小さな悩み
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『幸せ』

それは、今こうして皆と酒を飲み、笑っていることがもうすでに『幸せ』なんだろう。

しかし、何故だろうか?私はそんな些細なことはもう幸せと感じなくなっていた。

ほんの少し前ならば、この状況をものすごい幸福感に包まれながら過していたのだが

今となっては、ただの日常過ぎない。そう、馴れてしまったのだ。

 

「どうした愛紗?暗い顔をして」

「あっ、あぁ、いやなんでもないんだ」

「?そうか、ならいいが」

星はどうなんだろうか?今を“正しく”『幸せ』と感じているのだろうか?

「なぁ星」

「なんだ?酒が口に合わなかったか?」

この、楽しそうな表情は…その、駄目だ

「いや、そうではないんだ。なんだ、その〜」

私が場違いな質問をしてしまうことは、この場においてはとてつもない悪なのだ、とただ考えているだけなのに全身で悪寒を感じてしまう。そう、この場を一瞬で静かな、誰も口をきかない空間に変えてしまう。

一言言葉を発してしまえば、大声ですべてぶちまけてしまう。

そうなってしまい、自分を確実に抑えられなくなる自信を悪寒として感じていた。

そう、私はこうした“平穏を求め戦っていた”のに、“平穏を勝ち取り、平和になった事”に私は満足できていなかった

おかしな話だ。頭と心が別々の考えを持ち行動しているのだ。

理解していても、決して納得が出来ていないのだ。

変になっている。私が、愛紗が、関雲長が

 

「なんなのだ愛紗よ?変だぞ、お主」

「そっ、そうか。そうなのか…」

端から見てもそうならば、私が思っている以上に私は場違い、いや変なんだろう。

そりゃそうだろう、だってこの場を祝う気などまったく無いのだから

心が求めていることも分かっている。それはこんな事ではないのだから。

「体調が優れぬなら部屋にでも戻ってゆっくりしたほうがよい。此処の所、お主は頑張り過ぎていたからな」

 

どうやら、私は体調が悪いように見えているらしい。

確かに、体調が悪い、とは今の私に当てはまるかもしれない。

ずれているのだから、自分は、皆と、自分とも

「そうだな…皆にはすまないが、そうさせてもらおう」

「そうか、皆には私から伝えておこう」

「かたじけない」

「なぁに、気にするな。それよりもゆっくりと休めよ」

「ああ」

 

 

この場から早く去ろう。早く眠ってしまおう。

そうだ、また仕事に没頭すればいいのだ。

そうすれば考えなくてすむ。

こうして私は始まったばかりの宴を早々に抜けてしまった。

 

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「…馬鹿者め」

背中が見えなくなってから私は思わずつぶやいていた。

私にしては珍しいと思う。

自分でも、ここまで深く人とかかわっているのは珍しいと。

 

「無理をしよって」

無理をしているのは自分だ。

今までは飄々と人との関わりを繋がっているか、そうでないかの微妙なところで線引きをして過してきた。

今この瞬間は、そうしてきた自分の人生の中ではもっとも幸せな時間だ。

そう、いままで、あまり他人に深く関わらないように過してきた自分がもう見つけられなくなっているぐらいには、この瞬間は充足感に満ちていた

何よりも、私の人生の中で家族の次に深く繋がり、それもこれだけの人数をもう手放したくないと思ってしまっているのだ。

そうした喜びを素直に感じているのは、今までの自分からすれば無理をしている事になるだろう。

 

「そうか」

なんとなく、本当にただの思いつきなのだが

あやつの姿は恐らく、これからの自分が辿る姿なのだろう。

そりゃそうだ、この戦乱の世の中で深く人と関わるということは、それだけ心に傷を負う覚悟も必要になってくる。

残念ながら、私はそんなに強くない。だから人付き合いは最小限に。

そう、切れるか切れないかの糸のような人間関係を築くのは仕方の無いことだ。

なら彼女とて、そうして来ていたに違いない。いや、そうしていない理由が無い。

それが突然…でもない、気がつけば、このように幸福な時間の中で過し、手放したくない大事な人たちが増えている。

馴れてしまったのだろう。良くも悪くも

 

「私もいずれは向き合わなくてはいけないのだろうな」

頭では分かってしまっても、これは解決は出来ないだろう。

そんな事位しか、この問題に関して言えば分からなかった。

ただただ、厄介な問題だということは分かっただけでも儲けものかもしれない

「…今は飲むか」

すっかり味など感じなくなってしまったが、ただこの浮遊感に今は身を任せていたかった。

そう、そういった幸せを壊してしまう自分が求める幸せとやらは、直面しない限りは身に余るものだから

 

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部屋に戻り、寝床に入りはしたが一向に瞼は落ちない。

考えてしまったのがいけなかった。そうすることで私は答えを永遠に見つけられなくなってしまったのだ。

考えさえしなければ、あの場で楽しく酒を飲んでいただろう。

しかし、これは考えないわけにはいかない問題となってしまったのだ。

床から体を起こし、一人ただ外を見る

そこにはきれいな月と星があるだけで心なしか霞んで見える

乱世の平定

最初は民のために動いていた

それが気がつけば途中から自分の欲望のため

ご主人様と少しでも長く平和に過したいという欲望

そう代わっていたのはいつの日からか

ただ、そのことに気がついたのは先日、桃香様と話し合った時のことだ 

 

 

今後について

 

 

そう、更なる未来を思い描いたとき私は民のことなど眼中に無く

ただ、ご主人様と過していたいだけ、つまりはただの女となってしまっていたのだ

そんな自分に対して桃香様は、しっかりと民のことを考えておられた。

私ははずかしくなり、その場はただ曖昧な答えで濁していた。桃香様にも、自分にも。

あれからいろいろ考えを巡らし、だんだんと自分の目的が分かってきてそこから、どんどんと自己嫌悪に陥っていく負の連鎖に私は深く深くはまっていた。

 

抜け出すことなんて簡単だ。

それこそ、皆が冗談で言うような後宮となってご主人様にべったり張り付けばよい。

そうすることで、“私”は満たされるのだから

だがそれでは“私”は納得できないのだ。

そこに私は悩んでいた。

どうすればいいのか?このまま感情に身を任せ、一切をかなぐり捨てあの人の下へといっていいのか。

 

きっとあの人はそれも笑顔で受け入れてくれるだろう。

しかし私は大切なものをそれよりも多く失うだろう。

そう友人達を、戦友を

それはなんとしても避けたい、しかしそのためには今まで通りの生活が最良の過し方なのだ。

つまるところ、私には結局後者を選ぶ覚悟しか持ち合わせていない。私はただの人間だから、けっして強くは無いのだから。

それゆえに、今後も私は悩み続けるだろう。けれどもそれでいい、そうすることで私はいつまでも初心を忘れずにすむ。

大切な、もっとも愛している人と。大切な、もっともかけがえのない友人達と追いかけた夢を

気がつけば私は途中から追いかけてはいなかった、けどそんな私を戒めるためにも悩み続けよう

 

 

そう決めてもう一度眺めた月は今度はしっかりときれいに私の目に映った。

なんてことはない。強くある必要なんてないのだから、私も。

心と体がしっかりと重なった私がもう一度横になったとき、私の瞼はいつも通り気づかずに落ちていた。

 

説明
どうも、またしても短編を一本。
今回も恋姫の短編を一本書かせていただきます。
ヒロインとかも書き分けれるようになりたいから練習がてらに一本。

それと前々回の作品、前回の作品ともにコメントしてくださった
方、ありがとうございます。励みにがんばって生きたいと思います。
それではどうぞ〜
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短編 恋姫 ショートストーリー 真・恋姫†無双 恋姫†無双 

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