慧音×妹紅
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「なあ慧音。私がもしいなくなったらどうする?」

「―――は、何を言うかと思えば。お前がいなくなったところで……」

 

 いなくなったところでどうなる?

 ―――竹林の案内がいなくなるが、それはあのてゐとか言う兎がやるだろう。

 もしくは鈴仙か。

 ……永遠亭の姫……輝夜は遊び相手がいなくなってしまうことになる。まあここは問題は特に無いだろう……外界にも認知され始めた永遠亭だ。遊び相手には事欠かないだろう。

 ……ここまで考えて寒気がした。

 私は、どうなのだ?

 妹紅は、私に質問をしている。

 つまり、妹紅が答えを聞きたい対象は私だ。

 妹紅は柱に身を寄せてうなだれている。

 そんな妹紅が、怖くなった。

 

「どうもしないさ」

 

 口から出たのは、自分の思った事とは違うことだった。

 「そうか」と妹紅は一言だけ言い残し、そのまま頭を垂れた。

 恐らく寝るのだろう。

 ……ぎゅう、と胸が締め付けられる感覚がした。

 妹紅が、いなくなる。

 私にとって、それは―――

 

「慧音」

 

 ひ、と声を漏らしてしまった。

 妹紅がいつの間にか目の前にいて、私を見つめている。

 その目の中に、私がいた。

 目を逸らそうとしたが、出来なかった。

 妹紅は、私の答えを聞きたがっている。

 他でもない、私の意志を、だ。

 ……答えようと、口を開いた。

 

「――――あ、――――」

 

 口が上手く動かない。

 ぱくぱくと金魚のように動くだけで、言葉が出ない。

 何故だろう。

 気付くと、涙を流していた。

 悲しくもないのに何故だろうか。

 

「慧音……」

「妹紅……私は、私はな……」

「うん」

「お前が……お前がいなくなったら、どうしようも……なくなってしまう。教職も、手に付かなくなる。だから、だからきっと、」

「うん」

「お前がいたって言う歴史を、食ってしまうに違いないんだ」

 

 自分の声が震えるのが分かる。

 涙が流れている。

 妹紅は、私を抱きしめてくれた。

 私は、泣いている。

 

「ごめん慧音。変な事聞いて」

「妹紅、妹紅っ……」

「大丈夫だよ慧音。私はここにいる」

「うああああああっ!」

 

 しばらく、妹紅の胸の中で泣いていた。

 

 いつの間にか寝ていたらしい。

 子供のように、泣き疲れて。

 

「おはよ、慧音」

「あ……すまん妹紅、私何時の間に……」

「気にしないでいいよ。偶には慧音も弱音を吐いたり泣いたりしても良いんだ」

「……」

「私がそばにいる時はさ、頼って欲しいかなー……なんて」

 

 そう言う妹紅は顔を赤くしていた。恥ずかしそうに。

 思わず笑ってしまうと、妹紅は「なんだよ」と少し怒った。

 

「なんでもないよ」

 

 ―――寝ているとき、懐かしい夢を見た。

 私が妹紅と出会ったばかりの頃だ。

 妹紅はまだ私を警戒していて、なんだかんだ世話を焼く私に不信感を抱いていたのだ。

 不死人である自分を利用するんじゃないか、何か企んでいるんじゃないか……と考えていた

 

そうだ。

 当然だと思う。

 実際、妹紅は何度も利用され捨てられていたそうだ。

 そんな中でも、時には安息もあったらしい。

 伴侶を見つけ、子を儲け、そして死を見送る。

 そんな些細なことにさえ、飢えていたから。

 私は、妹紅によく会いに行っていた。

 初めて会った時のあの目が、私にはどうしても耐えられなかった。

 虚ろな目だった。

 今にも死んでしまいそうな、悲しい目をしていた。

 それが嫌で嫌で仕方なかった私は、何も考えずに妹紅に会っていた。

 笑って欲しい。

 何時しかそう思うようになった頃は。妹紅とは随分と打ち解けた頃だった。

 

『なあ妹紅』

『ん?どうした』

『あのな、なんでもないことを頼んで良いか?』

『なんだよ』

『……笑って、欲しいんだ』

『……何を言うかと思えば。なんでいきなり』

『私と出会ってから、妹紅が笑っているのを一度も見たことが無いんだ』

『何か不安なことがあるからなのか?それともまだ……信じられないのか?』

『……そういう訳じゃないんだ。ただ、随分長いこと笑顔というものと縁が無かったから、笑い方を忘れてしまったんだ』

 

 妹紅は、俯いていた。

 表情が分からない。

 怒っている?嫌、声は普通だ。怒ってるなら普段どおり声を荒げると思う。

 なら、どうしたんだろう。

 一瞬見えたものは、涙だったのか。

 妹紅はまだ俯いている。

 

『妹紅、ごめん』

『気にするな、別に』

『違うっ!』

『っ』

『妹紅が辛そうな顔をしているのは嫌なんだ!妹紅には笑って欲しい、ただそれだけなんだ!』

『なんで』

『気付いちゃったんだよ……長くいるうちにっ』

『何に』

『好きなんだ!妹紅、お前が!』

『は……』

 

 私も、この時は少し気が動転していた。

 だが、満足している自分もいた。

 ようやく好きだと言えた、そう思っている自分が。

 

『初めはただ妹紅が、他人が辛そうにしているのが嫌なだけだった。でも違ったんだ。妹紅と触れ合っていくうちに、気持ちが変わったんだ。最初はよくわからなかった。でも、何時しか気付いたよ。妹紅が好きなんだって』

『私たちは女同士だぞ』

『それが何だ。私は妹紅が好きなんだ。どこに問題がある』

 

 妹紅は困った顔をしていた。

 まあ、いきなりこんなことを言われれば困るだろう。

 けど、もう勢いだ。

 

『妹紅っ』

 

 抱き寄せた。

 でも、妹紅は暴れない。

 じっと、私に抱かれてくれている。

 

『……』

『困らせてごめん』

『……』

 

 妹紅は黙って私の服の袖を握っているだけだ。

 何も言わないけれど、少し震えていた。

 

『……妹紅?』

『……んだ』

『……』

『怖いんだ、私は』

『え?』

『ずっと、ずっと長く生きていた。でも、皆私を残して逝ってしまうんだ。私の子供も、孫も皆』

『だから、ずっと一人で?』

『うん、ひとりで放浪してきた。人には出来るだけ会わないようにして、関係を持たないようにして、何百年か』

『何百年っ……!?そんなにか』

『だから、慧音に会った時も出来るだけ遠ざけたかった。また、私だけ置いていかれるのかって思ったら、寂しくなって』

『でも、慧音は会いに来てくれた。ひどい事を言っても、いくら追い返しても。それでも来てくれた慧音が、段々恋しくなってきた』

『少し、安心してたんだ。いい距離感があって、仲良くなれて。いなくなっても気にされないって思ってたんだ』

『だから、好きだって言われると思ってなかった。こんなに近い距離にいるなんて思ってなかったんだ』

『……妹紅』

『ねえ慧音。笑い方、思い出させてくれるかな』

『……もちろんだよ』

 

 その後、妹紅と私は一緒に暮らすことになった。

 里の者に紹介されるときが一番緊張した、と妹紅は言っていた。

 寺子屋の子供たちに一緒に住んでいることに対して付き合ってるのか、と茶化されていたし。

 それに対して妹紅は大真面目に「そうだ」と答えていたのでその後の授業がめちゃくちゃになってしまったっけ。

 ……それからしばらくして、月に異変が起きて。

 巫女にやられた私を手当てしてくれた。

 異変が終わったあと、二人でまた巫女にやられて。

 仲良くボロボロになったまま帰って。

 そんな、そんな些細な生活を続けている。

 

「なあ妹紅、明日……巫女の、霊夢のところで宴会をやるそうだ」

「なんだ、慧音にしては素直じゃないな」

「はは、偶には二人でゆっくり呑まないか?」

「……そうだな」

 

 二人で、ゆっくり。

 この時間を過ごしたいから。

                    End

説明
久々の活動になります。
まあSSのリハビリみたいな感じで書きました。
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