真・恋姫†無双 雛里√ 鳳凰一双舞い上がるまで 第三章 17話(後編)
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倉SIDE

 

あたしは亜季ちゃんを連れて、後で彩を待ち合わせる場所に向かった。

彩は先に来て待っていた。そこには先に用意されていた馬と、変装のための服が用意されてあった。

 

「なあ、彩、オレたちなんで逃げるんだ。まだちゃんと戦ってないぞ」

「馬鹿言いなさい…あなた何も聞いてないの?」

「へ?」

 

亜季ちゃんがあたしの方を見る。

 

「……ちょっと忘れた」

「ちょっとって何だよ!何で遙火

は全部知ってるのに、オレは何も知らないんだよ!」

「だって亜季ちゃん説明しても分からないから」

「阿呆扱いするな!」

「亜季ちゃんは阿呆じゃない。ちょっとからかうのが面白いだけ」

「お前……逃げる時逃げてもお前と決着はつけて帰る」

「…そんな時間ない。それに、友達とは戦わない」

「ふえ?」

「親友とは、行動で出さなくても、言葉にしなくても分かり合えるものがあるって一刀が言ってた」

 

それを聞いた亜季ちゃんは凄く黙り込んだ。

 

「…うん、…うん、そうだよな。遙火とオレは親友だからな。分かった」

「……嬉しい」

 

後、一刀はそういう話言ってないけど……。

 

「倉、二人にありがとうって伝えて」

「…うん、また逢える」

「…そうね、その時は何もうしろめたくない状況で会えたらいいわね」

 

紀霊は最後にそう言って馬を走らせた。

亜季ちゃんとその後に付いて消えていった。

 

……袁術と張勲はもう逃げている。

これであの人たちはこの事態から完全に逃げ切った。

後は、あたしたちの番。

 

 

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雛里SIDE

 

今、私と真理ちゃんはある人を待っています。

今日までは到着すると言っていましたが、少しでも遅れたら城で待っている一刀さんたちが危なくなるかもしれません。

 

「…見えた」

 

高い場所から見ていた甘寧さんが降りてきて言いました。

 

「ほんとですか?」

「ああ、魯の旗、間違いない。かつて孫家に仕えた魯子敬の商団の私兵だ」

 

魯粛さんについては、塾に居る時百合さんから色々話を聞いていました。

百合さんと一緒に周瑜と親友の関係を築いていましたが、孫堅さんが死んで孫策さんが家系を継ぐようになってから二人とも孫家を出て、魯粛さんは徐州に戻り家門の商売を継いだそうです。

魯家は元々商人家門で、荊州では有力が豪族の一門です。

荊州の商団を率いるのは魯粛さんの母で、魯粛さんは徐州で自分の商団を組んで、今や徐州で一番大きな商団になっているようです。

 

「魯粛さまからの伝令です。鳳士元さまと諸葛均さまは何方でしょうか」

「私が鳳士元です」

「てわわ、私が諸葛均です」

「お二方とも、魯粛さまが直々にお会いしたいと申しております。一緒に来ていただけるでしょうか」

 

今はあまり時間を過ごしてる場合ではないのですが、受けないわけにも行きません。

 

「分かりました。行きます」

「はい、…諸葛均さまは…」

「あわ……そのあの……ちょっと用事でここには…」

「左様ですか。ではこちらに」

「てわわ…」

 

・・・

 

・・

 

 

伝令に付いて商団の方へ行くと、女性一人が馬から降りてきました。

 

「魯粛さま」

「ご苦労さまです。下がって頂けますか」

「はい」

 

伝令さんが下がると、その人は私の前に歩いてきました。

明るい灰色の髪に藍色の瞳のその女性は、百合さんみたいな、でも少し違う意味で、とても優しそうな風彩を持っていました。この方が恐らく魯粛さんでしょう。

でも、気を抜くわけには行きません。

友たちのお姉さまの友たちという、コネ(という言葉があるそうです)になるのかも危ういコネを使ってお願いはしたものの、ここまで来てくださったこともかなり恐れ多い状況です。

 

「あ、あの、こ、ここまで来てくだしゃってありがとうございましゅっ!」

「てわわ、噛んでるよ、雛里お姉さん。いつも大事な時にばかり噛んでるよ」

 

言わないでー!?

 

「あらあら、そんなに畏まらなくてもいいですよ」

 

でも、魯粛さんは見ての通りの優しそうな声で話しながら裾から何かを持ち出しました。

 

「飴食べますか?」

「あわ?」

「「!?」」

 

手に乗せられてるのは三つの飴。

真理ちゃんと甘寧さんもあまりの行動にどう反応すればいいか戸惑ってます。

 

「あわわ、あの…」

「魯粛さま、今はそういう場合ではないかと…」

 

後ろに付いていた秘書らしき男の人が魯粛さんにそう言いました。

 

「あら、ごめんなさい、私ったら可愛い娘を見たら直ぐ飴をあげたくなっちゃうのですのよね」

「あ、あわわ…」

「てわわ、なんだかちょっと妙な人です」

「良く言われます」

「……てわわ!」

「あわわ、どうして真理ちゃんと普通に会話出来てるんですか?」

 

この人、やっぱりちょっと只者じゃないです。

 

「百合から聞いたことがあります。人に良く気付かれないけどとても可愛い妹が居ますって…私は商人ですから、そういうものには結構鋭いのですよ」

「てわわ……そうなんでしゅか」

 

最近私のこと気づく人多い、ととてつもなく複雑な顔でつぶやく真理ちゃんを後にして、私は話を進めました。

 

「魯粛さん、ここまで来てくださってありがとうございます」

「いいえ、感謝されるようなことではありません。元を言うと、全ては私の不慣れから始まった事故なのです」

「あわ?」

「魯粛さま、そのようなことはありません。自分が弟のことをしっかり管理していたなら…」

 

後ろの秘書の人がそう必死そうに言いましたが、魯粛さんは頭を振りました。

 

「いいえ、私は徐州に来る時に誓ったのです。お金は人を幸せにするために使う道具であるべきで、決してお金が目的になってそのために人を不幸にするようなことがあってはならないと……彼を見失ったことで、私はその決意を破ってしまったのです」

「全ては、自分が一家の者をしっかり監督しなかったせいであります。どうかご自分を責めないでください」

「あの、どういうことですか?」

 

真理ちゃんが聞くと、魯粛さんは…

 

「説明すると長くなりますが…今はそのような長い話をする場合ではないと存じます。時は金なりと言います。まず終わらせるべきことをちゃっちゃと終わらせましょう。お話はその後お茶菓と一緒にゆっくりと話すとしましょう」

「は、はい、分かりました」

 

そして私たちは魯粛さんの私兵と共に城へ向かいました。

 

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その後、私たちが城に戻ってきて孫策さんたちを見た途端、魯粛さんはそこに居た太史慈の軍師の人を捕縛したのでした。

 

「彼の名は糜芳、私の所に居る商人、麋竺の弟であります。商人として有名な兄の名を借りて、豫州にて悪質な商売を広げていたのです」

「一体どういうことだ。彼ば麋竺ではないというのか?」

「それだけではなく、彼はこの豫州に蜂蜜を売っぱらった張本人でもあります」

「なっ!」

 

魯粛さんが淡々と話す言葉に太史慈さんは口を閉じませんでした。

 

「つまり、彼は元々お前の監視下にあるべき人物だということか、深月」

 

魯粛さんの親友である周瑜さんがそう聞くと、魯粛さんは事情を説明しました。

 

「恥ずかしながら、そういうことになります。麋家は元々徐州の有力な豪族だったのですが、その稼ぎ方法があまりにも荒くて、民たちを思う心がなく、ただただ金を集めるための商売をしていました。それを見た私は麋家の資金を縛って、糜家を我ら魯家の管理下におこうとしたのですが、糜芳は最後に麋家にあった財宝を盗んで消えてしまいました。その後彼の跡を探そうとしたのですが、なかなか見つかりませんでした。恐らく豫州の袁家に守られて、今までその姿を見つかることが出来なかったのでしょう」

「でも、その糜芳と袁家が対立する構図が出来て、私たちが魯粛さんに豫州の情報を流すと、魯粛さんはそれが糜芳の仕業であると感づいたわけですか」

「はい、今回の機を逃せば、もう二度と彼を捕まえることは出来なかったでしょう。ここの民たちから絞りとったお金で都や河北に逃げていたら、本当に行方を知らないことになっていたかもしれません」

 

魯粛さんは捕まえた糜芳さんを悲しそうな目で見つめながら言いました。

 

「麋竺、いや、糜芳、本当にお前の仕業だったのか……お前が豫州に阿片の入った蜂蜜を売ってきたのか」

「た、太史慈殿、わたくしは本当に何も……」

「とぼけるのはその辺にした方が良いぞ、糜芳」

「!…兄上」

 

最初は潔白を主張しようとした糜芳は、本物の麋竺である自分の兄が魯粛の後ろに居るのを見て本色を表しました。

 

「…ああ、そうだ。俺がやったんだ」

「っ…!貴様…!!」

「愚かだな、太史慈。貴様は力はあっても真実を極める能力が足りなかった。いや、寧ろ嘘というものが出来ない貴様だったからこそ、俺が利用するに丁度良かったってわけだがな」

「貴様はそれでも人間か!人の心を蝕む薬を売ってお金を集めて一体何をするというのだ!」

「綺麗でも汚れても金は金。俺は金さえあればソレでよかった。なのに何だこの様は。兄という奴はヘタレな女に家の私財まで奪われ俺はもう稼ぎができなくなってしまって、逃げてきた豫州では豚どもが自分たちの分に合わないほどの財を貪ったせいで計画がズレ、挙句にはどこぞの馬の骨化も知らぬ連中によって足元を掬われるなんて……」

 

糜芳は最初は自分の姿を嘲笑するかのように一人で笑っていましたが、途端に怒鳴りつけました。

 

「ふざけるな!お金を稼いで何が悪い!お金さえあれば何でも出来る。貴様がそれほど望んでいた平和も、お金さえあれば出来るものだ。金はこの世の全てだ」

 

太史慈さんにそう言った糜芳は今度は孫策に向かって叫びました。

 

「貴様らも同じだ!貴様らがこの乱世で自分たちの地を取り戻そうとするのが当然のように、俺という人間が沢山の金を稼ごうとすることもまたおかしなことじゃない!なのに何だと?民を苦しめる?はっ!その民たちの命を持って戦争ごっこをした貴様らと何が違う!結局は同じなものだ。貴様らも俺も、ただ欲望に充実している、まさに人間らしい生き方をしているだけだ!」

「黙れ下郎!」「黙りなさい!」

 

甘寧さんと周泰さんが糜芳の罵倒に耐えられず各々剣を持って駆けつけましたが、

 

「待ちなさい!」

 

孫策さんがその二人を止めました。

そして、糜芳の前に出ました。

 

「孫策…」

「黙って見ていなさい」

 

孫策さんが糜芳を殺すことを恐れた一刀さんが何か言おうとしましたが孫策さんの剣幕に押されたのか、それとも大丈夫だろうと判断したのか、一刀さんはまただまりました。

 

「あんたの言う通り、私もあなたのようにただ私が望んだもののために人たちを犠牲にしてきたかもしれない。けどね、私はその犠牲になった人々を覚えている。我が孫呉のために命を賭けてついて来てくれた人々の魂を私たちは忘れない。だけど、あなたはただ彼らの金を貪るだけよ。彼らの魂を蝕んで生きるのがあなたの本当の姿よ。そんな汚らわしい欲望を、私の野望と一緒にするんじゃないわよ!」

「ふぐぉっ!」

 

縛られている糜芳に一発蹴りを入れた孫策さんは気絶した糜芳を振り向くこともなく、そのまま魯粛さんの方へ行きました。

 

「深月…久しぶりよ」

「雪蓮さま……はい、一年ぶりになりますね」

「…あなたもまた、私が足りないと思っているの?」

「………」

「私はね。自分なりに頑張ったつもりよ。母の名に泥を塗るようなことがないように、孫呉の名誉を穢すことなく振舞おうとしていた。でも、あなたたちが見るには違っていたの?」

「……雪蓮さまは己に出来ることを十分に成し遂げました。現に、見事袁家に束縛されていた孫家を奮い立たせました」

「私がやったわけじゃないわ。一刀たちと、あなたと、そして……蓮華がやったのよ。私は何もしていない」

「孫呉に置いての雪蓮さまの役目は、まさに今から始まるのだと、私は思います」

「私の役目ですって?」

「はい。袁家に束縛され弱々しい吐息を吐いていた孫家を守って来たのはあなたです。そして、袁家の脅威が消え去った今こそ、江東を取り戻し、孫堅さまが望んでいた天下への道を築く絶好の時。そして、その機に置いて孫呉を率いることが出来るのは、雪蓮さま、貴女さましか居ません」

「そこまで言うなら、なぜあなたは私を見捨てたの?」

「雪蓮さまの覇道に、付いて行くほどの魅力を感じないからです」

「っ」

「そもそも、雪蓮さまが唱える覇道は、本当に孫呉の願いなのですか?文台さまならきっと違う答えを出したはずです」

「私は母さまとは違うわ」

「はい、それが、私たちがあなたに従えない理由です。冥琳たちとは違って、私たちは血の絆を以ってしてあなたに従う義理はないのですから」

 

魯粛さんの目は、私たちを見ていた時と何の違うのない優しい目でした。

でも、糜芳さんを見て居た時と同じく、どこか哀しそうに見えていたのは、孫策さんのためではなく、本当は一緒に居てあげたかった親友への気持ちだったと思います。

 

「……そう」

 

私は、孫策さんのことが嫌いです。

孫策さんが一刀さんを殺した人だからではなく、その殺したことに何の罪悪感も持たない所が嫌いです。

でもこの乱世、人を殺して罪悪感を持つ人間は、実はそう居ないのです。

誰もが生きるために誰かを殺さなければならないこの乱世で、人の死を拒む私たちこそが、どう見たら異端者なのかもしれません。

孫策さんはいつか孫呉をこれよりも大きくするでしょう。

魯粛さんの通り孫策さんにはそれほどの力があります。

でも、私たちの率直な考えを言うと、これから彼女、孫呉の野望によって殺されるだろう人たちのことを考えると、やっぱり孫策さんのことを認めるわけにはいかないのです。

 

「雛里ちゃん」

「?」

 

そう思っていたら、いつの間に一刀さんが隣に来ていました。

 

「孫策は人の上に立つ人間、僕たちはただ放浪者。立場が違う。僕たちに出来ることが、あいつはやりたくてもやれない時だってあるよ」

「それでも、あの人は王になって良い人じゃありません。王に相応しい力を持っていてもその心は、逆に民を傷つける諸刃の剣です。そんな人が広げる王道なんて私は見たくありません」

「…もし僕が孫策のような立場で」

「……?」

「雛里ちゃんが周公瑾なら、雛里ちゃんは僕にこの戦をやってはいけないと言えたのかな」

「………」

 

一刀さんのその例えを聞いて、私は口を閉じました。

 

 

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一刀SIDE

 

「一刀様!大変です!」

 

全ての元凶となった元老たちと商人、両方を捕まえて大体の状況は収まったと言った所で、突然外の様子を見ているように言っておいた呂蒙が御殿に走ってきた。

 

「そ、そそとで、へ…そと…はぁ…はぁ…」

「落ち着いて話せ!一体何があったのだ!」

 

呂蒙の上官の甘寧が追い詰めるように話すと、息を整えた呂蒙ははっきりした声話した。

 

「はい、袁家元老たちの館から火が上がっています!恐らく反乱軍の人たちが元予定通りに火を起こした模様」

「なっ!」

「馬鹿な!あの中には俺たちの財宝が…!」

 

後ろで捕まってる元老たちが何かほざいていたが、いや、もうお前らのじゃないから。

 

「太史慈、行って反乱軍たちを鎮めてくれないか?屋敷にもう人は居ないだろうけど、あまり大騒ぎになると街に人命被害が出るかもしれない」

「………御使い……それは無理だ」

「は?」

 

こいつはいきなり何を言っているんだ。

 

「私は…自分がやっていることが民たちのためにやったことであると疑わなかった。でも、今見れば、私は利用されて、何の意味の無き戦いに人たちの命まで巻き込もうとした馬鹿に過ぎない」

「太史慈!」

「自惚れるな、太史慈!」

「!」

 

僕を遮って先に太史慈を殴りかかったのは孫策の方だった。

いや、別に大丈夫、僕も殴ろうとしていたから。

顔を拳骨で打たれた太史慈はそのまま倒れた。

 

「以前までの威勢はどに言ったのよ!自分が正しいと信じてちた時は自分が聖人か救世主かのように振舞っていた癖に、それが崩れた途端コレなの?」

「ええ、私はもう英雄も何でもないわ。ただ人にうまく踊らされた愚人でしかない。これ以上何を偉そうに民たちに指図出来るというのだ」

「無責任ね…それでもまだ彼らはあなたに従っているわ。あなたはあなた一人だけでここまで来たわけじゃないわ。あなたがここで躓くとあなた一人だけじゃなく、あなたに付いてきた人々を全部馬鹿にしているのよ」

 

孫策はそう言って自分の家臣たちに言った。

 

「祭、穏、うちの兵を連れて街で暴れている反乱軍たちを静めなさい。出来るだけ互いに被害は出さないように」

「おう」「はーい」

 

黄蓋と陸遜が孫策の命令を聞いて先に御殿を出た。

 

「冥琳は消火作業に取り掛かって頂戴。屋敷が燃えるのは構わないけど、街にまで被害が出ることはなんとしても止めるわよ」

「ああ、しかし、消火に必要な道具は持ってきていない。つけるための道具はあるがな」

「そうね…まぁ、そこは冥琳がなんとかして」

「了解した」

「冥琳、消火作業に必要なものならうちの商団で持ってきています」

「だが、ただではないのだろ、商人魯子敬?」

「…傷つきますよ?」

「冗談だ。ありがたく使わせて頂こう」

「麋竺さん」

「分かりました」

 

周瑜は魯粛さんの部下の麋竺さんと一緒に出て行った。

 

「明命、それと…甘寧と言ったわね」

「思春とお呼びください」

「ええ、私のことも雪蓮と呼んでいいわ。冥琳と一緒に消火作業を手伝って頂戴。それとまだ空気読めずに仕掛けて来る袁家の連中が居たら即刻排除するように」

「はっ」

「わかりました。呂蒙さん、来てください」

「は、はいっ」

 

最後の蓮華の所の三人も御殿を出て、残ったのは僕たちと孫策、そして太史慈。

…これで大体用は済んだな。

 

「あ、これ忘れてた。太史慈、受け取れ」

「!」

 

僕は太史慈に以前真理ちゃんからもらった、阿片中毒に効く薬の瓶を投げた。

 

「お前も阿片を呑んでいた。今は自覚はないかもしれないが、取り敢えずそれを飲んでおけ」

「…これは、解毒剤」

「まぁ、そんな感じだ」

「……今外には薬に中毒されて唸っている者が何十万だ。私だけこれを飲んで楽にしているわけにはいかない」

「つっても、薬はそれしか残ってない。作り方も分からないし…」

「その薬とやら、少し見せて頂けましょうか」

 

魯粛さんがそう言うと、太史慈は魯粛さんに薬を渡した。

 

「魯粛さん、薬に詳しいですか?」

「そういうわけではありませんが……実はここに来る前に、万安と名乗る方からある手紙を授かりまして、そこに薬の処方箋と作り方が書かれていました」

「万安?」

 

誰だ?

 

………うーん、わからん。

 

「何の薬かは書かれていませんでしたが、もしあれがこの薬と同じものであるとしたら、こちらで大量に作ることが出来ます」

「薬を造れるとしても、そんな大量の薬を豫州全体にばら撒くとなると大変な仕事よ?」

「しかし、やる他ないでしょう。今回っている豫州の蜂蜜がなくなれば、豫州は大惨事を見ることになるはずですから」

 

まぁ、戦じゃなくても、まだまだ孫策の手がかかる所が山ほど残ってあるって話だ。

 

「……んじゃあ…僕たちは行きますか」

「あわわ、このまま行くんですか?」「てわわ…」

「どこに行くつもりよ」

 

孫策が僕たちを止めに来たが、

 

「ここからは僕たちが手伝えることも少ないだろ。後は仕事は孫策に任せる」

「ここまでやっておいて、自分だけ責任から外れるですって?」

「いやだな。僕はただの部外者だ。残ったことは、全てお前たちがやらなければならない。最も、お前はこれからも孫呉の天下を築くために動くだろうし、この再興作業はその礎となるだろう。僕に手伝う義理はない」

「……どうしても、ここに残る気にはならないわけ?」

「逆に聞く。僕がここに残って欲しいのか?」

「ええ」

「だろ?だから僕たちはさっさと……うん、何?」

「ここに残って頂戴」

 

……耳がおかしくなってる。

 

「あなたたちが言う通り、私は良い王になるにして歯止めが聞かなくなる時が多いわ。冥琳が居るけど、あの娘だけじゃ私を完全に抑えることが出来ない。あなたが居てくれれば、今回みたいなことも、そしてあの森であった事件も起こらずに済んだわ」

「……待て。それって……」

「ええ、認めるわ。あの日、私が彼らを殺したのは間違いだった。彼らを殺したこと、そしてあなたを殺そうとしたこと、全部後悔してる」

「な…」

 

ここに来ての孫策のその告白に、僕は呆気とられて、次に続く彼女の行動に反応することさえも出来なかった。

 

「んっ」

「っっ!」

「あわわ!」「てわわ!何してるんですか!」

「なっ!」「まぁ…」

 

突然口に入ってくる孫策の舌に何がなんだか分からなくなった僕は両側の雛里ちゃんと真理ちゃんが驚きのあまり叫ぶのが耳に入っていたもの関わらず、孫策を押し出すことが出来ずに居た。

 

「ぷはーっ、どう?残ってくれる気になったかしら」

「……………」

 

………

 

………

 

※話者の脳のリンクが切れたので他のリンクに回します。少々お待ちください。※

 

 

 

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雛里SIDE

 

あわわ!!!!!なにじでるんでしゅかー!!!

 

何で孫策さんと一刀さんが接吻してるんですか!

しかも長いです!接吻してる時間が長すぎます。一刀さん、なんで早く追い払わないんですか?

 

「ぷはーっ、どう?残ってくれる気になったかしら」

 

やっと離れました。

ってかなんですか、この人。

何人に奇襲的に接吻しておいて誇らしげに残るよね?と言ってるんですか。

一刀さん、なんか怒ってください。

 

「…………」

 

……一刀さん?

 

「………」

「一刀さん!しっかりしてください」

 

なにぼやけてるんですか?

そんなに気持ちよかったんですか?自分を一度殺した人に接吻されてそんなに嬉しいんですか?

 

「ふふっ、これでも自身あるのよね。体で人を堕とすのには」

 

この人今見たら性格だけじゃなくて肉体的にも最低でしゅ!

 

「今うちの軍に入ったら後々もっと凄いこともしてあげちゃうわよ」

「体で釣らないでください。何自慢げに言ってるんですか痴女か何かですか、あなたは?」

「失礼ね。私は普通に口づけしただけよ。逆に一回でこんなに意識朦朧されるとは思わなかったわ。あなた、仮にも彼の彼女なのに初心すぎるんじゃない?」

「仮にってなんでしゅか?私は正真正銘一刀さんの彼女なんでしゅけど」

「……ふっ、ちょろいわね」

「なっ!」

「てわわ、不味いです。雛里お姉さん、このままだと一瞬で一刀さんのこと寝取られます」

 

真理ちゃんが言った『寝取られ』るって言う言葉の意味は分からないけど、とても危険な状況であることは分かったよ。本能的に。早くこの場を離れないと本当に危険です。

 

 

 

と、思ったその時です。

 

ガガガガッと何かが近づいて音がするかと思うと、御殿内に馬車が突進してきました。

 

「うわっ!」

 

馬車の移動先に立っていた孫策さんは後ろに離れて私たちと距離をとりました。

 

「雛里ちゃん、一刀、真理ちゃん、行く」

「倉ちゃん!」「遙火ちゃん!」

 

倉ちゃんが荷馬車を操って御殿まで入ってきたのでした。

御殿に入るまでかなり階段があって、元なら無茶なことをすると叱るべきですが、今回に限っては本当に良くやったと褒めてあげたいです。

 

「ちょっ、何よこれ」

「倉ちゃん、一刀さん荷馬車に放り込んで、早く行くよ!」

「…?わかった」

 

多忙な声にちょっと状況が理解できなかったのか倉ちゃんは頭をかしげましたが、それでも直ぐに御者台から降りて立ったまま気絶してる一刀さんを抱き上げて馬車の後ろに放り込みました。

その間私と真理ちゃんもさっさと荷馬車に乗りました。

 

「魯粛さん、ごめんなさい、今回はもう失礼します」

「ちょっ、待ってよ!まだ私は一刀と話が……」

「倉ちゃん!」

「うん」

 

孫策さんはシカトして、倉ちゃんが二頭になった馬の手綱を握ると、馬は鳴きながら倉ちゃんの操縦に従ってクルっと回って御殿の外へと走り出しました。

 

 

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孫策SIDE

 

「つっ…逃げられたわね」

 

あまりにもあっという間に起きたことに私は暫く何も出来ずに居た。

ここに祭や明命でも居たら追いかけろと言ってたのに、一人ぐらいは残しておくのだったわ。

 

「そ、そ、孫策、お前…」

「うん?」

 

ふと後ろを向くと、太史慈が顔を赤くして私に震える指で私に指していた。

 

「は、破廉恥だぞ!いきなり男に接吻するなんて!」

「えー、いいじゃない。別に減るものじゃないでしょ」

「減る!お前は女としての恥じらいもないのか」

「まったくどいつもこいつも失礼なこと言っちゃうわね。誰にでもこんなことするはずないでしょ?」

 

確かに一刀とは今まで散々対立してきたし、今回だって嫌味されたけど、客観的に見ると、一刀はいい人材だし、しかも男としてもなかなか見所あるじゃない。

 

「そういうあなたは初心すぎるんじゃない?私はてっきりあなた色んな男と遊んでただろうと思ったのに」

「なっ!私を侮辱するな!私はまだ一度もそんなことしてない!」

「あら、いい年してそれはないでしょう。逆に一度もやってないって方がおかしいのよ」

「なにぃ!」

「雪蓮さま…相変わらずですね…」

 

深月まで呆れたような声で言ってるわね。

いや、深月は私に呆れたからじゃないか。

 

「残念です。鳳統ちゃんとはじっくりとお話をしたいと思っていましたのに、雪蓮さまが無理矢理なことをしたせいで……」

「まぁ…うん、それに関しては悪いと思うわ。でも、流石私も接吻だけでアレがああなるとは思わなかったわ」

 

あんななんて知っていたらうちの軍に居る時にさっさと堕としておけばよかったわね……。

 

「はぁ…まあ良いわどうせまた逢えるでしょうし」

「そうお思いで?」

「ええ、きっとまた会うわよ。

「向こうはお前のことを嫌っているようだったが、もう会うのは無理じゃないのか?」

「絶対また会う」

「…何を根拠にそう言うんだ」

 

太史慈の問いに私は快く答えた。

 

「勘よ」

 

 

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一刀SIDE

 

 

「……ぅん……うぅ……はっ!お前何を…!」

「てわわ、やっと正気に戻りました」

「……え、あれ?」

 

ここって、…荷馬車の中?

何で…さっきまで袁家の御殿の中だったのに…?

 

「北郷さん、何があったか憶えてますか」

「え?えっと……」

 

真理ちゃんの質問に記憶をたどっていたら、それはそれはとても嫌な事件だった。……嫌な事件だった。

 

「…あれ?雛里ちゃんは?」

「雛里お姉さんですか?今あのいつも遙火ちゃんが寝てる鞄の中で寝てるんですけど」

「うわああ!!雛里ちゃん出てきて!ごめん!凄くごめん!」

「しりまへーん(鞄の中)」

 

出てきて雛里ちゃん、そして僕をそこに入らせて。

 

「…一刀、茶番はいいから起きたら早く手綱持つ。あたしこれ苦手」

「てわわ、遙火ちゃんが最近とても無機質になって私凄く心配だよ」

 

州一つを救ったというのに、誰にも褒められずに、最後の最後で孫策の罠にはまって僕たちは以前になくカオスな状況となっていた。

この後、雛里ちゃんと話し合って、お互い今回の事件をうまく乗り越えるだろうと言うことは間違いないだろうけど、今はただ孫策が憎らしい。

彼女が謝ったことを踏まえた上でも、憎らしかった。

 

が、そういう個人的な恨みを省けば、きっと今の孫策なら豫州をうまくまとめてくれるだろうと思っていたので、それ以上心配するようなものはなかった。

あるとすれば、逃した袁術たちが一体どこに向かったのか分からないということぐらいだろうか。

張勲は雛里ちゃんにもどこに行くつもりか言わなかったらしい。彼女はただ、袁術と一緒にさえ居られればそれで良いと言っていたそうだ。

 

「ねー、雛里ちゃん、出てきてよ。事故だから、僕被害者だからー」

「嬉しそうにしてた癖に!(鞄の中)」

「………真理ちゃん、あたし疲れた、代わって」

「てわわ!無理だよ。私じゃ馬操れない、だから手綱置いてこっちに来ないで。北郷さん、雛里お姉さんのことはどうでもいいから御者台に行ってくだしゃい!」

「雛里ちゃーん」

 

今回の事件はかなり雑でデタラメな収め方ではあったが、少なくも僕たちが望んでいた、人の血を流す戦を止めれたことだけで満足していた。

でも、今回の波乱が、また新しい事件へと繋がるだろうと、この時はまだ知る余地もなかった。

 

 

 

 

豫州反乱編 終

 

 

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あとがき

 

かなーり強引に終わらせてしまいましたが、豫州反乱編はここで終了となります。

孫策とこれ以上絡みたくないという一刀たちの考えからして、こういう形に終わらせてしまったのですが、何か期待していた方々には申し訳ありません。それが何かは判りませんけど。

 

これ書く最初の頃は、孫策がピンチな所を一刀がかっこよく解決させて、孫策も一刀に惚れさせるという展開を考えてました。そうなったら姉妹喧嘩が始まるわけですが、結果的にはなんか色々ズレて結局、二人の対立路線は変化なし。

これを見てると自分が孫策を凄くディスってるように見られると思いますが、

 

実際の所自分は孫策があまり好きじゃありません。

理由としては以前拠点にもありましたが、街で老人を人質にして騒ぎを起こしていた黄巾党をその場で殺しつつも何の罪悪感などなど持たない所がとても嫌だったのが大きいです。

それでも孫策が死んだ時は鳥肌立ってたのですが……

 

でも基本的に孫策の考え方はあまり好きじゃありません。

今の外史にもそういう考えのせいか孫策が馬鹿で王に相応しくないかのように見えてしまったら、孫策好きな方々に刺されるであろうと思い締める時には一刀の代わりに色々まとめ役を任せて、一刀はシリアス路線からいつものイチャコラの方に回しました。

 

次回の一刀たちの目的地は豫州から徐州に向かいます。

拠点は現在考えてるのはまだ…ありません。

雛里ちゃんと真理ちゃんは取り敢えず安定すると思いますが、遙火に関してはまだまったく何も考えてません。

あ、後逃げた袁術たちに関しても何の記述もなかったのでその後四人の話も書かないといけなくなりますね。(七乃と美羽は完全に空気だった。亜季ちゃんは今回完全にバカ扱いだったのですがそこはまあ反省していません)

それと、亞莎の話は一刀と会った話をちょっと流しつつ、蓮華と会ってからの話をメインにしようと思ってだけいます。

 

まとめるとこんな感じ

 

・雛里

・真理

・袁術組

・蓮華組

・??

 

 

ここで一つお知らせです。

作者は2月26日に韓国公認会計士の試験の勉強をしています。

 

試験は二段階があって、今回のは一次試験です。

 

作者はこの試験に落ちると、韓国男性の義務として国防のため軍に約2年間入隊してくるつもりでいます。

だから、もし落ちると、この外史はそこで終了します。帰ってきて書けるという保証はほぼないに等しいと言えるでしょう。

 

自分自身もそういう不祥事が起きないことを祈りながら、祈るだけでは足りませんので勉強に力を入れようと思います。

 

2月6日で模擬テストがありますので、もしそこで成績が悪かったら、恐らく2月はまったく投稿しないかもしれません。

その時はみなさん、TAPEtがこの外史を続けるため(他の外史も含めて)に必死であると思ってどうかお祈りください。

 

では

 

ノシノシ

 

 

 

 

説明
豫州反乱編最終回です。
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コメント
孫策最後まで上から目線だったなあ(りん)
会計士のしけんがんばってください。(ZERO&ファルサ)
関平さん>>結以「なんでですか!?」(TAPEt)
アルヤさん>>はい、頑張ります(TAPEt)
山県阿波守景勝さん>>それに関しては後ほど(TAPEt)
となりのヒトヤさん>>そうですね。でも死んでしまえば誰もがその死を忘れてしまう。それを忘れないと言う意志に意義があるといえばあるのかもしれません。やってしまってからの後付けに過ぎないといえばその意味も薄れてくるのですが、それでも忘れた、というわけにはいきませんしね(TAPEt)
この外史の終端は是非見たいですから頑張ってください。(アルヤ)
無事に治まったのかな?孫策の言葉が信用できないのはなんでだろう……試験の方頑張ってください。(山県阿波守景勝)
犠牲になった人達からすれば魂を覚えてるからそれがどうしたって感じで結局どちらも同じに見えるような気がする、所詮「やった側」の言葉遊び(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
わかんないです(TAPEt)
プヒーな感じ(黄昏☆ハリマエ)
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