プレゼント(spn/cd)
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俺の誕生日があと5分で終わるという時に、例の、見た目失業者の天使がモーテルに現れた。

 改善する気のない唐突な出現に慣れない俺も情けないが、振り向いたら無精髭の男が至近距離に立ってるのだから仕方ない。

 しかもどこかで様子を伺っているのかと怪しむ程に、高確率でサムが傍に居ないときに現れる。ちなみにサムは今、シャワータイムを始めたばかり。……やっぱり狙ってか?まあ良い。

 俺は天使、つまりはキャスに「どうした」と訪ねた。

「また何かあったか?あっても寝るから、明日また出直せ」

「明日では間に合わない」

「そんな急なのかよ。でもあと5分で今日が終わるぞ」

「ああ、君の誕生日が終わる」

「は?」

思わず間抜けな顔で聞き返してしまった。何でお前が教えてもいない俺の誕生日を知ってるんだ、それが終わるならどうだっていうんだとか、色々聞きたい当人を置き去りに、キャスは「欲しい物を言え」とたたみかけてきた。

「人は生誕を祝う時、相手に物を渡すと聞いた」

「まあ、間違っちゃいないが」

「相手が喜ぶ物とも」

「理想だけどな」

 そもそも、その情報をどこで仕入れたかが気になる。首を傾げる俺をキャスは凝視しながら、俺が引いて確保したパーソナルスペースに入ってきた。

「私は君が喜ぶ物をあげたい。しかし私は何を渡せば喜んでもらえるか分からない。だから教えてくれ、君の欲しい物は何だ」

困った。この堅物天使は大真面目で聞いてやがる。冗談の隙間が一ミクロンも無い。

「……欲しい物?」

確認を含めて聞くと、こくんと頷いた。プレゼントを当人に聞く事自体は、サプライズ感は無いがおかしくはない。祝いたいのだという気持ちだけなら、声にはしないものの、嬉しくない訳ではない。

 ただ、それらが全部キャスてのが厄介だ。こいつはこんなナリだが、腐っても天使。

 俺に―時にサムやボビーも混じえて―無理難題をふっかけるのは日常茶飯事。その傍若無人たるは悪魔との違いを見つけるのが困難な程。自分達の描いた青写真を世界の運命と信じて疑わない奴らと同族なのだ。

 初めて会った時から比べれば、キャスの態度や考え方も随分と違ってきたものの、肩書きが天使なには変わらない。人外の力で俺を甦らせた奴から望みは何かと問われても、どう答えてやれば良いんだ。

「今日中て、あと3分しかないぞ」

「そうだな、だから早く言え」

 何で訪ねる方が偉そうなんだ。あげる側から執拗に催促される上、あと3分で締め切るだと。やっぱり傍若無人だな、天使てのは。

 3分…いや、もうあと2分と少し。

 正直、願う事はある。欲しい物も多くは望まないが、それなりにある。全てを諦めても、欲しい物はと聞かれて頭に浮かぶ程度にはだ。

 ただキャスは天使であるくせに、人間が思っているよりも、案外出来る事が少ない。こいつが他の奴らより要領も悪く、力も無いだけかもしれないが、むしろ俺はその不器用さを、こいつらしいと受け入れている。

 天使も悩んでは苛立って、単純な事をこ難しく考えて、なんだか人間臭いとこあるんだなって。

 だからこうしてほだされるんだ。さあ、どうしょう。

 試しに『顔もスタイルもテクニックも抜群の巨乳姉ちゃんプリーズ』とでも言えば、あっという間に連れて来てくれるんだろうか。いや無理だ、まずこいつに人の美醜やセックステクニックに関する基準が無い。

 ちらりとキャスの顔を一瞥すると、無表情のくせに物凄く期待されているのが、ありありと感じ取れた。見た目はただの年上の男だってのに、まるで子供がそわそわと待っている姿に見えたらもう、我慢できずに吹き出してしまった。

「何だ」

「いや、何でもない。……そうだな決めた」

 俺はサムに対して散々仕掛けてきた、罰ゲーム気分が芽生えた。期待されるならぶち壊してしまいたいという、天邪鬼体質。

「決めた、お前にするよ」

「私?」

「ああ、欲しいのはキャスだ」

 何を期待していたのかは知らないが、1日奴隷のようにこき使ってやったら、こいつはどんな態度になるだろうという悪戯心。プレゼントは物とは限らないって事だ。

 ニタリと意地の悪い笑みで答えれば、学習能力の付いた弟なら眉をしかめる。だがキャスはまだ知らない。意味も分からず、とりあえず頷く物とばかり思っていた。ところがキャスはすぐに首を横に振りやがった。

「それは無理だ」

 何だそりゃ。何でも良いから言えぐらいの雰囲気だったくせに即答かよ。腑に落ちないから言い返してやろうと口を開く前に、キャスはノーと言った理由を述べた。

「私の身も心も全て、とうに君に捧げた。私自身と言われても、もう何も無いから渡せない」

 俺は唖然とした。しかも「誤解の無いように言えば、身とはジミーノバックの体ではなく、私の存在の事だから、君達の言葉でいう生命となる」

 この世の常識のように告げる言葉に、俺は半ば呆然としてしまった。

 だのに相変わらずこいつは俺に、プレゼントの中身をせがむ。

「あと1分ある。早く他の欲しい物を言え」

 どこまでも命令系かよ、なんて心中呟いている場合じゃない。

 いや、いやいやいやっ、何だ今の!?何て言った?!何、ほざいた?!

「欲しい物て……」

 この場でしゃがみこみそうになったぞ、俺は。こいつ何なんだ。

「ホント……何なんだよ、もう」

 ああもう、溜め息と一緒に声に出ちまった。

俺は立ったまま、右の腕で自分の顔を隠した。でなきゃ今すぐ、ここから逃げ出したい。

「ディーン?」

 怪訝な表情で俺を真っ直ぐ見る男は、俺の許可なく俺の物だったのかよ。畜生、こいつ馬鹿だ。絶対馬鹿だ。これだから童貞の天使は面倒くさい。キャスの視線から逃げるように、ベッドのサイドテーブルに置いてある時計の秒針を見る。

 今日が終わるまで、あと10秒。

 こいつは天使の中でも最上級の馬鹿に違いない。けど俺は、それに輪をかけて大馬鹿だ。

「あー……キャス」

「決めたのか」

「変更無しだ」

 俺はキャスの、緩んだままのネクタイを掴み、軽く引っ張った。

 こいつの全部が俺の物だと言う。全部あげたから、こいつ自身は何も持っていないと言い放つ。

 それはとうに為されていたと、捧げた奴が決めたなら。

「だから、貰った返しをしてやるよ」

 自分の誕生日の最後に、野郎の天使にキスするとは、俺もヤキが回った。

 一番タチが悪いのは、ならば俺はこいつに何をしてやれるのか、キスしている時間だけでも考えてしまう最低最悪な心に違いない。

 

 

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1/24ディーンハピバ記念その2。私はやっぱりこっち(C/D)だと確信しました
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