オブリビオンノベル 3.第二話〜吸血行動〜
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帝都から北西に存在する街、コロルへと向かう街道沿いにあった砦の中を一日かけて探索し──ゴブリンの巣窟だったのだが、それで軽く死にかけたり罠に引っかかったりで散々だったことは語らないでおく。

 すっかり衰えた自分を改めて痛感させられ、このままだと多分皇帝を暗殺せんと襲いかかったであろう神話の夜明け団体の暗殺者に、遅れをとるでは済まないだろうと言うことは火を見るよりも明らかに思えた。

 なにせたかだか一体のゴブリンシャーマンに苦戦するぐらいだったのだから。

 

 その後夜明けが近かったため砦の中にテントを試しに広げて休んでみた。中は思いの外どころでなく快適で、幾らかの食料も備えられていた。何よりも火が使える事、そして一定の安全が確保できることが素晴らしい。

 いいものを貰ったと眠りにつき、今さっき起きて砦から外に出た所だった。

 

 夕日はほぼ沈み、かすかに肌を焼く感覚が残る程度。

 特に問題は無しと判断して再びコロルを目指すことにした。

 砦まで来た道を確認して反対側の道を、山の上であるコロルを目指し砦の出口に差し掛かった所で物陰から唐突に人影が飛び出してきた。

 全身を覆う体毛、そして頭の上に生える獣の耳。

 豹を人型に進化させたようなその外見、腰からは特有の尻尾が伸び、その瞳は夜のかすかな明かりの中で爛々と輝いている。カジートという獣人種族だった。

 

「命が惜しければ百セプティムよこしな、そうすればお前も俺もハッピーだ。ナインの御元に逝かなくてすむぜ。嫌だって言うならお前をナインの御元に送った後に俺は必要なものを持っていけるからそれでも一向に構わんがな?」

 

 皮の鎧を身に纏ったカジートの男は、肩に載せている鉄のメイスを見せつけてくる。無骨な鉄の巨大なメイスはそれを扱う男の膂力と、そしてそれで様々なものを容易に粉砕できることを主張してくる。メイスが月明かりに鈍く光る。その光り具合に赤が混ざるのはおそらく染み付いた血の名残なのだろう。

 カジートは私の姿を暗がりでよく確認するうちに、別のことを考えたらしくその顔を厭らしく歪めて見せた。

 何を考えていたのか、こういった野盗の男にとって、見た目の良い女の獲物というものがどういうものなのか、想像するには難くない。

 

「少々ちいせぇがいい女じゃねぇか。お前なら体で払うって選択肢も与えてやろう。金を持っていなくても助かるんだ、運がいいだろう? 俺様は優しいからな」

「体で払うと?」

「そうだ。なんだ? そっちのほうがお好みか?」

 

 にやにやと笑いながら舌なめずりをし、下卑た笑みを浮かべるカジートは上機嫌に言う。追い剥ぎなんてことをしている以上そういったことにも縁遠いことは明白だ。見た目だけならまだ成人前の女性である私を見てそういう反応をするのだからわかりやすい。

 斬り結べるかを試すのも良いけれど、今の私ではおそらく力負けすることは間違いない。砦の中でゴブリン程度を相手に苦戦したぐらいなのだから。それよりもまともな頭を持っているという点においての厄介さはゴブリンよりも上だろう。

 けれど、あくまで剣での戦いだけが世を決めるわけでもないことぐらい、誰もが知っていることなのだ。しかし、その本当の意味を理解しているものは少ないだろうが。

 

「そうね、あいにく手持ちは無いし、そちらの方が都合がいいわ」

「ハッ、女に生まれたことを感謝するこったな。こっちだ、来い」

 

 私の手首を掴み暗がりへと連れ込むカジートの追い剥ぎを前に、私はこれからの事に思いを馳せる。

 少し遊ぶか、それとも、がっつくか。

 長い休暇で衰えた自身がどうなっているのかを確認する意味でも、せいぜい役にたってくれることを祈るとしよう。

 

   *   *   *

 

 私の手を掴んで引き倒したカジートはそのまま腰に手を回してくる。毛むくじゃらな手の感触、そして肉球の感触は悪くはない。ふにふにして柔らかいし、その間から生える毛にくすぐられる感触というのはなかなかに癖になるものだ。

 巷ではカジートの男娼に入れ込む女性も居るという話を耳にすることもある。いっときの遊びであれば異種族でもいいというのも、そういう世界ならではの話だろう。

 とはいえ、好きでもない男に抱かれる趣味もない私にとっては、それはどうでもいい余興に過ぎない。

 

「ウブそうな嬢ちゃんならまずは軽くキスから、ってところか?」

「えぇ、それがいいわ。こんな感じかしら?」

 

 そっと、カジートへと口付けをする。その瞬間、私の生まれが宿す力が開放される。

 恋人の口づけと呼ばれるそれは、一定時間対象の体の自由を奪うというものだ。久しぶりに使った力だったけれど、上出来というぐらいにうまく行った。

 体の自由を完全に奪われたカジートの追い剥ぎはその体を支えられず倒れ込む。そこにのしかかり、にやりと笑ってみせる。

 優位は完全に逆転していた。

 必死に体を動かそうとするカジートだが、もはや指一本動かすことは出来ないらしい。笑いが止まらなかった。

 

「くふ、うぬもうつけよの。恋人座の女のくちづけには気をつけることじゃ。まぁ、その教訓を活かすことももう……無いじゃろうがな?」

「て、め……ぇ」

 

 動けないカジートを仰向けにして、私はゆっくりと、その喉元に牙を突き立てた。生きたまま喰われるというのがどういうものなのか聞いてみたかったけれど、喉笛を喰い潰されたカジートの追い剥ぎはもはやその問いに答えることすら出来ず、時折豚の鳴き声のような、音とも声ともつかない何かを響かせるだけで断末魔さえ残すことは無かった。

 シチューを皿から直に啜るような音、荒い吐息、むせ返るほど濃厚な鉄錆の匂い。

 暗くなった空の下、朽ちた砦の片隅で行われた食事は程なくして終わりを告げた。

 

「ぷぁ……」

 

 数分間喰いついていて血の出て来なくなった喉元から、そっと口を離す。唾液と血液の混ざった液体が名残惜しげに糸を引き月明かりを反射するが、それもすぐに消えた。

 久しぶりの食事に思わず周囲の確認すら怠って喰らいついてしまった。

 すぐに周囲を確認するが、草木の葉擦れの音ぐらいしか聞こえるものはなかった。

 

「ふー、少々食べ過ぎたかの」

 

 口元についた血を拭い、結果手についた血を舐めとりながら眼下のカジートの骸を見下ろす。血の一滴に至るまで吸いつくされた骸はガリガリにやせ細っていた。少々やりすぎたかも知れないと思いつつ、適当に体を漁る。追い剥ぎだから大したものは持っていないだろうと思ったら負傷用のポーションの一個しか持っていなかった。

 

「やれやれ、こんなものしか無い状態で女に走るなぞ、自殺に等しいのぅ」

 

 カジートの亡骸を適当に草陰に放り込み、ひとしきり見える範囲での血を拭ってから再び街道へと戻る。

 月が天頂に至ろうとしていた。

 

   *   *   *

 

 街道を歩いているうちに簡素な作りの農園や、苔や蔦に絡まれた塔に常駐する近衛兵たちの姿があった。昔よりも人の住む領域は広がっているらしい。

 道中で薬草や毒草といった物を採取しつつ、コロルめざして歩く。自身の身体能力を良い事に常人よりもはるかに早いペースで街道を歩くさまは帝国兵に目撃されたくはない事ではある。

 道中に明かりのついた建物を見つけ、私は歩くペースを落とした。人がいるというのならその周辺では普通に振舞っているべきというのは私達吸血鬼にとっては常識である。しかし、とある修道院の前に差し掛かった瞬間私はその気配に思わず足を止めた。

 修道院からかすかに漏れるその気配は、おおよそ修道士が放つようなものとは無縁と思われるような気配だった。

 

(……修道院に偽装したどこぞのギルド、あるいはその類の住居かの? 暗殺ギルドのような禍々しさはないようじゃが……)

 

 裏口の戸が開く音がして、修道士の格好をした青年が夜暗の中を厩へと消えていった。程なくして馬に乗った青年が現れすれ違っていく。帝都の方へと向かっているようだったが、やけに馬を急かしていたように見える。

 しかしそれよりも気になったのは──

 

(ただの修道士にしては……体つきは立派過ぎる。身のこなしに隙がなさすぎだの。それにこの匂い……もしや此処は)

 

 夜闇の中でそれを見送りながら、私は再びコロルへの道のりに戻る。気になるようであれば、コロルに常駐している眷属に聞けば良い。

 けれどそれを聞く必要も無いぐらいに、私はそこが何なのかを確信していた。おそらく、ブレイズの拠点の一つなのだろう。おおよその推測であるそれを頭にとどめつつ、旅路を再開する。

 修道院からコロルまでそれほどの時間がかかることもなく、すっかり街が寝静まった頃に私はコロルへと到着した。

 衛兵達が深夜の訪問に珍しそうに目を向けてくる。

 無理もないだろうが、もしも何か在るようなら瞳術をかけてしまえばよいだけのことなのだが、特に問題が起きることもなかった。

 コロルの街に入ってから少し行動を考える。やることはそう多くないが、とりあえず神を奉る祭壇の場所を確認することにした。門を入って左へと続く道の先らしいことを衛兵から聞いて、道なりに歩いて行くと立派な礼拝堂が聳えていた。

 大きく年季の入った扉であったけれどしっかり手入れされているのだろう、特に音が響くわけでもなく普通に開いた。

 この時間であっても中には礼拝堂付きのヒーラーが常駐している。街として一定の安定と繁栄をしていることは想像に固くない。

 礼拝堂の中で数人と話すうち、治癒系の魔法を修めている神官、オラグというオークの女性に会い、筋力の強化、他者の治療、体力の回復の魔法を覚えなおすことができた。ある程度魔法について再度習得が終わった段階で、自分の使いやすいように調整しておきたい。まだ先のことにはなるだろうが。

 その後に祭壇でナイン・ディバインに──コロルはどうやらステンダールという慈悲を司り人の種族を憐れむ神を祀っているらしかった。

 

 ナイン・ディバイン。タムリエルと呼ばれるこの世界において強く、そして広く信仰される神々。

 一人はアカトシュ、この地シロディールにおいて最も崇拝されているであろう、龍の姿をした神であり、ナイン・ディバインの長であるとされる。皇帝の血筋はかの神アカトシュの血を引く一族であるとも言われ、竜の火もかの神を象徴するものである。

 一人はディベーラ、美の女神でもあり性的なものにまでその影響を及ぼす。芸術家や美を愛好する者、あるいは娼婦に至るまで多岐に渡る信仰を集めている神でもある。

 一人はアルカイ、生と死、輪廻を司るアカトシュの息子とされる神。定命の定めの者と同じ時期に誕生したとされ、定命のもの、つまり寿命を持つ普通の人間たちの神であり、アンデッド等の不死者や、そうしたものを生み出す死霊術師を嫌うとされる。私が祈って一番加護をもらえなさそうな神。

 一人はジニタール、労働と商売、交易を司る神で商人たちに広く信仰される。商人以外にも領主など統治者に信仰されていることもある。金銭の恵みを祈るものも多い。

 一人はマラ、愛を司り多くの人に、とりわけ愛を求める女性や夫婦などが信仰する。豊穣の女神としても知られており、農村などでの信仰もある。收穫の時期にかの神に収穫を感謝し行われる収穫祭はささやかなものから大規模なものまであちこちで開かれている。

 一人はステンダール、慈悲を司り人々を憐れむとされ、種族を超えて広く信仰されている。それだけに解釈が多岐にわたり、種族間衝突が起こりそうであるが、逆に種族間でのつながりを促している。

 一人はカイナレス、空の女神とされ自然を司る。信仰は多岐にわたり、船乗りから農夫、土地を治める領主、旅人までもが祈りを捧げる神。

 一人はジュリアノス、知恵と論理を司る神とされ、多くの学者、魔術師達が信仰を捧げている。また、文学や法、歴史を司るとされ都市を守る衛兵、作家なども信仰を捧げている。

 一人はタロス、ある時期にタムリエル全土を支配したシロディールの皇帝、タイバー・セプティムが死後神格化されたもの。

 かくて九の神々として、彼らをナイン・ディバインと呼ぶ。

 

 私のような存在であっても悪人でなければ捧げた祈りを受け取り祝福をしてくれるらしく、疲れた体が癒されていくのがわかった。

 気が向いたら、今度各地のナイン・ディバインの祠をめぐる巡礼を行うのも悪くはないかもしれない。

 もっとも、今はそんな余裕はない。私は祈りを終えるとそのまま礼拝堂を後にした。

 夜にできること、というのは思うよりも少ない。だからこそ私達には協力者が必要だったというのもある。目的の一つ、一部の魔法については何とかなった。けれどまだ他が足りない状態なのは変わらない。

 試しに魔術師ギルドを訪ねてみたけれど、魔法についての話ができるような状態ではなかった。魔術師の夜は遅いらしく営業こそしていたものの、何やら魔術師ギルドの支部長と思われるアルゴニアンの男性とエルフの女性が何やら口論していた。

 その隣の部屋を覗いてみると頭を抱えた老錬金術師と思われる男性が品を確認していた。

 ふと、自分に足りない能力を補うのに魔法だけが全てではないということを思い出した。

 錬金術、そう呼ばれる薬品調合技術は素材次第で魔法と同等か、あるいはそれ以上に多岐に渡った利用が可能な技術として知られている。

 利用できるのならば大きな助けに、あるいはかゆいところに手が届くかも知れないと、自然足がそちらに向かった。

 

「失礼」

 

 部屋に踏み込んだ瞬間、不思議な匂いが鼻腔をくすぐった。植物、鉱物、あるいは乾燥した血の匂い。それらはおそらく錬金術の材料の匂いだろう。常人にはそれほどの匂いではないのだろうが、私達の五感は常人のそれとは比べものにならない。それだけにその匂いに思わず顔をしかめてしまった。

 棚の上にはところ狭しと様々な物が陳列されている。綺麗な所では調合の道具と思われるガラス製の器が並んでいて、燭台の明かりに照らされて独特の色合いの光りを反射していた。

 

「おや、いらっしゃい。……錬金術師じゃぁなさそうだが、どういった御用だね?」

 

 部屋に踏み込んですぐの老錬金術師の言葉に私は一瞬だけ面食らう。

 

「……分かるの?」

「分かるさ。錬金術師は薬師と同じで、独特の匂いを纏ってる。お嬢ちゃんにはそれがないし、なにより手が綺麗だ。錬金術師の指先は様々な薬品に触れるからね、荒れやすい」

「なるほどね……」

 

 入ってきただけでそこまで相手を観察出来る見事な観察眼と称するべきだろう。それも錬金術師に必要な能力なのだろうか。

 

「目ざとくて驚いたかい? でもこれも錬金術師を長くやっていると身につく能力みたいなものでね、素材を探すときには細かいところまで見ないと見つからないものなんだよ、貴重なものほどね」

「なるほどね……錬金術の道具と、出来れば手引書みたいなものがあればそれも欲しいのだけど、置いてあるかしら?」

「入門的な道具ならいくつか在庫があるが、手引書みたいなのはうちじゃ扱ってないね。うちみたいなところは道具と素材に終始していることが多い。本格的に始めるっていうなら経験を積むまではそういうのも揃えたほうがいいだろうが、お嬢ちゃん魔法と併用を試してみようってクチだろう?」

 

 此処まで見抜かれると賞賛すると言うよりはむしろ警戒に入ってくるのだが、顔を見るとどうやらカマをかけられたらしい。

 うっかりと反応してしまったことに苦い顔をしつつ、そんなところの警戒まで忘れていたかと内心で改めて気を引き締める。本当に、今回の一件次第では私、死ぬんじゃなかろうか。

 

「お嬢ちゃん、エルフだろう? 魔法を使わないエルフなんて居ないだろうからカマかけてみたんだが、当たりだったようだね?」

「降参、貴方凄いわ」

「はっはっは、エルフに言うのもアレだが年の功ってやつさ。今あるのは乳鉢と乳棒、それに蒸留器と焼炉ぐらいだが、どうするね? 入門者っていうなら、簡単なレシピのメモもサービスするよ」

「そうね、いただくわ。ついでに幾つか素材も見繕ってもらえるかしら?」

「構わないさ、サービスしとくよ」

 

 錬金術の道具と見繕ってもらった素材、それらを袋に入れてもらい私は魔術師ギルドを後にした。

 魔法については明日の夕方にもう一度訪ねてみることにするとして、一度協力者を訪ね状況を確認するべきだろう。

 錬金術についても試してみなければいけない。現状の自分は無力過ぎる。

 夜道で考えをまとめ、ひとまず朝が来る前に寝床を確保するべく街の南門に近いところにあった宿へと足を運んだ。

 

   *   *   *

 

 酒場兼宿屋である《樫と杖亭》は一階が酒場、二階に部屋が何室かある形の一般的な店のようで、宿を経営しているのはカジートの女性だった。来る途中の追い剥ぎのことを思い出し少々複雑な気分になるがそれは脇にどけておく。事の善悪に種族は関係ないのだから。

 

「部屋はまだ空いているかしら?」

「ああ、最後の一部屋だよ。借りるかい?」

「えぇ……それから、食事と飲み物をお願いするわ」

「あいよ、すこしまっとくれね」

 

 食事を用意するカジートの女将をよそに、宿代と食事代をカウンターに置き、酒場の席を適当に占領する。暖炉の暖かさに酒場を少し見回すと緑色の宝石で装飾された剣を腰に下げたインペリアルの女性が入ってきたところだった。彼女は女将と少し話をした後酒場を見回し、そして私の方へと近づいてきた。

 

「同席しても、よろしいですか?」

「……ええ、構わないわ」

 

 向かい側の席に腰を下ろした女性は酒場を見回し、周りの状況を何やら確認しているらしかった。すでにおおよその予想は付いているが、まず間違いなく”Terran”の協力者だろう。

 程なくして宿の女将が軽食──サンドイッチとスープだった──を持ってやってきた。そして料理を私の前に置くとそのまま部屋の方へと戻っていった。

 気がつけば窓から見える月も大分傾いてきていた。日が昇るまでそれほど時間はかかるまい。

 私はサンドイッチを手に取りそのまま齧り付いた。軽く炙ったパンの香ばしい香りに自家製のハムのしっかりとした味わい、朝に収穫されたと思われる、やや鮮度は落ちているけれど自家栽培だろうレタスは植物特有の食感を伝えてくる。ピリッと辛いソースと溶けたバターの香りが合わさりさらに食欲をそそる。思わず笑みが溢れる程の絶品だった。

 サンドイッチを半分ほど平らげた所でスープに口をつける。コンソメ風味のあっさりとしたスープにベーコン、ジャガイモ、人参といった割りと普通のスープだが、やはり味がいい。根菜類はしっかりと味が染みていてかつ素材そのものの味も残っている。さらにスープにはその旨味が染み出している。

 気がつけば私はそのまま食事を全て平らげていた。少々名残惜しいぐらいである。普通の食事で満足するのも久しぶりのことだなとしみじみ思い出していると、小さな咳払いが聞こえた。

 気がつけばテーブルの向かい側に席を下ろした女性がこちらに視線を向けてどうしたものかと思案していた。私の食事が終わるまで待っていたらしいが、おそらく私の行動が予想外だったのだろう、基本的に吸血鬼で通常の食事をする者は珍しい。

 

「闇に溶けるような濃い蒼髪に、エメラルド色の瞳。それに黒い服と鎖の装飾。ソマリ・フロリスヘイム様でよろしいですか?」

「ええ、相違ないわ」

「よかった。私、コロルでの”Terran”様方のお手伝いをしています。アンネッタと申します。以後、お見知りおきを」

 

説明
前書き:本作品は、【The Elder ScrollsW:Oblivion】のプレイ記録をそのままノベライズ化してみる試みによって行われている小説作品です。パソコン版において、幾つかのMODを導入した環境下においてプレイを行っておりますので、ネタバレを多分に含みます。それらを了承できる方のみお進みください。また、このノベライズをするにあたっての環境として吸血鬼種族・システムとして【TerranVampires】と呼ばれるMODを導入してあります他、多量のMODによる環境の変更が行われています。ご了承ください。最初は適当に徘徊→その後TerranVampiresでのメインストーリーという流れになると思います。◆オブリビオンをわからない人でも楽しめるように書いていければいいなぁ、と思いますがこういうところわからねーよ? ってのがあれば気兼ねなくコメください。頑張って説明おりまぜていきます。◆正確には今回宿に泊まったタイミングでTerranVampires化しています(宿にショートカットして始めるアイテムがある)普通にプレイした場合Terranになれるのはクヴァッチの英雄になった後です。
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