フィリーさんの『腐』劇場-トトリ・ミミ編- |
「あっ、いらっしゃーい。メルルちゃ〜ん」
酒場の冒険者ギルドの受付で仕事をこなしていると、ドアが開く音が聞こえて
見慣れたお姫様の姿を確認して私は慣れた口調で話しかけた。
出会った頃はお姫様ってことで萎縮していた私にメルルちゃんは気軽に話しかけて
きて、私のその気持ちに応えている内に友達という関係に収まっていた。
「頼まれた依頼こなしてきましたよ〜」
「わっ、すごい〜。討伐も、依頼物も・・・うわっ、すごい質がいいじゃない〜」
「へへへ、がんばってきましたもん!」
カウンター越しに仕事を済ましたほかの冒険者の酒臭い空気が漂う中、
メルルちゃんと話をしていると、メルルちゃんの話の中でトトリちゃんとミミさんの
名前が浮かんできた。そういえば、あの二人はすごく仲が良いんだよね〜。
ミミさんはちょっと怖いけど・・・。
「それで、ミミさんがですね〜。トトリはいないの?トトリトトリって先生のこと
ばっか言って、なんだか可愛いんですよね〜」
「へ〜、そうなんだ〜」
あっ、やばい。その話を聞いてから、話の内容の端端から私の脳内で妄想が
広がりつつある。確かにトトリちゃんとミミさんってすごい相性いいかもしれない。
私はうっとりしたような表情を浮かべながら自分の脳内で再生されたイメージを
口に出して話し始めた。
**********************************
「トトリ、いる?」
「あっミミちゃん・・・。どうしたの?」
アールズの一角に佇むアトリエに足を踏み入れる者がいた。アーランドでも
有名な存在で家名を上げるためにアールズの冒険者ギルドにいると言っていた。
だが、それは仮の理由に過ぎなかった。
「・・・」
「あの・・・用件は?」
「別にないわ」
「え・・・?」
今日は特にいつもと様子が違っているように見えたトトリが親友であるミミに少しだけ
怪訝な表情を見せる。何が目的なのかはっきりしない。そして、それを聞くたびにミミは
「あなたの仕事ぶりを見に来ただけよ」と言うだけであった。
依頼が溜まっていることもあって、トトリはミミのことを追求せずに調合を続けて
依頼された物を作っていく。この日はロロナのホムンクルスもロロナもいなく、
その場にいたのはトトリとミミだけであった。
普段のミミならば、いつも胸の中でもやもやしているだけで特に手を出す人では
なかったが、長年の想いが積もっていって、今夜、この想いを伝えたいと気持ちを強く
して、トトリの調合を見守っていた。
調合に夢中になっているトトリのために、並木町で調達していた、ここの国の名物
であるきのこを使って料理の下ごしらえをして、以前に訪ねたときに見たお風呂場で
お風呂を沸かしにいった。
いつも忙しくて疲れているであろう、トトリに美味しいご飯を食べてもらおうと、
がんばるのだ。それこそ、毎日ミミちゃんのきのこが食べたいのぉ、と
言わせるぐらいには。という意気込みが彼女にはあった。
「ふぅ・・・休憩〜〜」
予想以上に時間がかかったトトリはかいていた汗を袖で拭ってその場を振り返った
際にミミと目が合い、ミミは偶然ながらも目が合っただけで顔が赤くなってしまい、
いつもの癖で目を逸らして、やや下向けで床を見つめていると。
「あれ、ミミちゃん、それ・・・?」
「え、あ。そうよ、貴女汗でびしょびしょだからタオル持ってきてあげたわよ!」
「わぁ、ありがとう。ミミちゃん〜」
タオルを渡そうとしたときに、互いの手が触れ、目の前にトトリがいるという
感覚がミミの体を熱くする。近くに居るために、トトリの体から発せられる汗の匂いが
ミミの頭の思考を鈍くさせてしまうのだった。
「あれ、お風呂も入れてくれたの?」
「え、ええ・・・」
「じゃあ、さっと入ってきちゃうね」
「え、ええ・・・」
トトリの言葉をそのまま鸚鵡返しのような受け答えをしてトトリがお風呂に入ってから
ミミは我に返って、すぐに後悔が始まった。
「くっ、せっかくのチャンスだったのに・・・トトリとの・・・お風呂・・・」
言うだけで頬が熱くなるのがわかる。まだ、まだ早いわよね、この調子じゃあ
そんなことできやしない。そう、ミミは自分のミスを認めずにそうやって言い聞かせた。
トトリが風呂に入っている間にミミは下ごしらえをしていた材料を使って
料理を始めた。フライパンに油を引いて火を通すとジューという音と共にタレに漬けた
きのこや他の材料を入れて炒め始めると、ふわっと熱い湯気と一緒に美味しそうな
匂いが昇りミミの鼻にも入っていき、さっきまでの緊張も少しだけ和らげていった。
「今日は、絶対にトトリに言うんだから」
「ん、私がどうかした?」
「わっ・・・!」
「わっ・・・!」
ミミが驚いたのを見て、ほぼ同時に同じような驚きの声をあげるトトリ。
一瞬バランスを崩しそうになったトトリをミミは咄嗟に持っていたものを放って
トトリの体を両手で受け止め抱き寄せる。
「あ、危ないじゃない・・・」
「ごめん・・・ミミちゃん・・・」
お風呂上りのトトリの温い体が目の前にあり、その後に動くことができずにいた。
綺麗な肌だった。張りがあって指から伝わる感触がものすごくリアルに柔らかくて
ミミの心臓の鼓動が激しく鳴った。
トトリも同じように普段とは違う積極的なミミの腕の中で熱っぽい溜息を吐いた。
「トトリ・・・?」
「あっ、ごめん。ミミちゃん、もう大丈夫だから」
「あ、ああ。そうよね」
トトリの言葉をきっかけに二人とも、もやもやした頭の中から目覚めた二人は
すごい勢いで離れて少しの間を空けてから、ミミが用意した料理を見てトトリが
少し慌てたような口ぶりで話を始める。
「わぁ、これミミちゃんが作ってくれたんだ〜」
「え、ええ、そうよ。トトリがそろそろ私の手料理が食べたいだろうと思って
しょうがなく作ってきたんだから」
「えへへ、ありがとう。ミミちゃん」
「・・・」
軽く視線を外しながら憎まれ口を叩くが、そんなことは慣れっこであるトトリは
笑いながら流すと椅子に座って並ばれてる料理を眺めて感嘆の溜息を漏らす。
「すごいね〜」
「でしょ?」
「でも、これ私達二人じゃ食べきれないよ〜」
「んなっ」
言われてミミは気づいた。改めて自分の作った量をみていると、確かに二人じゃ
食べきれないほどの量に達している。決してトトリやミミが小食などではなく、
ただ作りすぎただけなのだ。
「メルルちゃんが来るまで待つ?」
「だ、だめよ。それに、メルル姫には私が頼んで外に出てるし」
「メルルちゃんに・・・?何を?」
「ちょっと材料で欲しいのがあって。それで」
「へぇ、ミミちゃんが錬金術の素材で欲しいものがあったんだね、珍しい」
これは本当の話で、メルルにはミミからちょっとした相談を持ちかけてその話を
聞いたメルルは目を輝かせて、採取しにいくのを名目に一度旅に出たのであった。
それのことを知っていたはずなのに、それでもトトリのことを考えると他の事に
あまり頭が回らなかったことに自分自身に落胆していた。
「じゃあ、いただきまーす」
「え?」
ミミの前で手を合わせてからフォークを手にして炒めてあるきのこに手を伸ばした。
トトリは少し大きめのきのこを刺すと大口を開けて何とか入れると、もぐもぐと
しっかりと粗食をして飲み込むと、目を輝かせながら嬉しそうに呟いた。
「おいしー。これ、美味しいよ。ミミちゃん!」
「あ、当たり前でしょう!?」
それでなくとも、以前に旅をしていた時にしっかりとトトリが好きそうなものを
チェックしていたんだから。と、ミミは口に出さずとも心の中で呟く。
と、他にもおかしい所に気づいたトトリはミミに向かって聞いてきた。
「そういえば、ロロナ先生とホムちゃんたちもいないね。どうしたんだろう」
「ホムンクルスはメルル姫が採取の手伝いをさせて、ロロナさんは師匠の所に遊びに
行ったわよ」
「へぇ〜。え、なんでミミちゃんがそんなこと知ってるの?」
「むぐっ・・・!」
トトリの急所の言葉に今、まさに口にした食べ物を飲み込もうとしたときのタイミング
で声をかけられたので、気管に触れそうになって、ミミは盛大にむせた。その反応に
驚いたトトリはミミの近くに駆け寄って心配しそうな顔をしてミミに声をかける。
「大丈夫!?」
「あ、うん。平気よ・・・」
何かを悟られる前にミミはトトリに話題を自分から提供して逸らすことにした。
お腹も空いているみたいだった、トトリはそれ以上の詮索をしないでミミの料理を堪能を
していて嬉しそうだった。
「久しぶりだなぁ、ミミちゃんと二人でこうして食事取るの・・・」
「そうね・・・」
二人きり、変なことを意識せずに素直にそれを受け取ると前のことを思い出すミミ。
その頃も、ジーノとかも一緒に行動していたから、それこそ長い付き合いでも二人きり
というタイミングはそうないのではないだろうか。
「うふふっ、何だかんだでお腹空いてたからなんとかなりそうだよね」
「本当に・・・トトリもよく食べるわねぇ」
「錬金術はよくカロリーを消費するのです」
「え、その話。もっと詳しく教えて頂戴!」
「あははっ、力使ったり集中力を持続したりして、カロリー使ってるだけだよ?」
「なんだぁ、紛らわしい」
「ふふふっ」
本当にその場では自然に話ができていた。もうこの時点でミミは当初の予定はなど
どうでもよく感じていた。トトリの笑顔と話がミミには心地よくて本当に幸せな気持ちに
浸っていたい、という気持ちが強かったのだ。
食事が終わってから、少し遅いお風呂をミミがいただいてからアトリエ内に戻ると
トトリの姿がない。ミミは辺りを探るが気配は感じない。着替えの服を着ると
外へと出ると、辺りは暗くていつの間にか夜中になっていたことに気づいた。
トトリはどこにいるだろう。と探る前にアトリエの入り口近くにある段差がある
ブロックに腰をかけていた。そう、そこはいつもミミが待機している場所でもあった。
ミミが近づく時に気づいたのは夜中なのにトトリの周辺。いや、ちらほらと仄かな
明かりがあることに気づく。そして、近づく気配に気づいたトトリは振り返りもせずに
自分の隣のブロックにぽんぽんと軽く手で叩きながら声をかけてきた。
「ミミちゃんもおいでよ」
「ええ・・・」
言われなくてもわかっていた。ミミはトトリに言われた場所に座ると自然に見上げた。
そこは満面の星々の海が広がっていた。どこまでも続く星たち。それらが放つ淡く
冷たくも優しい明かりにミミは見とれた。
「田舎だからかしら、よく星が見えるわね」
「本当だね。本当に・・・綺麗」
「トトリも綺麗よ・・・」
「え・・・」
ミミも驚くほど自然に口から滑るように言葉が飛び出していた。その後、すぐに口を
塞ぐもすべての言葉は既にトトリの頭の中に収納されていた。
「ミミちゃん・・・?」
「あぁ、もう・・・」
「どうしたの、いつもと様子が変だよ?」
「違うの・・・。本当は私はいつも・・・」
「ミミちゃん・・・?」
ミミは両手で顔を覆ってトトリに見られないようにしていた。どこから話せばいいのか。
でも結局は全てをばらさないといけない状況になっている。ミミは赤らめた顔を晒し、
トトリの目を見ながら少しずつ話していった。メルルに頼んだこと、ホムたちにも仕事を
させて不在にさせたこと。ロロナを師匠に預けたこと。全てはミミがしたことだ。
「どうして?」
「貴女と・・・トトリと一緒にいたかったから・・・」
「でも、みんなと一緒じゃ・・・!」
ここまで話しても気づかないトトリにミミはイライラしてついにはトトリの口を自ら
の口で蓋をした。トトリの無防備な肩に少し強めに掴んで空いた手で背中までに回して
自分へと引き寄せる。言葉は崩れ意味をなくし、口から漏れる声は徐々に喘ぐような
声に変わってミミの中で罪悪感と背徳感。そして、半ばヤケになり、複雑な気持ちで
トトリから口を離した。
「私は・・・こういう意味でトトリのことが・・・好きなの・・・!」
どうにでもなれ!やってしまったものはもう取り返しがつかないのだ。ミミはどこか
死刑囚のような気分で目を瞑ってトトリの返事を待つ。いきなり、親友だと思っていた
相手からほぼ無理やりにキスを奪われたのだ。怒って然るべきであろう。
そう覚悟していたがいつまでたっても怒る言葉も行動も起こさないトトリにミミは
恐る恐る目を開けると、表情を赤らめてジッとミミを見ているトトリの姿があった。
「トトリ・・・?」
「え、ううん・・・。びっくりしたなぁ・・・」
「あ・・・ごめん・・・」
「ううん、謝らないで・・・。それに私・・・別に、嫌じゃなかったの」
「へ・・・?」
「私もそういう好き・・・なのかな?」
トトリは月の光に照らされた状態でやや身をかがめる格好で首を傾げてミミを
見ていた。その神秘的な光景にミミは唾を飲み込んだ。そこにいたのはいつものトトリ
であるはずなのに。すごく魅力的な女性に見えたのだ。
「そうかも・・・しれない・・・でも、気持ち悪くないの?私達女同士なのに・・・」
「そんなこと、考えたこともなかったよ。人を好きであることにそういうのって
あるのかな?・・・って、ロロナ先生とかなら言いそうだよね」
「・・・」
「でもね、私も最初は驚いたけど。嫌じゃなかったから、別に変とは思ってないよ」
「え・・・」
「私もね、そういう意味でミミちゃんのこと好きになっちゃったみたい」
「トトリ・・・」
そして、淡い光がスポットライトのように光る場所でもう一度、二人はちゃんとした
キスを交わした。味はさっきまで食べた料理の味がした。でも、なんだか気分は
甘酸っぱくて嬉しくて、体が震えそうだった。胸の中にあるものが全て外に出て行きそう
なほど、ドキドキしていた。
「ミミちゃん、もう一回・・・」
「トトリ・・・。いいわ、あなたが要求するたびに私はし続けるわ」
「ミミちゃん・・・」
「ん・・・」
しばらくそうして、お互いの存在と愛しさを確認すると、さすがに夜風で冷えてきたか
トトリが少し寒そうにしていた。良く見ると、トトリは華奢で無駄な肉はついていない。
どこからあんな大変な錬金術ができるのか不思議で仕方ないほど、トトリはどこにでも
いる女の子に見えた。
「トトリ、中に入ろうか」
「うん・・・」
ミミはあらかじめ自分が羽織っていた上着をトトリに着させて、背中に手を添えながら
中へと入っていった。結ばれた今宵の夜はここまでに留まらない。そこから先を知るのは
当人同士か、あるいは神様しか知る由はなかった・・・。
****************************************
「そして、二人はもうあんなことやこんなことをしちゃって、きゃー!!」
「ちょっ、ちょっとフィリーさぁん・・・!あぁ、また私の知らない世界へと旅立って
しまった・・・」
ここまでの妄想録を語っていたフィリーに呆れながらも、報酬はもらったことだし。
こうなると長いのは今までの付き合いからもわかるメルルはフィリーに一言だけ
声をかけて冒険者ギルド兼酒場から抜け出して一息ついた。
「ふ〜、フィリーさんのあの想像力はすごいなぁ。何とかして錬金術に
取り入れられないだろうか」
「まったく、メルルは本当に錬金バカなのね」
「あっ、ケイナ」
出たところで、声をかけられたメルル。太陽の逆光で姿こそ確認はできなかったが
その小さい頃から聞き続けていた大切な人の声で把握できた。
「こんなところで油売ってていいんですか?」
「もう、厳しいなぁ。ちょうど、依頼を終わらせた所だよ」
「流石メルルですね」
「もう、上げるのも落とすのも上手いんだから、ケイナは・・・」
さっきの話の余韻だからか、そこまでのことはしないけど。手持ちのお金を見た
メルルはケイナに声をかけた
「あのさ、これからどこかに遊びにいかない? パイでも持ってさ」
「え、急にどうしたんですか?」
「うーん、なんとなく。そういう気分なんだよ」
大切な人と過ごす貴重なひと時を味わいたいんだ。その言葉は僅かにケイナには
届かなかったが、ケイナには長年の付き合いから、メルルがしたいことはおおまかに
わかっていたから。
「いいですよ、メルルがそれでいいなら」
「よぉし、じゃあさっそくでかけよう!」
「あの、パイは・・・?」
「錬金術で作ったパイでいいでしょ〜?」
二人の少女がキャッキャッと騒ぎながら走り出した。どんなに開拓が進んでも
長閑な光景は薄らぐことはない、そんなアールズは今日も平和なのであった。
終
説明 | ||
タイトルにフィリーさんと出ているけど、事実上はトトリとミミ がメインです。 後は、メルルしかプレイしていない本人なので、 こんなん二人ちゃう! とか思われたら、フィリーさんの妄想だし。 で片付けられますね(ぉぃ) もし、よかったら見ていってください(´ω`*) |
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