不思議的乙女少女と現実的乙女少女の日常6 『お料理教室』
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「え〜、第一回『貴方の昼御飯なんですか?』 の時間です」

 

「馬鹿な事言ってないで、早く始めるわよ」

 

 リコ宅の台所。日曜日の昼。

 

 広幅のレースが付いたキャミソール、紺のジーンズというラフな服装をしているのがリコ。

 

 赤の生地に白と薄緑のチェックのあるフリルレースワンピースを着用しているゴスロリ娘がヤカである。

 

 晴れた日曜日に、年頃の女子が台所に居る理由。

 

 それは、昨日ヤカが、おそらくは突発的に思いついたであろう予定のためである。

 

 リコによる、ヤカのための料理教室。

 

 その予定は、本日消化される事となった。リコの両親が、たまたま予定が有って出かけてしまったためだ。まあ、出かけていなくても予定は決行していただろうが。

 

 本来、昼飯は用意してくれるはずだったのだが、

 

『あ、昼食はねー、自分たちで作るからお構いなくですよ?』

 

というヤカの一言で無くなってしまった。リコとしては失敗した時の保険を作っておきたかったのだが、とんだ計算外れである。失敗した場合、ヤカ宅で昼食を取るという選択肢も考えたが、この分だと、ヤカは向こうにも根回ししてそうだった。当然、悪気は無いだろうが。

 

「ではリコ先生! 今日は何を作るのですかっ」

 

「肉じゃがよ」

 

「肉じゃがですかぁ。それはどうやって作るのですか?」

 

「それを今から説明します」

 

 メニューを肉じゃがにしたのは、材料が有った事と、その料理自体がとても簡単であるからだった。基本的な料理であるため、煮込み料理の手順は大抵覚えられるはず。たぶん。

 

「まあね、私が教えなくても、アンタが無駄にたくさん持ってきた料理本に書いてると思うけど」

 

 テーブルの上には料理本がこれでもかという程に置かれていた。十冊を越している事は間違いない。何処から持ってきたのかは分からないが、表紙を見る限り、内容的には重複しているものが多いはずだ。きっと、ヤカは中身を確かめないで持ってきたのだろう。

 

「いやぁ、だってさ。料理本に書いてある通りに作るのって、なんだか屈辱的じゃない?」

 

「基本を屈辱とぬかしやがるかアンタは」

 

 これはやはり骨が折れそうだと肩を落とす。ヤカの料理ベタは以前から知っている。

 

 玉子焼きを作ろうとしたら、その総量の6分の1が殻だったりした事があった。作ってもらったカップラーメンを一口食べたら吐きそうになった事もある。

 

ともあれ、2人は作業に入った。

 

まずはジャガイモの皮を向く。ピーラーを使用してもいいが、あえて包丁で行

う事にした。まず、ヤカに包丁を扱うという事がどれほど危険であるか、知っておいて欲しかったのだ。ヤカは包丁を持った事などほとんど無いに違いない。それ故にこその配慮だった。だが、いきなり包丁で皮むきをやろうとしても、どうせ出来るはずが無い。頃合を見て、ピーラーに切り替えようというのがリコの考え。

 

2人とも包丁を持って、リコはまな板の右側、ヤカは左側に陣取る。

 

「じゃあ、包丁を軽く持って………………」

 

 と、リコは隣の幼馴染を見て。

 

そこには左手を胸に構え、包丁を大きく上段に構えたヤカの姿があった。

 

「いや、違う。何かが大きく間違ってる」

 

「え? そう?」

 

「その大振りな構えで、ヤカは一体何を料理するつもりなの? え? 何処の流

派? 何流の剣術なの?」

 

 結局、怖くなってきたのでピーラーを使用する事にした。その決定にやや不満顔だったヤカだが、リコの真剣な様子に渋々折れてくれた。

 

なんというか…………この料理教室が本当に無事に終わるのか心配になってきたリコだった。

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「…………じゃあ、牛肉をお鍋で炒めましょか…………」

 

「分かりましたリコ先生っ」

 

 元気な声のヤカと対照的に、リコはやや疲れていた。

 

疲労の理由であるが…………ザルにあげられた野菜を見れば、推して知るべし。

 

綺麗に四つ切にされたジャガイモと、恐ろしく歪な形で奇妙なオブジェを形成しているジャガイモ。

 

くし切りに形を整えられた玉葱と、元の形を推測する事が不可能なまでに破砕された玉葱。

 

半月になっている人参と、むしろこうする方が難しいのでは無いかという程に前衛的な形をした三角錐の人参。

 

二箇所で等分に切断された糸こんにゃくと、二箇所くらいで切断したら良いよと教えたにも関わらず何故か細切れになっている糸こんにゃく。

 

言うまでも無く、前者がリコで後者がヤカである。

 

時間も物凄くがかかった。

 

ここまで指示をないがしろにされ、尚且つその行動が真剣の果てに成された行為である事を鑑みれば、むしろ何かしらの才能を感じてしまう。

 

ともあれ、ヤカの拙い包丁捌きに神経を尖らせていたために、リコは疲れているのだ。野菜たちの成れの果てに関しては、なんとなくそうなるのでは無いかと予測していたので…………その結果は予想の遥かに右斜め上だったが…………それほどダメージは無い。

 

「まず、サラダ油を熱して…………」

 

「サラダ油ですね!」

 

 リコの指示に従って、ヤカが動く。勢い良く、戸棚を開けて、ボトルを取り出す。

 

「先にサラダ油を入れてね」

 

「分かりました」

 

 力強く答えて、ヤカがボトルを傾けた所で。

 

「いや、待ってちょうだい」

 

 リコがヤカの腕を掴み、それを止めた。

 

「え、何?」

 

「…………何を入れようとしてるの」

 

「サラダ油」

 

「落ち着いてヤカ。…………それは純米酢よ」

 

ヤカは自分の持っているものとリコを交互に見て、

 

「…………じゅんこめず?」

 

「そう、それは純米酢よ。貴方がこれから入れるのは?」

 

「サラダ油」

 

「そう、サラダ油。だからその純米酢をすぐに戻して……ちょっ…………待って

だからどうして入れようとするの早く戻して止めなさい」

 

 その後なんとか、牛肉を始め各種野菜類を炒めさせる事には、これはなんとか

成功したのであった。

 

…………少し焦げたけれども。

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肉と野菜を炒めて、水と調味料で煮込みが開始された。

 

「どーんどんどんどん出来上がるー。奇跡の料理が爆進中ー」

 

 ここまで来ると、ヤカのテンションが段々おかしくなってきた。まあ、大体い

つも変だが。妙な歌詞と妙なメロディで鍋の中を覗いていた。

 

「ジャガイモことこと牛肉ふわりー…………その姿はまるで宙に投げだされた人体の様であったー」

 

 グロイわ。

 

と、突っ込みたい衝動に駆られたが、料理は次の段階に進んでいるのだ。そんな暇は無い。

 

煮立ってきて、アクを取り、ジャガイモが柔らかくなってきた所で。

 

「煮込めてきたし、そろそろ調味料入れていくわよ」

 

「はいリコ先生!」

 

 元気だけは良いヤカは、リコに言われた通りに調味料を計量し、入れていく、リコが自分で作る際は計量など面倒臭くてしないのだが、最初は基本が大事。料理ベタな人間というのは、基本を無視して妙な冒険をしたがるものだ。

 

「お酒を大さじ4〜5杯」

 

 酒を大さじ4〜5杯。きちんと計量してヤカは入れた。

 

「みりんを大さじ3〜4杯」

 

 みりんを大さじ3〜4杯。まあ…………大体正しくいれる事が出来たと思う。ヤカのテンションが高まってきているために、大さじ一杯分多めに入ってしまったが。

 

「砂糖を大さじ3〜4杯。…………違う、それは重曹よ。間違っても入れないでね。いやだから違うってなんで私の反応見て入れようとするのだから止めなさいって」

 

「思うに、人間は常識に囚われすぎていると思うんだよぅ。人は常に進歩する生き物なんだよリコ」

 

「それは間違った進歩よ」

 

 最後に醤油を入れる。そして、煮汁が少なくなるまで煮込むのだ。

 

ヤカがその場で回転しながら醤油を入れた。少し入れすぎな感が有ったが、まあ良いだろう。

 

………………まあ、とにかく。なんとか完成したわけだ。

 

出来上がったからには当然食べる。やや不安は残るが、食べられないという事は無いだろう。基本的に、味付けは調味料のバランスで決定される。自分が監督していたのだから、妙な味付けになるはずが無いという自信がリコには有った。味見もしたし。

 

炊飯器で炊いていた米は、かなり前に出来上がっていた。それだけ、肉じゃがというシンプルな料理に時間をかけてしまったわけだ。まあ、ヤカなので仕方が無いと、リコは割り切る事にした。

 

 配膳が終り、ついに昼食にありつけるわけだ。ちなみに時間は午後の2時を回っていた。

 

配膳されてみれば、ちゃんとした料理に見える。

 

まあ、ヤカの切ったジャガイモは細かすぎて完全に崩れてしまって、残っているのはリコの切ったものだけだし、他の野菜にしても妙な形のものはたくさんあるのだが。

 

リコが眼を輝かせて、早く食べよう的な眼差しを向けてくる。

 

眼で語られなくとも、ここまで来て焦らす理由は無い。

 

「じゃあ、食べようか。お腹も空いたし。ヤカ、良く頑張ったわね」

 

 ヤカは基本的に、飽きっぽい性格だった。料理をすると言い出した時点で、リコはヤカが途中で投げ出して、結局自分が最後までやる事になるのだと考えてもいたが…………ヤカは最後までやりきった。

 

大した事では無いが、幼馴染であるからヤカの性格は良く理解している。リコはヤカを素直に褒めてあげたかった。

 

 ヤカは気恥かしそうに頬をかいた。

 

「いやぁ、そんなに褒められても」

 

「凄い事だと思うわよ。…………さ、食べましょう。いただきます」

 

「いただきまぁす!」

 

 口に入れて0.5秒で2人とも吐き出した。

 

 

 

 

 一体何が悪かったのだろうか。

 

今となっては全てが不明で。

 

味見をした時には、確かにそれなりの味だったのだ。煮込んでいる間にどんな超反応が起こったのだろうか。

 

ジャガイモは恐ろしくパサパサしていて、牛肉はまるで粘土を食べているようであった。繊維の触感しかしない人参に、糸くずの様に頑固な硬さを発揮した糸こんにゃく。

 

味に至っては、恐らく人類が到達しうる究極の味にマイナスをかけてさらに土足でそれを踏みにじったような奇跡を演出していた。

 

一体何が悪かったのか分からない。

 

この事件は、2人の間で『一度傾いたら二度と戻らない砂時計事件』として語り継がれるのであった。

 

 

 

全てが終わった後で。

 

台所から事件の痕跡を全て無くした後で。

 

先程直面した人類の奇跡。そのショックが抜け切らないまま、2人はテーブルにうな垂れていた。

 

「ところでさ…………」

 

「…………どうしたのぉ?」

 

「どうしていきなり料理をする気になったの?」

 

 ヤカが料理をするなどと言い出さなければ、日曜の昼にこれほどまでダウナーな気分にもならなかったはずだ。せめて、惨劇の舞台背景くらいは聞いておきたい。

 

「ん? ああ…………これだよ」

 

 さすがのヤカも色々とダメージがあったようだ。やや元気無さげに、ノロノロと動いた。

 

 テーブルに置いていた幾つかの料理雑誌の中から、一つの雑誌を取り出す。しかし、取り出したそれは料理雑誌などでは無く、もっと別の何かだった。

 

「これって…………『週間アトランティス』?」

 

それは、ヤカが愛読しているとんでも系の雑誌だった。内容はというと、まあ、未確認飛行物体だの謎の未確認生物だの古代の超文明だの霊だのをとにかく胡散臭く取り扱っている雑誌だった。

 

「これがどうかしたの?」

 

「一番裏の方。見て見て」

 

「裏…………? でもこの雑誌って…………」

 

 胡散臭い内容の特集を高速でかっ飛ばして一気に目的のページらしい場所に辿り着いた。

 

リコは、そのページを見た瞬間、激しく後悔した。何に後悔したかというと、何か色々なものに対してである。

 

「この占い、結構当たるんだよ?」

 

 首を傾げて言うヤカに、リコは最早何も言えなかった。いや、言えなかった。言うべきか言わざるべきかとても迷ったが、結局言わなかった。

 

アンタ、この雑誌先週のじゃないの? と

説明
想像以上に普通の流れになってしまった。
難しいww
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コメント
>華詩さん シュールストレミングを想像してみて下さい・・・アレと同格です。(バグ)
どんな味の肉じゃがだったんでしょうか。食べてみたい気もしますけど、ちょっと怖いですね。(華詩)
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