離さない |
◆
並木道。
緑の葉々が昼の日射しを遮るこの道を、歩くのは二人だ。
一人は、茶髪に緑眼の少年。
もう一人は、桃髪に金の瞳の童女だ。その身長差は数十センチもあって。
笑顔ではしゃぐ童女の足並みに自分のを揃えながら、少年が声を掛ける。
「――どう? 久し振りの外の空気は」
「いいよ! 気持ちいいっ」
振り返った童女が満面の笑みで返す。ふ、小さく少年の口元に笑みが零れ。
あ、と。
「笑ったーっ。御主人様笑ってくれたー」
「あははっ。――その、外で御主人様≠ヘ止めてって言わなかった? 惟」
「あわっ。ご、御免なさい、御主人さ――じゃなくて、釉様」
「様付けも必要ないけどね」
苦笑する釉。と、
差し出された。小さな手が。陶器のように淡く脆そうな指。
白磁の如き小枝程の指に、釉が手を差し伸べると、委ねるように中心に手が置かれ。
少年が握る。惟の温度がそこを伝って少年に伝わり。
あったかいな、と思う。
もう離さない、と。
何があっても、と。
その時は、そう、思っていた。
◆
夕闇。それは、黄昏。
遠くの人間を判別出来なくなる時間に。
釉は歩いていた。一人で。惟を連れずに。
惟を連れなかった理由は単純だ。たまには一人で静かな時間を過ごしたかったから。
と。釉の足が止まる。それは、目の前に少女が現れたからで。
「久し振りね。釉。何日――いえ、何ヶ月――いえ、これも違うわね」
「三年振りぐらいじゃないか? この性悪女」
「性悪言うな。この根暗が」
「何を――っ!」
「文句あるの――っ!」
怒りの篭った視線をぶつけ合い。
はあ、と溜息の声と共に視線が逸らされる。
「変わんないわね」
「そう? 僕は成長したつもりだったんだけどな。歌花」
名を呼ばれた少女が青の目を見開く。が、それも一瞬の事だ。
金髪の下の表情は即座に変わり。へえ、と。
「憶えてくれてたのね。貴方にしては中々やるわね」
「ふぅん。それじゃあ、君は僕の名前憶えててくれてないのかい?」
「そんな事ないわよ。って言うか、最初に呼んだでしょ! ……ホント、馬鹿なんだから」
呆れたように顔を落とす歌花。彼女に釉が歩みより。
「で、何しに来たの? 僕に用事でも?」
「……ええ、そうね。用事があるとすれば」
ん? と首を傾げる釉の顔を、歌花の細指が指し。
「あの子。まだ貴方の所にいるわけ?」
「……ん。ああ。当然だよ? 捨てたりする理由なんて」
「あるわよ。だって彼女は――」
その先を言おうとする歌花の唇が細指に動きを止められる。
「……何よ。そんなに先を言って欲しくない訳?」
「別に。指差されたから差し返しただだよ」
表情を全く変化させずに言う釉。暫くして彼女の指が下ろされるのを確認して、こちらも指を下げる。
はあ、と彼女が溜息をつき。
「……変わってるわよね。貴方も」
「煩いなぁ。君に文句を言われる必要はないだろう?」
「そうね。……あの子がそんなに可愛い?」
「うん」
即答した。今度も溜息をつくが、先程より深く。
「……もういいわ。さようなら。また会えればいいわね。出来れば今度も彼女がいない時に」
「そうだね。そんな僥倖が起きれば面白いかもね。惟がいる時に」
最後に一言余計に添えても、彼女は振り返らない。
此方に背を向けて、軽く手を振りながら去って行く姿は落胆しているようにも見えて。
まあ、いいか、と。
いつもの事だよね、と。
踵を返した釉は向かう、彼女の、
自分の大切な家族の元へ。
◆
「お帰りなさいませっ!! 御主人様っ!」
それは、我が家の門をくぐった瞬間に聞こえた、高い声だ。
「惟?」
首を巡らすも、見つからない。
どこだろう? と一歩前に踏み出した瞬間。
「きゃうっ!」
「はいっ!?」
足に纏わり付くように桃髪の童女がいた。あは、と釉の口から笑い声が漏れ。
「惟……」
「えへへー」
打ち付けた尻を摩りながら、惟が笑みを返す。
手を差し出すと、いつも通りの握手が生まれ。
「行こうか。ちょっと、遠い筈だけど」
「うんっ。行こっ!」
そして、門を越えた筈なのに、数十メートル存在する距離を、二人が歩き始め。
「それで――今日は御主人様、どこに行ってたの?」
「へ? 僕? 僕はね――って、一緒にいただろう?」
「そ、そんなの、朝だけだし……」
どもり出す惟。んー、と釉が唸り。
「言う事があるとすれば、アイツと会った事、かな」
「アイツ!?」
飛び上がるように目を見開いて言う惟。うん、と微笑みながら釉が言う。
「歌花と久し振りに合った。あの子も僕の事覚えててくれて――って、あれ? 顔を顰めて、どうしたの?」
「ぶぅ――っ! 釉様の馬鹿っ!」
「ええ――っ」
声では驚きながらも、表情に変化はない。
それを半泣きの少女が見て。
「釉様――――っ!!」
「は、はいっ!? うわっ! いきなり走らないでよ」
「知ーらーなーいっ! 釉様が手を離さないのが悪いのっ!」
「そっか」
離した。きゃ、といきなり重量を失った惟のバランスが乱れ、
上半身を前に倒し、慌てた足取りで一歩、二歩、
散歩目で、滑った。悲鳴が聞こえ。
「ご、御主人、様ぁ……」
「……御免」
向けられた顔は酷い有り様だった。白い肌も、服も、髪も、前側に値するものが全て泥に塗れていて。
それ以上に酷いのは顔だ。涙と鼻水、それらが地面に顔を打ちつけたことでより一層ぐちゃぐちゃになり。
「……取り敢えず、お風呂、入ろうか?」
「はい……」
頷く声は酷く弱弱しかった。
◆
揺らめく白。
それは、濃い湯気の色だ。視界を埋め尽くし、先の見通しを塞ぐ不安定な物質。
「惟?」
いるのか、と声を掛けると、反応がある。視界の奥の壁があろう場所で、靄が大きく揺れ。
見えた。桃の髪色。続いて、此方を見る金の瞳の姿が見え。
「釉様っ!」
名前を呼ばれる。金と桃の色が同時に上へとスライドし、
前へ出る。それは即ち、此方へと近付く行為で。
早かった。連続するステップ音は、彼女が走っている事を示し。
「おーい」
転ぶよ、と掛けようとした声は既に遅い。桃と金、双の色が視界から消え。
叩き付けられる肉の音と水の跳ねる音。続いて生まれた悲鳴と釉の声が虚しく響く。
「……」
無言。内心焦りながらも、二の舞を踊らないようにあくまでゆっくりと慎重に彼女に歩み寄り。
「……大丈夫?」
「はい……」
返事は案外早く返された。ふぅ、と安堵の息を釉は漏らし。
「良かったぁ。惟が怪我でもしてたらどうしようかと……――って、うわっ」
「釉様ぁ……」
位置が逆転していた。
傍に座っていた筈の釉が床に寝かされ、うつ伏せになっていた筈の惟が釉の胸に跨る。
それは即ち、少年が童女に押し倒されていると言うシチュレーションで。
「いいよね……」
何が、とは問えない。惟の手が、愛おしそうに狂おしそうに、釉の、胸を、肩を、首を、頬を、
唇を撫でようとした所で、釉がその指を咥える。
ふぇ、と惟が一瞬金の瞳を見開き、細める。
嬉しそうに。愉しそうに。
ふふっ、と笑顔を浮かべたまま彼女が顔を近付けてくる。
そこで、邪魔だと思ったのか惟が加えられた指を抜こうとする。それに、釉が咥える口に力を込めて抵抗し。
「……駄目だよ」
金の瞳が悲しそうに伏せられる。
そして。
再び瞼が開かれる。その瞳の色は、おぼろげな金色だ。淡い光を持った。
だがそれも、片目に限っての話。
淡い金の左目。その反対の瞳は、朱い。
血を彷彿とさせる紅の瞳。金の瞳と同様に、淡く光を放つ双の瞳に釉が映り。
「…………」
動けなくなる。ただ、それだけの事で。
いつものように。何度も繰り返された事。
それでも、
いつかは動きたいと思う。されるがままでは無く、自分からも何かを。
彼女の体を抱き締める事でいい。
彼女の口元に自分の首筋を押し付ける事でいい。
何でもいいから、して上げたかった。
だから。
今日は、されるがままになろうと思う。
今日も、されるがままになると決める。
「―――――」
口を開いた。声は出ない。
だから、ジェスチャーのように唇の動きで此方の意志を彼女に伝える。
優しくして、と。
「解ってるよ」
彼女が笑む。口から離した手、此方の胸に置かれていた手。
その両方を使って、彼女が吸いやすいように、釉の頭の向きを変える。
あくまで優しく、行為のように。
その瞳に、何が映っていたのかは知らない。解らない。
知りたいとも思えなくて。
「…………」
釉の意識が微睡みに沈む。
◆
絢爛な広間。
巨大なテレビを正面に据える位置に置かれたソファ。
安めのベッドなら凌駕するほど巨大なソファに、クッションを枕として寝ているものがいる。湿った茶髪。
服の襟から僅かに覗かせる首筋に、小さな噛み痕を残す少年。
不意に、小さな音。少年の瞼が持ち上げられ、
「……惟。すっきりした……?」
緑の瞳に映った童女の姿は、健康的な童女の姿そのものだ。ただ、その顔は申し訳無さ気に伏せられていて。
「御免なさい。御主人様。ちょっと、調子に乗り過ぎちゃった……」
「いいよいいよ」
苦笑する少年。疲労を全身から表す少年は、普段上げる筈の手すら出さず。
一層、惟の肩が竦められる。罰を待っているかのように。
でも。
そんな事する気はないんだよね。
するような可能性があったら契約なんてする筈ないんだから。
だから。
「こっち、来て」
「うん。御主人様。……ぶたない、よね」
「馬鹿。僕が惟を殴った事なんてあったかい?」
「な、ないよ! 御免なさい、御免なさい……」
謝りながら此方へと歩み寄る童女。ソファの、釉の頭の真横になる位置で彼女が跪き。
「ふあ。い、いいのぉ? 釉様ぁ……」
撫でた。桃色の髪が指に絡まり、惟が甘い声を出す。
上げられた顔、上気した頬に、目元に煌き。
「涙?」
「あ。ああっ。ご、御免なさいっ。い、今拭く――っわわ、私の涙なんか御主人様の指で拭わなくても。……で、でもっ、――嬉しい! ありがと」
「はは。どう致しまして」
段々体が楽になって来る。それでも、失われた体力は回復せず。
「……惟」
「な、何? 御主人様」
「ちょっとだけ、お腹空いちゃった。何か作って貰えないかな」
「わ、解りました! 今すぐ、超特急で作って来ます!!」
背を向けながらそう言って、全速力で部屋から姿を消す童女。
惟が出て行く時に開け放たれた扉が閉まると同時に、彼女の背に振っていた手を下ろす。
たったそれだけの事で。
疲れが帰って来る。虚脱感。
自分の体が鉛のような、重い金属の塊になったような感触に、溜息をつく。
なれないなぁ……。
どうしてだろう、と思う。彼女と契約したのは、本当に遠く昔の話。
どうしようもなく遠い、過去。
小さな少年と、童女との邂逅。
童女の容姿は、今と殆んど違わず。
「――――」
誰に対してでもなく、謝りたくなった。
御免なさい。
うつっちゃったのかなー。さっきは沢山謝られたしなぁ。
そう思った。その時だ。緩慢な、地面を擦る音。
それは、扉を開く音で。
釉が扉の方へ、顔を向ける。新たに差し込む光。
そこにあったのは、何かのシルエット。
それが何かは判別出来ず。
「!?」
影が釉へと躍り掛かる。
◆
咄嗟に、釉の取った行動は単純だ。
立とうとした。それは叶わず。
しかし、
失敗ではない。助かったのだから。寧ろ、有効に働き。
少年の体が床に打ち付けられる。柔らかな絨毯の触感。
だが、それを感じている余裕などない。
緩和された痛みをそのままに、転がる。
前へ。襲撃者の方へ。
全力で回転するも何もぶつからない。
だがそれも、解っていた事だ。
回転する最中に、釉は見た。一瞬前まで、自分が寝ていたソファに屹立する一本の線。
それは、しなやかに太い、鋼鉄の一本。先端には、鋭い穂が付いてる事が伺え。
その向こうに、あったのだ。
それを両の手で構え、回避された事すら意に介さずに向こう側に着地した少女の姿が。
「っ……」
両の手を地面につき、起き上がる。血を失った体は、時間を置いても殆んどの回復を見せず。
いつもの事。ただ、運が悪い。
タイミングが悪い。
このままなら、勝ち目は億や千に一つもない。それが断言出来て。
最悪だ。
そう思った。だけど、救いはあった。
彼女が、惟がいる。
しかも、血を吸った直後で、完全に全力状態の。
ならば、やる事は一つだと、
行動を開始した。時間を稼ごうと。それならば、
まずは相手の顔を見ようと、行動して、後悔した。
「久し振りね、釉。いえ、数刻振りかしら?」
「まだ二時間も経ってないと思うけどね。僕は」
そう、と頷いた金髪の少女。青の瞳に、迷いなど微塵もなく。
口論で時間稼ぎは、無理かな。
「当然でしょう?」
此方の心を見透かしたように歌花は言う。
「どうして」
「どうして私が来たかって?」
そうだよ、と釉が頷くと、彼女が笑い。
単純よ、と。
「壊しに来たのよ。貴方と、それ以上にあの子を」
「……」
沈黙。それは決意を固める為の時間。
そして、次の行動を決める時間だ。
次の行動、それは時間を稼ぐ為。
「歌花」
名を呼んだ。口論では彼女を止められないと知っていながら。だから、と言うように歌花が口を開く。
「誰が会話をしたいなんて言った?」
言葉が耳に届き、その意味を理解し切るより早く。
歌花の足が地面を蹴っていた。ハイヒールが床を穿ち。
横に転がった。刹那、先まで自分がいた場所を一本の閃光が通過し。
朱が僅かに飛び散る。
それを確かめる余裕もなく、横転を続ける。
釉の体が通った所に真紅の痕が残され、裂かれる。
赤黒の線をなぞるように二裂きにして迫るのは、銀の穂先だ。
追いつかれる、そう思った瞬間。
衝撃。鈍い音。
連続して、自分の視界が影になる。
薄暗い色、それは瞬きとも言える時間に漆黒に変化し。
聞いた。地面を蹴る音を。それは、背後への跳躍で。
数秒経ってようやく気付く。自分の体が巨大なテレビの下敷きとなっている事に。
重いな、と思い、斬られるより遥かにマシか、と納得する。
だけど。
これって結局負けなんじゃないか。
彼女の身は自由。此方の身はほぼ拘束状態。
抜け出すにも、それよりも確実に早く彼女には此方の命なんて風前の灯火の如くで。
「終わり」
よ、と彼女が言い切るのを遮った音がある。元気な声。
甲高い声は童女の声で。
「釉様! お菓子作って来たよ! 一緒に食べよ!」
世界が止まる。
◆
「あれ……?」
扉を開け放ち、部屋に足を踏み入れた惟は気付く。
彼の姿が無い事に。
代わりに、所々に飛び散る朱の色。砕け散乱するテレビと思われし物体の鋭利な破片。
そして、
「釉様!?」
「あは……、気付いちゃったのか……」
体中に小さな傷を作る少年の姿。それは、テレビの残骸の下に埋もれ。
掘り出さなきゃ。
迷いはなかった。それ以外に見るものすらなく。
「!」
反射的に後ずさった。一瞬、視界に見えた銀閃。
「ようやく来ちゃったのね。まあいいわ。遊んで上げる。――にしても、私の事を完全無視なのはどういう了見なのかしらねえ」
うふふ、と笑う金髪碧眼の少女。彼を除いて、唯一と言っていい自分の記憶にある少女の姿。
「歌花……!」
「あらあら恐い。それにしても、貴方達二人、素晴らしいわね。二人とも私の事憶えてるなんて」
もっとも、
「その理由は何なのかしらね。嫉妬かしら。ホント、恐いわ」
「この……っ!」
殴ろうとした瞬間、気付く。自分の両腕に、未だに彼の為に作ったお菓子立を乗せたお盆が乗っている事に。
どうしよう、と迷ったのは一瞬だ。
惟が両の手を勢いよく振るう。歌花に向けて。憎き相手に向けて。
ふ、と彼女が笑うのが回転するお盆越しに見えて。
上段から下段へ一気に引かれる銀の一線。
それが、お盆を真っ二つにするのを、惟は確認しない。
それよりも先に一歩を蹴り。
「!」
驚愕の表情を浮かべる彼女の眼前に現れる。その背後に、切り裂かれたお盆があり。
「歌花」
彼女の名を呼ぶ。それが最後だと自分に言い聞かせて。
「終わって」
少女の胸の中央を、童女の小さな手が、
いとも簡単に貫き。
少女を、
童女を。
真紅が世界を彩る。
◆
「釉様っ。もうすぐ終わるから待っててね!」
「う、うん。解った」
満面の笑みに、ぎこちない笑みを返す釉。
ソファに座って眺める風景。それには、血に塗れ穢れた風景だ。
数時間前には会話もした相手。数十分前には殺し合った相手。
それは、両方とも同一人物で。
嫌になるな、と思う。
初めての事だった。それは、殺人がではない。
自分の知り合いが殺された事がだ。幼馴染とすら言える相手。
それが、目の前で死んでいた。
胸の中央に空けた円から、向こうの景色を覗かせる少女。
その顔に血の気は無く。
実際、血が無かった。
「うふふっ。ふふふーん。ふふっ」
楽しそうに鼻歌すら交えて掃除する童女。その口元には、微かに唇では無い赤色が混じっており。
注意しようか迷う。
だって、
注意すれば、確実に、彼女はそれを舐め取るだろうから。
それを口で弄び、咀嚼する。
それは、余りにも悍ましく。
慣れ親しんだ光景でもあった。いつもの風景。
それは、普段は自分の血で。
ある意味、
「初めてかも知れないなぁ。他の人の血を惟が吸ってるの見たのって」
「そうだっけ? ――嫌だった?」
釉の方を見て、小首を傾げる惟。
その姿を、釉は可愛いと思う。
過去と同じく現在も、ずっとその思いは揺るがなくて。
おかしいのかな。
頭が。狂っているのかとも思い。
「ねえ。惟」
「何? 釉様!」
無駄に溌剌とした元気な声。それに、釉が一瞬だけ迷い。
「僕って、変かな?」
「? 違うよ? 釉様は凄いよ?」
「……何が凄いのか解んないけど、とりあえずありがと」
「うん。どう致しましてだよっ。釉様」
いつも通り、笑顔を返す童女。
それは、余りにもあどけなくて。
余りにも純粋無垢で。
「何か、清々しそうだね?」
「……はぅ。ばれちゃった?」
「まあ、そんなもろにやられちゃたらね」
苦笑する釉。そこに、幼馴染が彼女に殺されたと言う恐怖などは無く。
ただ、安心があった。
「ね」
「?」
再び声を掛ける。今度も、彼女は小首を傾げ。
「僕の事、好き?」
「好き」
「どれくらい好き? 一生一緒に居てもいいくらい?」
「勿論! 一生、釉様が私の事嫌いになっても一緒に居るよ!」
「はは……、それはそれは」
冗談だ、とは言えなかった。
彼女は、目の前で幼馴染を殺すような鬼なのだから。
なら、
「離す訳にはいかないか」
離す権利なんてないんだから。
どう足掻いた所で。
だったら、
一生好きで居続けようと。
嫌いにならないように、と。
だから、釉は言う。
言い聞かせるように。
「大好きだよ。惟」
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えっと、ここのサイトでは初投稿です。結構前に描いた物で、テストも兼ねてます。下手でスイマセン。宜しく御願いします。いつもはPIXIVで投稿させてもらってます。PIXIV URL=『http://www.pixiv.net/member.php?id=3171217』 追記:投稿直後ですが忘れてたので追記を…… 主人公名:釉(ゆう) ヒロイン:惟(ゆい) 歌花(かか) |
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