取りで進む。
「横谷さん!」
紫に向い歩く横谷を橙が呼び止めた。ここで振り返ったら、押し殺した感情がまた復活してしまうと思い、顔を向けずにその場で止まる。
「楽しかったよ!」
橙は屈託のない笑顔で大きな声でお礼を言う。その笑顔を横谷が見てしまったら、外の世界に帰るという信念が揺れ動いていたかもしれない。
「ああ、俺もここにきて一番楽しかった」
横谷は顔向かずそのまま――真実の言葉を返す。本当はここで笑みを浮かべながら言いたかったのだが、紫が見ている手前、恥ずかしさがこみ上げて来るので仕方なく真顔で答えた。
「よ、横谷! あ、あの……」
次は藍が続いて呼び止める。何か言いたそうだったが((躊躇|ちゅうちょ))しているのか、なかなか言葉が出てこなかった。横谷は深いため息をしたあと、
「わかってるよ」
「え……」
「もう二度と来るな、だろ」
「え、あ、いや――」
と、横谷はここで藍を一瞥して突き放すように言う。藍はその返答を聞いてうろたえてしまう。
「さて、行こうか」
横谷は再び歩いて紫に近づく。藍は横谷のもとに走ろうとする。
あの事を盗み聞きしてしまっては、邪険にする気持ちが最初の頃より殆どなくなり、そのような突き放す言葉を投げる気持ちも毛頭ない。
無断で盗み聞きしたことを詫びる意味も含めて、自らの口で訂正して抱いている誤解を解こうと横谷に叫びに近い呼び止めをかける。
「待て、違う! 私は――」
ガシッ
「橙……?」
藍が駆け寄ろうとしたところで橙が藍の服を掴み引き止める。橙は力強い目で藍の目を見ていた。
「藍さま、大丈夫だよ。あれは横谷さんの本当の気持ちじゃないよ。横谷さんは……わかっているよ」
橙も藍の気持ちを理解している。藍の気持ちを考えたら引き止めることもためらいはあった。
しかしそれでも引き止めたのは、根が優しき人間のつまらない意地に似た思いやりに気付き、彼もまた藍の気持ちを察したからこそあの言葉を言い放ったことを感じ取ったからだ。
「でもやはり私の口から……」
「『声をかけないことも配慮の内』。使い方が違うと思うけど、つまり藍さまの言いたいことをわかっててあんなことを言って、言わせようとしなかったんだと思う。あの人なりの優しさだっだと思うよ……あの人は口悪いから、あんな事しか言えないけど」
「橙……」
橙の引き止めと説得によって藍は心が動き、追いかけることを止めた。
「いいかしら?」
「いつでも」
紫が横谷に訊ねる。外の世界に帰れる喜びの気持ちと、もう少しだけ居たかったかなという複雑な気持ちが入り混じっていたが、それを必死に抑えてそっけなく答える。紫はにこやかに横谷を見てから、持っている扇子を縦にスッと振り、そこからスキマが展開された。
「よし」
横谷は気合を入れる様に声を出してスキマに近づく。
「ストップ、あなたが入るのはこれじゃないわ」
紫は先程開いたスキマに入ろうとする横谷を止める。スキマまで展開させたのに入ることを止められてしまい思わずキョトンとなる。
「はぁ? いや、そのスキマに入れば帰れるんだろ?」
横谷の聞き返し方が、多少焦ったものだった。少々でもここに残りたかったと思った者としては少し考えられない行動だった。
何か不手際があったのか、それとも安全に帰れるための施しをこれからするつもりなのか。横谷の頭の中でそう考えたのは二の次で、先に思い立ったのが、あれだけ別れの言葉を言ってその後ここから立ち去るタイミングが延びるまたは失うと、居たたまれない気分がどっと押し寄せてくることを予知していたからである。
横谷は基本喋るのことは、大事な用事があるときや伝言を伝える時以外では苦手である。だから、こういう時にどういった言葉を使って時間を潰すのかがわからない。
ましてや藍に自分の中で渾身の出来と思っている別れ言葉の意味を尋ねられでもしたら、恥ずかしくて憤死してしまいかねない。
「大丈夫よ、ちゃんと別のスキマを用意するわ」
くぱっ
そんなことを知ってか知らず――紫なら横谷の考えを手に取るようにわかるかもしれないが――か紫が言い終わったあと、スキマが開いた音が響く。横谷は急いで周囲を見渡したが、紫の近くのスキマ以外どこにもスキマがなかった。
「? どこにスキマがあるんだよ、見当たらねぇぞ?」
「すごいわねあなた。そんな光景、漫画かアニメくらいよ」
「え……?」
横谷はおそるおそる下を覗く――
「――あ」
「いってらっしゃい」
唖然となる横谷を尻目に、紫は顔をニコニコしながら手を振る。
「ちょっ!?」
スッ
横谷は落ちまいと紫に掴みにかかったが、ようやく重力が働いてスキマの中に落ちていった。
「じゃ、私は様子を見に行くから」
紫は藍たちを一瞥して言い放ち、もうひとつのスキマに入る。藍たちは一部始終を見て思わずアハハと苦笑いをした。
「最後の最後まで、騒がしい男だな」
「そうですね……」
そして数秒の沈黙の後、藍が呟く。
「やっぱり、行っておけばよかったかな……『二度と来るな』ってな」
(あいつに今までの事を謝ったら、つけあがるだろうしな)
「――ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!」
「チクショーーーーーーーーーメェェーーーーーーーー!!!」
その頃横谷は、2回目のスキマの中での絶叫をし、スキマ空間にその絶叫は虚しく響く。
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