ロウきゅーぶ! 真帆アフター 〜Shiny−Frappe・真夏に咲く大輪の花〜12 |
Twelve・Till The Day Can See Again
「……またみんなに言うよ。もう、黙っていなくなるのは悪いから」
「……っと、ついたみたいだぜ」
「あっ、兄ぃ達だ。兄ぃ〜っ!!!」
「気分はどうだお兄ちゃん? まああいつはあいつでナツヒの彼女に身を堕としたがな」
「気分も何もあるかよ……葵、これはそのあの……」
「今更知ったこっちゃ無いわよ」
「……ぬう」
むすくれるあおいっちに最大限の配慮をし(すばるんも罪な男よ)、二人はみんなの元へ寄っていく。
そこにはいつものバスケメンバーと前述の通りあおいっちと、みーたん。すばるんの母親の七夕(ナユ)さん(流石に『なゆっち』とは呼びづらい)、そして……うげぇ羽多野先生だよ何で来やがった。
ちなみにみんなの中心にあったのはあったのは特大の……パフェ、か?
「あっ、昴君に真帆ちゃん。遅かったわね〜」
「おうおう、これは何だい一体全体?」
「マホ、落ち着きなさい。私達の為に七夕さんが作ってくれたフラッペ、私達全員を表してるんだってさ」
サキが説明してくれた。確かに、パフェの器に贅沢に盛られたフラッペは色とりどりの細工がされていた。
「そう、底の地盤を固めるのはブルーハワイのかき氷、これは常に広い視野で私らを根本から支える『氷の絶対女王政』(アイス・エイジ)、永塚紗季よっ」
「その上はボクが作った。桃のゼリーに食紅を少し混ぜて、見た目も味も桃色と言うわけだ」
「桃色の甘美な誘惑、『無垢なる魔性』(イノセント・チャーム)、袴田ひなたっ!!!」
「先生」
「どうしたのマホちゃんっ!?」
「うっせぇ」
「……はい」
先生を冷淡に黙らせると、また皿の上に視線を移す。
「えへへ、『七色彩蕾』(プリズマティックバド)の名にふさわしい、極彩色のゼリーを散りばめてみました」
「アイリーン、先生のノリに無理に合わせること無いぞ?」
「べっ、別に羽多野先生は関係ないもん!!」
「それで……次は私だよ」
『雨上がりに咲く花(シャイニー・ギフト)』、誰が呼んだかその二つ名(注:羽多野先生に決まってるけど)、その名に相応しい完熟パインの輝くステージ。あまりの熟具合に果汁が弾けんばかりにキラキラと輝いている。
すげぇ……私が目をキラキラさせながらその造形物に目を奪われていると、右手にひんやりとした感覚が。視線を移すと、その手には半分に切られた、真っ赤に熟したグレープフルーツが。
「これ、『打ち上げ花火』(ファイアーワークス)だよ。マホっ」
「もっかん……うん、ありがとなっ!!!」
「そして……ほら、お前の分だロリコン」
「ミホ姉……ああ、任せろ」
すばるんは袋に入った物をフラッペにぱらぱらとふりかけていく。色とりどりのカラースプレー、それは夜天の空からこぼれ落ちた星くずの欠片達のようだ。
「いつだって君は、あの子達をいつも輝かせてくれた……そんな貴方に、『輝ける壱番星』(トゥインクルスター)の称号を送らせてもらうわ」
「先生……みんな……」
何の誇張もない。私達全員が集まって一つの作品でチームなんだ。
「どうしたんだ、こんな所に呼び出して」
時間は九時前。神社の御前に私はすばるんを呼び出した。
「用があったんならさっきでも……」
「いや、ほらあれじゃん。さっきはいつ他の奴らが来るか分からなかったし。何つーの、何か勢い任せでって言うかさ……」
う〜ん、客観的に自分を見たら相当滑稽に違いない。無理してる、ダイブン。
顔から火が噴きだしてもおかしくないし、逆に青ざめて昇天するのも致し方無いことだ。
それでも、自分のけじめだ。別にこれで何が変わるわけでもない。
「また、この町を離れて、私らなんかが想像もつかないような辛い思いをいっぱいして、それでも大好きなバスケに打ち込んで、いつかそのプレーを観てくれるみんなを幸せにするんだろ? だからさ……言わせてよ」
「すばるん、大好きだよ」
言えた。客観的に見ても全然問題ないはずだ、練習した饒舌な台詞がちゃんと出せたかな……
私はすばるんに背を向け、あははと乾いた笑いを漏らす。
「わざわざ呼び出してごめんな、でも次言えるのはいつか分かんないし。ああでも別にそんな深く考えなくても良いからさ、別にそんなんじゃ……」
「真帆」
何だよすばるん、行かせてくれよ。別に大した話、じゃ……
振り返った瞬間、私の視界は遮られ優しい温もりに包まれた。
「すぐ戻ってくるから……絶対に、もう悲しませたりしないから」
「だっ、だからいってんじゃん! そんな意味でいっだんじゃ、な゛いっで……んぅっ、んぐっ……」
大人になりたかった。子供の自分が嫌だった。だから必死で強くなろうとしていたんだ。
だけど、彼の前でなら。
少しの間、子供の自分を愛せる気がしたんだ。
「うぅううぅうあぁああぁぁぁああああぁああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
笑顔で送り出そうと思っていたけど、全部台無しだ。でもまあ良いか。
泣くだけ泣いてすっきりさせると、居直り強盗のように身を引き歯をにまっと見せる。
「べっ、別に悲しくなんかないんだからねっ!!!!」
「あーはいはい、分かりましたとも」
「信じてない、信じてないよこの人はっ。……頑張って来いよ、いつだって待ってるから。んで、活躍の噂をこの町まで届かせてくれ」
「……任せろ」
ヒューーーー……………パァァアアン!!!
花火だ。祭りの最大の目玉にしてその終演を告げる華やかで儚い、黒いキャンバスを飾る大輪の花。
あの花のように、私も咲き誇れるかな……
「出来るさ」
「……っと、口に出してた?」
「どうせ、あの花みたいに、とか思ってたんだろ。『打ち上げ花火』(ファイアーワークス)、三沢真帆」
「……うっせえ」
やられっぱなしは癪なので、私は切れ味鋭いスティールを決めるがごとく入り込み、少しばかり背伸びをして……
……………
「いただきっ!!」
「ちょ、おまえな……」
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