ロウきゅーぶ! 真帆アフター 〜Shiny−Frappe・真夏に咲く大輪の花〜8
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 そんなことを考えながら街をぶらついて、ゲーセンで時間を潰したりして。気が付いたら遅いはずの日が暮れかかっていた。

 

 公園では子供達の喧噪が聞こえて……聞こえて……

 

 「……ん?」

 

 あれは確か……千早結奈、だったか。あんなに目を釣り上げて……

 

 「お前ら何すんだよ!!!!」

 「うるせぇよ、仕方ねぇだろ壊れたもんは」

 「壊したんだろうが!!!」

 「お前等みたいな低脳が此処を遊びのために使って良いと思ってんのかよ」

 

 中等部の連中か。見た感じ体育会系の奴らだろうが、何とも気に入らないもんだ。

 

 「ふざけんな……謝れよ!!!!」

 「はいはい、すみませんでしたー」

 

 下卑た笑いとともに彼らは帰っていく。残されたメンバー達も動揺を隠せないでいたが、次第に色々と理由を付けては散り散りになっていく。

 

 「お前ら、こんくらいで諦めんなよ!!!」

 「そんなこと言ってもどうするんだよ……」

 「そうだよ、またあの人達来るだろうし、私はもう此処で練習するの諦めた方が良いと重う」

 「そんなこと……悔しくないのかy」

 「悔しいに決まってるだろ!!!!!!」

 

 今の男バスのキャプテンだった。確かバスケ以外の何かで新聞に載っていたような気がする。夏陽とはまた違ったタイプの優等生という事か。

 

 「この件は大人に任せよう……俺達は、何も出来やしない」

 

 最後に残った彼が、そう言い残して去っていった。

 

 「……ううぅ……ううぁあぁああ……」

 

 「うわぁぁああああああぁああっ!!!!!!!!!」

 

 夕闇に響く少女の慟哭が耳に痛く突き刺さる。彼女の後ろには破壊されたバスケットゴール、何かを強くぶつけられ籠が外れて落ちている。

 

 「くそぉっ……折角、せっかく壊れてるのをみんなで直したのに……っ」

 

 確かに、よく見ればゴールは非常に不格好だった。ただ手作りなりに非常によく作り込まれている。

 

 どこかで拾ってきたらしいリングをパネルに固定しネットをまきつけて、棒を立て上部にがっちり結びつけていた。

 

 何というかまあ……懐かしいじゃないか。

 

 「……おい」

 「……ふぇ? あ、あんたは……」

 「直してやるよ、手伝え」

 「べっ、別にあんたの助けなんて……」

 「うるせぇよ。それにまあ……少し懐かしくなったんでな」

 「え……?」

 

 確かあれは合宿の時。ゴールがなかったため自分達でゴールを作ったことがあった。あのときはみんな、そうナツヒも一緒で、知恵を出し合い材料を探しあい、不格好ながらもちゃんと実用に足るバスケットリングを作り上げた。

 

 懐かしい話だ。そして、体も自然に動いていた。公園にある廃材、たとえばロープやベニヤ板、鉄パイプなどを組み合わせて修理していく。

 

 「ほら、こっち引っ張ってくれ」

 「あ、ああ……っ、しょっ!!!」

 「っ、なかなか力あるじゃねぇか」

 「当たり前だっ、鍛え方が違うんだよっ!」

 

 板にネットを固定し、とりあえずゴールは出来上がった。さて、これをどうやって取り付け……

 

 「ん、どうしたんだ真帆」

 「おおっナツヒっ!!!! こんな時にしか役にたたないっ!!」

 「何てひどいこという人だ……」

 

 全身をジャージに身を包みロードワーク中だった竹中夏陽が通りがかる。渡りに船とはまさにこのこと。

 

 結奈は若干引き気味だったが、この男は恐らく人間が出来てきているのでまあ大丈夫だろうと希望的観測で何とかやりきってみた。

 

 

 「竹中先輩、ありがとうございましたっ!! それから……三沢先輩も」

 「……ん」

 「この前はすみませんでした……私、あれからずっと走り込んで、飛んで、ボールを突き続けて、少しだけどわかった気がして……」

 「はいはい分かった分かった。やっと私の偉大さが分かったってんだな。まあ今日は帰れ、もう夜も遅いだろ?」

 

 彼女はぺこりとお辞儀をすると、夜の闇に消えていった。

 

 「なあナツヒ……」

 「……どうした?」

 「どうやってヒナをモノにしたんだ? そんなCV杉田みたいなダンディーな声して」

 「それ関係ないだろ……高2の時あいつの高校の文化祭に行ったとき、呼び出して単純に正面から告白した。そしたらあいつ、何て言ったと思う?」

 

 『たけなかがずっと幸せにしてくれるって言うなら、良いよ』だとさ、彼は笑いながらも頬を赤らめていた。少し羨ましい話だ。

 

 別に周りにいい男なんていないから彼氏なんて欲しいとは思ったことなど最近ないのだが、そう言う話を聞くと羨ましく思ってしまう。

 

 「それじゃ、俺は行くよ……なあ、バスケの件、まだ何も言ってないんだろ?」

 「当たり前だろ……私みたいな半端者はいらないんだ。半端に続けるなら、いっそ続けないですっぱり縁を切った方が良い」

 「そうか……頑張れよ、真帆」

 

 頑張れ、か……走り去っていく彼の背中はとても大きく見えて、あんな彼氏にベタ惚れしてもらえるヒナに少しだけ嫉妬する。

 

 そう言えば、こんな事を思い浮かべても嫉妬ってなんだ嫉妬はと思ったことだろう。だけれど今は違う、今ならナツヒの悪いところも良いところもまとめて全て受け入れられる。

 

 ……右のかかとに何かが当たる。それは誰かが忘れていたバスケットボールだった。

 

 いや、その誰かは、そこにボールがある事を忘れていた誰かは、もしかして……

 

 『一緒にバスケしようぜっ!!!!』

 「……………」

 

 まさか、昔のどうしようもなくバカでアホで無鉄砲で……

 

 

 

 

 誰よりもバスケにたいし一生懸命だった小学生時代の自分に励まされるなんて。

 

 私はバスケットボールを手に取り(誰かから受け取ったような錯覚を受けた)、作ったばかりのゴールを見据える。

 

 膝を曲げる。大きく息を吸い、全身に血を巡らせる。

 

 「はい……れぇえっ!!!!!」

 

 ボールは緩やかな放物線を描き、ゆっくりとゴールに吸い込まれていく。

 

 決めた。もうこれで終わりだ。もう今後は止めてしまおう。惰性で続けても何の意味もない。

 

 

 だから、行くんだ。今度は全力で。もう一度あの舞台へ。

 

 『何かチョー楽しいっ!!!』

 『楽しいって事は、間違ってないって事だ!!! 自分の感覚ってもんを大事にしなくちゃな!!!』

 『ぜってーそう、そうに決まってる!!!!』

 「……ああ、そうだよ。まさかあんたみたいなどうしようもないアホに教わるなんてさ……」

 

 ありがとう、マホ……

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