東方天零譚 第六話 |
「コホン…それじゃ、ミッションの説明をするわね」
さきほどの"シエルの部屋をのぞこう"騒動こそ終わったが、まだ若干シエルの表情は赤かった。
そんなにゼロに部屋を見られるのが恥ずかしかったのだろうか。
「私、ミッションよりもシエルの部屋が見たいなぁ〜」
「まだ引っ張るの、その話!?」
やめてよ、もう〜といった感じでこっちをなみだ目で睨んでくるシエル。
正直、可愛い。
「…そろそろミッションの説明をしてもらいたいのだが」
しびれを切らしたようにゼロが言う。ていうか、実際に切らしたのだろう。
注意されて、天子は「へいへい」と、シエルは「ごめんね、ゼロ…」と両者の特徴が現れている返事をした。
改めて、シエルは真面目な表情で話し始める。
「最初にあなた達と出会ったあの場所を覚えてる?」
「あぁ、あそこ……」
言われて天子は思い出す。まだ数時間前のことだが、少し懐かしく思う。
多分見るもの聞くもの全てが初めてなこの世界、記憶すべき出来事が多すぎたのであろう。
「あの時は慌てて逃げてきたけど、もしかしたらあそこには、あなた達にとって重要な情報が残っているかもしれない」
「ん〜、でも私は気がついたらあそこにいたから、私に関しての情報は無いと思うわよ?」
そもそも幻想郷のことを知らない時点で期待なんて出来ないし。
「でも、ゼロが眠ってた場所だから、少なくともゼロについての情報はあると思う」
「あぁなるほどね」
「おそらく敵も、あそこを調べようとしているはず…敵に情報を奪われる前に行って…くれないかしら…」
シエルはいつもそうだ。
私達に頼みごとをするとき、彼女はとたんに弱気になる。
恐る恐る頼むのだ。
ただのお喋りであったり、からかった時の反応は普通なのに。
彼女は、人に頼ることに怯えている?
そんな風に、天子は捉えていた。
「おねがい…ゼロ…天子…」
上目遣いでお願いしてくるシエル。
それに対して、お願いされた側の答えは決まっていた。
「ああ」
「任せなさい!」
天子は、シエルのことが嫌いではなかった。
弱気な面こそあれど、彼女は聡明で理知的だ。
きっと、からかわれてたり普段喋っている時の彼女こそが素なのであろう。
そんな彼女ともっと触れ合いたい、仲良くなってみたい。
自分のために戦うと言った天子であったが、無意識の内にシエルのために戦いたいと思っているのであった。
トランスサーバを使い、研究所へと転送する。
そこは、数時間前にゴーレムと戦った部屋だった。
部屋は前に訪れたときと変わっていなかった。
唯一違っていたのは、通路への入り口を塞いでいた瓦礫が除去されているぐらいであった。
「敵のはんのう多数! 敵もデータを探しに来たみたい。二人とも…気をつけて…」
「了解、ミッションを始めるわ」
シエルとの通信を終え、通路へ向かって駆け出すゼロと天子。
程なくして、二人はかつて落ちた縦穴へとたどり着く。
二人は躊躇なく壁を蹴りあがっていく。
すると、
「え、なにあれ!?」
突如電撃が走り慌てて回避。
その場で踏みとどまるように壁を蹴り続けながら観察する。
「回ってるわね……」
それは、灰色をベースにした球体だった。
青くカラーリングされたところから細い電撃を伸ばしている。
そして、球体は一定の速度で回転しているのであった。
この縦穴自体は狭い。それこそ電撃の円周分くらいしかない。
「これはタイミング良くいかないとだめね……」
そう言った直後、ゼロは無言で壁を蹴りあがり、余裕で電撃をよけて駆け上がっていってしまう。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
あわてて天子も追いかける。
あわててこそいたが、そこは天人。キチンとタイミングを見て駆け上がったために電撃に触れることは無かった。
もう一つ同じ球体があったが、難なく回避して縦穴を登りきる。
見れば、通路には敵であるメカニロイド達がうじゃうじゃいた。
ゼロは天子が登りきったことを確認すると通路の奥へと走り出す。
天子もその後を追って敵を蹴散らしながら進んでいく。
空中を漂う赤い爆弾を天子が要石で射撃。その爆風でダメージを負ったザコをゼロが切り伏せる。
縦穴にいた球体も複数配置されていたが、タイミングを見て易々と通り抜ける二人。
端から見れば息のあったコンビであった。
だが、突然ゼロは立ち止まった。
近くの敵を緋想の剣で切り伏せたあと、天子はゼロに近寄って問いかける。
「どうしたの、ゼロ?」
ゼロは答えない。答えずに、壁へとジャンプしたあと、勢い良く壁を蹴って飛び上がる。
だが、失敗したのか天井に体をぶつけて落ちてくる。
「なにしてんの、あんた?」
少しマヌケだったその様子を見て若干笑いつつ天子が尋ねるも、再度ゼロは答えない。
だが、表情を見る限りいつもの無口と違って、なんとなく失敗したことが悔しいから黙っているように天子には見えた。
ゼロはもう一度同じことをする。今度は成功したようで、天井に空いた穴を蹴りあがっていく。
後を追ったほうがいいのかな、と思っていると、すぐにゼロが降りてきた。
「おかえり、わざわざ何しに行ったの?」
「サイバーエルフがいた」
「いるってわかってたの?」
「…なんとなく、だ」
「なんとなくって、あんた…」
そんな理由でわざわざあんな入りにくそうな(実際入るのに一回失敗している)穴にはいるとは……。
「あんた、案外面白いわね」
「…」
クスクス笑う天子に対し、ゼロは答えず先に進んでしまう。
またも無言だったが、今回のは照れ隠しだろう。
そう思い、クールな様子とのギャップがまた面白く、再度クスクスと笑いながら後を追いかけた。
その後も出てくるザコ敵を倒しながら進んだ二人。
見ると、扉が一つあった。
と、そこでシエルから通信が入る。
「そのさき、すごいエネルギー反応よ! 気をつけて!!」
「さしずめボスってところ? 了解!」
扉をくぐり、もう一つ同じ扉をくぐる。
思えば、レプリロイド処理施設にも同じ扉があったような気がする。
何か意味があるのだろうか?
そんな、少しどうでもいいことを考えながら奥の部屋へと入る。
そこは、天子にとってもゼロにとっても重要な場所。
シエルを含めた、三人が始めて出会った場所であった。
相変わらず緑色の液体で床は満たされているし、ゼロが眠っていた鉄の塔も健在だった。
だが、前と違い、巨大な何者かがそこにはいた。
全体的に緑色、所々が黄色と赤色でカラーリングされた、一見すると象。
象のような、長い鼻をもっていることが特徴的だった。
その何者かが、天子とゼロが入ったのを見て話し始める。
「まろの名は、マハ・ガネシャリフ。情報処理、分析担当ミュートスレプリロイドなり」
こちらが何か言う前にそいつは喋り続ける。
「おぬしの情報はすでに、まろの体内サーバへしかと記録されたでおじゃる」
「ていうか、まろとかおじゃるとか狙ってんの? まぁそれなりには面白いわね!」
そう言って、天子は思いっきりバカにしたように笑う。
一方、笑われても余裕の態度を崩さずに話し続けていた。
「そんなのはどうでもいいでおじゃる」
「あっそ。じゃあデータは返してもらうわよ、まろ!」
「先ほど話したとおり、まろの体内サーバへ記録されたでおじゃる。返してほしくば、まろを破壊し、メモリーを抜き取るしかないが…ためしてみるかえ?」
そう言って、まろは手をかざすと高速で突きを数回やってみせる。
まるで自らの力を見せびらかすように。
「はん、そんな突きがなんだってのよ! 行くわよ、ゼロ!」
傍らに居るゼロがうなずき、戦闘が始まった。
始まったのだが、天子は、まろの背後が気になっていた。
否、まろから発せられる気質が気になっていた。
「セイッ! セイッ! セイッ!」
まろの連続張り手にゼロの放ったバスターの弾が弾かれる。
その様子を見ながら気質について考える。
こいつの気質は赤いわね……。
これまでこの世界で見てきた気質は、黄色のみ。
ここにきて、初めて違う色の気質が出現した。
試してみる価値はあるかもしれない……。
牙をブーメランのようにして飛ばしてくるも、ゼロと天子は難なく回避。
その隙にゼロはセイバーで斬り、天子も緋想の剣で斬る。
斬りつつも、天子は要石のチャージをする。
ここで、黄色の気質に変える……。
天子は要石に纏っている気質を、黄色の気質に変えようとする。
イメージは処理施設でサンダーチップを得たときの気質。感覚はこれまで気質を見抜いた後に緋想の剣に弱点の気質を纏わせたように。
天子は、攻撃手段に緋想の剣ではなく要石を選択した。
その理由として、一つはゼロが接敵しているため自分も接敵したら邪魔になってしまうかもしれないということ。
もう一つは、今は要石のほうが緋想の剣よりも力を発揮しやすかったからである。
天子は感覚で、気質の効果が現れるのは現状、要石のほうであると理解していた。
だから、要石をメインに攻撃をすることにした。
ゼロがセイバーで敵の胴体を斬るが、ダメージが通っているようには見えない。
見た目通り、胴体の装甲は厚いようだ。
敵が丸まって突撃してくる。
それをジャンプでかわす天子とゼロ。
そのとき、まろから小さな球体が放出され、それが天子に当たる。
「いたっ……」
それは爆弾だったようで、爆発のダメージを食らう天子。
だが、要石のチャージは止めない。
その甲斐あって、チャージが完了。すぐさまゼロに呼びかける!
「ゼロ、どいて!」
言われたゼロは天子の斜線上から退く。これまで胴体への攻撃が全て弾かれていたことから、狙うは頭部。
すぐさま発射したその要石は、黄色の気質を帯びていた。
いや、それは黄色というよりは雷。それを纏った要石は狙いたがわず敵の頭部に着弾。
すると、放電の音がする中、敵の動きが止まる。
それをチャンスと見て、ゼロが切りかかる。頭部へとダメージを与えた後離脱して射程範囲外へ。
基本的にヒットアンドアウェイの戦法で戦っていた。
それを見つつ、天子は確信した。
こいつは、雷の気質に弱い。
「ゼロ! 私があいつの動きを止めるから、そのときにやっちゃって!」
「わかった」
短く返事をするゼロはゼロでバスターの射撃攻撃を頭部へと行う。
「わずらわしいでおじゃる!」
まろは天井に長い鼻をくっつけると、まるで振り子のように体を振るう。
何回か体を振って遠心力を高めたところで、鼻を離してプレスしようとする。
その鼻が天井から離れた時を狙って、ダッシュでまろと地面の隙間を潜り抜ける。
そして、敵が頭部を露出した隙を狙って放った天子のチャージショットが当たる。
要石のチャージショットによって動きが止まった敵の頭部にゼロがジャンプ切り。
それは、敵を頭部から真っ二つに斬る綺麗な斬撃であった。
ほどなくして、敵は爆発。戦闘に勝利した。
「やったぁ!」
天子は喜び、ゼロは敵の体から出てきたサイバーエルフを回収する。
と、そのとき、けたたましいアラート音が部屋中に響き渡る。
すぐにシエルから通信がはいった。
「シエル! この音なに!?」
「二人とも!! 自爆装置が作動したわ!! はやく脱出して!!」
「自爆装置!?」
聞くやいなや、部屋の崩壊が始まった。
「ちょっと、なんで自爆なんてするのよー!?」
大慌てで脱出する二人。
すると、部屋の出入り口である扉がシャッターで閉ざされてしまった。
「こらー! 閉めるなー!」
開かないために急いでシャッターを壊しにかかる二人。
互いにセイバーと緋想の剣を使って全力でシャッターを壊しにかかる。
崩壊のスピードは速く、もう天子たちのすぐ背後まで瓦礫で埋まっていた。
このままでは二人とも瓦礫に押しつぶされてしまうだろう。
「は・や・く、こわれろー!」
そう言って緋想の剣で斬りつけ、やっとシャッターが壊れた。
すぐさま部屋を脱出する二人。だがまたしてもシャッター。
「もう、なんなのよー!」
その後も、シャッターが出ては斬り壊し、二人は大慌てで来た道を引き返す。
最初に登った縦穴を飛び降りたところで、シエルからの通信が入る。
「ゼロ!! 天子!!」
「なんとか無事よ〜……」
ヘロヘロになって答える天子。
「…よかった…無事だったのね…」
心底安心したような声が聞こえる。相当心配したのであろう。
「ごめんね、二人とも…きけんな目にあわせて」
「まぁ、収穫もあっただろうし良いんじゃない〜……」
見ると、ゼロはちゃっかり敵の体内サーバ(小型であった)を持っていた。
「二人が無事で…良かった…それじゃあ、ベースでまってるわ」
そう言って通信が切れる。どうやら今回のミッションは成功のようだ。
「ふぅ〜つかれた〜、それじゃあ帰りましょうか」
そう言ってゼロのほうを見ると、ゼロは縦穴を見上げていた。
「どうしたの、ゼロ?」
その問いにゼロは答えなかった。そして壁を蹴りあがって行ってしまう。
少々デジャブを感じた天子は後を追いかける。
縦穴を登りきると、今引き返してきた道は瓦礫に埋まっていた。
「うわぁ〜……脱出出来てほんとよかった」
残っていたら間違いなくぺしゃんこであっただろうことを思い冷や汗を流す天子。
だが、ゼロはそちらのほうには目もくれず、別の穴へと入る。
「あれ、ここって塞がってなかったっけ」
そこは天子の記憶上、ただの壁だったはず。しかし今は崩壊の影響か穴が空いていた。
そこに入ると、ゼロはまたもやサイバーエルフを回収していた。
「なに、あんたまた"なんとなく"サイバーエルフがいると思ったからここに来たの?」
「そうだ」
「実際それでいるんだから、あんたの勘はたいしたものね」
こいつはサイバーエルフ愛好家か何かだろうか。
そんな風に若干あきれつつ、二人はベースへと戻った。
説明 | ||
ミッション「ロストデータを回収せよ」。本文中で「敵」だったり「まろ」で使い分けているのは作者の書きやすさです。でも読みにくいのかな……。ところで、「ロックマンシエル」って企画が盛り上がってますね。一時期SSでも投稿しようかと思ったけど、作者の力量じゃ邪魔になるなと思って何もしなかったのは良い思い出ですw | ||
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