遊戯王‐デュエル・ワールド‐ (9)
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 日が昇り、極北にも朝が訪れる。睡眠時間は短かったが、十分に疲れをとる事が出来た。欲を言うともう少し眠りたかったが、皆起きているのに自分だけ寝ているのはだらしない気がした。

やはり、睡眠は生物にとって必要不可欠なモノだ。そんな事を考えながら寄宿舎を出て、事務所へ移動する。しかし、何故極北支部は事務所と寄宿舎が分けられているのだろうか。

「おはよ〜。今日も清々しい朝………で。」

 事務所の扉を開けると、フィフィーがすぐそこに構えていた。わざわざ待っていたのかと、チェルルは額を抑える。毎度の事ながら、律儀な…。

「…せめて、朝御飯くらい食べさせてくれないかな〜。食べないと頭回んないからさー…。」

「5秒。」

「ぇえ〜…無茶を仰る…。5分にしてよ。」

 大譲歩です、と彼女は事務所から出る。此処に居る限り俺の平穏は無さそうだと自嘲する。それに比べ、他の面子は何の苦も無く過ごしている。遊鳥と水無都は何時の間に買ってきたのか、パックの開封作業をしている。佐田儀はコーヒーを嗜みながら新聞を読んでいる。朱璃は極北支部で飼っている猫と戯れ、西稜寺とルリスは出掛けているのか、姿が見えない。

「あ、お早うチェルル。朝っぱらから大変だねー、ほとんど寝てないのに。」

「そう思ってるなら代わってよー、遊鳥く〜ん…。大譲歩で朝飯5分とか何?イジメ?」

「そう言っている間に時間が過ぎて行きますよ、チェルルさん。フィフィーを怒らせると怖いですよ?」

「うわ、そうだった。」

 怒らせるも何も、元からあまり機嫌は良くないのだが。まぁそれもデュエルが終わるまでだ、終わってしまえば普通に対応してくれる。とにかく朝食を口に詰め込み、急いで支度をし、事務所を飛び出して行く。「律儀な人ですねー…。」と水無都が呆れたように零す。チェルルと入れ替わりで、西稜寺とルリスが入ってきた。

「お、二人共何処行ってたのさ。」

「寄宿舎の裏で一戦交えていた。完敗と言わざるを得ないな。」

「スキルレベルの違いね。まだまだ修行が足りないわよ、西稜寺君。」

どうしてこんなに朝早くからデュエルをしているのか理解できなかった。西稜寺曰く、デュエリストはデュエルをする時間を選ばないモノだとか。こんなに朝早くから、近所迷惑にならないのか。それは如何なものか…やはり理解出来なかった。

 暫くして、チェルルとフィフィーが戻って来た。結果は、フィフィーの勝利。これでチェルルは22連敗。「エネコンは酷いよ、エネコンは…。」とこれまでになく項垂れていた。何があったのだろうか気になったが、“((真紅眼の陽光竜|レッドアイズ・サインライトドラゴン))”と“エネミーコントローラー”の効果を考えればあっさり解決した。

 面子が揃った所で、これからの事について話し合う。最終目的は謎の声の主を懲らしめて元の世界に帰る事だが、所在が分からないのではどうにも出来ない。

「まあ、ボクは皆さんにお任せしますよ。それ以前に、何で一緒に行動しているのかすら自分でも分かんないんですし。」

「俺らは仕事に差し支え無ければどうでもいいんだよねー。ルリスちゃんはどう?」

「アンタと同じ意見よ。それと、前々から言ってる筈なんけど…ちゃん付けは止めて。キモイわ。」

「ぶっちゃけ、こんなに早く皇軌と合流出来るとは思わなかったんだよね…。朱璃、何か良い案無い?」

「これ以上に無いオマケのアタシに聞くか。知らないよ。」

 全く決まりそうに無かった。何も良い案が出ないまま、時間だけが過ぎて行く。そんな中、フィフィーが一つの案を出す。

「どうせなら、世界一周とかどうですか?目的なんて、後からついて来ればいいじゃないですか。」

「成る程…いい案だ。俺達の当初の目的である、武者修行も並行して出来るしな。」

「しかも、異世界っていう他じゃ有り得ない特典付きだしね。それで行こう!」

 そうと決まれば、早速準備に取り掛かる。流石はデュエリスト、皆揃ってデッキの調整に入る。途中、デュエルを交えながら具合を見る。何だかんだで、結局チェルルはフィフィーに勝てなかった。余談だが、遊鳥が何気なくフィフィーに勝っていた。

「ねぇ、水無都君…。“ジャンク・ブースター”の効果ってチートじゃない?」

「ライフ半分払うから妥当でしょう。特殊召喚したモンスターは蘇生制限にも引っ掛かりますし。」

「ええー…。そんなモンなの?まあ、1枚しか無いってのが唯一の救いか。」

「そう言うチェルルさんこそ、陽光竜と強制転移のコンボは酷いですよ。何ですか、“黒炎弾”で2400ダメージ喰らって、また2000ダメージとか。アホですか。」

 何だか言い争っているが実力が近い者同士気が合うらしく、時折お互いにアイディアを出し合っている。思いがけない奇抜なアイディアが飛び出す事もあった。

 水無都とチェルルがそうしているように、遊鳥はフィフィーと、西稜寺はルリスとお互いに協力しながらデッキを作り上げて行った。その間、暇な佐田儀と朱璃は2人で人生ゲームをしていた。

「遊鳥さんのデッキは、エクシーズ召喚のしやすい作りをしてますね。」

「そーだね。だから、魔力カウンターとエクシーズのデッキにしようかと思うんだ。」

「じゃあ丁度いいです。昨日、“No.39 希望皇ホープ”を奪っ…手に入れたので、使ってみてはどうですか?」

「いいの?マジで?何か聞こえちゃいけない単語が聞こえたような気がしたけど、有難く使わせてもらうよ。」

 或る意味いいコンビなのだろうか。それよりも、何時の間に賊の首領からホープを奪ったのだろうか。それは乙女の秘密という事で。ちゃんとホープレイも奪っ…入手済みだ。

 結局、その日はデッキを完成させるだけで日が暮れてしまった。時間を掛けた分、それぞれに今出来る最高のデッキとなったに違いない。

「佐田儀さんも一緒に来れたら良かったんですけどね。」

「まあ、私は此処の警備主任ですからね。残念ですが、仕方のない事です。…まあ、そうですね。今の皆さんの力がどれ程か見極める事くらいはお手伝い出来ますよ?」

 その一言に、一瞬にして空気が凍り付く。何時の間に装備していたのか、佐田儀は立ち上がりデュエルディスクを構える。謎の威圧が、皆を震え上がらせる。

「そうですね、遊鳥君と水無都君。まずはレベルの低いお二人からですね。」

「「………え、ちょ、待っ、

「問答無用です!さあ、かかってきなさい!」

「「ぎゃあああああああ!!?」」

 これはまた暴走してるんじゃないかと、頭を抱える西稜寺だった。

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「先攻は差し上げます。全力で掛かって来なさい!」

「ああもう…水無都、俺から行かせてもらうぜ。フィールド魔法“魔法都市エンディミオン”を発動して、“マジカル・コンダクター”を召喚!下手に魔法使うと、不利になるぜ?カードを2枚セットして、ターンエンド。」

 フィフィーの話によれば佐田儀は半端じゃ無い強さらしいが、どの位の強さなのかは自分の目で確かめないと分からない。運良く新しく組み込んだエンディミオンが初手に来たから少しは運びが良くなるだろう。

「成る程…“魔法都市エンディミオン”ですか。破壊は考えない方が得策ですかね。まずは“グレート・アンガス”で様子を見ましょうか。バトルです!」

「様子見で攻撃してくんの!?勿体無いけど、仕方無い…即効魔法発動、“収縮”!“グレート・アンガス”の攻撃力を半減して、エンディミオンに1つ、コンダクターに2つ魔力カウンターを置く!」

 “収縮”の効果で攻撃力が900に半減し、返り討ちとなり800ポイントダメージを受ける。しかし、この程度のダメージは想定内だと言うように笑う。確かに、厄介なカードを早めに無くしておくには軽微なものかもしれないが…。

「カードを3枚伏せ、ターンエンドです。さぁ、水無都君のターンですよ?」

「言われなくても分かりますよ!ボクのターン、ドロー!手札から“調律”発動!デッキから“クイック・シンクロン”を手札に加えて、デッキの上から1枚破棄、それぞれに魔力カウンターを追加です。更に魔法発動、“手札抹殺”!」

「水無都君それ好きだね!?…俺は構わないけど、何で“調律”使ったの?」

「コイツの為ですよ、“シンクロ・エクスプローラー”召喚!」

 「ああ、成る程。」と納得する。だが、“シンクロ・エクスプローラー”が手札に来なかったらどうするつもりだったのだろうか…。まあ、手札に来ると確信あっての事なんだろうなと思っておく。

「レベル2の“シンクロ・エクスプローラー”にレベル5“クイック・シンクロン”をチューニング!レベル7、シンクロ召喚!撃ち抜け、“ジャンク・アーチャー”!」

 攻撃力2300と1700。通れば勝てるだろうが、そう簡単にいくまいと攻撃をせず、ターンを終了する。

「良い判断ですね。ですが、或る意味失敗でもありますよ。相手フィールド上にレベル7以上のシンクロモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない時のみ、このモンスターは特殊召喚できる…。さあ、力を見せてさし上げましょう!“((北星七獣|ポラリス)) グリフォン”特殊召喚!このモンスターはシンクロモンスターの効果を受けず、シンクロモンスターとの戦闘では破壊されません。」

 佐田儀が主とする、北星七獣の内、1体目。それぞれ召喚条件が厳しいものの、超強力なモンスターばかりだ。グリフォンは雪の様に純白の体躯の、アンチシンクロモンスターだ。強力過ぎてフィールドに1体しか存在できないが、それでも十分な脅威だ。

「しかも攻撃力3000!?Sinモンスターより質の悪い…。どうしろって言うんだよ。」

「まあ、アーチャーは諦めろって事ですね…。ゴメンよ。」

 グリフォンの吹き起こす暴風で、アーチャーは呆気無く吹き飛ばされてしまう。今はコンダクターの方が重要だ。ここはアーチャーに身代わりとなってもらう。

「さーてと、俺のターンか。どうするかな〜…あの化物。攻撃力3000は厳しいな…。取り敢えず“魔導戦士 ブレイカー”を召喚して、効果でリバースカードを1枚破壊しておこう。」

 破壊したカードは“聖なるバリア ‐ミラーフォース‐”だった。攻撃出来ない状況だったとしても、厄介なカードを破壊出来た。カードを1枚セットし、ターンを終了する。

「おや、モンスターは攻撃表示のままで良かったのですか?策有って…と言う事でしょうが、そうはさせません!“大嵐”を発動、フィールド上の魔法・罠を全て破壊です!」

「あー、うん。そうだろうと思ってたよ。リバースカード発動!“ディメンション・マジック”、そして“転生の予言”!まずは、“転生の予言”の効果で墓地の“手札抹殺”と“死者蘇生”をデッキに加えるぜ。んで、“ディメンション・マジック”の効果でブレイカーをリリース、さあ、出番だぜお姫様!“ブリザード・プリンセス”を特殊召喚!そして、“北星七獣 グリフォン”は破壊させてもらうぜ。…あ、エンディミオンは破壊される代わりに魔力カウンターを1つ取り除くよ。」

「おや…お膳立てしてしまいましたか。これは困りましたね…。」

 とは言っているものの、全く困った顔をしてない。むしろ、この瞬間を待っていたとでも言いたげな顔だ。

「それでは、2体目のお披露目とでも行きましょうか。自分フィールド上のモンスターが破壊されたターンのみ特殊召喚できる…。“北星七獣 サラブレッド”特殊召喚!ただ、自分のモンスター1体を墓地に送らなければ攻撃できませんがね。カードを1枚セットして、ターンエンドです。」

 2体目の北星七獣の攻撃力は3500。更に、効果では破壊されない効果を持っている。攻撃制限があるとは言え、厄介な事には変わりない。そう容易く攻撃力3500は越えられない。そんな難関を残し、水無都のターンになる。

「ボクのターンですね…。」

「どーよ、あの壁。越えられるかい?」

「邪魔が入らなければ、何とかなります…“ジャンク・シンクロン”召喚!効果で墓地の“鍵戦士キーマン”特殊召喚、効果で自身をレベル3に!自分フィールド上にチューナーが居る事で、手札から“ブースト・ウォーリア”を特殊召喚!手札から即効魔法“フォトン・リード”発動!手札から“ADチェンジャー”特殊召喚!」

「一気に4体も…!でも、レベル8…?デストロイヤーじゃ、アイツは倒せな…

「レベル3“鍵戦士キーマン”、レベル1“ブースト・ウォーリア”、“ADチェンジャー”に、レベル3“ジャンク・シンクロン”をチューニング!果敢な魂、不屈の刃、無尽の闘志…立ちはだかる全てを薙ぎ掃え!レベル8、シンクロ召喚!駆け抜けろ、“ジャンク・ブレイヴァー”!」

 両手に大剣を持ち、白銀に輝く鎧を身に纏った、シンクロ素材が全て戦士族で無ければならないジャンクの勇者。シンクロ素材にしたチューナー以外のモンスターの数だけ相手モンスターを攻撃できる能力を持っている。

「シンクロ召喚時効果、相手モンスター1体の表示形式を変更!ブレイヴァーでサラブレッドを攻撃!」

「サラブレッドが…!こうも容易くやられてしまうとは、恐ろしい方です…。ですが、これ以上はやらせませんよ!永続罠発動、“北極星の残光”!北星七獣と名のつくモンスター限定で特殊召喚できるカードです。…これで3体目ですね、“北星七獣 アルマジロ”!」

「守備力3000…ブレイヴァーじゃ無理か。カードを2枚セットして、ターンエンドです。」

 激しいデュエルを見守る。現状況では遊鳥と水無都が優勢に見えるが、彼女…フィフィーだけは違った。彼女だからこそ知る、佐田儀の力。アレを出されたら、誰だろうと負けを認めざるを得ない。

 

説明
早くも極北にて合流できた遊鳥と西稜寺。
一夜を明かして、次への旅路へ…と思いきや、遊鳥&水無都VS…?
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