真・恋姫?無双 〜天下争乱、久遠胡蝶の章〜 第四章 蒼麗再臨 第二話 |
左慈は語る。
外史を生み出す力は、誰もが持ちうる神秘の力である、と。
神秘とは奇跡。
故に人は、愚かなる人はそれを信じず、受け入れず―――故に、外史を生み出す事は出来ない。
世界を創造する力。
奇跡を希う、純粋なる力。
それを正しく祈る者にのみ、外史は創造される―――と。
「奴とて、初めはそうだった。奴にとって最も原初の外史を創造した時、その力は無色にして無垢、純粋にして正しく神秘そのものだった」
だが、神秘が必ずしも優しいものとは限らない。
「奇跡を祈りながら現実に囚われ、神秘を謳いながら法則に縛られ……結果、奴は摩耗した。この外史という存在に食い潰され、敗れ去った敗北者のなれの果てこそが『司馬達也』そのもの」
「………………」
「そんな歪な存在が新たな外史を祈れば―――そして、それを世界が受理すれば、どうなると思う?」
噛み殺した様な酷笑を湛えて、左慈は告げた。
「……その狂い始めた外史で、俺達は『管理』を始めた。奴を捉え、制御し、洗脳し、この世界をあるべき姿へと戻そうとした。――――――そんな時さ、北郷一刀」
貴様が、あの下らぬ願いを叫んだのは。
“外史に―――この世界に生きる全ての者に、新たなる世界を!!”
「遍く外史を『救う』為に捧げられた祈りを外史は叶え、結果として奴もまたこの外史に『司馬懿仲達』として生を受けた。己の役目も、使命も、理想も。何もかもを貴様に奪われて」
「……違う」
「違わない。真実あの時、貴様は滅びる筈だった本来の外史を逸脱し、無限に広がる外史を創造する力を世界に与えた。嘗ての記憶も、役目も。何もかもを『なかった』事にして、貴様は己の傲慢な祈りを叶えさせた!」
「違う!!」
「ならば奴は何だ!?徒に生き永らえ、己の信じた全てを奪われて!取り返した瞬間に壊れ、絶望し、崩れ落ちる様な欠陥品に仕立て上げたのは他ならぬ貴様だろう!!」
左慈が、俺を指差して怒声を上げた。
射殺さんばかりにギラギラと光る眼光と、その場にいるだけで圧殺されてしまいそうなくらい膨大に膨れ上がった殺意が、ギチギチと音を立てて空間を軋ませる。
「貴様は奪い続けた!!己の理想のまま、欲望のまま!!己に歯向かう者を蹂躙し、駆逐し、殺戮し!!そうやって己と、己につき従う者の為だけに!!」
それは事実だ。
紛れもなく、それは真実だ。
―――だが!
「それがとるべき道だと、俺が信じたんだ!!華琳が突き進む覇道を支える為に、その悪名を背負う覚悟なんか、とっくの昔に出来ている!!そして!!」
心底からの叫びが、上がった。
「もう二度と!仲達の―――俺の『親友』の様な悲劇を繰り返させない為に選んだその道を否定する事は、アイツの生き様そのものの否定に他ならない!!!」
「ハッ!偽善者が!!そうやって他人を救う理想に溺れ、賞讃に酔ったその存在こそ腹立たしい!!貴様らの様な理想論のみを語る餓鬼共に弄ばれる為に、この世界の神秘は存在したのではない!!」
怒声と咆哮がぶつかり合う。
己の信じたものを、その在り方を。全力でぶつけ合った。
どれだけ叫ぼうと、正論を吐こうと、この論議の果てに妥協や和解は一切存在しえない。
互いが互いを全力で否定し、決して認める事が出来ないからこそ。
だからこそ、その存在に。在り方そのものに触れた。
誰かが間違っていた訳ではない。
外史を救う為に祈りを捧げた一刀。
あるべき姿に戻す為に『管理』を続けた左慈。
世界の真実を知るに、余りにも無垢過ぎた達也。
全てが被害者であり、同時に加害者であった。
その心根が信じる正義と大義の元に、戦い続けたからこそ。
少年は救いを望んだ。
男は解放を焦れた。
青年は理想を願った。
故に、誰一人として悪はなく―――同時に、一人として善はいなかった。
絶望を照らす無垢な白の世界に、やがて静寂が訪れた。
互いの論が、永遠に平行線を辿るから―――ではない。
先程より遥かに微細で、しかし確かに感じる違和感が、一刀の胸中でとぐろをまいたからだ。
「お前は……誰だ?」
「……ハ?何を言い出すかと思えば、とうとうその目玉も飾りになったか」
皮肉げに歪められ、侮蔑する様な嘲笑を浮かべる左慈を鋭く睨み、一刀は記憶の縁をなぞる。
――――――途端、蛇の様に素早く海馬にかみついたそれが、外史の狭間だからこそ許される『記録』の『共有』によって、一枚の画を引き出した。
そう、彼の知る左慈はもっと冷徹で非情で、誰よりも己の存在を恨んでやまない存在なのだ。
断じて目の前の彼の様に、自分と激論を交わせる程に寛容な存在ではない。
「……ああ。じゃあこう聞こうか」
―――“左慈の形をした”お前は誰だ?
途端、目の前の男から一切の表情が消える。
だが、それもつかの間。
「……………………フフ」
小さく、しかしはっきりと“女の”笑みが零れた。
やがて遺伝子が光の粒子となった様に左慈の身体が白い光に満ち、ややあっておぼろげな光の集合体が現れた。
静寂の白の世界において、尚白く、儚い存在。
「……それが、さっきから俺が話していた『本当の』アンタってわけか」
「ええ、『相変わらず』女性の事となると人一倍聡いですね」
表情どころか顔つきすら何一つ判別できない女性の声が、一刀の頭の中に直接響く。
「アンタは、俺をどうするつもりなんだ?仲達は……達也は、無事なんだろうな」
「『無事』の定義にも依りますよ?生命体としての存在か、魂魄の存在か、精神の存在か……或いは、記憶だけの存在か」
飄々として掴みどころの得られそうもない口調に、一刀は早々に追求を諦めた。
代わりとばかりに、女が口を開く。
「………………北郷、さん」
酷く不慣れた声音が、たどたどしく自身の名を紡ぐ。
そして、
「…………お願いが、あります」
深い暗闇の水底を、沈む様にたゆたう。
身体はゆっくりと、淡い水泡の様に崩れ落ちる。
水底より上がって来た水泡が一つ、身体に触れて、爆ぜた。
『所詮、正統なる後継者でもないこんな男に、先帝の御心が継げよう筈もない』
脳髄の奥底をかき乱す様な、嘲り嗤う誰かの声。
それは“司馬懿仲達”に向けられたものであり、“司馬達也”に向けられたものであり―――
私は 僕は 俺は
『我らの理想を踏み躙り!故郷を蹂躙せし暴君を滅せ!!正義は我らにこそ在り!大義はこれに在り!!』 『私の村を焼き払った貴様に、何が分かる!?』 『天下を治めるのは、力ではない。どうしてそれを解そうとせぬ?』 『ハハハハハ!!くっだらねぇ理想を謳ってる暇があったら、目の前の俺を殺して見せろよ!!』
蘇る、いくつも。
いくつもいくつもいくつも……渡り歩き、踏み越えてきた者達の怨嗟の声が。
――――――――そうして、“それ”は響いた。
『ちゅ、ぅ……た、つ……くん』
めろ
『司馬懿!!貴様ァァァッ!!!』
やめ、ろ
『仲達……どうして!どうして!?』
や、めろ……!
『司馬懿』
『仲達』
『仲達くん』
響く。
声が。
大切な人達の、コエ、が。
『仲達くん』
『誰よりも、貴方の事を』
そうして、全てが。
何もかもが、染まる。
敬愛の主が、赤く。
親愛の友が、紅く。
最愛の人が、赫く。
―――愛しています
鮮血の記憶に、消え果てた。
「―――――――アァあァアァああァぁあアあァァァぁぁああァ!!!!」
女の口から嘆願が零れでそうになった、瞬間。
世界が遠大な音を立ててひび割れた。
「ッ!?」
「予定より早い……ッ!時間がありません」
「待ってくれ!一体何が!?」
問いかけようとして―――それよりも早く、女が手を翳した。
途端、俺の全身が淡い光に包まれる。
崩落する世界から剥がれ落ちた白の向こう側に覗く、闇。
何処までも暗く、深く、黒く染まった、真に救済なき世界。
「貴方はこれから、とある外史に飛びます。そこで貴方は真に為すべき事を為す、その世界まで導くのが、私の役目」
「真に為すべき事、って……!?」
ぐらりと世界が傾く。
余談を許さぬ、とばかりに光は急速に輝きを増し、俺から五感を奪って行く。
「貴方が望むままに、願うままに為す事を為せば、外史は生まれ変わる事が出来、ッ!もう、時間が…………!!」
「外史が、生まれ変わる……?」
「―――お願いです!『仲達さん』を!!」
刹那、遥か彼方で聞いた憶えのある声音が鼓膜を揺らした記憶を最後に。
俺の意識は、暗転した。
【後期……じゃなくて後記】
二話かけて漸く外史に突入。なんだこれ。
明らかに伏線的な何かがある。なんだこれ。
むしろまたダーク路線の予感。なんだこれ。
今回の総括。
なんだこれ。
…………や、流石にこれだけではなんなので、次回の予告的な何かを少し。
実は一刀君が外史に本格的に突入するのは第四話から第五話にかけてだったりします。ええ、要するに次回も『また』回想的な何かが延々と続くプロローグ的なものです。
皆さん、もう少しだけお待ちください。
色々なもやもやを解決するのは当分先の事ですので、もうしばらく御辛抱下さい。
この作品は、『TINAMI』及び『にじファン』にて公開しております。
次回の更新は、2月5日を予定しております。
それでは。
説明 | ||
多分、ではありますが。 現在の調子ですと隔週更新になりそうです。 まだ『予定』ですので、今後どうなるかは不明ですが。 ではでは、どうぞ。 |
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