DARK SOULS  〜すべての心折れた者たちに捧ぐ〜 第3回
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〜ずれる世界〜

 

 崩落寸前の城壁から引き上げられた後、騎士の案内でテラスへとやってきた。

「太陽が見えるここなら安全だ」

 雲間から差し込む陽の光に手を伸ばすと、騎士は手のひらをかざして見せた。

「俺はアストラのソラール。見ての通り、太陽の神の信徒だ」

 鎧の前面いっぱいに描かれた太陽を指さして騎士は名乗った。鉄の兜でこもって聞こえるが若そうな声をしている。

「不死となり、大王グウィンの生まれたこの地に、俺自身の太陽を探しにきた!」

 呪われた運命だということをまるで気にしていないのか、ソラールは誇らしそうに胸を張った。

「……変人だ、と思ったか? まあ、その通りだ」

 笑うべきなのか謝るべきなのか迷っていると、そんなことはお構いなしにソラールが言葉を続ける。

「気にするな。皆同じ顔をする。ウワッハッハッハハ」

 自分が少し変わっていることを認識しているなら、狂人や頭足らずということではないのだろう。

「貴公はよく俺の話につきあってくれるな。大抵は訝しげな顔のまま去っていくのだがな……」

 嬉しそうに話していたソラールが一旦口を止め、何かを思案するように視線を合わせてくる。

「丁度考えていたことがあるんだ。少し時間をもらってよいか?」

 それまでと違うソラールの真剣な物言いが気になり続きを聞くことにした。

「いや、貴公とは奇妙な縁があると思ってな。亡者ばかりのこの地で、こうして貴公と出会った……。だから、どうだろう、貴公と俺、互いが旅の助けにならないか?」

 ほんの少しの時間しか一緒にいたわけではないが、ソラールの話に裏があるような気はしなかった。彼の提案に乗ることにした。

「そりゃあよかった! じゃあ、こいつを渡しておこう」

 心底うれしそうなソラールから渡されたのは白いろう石だった。

「ここは、まったくおかしな場所だ。時の流れが淀んで、100年以上前の伝説がいると思えば、ひどく不安定で、いろんなものがすぐにずれやがる。貴公と俺の世界も、いつまで重なっているか、分からない」

 これまでも何かあったのか、ソラールはうんざりといった様子だ。

「だが、こいつを使えば……」

 自らのろう石を見せるソラールはまるで悪戯を思いついた子供のようだ。

「世界のずれを越えて、協力ができる。霊として召喚することで、ずれ、を渡るのさ」

 ただのろう石にしか見えないが、ソラールが嘘をついているとは思えない。

「もっとも、そうしてるのは俺たちばかりじゃあないが……」

 祭祀場にいた男が同じようなことを言っていたのを思い出した。

「俺は太陽の戦士、召喚サインも、光り輝く特別製だからな。よーく目立つと思うぜ、ウワッハッハッハハ」

 ソラールは人差し指を空中に走らせると、愉快そうに笑い声をあげた。

「俺は、しばらくここで太陽を眺めていくよ」

 そう言ったソラールは雲を縫って光差し込める空を仰ぎ見た。

「太陽は偉大だ。すばらしい父のようだ。俺もいつか、あんな風にでっかく熱くなりたいんだよ……」

 祈りにも聞こえる呟きを背にテラスを後にした。

 

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 目前に延びる石橋は要害にも思えるほど堅牢な教会区へと続いている。その奥まった頂上には目指すべき鐘楼がはっきりと見て取れた。

 崖を渡る橋上には幾体もの亡者が待ちかまえていた。牛頭デーモンとの激しい戦いの後にも関わらず、簡単には渡らせてくれないようだ。

 橋を封鎖するように隊を成しているため、盾に任せて強行突破も現実的ではない。一体ずつ確実に始末していくしかないだろう。

 クロスボウの射程に捕らわれないうちに盾を構え、亡者たちの動きを見定めようと慎重に歩み出す。

 亡者たちが各々の武器を構えだしたその時、風が動く音が耳に届いた。飛来する矢ではない、もっと大きな動きが後ろから聞こえた。

 盾は前に向けながらも、音の正体を確かめようと首を少し後ろに向けるがそんな必要は無かった。

 頭上を横切った黒く巨大な影が、橋の上で待ちかまえる亡者たちめがけ、猛烈な火炎を吐き出しながら急降下していった。

 亡者たちには何が起こったのかすら分からなかっただろう。ある者は炎に焼かれ消し炭に、またある者は槌のような足に踏みつぶされ、いとも容易く全滅させられてしまう。

 地響きを立て露払いの済んだ橋上に降り立ったのは一匹の赤い竜だった。鳥と蜥蜴を合わせたような身体はあの牛頭のデーモンよりも大きい。首から尻尾にかけてびっしりと生えている極太の棘はその気性の荒さを表しているかのように思えた。

 突如目前に現れた巨体に動揺し、いまどうすべきかの判断が遅れてしまう。逃げなければと思ったときにはもう長く伸びた竜の喉元が僅かだが膨れ上がっていた。

 橋の両脇に逃げ込めそうな窪みが見えるが遠すぎるし、後ろを向いて逃げるなどもってのほかだ。

 残された選択肢はただ僅かな運に任せて盾を構え耐えることだった。

 鎌首をもたげた竜を前に、盾と橋の壁との間にできるだけ小さくした身体を押し込め火炎の息に身構える。しかし、火炎の奔流どころか火の粉すら飛んで来ることはなかった。

 代わりに飛んできたのは竜があげた苦悶の叫びだった。

 構えた盾を除けて竜を見上げると、その頚部を雷光纏う長大な槍が貫いていた。本来の出口を失った息が槍先に殺到し、出血のような炎を巻き上げる。

 竜は致命傷を負ってもなお空に飛び上がろうとするが、槍から迸った雷が漏れ出る炎ごと竜の身体を地上へと縫い止めた。

 僅かに開いた顎から弱々しい断末魔をあげ、竜はどうと倒れ伏しそれきり動かなくなった。

 呆気にとられながらも、頭の片隅で正しく働き続けていた本能が警告を発する。その正しさを証明するかのように、横臥する竜の胴体の上に陽炎がたった。

 風が渡る湖面のように空間が揺らめきそれは姿を現した。

 流れる紋様を持つ漆黒の鎧の騎士。揃いのマントは風にたなびくたびに赤い裏地がのぞいている。目元を覆う金仮面は、片端が伸びる幾本もの枝のようになった独特の意匠をしていた。

 竜を貫く槍に手を伸ばしかけた金仮面の騎士だったが、こちらに気づくとその動きを止めた。仮面の奥に隠された瞳が、胸を射抜こうとしているかのような鋭い視線を感じる。自然と剣を握る手に力が篭もってしまう。

 しばらく考えるような仕草を見せていた金仮面の騎士は、口元に薄い笑みを浮かべると竜の身体から飛び降りた。重厚な装備からは想像できない身軽さだ。

 石畳に降り立った騎士は背負っていた幅広の大剣を無造作に手に取る。翡翠色の刀身は硬質な鉱物で作られているのか宝石を思わせる輝きを放っていた。

 友好的とは思えない剣呑な様子に竜と対峙したときよりもさらに強い緊張が走る。

 対照的に自然体で歩む金仮面の騎士が悠然と距離を詰めてくる。まるでこちらの反応を楽しんでいるかのようだ。

 手にある長剣と金仮面の騎士の持つ大剣とでは、向こうの間合いの方が広い。こちらの刃に捉えるには初めの一撃を上手くやり過ごし間を詰めなければならない。防御か回避か、縦か横か……。

 金仮面の騎士が動く。

 残像を残すような素早い踏み込みからさらに肘にバネでも仕込んでいるかのような瞬激の突きが襲い来る。

 突きに賭けて右へと踏み込んでいた左半身を刃が切り裂く。鋭い痛みだが、致命傷ではない。そのままかまわず、鎧の継ぎ目めがけて右手の長剣を振るう。

 相手を捉えると思えた一撃は次の瞬間、ただ虚空を通り過ぎていった。

 掻き消えたかのように後ろに飛び退った金仮面の騎士が引き戻した大剣を横に凪払う。

 間合いから逃げ出せる体勢ではない。大剣を受け長そうと慌てて盾を振り上げる。

 美術品のように美しい刃と実用性のみの無骨な盾が接触――しない。

 翡翠色の刃は金属板をすり抜け、肉体だけを切り裂いていた。

 振り抜けた大剣の刃が地面に達するが、その切っ先は音をたてなかった。

 操り人形の糸が切れたかのように視界が揺らぎ地面が迫る。臓腑に火がついたかのような激しい痛みにもうどうすることもできない。

 薄れゆく視界のなか、金仮面の騎士は陽炎と共に姿を消していった。

 

説明
ダークソウルの二次創作です。
ニコ生の60時間放送にあわせてなんとか3話目を公開しました。
年末年始で作業が進まずいつもより短いですが、生放送中に続きを更新する予定です。
ただ心が折れたらすみません。
前 http://www.tinami.com/view/350934
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