ごみは上から降ってくる。
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 山の上にある神社へと登ってきたは良いが、あまりにも酷い惨状だった。辺り一面にごみが散らばっている。それもそうだ。こんな山奥にわざわざ初詣に来るのは俺ぐらいなもので、他に来るとしたら、鳥とか動物だとか、そんなぐらいじゃないだろうか。雪が振るなか冬眠しない動物ってのも少ないかもしれないが。

 新年の切り替えには、やはり初詣だ。去年までの残念極まりない一年を振り返りながら、登ってきたのに、これじゃあ新年を祝うことなど出来やしない。

 ごみを拾うことにしよう。そのほうが神様も喜ぶだろうし、一年のはじめを良いことをして過ごしたのだと、心にも残るし、やりがいがある。そうと決まればすぐに行動だ。

 一つめ、空き缶だ。しかし、どうしてこんなところに空き缶があるんだ。近くに自販機などないし、山の近くにもないぞ。まあ、ごみなんてものは勝手に集まってくる……正確には違うが、そんな風に考えるほうが自然か。空き缶をこんな山の頂上までピンポイントで放てるような人間がいたら、面白いものだが。よく考えると人間業じゃねえな。ありえないありえない。

 二つめ、雑誌。よくある週刊誌だ。これもどうしてこんなところにあるのか。近くに、本屋などないし……同じ事を考えるのも面倒だ。雑誌はボロボロで、ところどころに穴が空いていた。

 三つめ、煙草の箱。銘柄は、なんとかセブン。なんとかの部分は読めないわけだが、まあ考えるまでもなくアレだろ。大体、さっきの週刊誌といい、絶妙に変な風に穴が空いている気がするのだが、気のせいじゃないだろうな。

 四つめ、また週刊誌だ。さっきのものとは違う。表紙が破けて今度は全く見えない。まあなんか、ピンク色のカラーページが見えたから、触りたくないな。さっきまでのごみは神社の中央に集めてあるから、そこにシュートしておく。うまいぐあいにゴールした。

 五つめ、考えるのも面倒になってきた。もう考えずにさっさと蹴って集めていくことにするか。今度は生ゴミのようだ。なんか、みかんの皮の残骸っぽいものがある。みかんかあ。なんだかダンボールの上にあるみかんが浮かんでくるなあ。公園の中にあるダンボールでみかんを食ってる女がそういえばいたなあ。あれは大丈夫なのか。寒さ的にも、法律的、いや条例的? にも。

 六つ目、多いと思っていたが、どうやらこれで最後のようだ。大きな木くず……ってボロ神社から崩れてきたものじゃあないか。無人だから手入れは行き届いてないんだろうが、こんな状態の神社に神様など宿るものなのか。

 不安になりつつもごみを集め終わる。割と多くあるものだ。紙くずから生ゴミから木くずまで。

「あ、やべ」

 集めたはいいが、こんなところにごみ箱などあるはずもない。どうやって処理すればいいのやら。というか、だからこそごみがこんなところに溜まってしまったんじゃないか。頭を使えば分かりそうなことなのに、今まで気づかなかったとは、情けないなあ俺。

 といっても、一応両手に抱えればもっていけないこともないか。でもなあ、ごみを抱えるってのは嫌だな。こう生理的に。誰のものか分からんし。せめて自分のものだってんならいいんだが。

 とりあえず、参拝だけ済ましてしまおう。持ってきた五円玉を五つ入れる。御縁がありますようにってのを五回だ。まあ一応五枚ってのは、五個の円っていう願掛けにもなる。来年の抱負を考えながら、願い終わったところで向き直る。

 集めたせいか、ごみがやっぱりここには場違いだ。持ち帰るしかないのか。

 そんな折に、空に鳥がいることに気づいた。あの初夢に出ると縁起のいい鷹かと思ってそらを見てみれば、全く違う。カラスだった。雪が降っているのにカラスが飛ぶとはなんともミスマッチ。雲泥の差だ。白と黒で対照的だし。

 カラスの鳴き声がアホーアホーと聞こえて、バカにされているような気持ちになる。そこでカラスを見ないために目を伏せたときに、なにかが降ってきた。

 ――雑誌。

 ほう、つまりはこいつらの後釜を俺は担ってしまったわけか。たしかに動物のカラスから見れば阿呆に見えるだろうなあ。ああ、そうかあ。カラスの鳴き声は今も鳴り止まない。それに俺を中心に回っているようにも見えてくる。我慢の限界だ。

「うるせえんだよ! 新年の始めぐらい良い気持ちで迎えさせろ!」

 空に向かって吠えた。カラスは輪を乱して去っていく。

 ハア、疲れた。少しだけ神社で休憩させて貰おう。ごみは溜まっているが、ごみ箱がないんじゃしかたない。まあ、持ち帰るさ。……少し休憩したらな。

 

 

 

 目が覚めると、頭の上に何かが乗っている。なんだかとてもイラつく夢を見ていたように思う。頭の上に乗っかかっていたものを退けて、それを眺めてみる。

 ごみ箱だ。なんだか思い出せないが、夢であったことと関係しているような気がする。理由は簡単。なぜか、頭に来るからだ。そんなこととは関係なしに、ごみ箱をかぶりながら迎える新年ってのはどうなんだ。

 ハア、今年も悪い一年になりそうだ。

 

説明
 初詣、ごみ箱、雪という三つの題から。掌編(短編より短いもの)です。
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掌編 ごみ箱 一人称  SS 

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