鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第五十八話
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〜バンエルティア号〜

 

夜が更けて、魔物の動きが活発になるであろう時間。

 

一人では危険だと感じたカノンノは、重い足取りでギルドへと帰って来た。

 

ギルドに帰れば、更に重い空気のバンエルティア号が待っていた。

 

だが、そんな事はカノンノは全く気にしなかった。

 

『大丈夫だ』

 

ロイドが、真っ直ぐした目でそう言っていた。

 

『エドとアルが……このギルドを去って行った事にも、何か理由があるはずなんだ。エドが不祥事を起こしたからじゃない。俺は…そう信じるよ』

 

ロイドの言葉に、ほとんどの者は頷いた。

 

その通りだ。エドがあんなにもアッサリと受け止めたのは、何か考えがあるはずだ。

 

だけど、それでもやっぱり納得が行かなかった。

 

『……んな事、とっくに分かってんのよ』

 

リタが、ロイドにツッコムようにそう言った。

 

『今、こんな重い空気に感じるのは、ギルドに騒がしい奴が居なくなって静かになったってだけよ。』

 

そう言って、リタは窓の方へと目を映した。

 

『……それと、一人記憶を消失してしまった事ね』

 

その声は、いつも通りの口調にも思えたが、

 

心の奥から、寂しそうな感情が湧き出ているようだった。

 

『………そう…だな』

 

リタの言葉に、ロイドはただうな垂れた。

 

ジーニアスの目が覚めて、浮かれてしまっていたが、

 

まさか、こんなにも残酷な仕打ちを打ってくるとは。

 

今、ジーニアスは医務室で本を読んでいる。

 

その本は、部屋にあった本で、ジーニアスが気に入っていた物だ。

 

『こんなにも面白い本は初めて読みました。こんなに面白い本が、この船にはいっぱいあるのですね。』

 

読み終えた後、ジーニアスはそう言ったそうだ。

 

違う。そうじゃない。

 

お前は、この船の本を全て読んだはずだ。

 

それさえも……全て真っ白になっていた。

 

『どちら様ですか?』

 

プレセアを見ても、笑って首を傾げるだけだった。

 

『………』

 

そう言われたプレセアは、ただ無表情でその部屋から去っていくだけだった。

 

世界は残酷だ。

 

この後も、その次の後も、

 

人間を痛めつけ、最後には人間達を食う。

 

今、この状況でアドリビドムは嫌と言う程分かっていた。

 

『………覚悟は出来ている』

 

その言葉が、アドリビドムには表されていた。

 

その言葉を、エミルが、ロイドが、ユーリが、リッドが、クレスが、ヴェイグが、ロイが別々の部屋で呟いた。

 

『もうすぐで最後の戦いが始まる。だから、腹をくくろう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜カノンノの部屋〜

 

パスカは、いつも通りに医務室で眠り

 

イアハートは、看病として医務室で入院

 

今日からこの部屋は、カノンノ・グラスバレー一人の部屋となった。

 

『………………』

 

さっきまで、昨日までそこにあったエドのベッドに目を移した。

 

今は、綺麗に掃除されて、綺麗にならされている。

 

まるで、今までそこで誰も寝ていなかったかのように。

 

だが、元はと言えば、そこはカノンノのベッドだったのだ。

 

説明不足で、エドはそのベッドを選び、そして、気に入った。

 

少しだけ、嬉しかった。

 

カノンノは、今までエドが眠っていたベッドの上で横になった。

 

まだ、エドの臭いがあった。

 

その臭いのせいで、また目に泪が浮かんだ。

 

『…………エド…』

 

カノンノは、小さく呟いた。

 

しかし、その言葉一つ一つが身に響いて、

 

更に目に泪が溜まる。

 

『エド……エド………。』

 

布団に、強くしがみ付いた。

 

思えば、自覚していた。

 

思えば、ずっと近くに居たのだ。

 

そうだ、私は

 

≪エドが好きだったんだ≫

 

『ぅぅ……ぅぅぅ……』

 

空しい思いと、切ない思いがカノンノに襲い掛かり、泪がまだ流れた。

 

雫が布団に落ちると、布団が雫を飲みこんだ。

 

匂いが、カノンノの泪に染まっていく。

 

『…エド……』

 

また一言、名前を呼んで口が止まった。

 

また呼べば、泪が流れる。

 

辛い思いが、全身に更に圧し掛かる。

 

ならば、もう呼ばなければ良い。

 

だけど、呼ばないとやっていられなかった。

 

もっと辛い何かが、カノンノを蝕んでいくようで

 

このままでは死んでしまいそうだったからだ。

 

さようなら

 

その言葉が、どうしても納得できなかった。

 

カノンノはそのまま、エドの寝ていた布団に潜りこみ、

 

目を閉じて、雫が布団に落ちながら

 

眠りに、つこうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ライマ国 騎士団前〜

 

大きな城。ガルバンゾよりは劣るが

 

大きな城の入り口の前に、エドとアルは立っていた。

 

『……兄さん。ここは…どこなの?』

 

『騎士団の前だ』

 

エドがあっさりとそう言うと、アルは頭を掻いた。

 

『……兄さんが…騎士になるの?………なんだか似合わないなぁ…』

 

『うるせぇ!!!』

 

エドがアルに怒鳴ると、目の前の見張り騎士がエドの存在に気付いた。

 

『君たちは誰だ?』

 

見張り騎士がこちらに近づくと、エドは体性を整え、見張り騎士に挨拶をした。

 

『ああ。ライマ国騎士団に入隊希望のエドワード・エルリックと言う……隣が、アルフォンス・エルリック…と言えば、通じるかな?』

 

エドがそう紹介すると、見張り騎士は首を傾げた

 

『……ええと、事前に報告をした者かな?』

 

どうやら、この騎士の耳には届いていないようだ。

 

『……えーと、ルーク…か、ジェイド…とかから聞いてない?アドリビドムに錬金術師が居るとか、なんとか』

 

『錬金術師……ええと、悪いんだけど…入隊希望の方は、まず年齢手続きから、試験を受けなければいけないんだ。それに君は、年齢手続きが通らない年齢じゃないのかい?』

 

騎士の言葉に、エドはカチンと来た。

 

『あっ』とアルは言葉を出した。

 

『だぁ――――――っ!!!何が年齢手続きが通らないだ!!てめぇ俺の事を何歳だと思ってんだぁ―――――!!!!!』

 

『!?』

 

見張り騎士がエドの様子を見て、警戒するように身構えると、アルがエドに耳打ちした。

 

『ほ…ほら兄さん!大声出すから、騎士団の人、警戒したじゃない!』

 

『うるせぇ!特に気にしている事を堂々と言いやがってあの野郎…!』

 

兄弟が耳打ちをしている時に、大きな扉の横の小さいな扉から一人の男が出てきた。

 

『全くなんですか騒がしい。ねずみが騒いでいるのなら、始末しなさい。』

 

ジェイドが、皮肉たっぷりに言葉を目の前のエドが居るにも関わらず言った事で、

 

特に”ねずみ”という言葉で、エドは更に頭に血管が浮き上がった。

 

だが、そんなエドを見たジェイドは、とりあえずエドを無視してアルの方を見た。

 

『おやおやぁ?これはこれはアルフォンス君。今日はお一人ですか?』

 

『え?』

 

『いやぁ、よくこんな遠い所まで来てくれましたね。さぁさぁ、お話だけでも聞いていってください。』

 

ジェイドはそう言って、アルを連れて城の中に招待した。

 

ジェイドが入り、アルも従うように城の中に入ろうとして、

 

そのまま扉が閉まろうとした瞬間、エドは叫んだ

 

『俺はぁああああああ!?』

 

そう叫んだ後、ジェイドは立ち止まり、そして声が鳴った方へと目を移した。

 

『おやおやぁ?居たんですか?』

 

『てめぇ……わざと無視してやがったな……?』

 

エドが怒りの矛先をジェイドに向けると、ジェイドは笑顔で返答した。

 

『いやぁ、すみませんねぇ。貴方は特に虫のように小さい為、目に映りませんでした。見事なくらいに』

 

ジェイドがそう返答すると、エドの表情は更に怒りに加工される。

 

血管が切れる音が、エドの中で響くように鳴っている。

 

『え…?ジェイド大佐。それじゃぁこの方は……。』

 

見張りの騎士が、ジェイドに問いかけるように言葉を口に出した。

 

『ええ。この小さい方が……もう一度言いますね。この小さい方が錬金術師のお兄さんのエドワード・エルリックで、この鎧の方が、弟さんのアルフォンス・エルリックさんです。』

 

『おい!!なんで”小さい方が”って二回言ったんだ!!!』

 

エドが不機嫌にそう叫ぶと、見張りの騎士は慌ててエドに頭を下げた。

 

『これは……無礼な態度を貴方に示した事を、お詫びいたします!』

 

見張りの騎士の言葉に、エドは少しだけ落ち着き、返答した。

 

『いや……自己紹介不足だった俺が悪いんだ。そんなに悲感的になる事無えよ。』

 

エドがそう言うと、ジェイドも笑顔で見張りの騎士に言葉をかけた。

 

『ええ。鋼の錬金術師さんもそう言っている事ですし、気にせず真っ直ぐ前を見て、気にせず仕事をしなさい。』

 

『お前は……少しは謝れぇ!!』

 

エドは、文句を思い切りジェイドに向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ライマ国 騎士団城〜

 

『ところで、今日はどのような用件でこのライマ国騎士団に?』

 

ジェイドが長い廊下を歩きながらそう質問すると、アルは少しだけ言い辛そうだった。

 

エドがアルの様子を見て、堂々と答えた。

 

『アドリビドムに解雇宣言されたんだよ。んで、新しい就職先を探してるわけ』

 

『はっはっは。やはりそんな事だろうと思っていましたよ。』

 

ジェイドが堂々とそう答えたことで、エドは改めて自覚した。

 

俺は、こいつが、大嫌いだ。

 

『ところで……。入隊試験という物があるのですよね?僕達は……何をすれば良いのですか?』

 

アルがそう質問をすると、ジェイドは率直に答えた。

 

『なぁに、なんて事ありませんよ』

 

そう言って、突き当たりにたどり着き、扉を開けた。

 

そこは、とても広い空間で、人が座るであろう傍聴席に囲まれていた。

 

だが、そこには今、誰も座っていない。

 

だが、ここはまるで裁判所だった。

 

『ここは………』

 

だが、ここはどこか見たことがある。

 

そうだ、国家錬金術師試験の実技試験会場

 

その部屋に、とても似ている。

 

『ここで、貴方方の特技を生かせ、認められれば入隊完了です。』

 

ジェイドがそう言った瞬間、ジェイドは傍聴席の方へと向かった。

 

『……審査員は、お前一人だけで良いのか?』

 

『私には、新入隊員を歓迎する権利がありますからね。大いなる権力と言う物は、本当に使いやすい。』

 

ジェイドがそう言うと、傍聴席の上でエドの方に目を向けた。

 

『さぁ、私にその特技を見せて下さい。』

 

傍聴席へと座ったジェイドは、見下すようにエド達を見下ろす。

 

それが気に食わなかったエドは、良い目になっていた。

 

『ほーう……』

 

悪い目だ。アルはそう思った。

 

『じゃぁ……遠慮なく見せてやるぜぇ!!!!』

 

エドはそう言って、手を合わせて錬金術を発動させた。

 

『ほう』

 

その錬金術は、キバと角の生えた魔物のような物が出来上がった。

 

錬金術の物質変化が常に作動していることにより、まるで生きているように見える。

 

『ふん!!』

 

更に、その魔物のような物質はある方向へと襲い掛かった。

 

『兄さん!?』

 

『鬱憤晴らせてもらうぜ!!眼鏡野郎!!!』

 

その魔物の物質は、ジェイドに襲いかかろうとしていたのだ。

 

『なる程、奇襲をかけるのですか。』

 

ジェイドはそう言って、槍を取り出した。

 

『サンダーブレード』

 

そう呟いた瞬間、槍が雷の帯びた剣に変わり、

 

そしてジェイドは、その雷の剣で物質を簡単に叩き割った。

 

『!?』

 

ジェイドの攻撃に、エドは驚きを隠せない顔をしていた。

 

雷を帯びた剣が、普通の槍に戻った瞬間、ジェイドはエドの方に目を向けた。

 

『何も驚く事はありませんよ。貴方の錬金術に比べたら、なんてこと無い魔術ですから。』

 

と言いつつも、粉砕した物質を見ては、ジェイドは ほくそ笑んだ。

 

エドは、心の奥から更に怒りの感情が湧いた。

 

『ふむ……物質から擬似生命の演技攻撃を行い…そして私に裏を掻き、奇襲をかける……』

 

しばらく真顔で物質を眺めながら、ジェイドは呟いた。

 

そして何秒か経った後、ジェイドは笑顔で答えを出した。

 

『合格です。今日から貴方は、正式にライマ国騎士団です。』

 

『…………けっ!』

 

エドは、素直に喜ばずに舌打ちをした。

 

いや、素直じゃ無いでは無いのかもしれない。とアルは考えた。

 

『では、次に貴方です。』

 

『え?僕!?』

 

『ええ。お兄さんが行ったのですから、次に貴方がやるのは妥当でしょう。では、行ってください。』

 

ジェイドがそう言うと、アルは少しだけ戸惑った。

 

こういう時、何をすれば良いのか分からなくて、モジモジしてしまうのだ。

 

とりあえず、攻撃力の強い武器を作り出そう。

 

そう思って、アルは手を叩き、錬金術で大砲を作り出した。

 

『合格』

 

ジェイドがあっさりとそう言うと、アルは『え?』とまた言葉を発した。

 

『では二人兄弟は、今日から正式にライマ国の騎士団です。どうぞ、私達ライマ国の為に、誠意を尽くしてください。』

 

ジェイドは、面白そうな笑顔で兄弟二人にそう笑顔を見せた。

 

エドはその笑顔が、嫌な予感をさせてたまらなかった。

 

『………で?』

 

『ん?』

 

『これから……どうしろっての?』

 

エドが率直に疑問をぶつけると、ジェイドは考える仕草をした。

 

『そうですねぇ……。』

 

アルはそう、苦笑いをしていると、上から見下すように言葉を吐いた。

 

『では、貴方達はまだ生まれたばかりのピカピカな新入隊員です。ですので、今日は皆さんに挨拶に回ってください。』

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ライマ国 騎士団〜

 

制服は自由

 

その権利を貰ったエドは、心底安心した息を吐いた。

 

堅苦しい軍服など、これ以上着たくも無い。

 

どうやら、自分達が受けたのは特別隊員の難解試験らしい。

 

毎年、かなりの応募が出てきて、厳正なる選抜で、1000人に3人しか受からない……とからしい。

 

………エドは、とてもそのようには思えなかったが、

 

その事実で、妙な達成感はあった。

 

これから、ライマ国の騎士団だ

 

心を入れ替えて、これから先が本番に目を向けなくてはならない。

 

『アル』

 

『……うん』

 

心に覚悟を決めて、エドとアルは前を向いた。

 

そして、目の前の扉に手をかけて、押した。

 

扉に光が漏れる、徐々に扉が開いていくのだ。

 

開いた瞬間、エドとアルは新しい場所へと完全に越してきた。事になった。

 

『ん?』

 

だが、目の前に映ったのは見た事のある顔ばかりだった。

 

『…………おーおー!新しい騎士が入るって聞いてみれば……エドじゃねえか!』

 

そこで、赤毛の少年がエドに歩み寄ってくる。

 

『なんだ?お前ギルドに入ってたって聞いてたのに、どうしてこの国の騎士団に』

 

『クビにされたんだよ。散々こきつかれた挙句な』

 

エドが皮肉そうにそう言うと、しばらく黙りが続いた。

 

『……おー…そうか。』

 

そう呟いた後、心を切り替えたかのように口調を変えてエドとアルに接した。

 

『まぁとりあえず、良く俺達の所に来てくれたな。エドワード!』

 

そう言って、エドの肩に腕を回し、押すように連れて回った。

 

『うわぁっ!ちょっ……てめっ!』

 

『まぁとりあえず、簡単にこの騎士団を紹介してやるよ』

 

やけに親身的だ……。前に出会ったときから気に入られていたのだろうか。

 

そう考えた矢先、ルークはある取引をした。

 

『その代わり、俺が欲しいと思ったプラモとか、剣とか、服とかはその錬金術でなんでも出してくれよな!!』

 

ものすごく大きな取り分だった。

 

その取り分を考えたら、エドが今親身にされている分など小さなものだ

 

『んなっ……てめ…』

 

『引き受けようよ、兄さん』

 

アルがそう言うと、エドは小声で『ああん!?』と言った。

 

『……別に、そのくらいどうって事無いんでしょ?物質さえ用意してくれれば、面倒くさくてもすれば良いじゃない。』

 

それに、これは騎士団に友好や親交、団結力をつけるにも有意義だと考えたからだ。

 

それを少しだけ察したエドは、しばし考え、そしてルークに目を移した。

 

その時の表情は、しょうがないというような顔だった。

 

『……分かった。しょうがねぇ』

 

『おお!随分と気前良いな!小さい割りに!』

 

『…………ピクリ』

 

エドの耳が動く。

 

その様子に、アルは慌てる表情をする。

 

何も知らないルークは、その様子のエドを見て、疑問の表情をした。

 

『調子に乗んなコラァアアアアアア!!!!』

 

『はぁ!?な……なんだよおい!!』

 

『ルークさん!あの!!』

 

アルが暴れているエドを取り押さえながら、ルークに口出しした。

 

『あ……そうか。』

 

前に、そう言う事があったと思い出した。

 

洞窟の中、サレと闘ったとき、チビと言われ、一緒に怒りを露にしていた。

 

思えば、身長の事は、結構コンプレックスを持っている仲間である。エドの方が敏感だが

 

『わ……悪かったよ。俺も人の事言えねぇし……。一発くらいなら、殴っても良いぜ』

 

その大人びた返事に、エドはようやく怒りが収まったのか、落ち着いた表情になった。

 

『……………』

 

そして、肘でアルを押しのけるように力を入れて、『どけ』という合図をした。

 

『わわっ』

 

その唐突さに、アルも驚いたのか、勢いのまま尻餅をついた。

 

それを見たルークは、一瞬笑い噴出していたが、アルはあまり気にしなかった。

 

だがエドは気にした。もしかしたらこいつは物凄く嫌な奴かもしれないと。

 

『……まぁいいや。とりあえず俺達にこの騎士団を紹介してくれ。』

 

エドがそう言うと、再びルークは調子を取り戻し、

 

明るい顔で言葉を発した。

 

『おう!その代わり、俺の欲しい物、ガンガン出してくれよな!』

 

ガキ大将。その言葉が似合っていた。とエドとアルは感じた。

 

 

 

 

 

 

 

『あらルーク。と……そいつは…』

 

『…………』

 

そこには、一人の男性と見覚えのある女性が立っていた。

 

……ああそうか。そう言えば自己紹介で言っていた。

 

ライマ国の騎士団をしていると聞いていたが、まさか特別級の方とは。

 

『ああ。新しく入ったエドワード・エルリックってのと、弟のアルフォンス・エルリックってのだ。』

 

兎にも角にも、その女性の隣とは初対面だった。

 

だから、どう考えるにしろ、初対面を演じるほうが利口だろう。

 

『私の名前はルーティ・カトレット。んでこいつが……』

 

『待てよルーティ!自己紹介ぐらい、俺がやるって!』

 

長髪の金髪のその男は、ルーティの紹介を断ち切るように前に出た。

 

その態度を受けたルーティは、少し嫌な顔をしていた。

 

『俺の名前はスタン・エルロン!前は羊飼いをしていたけど、国外の襲撃を受けてから、この国を守る為に騎士団に入ったんだ!』

 

『あ…そ…そうなんですか…。』

 

その率直に聞いていない事を言う事により、恐らくこいつは天然なのだろうとエドは考えた。

 

そのせいで、アルも反応に困っていた。

 

『こいつちょっとウザイから気をつけた方が良いぜ』

 

ルークが冷たく言い放つと、スタンは少し不機嫌な顔をして、ルークを問い詰めた

 

『おい!人にそんな事を言う事無いだろ。酷いぞ!』

 

『あーっ……はいはいはい!分ーった!分ーったよ!!!』

 

子供の喧嘩、悪ガキと委員長が喧嘩しているような風景だった。

 

その風景を見て、ルーティは溜息をつきながら

 

『……こいつらはいつもこうなのよ。悪いわね…』

 

『…………』

 

ルーティの返事を聞いて、妙に納得しながらも無言となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えーと……。こいつはティア、そしてガイ…。』

 

適当な紹介をされた事に少し立腹し、ティアがルークを睨みつけた。

 

『……ティアは、前に出会った事あるし、紹介も何も良いだろ。』

 

『良くないわ。新しく入った者には、新しく入った者なりの挨拶と敬意を教えるのが普通よ。自己紹介には、そのような事が含まれているわ』

 

その長い話に、ルークを欠伸をした。

 

ルークの態度が気に入らなかったティアは、更に不機嫌な表情を浮かべた。

 

『あ、悪い悪い』

 

そう言いながら、次にガイの方に目を向けた。

 

だが、ガイは紹介される前に口を開いた。

 

『……ルーク。もう少し丁寧に紹介したらどうだい?』

 

『あ?じゃぁガイが自分でやりゃぁ良いじゃん』

 

ルークの言葉に、ガイは苦笑いするしかなかった。

 

『は……ははは』

 

アルも、空気を読むように苦笑いをした。

 

エドは、何故アルがわざとらしい笑いの声を出しているのか理解できなかった。

 

『…まぁ、良いか。俺の名前はガイ。ガイ・セシルって名前だ。』

 

『エドワード・エルリック……。錬金術師だ。』

 

『僕は弟のアルフォンス・エルリックです。僕も錬金術師です。』

 

『え?弟?いや……鎧の君の方が兄さんじゃないのか?』

 

エドの耳が再びピクリと動く。

 

『だって、どう見ても身長が……』

 

『わー!わー!!』

 

アルが、大声を叫んでエドの耳に届かないようにしていた。

 

更にルークが、ガイと肩を組んで壁の隅まで移動し、小声で討論をした。

 

『てめぇガイ!何言おうとしてんだよ!身長とかの話題は、あいつの前で言うな!』

 

『え?いやだって、どう見ても身長が……』

 

『良いから言うなよ……絶対にナ』

 

ルークが迫力のある声でそう言うと、ガイはしばし黙り込み。

 

『………はい』

 

と返事をした。

 

『前に出会ったと思うけれど、改めて自己紹介するわね。私の名前はティア・グランツ。ライマ国騎士団主席総長の妹よ。』

 

主席総長という言葉を聴いて、エドは目を丸くした。

 

『へぇ……そいつは騎士団の中で一番偉い人なのかい?』

 

『勿論。』

 

てっきり、一番上はあの鬼畜眼鏡野郎と思っていたエドは、一番上を知って少しだけ得した気分になった。

 

一番上があいつで無かった以上、心が少しだけ晴れやかになったついでに、突破口が見つかったような気分になったのだ。

 

『ところで………』

 

ティアが、改めるようにアルに目を向けた

 

『?』

 

『その………あの洞窟の中で見た……』

 

ティアの様子は、少しモジモジして落ち着きが無い様子だった。

 

『……あのミアキスは、今どこに…?』

 

『ああ!心配しないで下さい。今はアドリビドムでエステルさんに可愛がられて飼われてます。』

 

アルが落ち着きのある返事でそう言うと、ティアは少し落ち込んだ表情をして、しばし俯き、黙り込んだ。

 

『そ……そう。そうなの…。分かったわ……ありがとう。』

 

そしてティアは全員に背を向け、聞こえないように溜息を吐いた。

 

『? どうしたんだティア。』

 

ルークが、疑問そうにティアの去って行った方を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アニスー!特別騎士団に新しく仲間が入ったぞー!!』

 

ルークが、向こうで本らしき物を呼んでいるアニスに向かって、ルークは叫んだ。

 

『はーい!ルーク様ー!……へぇこの人が私の後輩ですか。』

 

アニスは、マジマジとエドを嘗め回すように目を向けていた。

 

『な……なんだよ』

 

『ふーん……。なる程、いかにも田舎者らしい人ですね』

 

田舎者

 

チビよりはマシなものの、そう言われるにはなんだか苛立ちを感じた。

 

『……………』

 

次に、アルの方を見つめ、観察していた。

 

『あ……あの……』

 

『その鎧は高い物なんですか?』

 

『え?』

 

いきなり言われた鎧の事に、アルは少し戸惑った。

 

『だからぁ、その鎧は高い物を着てるんですか。と聞いてるんです。』

 

『は……あはは……。……まぁまぁ……かな……』

 

アルがそう言うと、ふぅんと興味なさそうに言った。

 

『ふーん……まぁまぁですか。』

 

そう言うと、次にまたエドに指を差して、笑顔で答えた。

 

『まぁ……これからは二人はアニスの”後輩”です。ちゃんと”後輩”は”先輩”の言う事を聞くんですよ?』

 

『はぁ!?何勝手に決めて……』

 

『何か文句でもおありですか?』

 

アニスは、にっこりとそう答えた。

 

『大有りだ!!!!』

 

だが、エドは堂々と答えた。

 

『ま…まぁまぁ兄さん、相手は小さな女の子なんだし……』

 

『……まぁ気にするなよエド。アニスがそう言ってるけど、別に友達同士やってけば良いんだよ。』

 

ルークのフォローを受け、エドは少しだけ落ち着いた。

 

『それに、お前の錬金術は他の誰も持ってないんだぜ。誰からも頼りにされるんだから、気ぃ引き締めろよ!』

 

錬”金”術

 

その言葉を聴いて、アニスは耳を動かした。

 

『………錬金術?』

 

『ん?……あ、自己紹介を忘れてね。僕の名前はアルフォンス・エルリック。そして僕の隣が兄さんのエドワード・エルリック。僕達は錬金術師なんだ』

 

アルの言った”兄さん”という言葉を聞いて、一瞬疑問を感じた物の、錬金術という言葉で一瞬でアニスの中で掻き消された。

 

『錬金術って何ですか?金……とかを作ることが出来るんですか?』

 

『ええと……基本的にはそんな物。等価な物質で等価な異質の物質を作ることが出来る……みたいな。』

 

アニスの目が、徐々に変わってきていた。

 

『………と言う事はなんですか?その錬金術では、金を作る事が可能なのですか?』

 

『?……まぁ、前に石炭を金に変えた事はあったけど……。』

 

エドの言葉を聴いた瞬間、アニスの目が光った。

 

何か、良いかもが、金づるが、金のなる木が見つかったかのような目をしていた。

 

その輝いた目で、アニスは二人を見つめていた。

 

『エドワード様とアルフォンス様ですねぇ!!分かりましたぁ!!私の名前はアニス・タトリンっていいまぁす!アニスちゃんって呼んでね♪』

 

『は?』

 

その、いきなりの声を可愛く加工したような声を聞いて、エドとアルは混乱した。

 

『いやー!それにしても今回の新入隊員は凄腕みたいな人ですー!アニスちゃんの様なか弱い女の子なんかが先輩なんてぇ、言われたら困っちゃうくらいのぉ!』

 

『………お前さっき、俺達の事、田舎者って言ってたよな……?』

 

『えー!?何のことですかー?アニスちゃん、そんな下品な事言わないですー!増してお二人のような威圧感ある男性に、そんな事易々言えるはずありませんー!』

 

明らかな猫かぶりように、エドとアルはついていけなくなっていた。

 

『滅茶苦茶だよ……この子……』

 

アルがそう呟いた後、エドは心の中でこう誓った。

 

≪こいつとは、あまり関わらないでおこう。≫と

 

そしてエドはアニスに背を向け、歩き出そうとした。

 

『あああ!ちょっと待ってください!肩をお揉み致しましょうか?なんなら私、側近になりましょうかー?』

 

『おいルーク!こいつウゼェ!!なんとかしろ!!』

 

エドがルークにそう抗議すると、

 

『え?ああ、悪い。これがいつも通りだ。ただちょっと……可愛子ぶってるけどな』

 

ルークのその言葉に、エドはある事を察知した。

 

こいつ………間違いなく腹が黒い。

 

これからは、こいつに警戒して行動しなければ、飲まれるだろう。そう考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おーい!新しく入った騎士団紹介するぞー!』

 

ルークがぶっきらぼうに部屋の奥に居る王女とも見える女性を呼びだした。

 

始めてみたときは、女王などエステル以外見たことが無かった為、少し緊張していた。

 

『あら、貴方がアルフォンス君と……オマメ君?』

 

お豆という言葉を聴いた瞬間、エドはピクリとした。

 

『おい……このアマ』

 

『お前…どこでオマメという名前を聴いたんだ』

 

ルークがナタリアにそう問うと、ナタリアは首を傾げた。

 

『? ジェイドがオマメさんと弟のアルフォンスさんはこれから目をつけるべき存在だと……口にしたり、写真を見たりしたものですから。』

 

『誰がお豆………ぁぁあああんんのクソ眼鏡ェええええええええええええああああ!!!!』

 

エドの叫びに、ナタリアは心底驚いた表情をしていた。

 

『え?何か……どうなされたのですか?』

 

ナタリアの表情に、アルは溜息を吐いて、事情を話した。

 

『実は……』

 

 

 

 

 

『まぁ……それは…その……大変ご無礼を致しまして、申し訳ございません…。』

 

『いや……良いよ。出来ればアンタの権限で大佐を一発ぶん殴れる権利をくれ』

 

『それは出来ませんが、貴方の事は、前々から聞いております故、期待をしておりますので、一目置いておくことにしましょう。』

 

ナタリアは、笑顔でエドと目を合わせ、自己紹介をした。

 

『自己紹介がまだでしたね。私の名前はナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディア王女と申します。以後、お見知りおきを。』

 

『……………』

 

エドとアルは、呆然とした。

 

そのあまりに長い名前を、とてもじゃないが、覚えられる気がしなかったからだ。

 

『……本名では長すぎるので、気楽に”ナタリア”と言ってもらえれば、よろしいですよ。』

 

『あ………じゃぁナタリアさん』

 

『ナタリア……王女…』

 

少しだけ気をつかって、ナタリアの名前を呼んだ。

 

『……じゃぁ次、俺だな。俺の名前はエドワード・エルリック。……決して弟の方がでかいとか、年齢の割に小さいとか、んな事は言わないように!!』

 

『え?身長は……そこまで悪いのですか?失礼ですが年齢は……』

 

『………お前マジで天然で失礼だな…』

 

エドがナタリアを睨みつけると、次に慌てて進むようにアルが自己紹介した。

 

『ぼ……僕の名前はアルフォンス・エルリックです!弟の!……それで、兄と同じく錬金術師をやっています!』

 

ナタリアは、アルの言った錬金術師という言葉に興味を持った。

 

『錬金術師……?』

 

ナタリアがそう言葉を繰り返すと、エドの変わりにルークが答えた。

 

『ああ。なんかそこ等辺の床を盛り上がらせたり、岩を人形の形に変えたり、フライパンにしたり出来るらしいぜ』

 

ルークがそう言うと、ナタリアは驚いたような表情をしていた。

 

『まぁ……とても便利な能力なのですね……。』

 

出来れば、アニスのように悪用しようとしなければ良いのだが。

 

エドは心の奥でそう願った。

 

『ええと……その能力で、物を直したり、一から作ったり……とかは出来るかしら?』

 

『物を直すことは出来る。だけど、一から作るのは無理だ。十分の物質が無えと…な。』

 

『では、物質があれば何でも作る事が出来るのね。』

 

ナタリアは、輝いた目でそう言った。

 

『そ……そうだけど。』

 

『まぁなんて素晴らしい術なのでしょう!一刻も早く、その錬金術の教育を義務化する努力をしないと……!』

 

『ちょ……ちょっと待てぇ!!!』

 

エドは、ナタリアの暴走に大声で立ち入った。

 

『お前……それ何をしようとしているか分かってんのか?!』

 

『? 何が駄目なのでしょうか?』

 

『大体……俺は、事が過ぎればここを去る。いわゆる短期契約みたいな者なんだよ。錬金術を教える暇なんか無い。やるとしても、数年はかかるだろ。それ』

 

エドがそう言うと、ナタリアは考えた。

 

『それは……困ります……ね。…………』

 

そして、一つの質問をエドにぶつけた。

 

『…あの……。その錬金術、私に教えて頂けないでしょうか?』

 

『は?』

 

『ライマ国復興の為……。また、治安強化、豊かな国を作るには、恐らく貴方の錬金術が必要なのです。私がマスターすれば、教えるのも私一人で良いのです。ですので、誠に勝手ながら、私、ナタリア王女の師匠になってくれませんでしょうか。』

 

ナタリアのその願いに、エドとアルは呆然としていた。

 

ルークは、少しだけ面白そうな表情をしていた。

 

エドは、アルに小声で相談をした。

 

『……なぁ、この世界の王女ってのは、全員錬金術を習いたがる物なのか?』

 

『さぁ………多分……。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜医務室前〜

 

『おい、本当に教えなくて良いのかよ。あんなに頼んでたのによ。』

 

『最終的にナタリア王女、すねちゃったよね。』

 

二人に何かを言われようが、エドはもう誰にも錬金術を教えようとしなかった。

 

『………うるせぇな。もう人に錬金術は教えねえんだよ、絶対にな。』

 

エドは、もう既に心の中で決めていた。

 

エステルに教えたばっかりに、禁忌を犯して顔の右半分を失った。

 

ルカが興味本位で錬金術を習ったばかりに、死んでしまった。

 

ジーニアスが錬金術の才能を持っていたばっかりに、記憶を全て消された。

 

………ほとんど、ろくな目に会っていなかったからだ。

 

これ以上、錬金術の犠牲者を出したくない。

 

『………………』

 

アルも、心の中ではそう考えていた。

 

『……まぁ良いか。習い事が増えるのは、絶対嫌だしな。』

 

そう言ってルークは次に医務室の中を開けた。

 

中に居た緑髪の女性が、こちらに気付いた。

 

『あら、ルーク様。……そちらの方は新しい騎士の方?』

 

『ここが医務室だ。んで、こちらは看護士と薬剤師の二つの免許を持ってる、フィリアって言うんだ。』

 

ルークの言葉を聞いて、フィリアの情報は知った。

 

だが、それ以上に気になる事があった。

 

『ルーク…様?』

 

エドが少し疑問を感じていると、フィリアは答えた。

 

『ええ。ルーク様はライマ国の王位継承者となる者……なのですよ。』

 

フィリアの言葉を聞いた時、一番驚いていたのはアルだった。

 

『え………?…………ええぇぇぇえええええええ!?』

 

『なんだよ、そんなに珍しい事かよ!』

 

ルークは、少しだけ不愉快に感じたようだった。

 

『お……おま……お前……。ま……マジで…?』

 

『マジもマジ。大マジだ。…なのに俺の事、まだ舐めてる野郎も居るけどな。』

 

ルークは不機嫌にそう言った。

 

『へ……へぇー。……そうなんだ……。』

 

『ところでそちらの方は?』

 

フィリアが首を傾げて言うと、ルークは普通の流れのように答える。

 

『ん?ああ。新しく入ったエドワードと、アルフォンスだ。このギルド初の違う職業の奴だから、手厚くやれよ』

 

『ええ。それは勿論…。』

 

フィリアは、笑顔でルークにそう言った。

 

恐らく、フィリアはルークをまだ子供思っているに違いない。そう言う笑顔だった。

 

だが、ルークは気付いていなかった。

 

『………………』

 

まだ、こいつも俺と同じガキに見える……とかか?

 

と、エドはそう思った。

 

そして、自分の事をガキと考えた事に、後で悶えるように自己嫌悪した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜調理室〜

 

『うわ……すっげぇ人……』

 

そこは、アドリビドムの調理室で、ロックスが一人作っているような所ではなく、

 

本格的な調理場に、本格的な人数に、そして本格的な材料が揃っていた。

 

『すごい……本格的だね…。』

 

『まぁな。特に晩飯は気合が入っていて美味いぜ!エドも楽しみだろ?』

 

『ん……あ……まぁ。』

 

その、あまりの本格的な厨房に、エドは少し絶句していた。

 

『あら?ルーク様。その人は新しく入った人?』

 

そこに、一人の少女がオタマとフライパンを持って近寄ってきた。

 

なんだか、どっかで見た奴の顔と似ているような顔だった。

 

『ああ。新しく入ったエドワードとその弟のアルフォンスってんだ。言っても分からないだろうが、錬金術師っていう職業だぜ。』

 

ルークの説明に、少女は良く分からない顔をしている。

 

『錬金術……まぁ良いや。私の名前はリリス・エルロン。特別騎士団のスタン・エルロンの妹で、調理場のリーダーやってます!』

 

 

『あ……ああ。よろしくお願い致します。』

 

アルは、確かにスタンと少し似ている気がする……と思いながら頭を下げた。

 

『話は変わるけど、錬金術って何?』

 

ほとんど変わってない気がする

 

『………岩でフライパン作ったり、お湯沸かしたり。手を叩いて出来る職業だ。』

 

エドがそう、面倒臭そうに話し終えると、ルークが一言突っ込んだ。

 

『お前、俺の言葉少しパクッただろ』

 

『え!?それ……便利な能力ね!騎士団じゃなくて、調理士になれば良かったんじゃないの?』

 

リリスが自信満々にそう言うと、アルは少しだけ溜息混じりで答えた。

 

『いえ……。錬金術は料理の方だけではなく、戦闘、修理、構築、調合にもなり得る物なので、調理専門というのは……。』

 

『……ふーん。ちょっと残念。』

 

リリスは、恐らく家系的にだけに錬金術を見ていたに違いない。

 

間違いない、目がそうだったからだ。

 

『ところで、弟の方……だっけ?』

 

リリスは、目の前の大きな鎧を見て、思わず一瞬、どちらが兄か分からなくなった。

 

『厨房の中で、その鎧は蒸し暑くない?良かったら脱いでも良いんだよ?』

 

『あ……遠慮します!!』

 

アルの物凄い迫力の遠慮は、リリスを少し疑問の思わせた。

 

『ふぅん……まぁとりあえず、今はちょっと料理で忙しいから、また今度、錬金術師っていう職業、教えてね』

 

『あ、そうそう。今日の晩飯何?』

 

ルークがさりげなく、リリスに今日の献立を聞いた。

 

『ん?今日はお兄ちゃんの大好きな、ジンギスカン・カレーよ?』

 

『げぇえええ!?またジンギスカンかよ!いい加減にしろ!!』

 

『嫌なら食べなければ良いじゃない。さぁーて!お兄ちゃんの笑顔の為に!きりきり働きましょうかー!!』

 

リリスはそう言って、厨房の方へと戻って行った。

 

『………おい。アイツ……』

 

『……あーあ。今日もジンギスカンかよ。あれ臭くて俺、大嫌いなんだよ……ったく!!あのクソブラコン調理師が!!』

 

ピクリと、リリスの耳が動いた。

 

『……誰が、なんだって?』

 

リリスの恐ろしい形相が、ルークに向けられる。

 

『あ、いや……。なんでも……』

 

その恐ろしい形相には、ルークも逆らえないのだろうか。

 

≪やっぱりか……≫

 

エドは、またこの騎士団で一つ習った。

 

調理師のリーダーが、ブラコンだった。という事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜廊下〜

 

『あー、後、気をつけた方が良い奴も一応紹介しとく。』

 

『?』

 

ルークが、急に態度を変え、口調も不愉快な物に向けるような口をしていた。

 

一体、何をそんなに不機嫌なのだろうか。エドはそう考えると、ルークはある方向に指を差した。

 

ルークと同じ、赤い髪の少年だった。

 

『あれ、俺の双子の弟……らしいんだけど、正直、性格悪い。陰険、後冷たい……。』

 

ルークは、愚痴るように口を動かして言った。

 

『グチグチ悪口言う、一人で突っかかってる、一人で格好つけてる、自分勝手……。とにかく最低な野郎だ。絶対あいつには関わらない方が良いぜ』

 

『全部聞こえてるぞ』

 

ルークの後ろには、先ほどの遠くに居た赤毛の少年が立っていた。

 

『うぉおおお!?』

 

ルークは驚き、急いで赤毛の少年から離れた。

 

『て……てめぇ!!脅かすんじゃねえよ!!弟のくせに!!』

 

弟という言葉を聴いて、赤毛の少年は表情を変えなかったが、眉間に皺が寄った。

 

『………ふん。先ほどの悪口は、ほとんどお前にも当てはまるようだから、自分に言っているように聞こえたが、自虐していたのか?』

 

『んだとコラ!!』

 

すると、ルークを押しのけ、今度はエドとアルの方に目を向ける。

 

『………お前らが、新しく入った特別騎士か』

 

『? ……はい。そうですけど』

 

アルがそう言った後、ルークの弟と言う人はエドとアルの全身を見て、ふんと鼻を鳴らし、腕を組んだ。

 

『こんな可愛い兄と、頼りない大きな見掛け倒しが特別騎士に入るとはな。ライマ国も落ちたか』

 

『!!』

 

『てめぇ!!可愛い兄ってなんだおい!!!!!!』

 

ルークの弟に向かって、一番の怒りを見せていたのはルークだった。

 

『おいアッシュ!!てめぇ……いくらなんでも新しい仲間をそんなボロクソに言うなんざ、だから信頼も無いんだよ!!』

 

『……ふん。認めようの無い、救いようが無い者同士が同情しているだけではないのか?』

 

『……!!』

 

アッシュは、更に話を続けた。

 

『前にジェイドから聞いた……。錬金術師…。というのだな。そんな便利な術を使う代償に、身体は緩いのだろうな。』

 

アッシュがそう言った後、エドの顔は怒りで笑顔になっていた。

 

震えた声で、怒りを込めてエドは言葉を発した。

 

『……だったら今、表出てタイマンしてみるか?弟さんよぉ?』

 

『そうだエド、やっちまえ!!』

 

エドが骨を鳴らしていると、アッシュは更に鼻で笑った。

 

『……相手をしている暇は無い。俺は忙しいんだ。これから三つの依頼があるのでな。暇が出来れば、相手をしてやろう。』

 

そう言って、アッシュはそこから去って行った。

 

戦闘体性に構えたエドを無視して、だ。

 

アッシュが居なくなった瞬間、ルークはエドの肩に手を置いた。

 

『……な、最低だろ?』

 

『………ああ。腸が煮えくり返りそうなくらいになぁ………!!!!』

 

『おい、今度あいつをぶちのめす計画立てないか?幸い、アッシュは錬金術の真影を目で見ていない。それにエドの身体能力なら……』

 

『おおおおう!!やってやんよ!!面白いくらいの劇的な敗北をぉお!!あいつに味あわせてやるよぉおおお!!!!』

 

二人が盛り上がっている所、アルはただ眺めていることしか出来なかった。

 

『ははは………』

 

ただ、そこでアルは少しだけアッシュについて考えていた。

 

エドとルークは、怒りに燃えていて分からなかったが、

 

アッシュの言動から感じたのは……悲しみと寂しさと……後、憎しみだった。

 

一体、彼に何があったのだろうか。アルの頭の中には、そのような事がよぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜エドとアルの部屋〜

 

ルークに紹介された部屋。

 

特別騎士となって、結構大きな部屋に二人で居る事となる。

 

『………随分と豪華だな。』

 

『そりゃぁそうだろ。なんたって特別騎士だぜ。王族の俺の半分くらいの大きさだ。豪華に決まってんだろ』

 

ルークにそう言われた後、次に壁に掛かっている剣の方に目を向けた。

 

『………なんだ?ありゃ』

 

『ああ。特別騎士の証明となる、聖剣だ。それさえつけてれば、どんな店でも飲食店でも、フリーパスに近い待遇が受けられるぜ。』

 

フリーパスと耳にして、アルは少し首を傾げて苦笑いした。

 

『それ……どう考えてもお店の人に迷惑かかるよね……』

 

『ええ!?すげぇ!そいつぁ良いや!』

 

だがエドは、フリーパスと聞いて興奮していた。

 

『そうだろ?んじゃぁ、今度依頼来た時は、ライマのどこかで食べに行こうぜ!!』

 

ルークが”ライマのどこか”と言う限り、恐らくライマ国の領内でしか使えないのだろう。

 

エドは、そう考えた。

 

『ああ。そうだな』

 

そう言って、エドは大きなソファでくつろいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が更けて、魔物の遠吠えが聞こえる頃

 

エドはでかいベッドに一人、ポツンと横になった。

 

『………………』

 

でかすぎて、全く落ち着かないのがなんだか嫌だった。

 

隣を見ると、アルには全く丁度良いサイズだったのだ。

 

自分の身体の小ささを感じ、嫌悪感を感じたエドは、そのままソファへと向かった。

 

『どうしたの?兄さん』

 

『……このベッド、寝にくい。』

 

そう言って、エドはソファの方へと歩み寄った。

 

ソファで横になると、あのベッドよりは落ち着く場所だった。

 

『あーあー……。そんな所で寝ると風邪ひくよ?』

 

『ひかねえよ。』

 

エドがそう言うと、アルは溜息を吐いてベッドの掛け布団をエドにかぶせた。

 

『あんがと』

 

エドは、当たり前かのようにそう、返事をした。

 

『……全く。』

 

そう言って、アルは窓の方へと歩み寄る。

 

アルは、当然ながら眠れないのだ。だから、ベッドで横になる必要も無い。

 

前のアドリビドムよりも広い部屋。その部屋の中で、アルは大きな窓の外を眺めていた。

 

『……ライマ国って、結構良い国だよね。』

 

『…………まぁな。』

 

次にアルは後ろを振り向き、広い部屋を見渡した。

 

そして、また窓の方へと目を向けた。

 

『………なんだか、アドリビドムの部屋が恋しいね。』

 

『アドリビドムの事は、今は言うな』

 

『でも、この部屋…僕達にしては大きすぎない?』

 

アルの言葉に、まるで俺達が小さいのかと言うような台詞だった。

 

だが、エドはアルの言葉に同意した。

 

『……まぁな。』

 

『兄さんも、ソファで寝るなんて事するって事は、アドリビドムのベッドに愛着が湧いたからじゃないの?』

 

『……それもそうかもな』

 

『じゃぁ、……もう一度、アドリビドムに行ってみない?』

 

『絶対に戻らねえ』

 

エドは寝る体性を整え、アルにもう一度返事を送った。

 

『良いか?俺達は解雇されたんだ。切り捨てられたんだ。だから、俺達を捨てたあのギルドの事なんか、今はもう口にするな。』

 

エドがそう言うと、アルは小さく『ごめん』と呟いた。

 

そして、もう一つ言葉を連ねた。

 

『……兄さんは、アドリビドムが嫌いになったの?』

 

『……………』

 

エドは何も答えなかった。アルはそれで十分だった。

 

嫌いになっていない。ただそれだけでも、救いがあった。

 

『嫌いじゃ……無いんだね。』

 

『…嫌いだったら、こんな騎士団に入ってねえよ』

 

エドのその言葉で、アルは納得するように頷いた。

 

やはり、ギルドの事を考えて、これからする事を考えてこの騎士団に入ったに違いない。

 

真実はどうなのか分からないけど、そう信じたい。そう信じるのが一番可能性があるからだ。

 

『………………』

 

眠ったのだろうか。部屋に沈黙が流れた。

 

いや、眠る為に自ら沈黙しようとしているのだろうか。

 

どちらでも良い。

 

どちらにせよ、今は落ち着けるはずがない。

 

今日の夜は、新しく住むことになった部屋の広さと

 

これから起こる、数々の事を考え、

 

眠れない、長い夜がエルリック兄弟に立ち塞がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

『待て、エンヴィー』

 

ゲーデは、身体の中に賢者の石を蓄え、更に強大な力を持っている。

 

そのゲーデを見て、エンヴィーは興味の無い顔をしていた。

 

その代わり、手に持っている人間に興味を持っているようだった。

 

『んー?』

 

『……どうしても、この世界から去るってのか』

 

『まぁね。もうこの世界には興味ないし。』

 

エンヴィーは、笑顔のままそう言っていた。

 

隣のグラトニーは、エンヴィーの持っている人間を物欲しそうに見ている。

 

『ひぃ…!』

 

人間が、その様子を見て怯えている。

 

『……ならば、何故俺も連れて行かない』

 

『用なしだからさ』

 

エンヴィーは、笑顔でそう言った。

 

『まぁ、最初は確かに賢者の石が欲しくてここに来たけどさ。でも、最初に来た”パスカ”には、石を作れるほどの生物は居なかった。し、アンタらの世界と繋がる”樹”もすぐ枯れた。』

 

エンヴィーは、人間の胸に思い切りトゲを刺した。

 

『ぐふぅ!!!』

 

ボタボタと、大量の血が落ちていく。

 

『んでもって、”生物”が沢山居るこの世界なら、賢者の石を作り放題さ。そう思った。けど違ったよ。』

 

殺した人間は、派手な音を立てて地面に落ちた。

 

すると、ピクピク動いていた人間は、次第に動かなくなった。

 

『もうとっくに、この世界には”巨大な石”があったんだ。俺達が手を出すまでも無くともね。』

 

人間は、事切れた

 

『もうすぐ、その巨大な石が生物もとめて動きだすはずさ。そうなれば、真っ先に賢者の石を持つ僕が襲われる。俺は、そんなものに巻き込まれたくない』

 

『ならば、最も賢者の石を蓄えた俺を、何故連れて行かない。』

 

人間の腹から、突き破るように樹が生えてきた。

 

『さっきも言っただろう?用なしなんだ』

 

人間の腹から生えてきた木は、徐々に人間の身体を滅茶苦茶な方向に捻じ曲げ、樹は急激のスピードで生長していく。

 

『この世界の賢者の石は、この世界でしか使えない。更に俺達の世界の賢者の石は、俺達の世界でしか使えない。賢者の石で生かされている俺達は、なんとかギリギリだけどな』

 

徐々に、樹の生長するスピードが、衰えてくる。

 

『つまりさ……分かるだろ?むしろ感謝して欲しいんだ。僕達のおかげで、君はその力で世界に打ち勝てるかもしれない。』

 

『…………』

 

『まぁそれに、おチビちゃんの面白い顔も見れたしね。他の人柱もこの世界に居るようだし。……面白い事になってきたね。』

 

そうして、エンヴィーはグラトニーを連れて、樹の中へと入って行った。

 

『もうこの樹は、転送機能は失くなるだろうけど、残しておけばこの世界の様子が見れる……らしいから。』

 

樹の中へと、完全に消えそうになった時、エンヴィーは最後の別れの挨拶を、笑顔で答えた。

 

『じゃあねー。バイバーイ。後はせいぜい頑張って、生き延びるが良いよ。楽しみにしてるからさ。』

 

そう言うと、完全に消えた。

 

すると、樹はもう二度と発光しなかった。

 

すぐに樹は衰え、緑色の葉は枯れ、汚い茶色になった。

 

バラバラと落ちる葉の中、枯れた樹しか残らなかった。

 

『………』

 

それを眺めながら、ゲーデは樹を見た。そして触った。

 

確かに、これは養分を与えない限り、もう元気にはならないだろう。

 

そして、樹の方に目を向けたまま、口を開いた。

 

『……エンヴィーを、そそのかしたのはお前か?』

 

ゲーデは、後ろに居たピンクの髪の女の子、”白いカノンノ”に言った。

 

すると、白いカノンノは当然な事を話すように、答えた。

 

『だって、あいつら要らないんだもん。』

 

それは、いつも通りの笑顔だった。

 

 

 

 

 

白いカノンノが視界から消えたとき、ゲーデは完全に一人ぼっちとなった。

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パソコンの環境の都合で、しばらく投稿できてませんでした。今回は二本立て。
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