ハルナレンジャー 第二話「研究者誘拐」 B-6
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Scene9:榛奈市役所 「安全対策課」 AM09:05

 

 例によって埃とカビの匂い立ちこめる小部屋の真ん中。

 これまた粗大ゴミ広場から拾ってきたんじゃないかというくらいガタの来ている応接テーブルとボロボロのソファーが新たにしつらえられていた。

 そこに座るは赤と黄色の全身タイツを着た……要するにハルナレンジャーの面々。

 青いのはその前をイライラと歩き回り、それを少し離れた事務机から困ったような笑顔で見つめているのは田中課長。

 ピンクと緑は、学校があるのでもう引き払っている。

「なっっとく、いかねええっ!」

 スーツの色に合わせた青いヘルメットを乱暴に脱ぎ捨てたブルーこと青山君がそれを床にたたきつける。

 ガンッといい音がして床のリノリウムが少し欠けた。

「まあまあ、青山君。少し落ち着いて」

 人数分の湯飲みにお茶を注ぎつつ宥めようとする田中課長。

 いつの間にか脇に立っていたイエローが、優雅な仕草でそれを盆に乗せる。

「これが落ち着いてられますか! あいつらのやったのは誘拐でしょ、誘拐! それなのに警察も動かねえ、挙げ句の果てに俺らがこんな間抜けなかっこでお出迎えですよ! 納得行くわきゃねえでしょ!」

 泡を飛ばしてわめき散らす青山君。

「だから落ち着けってコータ。動けないのは動けないなりのわけがあるんだろう」

 威厳のある口調で口を挟むレッド。イエローから受け取ったお茶を、器用に口の所だけずらしたマスクの脇からすする。

 自分と青山君の分のお茶をテーブルに置いたイエローは、そのまま元の席に座る。こちらはマスクを外してまでお茶を飲む気はないようで、落ち着いた風情で腰掛けている。

「先輩までなんすか! あいつらが悪いのはわかってんだから、ガツンとやってやりゃいいでしょ!」

「いつもの戦闘員だの女幹部だのならそれでもいいがな」

 湯飲みを置いたレッドが、腕を組んでどっかりと座り直す。

「シェリーとか言ったか、あの女将軍は相当の手練れだぞ?」

 同意を求めるように向けられた顔に、イエローもそっと頷く。

 二人の様子に青山君が思わず黙り込んだのを見計らって、田中課長が口を開く。

「相手は国際的な大企業、だしねえ」

 それだけ言うと、わかるでしょ?とでも言うように眉をちょっと上げ、茶をすする。

「……金かよ!」

 叫ぶ青山君。レッドが深々とため息をつく。

「莫大な市税アップの好機をみすみす逃すわけにはいかない、と言うわけですか」

 青山君に対するのとはうって変わって丁寧な口調は田中課長に向けた物。

「公的にはね。産学協同プログラムや地域振興政策への資金協力なども約束してきたそうだし、この不景気には有り難い話だよねえ」

 言外に、「私的な」資金供与もちらつかせつつ、やれやれというように肩をすくめる田中課長。

「ま、色々問題が発生してるのは確かだから対応はしなくちゃいけないんだけど。表立っては追求しづらい、というわけで」

「……というわけで、この格好ですか」

 全身タイツを軽くつまんで課長のセリフを受けるレッド。顔は見えないがどうやら苦笑しているらしい。

 また軽く眉を上げて答える課長。

「俺としてはいいバイトになるんで良いですけどね」

 レッドはそれに鷹揚に手を挙げて返す。

 問題は…

「納得いくかああああ!」

 絶叫する市役所職員青山幸太君(23歳新卒二年目)だけであった。

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B-5続き、二話終了
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