加奈子の・・・その4
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「――でさ〜今度の休みなんだけど〜」

『お前、ここ最近よく俺に電話してくるな。そんなに俺の声を聞きたいのか?』

「はぁ――っ!? 何言ってんだよ。そんなわけないだろ! あたしは京介が加奈子の

声を聞けなくて寂しい思いをしてると思ったから電話してやってんの。そこんとこ勘違いすんなよ」

 あたしが京介の声を聞きたいがために電話するとか……そんなわけない、だろ。

 あたしは可愛くて優しい女だかんな、女ッ気のない京介のためにわざわざ電話してあげ

てるだけだかんな。

 マジで勘違いすんなよ。

『はいはい。勘違いなんかしねーよ』

「む……っ」

 そこまでハッキリ言われると逆にムカつく。少しくらいはあたしの声が聞きたいとか

思ってくれてもいいじゃんか。

 なんだか電話をしているあたしが惨めな気分になってくる。

『おい、加奈子? どうしたんだ?』

「な、なんでもねーよ。それよりも今度の休みだけどさ〜加奈子の買い物に付き合ってよ」

『はぁ? 俺がお前の買い物にか?』

「そうだよ。ちなみに拒否は許さないかんな。拒否したら、あやせに京介がセクハラを

してきたってチクってやるかんな」

『な゛――っ!? おま、それはズルいだろ!』

 ズルいのは京介の方だろ。あたしがこうして電話してやってんのに、何も思わないと

か言いやがって。ほんと京介はズルい。

「だったら、加奈子の買い物に付き合えばいいじゃんか。そうしたら、あやせには黙っててやるぞ」

『あやせにセクハラなんてしてねぇって言っても信じそうにないし……分かったよ。

お前の買い物に付き合えばいいんだな』

「うん♪ 集合場所とかはまた後で連絡すっから、逃げんじゃねーぞ」

『はいはい。加奈子様に従ってやるよ。チクショウが』

 

 京介との電話が終わる。さっきまで賑やかだったのが一瞬にして静かになる。この急に

静かになる感覚は好きじゃないけど、今はそんな感傷に浸っている場合じゃない。

「よし! 京介とのデートを取りつけたぞ」

 することはただの買い物だけど……男と女が一緒に出かけるのはもうデートだよな?

 京介とのデート…………

「にへへへ……♪」

 自分でも分かるくらいに顔がだらしなく緩む。こんな緩んだ顔、誰にも見せることは出来ないね。

「――と、浮かれるのもいいけど、着ていく服を決めないと」

 最高に可愛い加奈子様だけど。より一層可愛くなるように、あたしの可愛さが際立つ

ような、そんな服を選ばないと。

 もうデートという戦いは始まっているのだ。

「……頑張るぞ」

 

 ――デート当日。久しぶりに再会を果たしたあの公園で京介を待つ。

 今日のファッションはさすがモデルといった感じでキマっているはず。これなら京介

もあたしの可愛さにメロメロになんじゃねーの?

 加奈子様の可愛さが百パーセント……いや、千パーセントくらい出ているはず。

「お。まさか俺よりも先に居るとは思わなかったな」

「よっ、京介」

 バシーンと、ハイタッチをする。

「――って、あたしが先にいたらおかしいのかよ!」

「いや……なんだか加奈子って平気で遅れてくるようなイメージがあってな……」

「加奈子はそこまで我儘じゃねーよ」

 それにせっかくのデートなのに遅れてくるわけないだろ。一分、一秒でも長く京介と

のデートに今日という時間を使いたいんだから。

「悪い。それで買い物って何を買うんだ? つーか、先に言っておくけどお前に奢る

ような金は持ってないからな」

「別に奢ってもらおうだなんて思ってねーよ。いや、せめてアイスとかクレープくらい

は奢ってもいいんじゃねーの?」

 元々奢らせる気はなかったけど、デートといえば男の人に何を奢ってもらう。

 これはやっぱり外せないよな。

「まぁ、それくらいなら奢ってやってもいいけど……」

「にしし……♪ じゃ、行こ――って、ちょっと待った。京介、一つ大事なこと忘れてんぞ」

「大事なこと? 何かあったか?」

 あたしの言っていることが本気分かっていない様子の京介。マジでコイツは鈍感すぎだろ。

「何かあったって、この格好を見ても分かんないのかよ」

 せっかくオシャレをして可愛らしい服を着てるっていうのに……普段とはまた違うよ

うな服で攻めているっているのに……それについて何の感想もないとかマジかよ。

「随分とヒラヒラした格好だな」

「――なっ!?」

 そ、それだけ? それだけの感想なのか? 色々と頭を悩まして選んだ服についての

感想がヒラヒラしてるだけって、どんだけだよ!

「もっとこう、何かないのかよ! こういうのは普通相手の服装を褒めるもんだろ」

「そういうものなのか?」

「そういうもんなの! それが常識なんだかんな!」

 実際は知らないけど、あたしは京介にこの服装を褒められたかったんだから、あたし

に対しては間違いじゃないはず。

「そっか。似合ってるぞ加奈子」

「う……っ」

 とってつけたような言葉なのに、物凄く恥ずかしい気分になる。そして心の中では嬉

しく思ってしまう。絶対に適当に言った言葉なのに……

「行くぞ、京介!」

「あ、おい! 手を引っ張るなよ!」

 決めた。今日の目的地がたった今決まった。適当に色んな店を見て回ろうかと思った

けど、そういうのはいいや。

 今日は服屋に行って京介に色んな服装にあたしを見せて、心の底から可愛いって

言わせてやるんだかんな!

 覚悟してろよ京介!

 

「服を買うのか?」

「そうだよ。加奈子様に似合う最高の服を買うの」

 そして京介にあたしに対する認識を変えさせてやっからな。絶対に京介の口から

可愛いって言わせてやっから。

「ん〜まずはコレだね。着替えてくるから京介はこの前で待ってろよ」

「ま、マジかよ……外で待つのはダメなのか?」

「外で待ってたら意味がないだろ。ちゃんとここで待ってもらって服を見てもらわないと」

 買っていない服を持って外に出ることなんて出来るわけないだろ。

「いや、でも……な、ここで待つというのは……」

「いいから待つ! 逃げたらしょうちしないかんな!」

「うへぇ……」

 きちんと待つように言って更衣室の中へと入る。カーテン一枚を隔ててその向こうに

京介がいる。カーテンを開ければあたしが着替えている姿を見ることが出来る。

 なんだか凄くドキドキする……服を脱ぐ音さえも京介に聞かれているんじゃないかと

思ってしまう。

 うるさく鳴り響く心臓を抑えながら選んだ服に袖を通す。最初に選んだ服はカジュアル

なタイプの服。健康的でハーフパンツが少しの色気を醸し出している。

 これなら京介も意外と――

「どうよ京介」

「お、おぉ……」

 カーテンを開け京介に自身の姿を見せる。さて、京介はなんて言ってくれるのだろうか?

「なんつーか、加奈子っぽくていいんじゃないか?」

「ん……」

 確かにあたしっぽい感じかもしんないけど、もっとこう……な?

「それを買うのか?」

「……買わない。違う服も確かめる」

 この程度じゃ京介はなんとも思わないらしい。もっと京介が興味を示すような服にしないと……

「次はこれにする……」

 また更衣室に入り選んだ服に袖を通す。今回は京介のあたしに対するイメージから離

れた服を選んでみた。

 自分で言うのも変だけど、京介はあたしのことをバカで我儘な女だと思っているはず。

 だったら、そのイメージの逆をいくような服――清楚でピシっとした感じの服を選べ

ば京介もなにか思ってくれるはず。

「今度はどうよ?」

 正直、こういう服を着るのは恥ずかしいんだけど、京介に可愛いって言わせたいからね。

 少しくらい恥ずかしいのは我慢してやる。

「随分、加奈子のイメージから離れた服だな」

「それだけ?」

「うーん……似合ってるぞ?」

「――次!」

 この服はダメだ。反応が鈍すぎる。こんなんじゃ、あたしは満足しない。

 もっと称賛の言葉が欲しいの!

 そしてここからあたしの戦いが始まる。

 

『これは!?』

『いいんじゃないか?』

『じゃあ、これは?』

『悪くは無いと思うぞ』

『これ!』

『似合ってるな……』

『これ――』

 

「はぁ……はぁ……マジで京介、手強すぎだろ」

 あたしがどんな服を選んでも似たような感想しか言わない。いつだって自信満々の

あたしだけど、さすがにへこみそうになる。

 京介はあたしに興味なんてないんじゃないかって――

「それで加奈子はどの服を買うつもりなんだ?」

 ほら、いつまで経ってもこんな反応しかしないし。マジでバカじゃねーの。

「……京介が選んで」

「はぁ?」

「京介が一番可愛いって思ったのを買うから選んで」

「いや、でも――」

「いいから選んで! 京介が加奈子に着て欲しいって思う服を選んで!」

 ズルい方法だけどもうこれしかない。京介が選んだ服なら買う価値はあるし、もしか

したら可愛いって言ってくれるかもしれない。

 ううん。絶対に可愛いって言わせてやる!

「京介は加奈子の犬なんだから、さっさと選ぶの」

「誰が犬か! ったく、選べばいいんだな」

 京介が選んだ服。その服は――

 

「……京介って、こういう感じの服が好きなのか?」

「す、好きっつーか、嫌いではないな」

 京介が選んだ服はヒラヒラ、フワフワとした実に可愛らしい服だった。しかもスカート

の丈がやや短いし。

「京介のスケベ……」

「な――っ、何でそうなるんだよ!」

「にひっ♪ それよりもどーよ? 京介の好きな服を着ている加奈子様は」

 ひらり、と一回転して全体を見せる。

「…………じゃねーの」

「あ?」

「可愛いんじゃねーの」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 ついに出た言葉。恥ずかしくて素っ気ない感じで言っているけど、あれは素の感情だ。

 やっと京介に可愛いって言われた。この言葉を言わせただけで、今日のデートはほぼ成功だ。

「ちょ――っ、加奈子! おま、何飛び跳ねてんだよ。見えるって! 色々と見たら拙

いものが見えてるって!」

「…………え? わー見るなっ!」

「ぐはっ!?」

「……ぁ」

 恥ずかしさのあまり京介にあやせ仕込みのキックをかましてしまった。

 うわ……結構、いい感じに入っちゃったよなこれ。これだと暫く起きてこないかもしんないな。

 う〜、まだまだ時間的にはデートが出来るんだけど、これでお終いっぽいな。

 この先の続きはきちんとしたデートの時でいいかな。

 

 ちゃんと京介から誘ってきたデートの時で……

 

説明
割と長くなりましたね。この長さは初じゃ?
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俺の妹がこんなに可愛いわけがない 来栖加奈子 高坂京介 

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