鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第五十九話
[全1ページ]

〜バンエルティア号〜

 

『……はぁ〜あ……』

 

ハロルドがつまんなそうに溜息を吐いていると、横からリタが苛立ちの声を浴びせた。

 

『ちょっと、暇そうにしてないで。この腐った液体の入ったビーカー片付けてよ』

 

『頑張ってね〜。リタっち』

 

全く動こうとしない事と、自分の事を”リタッち”と呼んだハロルドにリタは殺意を抱いた。

 

『………アンタ、本っ当にやる気が無いのね』

 

『そうねぇ。叩いたら一番響く人が居なくなったら、そりゃつまんなくもなるわよ』

 

『……………うるさいわね』

 

エドの話題を持ち込まれた時、リタは不機嫌な表情になった。

 

『どっちみち、あのチビは、この世界に用が無くなったら居なくなるじゃない。』

 

『でも、もう少しだけここに居てくれたって罰は当たらないんじゃない?』

 

研究書の紙を紙飛行機にして、飛ばしながらハロルドは答えた。

 

『冗談じゃ無いわよ。あんな奴が居なくなってせいせいしてんだから』

 

少しだけ面白くなったハロルドは、紙飛行機を更に研究書で作った。

 

『でも、喧嘩しているときのアンタ、結構楽しそうだったわよ。』

 

『何が楽しそうよ!!アイツには、せいぜい迷惑してたのよ大体……ってちょっとアンタ、何してんのよ』

 

リタがハロルドの行動を指摘されたと同時に手を止めた

 

『え?』

 

『だから………一体何で、何の紙で、何をしているの?』

 

『飛ばしてるんだけど』

 

リタは大急ぎで部屋に散らばっている紙飛行機を拾い上げた。

 

『ぁあ――――!!!これ私の魔道具と星晶の研究書!!!』

 

『もう必要ないでしょ。星晶が人間の命だって知ってんだから』

 

ハロルドの言い分と態度に、リタの怒りは最頂点にまで達した。

 

『ふざ………っけんじゃなわよぉ――――!!!!』

 

持っている分厚い本で、ハロルドに向けて投げて攻撃した。

 

だが、ハロルドは避けてテーブルの後ろに逃げた。

 

更にハロルドは紙飛行機で的確にリタの顔にめがけて投げる。

 

ちょくちょく顔に当たる為、当たる度に機嫌がだんだん悪くなっていった。

 

『うがぁ―――――!!!!』

 

今度は呪文を呼び上げ、確実に殺しにかかった。

 

『ファイアボール!!!』

 

『おっと』

 

『ウィンドカッター!!!』

 

『おおっと』

 

『ダイ・ダル・ウェイブ!!!!!!!』

 

『よぉっと』

 

更に避けた瞬間、扉が勢い良く開いた。

 

『アンタ達……ぶぅ!!』

 

巨大な水が、アンジュに襲い掛かる。

 

『あ』

 

『あ』

 

二人同時に、アンジュを見つめた。

 

水が引いて、残ったアンジュの体の顔は、無表情だった。

 

『あ………いや、アン……』

 

瞬間、アンジュは笑顔になった。

 

『良いのよ。丁度良い依頼もある事だしね。』

 

そう言って、アンジュはリタに濡れている依頼書を届けた。

 

『ええと何々…?森の奥の奥に人食い民族が居て、私達は困っています。特に女性が良く襲われるのですが、確実に仕留める為に大人数で掛かってきます。どうか、この民族を討伐……』

 

リタは、信じられない物を見るような目でアンジュを見つめた。

 

『勿論、やってくれるわよね?』

 

アンジュは、満面の笑みになっていた。

 

『あの……これは…』

 

『プレセアちゃん、連れて行って』

 

そう言うと、プレセアは無表情でリタの後ろ襟首を掴み、部屋の外へとつれえて行った。

 

『いやぁ!ちょっと……この子握力強い!!助けて!嫌!!助けてぇええええ!!!』

 

地獄の任務に連れて行かれそうなリタを見て、ハロルドは少し笑みを浮かべた。

 

『ぷっ……くく…』

 

『貴方もよ。ハロルド』

 

『え?』

 

『ソフィちゃん。お願いね』

 

アンジュがそう言うと、ソフィが無表情で部屋の外から現れ、ハロルドの襟首を掴んで連れて行った。

 

『あ…アンジュさん?いやアンジュ様?じょ…冗談よね…?ねぇ?冗談と言って!?つれないじゃない!!!ねぇえ!!』

 

ハロルドは、部屋の外へと連れ出されていった。

 

一人になったアンジュは、グチャグチャになった部屋を見て、ゲンナリした。

 

……掃除、片づけの仕事が出来てしまい、仕事を増やす事になったからだ。

 

マスタングは、今はセルシウスと共に修行に外へ出ていて

 

アームストロングは、部屋を暑苦しく改造させられそうだ。

 

『……エドワード君が居たら……ね。』

 

アンジュは、大きく溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ライマ国騎士団〜

 

『起きろ、エド』

 

ルークに起こされ、体調を整えるように起き上がろうとした為、ゆっくりとした起き上がりだった。

 

大きく欠伸をすると、目をしょぼつかせ、目をこすった

 

『…………眠い』

 

『依頼だ。ジェイドが呼んでるぞ』

 

ジェイドという言葉を聞いて、エドは露骨に嫌そうな顔をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶつぶつ呟きながらエドは依頼受付場まで歩いて行った。

 

当たり前だが、アドリビドムよりも人が多い。

 

だが、特別騎士団にすれば、アドリビドムよりも遥かに少ない。

 

『こいつらは警備や徘徊、簡単に言えばパトロールの仕事さ』

 

ガイが、受付の横でそう言って微笑んだ。

 

『ふーん……。で、俺達の特別騎士は何すんの?』

 

『は?国家機密に関すること、国を守る事等、スケールのでけぇ仕事が降ってくんだよ』

 

ガイの代わりに、ルークが答えた。

 

その返答に、ふーんと適当に相槌を打つ。

 

『で、そのでっけぇスケールの仕事が、ピカピカの新人の俺に振り分けられたって訳か』

 

『新人ながらにも特別騎士だからな。新人という言葉は初めから持たないよ。』

 

ガイにそう言われて、エドは受付嬢に目を移した。

 

『特別騎士NO,16:エドワード・エルリック様。NO,17アルフォンス・エルリック様。ジェイド大佐から、ナタリア王妃様の依頼がございます。』

 

『ナタリア?』

 

ジェイド直々の依頼じゃないのか?

 

そう感じたが、恐らくナタリア王妃が命じた依頼を、ジェイドが伝えたという事らしい。

 

『依頼内容は、コンフェイト大森林に突如発生した光。光の対象物の調査をNO,6とNO,5と共に同行し、行う事です。』

 

コンフェイト大森林

 

そこから光が発せられた事も考えさせられるが、

 

『ナンバー6?ナンバー5?』

 

このナンバーの意味が、エドには理解できなかった。

 

『なんだ。俺じゃねぇのかよ』

 

と、ルークはつまんなそうに舌打ちをした。

 

『?』

 

『このナンバーは、特別騎士隊員に与えられる、隊員番号です。』

 

冷静な対応で、受付嬢は答えた。

 

『じゃぁ、その6と5ってのは誰だ?』

 

エドがそう質問すると、受付嬢は答えた。

 

『それは―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜コンフェイト大森林〜

 

依頼場所まで、馬車で送られるのが特別騎士の扱いなのだそうだ。

 

他にも、特別騎士率いる集団討伐の際には、一般騎士も馬車に乗る事が出来る。

 

その為、エドは馬車に乗る事は多くなるだろう。

 

だが、問題はそこじゃない。

 

『エドワード様!楽しみですねぇ〜。初めての依頼ですよね?なんでも私達に頼ってくださ〜い!』

 

『……………』

 

『あの………あの時は、どうもありがとうございました。』

 

『いえ、もう過ぎた事よ。いつまでも囚われないで』

 

馬車に乗っていたのは、エド、アル、アニス、ティアの順だった。

 

その中でエド一人だけ、不機嫌な表情をしていた。

 

『兄さん。どうしたの?』

 

『どうしたの?じゃねえよ……あの眼鏡。絶対楽しんでやがるな……!!』

 

エドワードのパーティに組まれたのは、

 

一度メッタメタに打ち負かした相手と、

 

錬金術師は金が作れると聞いてしつこく構って来るクソガキだった。

 

『いつか絶対ぇグチャグチャに潰してやるぁ……』

 

エドの目が再び怒りで燃えると、アニスが横から割って入った。

 

『エドワード様!アルフォンス様!見て見て炭鉱ですよ!ほら!ほら!!』

 

アニスが必死に炭鉱をアピールしていたが、

 

エドはとっくに無視した。金など作る余裕も無いからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???村 門〜

 

馬車で降ろされた村は、どこにでもありそうな村……と言ったものだった。

 

何故、森の調査でこんな村に降ろされるのか疑問だった。

 

『……おい、なんだこれ?』

 

『光の発生地から最も目撃が多いと思われる地域。』

 

ティアは、堂々と答えた。

 

『いやだから!なんで俺達はそんな村に下ろされてんだ!』

 

『……やみくもに調査する事に、無駄が多すぎるからよ。まずは発生源の居場所を突き止めるのが先。』

 

何の反論も出来なかったエドは、更に不機嫌な表情となる。

 

『……あ―――……。だぁ―――!!!』

 

脱力したかと思えば、急に大声を出し、腕を広げた。

 

大きく意気込み、正当化の依頼をこなす事にした。

 

『ちょっと兄さん…』

 

『おら、とっとと情報探すぞ!!行くぞ!』

 

エドはそう言って真っ先に先入すると。ティアは呆れの息を吐いた。

 

アニスは『喜んで!』と言いながらエドについて言った。

 

アルは、いつもの事なので普通に溜息を吐くようにエドに付いて言った

 

『全く………ん?』

 

道端に、豆電球が落ちていた。

 

どうして、電気も通らないような場所に豆電球があるのだろう。

 

首を傾げると、アルは豆電球を拾って、しまう場所にしまった。

 

 

 

 

 

〜???村〜

 

『………』

 

その村は、中に入ると妙な違和感があった。

 

『なんだ?』

 

『?どうしたの兄さん』

 

その違和感を感じ取ったアルは、エドに問いかける。

 

『いや、…何か変な臭いがすんだよ』

 

『臭い?』

 

エドとアルが話し込んでいる時、後ろから老人が話しかけてくる。

 

『ああ、おそらく私の臭いじゃないかな?』

 

そう聞かれると、エドは後ろに振り向く

 

『うぉお!?』

 

そこに立っていたのは、全身毛むくじゃらの老人だった。

 

しかも、毛の奥から湧き出るようにその臭いは発祥されていた。

 

『て……てめぇ!!なんだ!!この臭いは!!』

 

『……失礼ですが、最後に入浴されたのは、いつ頃でしょうか』

 

しかめた顔でティアが質問すると、老人は笑い出した。

 

『見慣れん顔か。久々に、この村に客人が現れたようじゃな。結構結構。』

 

老人の言葉に、エドは鼻をつまみながら真顔で返した。

 

『いや……俺達は客人とした来たわけじゃない。』

 

腰につけていた、強制的に持たされる剣を老人に見せた。

 

『こう見えても騎士団、軍人だ』

 

『軍人……』

 

瞬間、老人の目が鋭くなった。

 

『ほほう……軍人?軍人……』

 

『?』

 

『すいません。匂いが移るので遠くに行ってください』

 

アニスが鼻を摘みながらアルの後ろへと隠れる。

 

アルは臭いを感知できない為、その匂いがどんなのか認識できなかった。

 

『もう一度問いますが、最後に入浴されたのは、いつ頃でしょうか』

 

『そうじゃな。まず最初の一問だけ無料で教える事にしよう。最後に入ったのは2ヶ月前じゃ。』

 

『よし、次はあの人に質問しよう。』

 

エドが指を差した方角に、全員が移動した。

 

徐々に臭いの発祥根となる老人から離れようとしていた。

 

『……どーせ、夕べの光の発する樹を探しとるんじゃろうが』

 

その言葉を耳にした瞬間、全員の足が止まった。

 

アニスだけが前を歩こうとした為、エドがアニスの襟首を掴んだ

 

『ぐえ』

 

引っかかり、アニスが咳き込む音がエドの耳にまで響く。

 

『………光の発する樹。その事について、何か知ってんのか?』

 

『まぁな。実際に見た…からのう』

 

その言葉で、全員のこの老人を見る目がほぼ変わった。

 

『……先ほどは大変無礼を働きました。それを踏まえて、ご協力をお願い致します。』

 

『ああ。別に構わんよ。』

 

そう言われ、ティアは改めて老人に質問をした。

 

『その発行する樹、その場所に存在する場所を問答願えませんか?』

 

『金』

 

『は?』

 

『欲しい情報があるのなら、まず同等の代価を払ってくれ。情報の代価は金だ』

 

老人がそう言った瞬間、アニスは露骨に嫌悪感溢れる表情となった。

 

『こん…の!なんて嫌ながめつい奴!!金の亡者の最低野郎!!』

 

エドは、アニスのその言葉に何もツッコまなかった。

 

『…………はぁ』

 

ティアが小さく溜息を吐くと、ポケットから財布を取り出した。

 

『……分かりました。代金は支払います。いくらですか?』

 

『200万ガルド』

 

ティアの持っていた財布が、吸い込まれるように地面に落ちていった。

 

理由は、ティアが放心状態となったからだ。

 

『はぁぁぁあああああああ!?』

 

エドが叫ぶように、老人に抗議した。

 

『当然じゃろうに。貴様ら騎士団にとっては、それ程価値のある情報なんじゃろ?』

 

『だからって……あんたぁ〜……!!!』

 

アニスが睨みつけると、老人は笑顔で返答した。

 

『なんじゃ?ライマの騎士はこれ程の金も払えん程貧相国家なのか?ふん。弱小国家は全く違うわい』

 

『!』

 

弱小国家。そう言われるのはティアは聞き逃さなかった。

 

確かに、ガルバンゾと元ウリズン帝国と比べれば、我が国は小さい国家なのかもしれない。

 

だが、それはむやみに星晶を採取しないだけで、農業や産業、または電気化学等を用いて発展することを、ナタリア王妃が望んでいるからだ。

 

『……………』

 

だが、今は何を言われようと、金が無い……。

 

ティアは助けを求めるようにエドに目を向けた。

 

『いや、まさか調査で金が必要なんて知らなかったし』

 

エドは素で答えた。

 

『僕も、金銭管理はするけど、まさか調査で使うまいとは……』

 

アルも答えた。

 

『エドワード様が居れば、金銭問題なんてなんでも無いと思ってたから』

 

アニスも答える。

 

ティアは、どうしようか悩んだ。

 

このままでは、情報を手に入れられない。

 

『ったく。こんながめつい爺ほっといて他当たろうぜ。』

 

そう言って、エドとアルは他の住民の場所まで歩き、声をかけた。

 

『すいません。発光する樹の事なんですが…』

 

『300万』

 

『おい、ちょっと聴きたいんだけどよ』

 

『400万』

 

『ねぇねぇ、この辺で』

 

『一億』

 

立腹した様子で二人は帰って来た。

 

『なんだこの村!!どんだけ金に飢えてんだ!!!』

 

『情報持ってなかったら、牢獄にぶち込んでます!!!!』

 

一人は、この事の重大さに、ティアと共に考えていた。

 

『……でも、村人全員がこんなのじゃ、調査なんて進められないよ。』

 

その言葉に、エドが鬱陶しそうに言った。

 

『だーかーらー、ほっときゃ良いんだよ。ほっときゃ。もう闇雲でもなんでも、俺達の足で見つけてやろうぜ。』

 

『でも……それでは時間が掛かります。日が変わる頃まで、戻れるかどうか……』

 

ティアがそう呟いた後、エドは舌打ちをした。

 

ならどうしろってんだ。そう考えながらだ。

 

すると、笑顔でアニスがエドの服を引っ張った。

 

『やだなぁ。簡単じゃ無いですかぁ。』

 

瞬間、アニスの顔が邪悪の笑顔と化した。

 

『さっきの炭鉱に戻りましょうよ』

 

その邪悪の笑顔の意味が、エドは瞬時に理解した。

 

『ここで金をザックザック作っておけば、奴らも大人しく情報を渡す上に、靴だって舐めさす事が出来るんです。やってしまいましょうよ。エ・ド・ワード・様?』

 

確実に、私利私欲が混じっている言い分だった。その悪意がビンビンとエドに伝わった。

 

だが、エドは

 

『……よし。分かった。』

 

何の躊躇も無く、賛成した

 

『に……兄さん?ちょっと!?』

 

アルは、慌てるようにエドを止めようとする。

 

『駄目だよ兄さん!金銭の練成は僕達の世界じゃ重罪なんだよ!?』

 

エドは振り向かずにアルの質問に答えた

 

『バレなきゃ良いんだよ。バレなきゃ』

 

邪悪な声だった。

 

『そうそう。バレなきゃ良いんです。貴方の世界では知りませんが、こっちの世界に錬金術を取り締まる法律は無いんです。なのでほとんど合法的な金銭増加なんですよ。これは……』

 

クックック。と、エドより更に邪悪な声がアルの聴力に届いた。

 

『うわぁ……』

 

その邪悪さに、アルとティアは距離を取った程だった。

 

『やるっきゃ無えんだよ。やるっきゃ……』

 

エドは、物凄く面白そうな目で、申し訳なさそうな演技をしながら、アルに言葉をかけた。

 

エドとアニスは、邪悪のオーラを纏いながら、先ほどの炭鉱に続く森の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『こっ……これは!?何事ですか!?』

 

毛むくじゃらの臭う老人の目の前に映ったのは、山のように存在する金の延べ棒だった。

 

他に、金貨や銀や、金のネックレス等、金や銀で出来た物ばかりだった。

 

『いやぁ〜。偉大なるライマ国の財力を調べて見るとですねぇ。驚くばかりの”0”の並びで。俺達、特別騎士団に”なら”100分の一位は出せるという事で取り合った所、これ程の金が送られてきまして。』

 

エドは村人の上に立ったかのような顔で見下すように村人を見ていた。

 

余程村人にムカついていたのだろう。物凄く良い笑顔だった。

 

アニスは満足そうな笑顔でエドの横に立っていた。

 

ポケットと人形が不自然に膨らんでいるのが目に映るが、アルとティアは特に無視した。

 

『……で?教えてくれるよな。発光する樹の居場所ってのをよぉ…?』

 

『これ程の金を出されては、情報どころではありません!皆の者よ!客人を丁重に持成しをしろ!!』

 

老人がそう言うと、全員は『はい!!!』と一斉に答えた。

 

『!? いや、俺達は持て成しなんか居らねぇ!!情報だけくれれば十分なんだよ!!!』

 

『早く、客人用の屋敷に連れて行きなさい!!』

 

『話聞けコラァ!!!!』

 

そのまま、エド達は強引に引っ張られ、一つの大きな屋敷へと向かわれ、強引に客人として中へと入れられた。

 

全く望むこと無い持て成しを受ける事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………』

 

エドとアニス、二人の性格は根が似ている為か、この状況に全く持って不機嫌になっていた。

 

『………おい。どうなってんだこれは?』

 

エドが、不毛な質問をするかのようにアルに問いかける。

 

だが、アルは『えーと』しか言えなかった。

 

『なんで村人の調査が、こんなお持て成し受けるまでになってんだ。』

 

『…………』

 

『本当です!本来なら、こんな扱い、イライラするもんですけどね!』

 

『一体何のつもりなんだ?あの野郎共!!』

 

エド達が話し込んでいる時に、ティアがボソリと言った。

 

『まるで……監禁……みたいね。』

 

瞬間、辺りに沈黙が流れた。

 

しばらく全員が受け取れていないような状況だった。

 

全員が状況を受け入れた瞬間、動き出した。

 

『出せぇええええええええ!!!出しやがれぇえええええ!!!』

 

『ティア!!ちょっとこの扉ぶっ壊して良い!!?』

 

『駄目よ。壊したら壊したらで、あれ以上の賠償金要求してきそうだわ。』

 

ティアが冷静に返すと、エドは思い切り頭を掻き毟った。

 

『あぁ――――!!!』

 

完全に頭に血が上っているようだ。

 

『おい誰か出てきやがれ!!!外に出せぇ!!発光する樹まで案内しろぉ!!!』

 

そう叫んだ瞬間、鍵の開ける音が鳴った後に、扉が開かれた。

 

出入り口に鍵を掛け、完全に外に出さないようにしていた。

 

『何か御用ですか?』

 

『御用ですか…じゃねえだろ』

 

エドが、部屋の中に入らない老婆の顔に近づいた。

 

『俺達は、あの腋臭老人が目撃した発光した樹の情報が知りてぇだけなんだよ。ここまでのお持て成しは要らん。とっとと情報くれて、こっから出しやがれ!!』

 

『それはなりません。あの程の金額を渡されては、私たちは持て成す義務があるからです。』

 

『だったら持て成す分の金を返せ!!!それで良いだろ!!』

 

『嫌です。私達も金が欲しいのです。』

 

だんだんと、確実にエドはこの村人が大嫌いになってきた。

 

『大体!その持て成しは何時かかるってんだ!!!』

 

『あの金額分であれば、3日は通すかと』

 

日数を聞いて、ティアは驚愕した

 

『みっ……!』

 

『では、私も準備が御座います故、ごゆっくり。』

 

そう言って、老婆は扉を閉めた。

 

そして鍵を閉めた。

 

瞬間、またこの空間に沈黙が流れた。

 

『………………』

 

最悪の展開が、エド達に降りかかったのだ。

 

『………なぁにが、”無駄が多いから、闇雲に調査するのは駄目”だ!!』

 

エドは、ティアに睨みつけた。

 

『聞き込みしても全っ然駄目じゃん!!コラァ!!!』

 

アニスも、ティアを攻撃してきた。

 

『み…皆!ティアさんだけの責任じゃないよ!』

 

アルは、ティアを庇うように前に立った。

 

『大体……あんなに多くの金塊を持ってきたのはエドとアニスさんでしょ?悪い意味で金なんか作って…』

 

『うっ』

 

『こんな事になったのも、僕達全員の責任だよ。仲間なら尚更。だから、攻撃する人を見つけるんじゃなくて、脱出する方法を探そうよ。』

 

アルにそう言われると、エドとアニスも何も言えなかった。

 

『…………ちっ。分かったよ。んじゃ、そこどけ』

 

エドがそう言うと、アルとティアは言われた通りに場所をどいた。

 

すると、窓の向こうに見える世界を見渡した。

 

『………………』

 

エドは、じっくりと窓の向こうを見ている。

 

『エドワード様?』

 

『……よし』

 

エドがそう呟くと、全員の方に目を向けた。

 

『ちょっと窓まで集まれ』

 

『?』

 

エドにそう言われた瞬間、全員は窓の方へと集合した。

 

小さい窓だった為、密集率が高かった。

 

ちょっと息苦しかったが、エドはなんとか声を出した。

 

『………まず、下に下りたらあの橋、橋の方向にある森まで走るぞ』

 

エドがそう言った瞬間、ティアとアニスは良く分からないような表情をしていた。

 

『? 貴方は何を言っているの?』

 

『言った通りだよ。下に下りたらあの橋渡って、森に逃げ込むんだ。』

 

『いや、だから……』

 

エドは、早速決行する為に錬金術で床を縄に練成した。

 

床は木製だった為、糸が作りやすく、縄も錬金術の流れによって自然に束ねることが出来た。

 

『この縄で、下まで降りるんだ。』

 

『……え?』

 

アニスが、ほとんど理解していなかった。

 

『……あの、エドワード君?……この窓を通れ…とか言ってるの?』

 

ティアが、不安そうな声でそう言った。

 

『言っておくけど、私は通れないわよ。こんな窓……。小さすぎて』

 

『窓の大きさは関係無え』

 

そう言って、エドは再び錬金術を発動させる為に手を合わせた。

 

発光と共に、壁が大きく分解され、その場から無くなった。

 

『おっ!?』

 

瞬間、大きな風がエド達を襲った。

 

『……ちっ!おら、とっとと行くぞ!!』

 

エドはそう言うと、錬金術で床と結合されている縄を使って、下まで降りて行った。

 

『あ!兄さん!』

 

アルも続いて、降りて行った。

 

『待ってください!エドワード様〜!』

 

アニスも続けて、縄を使って下まで降りた。

 

『………』

 

少し震えながらも、ゆっくりとティアは慎重に降りて行った。

 

 

 

 

『走れ!走れ!』

 

小声で、奴らに見つからないように声をかけながら、エドは全員を呼んだ。

 

そして、橋を渡り、森の方へと急ごうとしたのだ。

 

『ティア!何してんだ!』

 

遅れてきたティアを叱りながらも、少しだけ待ちながら進んで行った。

 

『ほら!もう少しで……』

 

『ん?そこに居るのは騎士団の皆さん。ここで何を?』

 

一人の青年がエドの前に現れた瞬間、エドは隙を見逃さなかった。

 

走っている脚力を使い、飛び上がり、足を延髄の位置にまで当たるように計算し、動きの出力、攻撃力を倍増させた。

 

『モルスァ!!』

 

更に、使ったのは機械鎧の左足の為、攻撃力は相当な物となった。

 

一瞬で気絶した青年は、地に倒れ、動かなくなった。

 

『おら!急ぐぞ!』

 

エドがそう言うと、アニスとティアも共に森の中へと入って行った。

 

気絶している青年に、『ごめんなさい』と言葉を掛けた後に、アルは森の中へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜コンフェイト大森林〜

 

『……さて、ここまで来りゃぁ追いかけて来ねぇだろ』

 

エドがそう言って両手を頭に回し、楽なポーズを取りながら歩き出す。

 

ここから、地道に発光物を探す事となる。

 

エドは、ようやく厄介な物から逃げられたと思い、気楽になり、大きく息を吐いた。

 

『さーて、まずどっから探す?』

 

エドがアルに目を移すと、アルは首を傾げて考え事をした。

 

『……んー…。とりあえず、怪しい所を虱潰しに探していこうよ。この森のどこかにあるのは間違い無いんだからさ。』

 

アルがそう言うと、エドはまた、別の感情の息を大きく吐いた。

 

『……やっぱり、地道に探すしか無いってのかねー……。』

 

少しウンザリした様子で、エドは背伸びした。

 

『まぁまぁ、まだちょっと太陽の光はあるんだし、きっとすぐに見つかるよ』

 

辺りは、見渡せば少しだけ薄暗くなっていた。

 

先ほど、金塊を多く持ってきた事にも時間が掛かり、

 

監禁されていたのにも、結構時間を食ったからだ。

 

『………でも、やっぱりこれは、時間が掛かってしまいます。最悪、野宿の可能性を視野に入れなければ。』

 

『屋根とかは、最悪でもなんだろうが、俺達は作れるんだ。パパっとな。野宿をそんなに怯える必要は無えよ』

 

エドがそう言うと、着々と前へと進んだ。

 

『しかし、魔物は人間の臭いを追って近寄るのよ。最悪でも鉢合わせの対策は考えないと。』

 

『逆に食料が増えて十分じゃねえか。簡単にとっ捕まえる事も出来んだろ?』

 

『兎や山猫の……子供等も近寄るかもしれないのよ?』

 

『だからなんだってんだ?こちらとら、兎なんかサバイバルで捌いた事あるんだ。なんでも来いってんだ。』

 

『…………排泄や、その処理等はどうするつもり?』

 

『そこら辺でしろ。つーか我慢くらい出来るだろ。最悪、便器もそこらから作ってやるよ』

 

『ほーんと、エドちゃんってば便利よねー。』

 

最後に、どこか聞いた事がある声が耳に届いた。

 

じっくりと前を見ると、そこには見覚えのある顔もあった。

 

『……………』

 

エドは、この状況に全く理解していなかった。

 

『……いぉ?』

 

エドが咄嗟に発した言葉と共に、目の前の顔は笑顔になった。

 

『いやぁー!!』

 

『はははは!!!お久しぶりねぇー!!エドちゃぁん?』

 

その女は、エドにベタベタと抱きつこうとしていた。

 

『くっ来るなぁ!!来るなぁああああ!!!!』

 

涙目で逃げると共に、ハロルドはエドに近づいていった。

 

『は……ハロルドさん?』

 

アルが、目の前に居る人が理解できなくて、疑問の声で質問をした。

 

『あらー。アルちゃんも、一日ぶりねぇ。』

 

『アル!こいつを引き剥がせ!!最悪半殺しにしても良い!!』

 

ティアは、アルに一つ質問をした。

 

『アルフォンス君……。知り合い?』

 

『ええ。前のアドリビドムでお世話になった、ハロルドさん……って言う科学者です。』

 

アルとティアが話している間に、アニスはエドとハロルドを引き剥がそうとしている。

 

『ちょっと、エドワード様から離れてよ!この濃女!』

 

敵意とも取れるその感情から、変な形をした嫉妬だと理解した。

 

その嫉妬を見たハロルドは、半分面白そうな顔をして、エドをからかう様な声で質問した。

 

『あらぁ?エドちゃん。この子と一体どんな関係なのかしら?』

 

『はぁ!?ただの同僚だ!同僚!!俺は、アドリビドム解雇されてから騎士団に入ったんだよ!!』

 

『エドちゃん騎士団に入っちゃったの?酷いわぁ。私と言う物とアドリビドムがありながらー。国の犬に入るなんてー。』

 

『なんだそのあからさまな棒読みは!!楽しそうにして、面白くない事には適当に流してる事がバレバレだ!!』

 

エドがそう叫ぶと、茂みの奥からまた一人の少女が現れた。

 

『………耳に障る声が、やけに五月蝿いと思ったら、アンタね。やっぱ』

 

しれっと、冷たい表情でリタはエドを睨みつけた。

 

その表情を読み取ったエドは、リタと反対な、感情的に苛立ちと嫌悪を表す表情となった。

 

『………ちっ。二度と顔を見ねえと思ったのによ』

 

『んで、アンタ騎士団に入った?んですってね。そりゃぁおめでとさん。せいぜい国に尻尾でも振っていれば良いわ。』

 

リタの言葉に、ピクリと反応し、眉を動かす。

 

反対に、アルは少しだけ哀しそうな表情をしていた。

 

『………リタさん、もしかして……怒ってる?』

 

アルがそう言うと、呆れと溜息と共に答えを返した。

 

『…別に。まぁ確かに私、騎士団とか国の犬、大っ嫌いだけどさ。とやかく言うつもりは無いわ。特にそこのチビにはお似合いの職柄なんじゃない?と思ってるし』

 

『チ……!!!てめぇ……全っ然変わってねぇみたいだなぁ……!!!』

 

『どうも』

 

リタは、怒っているというよりは、怒りが心の奥に大量に湧いているような感情だった。

 

それが何か分からなかったが、アルはそれが疑問を感じた。

 

『……ところで、そのアドリビドムの人達が、こんな所で何をしているのかしら?』

 

ティアが質問に取り掛かると、その質問にはリタが答えた。

 

『ん?何かも何も、私達も依頼でこんな所まで来てんのよ。』

 

『?』

 

次に、ハロルドが続くように答える。

 

『そうそう。アンジュの鬼が、か弱い私達を食人族の住む村まで行って、村人を討伐しなきゃなんないのよ。しかも女の子には一斉に襲い掛かって来る奴ららしいから、私達、今日でお陀仏かもね。』

 

食人族と聞いて、ティアは一瞬恐怖を覚えた。

 

続けて、ハロルドは答える。

 

『だからぁ、エドちゃんもちょっと手伝ってくれない?元仲間の好で』

 

『ふざけんな!!!!』

 

エドが叫ぶと共に、リタも反論した。

 

『冗談じゃ無いわよ!こんな野郎とは、もう二度と依頼なんてこなしたく無い!!!』

 

『でも、頼らないと高確率で私達、食べられちゃうわよ?』

 

ハロルドにそう言われた瞬間、リタは俯いた。

 

『うっ………』

 

言葉に詰まった時、アルがエドに近づいた。

 

『手伝おうよ。兄さん』

 

『やだね。もう俺はこいつらとは関係無い。こいつらと協力する義務も無い。それに俺達の依頼も終わってない。』

 

『でも、食人族の事は聞いておこうよ。そんな怖い種族がこの森に居るなら、聞いておいて損は無いでしょ?』

 

確実に、助けになろうと考えているが。

 

その提案には、自分達には損が無い為、考えさせられた。

 

『……ちっ。おい、その食人族の居場所ってのは、大体どこら辺だ?』

 

エドがそう質問すると、ハロルドが嬉しそうな表情になった。

 

少なくとも、協力して食えることは間違い無いからだ。

 

『もうすぐよー。あと100メートルくらい進んだ所に、村があるからそこの村に居るのが間違い無いわね。』

 

そう言われて、エド達は固まった。

 

『……………』

 

『?』

 

エドは振り向き、向こうを見た。

 

ティアとアニスも、同じように振り向いた。

 

そして、100メートルを測り、その先に何があったかを考えた。

 

『…………おい』

 

エドが呟いた。

 

『何よ?』

 

『………心当たりが』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

枯れた樹の下で、ゲーデは一人ずっと、下で佇んでいた。

 

『……………』

 

一人になった瞬間、何をすれば良いのか分からなくなったからだ。

 

誰も、何も起こっていない今、それに賢者の石は十分に蓄積されている。

 

これ以上、賢者の石を身体に溜める必要は無い。

 

だが、たった今、この森に異変が起こった。

 

『………………』

 

感じたことのある、錬金術が発動されたのを感じた。

 

それは、前に出会った錬金術とは違い、物質を大幅に変える物……のように思えたが、

 

そう感じた瞬間、どこか面白そうに微笑んだ。

 

『……野郎』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???村〜

 

エドが居なくなった事を知らずに、持て成しの準備をしている村人達は、屋敷の中でそくささと動いていた。

 

あの部屋の扉には鍵が掛かっているはずである。簡単に出入りは出来ない。

 

故に、限られた者しか中に入ることは出来ないのだ。

 

『食事の準備は?』

 

『もうすぐです』

 

会話も、今は御一行の事しか頭に無かった。

 

 

 

 

 

『……アンタ達、食人民族に持て成しをされてたの?……人殺しの上に、人を食べる所だったわね』

 

リタの言葉に、エドは更に機嫌を悪くした。

 

『全くです。聞けば聞くほど嫌な村だと言う事が駄々漏れです。』

 

『……そこまで、恐ろしい村だったのね。ここは』

 

アニスもティアも、再び村人を見る目が方向をほとんど変えずに別の場所から見るようになった。

 

『グチグチ言ってたってしょうがねぇだろ』

 

エドは、ハロルドとリタの依頼に協力しようとしたわけじゃない。

 

あの爺から、発光する樹を聞いていないからである。

 

嘘である可能性も勿論あるが、自分達が何も言っていないのにも関わらず、あの爺は発光物の事を、しかも”樹”だと答えた。

 

ならば、少なくとも昨晩発光した物について存じているはずである。

 

『事情が少なくとも変わって、こっちは楽になったんだ。存分に暴れてやろうぜ』

 

エドがそう言った瞬間、再び屋敷の方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

『!?どうして貴方達が部屋の外に……グヘァ!!』

 

言葉を言い終える前に、エドの鉄拳制裁で鍵を持っている婆を気絶させた。

 

『さて、これで俺達がまたあの部屋に監禁される事は無くなったぞ。』

 

エドはそう言って、婆が持っていた鍵の束を奪い、ティアに渡した

 

『!』

 

余りに唐突な事だった為、受け取る動作を取るのに少しだけ遅れた。

 

『さて、……んじゃとっとと、あのクソ爺を締め上げて情報を掻き出すとしようぜ』

 

そう言いながら、エド達は一斉に走り出した。

 

バラバラに散り、全ての部屋を虱潰しにするように。

 

『怪しい所は、全て潰すぞ!!あの爺見つけたら、爆音を鳴らせ!!』

 

エドはそう言って、多く存在する部屋を探す事にした。

 

村の中にあの爺は居ないはずである。

 

根拠は、老人が持て成しをする為に、この屋敷に監禁されている時、

 

最後に確かに情報を届けると言っていたからだ。

 

『おらぁ!!ドケドケドケドケドケドケドケェエエ!!!!』

 

別に邪魔をしようともしていない。邪魔する行動を取ろうとする前に、エドは殴る、蹴る等を繰り返し、突き進んでいた。

 

『……………』

 

その様子を見て、リタが顰めた面をした。

 

『? どうしたの?』

 

『いや……何か前より、気性が荒くなってない?あいつ』

 

『?』

 

確かに今のエドは暴走気味だが、それがなんなのだろうか。

 

ボコボコのギタギタにされた覚えしかないティアに取っては、別に何も疑問を抱いていなかった。

 

 

 

 

 

 

そして時間が経ち、ほとんどの部屋は全て潰した。

 

辺りには死屍累々とした光景が広がる。当然、全員死んでいないのだが。

 

少し違和感を感じたのは、調理場だった。

 

エドが見た所、人肉どころか、肉を使った料理自体少なく、

 

大根や人参など、野菜ばかりの料理だったからだ。

 

その横には、沢山の調味料が並んでいるくらいしか。

 

『……なんだ、後はこの部屋だけか』

 

エドが前に立った部屋は、目立たない小さな扉だった。

 

アルミで出来たような安っぽい扉で、倉庫かロッカーに使われているかと思われるほどだった。

 

『エドワード君』

 

ティアが、エドの居る場所まで走りよった。

 

『おお。そっちはもう終わったのか?』

 

『ええ。……手分けして行動した結果』

 

そうか。とエドが言うと、扉に親指を立てた。

 

『……後は、この部屋だな』

 

そう言って、エドは扉に手を掛けた。

 

とっととこの部屋から脱出しなければいけないのだ。

 

この屋敷から出て行きたいのは山々だ。

 

だから、早く部屋に入るぞ

 

『行くぞ』

 

エドがそう言った瞬間、扉は大きくエドの手によって開かれた。

 

だが、それはとてつもない後悔を生む事となった。

 

『!!!!!!』

 

強烈な匂いが、エドとティアに襲い掛かったのだ。

 

『ぐほぉ!!!ぐっほぉおお!!!』

 

大きく咳き込み、口を袖で覆う。

 

『この……この臭いは……』

 

ティアは、顔をしかめ、泪を目に浮かべながら答えた。

 

嗅いだ事のある臭いの気がするが、ここまで強烈じゃない。

 

この臭いは

 

『間違いねえ!!この部屋に、あの腋臭爺が居る!!!』

 

臭かったのは、この部屋だった。

 

その臭いが、あの老人に染み付いたのだろう。だから、あのような腋臭になったのだろう。

 

毛が多かったのは、多分生まれつきなのだと思うのだが……。

 

『ゴホォ!!ゴホ!!!』

 

エドは耐え切れなくなり、部屋の外へと出た。

 

そして、大きく深呼吸した。

 

『ゲホッ!ゲホッ……何だよ、この臭い……』

 

『迂闊に入れないわね……』

 

深呼吸をしながら、エドとティアは会話した。

 

そして、喚起するように扉が勝手に閉まった。また匂いが増すのだろう。

 

『エドワード様〜!アニス、全部回ってきました〜!!』

 

アニスは、笑顔でエドに走りよってきた。

 

『そうか。』

 

『でも、どこにも居なくて……あれ?もしかして、ここにあの爺が居るんですか?』

 

『そうだ。』

 

『じゃぁ!早速捕まえて情報を吐かせましょう!!騎士団を舐め腐った……野郎にぃ!』

 

アニスが怒りの混じった明るい口調でそう言った後、扉を開けた。

 

瞬間、地面に叩きつけられた。

 

アニスが泡を吹いてピクピクしている。余りの悪臭に、嗅覚が耐え切れなかったのだろう。

 

すると、また喚起するように扉が勝手に閉まった。

 

アニスが白目を剥いている。

 

『ちょっと、こっちは終わったわよ』

 

別の方向から、リタとハロルドが歩み寄ってきた。

 

『あっそ。』

 

『んで、この扉が最後ってわけ?小さな扉ねぇ……。ところで、ここで寝てるガキは何よ』

 

『疲れてんじゃね?』

 

『そ。で、この部屋にあの爺が居るのよね?』

 

『そうだ。』

 

『じゃぁとっとと入るわよ。早くしなさい』

 

リタがそう言って扉を開けた。

 

瞬間、また地面に一人、叩きつけられた。

 

リタの顔は、全くの無表情で、扉を開けた時と全く変わっていなかった。

 

ピクリとも動かない。瞳孔が開いている。

 

まるで人形がそこに転がっているかのように、無表情でピクリとも動かず、そこで気絶していた。

 

そしてまた、喚起するように扉が勝手に閉まった。

 

『……………』

 

その様子を見て、ハロルドが黙り込んだ。

 

エドもティアも、同じような事を考えている。

 

『……で、ここからどうするつもりなの?』

 

『……出来るだけ息をしないで、老人を説得していく……か?』

 

エドの提案に、ティアが溜息を吐いた。

 

『……息を吐き切れたら、それこそ息を吸い込む必要があるじゃない。』

 

じゃぁ、こっから引っ張り出すか?

 

いや、あの暗闇と悪臭では、まともに前が見えない。

 

それでは、こちらが不利だ。

 

『兄さん!僕の方は終わったよ!』

 

その時に、アルが作業を終え、こちらに戻ってきた。

 

アルが戻ってきた瞬間、全員はアルの方に目を向けた。

 

『………?』

 

アルは、少し恐怖を抱いていた。

 

すると、次にティアが膝を地につけて、手の平を地面につけた。

 

『ええ!?』

 

それは、土下座寸前だった為、アルは動揺した。

 

次に、エドも必死の形相で頼み込んだ。

 

『頼むアル!!お前だけが頼りだ!!!』

 

『一体どうしたのさ!兄さん!』

 

次に、ハロルドが口と鼻を手で覆い、扉に人差し指を向けた

 

『………ここから先は、私達はどうしても、どぉぉぉぉしても行けないの……。アルちゃん。貴方のその身体が……役に立つのよ』

 

『どうしても行けないって……あれ?どうしてリタとアニスが横になってるの?』

 

『細かい事は良いの!!さぁ、早く逝け!逝ってあげて!!』

 

ティアが迫真にアルに頼むと、アルは断れなく、承諾の返事をした。

 

『わ……分かったよ…。』

 

ティアにそう言われ、渋々アルは扉を開けた。

 

瞬間、後ろでエド達が顔を防御する仕草を取ったが、アルはそこまで気にしなかった。

 

『うわぁ……』

 

中は真っ暗で、足元はベタベタする。

 

壁には、湿った肉のような感触がして、どこか気持ち悪い。

 

『…………』

 

入りたくない気持ちも分かるけど、だけど僕だけ行かすのは酷い。

 

僕だって、鎧になってでも、こんな気持ち悪い所に入るのは嫌だし、不快だ。

 

早く出たいという気持ちは、アルにもあった。

 

『すいませーん!誰か居ますかー!?』

 

アルが叫んでも、返事は無い。

 

首を傾げたアルは、どうしようか考えた。

 

まずは光、光が欲しい。

 

そう考えていると、人差し指でどこか触れた。

 

『あ!』

 

そこに、入り口で拾った豆電球があったのだ。

 

何気なく拾った物だけど、これで光は発せられるはず。

 

『ええと……微力ながらでも静電気……』

 

アルはそう呟き、手を擦った。

 

その瞬間に、アルは手を合わせ、錬金術を発動した。

 

『?』

 

錬金術が発動する際に発光する光で、一瞬辺りが見えたが、それは良く分からなかった。

 

豆電球が光りだすと、辺りに見えたそれが分かった。

 

『!!』

 

壁には、人間の内臓だけと、皮だけの物が壁の針に刺さってぶら下がっている。

 

どれも、変色して腐っている。白い虫が湧いている。

 

『これは………』

 

死体 だ。

 

食人習慣があるというのは、本当なのだろうか。

 

死体から滴る緑色の液体が足に付着し、小さな悲鳴を上げた。

 

『ひっ……』

 

その反動で後ろに振り向くと、そこはまた地獄の光景だった。

 

 

 

 

 

 

内臓

 

内臓

 

 

 

それらが山済みになっている。

 

まだ分解されていない死体が、ぶら下がっているのもある。

 

『こんな……』

 

こんな、酷い事。

 

本当に、行っている民族が居るなんて、アルは思いもしなかった。

 

瞬間、ヒタリという音がアルの耳に届いた。

 

『!?』

 

アルが振り向いた時には、もう遅かった

 

『ウリャァアアア!!!!』

 

老人が、鈍器を持ってアルに襲い掛かってきたのだ。

 

『!!!』

 

アルの頭部が吹っ飛び、動くのは胴体だけとなった。

 

『うわぁ!!』

 

『貴様……。見たな?……わしらの村の、……』

 

アルはすぐに落ちた頭部を捜した。

 

だが、そうはさせまいと老人はアルの上に乗った。

 

『ひぃ!?』

 

『やはり貴様ら……神の使いでは無かったのだな…?』

 

『神の…使い?』

 

アルは、老人が何を言っているのか分からなかった。

 

『知らぬか!!ならばやはり……神の使いでは無いのだな!所詮、ただの国の犬。一人の人間だったんじゃな!!』

 

老人が何故このような行動を取っているのは分からなかった。

 

『あの……言ってる意味が……』

 

『ほざけ!!あの金は……返さん!そして、わしの言う通りの思い通りにしてもらう!!』

 

『し…シナリオ?』

 

アルは所々疑問を感じていたが、老人は確実に怒りを抱いていることは理解できた。

 

『姿を見せろ!!その醜い醜い……人間が!!!』

 

老人がそう言うと、天井の電気がおぼつかないようについた。

 

そのおかげで、老人はアルの姿を見ることが出来た。

 

『………………』

 

老人は、アルのその姿を見て、固まっていた。

 

『な……何をするつもりですか?』

 

アルがそう言った瞬間、老人は情けない悲鳴を上げた。

 

『あ……ばば……ば………!!!』

 

頭部を失い、中身は空っぽのそいつ。

 

その者を見れば、誰しも疑問を抱き、恐怖を抱くはずだ。

 

『があああ!!ばっばっ……化け物!!あああああああああああ!!!!!』

 

そう叫ぶと、懐から鍵を取り出し、急いで扉を開けようとしていた。

 

恐らく、扉はこちら側では開かないようになっているらしい。逃げられないように…だろう。

 

『ひぃぃい!!』

 

扉を開けた瞬間、そこで待っていたのも地獄だった。

 

『逃がさねぇぞ、オラァ!!!!』

 

エドは、錬金術で地から突起物を練成し、老人に巻き付けた。

 

『ぐひぃ!!』

 

『さて……ようやく捕まえたぜ。爺』

 

アニスとリタは、まだ横になって目が覚めていなかった。

 

その代わり、起きているエドやティア、ハロルドが睨みつけていた。

 

『さーて教えて貰おうか。この部屋の意味。もしくは食人の動機、そして、俺達をどうするつもりだったのか』

 

エドは迫力のある声でそう言うと、老人は呟くように連ねて、言葉を発した。

 

『……黙れ』

 

『は?』

 

『貴様らは……本来関係無いんじゃ…。何もするつもりは無かった。それは本当じゃ。』

 

老人がそう言うと、続けてティアが答えた。

 

『……では、人間を攫ったというのは本当でしょうか?』

 

『本当じゃ』

 

『その成れの果てが、あれですか?』

 

『そうじゃ』

 

次に、ハロルドが声を出した。

 

『どうして、人を攫ってまで殺す必要があったのよ。』

 

『村人を殺したく無かったからじゃ。』

 

『随分、我がままな理屈ねぇ。』

 

『……貴様らには分からん。』

 

次に、話が老人の流れとなり、老人は諦めたかのように淡々と話した。

 

『……元は、この村は貧相な村だった。星晶も巨大な国に持っていかれ、飢餓に苦しんでいたのじゃ。』

 

飢餓

 

それの責任は、発展国のガルバンゾとウリズン帝国にある。

 

『…………』

 

『ライマも何もしてくれない。段々と身体は衰え、亡くなる者も多かった。そして、最初に死んだ者が現れた。』

 

老人の目は虚ろになっていた。

 

『死んだ者は、土葬や火葬の宗教国で無い為、この屋敷のこの部屋で保管する事となった。』

 

急に、バッと老人は顔を上げた。

 

『だが、奇跡が起こったんじゃ』

 

『奇跡?』

 

『ああ。そこにあったはずの死体が、グチャグチャとなって居たのじゃよ。何も、誰も触れていないはずなのにな。』

 

グチャグチャ

 

死体

 

それを思い浮かべると、ティアは吐き気を催した。

 

『極限状態になると、全員それが美味そうに見えるのじゃ。だから、全員でその肉を焼いて食べる事にした。……すると、どうだろう』

 

急に、老人は高笑いするように答えた。

 

『中から金が出てきたんじゃ!金じゃ!!それも一つじゃないぞ?一つ一つの内臓の中に、約1センチの金が!!!』

 

『………………』

 

『そこからわしは分かったんじゃ!!この世に神は居る……生贄さえ作れば、神様は人間の言う事を聞いてくれる!!!となぁ!!』

 

老人の顔は、活き活きしていた。

 

『その証拠に!発光する樹が現れた!その翌日!すなわち今日に貴様らが現れ、多くの金をわしらに贈与してくれた!!神の贈り物以外の何物なんじゃ!!神は……今、ようやく私達に向けているんじゃぁ!!!』

 

老人の言い草に、エドは喧嘩腰で突っかかった。

 

『ざっけんなよ!!クソジジイ!!』

 

エドは、縛り付けられていた爺の襟首を掴んだ。

 

更に臭いがエドの鼻を攻撃したが、あまり気にしなかった。

 

『んな事の為に、結構な人間を殺したってのかよ!!』

 

『何が悪い!?やらなければ、わしらが死んでたかもしれんのだぞ!?』

 

『仕方ない事は確かに仕方無いかもしれないけどなぁ……罪悪感一つ感じず、笑顔で推進しようとしている辺りが、悪魔そのものじゃねえか!!』

 

エドがそう言うと、老人はまた高笑いした。

 

『悪魔?はっ!!悪魔か!!』

 

老人は、見下すようにエドに睨みつけた。

 

『そんな者の存在、認めてもおらぬわ!!』

 

エドは、暁の従者と同じ、自分の思いたいことだけをやろうとする人間に腹が立った。

 

そう返事されても、ティアは冷静を保ち、やるべき事をやろうとした。

 

『……どちらにせよ、貴方達は無差別殺人犯です。騎士団の条例により、貴方達を拘束します。』

 

『ふん。やはり貴様らは騎士団か。』

 

老人が鋭く睨みつける表情をしたが、誰一人その睨みに反応しなかった。

 

ただ、拘束されて処刑を待つべきである、囚人に見えるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜火徒杭村〜

 

『よし、これで全員か』

 

全員でかき集めた住民を集めた後、錬金術で縄を練成し、それをティアが拘束する。

 

途中で起きたアニスも手伝った。

 

『後は、このまま城に戻るだけだが………』

 

エドはそこで言葉が詰まった。

 

そこで、エドは再び老人の前まで歩み寄った。

 

『まだ肝心な事を聞いていない。発光する樹は、どこにあるんだ?』

 

その話題を老人に聞いた時、老人はただ俯いているだけだった。

 

そのまま、もうどうでも良いかのように答えた。

 

『……そんなもん。偶然見ただけじゃ。』

 

『その偶然でも重要なんだ。答えろ、その樹はどこにあった?』

 

エドが問い詰めると、観念したように老人は萎んだ。

 

そして、更に暗い声で溜息を吐いた。

 

『…ああ。あの樹はな…』

 

その瞬間、乾いた音が鳴り響いた。

 

『!?』

 

瞬間、老人の頭が弾け飛んだ。

 

あたりに脳みそと肉片が飛び散り、辺りは一瞬沈黙となった。

 

沈黙が破られると、一斉に騒ぎだし、叫ぶ者も現れた。

 

『この縄を外してくれ!!』

 

『嫌ぁ!死にたくない!!』

 

『助けて!助けて!!!』

 

村人が騒いでいる。

 

『うるさい!!!!』

 

リタが大声で叫ぶと、一斉に辺りは静かになった。

 

身の危険を感じたのだろう。辺りを無言でキョロキョロしている。

 

『………………』

 

エドだけ、ある一点の方向を見ていた。

 

そこに、ある赤い光が気になっていたから。

 

『………兄さん?』

 

アルがエドに声をかけると、エドが何を見ているのかが気になりだす。

 

『…………』

 

瞬間、エドは錬金術を発動させ、赤い光の方向に巨大な突起物を発動させた。

 

『!!』

 

そこに存在した家は粉砕され、変わりに巨大な突起物が現れた。

 

『なっ………』

 

村人、騎士団、アドリビドムの人たちは状況が分からなかった。

 

『………よぉ。いつぶりだ?』

 

赤い光が、先ほどの場所よりもエドに近づいてきた。

 

歩くたびに骨の折れるような音が鳴っている。

 

赤い光が、身体に漏れているのだろう、余程のパワーを溜め込んでいるのが分かる。

 

『………結構たくましくなったじゃねえか。……ゲーデ』

 

『……ふん。お前は変わらないな』

 

紅いオーラを纏った少年が、殺意と共にエド達の下へと近づく。

 

『!!』

 

そのオーラに禍々しさを感じた全員は、エド以外戦闘体性と入った。

 

『エンヴィーとグラトニーはどうした』

 

『………帰ってったよ』

 

ゲーデの答えに、エドは眉間に皺を寄せた

 

『………帰ったぁ?』

 

『帰った。……この世界にはもう用は無い。し、面倒事に巻き込まれたくない。とか言い出して、錬金術で元の世界に』

 

『ちょっと待って、………錬金術を使えば、元の世界に戻れるって言うの!?』

 

アルが、ゲーデの答えた言葉に耳を傾けた。

 

『ああ。………一人通行するごとに、一人の人間の命が犠牲になるけどな』

 

『…………!!!』

 

その答えを聞いて、エドとアルは固まった。

 

そのまま考える仕草をして、しばらく待った。

 

目を瞑り、腕を組んで息を吐いた。

 

『……そうか。じゃぁ、もうどうでも良い。』

 

ゲーデの話を聞き終えたエドは、次に機械鎧を刃に変えた。

 

『…………やりてぇ事、とっとと始めようぜ』

 

エドの顔は、敵意を剥き出しにした顔だった。

 

その顔に、誰も押され声を出そうと思わない程だった。

 

『………ふん。』

 

ゲーデは、少しだけ嬉しそうな表情になり、小さな石を拾った。

 

そしてその石から、不恰好な石槍を作り、エドの前に構えた。

 

『!! 何あれ!!』

 

アニスが、その術に疑問を持った。

 

『あれも……錬金術…なの?』

 

『ああ。まだ上手く使いこなせていねぇみたいだな』

 

エドは、勝機が見えるとしてゲーデを睨みつけていた。

 

『よっと!!!』

 

エドは、間髪を入れずに錬金術を発動し、ゲーデに攻撃を仕掛けた。

 

『………』

 

ゲーデは、まるで読んでいるかのように攻撃を避け、

 

そして一瞬。その一瞬でエドの近くに来た。

 

『!!』

 

瞬間、ゲーデは拳でエドを殴りに掛かろうとする。

 

だが、

 

『……させるかよ』

 

機械鎧、盾の役割となった刃で攻撃を防ぎ、

 

攻撃力はゲーデの方が高い為、弾くように腕が反発した。

 

『おおっと!!』

 

その勢いを利用して、バク転を繰り出し、機械鎧の足でゲーデに攻撃を与える。

 

『…………』

 

顎に強烈な一撃を喰らったゲーデは、一瞬よろめき、その隙をエドは見逃さなかった。

 

『おらっ!!』

 

『…っ!!』

 

腹に、機械鎧でない、生身の腕で一撃を食らわせ、全力を出す。

 

エドの腕力で、ゲーデは少しだけ吹っ飛ばされた。

 

ダメージはそこまで強くないが、エドはニヤリと笑った。

 

『ようやく、お前にダメージを食らわせれた。』

 

『………………少しは変わったようだな!!』

 

ゲーデの感情が逆上したかのように、少し怒りの表情となった。

 

『よっと!』

 

エドは、すぐさま錬金術で壁を作る。

 

だが、すぐに腕力で壊された。

 

『はっ!貴様の壁なんぞ、すぐに壊してやるぁ!!!』

 

大きな音を立てて壊された瞬間、ゲーデに待たされていたのは、

 

『もう一発、喰らえや!!!』

 

エドの拳だった。

 

『ぐふぉ!!』

 

また、エドの拳を喰らったゲーデは、そのまま吹っ飛ばされる。

 

ゲーデが立ち上がった時、今度は無表情になった。

 

『……一つ聴きたいんだがよ』

 

エドが、口を開く

 

『………この森の中であった、光る樹ってのを知らねえか』

 

エドがゲーデにそう問いかけると、ほとんどの者は無謀だと考えた。

 

だが、ゲーデは

 

『ああ?扉の事か』

 

『扉?』

 

何の躊躇も無く、エドの質問に返答した。

 

『お前の世界と繋ぐ扉の練成反応だろ。』

 

『!!』

 

エドが驚いている瞬間、ゲーデが一瞬と言える早さでエドに接近してくる。

 

『ぐっ…!!』

 

鳩尾に蹴りを入れられたエドは呻き声を上げた。

 

『さっきの返しだ』

 

そうゲーデが言葉を発した瞬間、横からゲーデに向けての攻撃が襲い掛かった。

 

『!』

 

人形と練成物の壁と音の波動だった。

 

『!!』

 

だが、その攻撃も全て、巨大な壁によって遮られた。

 

練成したのはゲーデでは無く、エドだった

 

『兄さん!?』

 

『邪魔するな……お前らは割って入ってこなくて良い!!』

 

エドがそう叱咤すると、リタが叫んだ

 

『アンタ馬鹿じゃないの!?このままだと…そいつは賢者の石を大量に持ってるんでしょ!?死んじゃうわよ!!』

 

『邪魔すんなっつってんだろうがぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!』

 

リタの言葉、半分が悲鳴で埋め尽くされるように、リタの発言は埋もれた。

 

そして、続けざまにエドは発言した。

 

『……最近、お前らこの村に入らなかったか?』

 

『グラトニーが、死体がいっぱいだとか言って、喜んでたな』

 

『……食べたのか』

 

『ああ。』

 

ゲーデは、一体何故そのような事を聞いているのか、と疑問を感じていた。

 

エドは、半ば確信していた。

 

『……死体の傍に置かれた金はなんだ』

 

エドがそう質問した後、ゲーデはニヤリと笑った。

 

その瞬間、次に錬金術を発動し、エドに向けて攻撃した。

 

『!!』

 

『ただの勘定…だよ!エンヴィーが笑いながら置いとけって言ってた!勘定するのは良い事だってな!』

 

それが、金貨数枚という価値なのだろうか。

 

人間を、本当にあいつらは安く見すぎている。

 

いや、軽視している。

 

……思えば思うほど、腹が煮えくりかえる。

 

『……てめぇの、目的はなんだ!!』

 

エドが怒り交じりに叫ぶと、戦闘体性に入り、再び殴りにかかろうとした。

 

エドが近づくと感じた瞬間、カウンターの準備をしたゲーデは、また笑い出した。

 

『前も言っただろうが!!俺を捨てたこの世界を殺し……ぶっ壊すんだよぉ!!!!』

 

ゲーデがそう叫び終えた瞬間、エドの拳はゲーデの目の前でピタリと止んだ。

 

エドが、攻撃を止めたのだ。

 

『……………』

 

ゲーデは、その意味が分からなかった。

 

エドは溜息を吐いて、拳をポケットに入れた。

 

それは、まるでもう喧嘩腰を止めた

 

『なんだ。じゃぁ俺達と同じじゃねえか』

 

エドがそう答えると、ゲーデは訳が分からぬように、キョトンとした。

 

それは、どういう意味か、分からなかったから。

 

『おい』

 

エドは拳をポケットに入れたまま、ゲーデに声をかけた。

 

『お前、騎士団に入れ』

 

『………』

 

『はぁぁああああ!?』

 

一番驚いていたのは、リタだった。

 

それもそうだ。前までは敵だったのだ。

 

動揺して、当然だ

 

『ちょっとアンタ!!一体何を言ってんのよ!!』

 

『邪魔すんな。って言っただろうが』

 

エドは鋭くリタを睨みつけた。

 

その目つきに、リタは一瞬だけ怯んでしまった。

 

『……分かってるの!?そいつは…そいつは村を滅ぼした奴なんでしょ!?石に変えた奴なんでしょ!!』

 

『だが、こいつの目的は、今の俺達と同じだ』

 

エドは一度目を瞑り、そして再びゲーデに目を向けた。

 

『………お前は、この世界のどこまで知っている』

 

『もうすぐ、この世界は人類を殺すまでだ』

 

『そうか。もう十分だ』

 

エドがそう言うと、ゲーデに背を向けて、村人に目を向けた。

 

『ひぃ……』

 

その鋭い目つきに、村人達は怯んでしまっていた。

 

『こいつらを国まで連行する。行くぞ。』

 

ゲーデに目を向けて、エドは答えた

 

『待てよ』

 

ゲーデは、怒りの声で答えた。

 

『…………いつ、俺がOKと言った?』

 

『……ふん。正直、俺もお前なんかと一緒に、騎士団なんかしたくねぇよ』

 

エドがそう答えると、ゲーデは更に険しい表情となる。

 

『てめぇ…ふざけてんのか?』

 

『ふざけてねぇ、効率を考えたら、お前と行動した方が、高いだけの話』

 

エドがそう言い終えた後、吐ききれた息を吸い込んで、再び答えた。

 

『嫌だったら、断れた良い。だが、次に合った時は容赦なくお前は敵だ。』

 

エドがそう言った後、ゲーデはしばし黙り込んだ。

 

『……………』

 

黙りが終えた後、ゲーデは村人の方へと近寄った。

 

『ひっ…!!』

 

怯える村人の前に、ゲーデは石から不細工な槍を練成した。

 

『あああああああああ!!!』

 

ゲーデは、老人に槍を突き刺そうとした瞬間、そこで寸止めをした。

 

老人は、泡を吹いて気絶をしている。

 

『おら、』

 

『…え?』

 

『おら立てよ。引っ張るの面倒なんだよ。歩け』

 

ゲーデがそう言うと、村人達は大慌てで立ち上がった。

 

『ひぃぃい!!』

 

『あっ……あの!村長が気絶しているのですが…!』

 

『担げ』

 

ゲーデの一言一言で、村人は動き出した。

 

今思えば、あり得ないような光景だった。

 

さっきまで敵だった奴が、ここまで動こうとするなんて

 

『………』

 

リタとティアとアル、三人はただ呆然と立ち尽くしていた。

 

『……何してんだ。置いてくぞ』

 

エドがそう言うと、ハッとしたようにティアとアルがエドを追いかけた。

 

『兄さん!』

 

アルが大声でエドに抗議している。

 

『本当に良いの!?だってこの人は……人間を何人も…!!』

 

『始末が終えたら、開放させてもらうだけだ』

 

エドがアルにそう答えた後、ゲーデは答えた。

 

『おいエドワード・エルリック。騎士団に入ってやる代わりに、二つ条件がある』

 

ゲーデは、槍を一番後ろの村人を突きながら歩いている。

 

『なんだよ』

 

『最後まで、俺を満足させろ。悔いの無い、方向にな。もし出来なかったら、俺達ぁ敵だ。賢者の石も開放しないし、お前らも殺す』

 

ゲーデがそう答えた後、次に二つ目を提示させた。

 

『そして、この世界を本当に形が無くなるまで滅ぼさせてくれ』

 

ゲーデがそう答えると、エドは頷いた。

 

『あーあー。やってやる。やってやる。』

 

まるで、言われなくても分かっていると言っているような言葉だった。

 

『……………』

 

アルは、この時ばかりはエドの言う事が分からなくて、混乱した。

 

 

 

『待ちなさいよ』

 

後ろで、リタが呼び止めた。

 

エドは、そこでピタリと止んだ

 

『本当に、そいつを仲間にするの?』

 

『ああ』

 

『カノンノ、悲しむわよ』

 

『ああ』

 

『………イアハートの世界は、そいつに……』

 

『知ってる』

 

エドが全て質問を答えた後、リタは目を見開かせた。

 

『…………!!!!!』

 

歯を食いしばり、怒りを出来るだけ押さえつけようとしているのだろう。

 

完全な怒りが、リタを蝕もうとして、

 

それを食い止める力は、時間が経たずに崩壊した。

 

『だったら勝手に行くが良いわ!!!そいつと一緒に!!アドリビドムにはアンタの今の現状を胸糞悪く悪口だけで説明してやる!!!してやるわ!!!』

 

リタが説明を終えた後、エドは振り向かずにただ、腕を上げた

 

そして、手を振った。

 

『そうか、頼んだぜ』

 

エドがそういい終えた後、村から出て行った。

 

いつの間にか、残っているのはリタとハロルドだけだった。

 

ハロルドは、ただ無表情でエドが去った先を見据えている。

 

リタは、そのまま膝から崩れ去った。

 

『………リタっち』

 

ハロルドは振り返り、歩き出し、家路につこうとしていた。

 

その時に、去り際の時のように、声を出した。

 

『エドちゃんは、全然変わってないわね』

 

嬉しそうな声で、ハロルドは去って行った。

 

その意味が分からなかった。

 

意味が分からないまま、リタの時は過ぎた。

 

『帰ろう』

 

少しでもエドを心配した自分が馬鹿らしくなり、リタも家路についた。

 

家路についた。

説明
最終決戦の準備クエスト。その一
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
1447 1436 0
タグ
鋼の錬金術師 テイルズ クロスオーバー 

NDさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com