真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第10章 「黒天」後編1
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真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第10章「黒天」 後編1 裏切りの・・・

 

 

 

愛紗「あっ・・・ああっ・・・・・・」

 

愛紗は目の前の出来事を頭の中で整理できずにいた。

 

凪の体は仮面の男の刃によって貫かれており、ぐったりとしてしまっている。

 

その横でカガミは不敵な笑みを浮かべている。

 

凪は刺された一瞬こそ眼を見開きはしたものの、それからは目を閉じ動く気配すら感じられない。

 

仮面の男は凪のその姿をジッと見下ろしている。

 

そして、少し時間が経った後、突き刺さった刃をゆっくりと凪の体から引き抜いていく。

 

支えをなくした凪の体は前のめりに倒れていき、ドサッと崩れるように倒れこんだ。

 

愛紗「き・・・さ・・・ま・・・・・・」

 

愛紗は怒りのあまり全身を震わせていた。

 

カガミ「見所はここからですよ。関羽さん」

 

カガミはそんな愛紗の様子を一瞥した後、再び仮面の男の方へと視線を移す。

 

愛紗も顔自体は伏せながらも、目線だけを仮面の男の方へ向ける。

 

すると、仮面の男の持っていた剣が淡く灰色の“もや”を纏い始める。

 

その色はだんだんと濃くなっていくと、刀身から非常に強い光を放ち始めた。

 

輝きを放ちながら刀身は剣先から徐々に崩れていき、崩れた刀身は霧状の物体へと姿を変える。

 

剣の柄までもが霧状に変化すると、その霧は仮面の男の腕へと纏い始める。

 

その灰色の霧は仮面の男の両腕で何かを形作りながらうごめき、ときたま強い光を発する。

 

そして、今までで一番の輝きを発した後、仮面の男の両腕を改めて見てみるとその腕には手甲が装備されていた。

 

愛紗「あれは・・・!!」

 

その手甲からは先ほどの霧の名残なのか灰色の“もや”がくすぶるように出ていた。

 

愛紗は少し雰囲気が違うと思いながらも、相手の装備している手甲に見覚えがあった。

 

愛紗「凪の・・・閻王か!?」

 

すこし装飾や色が違っているが、その手甲は確かに凪が愛用している武器「炎王」だった。

 

愛紗「いままで剣だったものが・・・なぜ手甲に・・・」

 

愛紗がいろいろと考えている間に、仮面の男は倒れている凪を担ごうとしていた。

 

そして、抱きかかえた後、少し離れた位置にいる黒布の男のもとへ歩みを進める。

 

愛紗は先ほどまで凪が倒れていた所を見やると、なにやら変な違和感を感じる。

 

しかし、その場ではその違和感の正体を掴むことはできなかった。

 

そうしている間に仮面の男は黒布の男のもとへと到着していた。

 

黒布の男「はいはいっと」

 

仮面の男はサラの隣に凪を優しく降ろした後、再び愛紗の方へと歩いていく。

 

そして、黒布の男はその手当てを始めていくのであった。

 

カガミ「準備はよろしいですか?」

 

仮面の男が愛紗の方へと向かっている時、ツルギたちの方へと戻るカガミとすれ違いざまに一言そう訊ねた。

 

仮面の男はその言葉に立ち止まり、静かに一回だけ首を縦に振る。

 

そして、愛紗の方へと再び歩みを進ませる。

 

 

 

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愛紗「貴様・・・私の目の前で・・・・・・死をもって詫びてもらうぞ・・・」

 

愛紗は今まで見せたことのない怒気を飛ばしながら、仮面の男を威圧する。

 

愛紗「凪を・・・よくも・・・」

 

愛紗は青龍偃月刀を仮面の男に向け、左足を一歩だけ踏み込んだ。

 

そこで愛紗はあることに気付く。

 

自分が持っている青龍偃月刀の刃が薄くだが赤く光っている。

 

愛紗(・・・・・・ふっ、今は深く考えるのはよそう。これが力になるのならそれで良し!!)

 

そして、愛紗は初めて自分から偃月刀を振りかぶり、仮面の男の所まで駆けて行く。

 

愛紗「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

眼にも留まらぬ速度で一気に駆け寄ると、そのまま偃月刀を一気に振り落とす。

 

しかし、次の瞬間、愛紗は驚愕せずにはいられなかった。

 

愛紗「なっ・・・」

 

なんと、仮面の男は左手で偃月刀の柄をがっちりと掴んでいた。

 

目で追うことが困難なほどの速度であったはずなのに、優々とそれをこなして見せたのだ。

 

仮面の男は更に右手でも柄を握ると、偃月刀を一気に持ち上げようとする。

 

それによって愛紗の体はフワッと宙を浮く。

 

そして、仮面の男はそのまま自分の後方へと背負い投げの要領で愛紗もろとも偃月刀を放り投げる。

 

仮面の男は声すらもあげず、いとも容易いといった感じだ。

 

愛紗「ちっ!!」

 

愛紗は体が宙に浮きながらも冷静に、そして華麗に体をひねって見事に着地してみせる。

 

愛紗が着地した瞬間、両者は即座に地面を蹴り、互いの距離を一気に縮める。

 

愛紗は右からなぎ払うように偃月刀を振るうが、仮面の男はそれを炎王でがっちりとガードする。

 

仮面の男はその斬撃を弾いた後、愛紗の懐まで更に踏み込んで右の拳を愛紗の鳩尾目掛けて放つ。

 

その攻撃を愛紗は美しい足さばきで最小限の動きでそれを避わす。

 

しかし、仮面の男の攻撃はそれだけにとどまらず、すぐさましゃがみ込むと愛紗に足払いをかける。

 

愛紗「くっ!!」

 

愛紗はその攻撃には対処しきれず、足払いをかけられて地面へと転んでしまう。

 

仮面の男はそこにすかさず手甲をつけた拳を振り落とす。

 

愛紗は地面に背をつけたまま青龍偃月刀の柄で振り落とされた拳を防ぐとギィィンという音が辺りに鳴り響く。

 

そして男は二撃目の拳を振りかざそうとした時

 

愛紗「はっ!!」

 

愛紗はその隙に後方に転がってすかさず体勢を整え、体勢を低くしたまま突きを繰り出す。

 

仮面の男はその突きを両手でクロスするようにして防ごうとしたが、あまりに体重の乗った鋭い突きだったので両腕を弾かれてしまう。

 

愛紗はその隙をうまく縫うようにして、相手のわき腹に偃月刀の石突きを叩き込む。

 

仮面の男「ッ!?」

 

しかし、その石突きによる打撃は空を切る結果となる。

 

今まで仮面の男がいた場所には残像だけが残っており、男はその少し後方で青い線を尾に引きながら姿を現した。

 

 

 

 

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少しの静寂が二人の間を支配する。

 

仮面の男は左手をへそより少し下の位置に構え、右手を顔の位置にまで上げ、拳を握っている。

 

愛紗は少し朱色を帯びた偃月刀の刃の先を仮面の男に向け、少し腰を落とした構えをとっていた。

 

愛紗(懐に入られてはこちらが不利か・・・)

 

偃月刀や槍といった武器はリーチが長いため、相手と一定の距離で戦うことでその威力を発揮する。

 

そのため、剣や拳などの攻撃圏内より外からの攻撃ができるため、普通は有利とされる。

 

しかし、仮面の男は人ではありえないほどの速度で一気に距離を縮めることができる。

 

さらに、槍などの武器は懐まで近づかれてしまってはその武器の本来の力の半分も出すことができないだろう。

 

愛紗(なら・・・あえて・・・)

 

愛紗は偃月刀を少しだけ短く持つようにした。

 

長さという利点を捨て、懐に入られたときにすぐさま対処できるようにするためだ。

 

そして、愛紗は駆け出すと上方へ大きく飛び上がる。

 

愛紗「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!」

 

刃を仮面の男に向けながら、勢いのある突きを繰り出した。

 

愛紗「でりゃりゃりゃりゃりゃああああああああ!!!!!!!!」

 

その突きは回避されてしまうが、その後も怒涛の速さで次々と突きを放っていく。

 

仮面の男はその怒涛の突きを身軽なステップを踏みながら鮮やかにかわしている・・・ように見えた。

 

その突きを完全に、全て躱しきれているわけではなく、突きの幾つかは仮面の男が羽織っている布の一部を切りつけている。

 

何とか致命傷だけを辛うじて避けているという感じだ。

 

愛紗は相手に休み暇を与えまいと更に突きの速度を加速させる。

 

愛紗(このまま・・・押し切る!!!!!っ!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛紗はこのまま押しきれるかと思っていたが、ほんの一瞬だけ嫌な予感を感じた。

 

それは本当にほんの一瞬だけ・・・

 

長年の戦いの経験が自分に語りかけてくる

 

『このままでは危ない』と・・・

 

 

 

 

 

 

そう思った次の瞬間、男の体が急にぶれた感じがした。

 

愛紗「っ!!」

 

仮面の男の顔を狙った一突きが紙一重の距離で躱されており、仮面の男はその攻撃に合わせるように右の拳を放っていた。

 

そのカウンターを愛紗は体を無理やり捻ることによりこちらも紙一重で避けることができた。

 

愛紗は体勢を崩してしまったため、それを整えるために大きく後方へと飛び退いた。

 

それを見た仮面の男も少しだけ後方へと飛び退く。

 

愛紗「・・・・・・ちっ・・・」

 

愛紗は改めて敵の強さを認識するのだった。

 

 

 

 

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ツルギ「アイツもやっとなじんできたか。修行の時は全然だったかんな」

 

黒布の男「ホンマやな・・・。強うなったわ」

 

二人の戦いを少しはなれて位置から傍観する男二人

 

カガミ「遅すぎますけどね。覚悟はあの時できたと仰っていたのに」

 

黒布の男「そう言うたったらあかんって、アイツもがんばってるんやから」

 

カガミ「アレも使いこなしているようですし・・・ね」

 

そして二人の後方でその戦いを見るカガミの姿があった。

 

黒布の男「大丈夫?サラちゃん?」

 

黒布の男はしゃがみ込んで、寝転んだ状態から上半身だけ起こしているサラに言葉をかける。

 

サラ「黙れ。気が散る」

 

黒布の男「ヒドッ!!」

 

しかし、その言葉はサラによって一刀両断されてしまう。

 

サラは二人の戦いに見入っているようだった。

 

黒布の男「はぁ〜〜・・・。んでやけど・・・こちらのお方はどないすんの?」

 

黒布の男は横たわっている凪を指差す。

 

カガミ「今はそのままにしておいてください」

 

黒布の男「ほいほ〜い。って、なんか向こうから来てんで?」

 

黒布の男は凪を指していた指をスッとその方向へと移動させる。

 

向こうからは人影数人がこちらに向かってきている様子が見てとれた。

 

カガミ「・・・・・・ふふふっ、これで役者が揃いそうですね。ですが、余計な人達もいるようですね。・・・消しますか」

 

黒布の男「役者?」

 

カガミ「わざと気付いてない振りまでしたのです。もう少し早く来てくれるとも思っていたのですがね・・・まぁ、いいでしょう」

 

カガミはそういいながら、青空の中を優雅に飛び回っている鳥を見上げる。

 

そして、首をかしげる黒布の男をよそに、カガミは不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

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蓮華「見て!!あの丘に囲まれた所!!!確かに地和が見せてくれた場所よね!?」

 

華琳「蓮華!!少しは落ち着きなさい!!!」

 

思春「蓮華様!!お待ちください!!」

 

流琉「華琳様もですよ!!もう少し速度を落としてください!!護衛の皆さんがついてきていません・・・って・・・あれ?」

 

蓮華を先頭にして華琳、そしてそれに続く形で思春、流琉が乗った馬が草原を駆けている。

 

蓮華は後ろを振り返ることはせず、速度を緩めることもない。

 

流琉は後ろにいる護衛隊のことを気にしてか、時々後ろを振り返るのだがそこである違和感に気付く。

 

華琳「どうしたの?流琉?」

 

華琳は後ろの流琉の様子に気がついて馬の速度を緩め、流琉の馬の横へとつける。

 

流琉「・・・隊の皆さんが・・・いません」

 

思春「なに!?」

 

流琉の言葉を聞いて、すかさず思春も後ろを振り向いた。

 

思春「私の部隊もついてきてないではないか!?」

 

華琳「・・・・・・どういうこと?こんなに見晴らしがいい草原なのに・・・いくら私達の速度が速かったとはいえ、見失うなんてことはないでしょうに」

 

三人が振り返ってみている風景は、障害物も何もない広い草原が広がっているだけだった。

 

あちこちで煙が立っているのも目に入るが、戦場からは少しだけ離れているため、隊同士の衝突というものも見えない。

 

ただ広い草原が広がっている。

 

いくら4人が先発して速度も速かったとはいえ、見失うことはまず考えられない。

 

華琳「いったい・・・どういうこと・・・」

 

蓮華「三人とも!!何をしてるの!!早く姉様の所に!!」

 

今まで後ろを振り返ることがなかった蓮華だが、うしろで走る馬蹄の音が遠くなっていたことに気付き、一瞬だけ振り返る。

 

そして、すぐに向きなおし、さらに速度をあげるのだった

 

華琳「・・・・・・とりあえず、今は前に進みましょうか」

 

思春「敵の罠の可能性もあります。あの妖術使いの・・・」

 

華琳「でも、ここで止まろうといっても蓮華が聞かないと思うわ。それに、私も春蘭のことが心配だし・・・立ち止まっていても、何も分からないでしょう。なら、あえて敵陣に入ることも必要なことだわ」

 

流琉「虎穴に入らずんば虎児を得ず・・・ですか?」

 

華琳「そのとおり」

 

思春「ですが、その役目は本来、私や流琉の・・・」

 

華琳「ここまで来たんだから、もうそれは考えても仕方がないことよ」

 

思春「・・・はっ、蓮華様とあなた様の命、この思春が命に代えましても・・・」

 

流琉「私もです!!」

 

華琳「頼りにしてるわよ。さて、蓮華の後を追いましょう!!」

 

華琳の言葉を合図に三人は馬の腹に蹴りをいれ、さらに速度をあげるのだった。

 

 

 

 

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愛紗「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

愛紗は仮面の男に向かって偃月刀を振るう。

 

その攻撃を仮面の男は手甲により防ぐと、防御の手とは逆の手で愛紗の腹を殴りにかかる。

 

しかし、その攻撃も愛紗は偃月刀で防ぐといった激しい攻防が続いていた。

 

すると、突然、仮面の男はバックステップを踏みながら、愛紗との距離を開けていく。

 

愛紗(アイツから距離をとってきた・・・なぜだ?)

 

愛紗は仮面の男の行動に警戒をしながら、ゆっくりと近づいていく。

 

そして、ある程度愛紗との距離が取れたところで男は立ち止まり、右拳を握りながら愛紗に向かって突き出した。

 

愛紗(なんだ?)

 

愛紗は仮面の男が突き出している拳に目線を移すと、手甲から黄色い“気”が放出しているのが見てとれた。

 

その黄色い気は徐々に拳に纏っていき色が濃くなると同時に、男はゆっくりと突き出した拳を引きながら腰を落とす。

 

そして、仮面越しからでも分かるくらいに、息をゆっくり深く吐く。

 

拳に纏わりついた気はさらに大きさを増していく。

 

愛紗「まさかっ!!」

 

愛紗は相手の意図を察すると、そうはさせまいと一気に間合いを詰めようとした。

 

蓮華「姉様!!」  華琳「春蘭!!愛紗!!!」

 

愛紗「!?」

 

踏み込んだ足で地面を蹴ろうとした時、ちょうど自分の真後ろから蓮華と華琳の声が聞こえる。

 

愛紗「お二方!!!避けてください!!!!!」

 

蓮華・華琳「「!!!!!!!」」

 

二人は愛紗の悲痛な叫びを受けて、ハッとしたもののすぐに馬の進路を変更することはできなかった。

 

そこで仮面の男は右拳を愛紗目掛けて一気に振りぬく。

 

すると、人一人を丸々包み込みそうなぐらいの大きさの気弾が愛紗を襲う。

 

その気弾はかなりの速度で、地面を抉り取りながら一直線に飛んでくる。

 

愛紗の後方には雪蓮と春蘭のもとに行こうとしていた華琳と蓮華の姿があり、その後ろには流琉と思春もいる。

 

愛紗はその気弾を避けることもできたが、そうしてしまうとちょうど愛紗と一直線上にいる二人に気弾が命中してしまう可能性が頭を過ぎる。

 

愛紗「ちぃっ!!」

 

愛紗は踏み込もうとしていた足を押さえ込み、しっかりと地面に足をつける。

 

そして、偃月刀を前へと突き出し、防御の構えをとった。

 

愛紗「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!」

 

華琳・蓮華「愛紗!!!!!!」

 

 

 

 

 

ドォォォォォォォッォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン

 

 

 

 

華琳と蓮華の愛紗の名を呼ぶ声と同時に、仮面の男が放つ気弾が愛紗に衝突し、大きな爆発音、さらに黄色い閃光と暴風が辺りに吹き荒れる。

 

蓮華「きゃぁぁぁぁあ!!!!」

 

華琳「くっっっ!!!!」

 

その暴風と巻き上がった砂埃が華琳と蓮華を襲う。

 

思春「蓮華様!!ご無事ですか!!!」

 

流琉「華琳様!!!!」

 

そこへ思春と流琉が後からやってくると、主を暴風と砂埃から守るように前へと立つ。

 

華琳「愛紗はっ!!!」

 

流琉「分かりません!!!今はとにかく身を縮めてください!!」

 

華琳は腕で顔を覆いながら、愛紗の安否を確認しようとする。

 

しかし、この暴風の中、愛紗の安否を確認する余裕など無かった。

 

 

 

 

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暴風がしだいに止んでいき、辺りの様子が徐々に鮮明に見えてくる。

 

しかし、まだ土埃は舞っており、愛紗の様子をうかがい知ることはできない。

 

華琳「愛紗ぁぁぁぁぁ!!!」

 

華琳は大きな声で愛紗の名を呼ぶも返事はない。

 

流琉「愛紗さぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

 

流琉も同じように叫ぶも、これに対する返事もない。

 

蓮華「愛紗・・・は?」

 

思春「わかりません・・・」

 

蓮華と思春は辺りを見回すも、愛紗の様子を見つけることができなかった。

 

すると、視線の端の方に地面に座り込んでいる雪蓮の姿を蓮華は見つける。

 

蓮華「姉様っ!!!!」

 

蓮華はすぐに雪蓮のほうへと駆け寄っていく。

 

 

 

 

蓮華「姉様!!ご無事ですか!?」

 

雪蓮「蓮華!!!何でここに!!!!痛ッ・・・」

 

雪蓮は突然登場した蓮華の姿に驚き、体を少し捻ろうとすると、腹部の痛みがはしる。

 

蓮華「ジッとしてください!今手当てを・・・」

 

雪蓮「王が・・・無茶をしてこんなとこまで・・・。でも、なんで愛紗あの気弾を避けなかったのかしら・・・」

 

華琳「私達のせいでしょうね」

 

蓮華「えっ・・・」

 

蓮華の後を追って、華琳と流琉も雪蓮の傍へとやってくる。

 

華琳「愛紗は自分が避けてしまえば、私達に当たると思ってそのまま自分が盾になったのよ。馬に乗って無理な進路変更はできなくても、飛び降りれば避けれたのに・・・」

 

蓮華「そんな!?」

 

雪蓮「愛紗の性格上、王が傷つく可能性がある選択肢はとらないでしょうね。それなら自分が・・・って言う性格だし・・・」

 

流琉「春蘭様!!!ご無事ですか!?」

 

流琉は雪蓮の隣に座っていた春蘭のもとへと向かっていた。

 

春蘭は座り込んだまま、眼の焦点はあっておらず、ボーッとしている。

 

華琳「この症状は・・・」

 

華琳も春蘭のもとへと近づいていき、春蘭の顔を覗き込む。

 

華琳「会議のときと同じ・・・ね」

 

華琳はそう言って、自分の手荷物の中を漁る。

 

そして、小さな壺から錠剤のような物と水を取り出し、春蘭の口へと流し込む。

 

流琉「華琳様。それは?」

 

華琳「華佗が処方してくれた薬よ。春蘭、洛陽でもこの症状が出たときがあって、華佗に見てもらったのよ。何でも気の流れを正常化する丸薬だそうよ」

 

 

 

 

 

それは青洲に先に向かった春蘭たちを追うために、華琳たちも準備していた時まで遡る。

 

 

 

 

華佗「曹操殿。これを持っていくといい」

 

華琳「これは?」

 

華佗「先日の夏侯惇、夏侯淵殿の症状を見て、オレが調合した。二人の症状は気の乱れから起きているものと見て間違いない。この丸薬はその気の乱れを正常化するためのものだ」

 

華琳「これを飲み続ければ、二人の症状は治るのかしら?」

 

華佗「いや・・・、原因が不明というだけあって、あくまで対処療法に過ぎない。すぐに意識は元に戻るだろうが、副作用として少しの間、体に麻痺が残る。一刻は体を動かすことができなくなる。それだけは気をつけてくれ」

 

華琳「・・・・・・感謝するわ。作り方もできたら教えて欲しいのだけれど・・・」

 

華佗「悪いが五斗米道の重要機密の一つだ。教えるわけにはいかない・・・。言ってくれればいつでも調合しよう」

 

華琳「そう・・・なら、そのときにまたお願いするわ」

 

 

 

 

 

 

 

春蘭「うっ・・・・・・」

 

華琳が流琉にいきさつを説明している最中に、春蘭が眼を覚ます。

 

流琉「春蘭様!!よかった・・・良かったです・・・」

 

春蘭「流琉・・・それに、華琳様!!!!」

 

華琳「体の具合はどうかしら?」

 

春蘭「・・・頭が少しクラクラします。それに・・・体も・・・動きません」

 

華琳「薬の副作用よ。おとなしくしてなさい」

 

春蘭「はっ・・・、私は・・・また・・・」

 

春蘭はおぼつかない頭で何があったのかを徐々に思い出していく。

 

春蘭「ところで、どうして華琳様がここに?それに・・・愛紗は?」

 

華琳「愛紗は・・・・・・」

 

皆が雪蓮と春蘭と話している間に、戦場を舞っていた砂埃もしだいに収まってきた。

 

そして、皆は一斉に愛紗が先ほどまでいたであろう場所をみやる。

 

地面は仮面の男の放った“気”の影響か黒く焼けているような色をしていたが、愛紗がいたであろう場所は焼けず、周りと同じ土色をしていた。

 

しかし、その場に愛紗の姿はなかった。

 

 

 

 

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仮面の男は気弾を放った後もジッとその場から一歩も動かず、土埃が収まるのを待っていた。

 

そして徐々に視界が鮮明になっていくと、自分が放った気弾の後を追っていく。

 

しかし、愛紗の姿を確認することはできなかった。

 

右腕からは微かに煙が立ち上っており、微かにまだ黄色い気が光っている。

 

仮面の男はそのまま踵を返し、戻ろうとした時

 

愛紗「相手の死体を確認せずに背を向けるとは、あまり関心せんな」

 

仮面の男の背後から急に愛紗が姿を現す。

 

仮面の男「ッッ!?」

 

ツルギ「あの体捌きは俺のときにもやってたな・・・。アイツに対処できんな」

 

それはツルギとの戦いのときにも見せた体捌きだった。

 

相手が自分の姿を見失った時、一瞬で相手の背後を取るというもの

 

戦い慣れているツルギには見破られてしまったが

 

愛紗「死合い経験が少ないことが裏目に出たな」

 

仮面の男はすぐさま反転しなおし、愛紗との距離を開けようと一歩後ろへと後退する。

 

しかし、その動きも愛紗は読みきっていたようで、仮面の男との距離を開けさせない。

 

愛紗「わが青竜刀の真髄をお見せしよう」

 

そう言うと愛紗は偃月刀を上段に構え、さらに仮面の男との距離を縮める。

 

愛紗「わが魂は無双!!わが魂は無敵!!!受けよ!!!!」

 

そして、相手を眼で捕捉した後、その刃を一気に振り下ろす。

 

その際、刃の色は赤々と輝きを放っている。

 

愛紗『青龍!!!逆鱗斬!!!!!』

 

仮面の男はその攻撃を何とか左手の手甲で防ぐも気休めに過ぎず、そのままもろに斬撃を浴びてしまう。

 

その威力により後方に吹き飛ばされると、その勢いは止まることなく男の体はかなりの速度で吹き飛ばされている。

 

そして、愛紗とツルギの戦闘により丘から崩れてきた岩に思い切りぶつかった。

 

岩石は跡形もなく崩れ去り、そこからも愛紗の斬撃の威力をうかがい知ることができる。

 

愛紗「我が偃月刀に勝てる者なし!!」

 

愛紗は確かな感触が偃月刀から伝わってくると、ブオォンと偃月刀を振るう。

 

華琳「愛紗ッ!!!」 流琉「愛紗さん!!!」

 

愛紗「流琉に思春・・・華琳殿に蓮華殿も!!!」

 

愛紗は皆が集まる所にゆっくりと歩いていく。

 

愛紗の服はあちこちが破けておりところどころ黒く焦げているところが見受けられる。

 

しかし、その足取りをみてもあまりダメージを受けているようには見えない。

 

愛紗「春蘭も・・・眼を覚ましたか・・・」

 

春蘭「ああっ・・・今回は・・・愛紗にいいところをもっていかれてしまったな」

 

愛紗「いや・・・まだ、終わっていない・・・」

 

愛紗はカガミたちが集まっている所を見やる。

 

愛紗「まだ、3人も無傷の者がいるからな」

 

 

 

 

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サラ「アイツ!!!!」

 

サラは黒布の男の手当てを受けている最中に急に立ち上がろうとする。

 

黒布の男「アカンって!!ジッとしてんと」

 

男はサラを立ち上がらせまいと両肩を押さえ込む。

 

サラ「放せ!!アイツを!!関羽を!!!!」

 

ツルギ「落ち着け」

 

サラ「でも!!」

 

ツルギ「アレは油断したアイツが悪い。仕留めたかを確認せずに戦場から眼を放すのはバカがすることだ。アレで仕留めれたなんて思うのも間抜けだ。それに・・・力に振り回されている節もあった。まだまだだな」

 

そのツルギの言葉にサラは何も言い返さない。

 

ツルギ「アレで死んだとしても・・・文句は言えねえな」

 

サラ「っ!!??」

 

カガミ「それくらいにしなさい。ツルギ・・・あなた、分かってていってるのでしょう?」

 

ツルギ「へいへい」

 

カガミの言葉を受けて、ツルギは再び愛紗の方へと目を向ける。

 

カガミ「心配しないで大丈夫ですよ」

 

サラ「ホント?」

 

カガミ「ええっ、見ていたら分かりますよ」

 

 

 

 

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ガラ・・・ガラガラガラガラ・・・

 

愛紗「っ!」

 

何かが崩れる音がすると、愛紗や他の者もその音の方を見る。

 

それは先ほど仮面の男がぶつかった岩が崩れた音だった。

 

愛紗「まさか・・・ふっ、しぶとい奴だ」

 

愛紗は一歩前へ踏み出すとそのまま再び闘いの場へと足を進ませる。

 

愛紗「終わりにしてきます。皆はここで待っていてくれ」

 

そして、その岩石の所へと近づいていく。

 

 

 

 

愛紗がその岩の近くまでいくと、岩にめり込んだ体を必死に引き剥がそうとしている仮面の男の姿があった。

 

そして最後に埋まっていた右腕を引き抜くと、岩が完全に形をなくし、崩れ去った。

 

愛紗「しぶとい奴だ・・・だが、これで終わりにしよう」

 

愛紗は偃月刀をその男へと向ける。

 

仮面の男は愛紗に背を向けた状態であったが、ゆっくりとした動作で愛紗の方へと体を向ける。

 

愛紗の斬撃の影響で、顔につけた仮面にはひびが入っており、体を纏っている灰色の布も大きく破れてしまっていた。

 

愛紗「ん??」

 

愛紗はその布の破れ目から、太陽の光を反射してキラキラしている物があることに気付く。

 

愛紗「・・・・・・っ!」

 

そうしている間に仮面の男は一歩愛紗に向かって歩を進ませた。

 

左足を前へ出した時、そのちょっとした衝撃で仮面の亀裂がさらに大きくなる。

 

もう一歩踏み出せば、またその亀裂が大きくなった。

 

そして、三歩目を踏みだした時、少し強めの風が戦場に荒び吹く。

 

その風によって、男が羽織っていた灰色の布が風に乗って吹き飛ばされた。

 

愛紗「・・・な・・・なぜ・・・・・・」

 

その布が吹き飛ばされたことにより、男が本来着ていた服が外気にさらされる。

 

華琳「・・・・・・あれは・・・」

 

その男の着ていた服は

 

流琉「ッッッ!!!!」

 

太陽の光を浴び

 

春蘭「なぜ・・・アイツが・・・」

 

その光を辺りに反射させ

 

蓮華「あっ・・・ああっ・・・」

 

白き輝きを放つ

 

思春「・・・・・・・・・・・・」

 

ポリエステルの輝きだった。

 

雪蓮「な・・・な・・・」

 

その光は皆にとって見慣れたものだった。

 

いや・・・今の恋姫たちにとっては見慣れたものではない。

 

愛紗「何故貴様がその服を着ているのだ!!!!!!!!!!!」

 

それは・・・皆がこの数ヶ月間求めていた光だった。

 

そして、男が四歩目の歩みを進めた時、亀裂が入った仮面は遂に割れ、カランカランと音を立てた。

 

「「「「「「「!!!!!!」」」」」」」

 

そして、一同は驚きの表情を見せる。

 

 

 

 

-11ページ-

 

 

 

蓮華「なんで・・・・・」

 

流琉「そんな・・・、どうして!!!」

 

春蘭「おい・・・、私の目はいつ曇ったのだろうか・・・。状況が把握できん!!」

 

雪蓮「ウソ・・・」

 

思春「なっ・・・」

 

その場にいる一同がいま、目の前の光景を理解することができない。

 

信じることができない。

 

ある者は呆然と相手を見つめ、またある者は顔が青くなっていく。

 

華琳「どうしてよ・・・、どうしてなのよ!!!」

 

愛紗「どうしてあなたがここにいるのですか!!!」

 

戦場に生暖かい風が吹き込む。

 

むせ返すような血の臭いを運びながら

 

しかし、問いかけられた相手は一言も答えない。

 

表情もまるでない。

 

 

目線も定まっていない。

 

 

目の前には戦場が広がっている。

 

しかし、相手は何も反応しない。

 

 

まるで目の前には何もないかのように・・

 

 

 

まるでその目に写る悲劇をみているかのように・・・・

 

 

 

 

その悲劇を悲しんでいるかのように・・・・・・

 

 

 

 

 

華琳「答えてよ・・・」

 

静寂がその場を支配する。

 

そして、少女は静寂を切り裂くかのように叫ぶ

 

華琳「                                答えなさい!!!!                                       」

 

 

 

 

-12ページ-

 

 

 

華琳「                               北郷一刀!!!!!!                                     」

 

 

 

END

 

-13ページ-

 

 

 

あとがき

 

どうもです

 

いかがだったでしょうか?

 

やっと一刀の名前を出せました。

 

いや〜、長かった・・・

 

長かったです!!!!!!!!

 

本来なら2011年7月にはここまで進む予定だったのに!!!!!!!!!!

 

いろいろあって!!!!!!!!!!

 

ありすぎて!!!!!!!!!!!!!!!!

 

なんとか予告文?の文章も全部使えて!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

ほんとに安堵しています。

 

第一部は残り2つで終わりますが

 

ぐったりせずにやっていきたいと思います。

 

それとですね、お気に入り登録していただいた人数がいつの間にか200人を超えていました。

 

登録していただいた皆様、本当にありがとうございます。

 

第10章もここで一区切りついたので、私としてもお返しに何かできないかと考えましたところ、記念作品を投降させていただこうかと思っています。

 

内容といたしましてはやはりシリアス形になります。

 

私、お笑いとギャグのセンスをどこかに置き忘れた関西人ですので

 

現在、連載中の黒天編の世界にも関わった内容でボリュームもかなりあるものになると思います。(現在で3万字ちょっと)

 

それも私の完全オリジナル(オリキャラのみ)で、「恋姫無双」に焦点を当てるというよりも、「黒天編」という外史の世界観に焦点を当てた作品です。

 

ただの自己満足ではないか、とお思いになる方もいらっしゃると思いますが、私の作る外史をもっと知りたいと思う方はぜひ読んでいただければと思います。

 

もちろん、読まずとも真・恋姫無双黒天編の内容には支障はありません。

 

投降日時が未定というのが申し訳ないところなのですけど・・・

 

 

では、長いあとがきとなりましたが、これで失礼いたします。

 

 

 

 

 

 

説明
どうもです。後編1になります。
私が投降し始めてはや一年・・・月日が経つのは本当に早いですね・・・
では、お楽しみいただければ幸いです

2月4日追記)指摘していただいた誤字・おかしな点を修正しました
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コメント
ロンリー浪人様>しゃべっちゃってましたね。訂正しました。報告ありがとうございます(salfa)
ケンケン☆様>ぜひ、ご期待ください!!がんばりますのでっ!!(salfa)
劉邦柾棟様>誤字報告ありがとうございます。ここを間違えてしまうとはorz(salfa)
アロンアルファ様>ここまで来るのに予想外に時間がかかりましたけどね・・・(salfa)
タケル様>さぁ、どうでしょうかね?様々な予測をしながら、この物語を楽しんでいただけているなら幸いです。(salfa)
4Pで仮面の男がしゃべってるんだが・・・。(ロンリー浪人)
ついに恋姫達にも正体が・・。次の話でどうなるのかが楽しみです!!(ツクモ)
誤字情報です。  愛紗「凪の・・・炎王か!?」ではなく、愛紗「凪の・・・閻王か!?」です。 凪の篭手の名前は閻魔の閻に王様の王で『閻王』ですよ。(劉邦柾棟)
とうとう正体が晒されたか…(アロンアルファ)
うわぁ、やっぱり一刀か・・・。ところでサラはなんかやたら一刀の事心配してたみたいですけど一刀の妹ですかね(及川らしき人物もいるみたいですし)。(タケル)
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真・恋姫無双 恋姫無双 黒天編 愛紗 華琳 蓮華 雪蓮 オリキャラ 

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