真・恋姫無双 三人の天の御使い 第一部 其の一 |
壱 劉備軍
俺、北郷一刀が劉備玄徳こと桃香たちと出会い公孫賛の下で客将のみたいなことをしていたころ、こんな噂が聞こえてきた。
「天の御使いがご主人様以外にも居るだと!?」
愛紗の驚愕の声が太守の間に響き渡る。
「うむ。先ほど市の屋台で行商人から聞いたのだ。」
星は旨い酒の肴を仕入れたかのように答えた。
まあ、星には実際そうなのだろう。しかし、俺にはその程度で聞き流せる話題では無い。
この世界に放り出された時からある様々な疑問のうちの一つに俺がどうやってこの世界にやってきたのか判らないというのがある。
もしかしたらこの世界にやってきたのが俺一人だけではない可能性だってあるのだ。
「俺以外にもここに来たやつが居る・・・ってことか?」
「ふふふ、さてそれはどうかな?」
噂を伝えた星本人が笑って否定する。
「え?どういうこと星ちゃん??」
桃香は星の言っている意味が判らないという顔をしている。もちろん俺をはじめ愛紗、鈴鈴、白蓮も同じだ。
「私が聞いた話では、ここにいる北郷一刀殿を含め三名いるらしい。」
「天の御使いを名乗る者がご主人様以外にあと二人いると・・・」
愛紗が愕然とした表情で呟くように言う。それはそうだ、俺達は天の御使いという御輿を担いで挙兵したんだ。その御輿が三つも表れてはその意味が薄れてしまう。
「いや、正確には『北郷一刀』を名乗るものがあと二人居るらしいのだ。」
「はあああああああ??????」
聞いていた全員の目が点になる。
愛紗は逸早く我に返り呆れ顔に
「・・・なんだそれは?つまりご主人様の名を騙った偽者ということではないか。」
「まあ、そんな処だと思うがな。」
星はみんなから期待通りの反応が得られ満足そうに満面の笑顔だ。
「お兄ちゃんのニセモノなんて許せないのだ!」
鈴々がその小さな体全部でプンスカしている。
「まあ、ニセモノが現れるって事は俺もそれなりに名前が売れてきたって事かな?」
冗談めかして言ってみたが桃香、愛紗、鈴鈴には効果が無かった。
「何を落ち着いていらっしゃるのですか!もしそやつらがご主人様の評判を落とすような事をしでかしたらどうなさるのですか!!」
いや、俺に怒られても・・・
桃香は思案顔で星に問いかける。
「そうだよねえ。悪い噂が立つのは困るなあ。ねえ星ちゃん、その二人はどの辺に居るのか聞いてる?」
「うむ。それがな、一人は?州陳留の牧、曹操殿のところにいるらしい。」
「陳留?結構遠いよね。もうそんなところまで噂が広まってるんだねえ。」
「曹操が?あいつがそんな事するかな?」
白蓮が意外そうにつっこんだ。そうか白蓮は曹操の事知ってるんだ。
「白蓮ちゃん、その曹操さんのこと知ってるの?」
「ああ、でもあいつって天の御使いなんて胡散臭いものに程遠いやつだと思ってたけどなあ。」
「俺って胡散臭いんだ・・・」
ちょっと落ち込む俺・・・。
「ああ!ごめんそんな意味じゃなく・・・」
「もう一人はどこにいるのだ?」
落ち込む俺と慌てる白蓮を無視して鈴々が話の先を促す。
「もう一人は江東の孫策の下に居るそうだ。」
「江東って!そんな遠い所に?」
桃香はまさにビックリ仰天って言葉がピッタリな感じで驚いていた。
「それはいくらなんでも遠すぎではないか?」
愛紗も呆れ返っていた。
しかし、俺は逆に孫策の名前を聞いた瞬間にコレまで以上に驚いた。
劉備、曹操、孫策。この三人の下に『北郷一刀』が居る?
一体どうなってんだ?
「兎に角、そんな遠くじゃ今の俺たちにはどうすることもできないさ。」
「それはそうですが・・・」
愛紗は納得いかないみたいだな。そりゃそうか。
「なにかあれば噂がまた流れて来るさ。それに、変な噂が流れてもそれ以上のことをしてぶっ飛ばせばいいさ。」
俺は内心の不安を隠し能天気に言った。
「ほう、北郷殿はなかなか肝が座っていらっしゃる。ただの能天気かもしれんが。」
星が感心したように頷いている。
「お姉ちゃんといい勝負なのだ。」
鈴々がニャハハというと、
「え〜〜〜?」
と、桃香から不満の声が上がり、みんなからは笑い声が上がった。
その後、俺以外の『北郷一刀』の噂は暫く聞くことは無かった。
弐 劉備軍平原城
そして半年程が過ぎ、黄巾党の乱が収束し俺たちが青洲の平原の相として赴任したころ、その話題はまたしても星の口から伝えられた。
「北郷殿、あなたは何者だ!?」
星は開口一番睨みながら詰問してきた。
「え!?」
俺は訳も判らずただ星の剣幕に圧倒されるだけだった。
「どうしたのだ星?半年振りに再会したと思ったらいきなり!」
愛紗も星との再会を喜び合うものと思っていたのが、この星の突然の憤りに戸惑っているようだ。
「私はここ暫く、諸国を旅してきた。」
「そ、そうなんだ・・・」
「その旅先で私はあなたに出会った。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
星の顔は真剣だ。しかし俺を含め今この場にいる全員が星の言葉の意味を理解できていなかった。
「あのう、ごめんなさい星ちゃん。言ってる意味がよくわかんないんだけど・・・詳しく教えてもらっていいかな?」
桃香が冷や汗と引きつった笑顔で問いかける。
「よろしい、まずは私が以前『北郷一刀』が三人いるという噂の話をしたのを覚えておいでか?」
「あ〜、そういえばそんなこと有ったね〜。その後噂らしい噂聞かないから忘れてたけど。」
「私は諸国を旅するついでにその噂も確かめ笑い話の種にでもしてやろうと思っていたのだが・・・。江東の地で出会ったのはあなたに瓜二つの姿だった。」
星はここで一息ついて俺の姿を上から下まで見つめ
「本当に瓜二つだった。私も最初は噂を聞いて似たような人間を連れてきたのかと思っていた。しかし、気配もここまで同じとなるとな。そして街の人間に話を聞いてみるとその『北郷一刀』は孫策本人が流星の落ちた場所から拾ってきたそうだ。今では呉の軍師として地位を得ている。」
「はわわ、軍師ですか。」
朱里が俺の顔を見て何故か顔を赤くしている。
「しかも、その『北郷一刀』の本当の役目は呉に天の血を入れること。」
「「「「「!」」」」」「?」
鈴々以外の全員の顔が朱に染まった。
「どういう意味なのだ?」
「ええと・・・それは〜〜〜」
一人キョトンとしている鈴々に朱里と雛里の二人が説明しようとしている。
二人とも鈴々に変なこと教えないでくれよ〜・・・などと思っていたら
「つまり『種馬』だな。」
星は身も蓋もない事をあっさり言ってしまった。
「ウラヤマシイ・・・」
「ご主人様!!」
うおっ思わず本音が・・・愛紗さん視線が痛いっス
「次に許昌に向かいもう一人の『北郷一刀』も確かめた。やはりこちらの『北郷殿』もまったく同じ姿容だった。そしてこちらは街の警備隊長をしていたので会話も交わすことができた。」
「お話したの!?」
「実は私も失念していたのだがこちらの北郷殿とは白珪殿のところにやっかいになる前に出会っていた。」
『えええええええええええええええ!!!!!』
なんじゃそりゃああああああ
「最初私は警邏中のその『北郷殿』の前に姿を見せたのだ。なにか疚しいところがあれば逃げるか何かすると思ったからだ。しかし『北郷殿』は笑顔を浮かべ話しかけて来た。しかし私の名を真名しかわからないから教えてくれと言う。そこで私ははっきり思い出したのだ、以前旅の途中で盗賊に襲われている『北郷殿』を助けたことを。どうやらその時ちょうど天の国から来た直後だったらしい。真名はそのときの旅の連れが呼んでいたのをおぼえていたとのことだった。」
「なんでそんなことを忘れていたのだ?しかも何故おぬしが助けたのに曹操殿のところにいるのだ?」
愛紗は呆れと困惑の入り混じった複雑な表情で星に訊いた。
「私が助けた直後に官軍が来てな、そのとき私は官軍に関わるのが嫌だったのでその場から退散したのだが、その官軍が曹操の部隊だったのだ。」
(放り出して逃げたんだ・・・)全員が同じ事を思ったがあえて口にはしなかった。
「さて、という訳で北郷殿。最初の質問に戻ろう。あなた達は何者だ!?三つ子なのか?それとも天の国の住人は皆同じ顔なのか?」
星は俺に詰め寄るが、俺にだって何がなんだか判らない。
「俺は一人っ子だし、俺とそっくりなやつに会ったことだってないよ!何が起こってるのか俺が知りたいよ!!!」
暫く俺と星は睨み合う。
しかし不意に星が笑って顔を離した。
「うむ、嘘はついておられぬようだ。ここは我が直感を信じることにしよう。」
「へ?」
「数々の無礼お許し願いたい。私がここに来た本来の目的はこちらで我が力を奮るいたい思ってだったのだが、その前に迷いを絶っておこうと思いこのような振る舞いをさせていただいた。」
「と、いうことは・・・俺たちの仲間になってくれるってこと?」
「御意に。」
「でもなんで突然・・・?」
「こんな大陸を巻き込むかのような厄介ごと・・・」
沈痛な面持ちでその理由を語りだした星・・・・・・・・と思ったら。
「面白そうだからに決まっておるではないか♪」
実に無邪気な笑顔で言われた。
と、言うわけで星こと趙雲子龍が仲間になった・・・なんか釈然としないけど。
参 曹操軍陳留城
「兄ちゃん幽州に行ったことってある?」
許緒こと季衣が唐突に訊いてきた。
昼下がりの庭園。華琳、桂花、春蘭、秋蘭、季衣の五人が東屋にいるのを見かけたので、ちょっと挨拶をと立ち寄ったらいきなりこれである。
「へ?幽州って・・・たしか北のほうだったよな。いやないよ。」
「どうしたの季衣?」
華琳もいきなりそんなことを言い出した季衣を不思議そうに見つめる。
「それがですね華琳様、今日ボクが屋台でご飯食べてる時『天の使いが義勇軍を率いて黄巾党を倒してまわってる。』って聞いたんですよ。」
「なんだそれは?北郷はずっと我々と一緒にいたではないか。」
春蘭が呆れた顔で言い放つ。
「大方どこかでこの馬鹿の噂を聞いた馬鹿が名を騙っているのだろう。」
「姉者の言うとおりだろうな。なあ季衣、そやつは名を名乗っているのか?」
秋蘭も呆れ顔だ。
そういう俺も似たようなもんだ、天の使いなんていい宣伝になりそうだもんな。
しかし季衣の口から出たその名を聞いて俺は焦った。
「その人、北郷一刀って名乗ってるそうですよ。」
「はあ?この馬鹿の名前を名乗るって正真正銘の馬鹿ね!」
それまで無関心だった桂花が会話に参加してきた。
って、んなこと言うならそのまま無関心でいてくれたほうがいいよ。
華琳は思案顔で疑問を口にする。
「でも変ね?わざわざ一刀の名を名乗っているのなら、てっきり私たちの評判を落とすための何処かの工作かと思えないでもないけど、やっていることはその逆・・・どういうつもりかしら?」
「北郷!お前もしや私たちの知らぬところで義勇軍をやっているのではあるまいな!!」
「あのな春蘭、お前がさっきずっと一緒にいたって言ったばかりだろうが!」
「む、それもそうか。」
なあ春蘭、僅かでもいいから考えてから発言しようぜ。頼むから。
「どうしましょう華琳さま。細作を放っておきましょうか?」
「そうね、今は情報が少なすぎるわ。秋蘭おねがいね。」
「御意。」
四 孫策軍江東
俺が孫策こと雪蓮に捕まり城内から街へと連れ出されそうになったところに、周瑜こと冥琳にばったり出くわした。
「おお、雪蓮、北郷、ちょうどいい。いま探しに行こうと思っていたところだったのだ。さきほど北に放っていた細作が気になる情報を持ってきたのでな。」
冥琳が真剣な面持ちで挨拶もせず話し始めた。
「どうしたの冥琳?そんな怖い顔して。」
いまからサボろうとしていた雪蓮がそんなことをおくびにも出さず訊いた。
「北郷、お前の偽者が二人現れた。」
「は?」
俺は冥琳の言葉に間抜けな返事しかできなかった。
「冥琳、それって天の使いを騙ってる馬鹿が出てきた話じゃないの?そんなの菅輅のあの占い聞いたやつが考えそうなことじゃない。そんな慌てなくても・・・」
雪蓮は少々呆れ顔である。
「そうじゃないのよ。『天の使いの北郷一刀』が二人よ!」
「はあ!?どういうことよ?」
「一人は義勇軍を率いて黄巾党を討伐して回ってて。もう一人は曹操のところにいるらしい。」
「なにそれ?ねえ一刀、あなた心当たりある?」
雪連が俺の顔をのぞき込むが俺の答えは決まっている。
「あるわけないだろ。曹操なんて会ったことないし、この世界のことようやく理解しはじめた俺に義勇軍なんか集められるはずもない。」
「そりゃそうよねえ。」
雪連は少し思案すると悪戯を思いついた子供の様な顔になる。
「でもこの状況は袁術ちゃんから一刀の存在を隠すのに都合がいいわね。」
「うむ、袁術はそれでいいが、その二人のことが気になるわ。細作には更に情報を集めさせるわね。」
「任せるわ、よろしくね冥琳?」
雪連は笑顔でそう言うとこの場を立ち去ろうとしたが。
「ちょっと待て雪蓮。」
冥琳に呼び止められた。
「今日の仕事場はこっちのはずだが?」
そんなわけで雪連は仕事に連れ戻されたのだった。
しかも俺まで巻き込まれて手伝わされる事に・・・。
五 反董卓連合参戦直前
俺たち劉備軍は反董卓連合に合流する前に曹操、孫策の軍に使者を送り会合を持ちたいと打診した。
『北郷一刀』の名前でだ。
正直無謀な提案だと思うが、俺としては『俺以外の北郷一刀』をこの目で確認したかった。そして返事は双方ともに
『応』
とのことだ。
まあ、向こうには俺の情報なんて駄々漏れだろうから、こっちは気にすることなど何もない。しかし向こうはそうじゃないはず。
それでもこの会合を了承したということは、向こうでもさらに情報がほしいってことなんだろう。
「ご、ご主人様!砂煙がふたつ、み、見えました。ひとつは東、曹の牙門旗。もうひとつは南、こちらは孫の牙門旗でしゅ!」
「朱里、落ち着いて。戦になるわけじゃないんだから。」
俺は、はわわってる朱里の頭をなでて微笑む。雛里も一緒になってあわわっていてその微笑ましさに落ち着く自分を認識する。わざとなのかな?だとするとこんな姿でも諸葛亮と鳳統、流石だと思うが・・・・まあ、天然だろうなあ。
「さて、それじゃ行くとしますか。」
「はい。ご主人様!」
俺達は予め用意しておいた平地にぽつんと立てた天幕へと向かう。そのメンバーは俺、桃香、愛紗、鈴々、星、朱里、雛里。
そして曹操側から十人、孫策側から八人、天幕へとやってくるがその中に各陣営に一人ずつ同じ格好の人間がいる。
つまり聖フランチェスカ学園の制服を着た男。
『北郷一刀』この俺だ。
お互いの表情が確認できる距離まで来ると、もう全員同じ唖然とした表情なのが判る。
その全員がそれ以外の反応ができないのが明らかだ。
欠く言う俺も自分と同じ顔が二つも並んでんだ、心中穏やかじゃなかったがここは気力を振り絞って挨拶を交わす。
「この度は反董卓連合への参加前に急遽この会合に参加していただいたこと、深く感謝します。俺は・・・って、なんか名乗るのも変に感じるかもしれないが、俺は北郷一刀。」
俺はあえてここで口を止めた。
案の定、曹、孫、両陣営からどよめきが起こった。
「天の使いなんて名乗ってるが本当の所はこの国に突然落っことされた異邦人ってかんじさ。故あってこっちの劉備玄徳のところで旗印みたいなことをやってる・・・・そっちの二人も似たようなモンなんだろ?」
「ああ・・・・俺もそんな感じだ。そっちは?」
「同じく・・・目が覚めたらここにいた。」
俺たち三人はお互いの顔をまじまじと見つめた後、まったく同時に深いため息をついた。
「結局、なにも解らないってことなのね。まあ、予想はしてたけど。」
クルクルツインテールの女の子がつぶやく。
「はじめまして・・・って、なんか変な感じだけど、私は曹孟徳よ。」
曹操の挨拶を皮切りにここに集まった全員が自己紹介していく。
「さて、自己紹介も終ったし本題に入るとしましょうか。一刀。」
「おう。」
「はい。」
「へ?」
「・・・・・・・・・・・」
あ、なんか怒ってる?
「私のところの一刀!こっち来なさい。」
「ああ、なんだ華琳?」
「あんたコレ付けてなさい。」
そう言って曹操は紫の紐を頭に巻きつけた。
「あ、それいいわね。私もさっきからどれがうちの一刀かわかんなくなってたのよ。」
孫策が赤い紐を取り出す。
「オレオレ・・・って、雪蓮?ぶわ!」
孫策は何を考えているのか向こうの俺の顔を胸に埋めて、その頭に紐を巻きつけた。
うわ、うらやましい・・・・
って、なんか殺気のようなものを周囲からビリビリと感じるんですが・・・。
「さあ、ご主人様もこちらへ。」
愛紗が笑顔で緑色の紐を手に近づいてくる。
俺はその場で待って・・・いや、その場から動けなかった。愛紗の放つ殺気のせいで。
そして俺の頭には緑の紐が結ばれた。
・・・・・・首しめられるかと思った・・・・。
「さてと、今度こそ本題に入るわ。この三勢力で同盟を結ぶ。どうかしら?」
曹操は本当に核心を突いてきた。
「今回の董卓討伐は、いわば麗羽・・・袁紹の見栄と我侭の為の戦よ。それに乗っかって名を上げようとしている諸侯が集まったって言うのが実態。まあ、庶人が苦しめられているなら助けたいというのも私の本音。でも、本当に苦しめられているならね。」
「曹操さんも同じ考えなんですね。私たちの軍師も同じ答えです。」
桃香が驚いた顔で相槌をうつ。
「孫策はどう?」
「ま、同じようなもんよ。」
「で、今回最大の障害になるのが麗羽の馬鹿なわけよ。どうせ総大将をやりたがるに決まってるわ。それでいて自分たちはおいしいところだけもって行くつもりよ。劉備、あなたのところなんかいい標的にされるわ。」
「弱小ですからねぇ、うちは・・・」
桃香がションボリと頷く。
「しかし曹操殿、同盟といっても我ら孫呉は表立って動く訳にはいかん。なにしろ我らは形の上では袁術の軍の一部だからな。」
周瑜が難しい顔で発言する。
「ふふ、どうせその袁術の戦力もこの戦で削っておくつもりなのでしょう。孫呉独立のために。」
「その通りよ。」
答えたのは孫策だった。
「雪蓮!」
「だめよ冥琳。ここは本音で話す場よ。相手を試すような発言はわたしが許さないわよ。」
「はあ、わかったわ。ここはあなたにまかせる。」
「ごめんなさいね。話の腰を折って。で、ぶっちゃけちゃうとそうなのよ。袁術ちゃんをせっかくここまで引っ張り出したんだからやることやっておきたいのよね。その為にもこの同盟の話は私たちにも大いに魅力的だわ。」
「では、孫呉は賛成と、劉備はどうかしら?」
「わたしたちはもちろん異存ありません。あ、そうだ!ご主人様が切掛けで結んだ同盟ですから『天の使い同盟』って名前にしませんか!?」
「・・・・・・・・・その名前はどうかしら・・・」
曹操の顔が引きつってるよ・・・・・ん?なんだ?地鳴り?
「ごーーーー主じーーーーーんさーーーーーまーーーーーーー」
「なにか聞こえないか?」
全員の意識がその音のするほうに集中する。
「なんだあの砂煙は?」
なにかが近づいてくる。しかも早い!そしてこの声は・・・
「ごーーーーーーーしゅーーーーーーじーーーーーーんーーーーーーーさーーーーーーまーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「貂蝉!」
「貂蝉!」
「貂蝉!」
俺たち三人の『北郷一刀』がハモった瞬間、頭の中に『外史』という言葉が閃光のように思い出された。
俺達は顔を見合わせ、お互いが同じ事を感じたことを確信する。
そうしている間に天幕の下はバケモノだのキモイだの叫んで阿鼻叫喚な地獄絵図と化していた。
「だぁぁぁぁぁれが地の底から復活した古代のバケモノ蒼天の大決戦ですってええええええぇぇぇぇぇ!!」
「だれもそないなこというてへんわあああああ!」
李典のツッコミが天を裂く。
「みんな落ち着け!大丈夫だ!見た目はこんなだが害は無い!」
(精神的な害は極大かもしれんが・・・あえてここは目を瞑ろう)
「遂にみつけたわぁぁぁん、ご主人さっまぁん・・・て、ご主人様が三人!?」
さすがの貂蝉もこの状況に驚いて動きが止まったようだ。
「貂蝉、再会していきなりで悪いが、なんで俺が三人いるかわかるか?これも『外史』の力なのか?」
「あら、ご主人様。前の記憶が戻ってるの?」
「いや・・・お前を見た瞬間に『外史』の事が急に頭に浮かんだんだ。」
「それでわたしの事も思い出してくださったのねん。愛をかんじちゃうわぁん。むふ?」
「「「いや、それはないから!」」」
「で、やっぱりこれは『外史』の力でしょうねぇ。誰かがご主人様が三人いる世界を望んだということでしょうねぇん。」
「ほう、貂蝉。この方がお主のいうご主人様か。なるほどおぬしが惚れ込むのも頷けるイイオノコであるな。」
後ろから聞こえた野太い声に振り返り・・・・・・・・見るんじゃなかった・・・・。
声の主の・・・その・・・は、・・・・・・・スマン、容姿の説明は割愛させてくれ。
「あ、あんたは・・・・?」
「うむ、我が名は卑弥呼。謎の巫女とでもいっておこうか。」
「・・・卑弥呼・・・ですか・・・・」
もう、つっこみどころが多すぎてつっこむ気がうせたわ!
「華琳さま!華琳さまっ!お気を確かに!!」
夏候惇が曹操を抱えている。
「どうした!?」
「北郷!華琳さまがそれを見た瞬間に気を失われて!」
夏侯淵が曹操を守る形で貂蝉の前に立っていた。
「あら、それはまずいわねぇん。」
「ち、近寄るな!貴様!!」
「そんなことより早くその子を助けなくっちゃ。ほら、あなたたちで人工呼吸をしてあげたんさい!」
「人工呼吸だと?」
「そうよん、あなたの愛のこもった熱い吐息を口移しで送り込んであげるのよぉん。」
「愛の・・・」
「口移し・・・」
「春蘭!そこをどきなさい!わたしが人工呼吸をするわ!!」
旬ケは飢えたケダモノのような目で夏候惇に食って掛かった。
「ば、馬鹿者!貴様などに任せられるか!」
「では姉者、まずはわたしが。」
言うが早いか、夏候淵は曹操の唇をふさいだ。
夏候惇と旬ケが唖然としているうちに夏候淵はあっさりと口を離す。
「では姉者、交代だ。」
「お、おう」
夏候惇も今度は旬ケに邪魔されまいと直ちに人工呼吸を始めた。
「ちょ、ちょっと春蘭!しゅんらーーーーん!!は、は、早くかわりなさいよ!!」
焦れた旬ケが夏候惇を突き飛ばす。夏候惇は突き飛ばされたにもかかわらず幸せそうな顔で夢の世界へ旅立っていた。
「さあ、華琳様。この桂花めが人工呼吸をしてさしあげますわ。」
んちゅうううううううううううううううううううううううううううううう
「吸ってどうする!」
三人の『俺』が完全なユニゾンで突っ込んだ。
「は!私としたことがつい条件反射で・・・」
そんなことをやっているうちに曹操は気が付いたようだった。
「う、ううん・・・は!あ、あのバケモノは?」
「だ、大丈夫です華琳様!あいつら見た目はアレですが決して悪いやつでは無いようです。」
「おい、あの桂花が認めたぞ。」
「うふふ。恋する女の子の心を察するなんて漢女にとって造作もないことよん。ご主人様。」
「しかし貂蝉よ。ご主人様が三人もいるとは聞いてなかったぞ。こんなイイオノコ三人に見つめられては思わず滾ってしまうではないか。」
「そうよねぇん。いくらわたしでもご主人様の三乗が相手じゃ壊れちゃうわぁん。」
(三人の一刀が・・・)[この瞬間この場にいた女の子全員の脳裏に、自分対三人の一刀のヴィジュアルが描き出された。この時こそ、この『外史』の行方を決定付けた瞬間なのかもしれない。]
「ふう、やっと追いついた。貂蝉、卑弥呼、遅れてすまん。」
若い男の声に振り向くとイケメンが立っていた。
「はじめまして、キミが貂蝉の言っていたご主人様か・・・って、三つ子なのか?・・・いや、筋肉のつきかたが微妙に違うが寸分たがわぬ骨格、そして気、俺には同じ人間が三人いるように感じるが・・・不思議だなキミたちは。」
「えっと・・・あんたは?」
「俺の名は華佗。しがない医者さ。」
華佗の名前を聞き紫一刀が反応する。
「華佗って、もしかして曹操から手紙を受け取ってないか?」
「ああ、今はその曹操のところに行く旅の途中だったんだ・・・もしかして曹操の知り合いなのか?」
「知り合いもなにも、曹操ならそこにいるぞ。おーい、華琳!前に言ってた華佗が来たぞ。」
「え?華佗がこんなところに?」
華琳は極力貂蝉と卑弥呼を視界に入れないようにこちらにやってくる。
「キミが曹操か、偶然とは恐ろしいものだな。俺の旅の連れがここに用があるっていうから付いてきたんだが、こんなところで会えるなんて。」
「旅の連れって・・・アレ?」
「ああ、漢中で出会ったんだが二人とも医術の心得があるし腕も立つ。」
「「「医術のこころえ〜?」」」
『俺』達三人はまたしてもハモる。
「あらん、恋の病なら貂蝉ちゃんにおまかせよん。」
「この国に巣食った病魔、黄巾党の連中を懲らしめてたんで少し遅くなった。」
「へえ、黄巾の討伐。」
曹操は目を細め華佗を見ている。品定めってところかな?
「なあ、曹操は何処か悪いのか?」
赤が紫に尋ねた。
「ああ、頭痛持ちなんだよ。そのせいで眠れないときも有るらしくてな。そんな時はえらく不機嫌になるんで寿命が縮むよ。」
「一刀〜〜〜〜〜〜。」
曹操が俺達三人を睨んでる。
怖ええ、寿命が縮むというより、一瞬で無くなりそう。
「華佗、今は大事な会議中だから少し待っていてちょうだい。治療はこの後ですぐやってもらうわ。」
「了解した。それじゃあ俺はむこうで・・・」
「あ、いや華佗。ちょっと待ってくれ。あんた曹操の治療の後、予定はあるのか?」
「いや、これといって特には、旅をしてその先々で病気や怪我をした人たちを治していくつもりだが。」
「俺達はこれから大きな戦をしなくちゃならないんだが、できたら同行してもらえないだろうか?もちろん報酬は約束する。」
「戦か。そうだな怪我人が大勢でるだろうしな。」
「それだけじゃないんだ。俺たちは洛陽まで進軍するんだがそこで庶人が困っているらしい、たぶん病人も大勢いるだろうからその人たちを助けるのも手伝って欲しいんだ。」
「そういうことなら全面的に協力しよう!そういう人たちを救うことこそ我が五斗米道の本道!!まかせてくれ!!!」
「あ、ああ。よろしくたのむ。俺の名は北郷一刀・・・って、三人とも同じ名前だからややこしいか・・・とりあえず、この頭に巻いた紐の色で呼び分けてくれ。」
「ああ、了解した。」
「ところで・・・あの二人と旅して来たって話だが、大丈夫だったのか?」
「ん?別に・・・ちょっと変わった格好をしているが気のいいやつらだよ。」
「そ、そうか・・・なら、いいんだ。」
本人が納得しているならいいか。
「ご主人様たち〜。会議を再開するよー。」
桃香の呼ぶ声に、俺達は天幕の下に戻ることにした。
この日の会議では同盟を組むことと、他の勢力にこの同盟を悟らせないようにすることを決定した。
その後、曹操の治療でひと騒動あったが、次の日にはそれぞれの軍は別々の道で集合場所へ向け出発した。
華佗たち三人は俺たち劉備軍と行動を共にすることになった。華佗は曹操の治療の後かなり疲れた様子だったが治療は成功したとのことだったのでまずは一安心だ。
説明 | ||
【この第一部には改訂版があります。初めて読まれる方がいらっしゃいましたら、改訂版をお薦め致します。こちらは比較対照用としてご覧ください。】 はじめまして。雷起(かみなりおこし)と申します。 TINAMIでの初投稿なので勝手が分かるまでご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします。 この作品は北郷一刀が三人に分裂し、魏、呉、蜀にそれぞれ現れた外史のお話となります。 漢女ルートも併合していますがそこの一刀は出てきません。 今回は反董卓連合集結直前までの話となっております。 萌将伝発売前に書き始め、しばらく御蔵入りにしていた作品ですが昨年から他所にて投稿していました。 今後はこちらにも投稿していきたいと思います。 |
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ふむふむ・・・同一人物が3人とは・・・先が気に成りますね(スターダスト) これはかなり先が気になりますw(y-sk) これは!いきなり一刀が3人? どんな外史なんだ。おまけに乙漢の乱入(笑) どうまとめていくのか、期待してますよ。(きたさん) 面白いですね。 そして他国の将たちとイチャイチャしている所を勘違い・・・・・・・・・・・とか考えてしまう。 さらに、他のサイトってどこですか?(rin) 三人とも北郷一刀だから紛らわしいwww(量産型第一次強化式骸骨) 他のサイトで見ましたよwwww。 (劉邦柾棟) 何だこれ種馬×3wwwwww(アルヤ) いきなり三人一刀の鉢合わせ、そして筋肉ダルマズの登場でどうなることやら。(BLACK) |
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