雪の日
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雪が降った。

 

学校帰りだろうか。一人の少年が真っ白な世界を歩いている。人影はない。

たった一人だ。

その少年は、毛糸の襟のついた黒いジャンパーに灰茶コーデュロイのズボン、長靴を履いて、少し縁の痛んだランドセルを背負っている。

毛糸の手袋をしてはいるが指先はかじかむほどに冷えていた。

 

夏には青々とした稲が波打っていたであろう田地には一面に雪が積もり。時折立っている背の低い木も雪の重みで垂れ下がり湾曲を描いた雪の固まりにしか見えない。

 

少年の通学路はもう少し西だが、それでは遠回りなので、彼はいつも田地にある農道を使う。

小学生でここを使う子は少ないので、道には一つ二つの足跡しか見えない。

 

時折吹く風が、少年の頬を刺すように通り過ぎた。

 

左に見える細い用水路も、半分以上雪に埋まっていて、わずかに残る水も幾何学的な筋を重ね、ほとんど凍っている。

 

空気は冷えきっていて、15センチ以上積もっている雪には白いくぼみが見えるだけだ。子供の足跡だが、100メートルほど進んだ分かれ道からは見えなくなった。

 

空は快晴で、陽があたり真っ白な世界は輝いているが、雪が溶ける気配はない。

それほど冷えきっているのだ。

 

それでもその少年は、まっさらな雪の道を歩けるのがうれしくて、ちょっと白い息を吐くと立ち止まった。

 

少年は高まる鼓動を押さえながら、息を詰め、一歩踏み出す。

 

真新しい雪が、ししゃくっと微かな音を立てた。

 

2?3歩踏みだすともう一度立ち止まり、片足を上げ長靴についた雪を払うともう少し深い吹きだまりの雪に足を突っ込んだ。

溝があったのか足は大きく滑り、その予想のしなかった動きに少年はあっ≠ニ思った。

よろけながら足を戻し、またちょっと白く息を吐くとランドセルの肩ひもを持ち直し、空を見上げた。

 

空は恐ろしく晴れ上がっていて空色と言うより黒に近い藍色だった。

じっと見つめているとその深さに頭から引き落ちてしまいそうだった。

 

ぞっとした。宇宙がそこにあった。

 

遠くで電車の音がした。見入られたように空に引きつけられていた少年は、顔を戻した。

 

明るく冷たい真っ白い世界に彼はいた。

 

電車のオレンジのラインがやけに輝いて見えた。

 

 

 

 

 

説明
雪の中を歩く少年のスケッチ。
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少年   

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