りんごあめ |
ドーンという重い音が響く。
浅い水色のビー玉を敷き詰めたような空。
冬の到来を感じさせるような乾いた風が、枯葉とともに幼い日々の思い出を運んできてくれた。
私の町では10月の終わりに秋祭りが開かれる。よく兄に連れていってもらい、大好きなリンゴ飴をせびったものだ。
そう…どれほど昔の話になるか、毎年この祭りを楽しみにしていた私は、例のごとく兄に手を引かれ屋台を見て回っていた。
ベビーカステラやとうもろこし。普段食べられない不思議で美味しい食べ物。買い食いや外食といったものをあまりさせてもらえなかった私にとって、お祭りは特別な日だった。とくにこの秋祭りに売っているリンゴ飴はとても甘く新鮮で、大きなリンゴ飴を口いっぱいにほおばるのが一年に一度の楽しみだった。
一通り出店を見終わり、最後に私は例のリンゴ飴を兄にねだる。
兄の承諾を得て大きなリンゴ飴を二つ買ってもらう。帰る途中に一つと、家に帰ってから一つ。それで計二つ。兄が、大きいやつはきっと落とすから食べ歩き用のものは小さいものにしておけと忠告してくれたのだが、子供特有の成長願望と過剰な自意識からそれを拒み結局大きなリンゴ飴をかってもらった。兄はそれとは別に小さなリンゴ飴を二つ買っていた。
帰り道、大きなリンゴ飴をほおばりながら満面の笑みを作り歩く。
兄の袖に捕まりながら、慣れない草履でちょこちょこと兄の後をついていく。リンゴ飴は半分なくなっており芯の部分が露になっていた。もう食べられる部分はないと判断し、裏側に歯を立てようとした瞬間、リンゴ飴は自らの重みに耐え切れず、重力に抗うことなく地面に落ちた。真っ赤な飴の部分が無残に砕け、みずみずしいリンゴの果肉が、私の歯型を形作り生々しい風体を作り出していた。
あっと声を上げしばらく呆然としていた。そして状況を把握し、絶望を味わうと共に涙がせり上がってくるのがわかった。そして今にも泣いてしまいそうになったとき兄が、だからいっただろう?と小さなリンゴ飴を差し出してくれた。
でもそれはお兄ちゃんのでしょう?と聞いたら、何のために二つ買ったと思っているんだ。と、さもこうなる事が分かっていたような口調で答えてくれた。
すこし悔しかったのだが、私は兄から貰った小さなリンゴ飴を頬張る。小さいリンゴ飴はあまり甘くなく、食感もモソモソしていてあまり好きではないのだが、その時ばかりは何故か大きなリンゴ飴と同じように甘く、シャッキリとしていて、美味しいと喜んだ。
どれほど昔のはなしになるか。兄にこの話をしたら、覚えていないと照れ笑いをしてくれそうだ。
久しぶりに、兄にリンゴ飴をねだってみようかな。
風に吹かれ枯葉が舞う。
どこか寂しげだが、私にとってこの風は、思い出が詰った優しい風だ。
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